現在、スペクターの使える眼魂は…
S.スペクター
1.ムサシ
2.エジソン
3.ロビンフッド
4.ニュートン
6.ベートーベン
7.ベンケイ
9. リョウマ
10.ヒミコ
11.ツタンカーメン
12.ノブナガ
23.コロンブス
31.ライト
41.シグルド
42.ユキムラ
44.ハンゾウ
半開きになったドア。その先の明かり一つ灯らぬ薄暗い部屋から、すすり泣く声が聞こえてくる。
「うぅ…とうさまぁ…」
「今は泣け」
威厳に満ちた声でわかった。朱乃さんが父親のバラキエルに泣きついている。
一番心傷が酷いとされている朱乃さんの様子を一目見ようと…俺ではフォローしきれないかもしれないだろうがそれでも心配で来たのだが、どうやら俺はお邪魔なようだ。
彼女の悲しみは今、一番彼女のことを肉親として思いやっているバラキエルさんでしか受け止めきれないだろう。不用意にしゃしゃり出て空気を壊すなど下策中の下策。
「深海君!?」
背後からかけられたのは驚くように俺の名を呼ぶ声。
「木場」
「どうしてここに?さっき、ニュースで深海君のいた病院が襲われたって聞いたんだけど…」
木場は俺がいるとは夢にも思わなかったといわんばかりに表情に驚きの色を映している。そろそろこの流れも飽きてきたぞ。
「諸事情あってな。居ても立っても居られずに出てきた」
「そうか…体は本当に大丈夫なのかい?」
「戦えるくらいには元気さ」
とんとんと胸をたたいて体の健常をアピールする。準備運動ならもう病院で済ませたからな。
「ついさっき、バラキエルさんが来たんだ。イッセー君の話を聞いて朱乃さんのことが心配でたまらなかったんだよ」
「そうだったのか。今回の騒動で呼ばれて忙しいだろうにわざわざ…」
「うん。朱乃さんが一番ひどくショックを受けてたから、これで少しでも回復すればいいんだけど…」
朱乃さんとバラキエルさん、少し前なら朱乃さんは嫌悪感と敵意を剝き出しにしていたのに、今はこうして家族の形を取り戻せている。今の関係なら、彼女のショックを癒せるのではと願わずにはいられない。
「…僕は情けないよ。女性をサポートするべきナイトなのに、誰一人フォローすることができなかった」
「俺も同じだ。ナイトだろうとそうでなかろうと、仲間の痛みに何もしてやれない悔しさは誰だって一緒だ」
この状況、苦しいのは誰だって一緒だ。俺たちの場合、あいつがいなくなったことでぽっかり胸に穴が開き、そこからどろどろと悲しみがあふれ出してしまっている。俺も木場も、それと戦いながら今冷静さを保っている。
いやむしろ俺が入院している間、傷心の皆を少しでも前向きにさせようと一人で頑張ってくれてたはずだ。一人ベッドで苦しんだ俺より、もっとつらかっただろう。それでもなおこうして冷静さを保つ木場は強いと、強く思う。
「…木場。一つ聞き忘れていたんだが、天界のシステムで赤龍帝の籠手はどうなっているか知ってるか?」
天界のシステムは神器の根幹を担っている。所有者が死亡すれば当然システム内で動きがあるだろうし、もし無事なら何もないはず。あいつがもし生きているならきっと…。
「僕も同じことを考えて先生に聞いたんだ。でも、聖書の神がいなくなってから神滅具の特定が困難になって全く情報が出てこないそうだよ。グリゴリでも調査してるみたいだけど…」
「そうか…」
淡い希望は苦い知らせで砕かれる。
主なき今、キリスト教と天界、神器の根幹をなす世界になくてはならない重要な『システム』が十全に機能しておらず、管理もできないのは非常に由々しき事態だと思う。下手に触れたら何が起こるかわからないというのも容易に手を加えられない理由の一つだろうが。
依然として、この状況を好転するだけの希望は見えずにいた。
フロアに戻ると、付きっぱなしになっていたテレビがニュースを映している。話題は変わらず魔獣騒動と、その標的となっている首都にて避難する人々の様子だ。
