ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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第158話「希望は赤い蛍火のよう」

「がはっ」

 

全身が熱い。それは痛みでもあり、光に焼かれた熱さでもある。体の至るとこは火傷し、制服も焼けこげ、呼吸をしようとすれば一緒に血も吐き出される。それが今の俺の惨状。

 

惨状というなら周辺の風景もだろう。焦げ付いた地面、焼けただれた建物。焼けるような光の波動は飲み込んだもの一切合切を焼き尽くし、光の中へ消し去ってしまった。

 

「しぶといな。あの攻撃でまだ死なないとはやるじゃねえか」

 

そしてその惨状を生み出した男は無様に転がる俺を見下ろす。変身状態だったからなんとか死なずに済んだがそれでもかなりの深手を負った。

 

「俺が…過去の亡霊か」

 

脱出戦の時といい、こいつはいつも耳の痛いことばかり俺に言ってくる。

 

確かに凛といい、兵藤といい死者にこだわる俺は傍から見ればそう見えるのだろう。失われたものを取り戻そうと必死になっているのだから。果たしてそれは今を生きていながら今とこれからの未来を見ているのかどうか。

 

「そうだ、だからお前はここから未来には進めない。亡霊なら過去に囚われたまま消えろ」

 

「…だったらお前は何のために戦っている。お前はどんな英雄になりたいんだ」

 

俺にそこまで強気な言葉を吐いてくるからには相応の覚悟と夢があるのだろう。どんな強敵でも乗り越えていけるような強い意志と力を生み出す動機が。

 

神器をここまで強力な能力にした彼の心とは何なのか。ふとした疑問から俺は問いを発した。

それに奴はまたも勿体ぶらずに言う。

 

「俺の夢のため、そして俺を救ってくれたアルル様と叶えし者たちのためだ」

 

「どうして、そこまであいつらに尽くす…?奴らは世界を…滅ぼすつもりなんだぞ」

 

何故英雄を目指す男が、世界の滅亡に加担しようとしているのか。英雄とは俺の知る限り発明や功績を上げ、何かをよりよくしてきた者たちのはずだ。それと奴は真逆のことを成し遂げようとしている。

 

「…元々この世界に俺の居場所なんてなかった。妾の子だった俺は周囲から疎まれ、母の愛だけで生きてきた」

 

奴はぽつりぽつりと語り始める。その声色に奴が抱えてきた深い虚しさが伺える。

 

「…」

 

「だがその母も父に殺され、幼い身で一人で生きていくしかなかった俺を拾ったのがラディウスだ」

 

「ラディウス…?」

 

先ほど俺が奴を背負い投げした時にも口にしていた名前だ。一体何者なのか。

 

「2年前にアルル様が降臨される前まで、ディンギルのいないこの世界の叶えし者たちを束ねていた叶えし者のリーダーだ。人間のくせに神竜戦争時代から生きてるっつうんだからとんでもねえバケモンだよ」

 

人間なのに千年以上の時を生きているというのか。もしやそれはフェニックス家以上の不老不死というものではなかろうか。だとすれば相当厄介な相手だ。

 

「ラディウス達叶えし者が俺に戦いを教えてくれた、アルル様は俺に生きる使命を与えてくれた。ただ無様に迫害される以外に道のなかった俺に、新しい道を見出してくれたんだよ!例えそれが世界の滅亡だとしてもかまわねえ、ドラゴンだろうと、神だろうと、特異点だろうと障害はすべて潰す」

 

手にした刀を天に掲げる信長。その姿は天上に居座る神への挑戦のようでもあった。聖槍の存在だけで前線に出られずに安全地帯で指揮を取るだけの神々を信長は見据える。

 

「あらゆる難敵を葬り去り、俺はディンギルの神託を実現した英雄になる。そして世界を終わらせる。それが俺の願いであり、夢であり、使命だ」

 

それがこいつの『英雄』か。人のためでなく、世界のためでなく、自分を救い、自分が信じた神のために英雄になるのがこいつの志。困難な夢だが、それ故に奴は強いのだろう。困難な夢を実現するなら並大抵の思いでは叶うまい。だからこそ強い意志をもって自分の神器を高めようとし、その思いに神器が応えこれほどまでに強い能力を発現した。

