ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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みやま先生が龍帝丸の設定画上げてたけどとんでもなさすぎて笑った。ミーティアとアルヴァトーレが合体したみたい。

Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は…
S.スペクター
1.ムサシ
2.エジソン
3.ロビンフッド
4.ニュートン
5.ビリー・ザ・キッド
6.ベートーベン
7.ベンケイ
9. リョウマ
10.ヒミコ
11.ツタンカーメン
12.ノブナガ
13.フーディーニ
23.コロンブス
31.ライト
40.ジャンヌ
41.シグルド
42.ユキムラ
43.ゲオルク
44.ハンゾウ


第168話「英雄決戦」

真紅の鎧を纏った兵藤と変身完了した俺。相対するは英雄の力と聖槍を携える曹操。

 

乾いた風に緊張が混じり、表情をこわばらせる。

 

これから英雄派の運命、俺たちの運命を左右する決戦が始まるとこの場の誰もが理解できた。

 

今にも弾けそうな雰囲気の中、ヴァーリが俺たちの隣に並んだ。こいつも加わるつもりなのか?

 

「奴の七宝、残りの2つは飛行能力と木場祐斗のように分身を生み出す能力だ。気を付けていけ」

 

そう思ったが、なんとヴァーリが助言を耳に挟んできたのだ。俺も兵藤も、これまでの奴らしからぬ意外な行動に戸惑った。

 

「サンキュー、って急にどうしたんだよ」

 

「極覇龍を使ってこの消耗具合だ。俺自身の手で奴を倒せないのは癪だが、君たちが負けて奴が調子づくのはもっと癪だからね…最も、君たちが負けるとは思っていないが」

 

挑発か、それとも本心か。その言葉の意味は今は深くは考えない。そのまま受け取っておくとしよう。

 

「七宝の種明かしか。らしくないことをする。だが種が割れたところで負ける道理はない」

 

こちらは敵の能力を把握したというのにそれでも曹操の余裕が揺らぐことはない。言葉通り、種が割れても負ける道理がないほど強力な異能なのは十分承知。

 

だがこちらとしても負けてやる理由はない。

 

「一気に行くぜ!」

 

「ああ!」

 

〈BGM:魂のデュエル(遊戯王ゼアル)〉

 

仕掛けたのは二人同時。息を合わせて地面を蹴り馳せ、奴との距離を駆け抜ける。

 

〔Star sonic booster!〕

 

『騎士』のトリアイナにもあった高速移動で兵藤が目にもとまらぬスピードで先行する。

 

「その意気に応じよう!」

 

曹操も待っていたと言わんばかりに走る。俺たちの距離はあっという間に縮まり、決戦の幕が上がる。

 

〔Solid impact booster!〕

 

先行していた兵藤の『戦車』の破壊力を込めた拳打が繰り出される。曹操は勢いを落とさぬまま体を低くして拳を避け、兵藤の懐に入り込んだ。

 

そこに飛び込むのは霊力の弾丸。ガンガンセイバー ガンモードでの攻撃が曹操と兵藤の間に割り込み、曹操が身を引いたことで二人の距離を分かつ。

 

「あぶね!」

 

「肩借りるぞ!」

 

跳躍し、さらに兵藤の肩を踏み台にして跳び上がる。そして曹操へ銃撃を浴びせながら迫っていく。

奴は槍をくるくる回して弾丸を弾くが、これはただの目くらましでしかない。

 

その間着地を決め、今度は俺が近接戦に持ち込む。

 

胴を狙った回し蹴りからの踵落とし。空を切る一撃を奴は変わらぬ…いや、以前よりキレのある動きで捌く。

 

「くっ」

 

そこからさらに踏み込み、顔面目掛けたパンチを打ちこむがしゅるりと蛇のようなしなやかさで受け流され、腕を掴まれた。

 

だがこの距離なら躱しきれまい。

 

もう片手に握っていたガンガンセイバーをぐいと奴の腹に押し当てる。トリガーを引き、至近距離で銃弾を浴びせんとするも、なんと鮮やかな手さばきで俺を巴投げするのだった。

 

「!?」

 

