ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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さて、舞台はリリスに移り後半戦開幕です。

Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は…
S.スペクター
1.ムサシ
2.エジソン
3.ロビンフッド
4.ニュートン
5.ビリー・ザ・キッド(NEW)
6.ベートーベン
7.ベンケイ
9. リョウマ
10.ヒミコ
11.ツタンカーメン
12.ノブナガ
13.フーディーニ(NEW)
14.グリム(NEW)
23.コロンブス
31.ライト
41.シグルド
42.ユキムラ
44.ハンゾウ


第163話「ヘラクレス、再び」

冥界の魔王領にある首都、リリス。面積も、文化も、文明も日本の東京と変わらないその近代的な街並みは今首都とは思えないほど閑散としていた。

 

豪獣鬼を超える魔獣、超獣鬼がここに向けて進撃していると政府が公表し市民を避難させたからだ。今頃、グレイフィアさん率いるルシファー眷属が最前線で魔獣を討つべく激闘を繰り広げていることだろう。

 

そのリリスの南端で、俺は悪魔と交戦していた。敵の数は4人。猛攻を加えてくる全員を一人で相手取る。

 

〈BGM:反逆のデュエル(遊戯王アークファイブ)〉

 

「そこをどけ!!」

 

「いや通さない!!」

 

魔剣とガンガンハンドがぶつかり合う。鍔ぜりあうこと数度、男は強い意志の力で俺に食い下がって来る。

相手の神器は木場と同じ『魔剣創造』。しかしその禁手は俺がよく知る聖魔剣ではない。

 

「禁手!『魔昏の騎士団〔ソード・ナイトアセンブル〕』!」

 

〔カイガン!ムサシ!決闘!ズバッと!超剣豪!〕

 

男の宣言と共にオーラが弾け、魔剣を構えた甲冑の騎士たちが生まれる。それに合わせこちらもムサシ魂にチェンジ。続々と金属質な足音を響かせ寄せ来る騎士たちの剣技をガンガンセイバー二刀流モードとパーカーについたゴーストブレイドで捌いていく。

 

右から来た刃を流し、前から来た剣を弾いてカウンターの斬撃で断つ。騎士団全ての動きを見切り、その一挙全てに刃を合わせていく。

 

やはりこの男、禁手に目覚めて日が浅いのかその能力を発揮しきれていない。確かに能力は向上している。しかし木場の聖龍騎士団と比べて圧倒的にスピードも頭数もなく、拙い動きを見るに技術も反映できていない。技術に関しては木場も曹操に指摘されたところではあるが。

 

覚えたての力なため、練度が圧倒的に不足しているのだ。故にその動きを見切り、的確な対処を下すことは容易い。しかし俺の後ろにいるものにとっては大いに恐れるに足るものだった。

 

「ひぃぃぃぃ!!」

 

俺の背後で、身なりの整った初老の上級悪魔が恐怖に怯えた声を上げる。どうやら元人間の転生悪魔の眷属の反乱にあったらしい。

 

今俺が戦っている悪魔たちはみな神器所有者だ。どうにも話を聞く限り、無理やり契約させられて転生悪魔にされた口のようだ。

 

家の権力を盾にされて反抗できず、不満をくすぶらせていた彼ら。ある時、曹操たちが流布した禁手に至る方法を知って禁手に目覚め、反逆を決行したというわけだ。部長さんたちと合流すべく街中をガルドラボークさんと共に走っていた途中、その場面を偶然にも目撃した俺は放置することもできず戦闘を開始した。

 

「この男のせいで…私の家族は!」

 

俺とそう年も変わらないポニーテールの女性悪魔が巨大な氷の狼を出現させる。背筋をひやりとさせるような強いオーラは通常状態の神器ではない。間違いなく禁手だ。同じオオカミのフェンリルほどではないが、決して侮っていいものではない。

 

獰猛な唸りを上げる氷狼が俊敏な動きで襲い掛かって来る。すんでのところで爪の一閃を躱すと、入れ替わるように二条の光線が駆け抜ける。

 

「っ!」

 

俺に命中することなく駆け抜けた光線は、ビルの外壁をいくつも貫通し突き抜けていった。

 

「これも禁手か…!」

 