 

こいつの戦う動機はわかった。だがここまで語られたこいつの理由の中にあの男たちの存在がない。

 

「お前の戦う理由に…曹操たちはいないのか」

 

こいつは英雄になりたいと言っていた。それは曹操たちも形は違えど同じく掲げる目標だ。しかし奴はここまで一言たりとも英雄派にちなんだ名前を出すことがなかった。組織に身を置き共に戦いながらも、こいつのなかに曹操たちの存在はないというのか。

 

「…なに」

 

「お前にとって英雄派は…仲間じゃないのか」

 

「さっきも言ったろ、俺はあくまでアルル様の命令であいつらと行動しているに過ぎない。あいつらの強さは認めるが、あいつらは仲間じゃねえよ」

 

「本当にそうか…?」

 

冷たい声色で奴はそう言っているが、俺にはそれが本心には思えない。それはいくつかの断片的な情報から推測という形にはなるが隠された感情が伺えるからだ。

 

「その禁手…曹操にそっくりだ。神器は人の思いに感応するんだろう、神器の能力…ましてや禁手に影響するくらいならそれは…」

 

こいつの禁手、『砕かれざる綺羅星の宝鎧』が生み出す六天魔装なる武装の数々。数こそ曹操のほうが上だが、複数の異能を持つ禁手という点で曹操の禁手『極夜なる天輪聖王の輝廻槍』とよく似通っている。

 

神器とはこれまでに見てきたように所有者の思いに感応し力を増し、あるいは新たな能力を発現する。それは兵藤が赤龍帝の籠手に収納されたアスカロンや三叉の力で証明している。二つは外部の力を取り込んだ形になるが、それを可能にしたのは偏に兵藤がそうしたい、そうでありたいと願ったからだろう。

 

だとするなら、こいつの禁手もきっと。

 

「お前が曹操たちを仲間だと…あいつらに対して強い思いを持っているからなんじゃないのか」

 

「…なんだと」

 

低い声で動揺の言葉を告げる信長。

 

「これは俺の完全な予想だが…六天魔装は後天的に発現した能力だ。曹操の七宝を見て…あいつの戦う姿に影響を」

 

「いい加減なことを言ってるんじゃねえ!」

 

奴の心を探るような俺の言葉が信長の怒りに火をつける。地に頬をつける俺の顔を蹴り上げた。

 

「があっ!」

 

「そんなもんは全部…お前の推測だろうが!お前に俺の何がわかる?俺以上に俺を知っている奴はいない!全部知ったような口をきくな!」

 

怒りの感情をあらわに奴は何度も俺を踏みつける。鎧に覆われて見えないがきっと奴の顔は憤怒で赤く染まっているだろう。

 

「がっ!…お前にとってあいつらは仲間じゃ…戦友じゃないのか」

 

「俺に友など…仲間などいない!」

 

怒りに震える声で強く断じる信長。そして仰向けになった俺の襟首を乱暴に掴み上げると、鎧に覆われた奴の顔へぐいと引き寄せられた。

 

「友に恵まれたお前にはわからないだろうな…!俺は拾われるまで誰を頼ればいいかもわからず、ずっと一人だった!そんな俺を拾ってくれたアルル様やラディウス、親切にしてくれた叶えし者は俺を救ってくれた大恩人だ、救世主だ!忠を尽くすべき相手だ!仲間や友なんて陳家で対等なもんじゃねえ…!!」

 

信長の言う通りだ。自分で言うのもなんだが俺は仲間や共に恵まれている。前世は普通の家庭で家族のつながりがあったし、友人もそれなりにいた。そして今、オカ研の仲間、天王寺や上柚木達学友、ポラリスさんたちレジスタンス。俺の周りには種族や勢力を超えた沢山のつながりがある。

 

だが信長にはそれがなかった。苦しい環境で孤独に生き頼れるものもなく、暗闇の中でもがき苦しみ、その中で差し伸べられた手はさぞ待ち望んだ眩しいものだったろう。だからこそ、アルルに強い恩義を感じている。

 

「曹操たちはアルル様のために利用する相手に過ぎない!アルル様の命があれば、すぐに奴らを殺す、すぐに奴らを守る、ただそれだけのことだ」

 