地面に背を打ち付けた俺に槍の追撃が襲い掛かる。刹那、感じるオーラの高まり。咄嗟に曹操は横っ飛びして俺から離れた。

 

その直後、奴がいた場所に赤いオーラが駆け抜けた。兵藤のドラゴンショットだ。

 

普通なら俺を巻き込む気かと突っ込むとこだが何も言うまい。向こうも俺なら躱すと信じてやっただろうし、むしろこうでもしないとこいつに攻撃は当てられないだろう。

 

しかしこれだけで終わらないのが兵藤一誠という男だ。

 

「曲がれ!」

 

ドラゴンショットが突如、がくっと角度を変えて躱したはずの曹操へ再び向かった。あれは京都で曹操の片目に重傷を負わせた不意打ち戦法だ。サーゼクスさんの技を参考に編み出したと聞いている。

 

「同じ手は喰らわないさ!」

 

しかし曹操も二度同じ攻撃が通じるほど愚かではない。今回は反応しきり、聖槍から絶大な光の波動を迸らせてぶつけ、相殺させた。衝突し弾け、巻き起こる爆炎と黒煙。

 

「くっ!」

 

「象宝《ハッティラタナ》」

 

煙の帳を破り曹操が空へと飛び立つ。光の円盤を足場に空を自在に飛んで見せた。まるで波ではなく空を乗りこなすサーファーのようだ。

 

ヴァーリが言っていた飛行能力か、早速使ってきやがったな!

 

だがこっちもフーディーニを取り戻したおかげで、プライムスペクターでも飛行できるようになっている。

 

俺たちは同時に、方法は違えど空へと飛び立った。

 

「ドラゴンショット!」

 

兵藤が曹操目掛けオーラを放ち、俺もそれに合わせてガンガンハンドで銃撃を放つ。

だが七宝の一つが光ると虚空に黒々とした穴を生んで攻撃を呑みこみ、また別の個所から俺たち目掛けてドラゴンショットや銃撃が飛んできた。

 

「ち」

 

「くそ!」

 

翼を羽ばたかせ、あるいはフーディーニの力で空を舞って俺たちは躱す。黒歌を鎮めた受け流しの能力か、迂闊に牽制の遠距離攻撃すらできやしない。ほんと面倒だな!

 

舌打ちする矢先、兵藤の眼前に唐突に曹操が現れた。まるで瞬間移動したかのように。いや、瞬間移動ではない。これは転移の七宝か!

 

「やはり若干だがオーラが変質しているな!」

 

曹操は聖槍を突き立てんと槍を握る腕を突き出してくる。兵藤は体を横に逸らすことで鎧を貫通して本体へのダメージを避けることに成功したが、かすめた鎧の一部がえぐられてしまった。

 

そこから曹操の激しい連撃が始まった。突き、払い、叩きつけ。兵藤はいなし、あるいは躱してどうにか攻撃をやり過ごそうとしている。曹操の攻撃は激しさだけでなく、相手の動きを読み的確に隙に付け入ろうとする正確さも兼ね備えている。

 

「速い!」

 

「ははは!これほど昂った戦いは初めてだ!」

 

徐々に押し込まれていく兵藤とは真逆に曹操の攻撃は苛烈さを増していく。

 

戦いという命を懸けたギリギリの緊迫した状況に身を置くあの男は、それにより生じる一切の緊張も恐れもなく、全てを愉しんでぶつけてくる。

 

こっちは必死かつ慎重に落ちたら終わりの綱渡りしようってのに、向こうはそんなものに微塵も怖気づくことなく綱の上を爆速で走ろうというのだ。これだから戦闘狂という人種は苦手なんだよ!