見たところこれはビームではない。天使が使うような光力を圧縮に圧縮し、貫通力を高めビームさながらに発射する能力といったところか。

 

「禁手に目覚めた僕の攻撃をかわすなんてやるじゃないか」

 

光線の出所を見れば、まだ中学生くらいの少年転生悪魔がその両肩から金色の簡素な装飾が施されたキャノン砲を出現させていた。この言動と言い若干鼻につくような態度と言い、さては半分力に溺れかけてるな。

 

禁手とは世界の均衡を崩す力とも呼ばれている。それだけの力、まだ精神も未熟な一個人が手にするには余りあるものだ。

 

「…兵藤のドラゴンブラスターかよ」

 

見た目にせよ攻撃にせよどうもあいつが頭にちらついてならない。あいつの方が遥かに威力は勝っているが、まだ疲労が抜けきれない今の体でうけられる攻撃ではない。

 

「どうしてその男を守る…!あんな奴に守る価値なんてあるのかよ!!」

 

「こいつがいなければ…大好きなパパとママに売られることだってなかった!!こいつさえいなければ!!」

 

女性悪魔の涙交じりの慟哭が響く。狼もその感情に共鳴するがごとく遠吠えを上げる。しかしその咆哮にフェンリルのような澄み渡るような気高さはなかった。あるのはただ、理不尽に理不尽で返す烈火のような怒りだけ。

 

「憎い相手に復讐したい気持ちはわかる!だが…こんな手段で果たしても誰も幸せにならない!お前たちもだ!」

 

かつてはレイナーレへの復讐に燃えていた俺にはわかる。大切なものを踏みにじった相手を憎み、それ以上の酷い目に遭わせてやりたいという怒り。俺も木場も、一時期はその昏い感情を頼りに戦ったものだった。

 

復讐を果たしたところで失われた大切な者はその行為を喜ぶのか、あるいは否定するのか。それを確かめるすべもない。復讐とは過去の清算であり、何かを得るためのものではない。

 

「綺麗ごとを抜かすな!」

 

横合いから入って来た若い男性悪魔が猛スピードで走っては間合いに入り込み、鮮やかな蹴り技を見舞ってくる。鋭く、素早い連撃の数々を四本の刃でいなしていく。

 

「こいつ…」

 

悪魔の駒は間違いなく『騎士』だろう。よく見れば両足に羽毛のようなブーツを履いている。脚力を強化する神器のようだ。騎士の特性を組み合わせることで中々の技に仕上がっている。

 

だがこちらも負けてはいられない。俺は部長さんたちに合流しないといけないし、まだあの男に俺の『答え』を告げてもいない。

 

そしてこの四人の復讐をどうにかしたい。部外者である俺がどうこう口出しできる問題ではないのはわかっている。それでも放っておけない。こんなに苦しそうに、悲しそうに戦うこいつらのことが。

 

だから俺は…。

 

「はっ!!」

 

ムサシの見切りにより最適のタイミングでカウンターを決め、男を弾き飛ばす。

 

「く!」

 

男は軽やかな身のこなしで態勢を立て直し、着地を決めた。

 

〈BGM終了〉

 

俺が選んだのはつい先日の脱出戦で手に入れたばかりの銀色の眼魂。この眼魂でこいつらを止めて見せる。

 

眼魂のスイッチを押して起動し、それをドライバーに差し込む。

 

〔アーイ!バッチリミロー!バッチリミロー!〕

 

飛び出したパーカーゴーストに目もくれず、真っすぐ四人を見据えて新しいフォームへと変身を遂げる。

 

〔カイガン!シグルド!指輪!すげえわ!屠龍の英雄!〕

 

騎士の鎧と竜の鱗が融合したかのような形状をした銀色のパーカーに、龍の角が突き出たフード。顔面のヴァリアスバイザーには龍と剣が交わる『フェイスブレイヴァー』が浮かび上がっている。

 

仮面ライダースペクター シグルド魂。英雄派のジークフリートから奪い取った、本来存在しないはずの眼魂で変身した姿だ。

 

「お前たちの手は汚させない」

 

〈BGM:仮面ライダースペクター 攻勢(仮面ライダーゴースト)〉

 

