Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は…
S.スペクター
1.ムサシ
2.エジソン
3.ロビンフッド
4.ニュートン
6.ベートーベン
7.ベンケイ
9. リョウマ
10.ヒミコ
11.ツタンカーメン
12.ノブナガ
23.コロンブス
31.ライト
41.シグルド
42.ユキムラ
44.ハンゾウ
「…ん」
ふとした揺れが、無窮の闇に揺蕩う俺の意識を呼び覚ます。
夢か現実かもわからない世界と入れ替わるように目に映ったのは冥界特有の紫色の空。どこから来たかもわからぬ暗雲が流れ込み、人間界の空を見慣れた俺には酷く穢れたもののように見えた。
寝起きで朧げな頭を働かせ記憶を掘り返す。どうやら信長の戦いの後、そのまま気絶していたらしい。あれだけ負傷すればそれも当然と言えるが…どれだけ強くなっても、それ以上に強い敵が立ちはだかって来る。
一体どこまで強くなればいいのやら。
「ここは…!?」
上体を起こして辺りを見渡す。移ろいゆく高所の景色、ここはキャプテンゴーストの甲板だ。気絶した俺を気遣って自ら甲板に摘み放ったのだろうか。
「目覚めて早々、落ち着きのない男だ」
状況把握に努める俺に冷たい男の声がかけられた。その声の先にいたのは。
「ガルドラボークさん…どうしてここに」
武器職人の頂点、創星六華閃が一人、ガルドラボーク・ジャフリール。レジスタンスの協力者でもある彼が、マストに背を預けて本を片手に佇んでいる。
「ポラリスから君の子守を頼まれてね。前線に出るから代わりに様子を見ておけと。全く、六華閃をなんだと思っているのやら」
パタンと本を閉じたガルドラボークさんは不満を隠さず嘆息する。
「前線に?」
「今頃、メタルフォートレスとやらを操縦してグレモリー領に向かっている豪獣鬼を迎え撃っているさ。レーヴァテインもシトリー領の魔獣相手に大暴れしている…俺は貧乏くじを引かされたわけだ」
おいおい、人の前で貧乏くじだなんて言ってくれるじゃないか。この人が凛関係のことで俺を快く思っていないのは重々承知だが。
それはさておき、ポラリスさんも表に出てきたか。最上級悪魔も手こずる魔獣たちが首都を狙う今回は冥界の存続の危機だ。流石に静観を決め込むわけにはいかなかったか。ただポラリスさんのことだから色々考えがあっての行動だろうが。
「寝ている間に傷の手当てをさせてもらった。丁度、君がフェニックスの涙を持っていたようだしな。手間はそうかからなかった」
「…ありがとうございます」
俺に不満はあるが、心底毛嫌いしているわけではなさそうだ。でなければこの役目も断るだろうし、傷も癒したりしないだろう。
「リリスで、サイラオーグさん達と合流しないと…」
「そう急くな。この船はリリスの方角に向かっている。後10分程で到着するだろう」
キャプテンゴーストの奴、そこまで気を回してくれるなんて…最近出番を与えてやれなかったことが本当に申し訳ない。今後はもっと呼んでやろう。
「これは君のものだろう?」
「それは…」
そっとガルドラボークさんに手渡されたのは3つの眼魂。ビリーザキッドにフーディーニ、そしてグリム眼魂。恐らくアルギスが落としていったものだ。それも回収されていたとは…俺に嫌悪感を抱いてはいるが、ガルドラボークさんの私情を挟まず仕事をこなすスタイルが伺える。
「今までの戦い、見させてもらった。実力は認めるが敵に情けをかけるなど笑止千万だな」
「…!」
ぎろりと責めるようなオッドアイの双眸が俺を刺す。しかし彼は瞑目し、ため息をつく。
「だがその情けが想定以上の成果に繋がった。今回の件は不問にしよう。…大した男だよ、君は」
なんと不快感を隠さないこの男の口から素直な誉め言葉が出たのだ。俺は一瞬今何を言ったのかと驚きで目を丸くした。
「…意外ですね、てっきり嫌われてると思ったんですけど」
「妹にこだわる君に対する不快感がなくなったわけではない。だがそれを補う…いやそれ以上に我々にとって有益すぎる情報を得た。称賛の言葉はあって然るべきだと思うが」
