ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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お久しぶりです。今回からつよつよゲーミングPCで執筆しております。

Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は…
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第152話「埋まらぬ穴」

病院での一件の処理をいくつかした後で残りを警察に任せた俺は久々にキャプテンゴーストに乗ってグレモリー眷属が滞在しているグレモリー城へ向かった。

 

本来なら昨日の時点でサーゼクスさんから受けた通達に従い、首都リリスの防衛に向かう予定だった。

しかし兵藤の死という大きすぎるダメージを負った仲間たちへの心配が収まらず、リリスへ行く前に一目だけでも顔出ししようとこちらへ向かった次第だ。

 

いつもは心地よい風にも冥界全土の不安が伝播したか、吹き付ける風は穏やかならぬものを感じさせる。船から見下ろすと、グレモリー当主が解放したと発表があった避難用のシェルターへと長い人だかりができていた。高所から見ているため一人ひとりの表情まではわからないが、きっと先行きの見えない冥界に大きな不安を抱いていることだろう。

 

「早いところ、魔獣どもをどうにかしないとな」

 

シャルバの置き土産の13体の魔獣たち。それを全て討滅しない限り、市民の不安は収まらず冥界の危機は終わらない。俺一人であれを倒すのは恐らく不可能だ。だからこそ、皆で力を合わせて協力する必要がある。

 

そのためにも部長さんたちの力が必要だ。どうにかして立ち直らせなければ。

 

グレモリー城入口正面にゆっくり降下して船から降りると、玄関へ向かう俺はそこで予期せぬ再会を果たす。

 

「あんたは…」

 

ホストのようなスーツを着崩し、女遊びの好きそうなチャラチャラした雰囲気を感じさせる金髪の男。久しく会っていないがその顔は忘れもしない。

 

男はこちらに気づくと、過去の因縁から苦々しい顔を見せるかと思いきや再会を喜ぶような微笑みを見せた。

 

「久しぶりだな。今は…スペクターとか、推進大使なんて呼ばれているのか?活躍は耳に届いているぞ」

 

フェニックス家の三男、ライザー・フェニックス。かつてオカ研に正式加入する前、部長さんと彼との婚約破棄をかけて戦った、部長さんの許嫁だった男だ。

 

「こっちもあんたが兵藤のおかげで再起したって話を聞いたぞ」

 

「ふん、出会いは最悪だったがあいつに救われるとは…何があるかわからないもんだ」

 

婚約破棄をかけた兵藤との決闘に敗れたライザーはふさぎ込んでしまっていたが、その原因を作ったほかでもない兵藤の助けによって再起を果たしたらしい。部長さんを泣かせたりと因縁深い相手だろうに、レイヴェルさんの頼みとはいえ手を差し伸べるなんてお人好しというもんだ。

 

そしてライザーの隣にいるのは彼とは違いびしっと貴族服を着こなす、生真面目な性格をそのまま体現したかのような美男子。ライザーと正反対ながらも同じ金髪で彼と似た顔立ち、兄弟だろうか。

 

「挨拶が遅れたね。私はルヴァル・フェニックス。同じく君のことはよく聞いているよ、愚弟が世話になったね」

 

「ルヴァル・フェニックス…!」

 

過去に名前を聞いたことがある。確か、レーティングゲームの上位プレイヤーだ。ライザーと同じフェニックスの悪魔だったからなんとなく名前を憶えていたがまさかここで会うことになろうとは。

 

「ところで、部長さんの様子は…」

 

「リアスか。ドアすら開けてもらえなかった。深刻そのものだな」

 

「そうですか…」

 

「妹のレイヴェルも私たちの前では気丈に振舞っていたが、そのショックは私たちでは推し量れないものだろう」

 

深刻な状況にかつては傲慢さを惜しむことなく見せていたライザーの表情は神妙そのものだ。ルヴァルさんも沈痛な面持ちで端正な顔をうつ向かせた。

 