 

息をつかせぬラッシュを俺は見ているだけでない。

 

〔ベートーベン!〕

 

即座にフォローに入るべく片手で指揮を取り、楽譜型の霊力の波動を放つ。この攻撃は俺の意志と指の動きに応じて指向性を持つ。

 

空を滑るように踊る波動の進行方向にまたも展開された受け流しの穴。しかしすんでのところでするりと軌道を変えて躱し、曹操へ今度こそ向かう。あの穴に攻撃が通りさえしなければ受け流すことも出来まい。

 

これなら届く。そう思った矢先、横合いから飛び出した何かに一瞬にしてぷつんと切断される。音の途切れた霊力は鮮やかな色をばらまいて霧散した。

 

「!」

 

〔ムサシ!〕

 

〔ビリーザキッド!〕

 

高速で移動する何かが今度はこっちに向かってくる。こちらはガンガンセイバー ガンモードとバットクロックの二丁拳銃で迎撃を試みる。

 

「はっ!」

 

ムサシの力で挙動を察知しつつ、二つの銃口から連続して打ち出される光の弾丸。物体を目で追い、感覚で捉えんとする。しかし俊敏な物体の動きをなかなか捉えられない。

 

物体の動きからして、間違いなくこちらに飛び込んで食らいつこうとしている。そうはさせないと銃撃で近寄らせないようにする。

 

状況を打破するため、俺はエジソンの能力の一つであるひらめきに頼ることとする。

 

〔エジソン!〕

 

刹那、脳内を駆け巡る電流。思考が活性化し、クリアになる感覚。その刹那のうちに俺は閃いた。

 

無理にあてる必要はない。行動を妨害し止めていけば付け入る隙はできる。

 

思いつくや否や即実行。向こうの軌道に合わせ、進行方向上に銃撃を放つ。銃撃に阻まれると跳ね返ったかのように軌道を急に変え、またそこにも銃撃。阻まれ、軌道を変え、銃撃、そしてまた軌道を変える。

 

「…そこか!」

 

何度も銃撃による進行方向への妨害を続けた末、次第に目が慣れ、軌道が読めるようになってきた。ここぞとばかりに高速移動する物体に次々と光弾が命中。ついにその動きを止めた。

 

動きを止めた物体の正体は矢のような形状をした光だった。おそらく形状変化した武器破壊の七宝だろう。

ゼノヴィアのエクスデュランダルを一撃で破壊できる驚異の異能。武器だけでなく使い手への攻撃性能も抜群の能力だ、注意を途切れされることはできない。

 

「おらぁ!」

 

「ふっ」

 

兵藤の反撃の拳をいなし、曹操は軽々と踏み込んで後方へと宙を跳び上がった。それに合わせて高速で移動し主を受け止めた七宝の円盤に着地し、見事に後退してみせた曹操。傍らに従える光球の一つが動いた。

 

「居士宝《ガハパティラタナ》」

 

輝きは一瞬。瞬時に光の人型が10人以上出現し、曹操を守るように光の槍を構えた。

これはヴァーリの言っていた分身を生み出す能力か。しかしこれは…。

 

「木場のパクリみたいな能力使いやがって!てか、木場と同じであんま技術を反映できてないように見えるぜ?そんなんでよくも馬鹿にしたな!」

 

「この能力はまだ調整が必要でね。彼の同じ能力を参考にしたかったんだが、現状大差なかったから残念に思っただけさ。ガルドラボークの分身も、僕の思い描く理想とは違っていたからね」

 

今でも十分強いのにまだ未完成、つまり伸びしろがあるというのか。つくづく恐ろしい男だと実感する。

 

ぱちんと指を鳴らす曹操。分身たちはそれを合図に果敢に俺達へと突撃を開始した。

 

それを迎え撃ったのは兵藤のドラゴンショット。ただし今度はビームのように照射するのではなく分散させ、横範囲を広めに放って一気に撃ち落した。

 

しかし爆炎の中から討ち漏らした4人が飛び出す。勢いを殺さぬまま、一気呵成に槍の一撃を叩き込まんとしてくる。

 

「分身なら!」

 

〔ロビンフッド!〕

 

〔ムサシ!〕

 

こちらも負けじと二人の英雄の力を発動。ロビンフッドの力で生み出された霊力の分身4人と共に二刀流で

分身の群れへ突撃する。

 

「ほう、君も分身を使えるのか」

 

相手の武器はすべて槍。こちらの武器は二刀流。それに分身の動きには曹操本体の優秀なテクニックはなく、どこか単調なように感じる。

 

振るい、突き抜ける槍を捌き反撃の太刀を見舞う。

 

斬閃、散華。全てを処理するのに10秒とかからなかった。両断された分身の体が傷口からずるりとずれた。そして淡い光を散らして霧消する。

 