ほんと、どこまでも公私混同せずきっちり分けてくるな。嫌味を言っては来るが成果を上げたらこの通り褒めてくるから嫌いになり切れないし、普段の態度から好感を抱けるわけでもない。なんというかやりにくい人だ。
「それはさておき、これでアジトの正確な所在の特定が可能になった。いよいよディンギルとの決戦が近い。ポラリスもイレブンもドレイクも参戦するだろう。ここでアルルは何としても叩き潰しておかねばならない」
「…それに、あいつも」
アルルに憑依された妹、深海凛。決戦ともなればまず間違いなくアルルと戦うことにもなる。その時、俺は…。
「そうだ。約束の期限は10月末。今回が最後のチャンスとなる。我々にとっても君にとっても千載一遇の好機だ。君がどう立ち回り、望みを叶えられるか…楽しみにしているよ」
期待の言葉をかけるが、彼の目には優しさや期待の色は全くない。あくまで一歩引いた目線で俺を値踏みし、試すような色。
これからの決戦で、俺は凛を救い出しこの人に俺を認めさせてみせる。ゼノヴィアに教えられたように言葉ではなく行動で証明する。それ以外に方法はない。
会話の途中、コブラケータイの着信音が鳴る。何事かとすぐに取り出し、着信に応じる。
『深海君!』
「…木場か」
互いに約束を交わしあった友の声は一人戦いに身を投じていた俺の心に安心感を与えてくれた。
『そっちは無事かい?』
「ああ、今信長との戦いが終わって、リリスに向かってるところだ」
『信長!?』
現状を報告した途端、木場とは違う第三者の聞き慣れた女性の驚いた声がいきなり通話に割って入った。驚きのあまり心臓が跳ね上がりそうになった。
「うわっ!?この声、部長さん!?」
『うわって何よ』
「いや、びっくりしてしまって…それより、大丈夫なんですか?」
出発前にはサイラオーグさんの激励を受けてなお立ち上がれなかった部長さん。今聞こえてきた彼女の声は沈んでいた今までとは打って変わって普段の調子を取り戻している。
『ええ、もう大丈夫よ。私だけじゃない、朱乃もアーシアも、皆立ち直れたわ』
「…よかった」
普段通りの部長さんの声に思わず本心からの安堵の言葉が漏れた。どうすれば再起できるか途方に暮れるほどだった状態から、無事平静を取り戻せたことへの安心感で
『それにこちらも丁度ジークフリートを倒したところよ』
…ん?ジークフリート?
「ジークフリートを…?魔王様のところに行ったんじゃないんですか?」
『あの男、私たちが話をしているタイミングで旧魔王派の悪魔を引き連れて、あろうことか魔王様をスカウトしようとしたのよ。当然ながら断られたけど、流れで祐斗と戦うことになってね。イッセーが駒を通じて私たちに語り掛けて、アスカロンを授けてくれたおかげで勝てたわ』
英雄派の連中、俺に飽き足らず今度は魔王様を勧誘かよ。あの方は確かサーゼクスさんに並ぶ超越者と言われる悪魔だ。そりゃ、半分になったオーフィスの穴を埋めるには持って来いの人材だろうが、俗世と関わってこなかったオーフィスと違い魔王という公の立場がある。断られて当然だ。
それにしても木場の方はアスカロンか。信長が言っていたのはこのことだったんだな。…あれ、なんで信長はこうなるってわかってたんだ?
「…実は俺も同じです。信長の禁手に負けそうになった時、持ち出した駒からあいつの声が聞こえて、赤龍帝の籠手を一時的に使えるようになったんです。あいつのおかげで、俺は勝てました」
『イッセー先輩が…』
『イッセー君ったら、本当に私たちのことを想って…』
いかん、通話越しに塔城さんや朱乃さんの上ずった声が聞こえだしたぞ。この話を詳しく続けると折角立ち直れたのに振出しに戻ってしまいそうだ。話を逸らさねば。
「それで、アジュカ様は何と?」
『まずイッセーの駒だけど、トリアイナや真紅の鎧の影響で私たちが持ってた7つの駒のうち4つが変異の駒に変化していたわ』
「変異の駒4つ!?」
変異の駒と言えば、ギャスパー君の転生に使われた駒と同様の代物だ。変異の僧侶の駒で転生したギャスパー君は一つ暴走した禁手で三大勢力の首脳陣に届きうる力を発揮させた。それが4つも後天的に変化するとは…駒も所有者の力に応じて変化するシステムが組み込まれているのか?