一日経っても状況は好転せず、か。当然といえば当然か。

 

俺だって本当はあいつを失った悲しみで何もしたくないくらいだ。その俺よりも深く、好意を抱いていた彼女らの傷は相当なものに違いない。

 

「レイヴェルのことで母上と話をしたことがあってね。このまま彼の眷属にしていただき…送り出したかった」

 

「…そうでしたか」

 

何気にルヴァルさんの口から聞いて驚いた。レイヴェルさんの将来の話は母のみならず家全体の意向だったのか。

 

バアル戦の前に兵藤と部長さんが喧嘩する一因になったレイヴェルのお母さんとの通信にて、レイヴェルさんの母が兵藤のもとへレイヴェルさんを送り、あわよくばと遠回しに発言したと聞いている。直接的ではないにせよそれが少なからず部長さんの乙女心に影響を及ぼすこととなりかつてない二人の関係の激変を促したわけだ。

 

兵藤以外の人が聞いても、そうとしか捉えようのないニュアンスだったという。ライザーの件で結婚を破棄させて家のメンツに泥を塗った兵藤へ娘を送り出そうなんて、よほどのことでなければそう考えはすまい。

 

因縁の相手ながらも相当高くフェニックス家は兵藤のことを高く評価していたんだろうんな。

 

「だが今の彼女には小猫さんとギャスパー君という友人がいる。どうか、このまま君たちのもとに置いてはくれないだろうか。悪魔の長い人生できっと友の存在は何事にも代えがたいものになる」

 

「もちろんです。彼女は責任をもって、俺たちが面倒を見ます」

 

「頼む」

 

神妙にその顔は名家の次期当主でもレーティングゲームの上位プレイヤーでもなく、妹を案じるただ一人の兄のものだった。

 

まだ入部してからの期間は短いがそれでも彼女は俺たちオカ研の一員だ。それに同じ兄として妹を心配する気持ちは痛いほど理解できる。

 

「スペクター。俺ではあいつの代わりになることはできない。恐らく…それはお前も同じだ」

 

そして兄ルヴァルに続くライザー。かつての高慢さなど見る影もない表情をまっすぐこちらに向け、ぽんと俺の肩に手を置いた。

 

「だが、あいつらを支えてやることはできるはずだ。俺が言えた義理じゃないが、リアスたちのことを任せたぞ」

 

「…わかってる」

 

かつては敵だったライザーが、今部長さんたちのことを真剣に憂慮し、一度はこっぴどい目に遭わせた俺に託そうとしている。俺たちとの戦いを経て挫折を経験し、立ち上がったことで大きな心境の変化が現れているのだ。

 

短いながらも力強い頷きと言葉で確かに彼の気持ちを受け取った。

 

「私たちはこれからグレモリー領に向かっている豪獣鬼の討伐に向かう。君たちが来るのを待っているよ」

 

フェニックス家の未来を背負う二人の男は業火の翼を広げて冥界の空へ羽ばたいていった。

 

 

 

 

 

 

 

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フェニックス兄弟との挨拶を済ませて早速城に入ると、以前のような多くの使用人たちによる歓待と厳かな静けさはなかった。衛兵たちの様子は慌ただしくピリピリした雰囲気が流れており、俺には目もくれない。

 

前もって木場に連絡をよこしたのでこの広い城内のどこにいるかは教えてもらったので、迷うことなく廊下を歩いていく。そうでなければ今頃忙しい使用人をどう捕まえようかと悩んでいたことだろう。

 

「病院から抜け出すなんてやんちゃですね」

 

背後からかけられた知性ある落ち着いた声。振り返るとそこにいるのは。

 

「よっ、深海」

 

「匙!それに会長さんも…」

 

シトリー家の次期当主でもあるソーナ・シトリー生徒会長と生徒会メンバーにして彼女の『兵士』

、匙。フェニックス兄弟に続く思わぬ再会に驚いた。

 