リポーターの女性がマイクを持って、一人の幼い子供に話しかけた。
『ねえ僕、怖くない?』
『うん!だって、おっぱいドラゴンがあんなモンスターやっつけてくれるもん!』
こんな状況でも笑う子供はおっぱいドラゴンのソフビをカメラに向かって、宝物を自慢するように見せつける。
『おっぱい!』
『おっぱいドラゴンはやくこないかな?』
他の子供たちも彼に共鳴するように希望を信じ切った眼でおっぱいドラゴンの名を呼ぶ。不安を知らない彼らの屈託のない笑顔が俺の胸を強く締め付けた。
この子供たちを見てつくづく思う。こんなに希望を信じてやまない子供たちにどうして言えようか、あいつはもういないなんて。
テレビを見ていられなくなって、すっと顔を背ける。そしてテレビの画面と入れ違いに視界に飛び込んできたのは、筋肉質で屈強な偉丈夫。その男との予期せぬ出会いに目を見開く。
「あなたは…!」
「冥界の子供たちは、俺たちが思っている以上に強い」
かつて兵藤と拳で語り合ったその男…サイラオーグ・バアルの来訪である。
「リアスに会いに来た」
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コンコン。乾いた小気味いいノック音をサイラオーグさんが鳴らす。
「入るぞ、リアス」
相手の返事も待たず、ドアを開けて部屋に入り込む俺たち。部長さんは案の定、ソファの上で何をするまでもなく、ただ力なく気だるげに佇んでいる。
希望をなくした虚ろな瞳がきょろと動いて、俺たちを一瞥した。
「サイラオーグに深海君…どうして」
「俺も彼も、お前たちのためにここに来たのだ」
ずけずけと歩むサイラオーグ。そして腕組みするとはっきり言い放つ。
「俺たちを打ち破ったグレモリー眷属を率いるお前が、情けない姿を見せてくれたものだな」
「…」
いつもの部長さんなら強気で言い返すところが、今は無言で表情もピクリとすら動かない。ライザーとの戦いに負けた時だってここまで落ち込まなかったはずだ。
「ソーナ・シトリーの連絡があって来た。プライベート回線だから大王派には漏れていない、あの男のことも含めてな」
…やはり、サイラオーグさんも兵藤のことを耳にしているか。夢のため、プライドのため、拳で壮絶にぶつかり合った貴重な悪魔のライバル。やっと出会えたライバルを早くも失い、心苦しんだことだろう。
魔王を政敵として快く思っていないだろう大王派に報告しなかったのは彼の死が魔王派に一矢報いるために政治に利用されるのを防ぎ、彼の名誉を守るためか。いずれにせよこの事実は今の冥界に知られるべきではない。冥界のヒーロー『おっぱいドラゴン』の死が市民の知るところになればいよいよパニックが本格化してしまう。
「…行くぞ。冥界の危機だ。俺たちが立ち上がらずしてどうする?未来を担う若手悪魔の筆頭として俺たちは後続の手本とならなければならない。それが俺たちを見守り、導いてくださった魔王様の恩に報いる方法だろう」
「…放っておいて」
サイラオーグさんは慰めの言葉をかけない。部長さんは現実から逃げるように俺たちから目を背け、静かに呟く。
「あの男がいなくなっただけでここまで堕ちるか」
「もう嫌なの!!イッセーが、私を救ってくれたの!一人の女の子として、私を認めてくれたイッセーが…!!」
あくまで放っておかないサイラオーグさんや俺たちが向ける再起を促す視線に耐え切れなくなった部長さんが感情もあらわに叫んだ。
ひとしきり思いを吐いた後、疲れ切った眼でまたへなへなと体がくずおれる。
「彼なしで私は生きていけない。イッセーがいない世界なんて…耐えられないわ」
絶望に悲嘆、あらゆる憂鬱な感情を重ねに重ねた重い一言がこの場を沈鬱な雰囲気に包み込む。
今になって気づかされた。『王』は眷属を指揮するもの。そのあらゆる挙動、チームの方針は『王』の意思決定にゆだねられる。故に『王』はチーム内で最も強力な影響力と存在感を持っている。