「なるほど、君の方が分身に本体の技術や速度を反映できているようだ」

 

感心気味な曹操が言い終えた途端、俺の分身は光の粒になり瞬時に消えた。

 

「持続時間はかなり短いけどな」

 

「それは残念」

 

「隙あり!」

 

ドラゴンショットで発生した爆炎を利用し、曹操の背後に回った兵藤が拳を振りかかった。

 

が、不意打ちを簡単に許す程この男は甘くない。腰を落として突き抜ける拳をやり過ごし、反撃と聖槍の柄をぶん回して思いっきり叩きつけた。

 

「それは想定済みさ」

 

「ぐあっ!」

 

ズドン!

 

ヒットの瞬間、凄まじい快音が鳴り響き、みしみしと鎧と体が悲鳴を上げる。さながらビリヤードの球が弾かれるような凄まじいスピードで兵藤は地面に激突した。

 

「兵藤!」

 

「なんだ…このパワー…!今までの比じゃねえ…!」

 

地に背を着ける兵藤とは真逆に、優雅に曹操は槍をくるくると回してその様子を愉快気に見下ろす。

明らかにパワーが跳ね上がっている。これも英雄化の恩恵か。

 

「ふふ、自分でも驚いているよ。凄まじいパワーだね」

 

途端、曹操が円盤を急加速させこちらへと一気に距離を詰めてきた。鋭い一突きが襲い来る。

 

「!」

 

咄嗟に剣を盾代わりにしたことで、槍は刀身を擦れて軌道を逸らすことになった。だがすかさず鮮烈な回し蹴りが繰り出され、動きの軽やかさに反した鉄球のような重い威力でビルの壁まで吹っ飛ばされるのだった。

 

「がはっ!」

 

〔BGM終了〕

 

全身に衝撃と痛みが突き抜ける。とんでもない一撃だ、兵藤の拳にも匹敵する。こいつ、木場と同じテクニックタイプと思っていたがこんな兵藤やサイラオーグさんじみたパワーの持ち主だったか…?英雄化にしては妙にパワーの向上度合が著しい。

 

「…まさか、それが呂布の力か」

 

「その通りさ。能力は単純、膂力の強化!使用者の肉体を頑強にし、馬術、弓術にも長けた無双の戦士を生み出す力だ!」

 

やはりそうだったか。すでに特殊能力なら禁手の七宝で潤沢にある。そもそも強力な異能を持っているのにこれ以上増やす必要は余程でない限りはあまりない。それならば、悪魔や天使と比べ種族的に劣る身体能力の強化に回すのにも頷ける。

 

「つまりてめえの弱点を補う力ってことだな…!」

 

「そうだ、サイラオーグ・バアルも二天龍も一度の一撃で全てをひっくり返してくるからね。特に俺みたいな弱っちい人間じゃそれだけで致命傷になりかねない。でも、この力がもたらす肉体ならそれと打ち合える」

 

「まじかよ…」

 

それすなわち、弱点の喪失。俺も兵藤も戦慄を禁じ得ない。

 

なんて奴だ。ただでさえ厄介すぎるほどにテクニックタイプとしての優れた技巧と神滅具最強の聖槍にパワータイプ特有の強烈な力が加わった。人間という種族の体の脆さを克服した今の奴に弱点はない。

 

この3つの力を持った今の奴はまさしく天下無双の戦士と呼べるだろう。呂布の力を相まって威風堂々たる佇まいは戦士の頂に立つ男そのもの。無敵と錯覚してもなんら無理はない。

 

「君たちと真正面から戦うんだ、それくらいは備えがないといけないだろう?」

 

「だったら一発くらい貰ってくれよ…!」

 

「それとこれとは話が別だけどね」

 

毒づく兵藤を曹操は一笑に付し、円盤を加速させて俺に追撃を加えんと迫って来る。

 

〈BGM:一騎打ち(遊戯王ゼアル)〉

 

「!」

 

〔ニュートン!〕

 

全身から斥力の波動を放ち、曹操を近づけまいとする。寄せ来る波動に円盤の軌道を翻して奴は難を逃れた。立て直すにはその僅かな時間で十分。

 