『ええ。それと、イッセーは生きてる可能性が高いわ』
「!!」
『魔王様が仰るには、駒の最後の記録情報が「死」ではないからだそうだわ。赤龍帝ドライグの魂も含めてまだイッセーは生きているかもしれない…そうよ。この状態なら、魂もサマエルの毒にやられてない可能性が高いし駒も機能を停止してないから、イッセーに戻せるわ』
兵藤の魂が生きている。その情報だけで、どれだけ心が希望に満たされることか。やはり悪魔の駒を作った魔王ベルゼブブ様に聞いて正解だった。餅は餅屋というやつだ。しかし魂は無事だと分かったが、懸念点は残っている。
「でも、戻す体はどうすれば?」
『それはイッセー君の両親の体毛からDNAを採取して、グリゴリの研究施設でクローン技術を使って作ればそれも解決できますわ。でも…』
朱乃さんの声のトーンが落ちる。その先の言葉を木場が引き継いだ。
『魂が肉体に定着するかは別問題らしいんだ。それにイッセー君には赤龍帝の籠手もある、魔力や投薬で治療すれば拒絶反応は抑えられるけど、神滅具の移植で後遺症が出るかもしれない。それも一生引きずるレベルのね』
魂の移植。内容を聞けば臓器移植と同じように聞こえるが、きっとそれ以上に難度の高くリスキーなモノだろう。魂とは初代孫悟空曰く肉体を失ったそれは非常に不安定で脆いもの。臓器移植とはまた違った魔術的なアプローチも必要になるセンシティブな処置になるはず。
薬漬けの天龍かぁ…。一生引きずる後遺症というのも考えるだけで恐ろしい。もし仮に性欲が沸かなくなるなんてものだったら…それはもはや兵藤のアイデンティティの喪失に他ならない。
『…以上が、魔王様から聞いた話よ。ゼノヴィアもイリナもロスヴァイセも、分かったかしら?』
『まだ危機は去っていませんが、とにかく一安心です』
『イッセー君が死んだなんて聞いたときは卒倒しかけたけど、おっぱいドラゴンは不死身ね!』
『体が滅んでも生きてるなんて流石イッセーだよ。やはりハーレム王の夢を叶えずに死にきれなかったのだろうね』
と、死神たちとの戦いやその前で離脱していた三人の喜びの声が聞こえてきた。ん?
「って、帰って来たのか!?」
ナチュラルに話に混ざって来たけど、いつの間に!?