だが感情を露に心を並べ立てるこいつは、俺にはやはり何かを必死に隠そうとしているように見える。それにそこまで言うならなおのことわからないことがある。

 

「…だったらわからないな」

 

「何がだ!?」

 

「忠義だけのお前が…形は違えど『英雄』になる夢を掲げている訳が」

 

痛む体を動かして、奴の腕を掴む。

 

「奴らへの恩返しだけならそんな夢を抱くはずがない…!その夢は、同じ英雄になる夢を持っている曹操たちを見て、自分もそうなりたいと願ったからじゃないのか!!」

 

アルル達への忠義だけで生きているならアルギスのようにただ忠実な駒になるはずだ。なのにこいつはディンギルの神託を実現する『英雄』になりたいと言った。それは他者に依存するだけの生き方ではなく、こいつ自身が曹操たちのような困難を乗り越えて自身を高め上げたいと思ったからではないのか。

 

その夢は信長が、ディンギルに尽くす夢をアルルのためでなく信長自身のために願ったものだ。それも曹操たちの生き様を近くで見て、彼らを認めて自分もそうしたいと思ったからだ。

 

「ッ!」

 

「お前は世界を滅ぼしたい叶えし者の信長じゃねえ…!英雄になりたい英雄派の信長だろ!!」

 

「これ以上喋るなァ!!」

 

爆発した激憤と共に振りぬかれた信長の拳。渾身のパンチが俺の胸を打ち据えた。

 

「ごはっ!」

 

重く、鋭く突き抜ける衝撃に空気と血が一緒に吐き出された。体がぼろ雑巾のように軽々と宙に舞い、そのまま抗えぬ重力に従って地面に叩きつけられた。

 

今のであばらが折れた。むしろここまでやられてよく生きているものだと自分でも不思議に思う。だがここまでダメージを負った状態でこれ以上の攻撃はさすがに死ぬかもしれない。

 

「どうして俺の心に土足で踏み入ろうとする!?そんなに友が、仲間が大事なものかよ!!」

 

何故敵であるこいつに訴えかけるのか。正直なところ俺にもよくわからない。だがこいつに踏み込もうとするとどうしてもむずかゆいのだ。英雄派と叶えし者の狭間に立つこいつがどうにも放っておけない。

 

苦痛で明滅する視界の隅に小さな赤い何かが映った。あれは兵藤の悪魔の駒だ。さっき殴られた拍子で落としてしまったらしい。

 

「悪魔の駒…さては兵藤一誠のか」

 

それに信長も気づいたようだ。地面に無造作に転がった赤い駒に奴がゆっくり足を進める。

 

「そんなに大事なら壊してやるよ…友も仲間も何一つ役に立ちやしないところを見せてやる」

 

「ッ!やめろ!!」

 

痛みと感情で熱く滾っていた脳が一気に冷え込む。この駒はあいつの魂でもあり、希望のかけらでもある。それを壊させるわけにはいかない。

 

力を振り絞って立ち上がり駆けだして、その歩みを止めようと奴にしがみつく。

 

「くそ、邪魔をするな!こんなにボロボロになって…どうして諦めない!?」

 

重い拳を何度も振り下ろされ叩きつけられるがそれでもこの手を放さず、踏ん張り続ける。

焼けるように熱い体の中で滾り続ける思いがそのための力を生み出すからだ。

 

「この…!」

 

業を煮やした信長が膝蹴りを決めた。そして流れるように駒のもとへ俺を掴んで投げ飛ばした。

 

何度も殴られ、蹴られ、体は限界を迎えている。しかしそんな体を動かし、地面に転がる兵士の駒を掴んだ。血交じりの唾を吐き捨て、俺は奴の問いに答えた。

 

「約束したからだ…木場と…兵藤と!」

 

 

 

 

 

 

 

それは修学旅行明けのある日、俺と兵藤、木場の三人でトレーニングに励んでいた時だった。

休憩に入り、汗をぬぐって一息つく兵藤が切り出したのだ。

 

『なあ、この三人の中で誰かが死んだらその分だけみんなのために戦うって約束しないか?』

 

『どうしたんだ急に、縁起でもないことを』

 