〔フーディーニ!〕

 

斥力の波動で俺の体が埋まっていた外壁も飛んだ。フーディーニの飛翔で再び俺は空へと身を躍らせる。

 

「はぁ!」

 

〔ムサシ!〕

 

〔ベンケイ!〕

 

〔エジソン!〕

 

「いいぞ、来い!」

 

技術に剛力と電撃を加えた二刀流で曹操へ追撃し、二刀流の剣技の嵐を振るう。鮮やかな剣閃を潜り抜け、時折カウンターで払いを入れてくる曹操の表情は狂喜に満ちている。

 

幾度となく弾ける金属音と火花。何度剣を振るおうと奴は躱し弾いてくる。

 

まだ届かない。攻撃を喰らっても易々と倒れない頑強さを手に入れたとはいえ、奴の動きには微塵の油断もない。

 

これが英雄派の首魁。英雄の力を手にし、さらなる高みへと昇りつめた姿か。

 

「筋はいい、この短期間でさらに成長したようだ。だが」

 

笑う曹操。次の瞬間、ガンガンセイバーの二振りが派手なガラス音を立てて粉々に砕け散った。

 

なんだ、何をされた!?

 

「!?」

 

「七宝の注意が抜けているよ」

 

驚く俺の視界の端にとまったのは一つの光球。武器破壊の七宝だ。あれだけ注意しなければと考えていたのに、奴に一撃を喰らわせることに集中した瞬間を狙われてしまった。

 

そして俺の頬に真っすぐ、痛烈な拳打が浴びせられた。

 

ごきゃと何かがひん曲がる音。ぐらりと世界の全てが揺れる感覚と共に、俺は地面に叩きつけられる。

 

「ぐっ…」

 

痛い。なんて馬鹿力だ。眼魂一つでここまでパワーが上がるものなのか。

 

「大丈夫か!?」

 

全身の痛みに歯を食いしばっていると兵藤が駆け寄って来た。

 

「…ああ」

 

今ので鼻の骨が折れた。仮面の裏は鼻血まみれだ。眼鏡もさっきの顔面直線ストレートでどうなってるかわかったもんじゃない。

 

ゆっくりと身を起こし、空から俺たちを見下ろす曹操を睨む。

 

「あいつ、滅茶苦茶強くなってやがるぞ」

 

「やはりどうにかするべきは…」

 

七つの異能を秘めた光球、七宝。あの多彩な能力をどうにかしなければ勝ち目はない。本体のセンスに加えて七宝の転移や受け流しが加わることで全く攻撃が当たらない。仮に当たったとしても生半可な攻撃では今の奴にダメージを与えることはできない。

 

なんというクソゲーだ。これがゲームだったら俺はコントローラーをとっくに投げ飛ばしている。だれも文句の一つも言わないだろう。だがこれは現実だ。逃げ出すことはできない。やるしかないのだ。

 

こんな相手に勝つにはどうするべきか。…少しでも可能性のある選択肢を、俺は取る。

 

「兵藤、お前は曹操本体を叩け。俺は七宝の妨害からお前をサポートし、七宝を潰す」

 

「そんなことできるのか?」

 

「いくつか考えはある。このまま二人で突っ込んだところで仲良く全滅するだけだ。なら、どっちかがサポートに回るしかない。それにお前じゃあれを封じようがないだろ」

 

兵藤は愚直なまでのパワータイプだ。攻撃手段は徒手空拳とオーラの砲撃、そしてアスカロン。得意の乳技は相手が男なら意味はない。相手をぶちのめす技しかないこいつでは、相手を翻弄することに特化した能力への対処が難しい。

 

なら、眼魂を多数所有する俺が能力をフルに活用し、七宝の介入を止めるしかない。幸いにも手段はいくつか思いついている。うまくいけば奴との戦闘を有利に運べる。

 

「…OK、お前を信じるぜ」

 

「頼んだぞ」

 

〈BGM終了〉

 

碌な説明をする時間も余裕もない。だがそれでも互いを信頼できる絆はある。短く言葉を交わし、意を固めた俺たちは空で待つ曹操を見据える。

 