だがこのチームにおいては違う。一番下っ端とされる『兵士』が『王』よりも強く、今のように『王』を含めたすべてのメンバーに多大な影響を与えてしまっている。まるでチェックメイトにかかったかのように。
あいつは『王』以上の存在感を持っていた。いや、ある意味逆転していたのかもしれない。精神的な点ではあいつがこのチームの落とされてはならない『王』だったのだ。
それを失い指揮する王が精神的に壊れてしまった今、このままグレモリー眷属は再起不能となってしまうのか。
「兵藤一誠が愛した女はこの程度ではなかった!!」
しかしそれを許さないサイラオーグさんの喝。このまま彼女を終わらせまいとするサイラオーグさんの魂の一声が響いた。
「あの男が俺と戦ったのは己の誇りと夢のためだけではない!!何よりお前のために、お前の夢のために命を賭してぶつかって来たのだ!!その主たるお前が、その程度の器と度量で何とする!?今のお前を、あの男に誇れるのか!?」
サイラオーグさんの言葉の熱と勢いに気押され、これまで俺たちを見ているようで見ていなかった部長さんが目をはっとさせて驚いている。明らかに彼の言葉が彼女の心に届いている。
さらにサイラオーグさんは俺を一瞥して言葉を続ける。
「この男…紀伊国悠もそうだ!お前と同じように、友を失った悲しみに心を痛めている!だが、それでも痛みを乗り越えて前進しようとしているのだ!」
その言葉に部長さんの目が俺のほうへ移ろった。
「…どうしてなの」
「あいつがいなくなって悲しいのは俺も同じです。でも今やるべきことは死を悼むことじゃない」
俺を羨むような双眸、震える声で尋ねられた。
「あいつを応援してくれた冥界を…そこで生きる市民と子供たちを守ること。それが今やるべきことだと思います。同時に、あいつが望んでることじゃないんですか?何もせず皆を見殺しにしたら、あいつに怒られますよ」
あいつはおっぱいドラゴンと持て囃されるようになってから、子供の存在を意識するようになった。メディアへの露出に伴い多くの子供たちが集まるヒーローショーの出演や、バアル戦で集まったファンの子供たちのように子供たちと関わる中で子供を大事にするようになってきたのだ。
部活の時にあいつと話したことがある。
『お前、ずいぶんと人気者になったな。特に子供人気とか凄まじいぞ』
『最近になって思ったんだけど子どもたちの笑顔ってさ、すげえ眩しいんだ。なんていうか…純粋っていうか、元気いっぱいっていうか…』
『お前はおっぱい魔人で穢れてるけどな』
『うるせえ!とにかく…とても大事だって思うんだ。だから、俺が活動することでそれを守れるなら頑張っていきたいんだ』
おつむが足りずうまく言語化はされていないが、あいつの思いはよく伝わった。
子供の声援を受けて立ち上がったあいつが、魔獣に怯え不安を抱える市民や子どもたちがいると知りながら何もしない俺たちを見たらそれこそ俺たちを許さないだろう。
「そうだ」とこくりと頷くサイラオーグさんがさらに言葉を続ける。
「リアス、立て。あの男はどんな時でも立ち上がったぞ。どんなに俺に殴られようと、蹴られようと前に進んだ!あの男のことを誰よりも知っているのはほかでもないお前だろう!?」
サイラオーグさんは何度も熱い言葉をぶつけにいく。そこまで彼を駆り立てるのは彼女がグレモリーの次期当主であり、何より自分に打ち勝った男の主だからだろう。
「…それに、本当に死んだと思っているのか?」
「!?」
何気ない一言に俺たちは虚を突かれて弾かれた様にサイラオーグさんのほうを向く。
おい待て、今なんて言った?兵藤が死んでいない?
大王派には知らせてないんだろう?なら奴らの情報網で俺たちが知っている以上の情報を突き止めたなんてあるはずがない。この人は一体何を知っている…?
