ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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第154話「出陣」

旧魔王派のアジトはかつて鳴り響いていた粗野な怒号はめっきり聞こえなくなっていた。

 

その理由は一つ。構成員の減少である。テロを何度も起こし、そのたびに現魔王派のみならず各勢力に阻まれそのたびに大きな損害を被って来た。そして今回、シャルバという大きな指導者をまた一人失ったことで彼を奪った現魔王派の怒りや不満が爆発し、独断行動を起こすものが出てきたのだ。

 

末端の暴走を抑えられないほど指揮系統が崩れ、かつての隆盛など見る影もなくなった旧魔王派。それを率いる最後の指導者たる男、クルゼレイ・アスモデウスの私室で妖艶かつ謎めいた美女のクレプスが禍々しい仮面を差し出す。

 

「これが神祖の暴食の仮面…よくやってくれた」

 

刺々しいしゃれこうべのような仮面の手触りや外観を舐めるように感じるクルゼレイは心にもないことのように冷静に言う。

 

あれだけ求めていた神祖の仮面だというのにこんなに冷めた反応は意外だとクレプスは思ったが、その感情は微塵も表情に出ることはない。

 

「旧魔王の当然のことをしたまでです」

 

「その調子で、他の5つの仮面を一刻も早く見つけ出すのだ。嫉妬の仮面の奪還も急げ」

 

「はっ」

 

短いやり取りの末、クレプスは部屋を後にしていく。

 

「…」

 

クレプスがいなくなりクルゼレイ一人になった。いつも耳に飛び込む野蛮な構成員の怒声もなく、いつになく静かだ。

 

だからこそ、彼の胸中に渦巻く哀悼の感情の声が大きく聞こえてくる。

 

「神祖の暴食の仮面…手に入りはしたが、真にふさわしい男はもう世にいない」

 

机に置いた神祖の暴食の仮面。確かな強大な力の中に、怖気がする何かを彼は感じずにはいられない。

 

つい先日、クルゼレイの制止を振り切って狂気のままに暴走して死に、その呪いを魔獣という形にして冥界に放ったシャルバが求め続けた仮面だ。彼が死んですぐに見つかるとは何という運命の無情というべきか。

 

「カテレアにシャルバ…偉大な真なる魔王の血を継ぐ同志は先立ち、俺一人だけになってしまったか」

 

クルゼレイ一人、誰もいない私室の静けさに彼の呟きが溶け込んでいく。かつて禍の団の一大派閥だった旧魔王派の指導者の思いは誰にも届かない。

 

アザゼルに敗れたカテレア、アザゼルの教え子の赤龍帝に敗れたシャルバ。

 

現魔王への憎悪で気に触れ暴走したシャルバやその敵討ちに燃える構成員たちを止められず、ますます戦力の減少に拍車がかかっていくのが今の旧魔王派とそれを率いるクルゼレイの現状だ。

 

今なお革命の時を信じて仮面を追い続ける彼はこの現状に頭を悩ませ、己の無力を痛感していた。

こんな時にカテレアたちがいてくれたらと何度も夢に見た。

 

仮面の捜索をやめないのはある種の現実逃避かもしれない。最近になってそんなことも考え始めた。

 

力を持ちながら、指導力は持ち合わせていなかったのだと浮かべた笑みはふっと寂寥の面持ちに変わった。

 

「俺はお前と共に仮面を携えてかつての栄光を取り戻したかったよ、シャルバ」

 

同志に託したかった仮面をぼうっと眺める。シャルバと共に仮面を手にし、旧魔王派を復権する。

 

思い描いてきた理想は既に夢想の彼方へと消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「裕斗さん、悠河さん、こちらにいたのね」

 

背後から凛とした声をかけられた。俺たちを呼び止めたのはサーゼクスさんの『女王』であり部長さんの義姉でもあるグレイフィアさんだ。

 

普段のメイド服とは違い、髪を一本の三つ編みにして束ね上げ戦闘服に身を包んでいる。この状況下でその服装をすることが意味するものはつまり。

 

「話に聞いた通り、前線に出られるんですね」

 