「作戦会議は終わりかな?さて、次はどんな手で来る?」

 

「難しい手は使わない、正面突破だ!!」

 

龍の翼を広げ、再び空へと舞い踊った兵藤が曹操へ猛進。

 

「そう来なくては!」

 

〈BGM:華麗なる攻撃(遊戯王ゼアル)〉

 

闘志に満ち足りて笑う曹操が七宝を繰り出してそれに応じる。飛び出した光球が3つ。タイミングから察するに武器破壊と衝撃波、分身の七宝だろう。転移や受け流しのように受動的ではなく、能動的に攻撃を仕掛けられる能力はこの3つしかない。

 

だがそれを見分けることはできない。なぜなら全ての光球のサイズ、形状、色、その全てが同じだからだ。能力が発動するまで判別することはできないし、判別できても戦闘の混乱で見失えばたちまちにどの光球がどの能力だったか忘れてしまうだろう。

 

光球の一つが光った。生み出されたのは光の分身。やはり分身の異能持ちだったか。

 

「分身とはダチとの戦いで慣れてるんだよ!」

 

槍を握る分身たちが徒党を組んで兵藤へ襲い掛かる。だがそんなものを相手にしている場合ではない。突き出した腕からドラゴンショットを一直線に放つ。迸る赤いオーラが駆け抜け、射線上の分身たちを瞬く間に消し去る。

 

「考えなしのオーラ攻撃は無駄だとわからないかな?」

 

分身たちを突き抜けて自分に向かってくるドラゴンショットにやはり曹操が使ったのは受け流しの七宝。黒穴の中にドラゴンショットが一直線に吸い込まれてしまう。そして背筋に走る悪寒。

 

「!」

 

さっと振り向くと、ずおっと何もない空に空いた穴から紅い光が見えた。

 

「おっと!」

 

咄嗟に身をよじる。その直後に駆け抜けたのは紅いオーラの波動。受け流したドラゴンショットを俺にぶつけようとしたのだ。黒歌の時みたいに味方の攻撃を利用して倒そうとは、あいつ正面からの戦いを拘り楽しんでいるように見えて、勝利のために策で攻めるところも抜かりないな。

 

狙いの外れた攻撃は空へと昇り、射線上のビルの一角を容易く削りとってしまった。

 

やべえ、あれロゴっぽいのがついてるから会社のビルなんじゃないか?ビルの持ち主には申し訳ないことをした。弁償金って躱した俺が払うのかな…。それとも攻撃を出した兵藤か、受け流した曹操か。

 

ええい、今はそれを考えている場合じゃない。

 

「な!?」

 

ドラゴンショットの奔流を滑るように駆け抜ける光球が二つあった。まるでスケートリンクを流麗に走るスケーターのように光球が照射の続くドラゴンショットの表面を走り、兵藤へと殺到する。

 

それを認めてすぐに照射をやめる兵藤だが、光球は狙いを変えることはなかった。獲物を逃がさないと言わんばかりに追いかけ、兵藤は宙を飛んで回避に努める。おまけに残った分身もそれに追随して来て、曹操に近づくことさえできない。

 

「くっそ、これじゃあ曹操と戦えねえ!」

 

せわしなく飛び回り、鋭利な形状に変化してくる七宝と、何ら変化もなく突っ込んでくる七宝の回避に必死だ。

 

すぐにフォローに入らなければならないが、その前にやっておくべきことがある。

 

〔エジソン!〕

 

〔グリム!〕

 

〔ベートーベン!〕

 

先の戦いでアルギスが落としたグリム眼魂。その能力を発動する。これまでに使ったことも手にしたこともなかった眼魂だが、プライムスペクターになって取り込んだ時にその能力は把握している。

 

エジソンの力で得たひらめきをグリムの力…高めた想像力をエネルギーにして具現化する力が発動する。

虚空に出で、収束していく緑の霊力は俺の想像…大鷲の形となり曹操目掛けて羽ばたいた。

 

「その能力は見たことがないな」

 

聖槍を振るい、聖なる斬撃を放つ。聖なる波を鷲は羽ばたきで躱し猛進をやめない。

 

「なら」

 