復讐以外の道を俺が示す。復讐に囚われたこいつらのために、かつて復讐を遂げてしまった俺が。これは俺の過去の清算でもある。

 

ガンガンセイバー ブレードモードを召喚し、俺は一歩踏み出す。

 

「姿が変わったからって、禁手を使える今の私たちに勝てると思ってるの!?」

 

女性悪魔が再び禁手の氷狼を差し向ける。翻弄するような動きで俺を惑わし、食らいつこうとするが。

 

「はぁ!!」

 

意識を集中させ、銀色の霊力を纏いし剣を一閃。風が叫ぶ。その剣圧の威力は凄まじく、一撃で狼を両断し、がしゃんとガラス細工のように粉砕せしめた。

 

「嘘…」

 

「まじかよ…」

 

敵はこの結果に茫然と口を開け、立ち竦む。その威力に驚いたのはこちらもだった。プライムスペクターではない一英雄眼魂でここまでの出力を発揮することはなかった。コカビエルとフーディーニでぶつかり合ったこともあったが、あれは俺が覚悟を決めたことで精神の高ぶりにドライバーと眼魂が応じたからだ。

 

平常時でこれだけの威力はありえない。ベースになったのが伝説の英雄だからか、それともジークが英雄化に使用し、驚異的な適合率を発揮したことで眼魂自体の力も底上げされたか?

 

理由はわからない。だが一つだけわかるとしたら、これで四人に勝てるということだ。

 

「これならどうだ!」

 

続いてくるのは光力の砲撃。太さはクリムゾンブラスターの半分ほどだが、その威力は馬鹿にならない。

だが、シグルドの力なら。

 

「んん…!!」

 

その砲撃を躱すことなく全身で受け止める。光が否応なしに浴びせられるが、痛みも熱さも全くない。しかしその威力でじりじりと押されそうになり、足腰に力を込めて踏ん張る。

 

「…くそ!!」

 

やがて男のオーラが尽きたのか、砲撃がやんだ。

全くの無傷。しゅうしゅうと砲撃を浴びた個所が煙を上げているが、焼けこげた後もない。元祖ジークフリートが龍の血を浴びたことで得た強靭な肉体も再現されている。

 

「俺たちの攻撃が…」

 

「まだだ!!」

 

先ほど蹴り技を見せた男が突貫してくる。それを見て、俺はパーカーを翻しその姿をあたりの風景に溶け込ませた。これもシグルド眼魂の能力だ。背中が致命的な弱点になってしまうという欠点こそあれ、防御、攻撃、どれを取っても一級品の眼魂。使っていて思うが、これを使ったジークを木場はよく倒せたな。

 

「消えた!?」

 

突然俺の姿が消えたことに戸惑う男。きょろきょろと辺りを見回して俺の姿を探しているが見つかるはずがない。仙術のような感知能力に長けた力があれば話は別だが。

 

俺はあえて別の角度に回り込むことはせず、そのまま前進してブレードを峰打ちで叩き込んだ。

 

「ぐぁ!!」

 

「大丈夫か!?」

 

思わぬ攻撃を喰らい、転がる男。同時に俺も透明化を解除する。ほかの転生悪魔たちも彼をかばうように集まり、前に出た。

 

一撃を叩き込むなら、敵が密集した今しかない。

 

〔ダイカイガン!シグルド!オメガドライブ!〕

 

ドライバーのレバーを引き、ブレードに救済の意志を溢れ出る白銀の霊力と共に乗せる。

 

「お前たちの復讐にピリオドを穿つ!」

 

ずんと力強く踏み込む。そして抜刀居合の動作で剣を振りぬき、強大な斬撃を飛ばした。

 

「俺の禁手で防いで見せる!!」

 

これまで神器を発動させなかった男が一人、仲間三人の前に立つと、ファンネルのように宙を飛び回る盾が出現して合体。巨大な盾を形作った。それに刻まれた紋様が光を放ち、斬撃を受け止める。

 

なるほど。この男、神器でなく魔力でしか攻撃をしてこないからどんな神器持ちかと思えば防御・結界系の神器だったか。だが俺の考え通りなら。

 

ビキビキと嫌な音を立て、盾に一気にひびが入ると間もなく。

 

ガシャン!!