『そうだよ、僕とイッセー君はもちろん、深海君も揃ってのグレモリーチームじゃないか』

 

いつになく真面目に話をするものだから俺も木場も途端に心配になったものだ。

 

『わかってるさ、でもロキも曹操も、強敵の連戦続きだったろ?いつ誰が死んだっておかしくない場面ばっかだ。ゼノヴィアだって…ウリエルさんが時を戻さなかったら死んでたしな』

 

俺も兵藤もオカ研の中ではいつもボロボロになってる面子だ。この話で言ういつ誰が死んだっておかしくない場面の9割を占めている気もするが、その1割の中にゼノヴィアの件があった。それがこの話を兵藤にさせた理由だったのだ。

 

皆ロキ戦以来、兵藤と同じことを強く思っただろう。事実俺も考えた。これまで上手くいってきたが、もしもはありうるのだと。

 

『だからこそ、いざというときのための約束だ。そうすれば死んでも安心して皆に託せる』

 

『俺はお前らが死ぬのはごめんだぞ』

 

『俺だってそうだよ!それに死ぬのも勘弁だ。まだ好きな女の処女をもらってないからな!』

 

死んだら死んだで女性陣の枕元に未練たらたらの幽霊になって出てきそうだがな。

 

『なら、皆で約束しよう。絶対に仲間を死なせない、自分も死なない。もし死んだら、欠けたメンバーの分まで戦い抜こう』

 

そっと拳を差し出す木場。初めて会ったときは柔らかくて落ち着いた印象だったが、この数か月で随分熱い男になったものだ。

 

『おう!』

 

『そうだな』

 

誓いを胸に拳を重ねあう俺たち。その時は『死んだら』の約束を実行することになるとは露程思わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

ここで諦めたら交わした約束も何もかもが無駄になってしまう。それだけは絶対に勘弁だ。先に逝ったあいつに何と言われるか。今人間界に行っている木場に顔向けできない。一生、いや死後も永遠に続く後悔を背負ったままになってしまう。

 

だからたとえ死ぬことになろうとも、最期の時まで諦めたくないのだ。

 

「友のために…仲間のために…死んでも諦めない!!」

 

決意と誓いから迸る魂の叫びの刹那、駒を握った手から赤い仄かな光が漏れだす。温かくて、仄かなのに力強いこの輝きは何なのかと手を開く。

 

「悪魔の駒が…!」

 

掌の上で悪魔の駒が強く輝いている。所有者を失い機能を止めたはずの駒が何かに反応するように次第に輝きを増していく。

 

「赤い光…まさか!?」

 

その時、奇跡は起きた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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魔王アジュカ・ベルゼブブの拠点の一つでもあるビルの屋上庭園。そこで木場は無残にも地に伏していた。

全身の骨は折れ、あたり一面に血をまき散らし、浅い呼吸を繰り返してどうにか意識をつないでいる。

 

「勝負あったね、防御に弱い君じゃディルヴィングの攻撃はかなり効いただろう?」

 

木場の相手であるジークフリートは勝ち誇ったように笑みを深める。

 

「祐斗…!」

 

「先輩…」

 

「このままじゃ木場さんまで…」

 

ここまで仲間が追い詰められているにもかかわらずリアスたち女性陣はただその場で歯噛みするばかりで動くことができないでいる。それは仲間に対して薄情だからではない。兵藤一誠を失った彼女らは完全に戦意を折られてしまっているからだ。アーシアの神器も回復のオーラを放てずに今にもかすれ消えてしまいそうな光を出すだけ。

 

そのざまを見たジークは情けないと言わんばかりに深く落胆のため息をついた。

 

「やれやれ、僕らの脅威だったグレモリー眷属も兵藤一誠が欠けるとここまで腑抜けになるのか。落胆したよ。戦う前まで僕に向けていた殺気はどこに行った?」

 

ジークがこの庭園に旧魔王派を引き連れ現れた時には木場共々リアスたちは敵意を超え殺意すら込めた鋭い視線を送っていたものだった。それだというのに彼と戦ったのは木場一人だけで他は傍観するだけ。戦いを求める彼にとってこれ以上にがっかりさせるものはない。

 

