Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は
S.スペクター
11.ツタンカーメン
12.ノブナガ
晴れ渡る空、鳥のさえずり。爽やかな風に揺れる草花。
ピクニックにはもってこいの環境。
そんな山道を俺は今……
「ぜぇ…ぜぇ…まだか……」
リュックを背負い、疲れて悲鳴を上げる脚に鞭を打って歩いていた。
俺の少し前を兵藤が巨大なリュックサック、さらにグレモリー先輩と姫島先輩のものも背負い歩く。
さらにその向こうには巨大なリュックサックを背負う木場君と、それ以上に巨大なリュックサックを背負う塔城さん。
それを見たときは「何なんだあのサイズは!?」と度肝を抜かれた。
そしてその向こうで休憩しているのがお姉さま組。
つまりは俺がこの列の尻尾。
「くっそ、まだ遠いな…ん?」
前方でバランスを崩した兵藤がリュックサックを背負ったまま転がってくる。
「あああああ!!」と悲鳴を上げながら勢いよく。
回避しようにももう限界に達した俺の脚は俺の意志と関係なくひたすら前へと歩みを続けるだけのマシーンと化している。つまり…
「来るなぁぁぁぁっ!!」
悲鳴を上げるも無残に転がる兵藤に巻き込まれ、二人仲良く転がっていくのであった。
「ぎゃああああああっ!!」
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「着いたわね」
たどり着いた目的地はグレモリー家が所有するという山奥の別荘。木造の建築が山奥という要素とベストマッチして落ち着いた雰囲気を出している。俺達は10日間、この別荘を拠点に強化合宿をする。
俺達は早速中に入り、着替えのためにそれぞれ散っていく。
「俺は…どこで着替えようかな」
浴室には木場君が行ったのでどの部屋を使おうかと廊下をウロウロし始める。
そうして後ろを振り返ったとき。
「よう」
「のわっ!?」
突然の出現に驚いた。
一昨日、俺が立ち直る切っ掛けを与えてくれた銀髪の少女。
その身に纏うセーラー服のような黒服が相も変わらずのミステリアスな雰囲気を放っている。
全く足音も気配もなく現れたそれに心臓がビクンとはねた。
「随分とマシな面構えになったのう」
「おかげさまでな……てかあんたどこから入ってきたんだよ?」
「玄関からに決まっておろう。妾は不審者などではない」
「いやどう見ても怪しい雰囲気しかないぞ…」
後は赤いスカーフとサングラス、デュエルディスクがあれば完璧だな。この神出鬼没な少女は一体何者なのだろうか。
「まあいい、ところで、戦う覚悟は決めたか?」
「…いいや、俺は今でも戦いたくない。殺すのも殺されるのも嫌だ、けど…」
間を置き、少女の赤い双眸を真っ直ぐに捉えて自分の意思を言葉として紡ぐ。
「この合宿とゲームが、俺を変える何かが見つかる切っ掛けになるんじゃないかなと思ってる」
「…ほう」
「だから今は、この合宿に一生懸命になってみる」
それが今の俺の答え。今、俺のやるべきこと。
その答えに、少女はいつもの澄まし顔ではなく、どこか満足気な表情を見せた。
「…そうか、今はそれでいい」
背を向けると、廊下が向こうへ歩き始めた。
俺はそれを慌てて呼び止めた。
「待て、俺はあんたに聞きたいことが山程あるんだ!あんたは何者だ?どうして俺に構う?」
俺の言葉に、少女はため息をついて答えた。
「…折角じゃ、おぬしの思いに免じて答えてやろう」
「……」
息を呑んで答えを待つ。
「妾がおぬしに構う理由、端的に言うとおぬしを強くしてこちら側に引き入れることじゃ」
銀髪を撫でての答えにさらに疑問符が浮かび上がった。
「要はスカウトってことか、何のためにだ?」
「それは……おっと、ここから先はおぬしが戦う覚悟を決めたときに話そう」
「何でだよ、ついでに全部吐いちまえよ」
「口の堅さには自信がある、と言ったじゃろう?」
またいつもの飄々とした表情でうやむやにされてしまった。
「そしてもう一つの質問、妾が何者か…だったかのう」
「……」
「妾は───
───おぬしと同類じゃよ」
「!?」
予想外の答えに動揺する。
俺とこの少女が同類……?