 

いくつもの盾を組み合わせてできた大盾は容易く割れ、防御を突破した斬撃が四人に牙を剥いた。

 

「ぐぁ!」

 

「きゃぁ!」

 

〈BGM終了〉

 

駆け抜けた強烈な攻撃の余波を浴び、なすすべなく4人は宙に巻き上げられる。ダメージを負った体でそのまま地面に叩きつけられた。

 

「がはっ」

 

「痛い…」

 

転生悪魔たちの苦痛の声が聞こえてくる。これだけのダメージならもう立ち上がれまい。

 

この四人の禁手も鍛え上げれば脅威になっただろう。だが目覚めたばかりの力でまだ安定もせず、力も弱かった。敗因は禁手の練度不足。それに限る。

 

「助かった…」

 

背後で四人の主である上級悪魔がふうと安堵の息を深く吐いた。そのままかつかつと転生悪魔たちのもとに歩むと。

 

「主に歯向かおうなど愚かな眷属め!道具が意志を持つな!逆らうな!」

 

「うっ…!」

 

仕返しと言わんばかりに倒れた転生悪魔たちを何度も執拗に蹴りつける。男が履いているのは見るからに高級そうな靴だが、そんなことはこの怒りの前では些細なものだと目いっぱいに踏みつけている。

 

その光景を見て、俺の胸中に黒い感情が渦を巻き始めた。

 

上級悪魔が人間や他種族を無理やり転生悪魔にして眷属にするケースは悪魔の駒のシステムが始まって以来よくある話とされている。特にレーティングゲームが盛り上がるようになってからはプレイヤーはより強い種族や神器持ちの人間を集めるようになり、その試合を見た貴族悪魔もコレクション感覚で同じことをしていると聞く。希少な神器、希少な異能、希少な異形。

 

問題なのはそれを集める手段。しかも権力や財力もある程度持っている悪魔なら誰も止めることはできない。周囲も被害者もそれを盾にされて声を上げられないのだ。

 

俺はこれまで部長さんや会長さんという真逆のケースの悪魔と接してきた。彼女らと交流を深める中でいつしか悪魔社会に近い立ち位置にいながら、対岸の火事のように思っていたのかもしれない。

 

部長さんたちが普通なんじゃない。この社会ではむしろこの男のように眷属の扱いが冷たい方がメジャーで、情愛に深い方がマイノリティなのだ。

 

…だがそれにしても限度というものがある。この悪魔たちの話を聞けば男の方は相当強引な手段を用いているようだ。人間であるがゆえに人間の常識で生きている俺には受け入れられるものじゃない。

 

こいつが権力を盾に屈服させてきたというのなら、こちらも考えがある。

 

「…まあ、そこまでにしといてやってください」

 

つとめて冷静に言葉を絞り、男の肩を掴む。それに気づいた上級悪魔もはっと我に返ったように、俺に貴族らしい気品ある穏やかな笑みを向けた。

 

「はっ、そうだな。それより君に褒美をやらねば」

 

「褒美はいりません」

 

毅然と俺は男の申し出を断った。こんな男の施しなど受けたくもない。反吐が出る。

 

「あんたの話は全て魔王様に通す。こいつらの話が本当なら、あんたも相応の報いを受けるべきだ」

 

こいつが権力を持っているなら、そのさらに上の権力をぶつければいい。悪魔社会で魔王に…特に魔王の中でも特別視されるルシファーに目を付けられるのは避けたいはず。プライドの高い上級悪魔なら、自分の行いが明るみに出て名に傷がつけばさぞ応えるだろう。

 

「貴様…!!」

 

一歩詰め寄る男の体が突然魔法の縄で拘束された。バランスを崩して、前に男は倒れた。

 

「なんだ、これは…!!」

 

「この一件、俺も証人になろう。見ていてあまり気持ちのいいものではないからね。…魔獣騒動が終わるまで、ここで眷属と仲良くしているといい」

 

戦闘に一切手を出さず、静観を貫いていたガルドラボークさんが魔法を行使したのだ。上級悪魔の男はジタバタともがき、全身から魔力を放って振りほどこうとするが全く破れる気配はない。