『私たちが帰ってこないと思ったの?失礼しちゃうわ!』
『イリナの言う通りだぞ、それにエクスデュランダルも修理した上に『完成』したことだからね。イッセーの分まで暴れて見せるさ』
戦いに参加できなかった二人も元気が有り余ってるようで。アーサーが持っていた支配の聖剣を加えて7本のエクスカリバーが揃ったエクスデュランダル。その力がどれほどのものか楽しみだ。
「ところで、先生とギャスパー君はまだ帰ってきてないのか?」
『ギャー君はギリギリまでグリゴリで調整中です。先生はどうなっているかはわかりません…』
『言われるまで完全に忘れていたぞ』
ナチュラルに話に混ざって、ナチュラルに酷いことを言うんじゃない、そこ。
「それについては私から説明しよう。繋げてくれ」
ガルドラボークさんの希望に応じてコブラケータイを操作し、向こうの映像を空中に投影しこちらの映像も向こうに転送する。
すると、自分と兵藤、アザゼル先生を除いて全員揃っている部長さんたちオカ研の様子がありありと映された。優雅な雰囲気ある部屋の背景からして、グレモリー城に集まっているのだろうか。
『悠河!…隣にいるのは?』
「私は創星六華閃の一人、ガルドラボークだ。以後、お見知りおきを。道端で倒れていた彼を拾い、今行動を共にしている」
『えぇっ!?あ、あのが、ガルドラボークさんですか!?』
名乗った矢先、携帯越しにロスヴァイセ先生の酷く驚いた声が聞こえた。
『お知合いですか?』
『いえ、でもジャフリール家は北欧を拠点に魔法、魔術、呪術を研究し、修める者の間では知らない者はいない名門です。私も北欧にいた頃、歴代ガルドラボークの魔術・魔法指南書を読み漁りました!勿論、現当主の本も!攻撃魔法の効率化について書かれた本に触発されて…』
『ろ、ロスヴァイセさん…?』
ロスヴァイセ先生、若干早口オタクに片足突っ込んでアーシアさんに引かれてるぞ…。テンションが百均ショップの話題になった時のそれに近い。ガルドラボークさんも若干引き気味だし。
『ロスヴァイセ、一旦落ち着いて頂戴』
『…はっ!すみません…』
部長さんの一声でロスヴァイセ先生は落ち着きを取り戻す。とにかくこの人が凄い人だってのはよーくわかった。
「…ごほん、アザゼル総督と魔王サーゼクス・ルシファー…そして天界のジョーカー、デュリオ・ジェズアルドは冥府に向かった」
「はぁ!?」
『お兄様たちが冥府に!?』
『デュリオも動いているのか!?』
異口同音に俺たちは驚愕を叫ぶ。聖槍のせいで前線に出られない首脳陣が何をしているのかと思ったら冥府だと?サマエル関係のことを問い詰めているのか?
それにデュリオ・ジェズアルドと言えば天界陣営の神滅具持ちだ。聖槍に次ぐ強力無比な神器で天界のジョーカーならサーゼクスさんやアザゼル先生たち首脳陣に顔負けしないメンツとも言える。
『まさか、ハーデスが魔王様たちを…』
「違うな。冥府に向かったのは彼らの意志だ。ハーデスが混乱に乗じてことを起こさぬよう、見張るためにね。偶然にもヴァーリチームも冥府の死神相手に大暴れし、魔王の超越者の力を目にしたハーデスは冥府を離れることができないだろう」
あいつら、死神相手に鬱憤を晴らしに行ったか。ヴァーリの奴は気に入らないが、俺たちに死神の大群を送り付け、英雄派にサマエルの召喚を許可したハーデスはもっと気に入らない。特別に今回だけグッジョブと言っておこう。
『…あなた、どこからその情報を仕入れたの?』
「詳しい伝手がいる、とだけ言っておく」
怪訝そうに問う部長さんをガルドラボークさんは涼しい顔でいなす。これ、多分ポラリスさん情報だな。
『お兄様たちのことはよくわかったわ。そういえば、深海君、あなたの方はどうだったの?さっき、信長と戦ったって言ってたけど…』
「…死闘の末に俺を認めたあいつは、最期に俺を狙ってきたアルギスから守ってくれたんです。その時、いろいろな情報を教えてくれました」