「ええ。聖槍の存在がある以上、サーゼクスは出られません。代わりに私たちルシファー眷属が『超獣鬼』を迎撃することになりました。最低でもその歩みだけは止めて見せます」

 

これまで迎撃部隊は氷漬け、落とし穴、強制転移など様々な策で魔獣の進撃を止めようとしたがどれも失敗している。恐らくシャルバがその手の術や魔法に対して対策となる術を仕込んでいるのではと予測されており、未だ魔獣に対する有効打を決められずにいる。

 

策を弄するのではなく、純粋な火力ならということで魔王様の眷属に白羽の矢が立ったのだろう。

それに自信たっぷりに応える最強の魔王ルシファーの『女王』たるグレイフィアさんなら、もしやと希望を抱いてしまう。

 

そんなグレイフィアさんはポケットからすっと取り出し、一枚の紙きれを差し出してきた。

 

「行く前にこれを渡すようサーゼクスとアザゼル総督から頼まれました」

 

木場が受け取った紙には、何やら悪魔文字で住所とある方の名前が短く記されている。

 

冥界にいる者ならだれもが知っている名前と、それには到底結びつかないような人間界の場所。どこか聞いたことのある地名だが…もしかして、駒王町から少し離れたくらいのところか?

 

「ここは?」

 

「アジュカ・ベルゼブブさまがいらっしゃる場所です。そこで彼の駒を解析しろ、とアザゼル総督からのメッセージも預かっています」

 

「ベルゼブブ様の…!」

 

アジュカ・ベルゼブブ様は『レーティングゲーム』と『悪魔の駒』を開発した冥界きっての技術者。先生も忙しいだろうにわざわざ俺たちとベルゼブブ様を引き合わせてくれるなんて感謝に堪えない。

 

「そこにリアスたちを連れて向かいなさい。僅かな希望が見えてくるかもしれません。私の義弟になる者がこんなところで終わるなど許されませんから。義妹と義弟は、これからの冥界を背負える逸材だと私は信じています」

 

死んでも期待されてるなんて、あいつは随分と重いもんを背負ったな。

 

 

 

 

 

 

 

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メンバー全員の顔見せも終わり、いよいよ出発の時が来た。

 

あまり長々といると皆の悲しみに引っ張られて出られなくなりそうだから、早いうちに出ることに決めた。

 

使用人たちもまだまだ忙しく部長さんたちもまだまだ立ち直れないようで、見送ってくれるのは木場一人だけだった。見送りもなく寂しい出発になるが致し方ない。

 

大きな玄関の前で俺と木場は別れ際に言葉を交わしていた。

 

「本当に行くのかい?」

 

そう訊ねてくる木場の目の奥にまだ残ってほしいという気持ちが垣間見えるようだ。

 

「ああ、それに…やらなければならないこともできた」

 

皆を置いていくのは名残惜しいが、もう決めたことだ。俺は俺のやり方であいつの遺志に応えたい。

そして今しがた、思いついたことを実行してみたいのだ。

 

「?」

 

「初代の話を聞いて一つ思いついたことがある。次元の狭間で漂っているだろう兵藤の魂、それを俺の魂のように眼魂にできるんじゃないかって」

 

「!」

 

突拍子のない俺のアイデアに木場はまさしく鳩が豆鉄砲を食ったように目を丸くしている。

 

そのような反応をとるのも無理はない。俺だってまさか仲間の魂を眼魂にするなんて砂粒ほどの可能性すら考えつかなかったし、思いついた時にも本当にできるのだろうかと迷ったくらいだ。

 

「聞いた通り、魂だけの状態は不安定で危険だと初代は言っていた。なら眼魂という形を与えてやれば安定し、消滅の危機は免れるかもしれない」

 

「そうか…確かに、君も本来は魂だけの存在だけど眼魂に封じているからね。それは思いつかなかったよ」

 

知っての通り、眼魂とは死者の魂あるいはそれの準ずる残留思念を内包するもの。兵藤も一度死者という類になり魂だけの状態となったなら、眼魂にできるのではないかと考えた次第だ。

 

それなら一度死んで転生し、他者の肉体に借り住まう俺のように脆い魂だけの存在を現世に繋ぎ止めていられるだろう。

 

しかしそれには一つだけ大きな、それでいて決定的な問題があった。

 