 

「…!!」

 

男が怒りに満ちた目で睨んでくる。お前の眷属の怒りはたかだかプライドを傷つけられた程度のものじゃないだろう。文字通り人生を狂わされたのだ。その清算をお前はしなければならない。

 

俺は最後に、転生悪魔たちに声をかける。戦った俺たちの行動に驚いたらしく、呆然としていた。

 

「あんたたちの復讐は社会が成し遂げる。この男の復讐のためだけにあんたたちの人生を投げ打つ必要はない…永い悪魔の生なら、まだ人生をやり直せる」

 

情の深いサーゼクスさんなら事情を知ればこの人たちを悪いようにはしないだろう。上級悪魔の男の関係者はいい顔をしないだろうが。

 

確かにこの人達は許されないことをしたが、被害者でもある。理不尽に翻弄され、理不尽を持って抗おうとした。それにまだ完全に一線を越えたわけではない。だからかつての俺のように心を壊すのではなく、もっといい道を歩んでほしい。

 

その言葉に転生悪魔たちは。

 

「…すまない」

 

「ありがとう…」

 

振り絞ったような声を漏らすと、顔を俯かせて上ずった声を上げるのだった。

 

この後敗れた転生悪魔たちも同様に拘束したガルドラボークさんと共に、俺たちはリリスの街中へ進むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リアス率いるグレモリー眷属は客分であるレイヴェルを城に残し、大型魔法陣での転移を繰り返してリリスに到着した。着いて早々にグリゴリの研究所にいたギャスパーと合流した彼女らは、漆黒の龍王ヴリトラへと変身を遂げたシトリー眷属の『兵士』匙の姿を目撃し駆けつけた。

 

「がはっ!」

 

そこで彼女たちが見かけたのは大勢の子供を乗せた壊れたバスを守るように背にして囲うシトリー眷属と、それに相対する英雄派の幹部、ヘラクレスだった。

 

「おいおいどうした、ヴァジュラの雷は使わねえのかぁ!?」

 

制服が少しボロボロになっただけで全くダメージを受けていないヘラクレスが、反対にボロボロの制服で血だらけ傷だらけの体の匙を踏みつけている。嗜虐的な笑みを浮かべるヘラクレスに匙は強い目で睨み返す。

 

「…使わない。会長と、約束したからな…!!」

 

匙がガンマイザーとの戦いで目覚めた隠し玉、ヴァジュラの雷。それは全力で放てば神にも届きうる力だがその強大さに匙の体は耐えることができず、一度の使用で多大な体の負担と同時に代償として寿命を失ってしまう。兵藤一誠がシャルバ相手に発動した『覇龍』を超える力だ。

 

まだ悪魔として駆け出しである匙の身を守るためソーナは個人としても『王』としても、重い代償故にその使用を固く禁じた。

 

「はん、つまんねえな。アガレスに勝った上に龍王だっていうから骨があると思ったのによ!」

 

退屈そうにするヘラクレスがサッカーボールのように匙の胴を蹴りつけ、シトリー眷属のもとへ転がした。

 

「匙!」

 

「元ちゃん!」

 

戻ってきた匙のもとに続々と由良や仁村たちが駆け寄る。ダメージが大きいが、幸いにも命に別状はなさそうだった。

 

「奴ら、私たちがバスを誘導しているところに現れて攻撃してきたんです!バスがその余波で動かなくなってしまったのでここで戦うしかなくなって…それで…」

 

涙交じりにリアスたちに状況を説明する巡の視線が向けられた先には、匙以上に傷つき力なく横たわっているソーナがいた。

 

「ソーナ!」

 

その姿に目を丸くし、咄嗟に駆け寄ったリアスが彼女の体をゆすった。

 

「ソーナ、大丈夫!?」

 

「…リアス、ですか。こんな姿を見られるなんて…情けないですね」

 

虚ろな目で返事をするソーナ。まずは頭を叩くべしと動いたヘラクレスたちにより真っ先に狙われたのは彼女だった。

 

「しっかりして、アーシア、すぐに治療を!」

 

「はい!」

 

ガキン!