そこから俺は皆に情報を提供した。信長が実はアルルのスパイだったこと、アルルが眼魂を集めて何か良からぬことを企んでいること、英雄派幹部たちがまだ眼魂を持っていること、そして…アルルのアジトを提供している人物の名を。
『そうだったのね…信長がスパイなら曹操たちがアルル達と繋がったことも納得がいきますわね。でもまさか、英雄派の幹部でもある彼が深海君を守るとは考えもつきませんでしたわ』
『元々悠は英雄派に気に入られていたそうじゃないか。それもあって動いたのかもしれないね』
と、朱乃さんとゼノヴィアは意見を交わす。信長が口にしていたのはそういう理由ではないが、もしかするとそれもあってのあの行動だったかもしれない。
『…深海先輩、イッセー先輩の眼魂を作ろうとしていたんですね』
「要は俺と同じやり方ならいけるんじゃないかと思ったんだけど、信長にやめとけと止められた。眼魂の数が多いほど奴らに有利だと」
自身の魂を宿した眼魂を肉体に宿して生きている俺というこれ以上にないケースがある故、同じ方法でできるのではと思ったがまさか眼魂を作るなと言われるとは思わなかった。あの状況であいつが俺にうそをつくとは思えないし…。
『15個揃ったプライムスペクターで相当な力を発揮していましたから、それ以上になるともっと大きな力になるでしょうね。それが狙い…といったところでしょうか』
ロキ戦で発揮したプライムスペクターはあの悪神ロキを軽く凌駕するほどのパワーだった。今はプライムトリガーが調整されたことであのような力は出せなくなったが、それでも数を増やせばそれに近しいエネルギーを生み出せるはずだ。
しかしそれを利用して奴らは何をするつもりなのか?当初の目的通り世界の滅亡?だが一切合切を消し飛ばす大規模極まりないことをするには及ばないだろう。
ディンギルに関するデータ、ポラリスさんたちレジスタンスとのやり取り。それらの記憶を探し回り、繋がる手がかりを見つけようとする。
…繋がる。いや、まさか。
「…そういえば、ポラリスさんのデータに奴らの目的は竜域と神域の接続ってありました。もしかしたら、連中は眼魂のエネルギーを利用してそれを実現するつもりかもしれません」
『そうか!』
『確かにそれだけのエネルギーなら二つの世界を繋げるなんて大掛かりなこともできそうね!』
推測通りなら、もう奴らの計画はかなり進んでいることだろう。英雄派とアルル達の二つの組織が動いたことでこれまで確認しただけでも10個以上…あるいはそれよりもっと多くの眼魂が作られたとみて間違いない。
『だとするなら、一刻も早く敵のアジトに乗り込んで眼魂を奪う必要がありますわね』
レイヴェルさんの言う通りだ。魔獣を倒し、すぐに行動に移らなければ。
『そうね。そしてアジトの所在を知るガイウス・ベトレアル…大王派の貴族悪魔ね。彼もアルル達と繋がっていたなんて…』
「知ってるんですか?」
『古株の悪魔の一人よ。七十二柱のお家ではないけど、権力者であることには違いないわ。でも、魔王や大王バアル他の古い悪魔と比べるとイマイチ影が薄いなんて言われてるわね』
「…影の薄いからこそ、動きを悟られなかったと」
『そういうことでしょうね。彼ならそこそこの規模の領地も持っているし、そこでアルル達を匿うアジトを用意することも可能なはず。…そういえば、ある時を境に急に権勢を伸ばしたとも言われたわね。ディンギルに富を願ったのかしら』
有り得そうな話だ。ポラリスさんの調査によると欲に忠実な悪魔や堕天使にディンギル側に寝返ったものは多いとされているからな。彼らはその性質故に願いを叶え、眷属にし、その信心を糧にするディンギルの格好の餌だと。貴族悪魔が欲をかいてディンギルと契約したとしても何ら不思議なことではない。
「…いずれにせよ、彼の追及は後回しだ。まずは目下の魔獣の対処を優先すべきと思うが」
冷静な判断を下すのはガルドラボークさん。その通りだ、追及しようにも魔獣の侵攻を止められず悪魔社会の中心となる都市を潰され、致命的な被害を受けては元も子もない。
『私たちも準備が整い次第、魔法陣でリリスに飛ぶわ』
「俺も今、リリスに向かってます。そこで合流しましょう」
