ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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一度はやってみたかった展開をします。

Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は…
S.スペクター
1.ムサシ
2.エジソン
3.ロビンフッド
6.ベートーベン
7.ベンケイ
9. リョウマ
10.ヒミコ
11.ツタンカーメン
12.ノブナガ
23.コロンブス
31.ライト
41.シグルド
42.ユキムラ
44.ハンゾウ


第160話「永久に砕かれざる綺羅星」

「がは」

 

全身全霊を込めたキックを受けた信長が大量の血を吐き、くずおれた。それと同時にこちらの変身も解除される。激戦の疲労によりもう変身を維持する気力も体力も残っていない。

 

〔オヤスミー〕

 

「…!」

 

さらにこの両腕に装着されていた籠手も役目を終えたと光の粒になって消えていく。俺は赤龍帝の籠手の正式な所有者になったわけではない。あくまでこれは借り物の力だ。ただその役目を終え、あるべき形に戻るだけのこと。

馳せる

「…!」

 

赤い蛍火のような光が天に昇っていく。力強くも淡いその光に思いを馳せるように見届けた。

 

完全に籠手が消えると、この手に赤い駒だけが残された。その駒に祈りを込めるようにぎゅっと握る。

 

「…ありがとう、兵藤」

 

お前の助力があればこそ、言葉があればこそ俺は立ち上がり勝つことができた。少しの間、ゆっくり休んでいてほしい。俺たちが必ず…。

 

「…っ」

 

突然、足元に力が入らなくなり、よろよろとふらついて尻もちをついてしまう。戦いのダメージによる痛みと脱力感。正式な宿主になったわけでもなく神滅具の力を使った代償か、一気に体力を持っていかれたようだ。

 

ふと手を見やると、血で真っ赤に染まっていた。目に手も当てられないくらい皮膚もボロボロなこの状態は、あいつの鎧を力任せに破壊した代償だ。

 

「うぅ…」

 

すぐそばで大ダメージを負い、壁に背を預けるように座り込んでいるのは信長。荒い呼吸を繰り返し、どうにか意識を繋ぎ止めているようだ。完全に戦闘不能状態、立ち上がることもできないだろう。

 

がちゃと何かが信長の制服から滑り落ちた。俺から奪ったニュートン眼魂とピストル型の注射器、前の戦いで奴が使った業魔人だ。それを使えば肉体を強化し、神器の能力も強化できるはず。しかし奴はそれに手を伸ばそうとしない。代わりに俺が眼魂とピストルを手に取った。

 

「…どうして業魔人を使わない」

 

「言ったろ…禁手とかみ合わせが悪いって…防御特化の重い鎧を着こむ禁手じゃ、肉体変化してスピードに特化する業魔人の長所を殺してしまう…。今使ったって、体の変化に耐え切れず自滅するだけだ」

 

口から血を零して力なく笑う信長。その目線がふと俺に向けられた。

 

「どうして…あんなに俺を気にかけるんだ。俺は敵だぞ」

 

「…さてな、俺もわからん。テロリストの親玉を助けようとしたバカに影響されたのかもな」

 

息を吐いて、俺は天を仰ぐ。相も変わらずどんよりとした空色だ。折角収めた勝利だというのに、空はそれを祝福するように晴れてはくれない。

 

口ではそういうが、戦いが終わった今気づいた。こいつは俺と同類だ。

 

叶えし者と英雄派で板挟みになっているこいつと、レジスタンスとグレモリーの二束の草鞋を履いている俺。頼れるものもなく迷ったこいつは幼少期に叶えし者に出会い、歩む道の道しるべを得た。一方俺は異世界に転生し、頼れるものもなくグレモリーに、戦う理由に迷いポラリスさんに出会った。そして戦う理由という指針と、仲間という居場所を得た。そして互いに二つの組織の狭間で揺れ動いている。

 

出会う相手が違うだけで、俺たちは変わらない。もしかしたら、立場が逆だったかもしれないのだ。そんな相手を前に無意識のうちに敵ながらも抱いてしまったシンパシーが俺をあのように訴えさせたのだろう。

 

「…そうかよ」

 

それに気づいたかはわからないが、信長は深く詮索することはしなかった。

 

「…俺は確固たる未来への夢を持ってた」

 

ひとりでに信長が語り始める。

 

「だから、漠然とした思いしか持ってないお前には負けないと…負けてやれないと思っていた。だが…負けた。それは…俺が一人だったからだ」

 