「おい待て、それってどういう──!?」
「紀伊国さん、誰とお話しているんですか?」
背後からかけられた声に反応し振り向くとそこにはアルジェントさんがいた。すでに着替えを済ませたらしくジャージ姿でこちらの様子を伺っている。
「え、いや、今ここに──!?」
再び振り返るがそこには先までいたはずの少女の姿はなかった。
「確かに今……」
「早くしないと集合に遅れますよ?」
「っ!そうだった!」
今の今まですっかり着替えのことを忘れていた。
慌てて近くの客間の扉を開け、ジャージに着替える。
同類。
この言葉が一体何を意味するのか。
今はあれこれ想像するしかなかった。
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別荘近くの林、そこでは塔城さんによる近接戦闘、中でも格闘の特訓が行われていた。そこには当然俺も参加しており……
「だぁぁぁっ!!」
自らを鼓舞するように叫びながら殴りかかる。
「…ふんっ」
塔城さんは腰を落として拳を回避、がら空きになった腹にカウンターを叩き込む。
「がっ……!?」
痛みに耐えきれず空気を吐き出し、その場にうずくまる。
「……弱っ」
辛辣な一言は俺の心に突き刺さった。
「正直に言ってイッセー先輩よりも弱いです、堕天使に勝てたのが不思議なくらいです」
「……はぁ…そりゃ、能力と性能でごり押ししてたからね……」
力を手にしたものの戦いのイロハを知らずそれを教える人もいなかった。スペクターの力が無ければ俺はただの脆い人間でしかない。
スペクターの能力。
ミッテルトやレイナーレとの戦いで気付いたことがある。
俺がヒートアップすればするほどパンチやキックなど、さらにスペックが上がっていくのだ。
最初はただ力任せになっているだけかと思っていたが、そうではない。
感情が昂れば昂るほど、スペクターの能力は引き上げられる。
分かりやすく言えば、ブレイドの融合係数のようなものだろうか。
そんな能力が確かに備わっている。
「先輩はイッセー先輩とよく似てます」
「…俺があいつと?」
いつもは無表情な塔城さんが心なしか少し笑っている。
「弱っちいのに一生懸命になって挑もうとするところです」
「そうか…そうだな」
フッと笑い、続ける。
「俺はようやく前に進めそうなんだ。そのためには何か一生懸命になれるものが必要だ。そのためなら何事にだって全力でぶつかるさ」
痛みも引いてきた。そろそろ特訓を続けなければ。
「はぁ…はぁ…」
息を整えながら立ち上がる。
「もう一発!!」
不意打ち気味に放った一撃も片手で受け止められる。
「…先輩」
「なんだ…」
塔城さんは俺の拳を放すと、どくよう手で合図する。
それを見て、俺は横に移動して道を開けた。
すると塔城さんは腰を軽く落として真っすぐに正拳突きを放った。
ゴウッと空気が揺れる音がはっきりと聞こえた。
「パンチは腰を落として相手の体の中心を狙って、深く的確に打つんです」
「…」
思いがけない行動と助言に思わず呆けてしまう。が、すぐに正気に戻りにっと笑う。
「…はい!師匠!」
「…師匠はやめてください」
「じゃあ先生!」
「それもやめて」
「小猫様!」
「ふん!」
「げばらっ!?」
三度目のおふざけで渾身の腹パンを叩き込まれてしまった。
仏の顔も三度。どうやら塔城さんは仏だったらしい。
こんな感じで塔城さんとの特訓は続いていったとさ。
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木剣同士がぶつかり、ガッガッと音をたてる。
近接格闘戦の特訓の次は剣の特訓だった。
「…だんだん剣の扱いに慣れてきたね、イッセー君よりも落ち着いていていい感じだよ」
後ろに跳び退いた木場君から褒め言葉をもらう。
「そりゃどうもっ!」