オカルト研究部、再集結の時は近い。
▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼
グレモリー領にて抗戦を続ける豪獣鬼迎撃軍の援軍として突如現れたブライトロン。両腕に備え付けられた砲口から、薄ピンク色のビームが迸り、容赦なく豪獣鬼に浴びせる。
「GOAHHHHHHHHH!!」
たまらず魔獣が悲鳴を上げ、光熱が醜い肌を焼く。照射が終わると焼け爛れた皮膚がその有様を見せるが、たちどころに回復してしまう。そして何事もなかったかのように元通りになると、再びその歩みを再開する。
「…しぶといのう」
その再生力にポラリスは舌を巻いた。戦闘開始からしばらくが経過し、ビーム、バスターソード、ミサイルと迎撃軍が持ちえない様々な手段で攻撃しているがやはり豪獣鬼の再生能力を突破するには至らない。
操縦桿を押し込み、スラスターを吹かし飛翔。動きが鈍いなりに反応し、獲物に食らいつかんとする豪獣鬼の咢を躱しつつ、バスターソードで口元から喉にかけて切り裂く。
「もう一太刀!」
さらに喉元に横一文字にバスターソードの剣戟を放つ。あらゆる物質を分子化して抹消する刃が紙を切るような軽やかさで魔獣の肉を断った。喉笛を断ち切られ、巨体の呼吸による空気が傷口から一気に噴き出してくる。
「おっと」
慌てて距離を取るブライトロン。しかしその傷もやはり再生し、塞がってしまう。構成物質を分子レベルで抹消してなお再生できる驚異的な能力に驚きを禁じ得ない。よほど魔獣に込められたシャルバの現政府への恨みが強かったか、それとも上位神滅具に位置づけられる『魔獣創造』の能力が恐ろしいほどに強いか。
「まだ完成せんのか」
ブライトロンの攻撃も通じないと分かった途端、ポラリスは即座に真正面からの戦いから、可能な限り注意を引きつけ足止め、時間稼ぎをする戦術を取っている。
全く持って打つ手がないというわけではない。奥の手を使えば大ダメージを与えることができるだろう。だが奥の手を無暗に使って仕留めきれなかった場合、機体性能は著しく低下しそれこそ後が無くなる。特に再生能力が健在の今は倒しきれない可能性が高い。
故に例の術式が完成するその時を待つしかない。そしてその時はすぐに訪れた。
その時、迎撃軍から怒涛の魔法攻撃が魔獣に殺到した。
豪獣鬼の表面に着弾し、爆発を起こすとごっそり命中した個所を削り取っていた。これまで通りなら即座に再生し元通りになるところだが、そうなる様子はない。
ポラリスはその攻撃を放った魔法陣をカメラを通じて確認する。これまで迎撃軍が使っていた術式とまるで違う。その正体をポラリスは看過する。いや、ウリエルの超既視感がもたらした情報通りだと認識する。
「ようやくアジュカ・ベルゼブブの術式が完成したか」
アジュカ・ベルゼブブが自身の眷属と共に組み上げた対魔獣用の攻撃術式。魔獣のダメージを見た限り、威力は勿論のこと魔獣の再生能力自体を攻撃する効果のようだ。変わったのは攻撃だけではない。迎撃軍の陣形も、まるでその魔法を効率よく放ち命中させるように変わっている。
「隊の動きが変わった。ファルビウム・アスモデウスの戦術プランに移行したな」
四大魔王の頭脳を担当する二名の連携が遺憾なく発揮されている。奇しくも自分の奮闘が前線を立て直す時間稼ぎになったようだ。
「なら、攻め込むなら今じゃな」
ブライトロンが右肩にマウントしていたもう一つのバスターブレードを抜き放つ。そして彼女はにやりと笑んで、叫んだ。背部に搭載され2基のGNドライヴに隠された機能の名を。
「トランザム!」
〈BGM:FIGHT(機動戦士ガンダムOO)〉
刹那、駆動音を高く響かせて全身を赤く発光させたブライトロンの姿がかき消えた。GNドライブ及び機体各部に仕込まれた粒子貯蔵機構、GNコンデンサーに蓄積された高濃度圧縮粒子が全面に開放される。
残像を残すほどの超高速機動で一瞬で距離を詰め、思いっきり振り上げたバスターソードで十字切りを放つ。
ザシュッ!