「…」

 

「恩義…忠義のためってのは、ある意味自己満足みたいな理由だ。恩ある人に尽くす自分に酔ってる…ともすれば一方通行の思いだ。だが、お前には仲間がいた。一方通行じゃない、思いの通じ合う仲間が…お前は仲間たちと共に戦い、俺は孤独に戦った。そりゃ負けて当然だ」

 

自嘲気味に笑う信長。もはやこれまでの戦いで見せてきた堂々たる態度は見る影もない。深手を負った信長の語りはさらに続く。

 

「…お前の言う通りだ。俺は曹操たちを…心の底から仲間だと思いたかった。だが俺は叶えし者のスパイだ。曹操たちを操り…アルル様に利する行動を取らなければならない。それがアルル様達への恩に報いる方法だと信じて…」

 

語る最中にごぼっと血を吐く信長。血の塊がボロボロになった英雄派の制服と地面に染み込んでいった。

 

「でも、あいつらと過ごしていると…固く決めたはずの心が揺らいだ。年も近く、似た境遇のあいつらが本気で…英雄なんてもんを目指しているのを見て、最初は馬鹿にしたが…だんだん俺も一緒に英雄になりたいと思った。でもそれはアルル様への裏切りになるし、恩を仇で返すような真似はしたくなかった…」

 

「…だから、世界を滅ぼす英雄を目指したのか」

 

世界を滅ぼすというディンギルの目論見。英雄を目指す英雄派の思想。それぞれが混ざり合ったような信長の目指す歪な姿に俺は合点がいった。それは英雄としても歪であり、どちらにも染まり切れない信長の半端な心の表れでもある。

 

「仲間よりも俺の命を救ってくれた…がはっ、叶えし者たちの方が俺にとって大事だった。はずなのに…俺は曹操たちといて気づいてしまった。叶えし者にとっても…アルルにとっても…俺は野望を達成するための道具でしかない。だが…それだけが俺の居場所だった。それを失いたくないから、俺は盲目的に奴らに従った」

 

自分の心を受け入れられず、孤独に戦い続けた男の後悔。声が途中途中で上ずっているようにも聞こえた。

 

「でも曹操たちは俺を一人の男として…仲間として迎え入れてくれた。あいつらが…俺の心を救ってくれたんだ。今になって気づくなんてな…」

 

俯いたままでその表情を窺うことはできないが、その頬に何か光るものが流れ、ぽろぽろと零れ落ちた。

 

「白か黒か…心を徹しきれず中途半端に生きた男の末路だ。笑えよ」

 

身は息絶えそうなほどに傷つき、心はこれまでの自分を否定する。一つに心を決めきれず、ただがむしゃらに進んだ道の先にあったのがこの結末であると信長は己を嘲笑った。惨めさ極まるその姿に英雄派が目指すような勇猛さ、気高さはどこにもない。そこにあるのはただ、信長という等身大の一人の男だけ。

 

己を笑えという信長だが、俺はそうしようとは思わない。

 

「…笑わねえよ。ずっと悩みに悩み続けて、やっとお前は自分の本心を認めることができた。お前は己という困難に打ち勝ったんだ」

 

アルル達と曹操たち。最初は片方と決めた心は一度ブレると収まりが効かなくなった。どちらが真の仲間で、どちらのために戦うべきなのか。本心と忠誠がせめぎあい、そのブレを引きずりながら、二つの組織の狭間で苦悩してきたのだ。

 

そしてこいつは俺に敗れた。本心を押し隠し、迷いを剥き出しにした自分を真っ向から指摘した上に自慢の防御諸共打ち破られてしまった。これまでの自分を支えてきた柱が崩れたことでやっと自分の本心に向き合うことができたのだろう。

 

だから今、俺に全てを打ち明けた。自分の悩みを相手に打ち明けるというのはそれなりに勇気がいるものだ。身をもって経験した俺だからこそその困難さは理解できる。口を開き、声に出すその時まで繰り返される逡巡。それを信長は越えた。

 

その行為はまさしく、彼らが目指す姿そのものである。

 

「曹操の言葉を借りるならお前たちは、困難に挑戦し打ち砕く者なんだろう?」

 

「…!」

 

その言葉に、信長ははっとしたように目を見開く。

 

 

 

 

 

 

『俺たちは困難に挑戦し、打ち砕く者』

 