 

駆け寄るアーシアが治療を始めたその時、ビルとビルの間の裏路地から甲高い金属音が響いた。そこから飛び出してきたのはジャンヌと椿姫だ。

 

聖剣と薙刀を幾度もぶつけ合い、両者一歩も引かぬ激闘を繰り広げている。しかし、いくつも体に傷を負っている椿姫に対し、ジャンヌは全くと言っていいほどの無傷だ。

 

「こんな卑怯な真似をした上に会長と匙まで…!絶対に許さないわ!!」

 

普段は冷静沈着な椿姫は涙を流して憤怒を露に戦っている。ジャンヌは怒りの刃を涼しい表情で捌いていく。

 

「あらあら、クール系かと思ったら随分熱いのね?でも私はやめといたらって言ったけど…ま、止めもしなかったけどね!」

 

薙刀の一閃を受け流し、空いた片手に聖剣を創造。悪魔にとって必殺の一撃となる聖剣の剣技が椿姫の胴に叩き込まれんとした時だった。

 

颯爽と馳せる風が吹き抜ける。二人の間に飛び込んだ木場が、ジークから手に入れた魔帝剣グラムで剣閃を止めた。

 

「そこまでだよ」

 

鍔迫り合う両者。木場の得物を見たジャンヌが驚きで目を見開く。それは間違いなく、同胞が握っていた唯一無二の魔剣の帝王だったからだ。

 

「グラム!?あなたまさか、ジークを…!」

 

「想像の通りさ」

 

互いに剣に力を込め、弾かれるように二人は距離を取る。

 

「ついでに言うと、信長も英雄使いに倒されたよ」

 

「!!」

 

追い打ちをかける情報に二人は信じられないとばかりに驚愕した。

 

ジークと信長は幹部の中でも突出した実力者だった。複数の魔剣を同時に操り高い攻撃力を持つジークと、堅牢強固な防御力を備え、禁手になれば六天魔装なる異能を秘めた武具を扱う信長。何度も手合わせしその力をよく知っているからこそ、その二人ともが堕とされた事実をすぐに信じることはできなかった。

 

「ジークに信長…幹部たちが立て続けにやられたとなると俺たちも危ういかもしれんな」

 

どこからともなく聞こえてくる冷静な声。ヘラクレスたちの背後にいつの間にか満ちていた霧。そこから三人目の幹部にして、神滅具の使い手であるゲオルクが現れた。

 

「遅かったじゃねえか」

 

「ヴリトラの呪いの炎の解呪に手間取ってな。予想を超える濃度だったもので異空間に足止めされてしまった。おかげで久しぶりに解呪専用の結界を組むことになった…龍王は伊達ではないな」

 

「さっすが、上位神滅具持ちなだけあるぜ、ゲオルク!」

 

豪快に笑うヘラクレスは称賛の言葉を向ける。それを浴びて喜びの表情一つ見せないゲオルクがジャンヌとヘラクレスの間に並び立った。

 

「ヘラクレス、ジャンヌ。幹部を二人も落とされた以上奴らを甘く見ることはできない。力の出し惜しみはなしだ」

 

「オッケー!燃えてきちゃうわ!」

 

「こういう戦いを待ってたんだ!」

 

〈BGM:バリアンズ・フォース(遊戯王ゼアル)〉

 

英雄派の三人が手に握るのは眼魂。それぞれを起動させ、自身の胸に押し当てると全身から霊力が溢れ出し、パーカーの形状へと具現化しそれを纏った。

 

襟や袖に悪魔の翼のような意匠が入ったパーカーと纏うゲオルク。黒いパーカーは足首まで届くほど長く、

 

ジャンヌに関しては神聖さ漂わせる明るい薄黄色のパーカーだ。背部に二振りの旗が刺さっているという特徴的なデザインだが、その中には中世ヨーロッパのプレートアーマーを思わせるようなアーマーが肩部や胸部に施されている。

 

最後のヘラクレスはノブナガよりも濃い紫色のパーカーだ。両肩部にはダイナマイトが巻かれた、能力がいかなるものか容易に想像がつくフォルム。三人の誰もが、それまでより大きく上回るオーラを放っていた。

 

「英雄化が三人も…!」

 

「なんてオーラなの…!」

 