「リアスの様子が気になったので来ました。部屋にこもりっきりで、思った以上に精神に来ているようですね…あんなリアスは初めてです」

 

「やはりそうですか」

 

古くからの付き合いのある会長さんから見ても、今の部長さんは相当参っているか。果たして立ち直れるだろうか。

 

それにしてもシトリーも魔獣の迎撃で大変だろうにわざわざ足を運んでくるなんてライザーといいこの二人といい、皆兵藤なきグレモリーのことが心配なんだな。

 

「今は彼女を立ち上がらせるのにうってつけの男を呼んでいますが、それでも心配です」

 

「うってつけの男?」

 

「あなたも知っている男です。私が言わずとももうじき到着するはずですよ」

 

部長さんをよく知る会長さんが今の状況を打破するのにうってつけと呼ぶほどの男…一体誰だろう?

 

「ところでお前はどうしてここにいるんだ?入院しているって聞いてたんだが」

 

と、今更ながら突っ込んでくるのは匙。もしかして、事件からそう時間が経ってないせいでまだ知られてないのだろうか。

 

「諸事情あって、寝込んでられなくなってな」

 

「へっ、お前もそうか」

 

「お前もっていうことは…」

 

「ええ、私たちはこれから防衛及び一般市民を守るべく首都リリスに向かいます。リアスたちにも同じくリリスへ向かうよう達しが来ているはずですが…」

 

「今のみんなじゃ立ち上がれないだろう。木場だけは冷静さを保っていられるみたいだけど…本当は俺だってそうさ、あいつは俺のダチで目標だったんだ…!あいつを超えたいって思ったから辛いトレーニングも、アガレス戦も頑張ったのに…それを奪ったあいつらは…ヴリトラの呪いの炎で消し炭に…ッ!!」

 

語る匙の怒りがヒートアップし、背筋に寒気が走るような圧を感じる。おそらくヴリトラの力に呼応しつつあるのだろう。ヴリトラが振りまく呪いの炎と匙の怒りの炎。それは表に出ないまでもプレッシャーとなって匙からにじみ出ている

 

「サジ、落ち着きなさい」

 

「…はい」

 

そんな匙を鎮めたのが会長の一声。

 

「兵藤を殺したシャルバって悪魔はもういない。…敵討ちができないなら、俺は禍の団の連中をぶっ飛ばすだけだ」

 

鎮めはしたが怒りが消えたわけではない。ぎゅっと拳を握り静かに呟く匙の目にはまだ憎悪の焔がふつふつと滾っている。

 

そんな匙の内心を見透かしたように不安げに会長さんは横目を流すと、こちらに視線を合わせてきた。俺の心を探るように。

 

「…深海君はリアスたちとは違うようですね」

 

「はい、俺もどちらかというと…匙に近いです。でも俺はこんな状況下で暴れる連中から市民を守るために戦います。あいつは敵討ちをしてくれなんて望むような奴じゃないですから」

 

あいつは仲間を傷つけられることを嫌いはすれど、自分を守ってほしい、救ってほしいと言うような男ではなかった。復讐に燃えた木場を間近で見たなら猶更、残された部長さんたちが自分を奪った敵への憎悪で狂うことを望まないだろう。

 

「確かに、付き合いはそこまでですがそういう人となりではありませんでしたね」

 

「…なあ匙、俺はお前を否定するつもりはない。悔しいのは痛いほどわかる。でも…今はそういった私情を押さえて大義のため、人のために戦うべきだと俺は思う」

 

怒りに燃える匙の目を離さず見て、受け止めるように俺は語り掛ける。

 

かつては俺もレイナーレに兵藤を殺されたことで復讐心に燃えた。まだ転生したてで人付き合いにも苦労した自分によくしてくれた友人で、それを殺された上に侮辱されたときたから相当仇が憎かった。だから俺は今の匙を否定できないし、今の気持ちをよく理解できる。