渡月橋で戦った曹操の言葉には奴の信念の重みが込められていた。

 

『歴史に名を轟かせた偉人たちは皆そうだ。戦、発明、政治…様々な分野において困難と対峙し、それを乗り越え、己の轍を踏んで続く者達の光となって、大業を成し遂げた。俺たちもその英雄たちの生き様に乗っ取り、この時代でそれを為そうとしているだけですよ』

 

意思、夢、奴が明確に持ち、見据えるものが雄弁に語る言の葉に織り込まれている。

 

『人間はいずれ異形を越える。そう、力に選ばれた俺たちはこの蒼天の下で異形という困難に挑戦し、己の限界を試し、超え、人間の進化の先駆者を目指す…数多の異形を屠り、俺たちは現代の英雄になる。それが俺たち英雄派だ』

 

 

 

 

 

あいつは過去にそう語っていた。奴らの信念に則って戦ってきたこいつは奴らのルールで言うなら英雄みたいなものだ。俺からすれば迷惑もいいところ、全く褒められたものじゃないがな。

 

「…なぜそこまで俺に深入れする。俺はお前の…大事な仲間を奪ったも同然なんだぞ。俺たちの計画でサマエルを持ち出さなければ…シャルバがあいつを殺すこともなかった。お前に殺されても文句は何一つ言えやしない」

 

信長は問う。ばつの悪そうに俺から顔を背ける今のこいつは、まるで俺に咎められ、罰を下されるのを待つかのようだ。

 

「今のお前には俺に対する殺意が全くない。テロリストの俺を…殺さないのか」

 

「…ああ、お前の行いは許すことはできない。お前らの計画に巻き込まれ、兵藤は死んだ。だが真に憎むべきシャルバはもういない。俺は少なくとも…情報を得る手がかりとして…因縁の相手としてお前と戦った。友の仇として戦ってはいないぞ」

 

相手がもしシャルバであれば話は違ったが、こいつら英雄派は直接兵藤を手にかけた下手人ではない。思うことが何もないわけではないが、復讐心なくただ情報を…可能性を得る一心で俺はこいつと戦った。

 

「…俺は英雄派であり、アルルのスパイだ。俺がどちらの立場であれ、お前がどんなことを考えていようと俺はお前を殺しにかかり、眼魂を奪うぞ」

 

「やれるもんならやってみろ。逆に俺がお前を負かして眼魂を根こそぎ奪ってやるよ。その前に、牢に入って罪を償うのが先だがな」

 

それでもと信長は食って掛かるが、俺は勝者の余裕をもって一蹴してやる。

 

この戦いでこいつの奥の手はすべて知れた。初見殺しじみた魔装も必殺技も対処できる。多分な。さっきは兵藤の助けもあって鎧を正面から木っ端微塵にできたが、次は助力なしのパワーで同じことをして見せる。

 

「…ははっ!こりゃ…完敗だな」

 

同じくボロボロの状態でなお啖呵を切る俺に対し、信長は呆れたように笑った。敗れたはずなのに憑き物が取れたかのように屈託のない笑顔だ。

 

「英雄派が作った眼魂なら…ほぼすべてアルルに流した。残ったものも幹部の連中が各一個ずつ持ってるだけだ」

 

「!」

 

観念したように息を吐いて瞑目する信長は何を思ったか、英雄眼魂の情報を話し出す。

 

「ジークの眼魂はお前が奪っちまったし…俺はそもそも持たなかった。曹操は二つ持ってたっけな」

 

「教えろ、誰がどんな眼魂を持っている?能力は?」

 

「…それを言っちゃ、あいつらのためにならねえだろ。俺は英雄派だからな」

 

クソ、いい感じの雰囲気だからお漏らししてくれるかと思ったがスパイなだけあってそこは硬いな。

 

「…代わりに教えてやる。ガイウス・ベトレアルを調べろ」

 

「ガイウス・ベトレアル…?」

 

おうむ返しに俺はその言葉を口にする。知らないワードだ。人名だろうか。

 

「そいつが所有している広大な私有地の一角に、アルルのアジトはある。場所は…」

 

その正確な所在を言いかけた途端。奴は血相を変えて俺を突き飛ばした。

 

「どけ!」

 

「っ!?」

 

突然の反撃に驚き、地面に体を打ち付けた。何をするのかと口を開いたその時、俺は見た。

 

俺を突き飛ばした信長の手首におどろおどろしい模様の蛇が深く噛みついているのを。

 