曹操の次の手。七宝の一つを動かし、受け流しの能力を発動した。あえなく飲まれ、今度は俺のもとに現れるが。

 

「このためにベートーベンを混ぜたんだよ!」

 

俺が指をくいっと回せば、大鷲はそれに応じて旋回しまたも曹操への進行を再開する。グリムの想像力による波動にベートーベンの指向性を組み合わせたのだ。これなら何度受け流されても、転移されても曹操への攻撃を続けられる。

 

「なるほど、いいアイデアだ」

 

曹操は心にもなく誉め言葉を口にしながらも円盤で空を飛びながら大鷲の攻撃をあしらっている。

 

兵藤を失った後の病室のベッドの上で、このリリスに来るまでの戦場で何度となくこいつの七宝の対処法を考えてきた。前者は半ば苦しい喪失の体験から逃げるように、後者は英雄の答えを見つけてそれをこいつに示す決戦のために。

 

その結果、俺はいくつかの対策を思いついた。うまくいくかは不安だったが、見事に決まった。

 

〔ニュートン!〕

 

〔フーディーニ!〕

 

〔ビリーザキッド!〕

 

〔ダイカイガン!ガンガンミナ―!〕

 

ガンガンセイバーとバットクロックを合体、ライフルモードに変形させる。その銃口には溢れる英雄たちの余剰エネルギーにより金色の追加装甲が追加され、さながらキャノン砲のようなフォルムへと変化していた。

 

そこに3つの英雄の力を込め、オメガドライブを発動させて同時に放出する。

 

銃口から打ち出されたのは3つの鎖型のオーラ。しゅるしゅると伸びては3つの光球を絡めとる。光球の一つは自在に刃物へ変化して断ち切ろうとするが、全く持って断ち切れる様子はない。

 

それもそのはず。この鎖は霊力の塊ではない。ニュートンの力で付与された引力の鎖。万物不変の斥力と引力を物理的な力で切り裂くことなどできやしない。

 

あえなく捕まった光球たちはしゅるしゅると俺の元へ巻き取られていき。

 

〔ハイパーオメガ・インパクト!〕

 

「はぁっ!」

 

こちらに引き寄せる間にチャージした霊力を一気に開放、凄まじいエネルギーの奔流を至近距離で七宝に浴びせた。光球はオーラによって徐々に削り取られ、やがて形を保つことができずに消失した。

大本となる光球が消えたことで、分身も動きを止めて消滅していった。

 

さっき思いついたばかりだったがどうにかうまくいった。まずはこれで3つだ。残りは4つ。

 

「ほう、面白い能力の使い方をするね」

 

その一部始終を見届けた曹操は感嘆の念を隠しもせず、拍手して見せた。

 

うまく3つの七宝を潰せたがこの手はもう使えないだろう。なにせ敵は敵を研究し尽くす戦いの天才。一度

見せた技が二度も通じるとは考えにくい。

 

ならばこちらももう一つの…。

 

「余所見してんなよ!」

 

その間、光球の追尾から解放された兵藤がブースターを吹かしながら急降下しキックしにかかる。落下の勢いと組み合わさることで相当な威力の蹴り技になっている。

 

「まだ七宝は残っているようだが?」

 

「!」

 

急降下する兵藤と曹操の間に割って入った七宝。その能力が発動し、兵藤の姿が忽然として消えた。

 

いや、消えたのではない。受け流しにしては特有の穴が発生していない、なら…。

 

もう一つの可能性に行き当たった時、突然俺の腹に痛烈な蹴りが刺さった。完全に意識の虚を突かれた。備える暇もなかった一撃で俺の体はまたしてもビルのガラス扉を突き破り、地面を低空飛行して屋内へ転がり込んでいった。

 

「がはっ!!?」

 

「深海!?」

 

俺に蹴りを放った兵藤も驚愕の声を上げる。キックの最中の兵藤を転移させたのか…!

 

「はは!俺を倒すにはまず七宝からでないとね。うまく攻略できるかな?」

 

こいつ、完全に楽しんでやがる…!

 

〈BGM終了〉

 




イッセーにグリムの力を持たせたら絵面がR18に支配されそう。

次回、「カーディナル・クリムゾン・ストライク」

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