事実、ガンガンハンドでの近接戦もしてきたわけだしな。
ドーナシークの光の槍と打ち合ったこともあった。
そう思い出に耽りかける間に木場君が剣を構え直す。
「動きはいい、けど……」
「!!」
木場君が真っ直ぐに跳び一気に距離を詰め、剣を振るう。
反射的に木剣でそれを防ぐ。が、じりじりとつばぜり合う木剣が眉間に迫る。
「パワーとスタミナが足りない!」
「ぐぐぐっ……!!」
言われた通り、俺にはオカルト研究部の面子と比べれば、圧倒的にパワーもスタミナもない。さらには人間と悪魔という種族間の身体能力の差もある。今の俺は神器の力なしでは戦うこともできない。
「お…らぁ!」
力任せに木剣を横に流し、態勢が崩れた木場君に一撃を入れようとする。
「甘いね!」
木場君は猛スピードで振り向き様に剣を受け止め、弾く。
俺の木剣が宙を舞い地面に刺さった。
「なんだ今の……」
「体力が無くなればそれに連動してパワーも自然と出なくなる。テクニックやスピード、パワーも大事だけど戦闘における一番の要はスタミナなんだ」
「!」
確かに、言われてみればかなり疲労が溜まっていた。
呼吸も荒く、額は汗に濡れていた。
さっきのは俺の体力が減ってパワーが落ちたからいとも容易く剣を弾かれてしまったのか。
「それを差し引いても君はいい動きをするよ。もうちょっとしごいてみたくなったよ」
「…んじゃ、俺ももうちょっとがんばってみるかな!」
再び剣を拾って握り、構える。
この後も、剣を打ち合っては弾かれ、また打ち合った。
だが、なんだか悪くない気もした。
戦うことに関わることであっても、こうやって一生懸命に何かと向き合うことが。
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「はぁー……ぎもぢいい……」
湯気がもくもくと沸き立つ湯槽に浸かり、疲労が声とともに出ていく。
夕飯の後は別荘にある露天風呂で疲れを癒していた。
ちなみに夕飯は木場君が道中で採った山菜、近くの川で釣り上げた魚をふんだんに使った料理だった。妙にジャガイモが多かったのが気になったが、満足した。
夜間も特訓があるのでそれに備えて疲れを落とし、栄養を蓄えなければならない。
「紀伊国君、おっさんみたいなことを言うね」
「俺はおっさんじゃねえ」
「ふふっ、ただの比喩だよ」
隣で湯に浸かる木場君と語らう。兵藤は……
「…でへへ……」
覗きの真っ最中だ。男湯と女湯を隔てる壁に耳をあて、声だけでもと一生懸命女湯の様子を伺っている。
「イッセー君、やめたほうがいいんじゃ……」
「バカヤロウ木場ぁ!そこに女湯があるんなら覗きに行くのが男ってもんだろう!?」
「無駄だよ木場君、あいつはああなったら止まらないから」
「……そうだね」
まあバレたらバレたで塔城さんにぶん殴られるだろう。俺は知らない。てか、風呂に入る前に止めたぞ。それでもやめなかったあいつが悪い。
「紀伊国君、折角だし木場君じゃなくて木場でいいよ」
「そっか、じゃあこれから木場って呼ぶ」
「そんな感じでいいよ、裸の付き合いまでしたんだしね」
「そうだなぁ……!」
よりリラックスして天井を仰ぐ。
「嬉しそうな顔だね」
「……今まで一人暮らしだったからな」
「…そっか」
今まで一人暮らしをしてきたため誰かと夜まで過ごすということがなかった。
なんだか妙に暗い雰囲気になってしまった。一転するために話題を変える。
「木場は料理とかできる?」
「僕も一人暮らしだから自炊してるよ」
「マジか!?今度料理教えてくれよ!」
実はこの合宿までの食事をカップ麺がその大半を占めていた。
この成長期にそんな不健康な食生活を続けるのは、健康上非常によくない。
次の特訓までの間、楽し気な時間が過ぎていった。
一章が暗かったので今回は楽しい感じにしています。
次回は合宿の続きです。