「蛇…!?」

 

「いってぇな!!」

 

乱暴に蛇を掴む信長が手首から引っぺがし、そのまま地面に叩きつけると神器で生成したナイフを頭部に突き立てた。間もなく絶命した蛇の頭部から血が溢れ出した。

 

今、こいつは俺を守ったのか?突然のことかつ疲労も相まって思考が追い付かない。

 

「これは…」

 

「冥界固有の種だ。ごく一部の森林地帯にしか生息していない絶滅危惧種のこいつがここにいるってのは…奴の仕業だ」

 

驚く俺とは反対に信長は冷静だ。それにしても戦後で気が抜けて油断したところを狙いすましたようなタイミング、そして蛇…まさか。

 

果たして、その答えとなる男が悠然たる歩みで現れる。ふわふわとした茶髪とその紫色の瞳が特徴のその男の顔を忘れるはずがない。

 

「アルギス…てめぇ何しに来た…!」

 

「それはこちらの台詞ですよ」

 

現れたアルギスは怒りすら感じる冷たい眼差しで信長を問い詰める。

 

「信長、なぜ彼をかばったのですか?」

 

「こいつをてめえに殺されるのは面白くないって思ったからだ」

 

冷酷な眼差しと、敵意が込められた鋭い眼光がぶつかる。

 

「彼をかばうということが何を意味するか、承知の上での行動と認識していいのですね?」

 

「そうだ」

 

即答する信長、迷いはなかった。つまり、こいつはアルル達を裏切ると言っているのだ。これまでの自分に鎖のように絡みついていたしがらみを断ち切り、自分が本当に為したいと思ったことのために進むという意思表示だ。

 

そんな彼にアルギスは深い落胆の息を零した。

 

「…残念です。本当に残念ですよ。同じ紛い物だとしても私たちはアルル様に忠を捧げた仲間だと思っていました。結局あなたも愚かな人間でしかなかったわけだ」

 

「紛い物…?」

 

アルギスと信長が紛い物とはどういう意味なのか。内心の疑問を察知したように信長は答えた。

 

「俺もアルギスも…同じアルルに忠誠を誓った身だが、叶えし者になったわけじゃねえ。2年前に降臨してから今のアルルには叶えし者の契約を結び、願いを叶える奇跡を起こす程の力はない」

 

「…つまり、アルルの部下には神龍戦争時代からの生き残りの叶えし者と、お前とアルギスのように叶えし者ではないが忠誠を誓った紛い物の二パターンがあるということか」

 

言葉を返さず、こくりと頷く信長。叶えし者でないにせよ、変身能力を手に入れたアルギスが脅威であることには変わりない。

 

「信長、あなたが受けた蛇の毒は即効性ではない。だが一時間後には確実に死に至らしめる神経毒です。それに深手を負った今のあなたではそれまで持ちこたえないでしょうつまり…あなたはもう助からない」

 

すっと蛇に噛まれた信長の手首を指さすアルギスが、残酷な宣言を口にする。

 

「!!」

 

驚いた俺だが死を宣告されたにもかかわらず信長の顔に動揺はない。まるで全てを受け入れたかのように達観し…あるいは何かを決めた表情のまま、アルギスと向かい合う。

 

そんな信長の視線に微かに顔をしかめるアルギス。だがそれは死を予告されてなお同様の色一つ浮かべない信長への怒りの感情によるものには見えない。

 

「…同じ紛い物のよしみです。首を垂れ、自らの過ちを認め謝罪するなら解毒しましょう。最後のチャンスです。そして私と共に、そこのイレギュラーを潰すのです」

 

「っ…」

 

俺の額に血交じりの汗が流れた。

 

まずいな。ここまで消耗して万端の状態のアルギスと一戦構えるのは不可能だ。どうにかうまくやり過ごし、脱出の算段を立てなければ…。

 

「くっ」という声が背後に聞こえた。顔を動かさず、目線だけそちらに動かせば、震える足でボロボロの信長が日本刀を杖代わりに立ち上がろうとしていた。荒い呼吸を繰り返す血まみれの顔で、俺を一瞥する。

 

「…こいつは俺に言った。お前は叶えし者じゃない、英雄派だと」

 

「何?」

 

〈BGM:CNo.39希望皇ホープ・レイ(遊戯王ゼアル)〉

 