 

その経験があったからこそ、戦う理由を見つけたからこそ俺は怒りを抑えて戦おうとすることができる。

木場も同様にまだ冷静でいられるのも、俺と同じ理由だろう。

 

俺の場合は兵藤が悪魔の駒で生き返ったからこそなおさら中途半端に終わったが、匙の場合は既に仇がいない。

 

中途半端な状態で戦おうとすれば行き場のない気持ちは暴走し、身を滅ぼすだけだ。だからこそ、同じような経験をした俺の言葉を聞き、どうか落ち着いてほしい。

 

交錯する視線。続く静寂。会長さんは俺の言葉に追従しない。あくまで匙がどう受け止めるか、自身は必要以上に口出ししないスタンスをとるつもりらしい。

 

「…そうだったな。そうだ、ちょっと熱くなりすぎてた」

 

そしてその思いは果たして通じてくれたのか、内心で燃える炎の熱を逃がすようにふうっと匙は息を吐き、頭をポリポリと掻く。

 

「お前の言う通り、俺のやるべきことは市民を守ることだ。それを見失ったらだめだよな。こんなんじゃ、兵藤にカッコつけらんねえよ」

 

「そうだ、あいつのぶんまで俺たちでやるんだ」

 

冷静さを取り戻した匙の目に昏い復讐心ではなく勇ましい決意が瞬く。どうにか匙が暴走を収めてくれたことに内心安堵した。

 

「…」

 

そう思っていると、何か思うところがあるように会長さんが俺をじっと見つめていた。

 

「どうかしました?」

 

「深海君も初めて会った時よりずいぶん逞しくなったと、匙を諭す君を見て思っただけです」

 

「急に褒めないでくださいよ」

 

口元をほころばせて言う会長さんにそう言われると照れ恥ずかしくなる。

 

初対面の時は確かエクスカリバーの事件の前だった。あの頃はまだまだ迷っていた時期だったから、そこと比較すれば変わったように見えるのも当然だろう。

 

「…名残惜しいですがそろそろ時間です。私たちは行きます」

 

「ついさっき俺にもリリスへ向かうようサーゼクスさんから要請があった。俺も必ず向かいます」

 

「ああ、待ってるぜ」

 

約束と拳を交わし、俺たちは別れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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二人との会話を終えて歩くこと一分。ようやくアーシアさんたちが待機しているという居間に通じるドアの前にたどり着いた。

 

三人の様子は昨日木場との通話で聞いている。話だけでも三人の苦しみがひしひし伝わり心が痛むようだった。

 

「入るぞ」

 

ノックすること三回。意を決してゆっくりとドアを押し開ける。ギイっという木の軋む音が鳴り、部屋にいた三人の姿を明らかにする。

 

「先輩…」

 

いまだ静まらぬ憂鬱と悲嘆がにじみ出た三人の視線が一斉に注がれる。レイヴェルさんとアーシアさんは涙の跡か目元が赤くなって濡れており、塔城さんは悲しみよりも憂鬱が勝っているようで沈んだ表情をしている。

 

「戻ってきた。居ても立っても居られなくて」

 

椅子とソファに腰掛ける三人のもとへ歩み寄る。普段なら談笑し、あるいは喧嘩していたであろう塔城さんとレイヴェルさんの賑やかさなどそこにはまるでなかった。

 

「…まだ二日しか経っていないのに、本当に体は大丈夫ですの?」

 

「大分ましにはなったよ、軽い準備運動もしたし問題ない」

 

「そう言うならこれ以上は言いませんが…」

 

真っ先に心配の言葉をかけてくれたのは意外にもレイヴェルさんだった。自分のことでいっぱいいっぱいだろうにわざわざ俺に気をかけてくれるなんて、この子も短い期間ながらも俺たちの影響を受けたんだろうな。

 

「さっき、ライザーとルヴァルさんにすれ違った。二人ともレイヴェルさんのことを心配していたよ」

 