交戦的な笑みを浮かべる三人の幹部。それを前にリアスたちは戦慄を禁じ得ない。英雄化がどれだけのパワーアップをもたらすかはジークと交戦した木場からよく聞いているからだ。

 

しかしこういう状況だからこそ、眷属を指揮する『王』の真価が発揮される。リアスが導き出した一手はいたってシンプル。むしろ強者ぞろいのグレモリー眷属だからこそ、捻った手を打つよりもシンプルな作戦の方が長所を発揮できる。

 

「全員でぶつかるのはまずいわね…ここは戦力を分散し、各個撃破を狙うわ」

 

強大な敵を前に素早く判断を下すリアス。自分たちに実力があるのは理解しているが、同時に敵も実力者であることも理解している。特にここのメンバーの何名かは一度は交戦し敗北を喫したほどの相手だ。それが英雄化により強化されている。油断などできるはずもない。

 

しかし強化されているのはこちらも同じこと。一人一人、幹部を複数人で抑えて確実に倒す以外に手はない。

 

「なら、私とイリナはジャンヌをやろう。真のエクスデュランダルの初陣に持って来いの相手だ」

 

「そうね、英友装なしでもこの聖魔剣で返り討ちにしちゃうわ!」

 

ゼノヴィアとイリナ、教会の戦士だったころからコンビを組み互いをよく知る二人が名乗り出る。自信もたっぷりに得物を手にする二人に強敵への恐れは微塵もない。

 

「わかったわ。…敵は英雄化ともう一つ、業魔人も持っているはず。朱乃、二人のサポートをお願い」

 

「ええ、おいたが過ぎる子には雷を落してあげませんと」

 

リアスの指名で前に出た朱乃。両手首に嵌められたブレスレットが光り輝くと、瞬時に駒王学園の制服は堕天使特有の露出の多い黒い衣装に変じた。そして彼女の背に、6枚の堕天使の漆黒の翼が広がる。

 

「あなた達の仲間に深手を負わせた堕天使化で、二の舞を踏ませてあげますわ」

 

「へぇー、エクスデュランダルに聖魔剣…おまけに堕天使化!英雄を目指す者としてこれ以上にないシチュエーションだわ!」

 

戦いを挑まんと浴びせられる三人の視線に、ジャンヌは心を昂らせる。剣を掲げ、早速禁手に至り聖剣龍を作り出すと、颯爽と跳躍し跨った。

 

気高きドラゴンを駆る聖騎士。ジャンヌ眼魂で英雄化を果たしたジャンヌが三人を見下ろす。

 

「さあいらっしゃい!このジャンヌがあなた達に挑戦し、打ち勝って見せるわ!」

 

彼女の宣言を皮切りに三人とドラゴンは翼を広げ、空へ飛翔する。そしてすぐさま、激しい剣戟音と雷鳴が次々に轟くのだった。

 

その光景を見上げるヘラクレスは「ふん」と鼻を鳴らす。

 

「ジャンヌの奴、羨ましいぜ。…んで、俺の相手は誰だ?全員でかかってきても良いんだぜ?」

 

挑発的な笑みを浮かべ、眼前に立ちはだかるリアスたちを見渡した。自信に満ちたその言葉に寸分の恐れも不安もない。リアスが誰でヘラクレスを対処するか、その割り振りを口にしようとしたその時だった。

 

「貴様の相手は俺が引き受けよう」

 

そこに割って入ったのは第三者の勇ましき声。力の化身たる男の圧倒的な存在感とオーラに、この場にいる誰もが意識を向ける。

 

黄金の獅子を連れ従える、筋肉粒々とした逞しい男が、一歩、また一歩と堂々たる歩みを見せる。大王バアル家次期当主…サイラオーグ・バアルの力強い眼がヘラクレスを捉えた。

 

〈BGM終了〉

 




禁手に目覚めた転生悪魔の反乱。原作のようにさらっと流すのではなく一回ちゃんと書いておきたかったのでシグルド魂のお披露目もかねて書きました。

四人の禁手に悠河単騎で勝てたのは、描写された通り相手が力を使いこなせてないのも
ありますが、やはりこれまでの強敵との戦いを乗り越えた成長も多分にあります。

次回、「雄々しき拳」
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