「俺は今まで…てめえらの恩義で戦ってきた。自分の意志を持たず、ただ忠義に尽くすだけ…死んだように生きていた。だが…俺は気づいてしまった。いつの間にか、曹操たちと共に本気で英雄を目指そうとしていた自分がいたことにな。信長って男はあいつらに出会ったことで生き返ったんだ」

 

ふっと微かに不敵な笑みを浮かべる信長が、日本刀を鞘から抜き放ち、切っ先を敵対すべき者…かつての仲間であるアルギスに向けた。

 

「こいつと戦って吹っ切れた…俺はおめえらとは縁を切る。俺を見出してくれた大恩あるラディウスとアルルには悪いが、残り少ない命、好きにさせてもらう」

 

「…そうですか」

 

最後のチャンスをふいにされたアルギスが眉を顰める。それは忠義を捨て裏切った仲間への怒りか、はたまた信じていた彼に裏切られたことへの悲しみか。

 

「前々からアルル様はあなたのことを実績とは別にあなたを疑っておられました。不安の芽は纏めて刈り取っておきましょうか」

 

「いいぜ、この俺…英雄派の信長として、今から悪魔という異形のお前に挑戦させてもらう。アルギス・アンドロマリウス!!」

 

傷つきながらも威風堂々たる気高さを取り戻した信長が、アルギスを真っすぐ見据えた。かつて同じ神に忠誠を誓った二人の男。道は今別たれ、二人は相対する。

 

「…俺は英雄を目指す身だ。英雄になるため、今から偉業を成し遂げてやるよ」

 

信長が静かにこちらを一瞥し、勇ましく宣言する。

 

「未来の英雄になるお前を、このバカから守り生かしたという功績をな!」

 

「!!」

 

その勇ましい宣言に、意外な決意に俺は目を丸くした。つい先ほどまで命を懸けて死闘を繰り広げたこの男が、俺のために戦おうというのか。

 

「変身」

 

〔カイガン!ダークライダー!闇の力!悪い奴ら!〕

 

「禁手化…!」

 

アルギスはパーカーゴーストを纏ってダークゴーストに変身し、信長は先ほど同様の禁手の鎧へ身を包む。

 

「…」

 

男たちの睨み合い、この一瞬に両者のどんな思いが込められていたか。俺には知る由もない。

 

先手を切ったのはアルギスだった。颯爽と馳せ、信長へと突き進む。信長は迎撃するべく宝石の礫を次々に射出する。しかし戦いのダメージが響く体では、満足に狙いを定めることもできない。軽やかな身のこなしで一つも被弾することなくアルギスは信長の間合いに入り込む。

 

「ふん!」

 

流れる動作の中にガンガンセイバーを召喚し、反応が遅れた信長に至近距離で下段から切り上げる。その一撃はなんと、俺があれだけ苦労した鎧の防御をあっけなく越え、削れたような跡を残した。

 

「!!」

 

その光景に驚く俺だがすぐにその理由に気づいた。あの傷では満足に禁手を維持できていないのだ。あの能力は兵藤やヴァーリと同じ全身に力を纏うタイプ。その分消耗が激しいため、今の状態ではどうしても硬度が落ちてしまうのだろう。

 

「どうしました?お得意の鎧が台無しですよ?まるで紙屑のようだ!」

 

痛ぶるのを楽しむかの如く、アルギスは剣技のラッシュをかける。一太刀浴びるごと鎧は傷つき、反撃もままならず信長はじりじりと追い詰められてしまう。

 

「弱った禁手で勝てるほど私は甘くない!」

 

「舐めるな…!」

 

咄嗟に信長は大きな鎌を生成し、アルギスの胴目掛けて反撃のため振るう。しかしそれもステップを踏んでアルギスは回避し、追撃のために信長は投げ捨てるかのようにアルギスに向け投擲するが、それもガンガンセイバーで易々と弾く。

 

「信長!」

 

俺との戦いで深手を負い、十全に力を発揮できない信長に加勢せんと一歩踏み出す。しかしそれを察知したのか、信長が俺の足元に宝石の弾丸を飛ばした。驚いた俺は反射的に足を引っ込めた。

 

「!」

 

「手を出すな!ケジメをつけようってんだ、そこで見ていろ!」

 

加勢を拒絶した信長はこちらの番だと距離を詰めると、刀でアルギスのガンガンセイバーと激しく切り結ぶ。しかし消耗した体力は著しいもので、アルギスのスピードに対応しきれず結び損ねた刃を何度も受ける。