「お兄様の手前、気丈に振舞えましたが…こんな悲しみ、私には耐えられませんわ」

 

不意に俯かせたレイヴェルさんの顔が悲痛に歪む。気の強いレイヴェルさんがこんなに弱気になっているのは初めてだ。

 

「アーシアさんは…」

 

アーシアさんだけ、ソファの上で体育すわりして蹲っている。愛した人を失ったどうしようもない悲しみに途方に暮れて自分一人の世界にこもるように。

 

「…本当なら、イッセーさんのもとに行きたいんです。一緒になりたいのに…それをしたらイッセーさんが悲しむから…何をしたらいいのか、私にはわかりません」

 

教会だけが自身のすべてだったアーシアさんにとって兵藤は外の世界を教えてくれた光であり、寄る辺でもあった。彼以外にも仲間ができた今でもその存在の大きさは変わらず、それを失った彼女は何をどうすればいいのかわからない。

 

「激戦続きだからいつかはこうなるんじゃないかと覚悟はしてたけど…それでも、辛いです。折角好きな人ができたのに…こんなことって…!」

 

普段は静かな塔城さんもいつになく感情的だ。最初は変態だと毛嫌いしていた塔城さんが、兵藤の死でここまで心を乱している。

 

「…」

 

三人の悲しみを間近で見て言葉をなくす。悟ってしまった。同じ傷を負った俺でも彼女らを再起させるのは厳しい。

 

一人の女の子として好意を抱く相手の死だ。俺の傷とは比べ物にならない。もはやどんな言葉も慰めにならず、彼女らの悲嘆を深めることになってしまう。一体どんな言葉をかければ、繊細な今の彼女らを前向きにさせられるのだろうか。

 

兵藤一誠という精神的主柱を失ったオカ研はどうすれば立ち上がれるのか。あいつがいれば、戻ってきさえすればすぐに皆元通りになるだろうに。

 

いや、あいつはもういない。あいつがいないからこそこうなった。残された者たちが頑張るしかないのだ。

だが言葉を尽くして彼女たちの回復を待つ余裕もあの魔獣たちが起こす危機的状況が許してくれない。

 

ここにいないロスヴァイセ先生も、ギャスパー君も、紫藤さんも、ゼノヴィアもきっとこの件を耳にし心を痛めているに違いない。

 

今の俺にできることは何か。ここで彼女らにかけられる慰めの言葉を道を閉ざすように深くかかった霧中から探すことか。

 

…いや、違う。

 

今の俺にできること、すべきことは行動。いち早く行動し、後に続くよう発破をかけることだ。そうすることで、彼女ら自身の意思での再起を促すしかない。ここにいないゼノヴィアもきっとそうするだろう。

 

荒療治になるのはわかっている。支えるという行為には遠いのも、承知の上だ。だがいつだって俺たちは行動することで状況を打破してきた。部長の結婚破棄を現実にした兵藤も、覇龍の暴走を止めた部長さんも、聖魔剣を発現させた木場も。

 

ならば俺は戦いに行くことで皆の心を悲しみから目の前の現実に逸らしたい。そうすれば悲しみに浸るよりも目の前の危機をどうにかしようとする意志が生まれるはず。そしてそれはきっと、心が強くなることにも繋がる。

 

それで悲しみが消えるわけではない。だが強くなった心でまた悲しみと向き合ってほしい。この悲しみと向き合い克服しなければならないのは他ならない彼女ら自身なのだから。

 

「…木場や部長さんと朱乃さん、ヴァーリと顔を合わせたら俺はリリスに行く」

 

何故こんな状況で自分たちを支えてくれないのかとそしりを受けるかもしれない覚悟を決め、俺は自分の意思を話す。

 

「…どうして」

 

ぽつりと呟いたのはレイヴェルさん。そして糾弾するように彼女は叫ぶ。その目に涙を蓄えて。

 