「え」
部長さんもこれにはきょとんとした顔を上げて反応した。
「一つ訊こう。お前はあの男に抱かれたか?」
「…抱いてもらえなかったわ」
ここまでのやり取りの中で一番悲し気に部長さんは返す。あれだけラブラブだったのにヤってなかったんかい。あいつもさぞ心残りだっただろうよ。
「それなら猶更だ。あの男がお前を抱かずに死ねるわけがないだろう。それはお前が一番わかっているはずだ」
剛腕ですべてを打倒してきた男が、その力強さとは正反対に優しく微笑んだ。
「なにせ、『おっぱいドラゴン』なのだろう?」
筋の通った理屈ではない。だがなぜだか本当にそうであるかのような説得力があった。おっぱいドラゴンという言葉にヒーローであり無類のおっぱい好きといった彼の生き様すべてが込められていた。
「俺は先に戦場へ往き、お前たちを待つ。おっぱいドラゴンの魂を継ぐというのなら必ず来い、グレモリー眷属よ!」
最後まで熱い言葉を残して去るサイラオーグさん。誇りと強さを一身に背負ったその背中はとても大きく、圧倒されるように思えた。
部長さんを見やる。
「サイラオーグ…」
彼女は依然として再起してはいない。だが彼が来る前とは違い、少しだけ目に光が戻った気がする。会長さんが見込んだ通りの人選だったようだ。
傍の机の上に赤い悪魔の駒が8つ並んでいる。龍門から転送された兵藤の駒だ。その中の一つを摘み握る。
「駒を一つ、預かります」
これから先待ち受けている激闘を乗り越えるため、あいつの力を借りようじゃないか。
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「ごほ」
その男が苦しそうに顔を歪め、口から形容しがたい黒いどろどろとしたものが吐き出される。
そしてそれをサイバーなサングラスをかけた小柄な老人が容器の中にひとしきり受け止め、札を張って封印を施す。
白龍皇ヴァーリ・ルシファー。今彼は須弥山勢力に属し、かつて京都の二条城の戦いで遭遇した初代・孫悟空の仙術を受け、体に残留しているサマエルの呪いの解呪をしているところだ。
戦後、ヴァーリチームはグレモリー城にて一時的に保護されることとなった。状況が状況、それに癪だが奴らが俺たちを助けてくれたのも事実だ。サーゼクスさんとアザゼル先生の進言とグレモリーの現当主、部長さんの父親のジオティクスさんの許可で秘密裏にかくまっている。
建前としては敵の敵は味方、という理由もあるが、何よりヴァーリはルシファーの血を引いている。ここで恩を売り懐柔して、居場所を失った彼らを引き込むことを考えているかもしれない。あの二人なら考えそうだ。
白い仄かな光を帯びた手のひらを体のいたるところにかざしていくと、薄っすらとしたもやがヴァーリの体から抜けていく。
その手があらかた体全体を回った後、ふうと煙交じりの息を初代は吐いた。
「呪いは粗方取り除いた。あとは持ち前の規格外の魔力の作用で自然回復するじゃろうよ」
「全く、大馬鹿者が珍しく連絡をよこしたと思うたら、白龍皇の面倒を見ろと老体をタダ働きさせるとは恐れ入ったわい」
「うるせい、土産の一つくらいやるから文句言うなや」
馬鹿猿が小言を言われるとぶつぶつと悪態をついた。
老人はいたわるものだぞ。特にこの爺さんが亡くなったら、対テロリストの抑止力としても非常にまずいからな。
ベッドの上のヴァーリは体の具合を確かめるように上体をひねったり、拳を握っては開いたりしている。
「感謝する、初代殿。これでまた戦える」
そしてぎゅっと拳を握り、傲岸不遜な奴にしては珍しく礼を言った。
「呪いが解けたらすぐに戦いと…大人しくしておればいいのに、どうしようもない戦闘狂じゃのぉ」
呆れたように苦笑すると「よっこらせ」と重い腰を上げた。
「もう行くのか?」
「元々天帝の命でテロリスト駆除に冥界に来たんじゃからのぉ。どこかの馬鹿といい、年寄遣いの荒い奴の多くて敵わんわい」
初代も協力してくれるなら心強いことこの上ない。しかし、魔獣ではなくテロリスト駆除か。まさか、天帝はまだ曹操が動くと踏んでいるのか…?