この戦いの傍観者に加わっているアジュカはやはり何もしてこない。まるで次代の若い芽を試すように言葉を発さず、戦いに干渉せず優雅に椅子に腰かけるばかりだ。

 

「ここまで手傷を負わせた君を倒すのも、腑抜けた彼女らを始末するのも容易いね。それに今頃、信長が英雄使いと戦ってくる頃だ」

 

「なんですって…?」

 

「彼は本気の禁手で戦うと息巻いていたからね、あの硬い鎧は誰にも破れない。曹操にすら壊せなかったあれを英雄使いが太刀打ちできるわけがない。これでグレモリー眷属は全滅だ、よかったじゃないか、すぐに全員そろってあの世で彼に会えるんだから」

 

「…!!」

 

皮肉たっぷりに何もしてこないリアスたちを煽るジークフリート。

 

彼は何よりも信長の力を知っている。鎧の堅牢さは勿論、発現した六天魔装を含めた戦闘力は普通の神器であるにもかかわらず神滅具と比べてもなんら遜色ないほどの強さだった。故に信長の勝利を疑わない。

 

「…く」

 

ジークが語る隙に木場は懐から小瓶を取り出す。出発前、ルヴァル。フェニックスからもらった貴重なフェニックスの涙。蓋を開けて傷口にかけるとたちどころに癒えていく。だが切断された左腕までは戻らない。

 

果たして如何に優勢だろうとジークが左腕の回収を許すだろうか。利き手だけであの6本の剣の猛攻をしのぎ切れるとは到底思えない。

 

「…ここまでか」

 

折れた骨、斬られた左腕。木場の心もいよいよ折れようとしていた。彼自身も冷静に感情を押し殺して行動していたが、やはり心の中では一誠の雄姿を求めていたのだ。それがない今、彼の士気は大きく低下していた。

 

圧倒的優勢に立つジークは更なる嘲笑の言葉をこぼす。

 

「…ふ、それにしても兵藤一誠は無駄死にしたね。オーフィスを放って君たちと共に戻って立て直せば、オーフィスの救出はともかくシャルバは討てた。勝手に死んで、仲間のメンタルを弱らせて僕という脅威にさらしてしまった。やはり女性の胸のことばかりで頭が足りてないよ」

 

「無駄死に…?」

 

その言葉が木場の心に引っかかった。それは命を賭して戦った友を愚弄する言葉だ。

 

「そうさ、仲間を危機に晒し、不安と危機に直面する冥界を残して死んだ。これを無駄死にと言わずして何と言うんだい?」

 

断じて取り消すつもりはないとジークは嘲笑を深めて言う。その態度と言葉が、凍てつく絶望に沈もうとしていた木場の心に火をつけた。

 

心に灯ったどす黒い炎。それは剣士として敵を討てない無力な己への悔しさと、友を失った悲しみと、一誠や悠河と交わした約束をくべて激しく燃え上がった。

 

震える足を喝を入れるように叩いて上げ、残った右手の聖魔剣を支えに体を起こす。そして感情のままに空へ吼えた。

 

「う…ぉぉおおおおおおおおおお!!!」

 

「!」

 

震える足で一歩、また一歩とジークへ迫る。傷だらけで今にも倒れそうな体なのに鬼気迫る表情の木場にジークは一瞬気圧された。

 

「まだ…戦える!イッセー君はどんな相手だろうと、どんな時でも立ち上がり、戦い抜いた!兵藤一誠を…僕の親友を貶すような真似は僕が許さないッ!」

 

湧きあがる怒りが、友との思い出が、交わした約束が、限界を超え彼の体を立ち上がらせた。約束を破ることなど許さないし、許されない。ここで戦わずして何がグレモリー眷属か、グレモリーの男子か、兵藤一誠の戦友か。

 

傷だらけになりながらも煌々と闘志で瞳を輝かせる木場。ジークは剣を握る手で拍手を送った。

 

「ここまでの傷を負ってなお立ち向かう闘志は認めるよ。でも、実力に見合わない粋がり、後先を考えない蛮勇、そういうのを無駄死にって言うんだよ!」

 

「それでも!」

 

一誠が抱いた意地よ、気合よ、今この体に宿れ。剣に満ち満ちれ。

 