「どうしてですの…小猫さんも深海さんも、どうして大切な人が亡くなったのに気丈に振舞えるのか…私にはわかりませんわ…!」

 

「…!」

 

彼女の口から飛び出したのは自分たちに寄り添おうとしない俺への誹りではなく、兵藤なくして進もうとする俺を非情だというような叫びだった。

 

「小猫さんだって、本当は辛いからここにいるのに…あなただけどうして、戦えますの?」

 

「先輩は…悲しくないんですか?」

 

レイヴェルさんに続くように、塔城さんが問いかける。

 

「悲しいのは俺も同じだ」

 

「だったら…どうして涙の一つも流さないの…?」

 

震える声で言葉を絞り出すレイヴェルさん。二人のせき止められていた涙がぽろぽろとこぼれ出した。泣かない俺の姿にあいつの死は俺の心をちっとも動かさない程度のものだと思われたのか。

 

俺とあいつとの絆は、そんな軽いものだとでも言いたいのか。

 

「…本当に俺が悲しくないと思っているのか?」

 

彼女の言葉が、冷静に徹しようとしていた俺の心を揺り動かした。

 

「悔しかったさ…!あいつの近くにいながら、力を使い果たして何もできなかった!まだ戦えたなら、あいつと一緒にシャルバと戦えたなら死なずに済んだんじゃないかって、何度も思った!」

 

爆ぜた感情に声を震わせて吐き散らす。

 

一昨日、昨日、そして今日と幾度となく脳が擦り切れるくらいに考えつくしてきた。信長との戦いをもっとうまくやれて消耗を抑えられたらきっとあいつと一緒にシャルバを倒せただろう。

 

友を失った悲しみと己の無力感にベッドの上で絶えず苛まれてきた。どんな力を得ようと、誓いを立てようと、無意味だった。一体何のために俺は強くなったのだろうかと。

 

「…!」

 

自分でも抑えられなかった唐突な感情の発露に驚いた二人を見て、はっと我に返る。一瞬で熱くなった頭が次第に冷めていく。

 

「…涙なら流した。立ち止まった分、進まなければならない。それが…冥界を守るために戦ったあいつの願いを叶えることに繋がると思っている」

 

「…先輩」

 

二人には返す言葉もないようだった。

 

病院での事件を目の当たりにし、経験した俺にはもうこれ以上立ち止まることはできない。力なき者のために戦う。例えほかの誰もついてこれないとしても、なすべきと思ったことをなすだけだ。

 

「深海さんも…イッセーさんのように一人で戦いに行くんですか?」

 

代わりに言葉をつないだのはアーシアさんだった。ずっと俯いていた顔を上げて、今にも泣きそうな顔で問いかけてくる。

 

「ああ」

 

「深海さんも…死んでしまうんですか?」

 

「…」

 

これ以上にない彼女の心配の言葉が痛烈に胸に刺さる。それはきっと、他の二人の思いの代弁でもあるのだろう。

 

「死んでしまったら傷を治せません。私はもうこれ以上…誰もいなくなってほしくないんです」

 

「俺だって…誰にもいなくなってほしくないさ」

 

彼女たちの言葉をこれ以上聞いてられなくて、また押さえつけていた感情がこみ上げそうになって俺はそっと彼女らに背を向ける。

 

「だから戦う。皆を死なせないために…生きながら立ち止まって後悔しないために」

 

今の俺は兵藤の二の舞を演じようとしているように見えるのか、それとも仲間の悲しみに寄り添おうとしない薄情者か。

 

思うことがないわけではない。俺もできる限りのことをして彼女らの悲しみを癒したい。

 

ただ俺は、このまま立ち止まっていられない。立ち止まった瞬間、振り切って置き去りにした悲しみにまた追いつかれてしまいそうだから、俺は進む。

 




本作ではライザー、2章以来の登場になります。

次回、「可能性の話」
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