「初代殿、曹操は天帝と繋がっていると聞いた。だが奴は京都での妖怪と天帝の会談を邪魔している。一体天帝の中で曹操はどういう立ち位置になっている…?」
「さてのぅ、儂は天帝の先兵。自由にやらせてもらってるだけで何を考えているかまでは興味ないわい」
ヴァーリの率直な質問を受けた初代は長く蓄えた顎髭をいじりながらはぐらかす。
「ただ、この混乱に乗じて暴れんとは思うがのう。今回はあくまでハーデスの暴挙、高みの見物を決め込むじゃろうよ」
ゼウス様やオーディン様のようにこちらを快く思っているわけではないが、ハーデス神のように露骨な嫌がらせをしてくるわけでもない。はっきり敵だと認識できない分こちらもどう対応すればいいか掴みづらいたりゃありゃしない。やりにくい神だこと。
「初代、一つだけお訊ねしたいことがあります」
二人の会話に区切りをつけるように問いを投げかけたのは木場だった。元々、どうしても聞きたいことがあると言って初代が到着されたと聞いてから、急ぎこの部屋に来たのだ。
「なんじゃい聖魔剣の」
「もし、ドラゴンがサマエルの呪いを受けて生き残れるとしたらどんな状態ですか?」
「ふむ…」
なかなか難しい質問をぶつけられた初代は考え込むように眉をひそめる。これが木場の聞きたかったことか。
俺が病院に搬送された後の調査で、兵藤の召喚に使用した龍門からかすかにサマエルのオーラが検出されたことから、恐らく兵藤はシャルバが何らかの手段で入手したサマエルの毒で死んだと考えられている。
覇龍を超える真女王に至ったあいつがシャルバと真正面から戦って負けるはずがない。それ故にサマエルの毒以外の死因が考えられないのだ。
あらゆる龍への憎悪を一身に浴び、それをまき散らすサマエル。無限のオーフィスにすら影響を及ぼせるほどの強烈極まりない毒を受けてオーフィス以外に死なないドラゴンなど果たしているのか?
目の前でオーフィスが無限を失い、ヴァーリが地に伏したその効果のほどを見たこともあり、悔しいが生存の可能性は僅かすらないと思っている。
だが初代の返答は意外なものだった。
「触れてようわかったが、この呪いの濃度じゃ。肉体はまず助からん。次に魂じゃが、肉体という器をなくした魂ほど脆いものはない。ちっとの呪いにあてられるだけで消えるじゃろう」
「肉体と魂ですか…」
「しかし今回、魂と直結している坊主の悪魔の駒だけが戻って来た。そこにサマエルの呪いがあてられた形跡はあったかのう?」
悪魔の駒が魂に直結しているという情報は初耳だ。体内にあり、魂と直結しているという点なら、俺自身の魂を内包しているスペクター眼魂も悪魔の駒と同じような役割を果たしている。その違いは自在に取り出せるか否かというところだが。
「いえ、召喚に応じた駒に呪いは検出されませんでした。呪いが検出されたのは龍門だけでした」
かぶりを振る木場。魂と繋がっている悪魔の駒は呪いの影響を受けていない、となると…。
「…まさか」
「そう、まだ魂は呪いを受けておらん。無事な可能性があるって事じゃい。恐らく次元のはざまをふよふよ漂ってるんじゃねえかと思うがのう」
「…!」
それが初代の情報から導き出された結論。示された希望に俺たちの表情は自然と明るくなった。
可能性、というだけだ。まだあいつの魂の無事が確認されたわけではない。だがそれだけでも十分みんなの心の救いにはなる。
「ただ、先も言ったが器のない魂ほど脆いものはない。予断を許さない状況には変わりねえな」
「…そうですね」
初代の言う通り状況は差し迫っている。だが道は見えた。ならどうにかあいつの魂を呼ぶことさえできればあるいは…。
ふと、初代がヴァーリチームの面々へそのしわくちゃな顔を向ける。