一誠なら今の自分と同じ、いやそれ以上に傷を負った状態でも立ち上がったはずだ。ライザー戦も、バアル戦も、曹操戦も、いつだって彼はそうしてきた。それを間近で見てきたのだ、ならば、自分にだって。

 

諦めない思いが奇跡を起こす。それは奇しくも、冥界で戦う悠河のもとにも同時に起こった。

 

「イッセー君の駒が…」

 

「イッセー…?」

 

木場の思いに応えたか、リアスが手に持つ『兵士』の駒が赤く光った。そして深紅の光の尾を引いて木場のもとに飛来した。

 

「なんだ、その光は…」

 

ジークも突然の現象に困惑する。駒は意志を持つかのように浮遊し、木場の目前で輝いている。その光が弾けるように光量を増すと。

 

「…聖剣アスカロン」

 

〈創造龍ヌメロン・ドラゴン(遊戯王ゼアル)〉

 

透き通るような美しさと力強さを併せ持った龍殺しの聖剣、アスカロンへと変化を遂げた。一誠の死と共に次元の狭間に失われたと思われていた聖剣が今、木場の目の前にある。

 

それにそっと手を差し伸ばし、柄を握った。

 

『…行こうぜ』

 

「…!!」

 

それは幻聴だったかもしれないし、奇跡がもたらした彼の残滓だったかもしれない。だが確かに木場は声を聴いた。最大の戦友の声を。

 

友の声につと涙が感情と共にこぼれた。

 

だがその一言は木場に無限の勇気と力を与えた。痛みも苦しみも感じない。

 

「ああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

 

 

 

 

 

 

 

 

超新星爆発のように明るく輝いた悪魔の駒。その跡には何もなかった。駒の形すら失せたが、ただ一つ、俺の両腕に奇跡を残した。

 

深い赤色で刺々しく無骨なフォルム。見る者に赤いドラゴンを想起させる13ある神滅ぼしの化身。

 

「赤龍帝の籠手…だと」

 

俺の両腕に兵藤が使っていたものと全く同じ赤龍帝の籠手が装着されていた。まさか、俺にあいつの神器が継承された?だが籠手に宿るはずのドライグの存在は感じない。

 

しかし確かに感じる。あいつの魂を、声を、力を。力尽きようとしていた体に温かで、それでいて強き力が満ち満ちていく。

 

「馬鹿な…そんなことがあるはずが」

 

奇跡に驚き、立ち竦む信長。その隙に蹴りを喰らわせる。

 

「ぐ!」

 

不意打ちを受けて転がる信長と距離ができた。

 

『一人じゃねえ、二人で行こうぜ』

 

「!」

 

籠手に触れると、もう死んだはずのあいつの声が聞こえた気がした。その言葉が戦うために心の隅に押しやっていたものを解き放った。

 

「お前ってやつは…!」

 

死してなお仲間を助けようとする兵藤の遺志に涙が流れる。籠手の宝玉に映り込む俺の顔は血と涙まみれになっていた。

 

かつて敵対したものに手を差し伸べて死に、そして死んでも友の窮地に駆けつけるなんてどこまでもお人好しな奴だ。だがその優しさが傷ついた心と体に染み渡る。そしてそれは立ち上がるための力と勇気になる。

 

籠手はまるで今まで使い、慣れ親しんだものであるかのように自然になじんでいる。

 

いける、今ならもう一度、戦える。その確信と胸にある友と仲間への思いが俺の体を自然と再起させた。

 

「行くぞ…兵藤」

 

こいつを倒し、お前との、木場との約束を果たす。力を貸してくれ、そして共に戦ってくれ。

 

強い願いのこもった籠手の装着された手でドライバーのレバーを握りしめ、力強く引いた。

 

「変身!」

 

〔カイガン!プライムスペクター!英雄!裂空!勇壮!激闘!ブレイヴ・イグニッション!〕

 

再び俺は英雄たちの力を束ね、プライムスペクターへ変身を遂げる。赤龍帝の籠手はそのままに心なしかスーツは普段以上の輝きを放っているように思えた。

 

俺の、いや俺たちの反撃が始まる。

 

〈BGM終了〉




次で決着です。

次回、「魂の再起」

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