分子ごと抹消して断つ刃により魔獣の肩に大きな切り傷が生まれる。魔獣がそれに反応するよりも早くスラスターを吹かせ、超高速で魔獣の周囲を飛び回り、目にもとまらぬスピードで斬撃を繰り返す。
斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る。
アジュカが考案した魔法術式の影響で再生能力も著しく低下している。今ならやれる。この機を逃すまいとポラリスは一心不乱に魔獣の全身にくまなく太刀を浴びせる。
ツインドライヴ搭載機であるブライトロンは並のトランザムとは比較にならないほどそのスペックが向上していた。巨体故に動きが緩慢な豪獣鬼ではその動きを捉えることすら叶わない。
赤い光を纏ったブライトロンは傷口から噴き出した返り血を浴びるよりも速く移動し、一通り全身を隈なく刻んだブライトロンは地面に降り立つ。
「とっておきをくれてやろう」
コックピット内でポラリスが更なる操作を加えると、ブライトロンは二振りのバスターソードを斜め上、豪獣鬼の頭部に向ける。両腕の咆哮もビームの光を蓄え、それがバスターソードと共振を起こす。
「第二波、放てェ!」
それに入れ替わるように迎撃軍の魔法、魔力、光力の攻撃が豪雨のように豪獣鬼に突き刺さる。ポラリスがつけた傷口に追い打ちをかけるように打ち込まれたそれは魔獣の体と体力を一気に削り取る。魔獣の巨体が揺れ、弱った体に押し込まれたことでようやく一歩のけぞった。
だが豪獣鬼も負けじと反撃の一手を打つ。
『GOAHHHH!!』
最後の悪あがきか、豪獣鬼が口元に目いっぱいの業火を蓄えるとそれを吐き出す。最後の力を振り絞ったそれは迎撃軍全体を飲み込まんとする規模のものだった。それは死してなお冥界に呪いを残さんとするシャルバの遺志がそうさせたかもしれない。
「全軍、退避せよォ!!」
まだこんな力が残っていたのかと戦慄する迎撃軍は蜘蛛の子を散らすがごとく降ろうとする炎の範囲から逃れようとする。
しかしポラリスは一歩も引かない。真っすぐ敵を見据え、臆せず、チャージした膨大なパワーを解き放つ。
「トランザム…ライザァァァァァァッ!!!」
瞬間、ブライトロンから想像を絶する長大な極太の閃光が迸った。それは真っすぐ突き進み、業火を容易く打ち消しては巨大な豪獣鬼の頭部を瞬く間に飲み込む。
熱と光の奔流は一瞬で豪獣鬼の頭部をこの世から跡形もなく消し飛ばした。
〈BGM終了〉
首と頭部を無くした魔獣はついにその歩みと活動を停止した。ゆったりとした動作でその場にずしんと倒れ伏す。巨体の質量が衝撃と大量の土煙を巻き上げた。
「…」
迎撃軍とポラリスはその様を一通り見届け。
「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」」
一拍を置いて怒号じみた歓声が上がった。収めた勝利に皆が沸き立つ。勢力の垣根もなくただ互いに喜び、抱き合い、笑いあう。
グレモリー領に進撃した豪獣鬼は今ここに討ち取られた。この豪獣鬼は此度の事変で最初に討伐された魔獣となる。
「…ふう」
コックピットの中でポラリスも額の汗を拭い一息つく。当初の目標のノルマは達成できたことは勿論、苦労の上で収めた勝利に達成感を感じてもいた。
「すごいぞ!ロボットォ!!」
「かっけぇ!!!」
「ありがとぉぉぉぉ!!!」
そして勝利の歓声は立役者たるポラリスにも寄せられる。その熱量にポラリスは若干引いていた。
「…妾は大衆の称賛を浴びるべき人間ではないのじゃがのう」
こんなに大勢から歓声を寄せられるなど、久しくなかった。困惑する彼女だったが、せめてものレスポンスにと彼女はブライトロンを操縦して大剣を構えさせ、雄々しいポーズを取ってやることにした。
「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」」」
またしても沸き起こる歓声。ブライトロンの雄姿は、男たちの心に眠っていた少年の心を完全に呼び覚まし、熱く滾らせていた。
だが勝利の余韻に浸っていたいところだが、まだ危機は去っていない。魔王領やシトリー領などに豪獣鬼たちは残っている。次に向かうべきは2体の豪獣鬼が出現したベルゼブブ領。ポラリスの戦いはまだ終わらない。
そして彼女は知らない。ベルゼブブ領での戦いに、ブライトロンに心奪われることになるとある悪魔が参戦していることを。
ということで状況整理タイムでした。その裏でポラリスも頑張りました。もちろん彼女はイノベイターではないのでトランザムバーストは使えません。
次回、「ヘラクレス、再び」