 

「ぐっ…深海悠河!」

 

戦いの最中、信長は俺の名を呼んだ。

 

「兵藤一誠の眼魂を作る必要はねえ!むしろ作るな!眼魂の数が増えれば増えるほど、こいつらの目論見の達成に近づく!!」

 

「!」

 

このタイミングで俺が聞き出そうとしていた眼魂の製法について答えたのだ。

 

兵藤の眼魂を作る必要がない…?どういうことだ、そうでもしなければあいつの不安定な魂は消えてしまう。それ以外の解決策があるとでもいうのか。それに、眼魂を増やすことで目論見の達成に近づくとは…?

 

「余計な事を喋るのはやめてもらいましょうか!」

 

苛立ち交じりにアルギスが信長を乱暴にガンガンセイバーで切り裂く。アルギス元来の紫色のオーラを帯びた剣戟が硬度を保てない鎧に無残な傷跡を生む。

 

「がぁっ!こいつらの目的は60個の眼魂のエネルギーで…!」

 

「口が過ぎますよ!」

 

じりじりと信長を追い詰めつつドライバーに手を滑らせたアルギスがレバーを引く。

 

〔ダイカイガン!ダークライダー!オメガドライブ!〕

 

「がはぁ!!」

 

オメガドライブにより一気に増幅した霊力を帯びた強烈なパンチの前に木っ端のように信長が横転する。

 

「…っ!!」

 

いつ死んでもおかしくない信長の姿を見て、自然とその眼魂に手が伸びていた。

 

信長が喉から手が出るほど欲しがっていたノブナガ眼魂。これを使い、あいつが英雄化を使えば逆転できるかもしれない。

 

しかし今、俺を生かすために戦っているとはいえこいつは英雄派だ。こいつのおかげでどれだけの被害が出たかわからない。ヴァーリと同じだ、状況が状況とはいえ、敵対する立場の者を簡単に信用していいものか。

 

「…」

 

だがこのままでは信長がアルギスに負けてしまう。ケジメをつけられずに、無念のままこの男を殺していいわけがない。こいつはやっと何より大事な仲間というものを知ったのだから。

 

「信長!これを!」

 

意を決して、眼魂を信長へ投げた。

 

「!」

 

俺の声に反応して信長は素早く動き、投げられた眼魂を掴んだ。手にしたそれを見て信長は酷く驚いた顔をした。

 

「こいつは…」

 

「それを使ってケジメをつけろ、お前は…英雄派の信長だろ」

 

敵対する組織の人間に塩を送るなど、本来組織人としてあるまじき行為だ。今の俺の行動が公に知れたら問題だと糾弾されるに違いない。

 

だが、今俺のために必死に命張って戦う男の決意を認めずして戦士を名乗れない。こいつの思いに応えなければ一生後悔を引きずることになるだろう。それは兵藤を死なせてしまった時と同じだ。後悔したくないから、今悔いなき選択をする。

 

「…粋なことしてくれるじゃねえか」

 

眼魂を握る手に小型の魔法陣を展開する信長が、眼魂を胸に押し当てる。眼魂は沈み込むように信長の鎧…体内に入り込む。そして変化は起こった。

 

バチバチバチッ!!!

 

信長の全身から雄々しい紫色の霊力が溢れ出し、強大な力がスパークを起こす。変身していないためオーラを感じ取れない今の俺でも、その力に圧倒される。

 

急激に高まる力は信長に視覚的な変化をもたらす。信長の鎧が形状を変えてより無骨で豪勢な戦国武将らしいものに変わり、高貴さすら感じる紫色に染まっていく。

 

「これが俺の英雄化…名づけるなら、『永久に砕かれざる綺羅星の宝鎧《エターナル・メテオライト・ジェネラルメイル》』。お前を滅ぼす力の名だ」

 

英雄化前以上に神々しい光の粒子のマントを纏う信長の後姿は、まさしく将軍…いや、勇者そのものであった。

 

〈BGM終了〉




アルギス「…私って噛ませ犬なんですかね」

アルル「何を言う。私の変身シーンなぞ初登場時の一回のみだぞ」

ゼノヴィア「ヒロインなのに話数で言えば15話、期間で言えば半年以上も登場してないのはどういうことだ?」

今言えることはただ一つ。ごめんなさい。

敵幹部同士の戦いって燃えますよね。

次回、「六根清浄」
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