「だが、俺は肝心な眼魂を作る方法を知らない。眼魂を普段使っていながら恥ずかしいことにな」

 

「ならどうするつもり…まさか」

 

早くも木場は俺の言わんとしていることを察したらしい。流石、我らが『騎士』だ。

 

「そうだ、だから聞き出す必要がある。それを知っている奴らにな」

 

「曹操たちか…!」

 

俺たちと何度も戦ってきた憎き宿敵の名を吐く木場。その声色に若干不穏な感情を感じたが…。

 

「あいつらがあの後何をしているかは知らないが、多くの強者が出揃っているこの混乱に乗じて何もしないとは思えない」

 

「そうだね…それに僕たちと因縁深い相手だし、こちらから探さなくても嫌でも鉢合わせることになる気がするよ」

 

「はっ、そう言われてみればそうだな」

 

こんな状況でもふっと笑みがこぼれた。

 

今までそうだったならこれからもそうだろうという確信。今まで敵がいつも仕掛けてくる側ならこれからもそうだろう、仲間が無事に戦いを切り抜けてこられたならこれからも無事だろうという積み重ねによる核心だ。

 

それも兵藤の死によって空しくも崩れ去ってしまったのだが。

 

「ということで、俺はサイラオーグさんたちとともに先に行く。戦場にいれば、また奴らと出会うこともあるだろう。木場、お前は魔王様のところに行ってくれ、皆を頼んだ」

 

「わかってる。君こそ、眼魂を作る方法を聞き出してくれ。僕たち二人で希望を形にするんだ」

 

「もちろんだ。それに、戦いに来るまでのお膳立てなら任せておけ」

 

俺がそっと拳を差し出すとその意図をすぐに理解したように微笑んで向こうも拳を突き出してくれた。俺たちは拳をぶつけて約束を交わしあう。

 

俺たちは別れる。方法は違えど、共に戦い同じ志で同じ希望を叶えるために進むのだ。切なる願いを託して俺は彼に背を向ける。

 

少し前までは木場という男はこういった男の熱い礼儀というものにあまり乗ってくれない奴という認識だった。だがこちらの気持ちをすぐ汲んでくれるあたり木場も、あいつに強く影響されてきたんだな。

 

「木場」

 

言い忘れたことがあったと玄関の扉を開く前に一度俺は振り返る。

 

「暴走だけはするなよ。これ以上悲しみの種は増やさないでくれ」

 

先ほどの反応、ヴァーリとの会話。どうにも危なっかしさを感じてならない。エクスカリバーの一件に比べればかなり落ち着いているほうだが、それも俺たちの手前でセーブしているだけかもしれない。どうしても言っておきたかったから、向こうも痛いほど理解しているとは思うがあえて俺は言う。

 

「うん…重々承知の上だよ」

 

木場は神妙に頷いて返す。

 

死んだら悲しむ仲間は兵藤だけじゃない。過去の経験で学んでいると思うが、それでも俺は心配せずにはいられない。皆の心配を振り切って出て行った俺が一番心配されているかもしれないが。

 

 

 

 

 

 

 

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玄関から城を出て正門へ進むと、以前アグレアスのスタジアムで見た悪魔の集団がいた。

 

サイラオーグさん率いるバアル眷属である。スタジアムで見たメンバーがもれなく全員そろっており当然、中にはあの神滅具の化身の少年、レグルスもいる。

 

「む」

 

歩み寄ってくるこちらに気づいたサイラオーグさんと目が合う。

 

「サイラオーグさん、俺も一緒に行きます」

 

「そうか…本当にいいのだな?」

 

「はい。同じ痛みを負っているからこそ…それでも戦えるってところを皆に示したいんです」

 

病院での戦いを発端にした決意はこの城を訪れて皆に会ったことでさらに固まった。

 

冥界を守りたいという兵藤の遺志を叶えるためにも、心の折れた皆に勇気を与えるためにも俺は進む。

 

俺の固い決意を見たサイラオーグさんは力強くと頷いた。

 

「よくぞ言った。ならば行くぞ!紀伊国悠!冥界の危機だ、ともに戦うぞ!」

 




次回、「大王とスペクター」
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