「表に玉龍を待たせたままでの、そろそろお暇するわい。おめえさんたちはどうするつもりだ?世界からも組織からも指名手配されてんじゃろう?」
「私はリーダーのもとにいるにゃん。ここにいると退屈しないし、楽しいことだらけだからねー」
「私も変わらず皆様と一緒です!」
「彼と共にいたほうが強者と戦えるので、これからも彼らと行動します。曹操よりもヴァーリのほうが付き合いやすいので」
黒歌、ルフェイ、アーサー。禍の団を追い出され、もはや正式なチームという枠を失った彼らだがそれでもなおヴァーリのもとにいることをやめるつもりはないらしい。
「俺っちもお前についていくぜぃ。まだまだ見たいもん戦いたいもんいっぱいだしな、俺らを指揮できんのはおめえだけだぜ」
「お前たち…」
「ケツ龍皇はとっとと体を治していつも通り堂々としてりゃいいんだぜぃ、な!」
「その呼び方はやめろ、ただでさえカウンセリングを希望しているんだ」
がからかうように笑われたヴァーリはわりと本気でげんなりしているような反応を見せる。
アルビオンもドライグ同様かなりメンタルが追い込まれてしまっているようだ。本人、というよりは本龍からすれば相方の不名誉な渾名に関連付けられて事実無根の渾名をつけられるなどとばっちりもいいところだが。
兵藤の奴、本人も知らないところでライバルの相方を追い詰めていたんだな…。これもしかして赤白対決が宿命の原因となっているドラゴンがノイローゼ起こした状態で始まってた可能性もあったんじゃないか?
ヴァーリチームの会話を眺めていた煙管の煙を吹かす初代が愉快そうに笑う。
「ほっほ、はぐれ者に好かれる白、民衆に好かれる赤。今代の天龍は面白いのう」
若輩者の成長を楽しむ年長者。楽し気に笑むと、部屋から去るのだった。
「…お前ら、いつの間に仲良し集団になったんだ?」
「一緒に行動しているうちに情が沸いただけだ」
「素直じゃねえな」
未知と力を求める我の強いはぐれ者の集団。似た者同士で繋がりが強くなってチームらしくなってきたんじゃないか?
「これから君はどうするんだい?」
珍しくヴァーリに話しかける木場。それにヴァーリはからかうように笑む。
「兵藤一誠の仇討ち、と言ったら?」
「ガラじゃないねと笑うさ」
「ふっ、そうだな。仇討ちなんてのは俺のガラじゃない」
「とか言いつつ黒歌やアザゼル先生がやられたときは熱くなってたじゃないか」
曹操戦で禁手と邪眼でボコられたときに「おのれ!」っていつになく怒りをむき出しにしていたのを憶えている。兵藤の両親を殺すとか言ったくせに、こいつにも大切な人を思いやる気持ちってあるんだなって意外に思ったものだ。
痛いところを突かれたか、ヴァーリの目が動揺のせいか若干泳いだ。
「それは…まあともかく、奴とは天龍の決着をつけることができずに不満なのはある。が、仲間の仇討ちなら君たちの役目だろう?」
「そうだね、まだ英雄派が残っているからね。彼らは僕らが討つ」
曹操をはじめジーク、信長、ヘラクレス、ジャンヌ、ゲオルクといった幹部は未だ一人として倒せていない。今の禍の団を仕切っている奴らを倒さない限り、魔獣を倒してもまた第二の混乱が起こるだろう。
…また、エクスカリバーの時のように暴走しないよな?冷静とはいえ、木場もまた兵藤に救われた者の一人なのだから、ショックは相当なものだ。それが転じて強烈な復讐心にならなければいいんだが…・
「そうだ、それでいい。…先日からサマエルに瞬殺され、ベッドで寝たまま。不完全燃焼もいいところだ。俺は俺で完全燃焼できる相手を探し、ぶつけにいくさ」
体をむしばむ呪いが失せたことで、再び強者を求める血が滾りだしたようである。
次から動き出します。
次回、「出陣」