ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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お待たせしました。いよいよ決着の時です。

Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は…
S.スペクター
1.ムサシ
2.エジソン
3.ロビンフッド
4.ニュートン
5.ビリー・ザ・キッド
6.ベートーベン
7.ベンケイ
9. リョウマ
10.ヒミコ
11.ツタンカーメン
12.ノブナガ
13.フーディーニ
23.コロンブス
31.ライト
40.ジャンヌ
41.シグルド
42.ユキムラ
43.ゲオルク
44.ハンゾウ


第170話「聖槍の行く末」

「がはっ…」

 

身を焼き尽くすような激痛の中、一誠はかろうじて意識を保っていた。

 

曹操の将軍宝を喰らい、ビルを片手では数え切れぬほどいくつも貫通して吹っ飛ばされた。ようやく衝撃が無くなったことで、あるデパートのおもちゃ売り場に派手に突っ込んだ。玩具の陳列されていた商品棚をクッションにして止まり、そのまま横たわっていた。

 

肋骨は何本か折れ、鎧は至る所が粉々になっている。衝撃の余波で手足がしびれて動かない。

 

震える体であたりを見渡す。綺麗に並べられていただろうおもちゃの商品棚は突入の余波で無残な様相と化している。あちこちにスイッチ姫やおっぱいドラゴンのぬいぐるみやおもちゃが転がっていた。どれも自宅に送られてきて、一度は目を通したものだ。

 

「…あれは」

 

ふと目に留まったのはスイッチ姫をデフォルメした小さな玩具。なんてことはないいかにも子ども受けしそうなビジュアルとギミックだったのを一誠は覚えている。

 

掌に感じた冷たい感触。それは次元の狭間で肉体を新生する最中に思い浮かんだとっておきの策だ。その感触と視界に映り込んだ玩具が兵藤の脳内で重なった時、状況を打破しうる一手となた。

 

それに手を伸ばそうとしたところ。

 

「認めるよ。本当に…君たち二人は強敵だ」

 

かつかつと乾いた靴音。聖槍を握る曹操がゆっくりとした足取りでおもちゃ売り場に入り、近づいてきた。

 

「禁手を使ってここまで追い込まれたのは…スダルシャナ以来だ。あの時とは違い英雄化もある…それなのに両腕をぼろぼろにされるとはね。骨にひびが入ってるのか、動かすだけで痛むよ」

 

乱れた呼吸を整えつつ、一誠に両腕を見せる。袖は破けて外界に晒された両腕の皮膚は血塗れで見るも痛々しい。先の二人の攻撃、それを防御のため腕に直に浴びたことでオーラの奔流によって少なからずダメージを負っていた。

 

「でも、まだフェニックスの涙が残っている。チェックメイトだ」

 

取り出した小瓶の液体を傷ついた腕にかけると、たちどころに傷が塞がり赤い腕が元の肌色に戻っていく。

奮闘の末にようやくつけた傷を目の前であっさりと癒され、一誠の心中は悔しさで満ちていく。

 

「くそ…」

 

「将軍宝が効いたみたいだね。あれは未完成で能力も曖昧…取り合えず破壊力重視にしたのはいいんだが何より武器破壊と被ってしまっているのがよくないな。いいアイデアがあればいいんだが…」

 

フェニックスの涙で濡れた手で聖槍を握りしめて高く掲げ、その穂先を地に這いつくばる一誠に向けた。

 

「死にゆく君に聞いたところで、だな」

 

鋭利な穂先を一誠の頭部目掛けて突き立てんと力を込める。

 

かつん。

 

耳がとらえたかすかな足音が曹操の手を止めた。些細な足音だが、彼の警戒心を引き上げるには余りあるほどだった。

 

「…あの傷でも向かってくるなんて流石の闘志だよ」

 

背後に感じたそのオーラに、呆れ気味にため息をつき振り返る瞬間、浴びる風。

 

プライムスペクター…深海悠河がその拳を振り上げていた。

 

 

 

 

 

 

 

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ギリギリのところで気づかれた。だが構うものか。身を引くことなく、振り上げた拳をそのまま曹操目掛け振りかぶる。

 

突如、脛に鋭い痛み。足元を崩された様に世界がぐるんと回転した。訳も分からぬまま体が地面に倒される。

 

「ぐぁ!」

 

体を打ち付けた痛みに呻く。恐らく槍で足払いをかけられたのだろう。まるで子供をあしらうかのように余裕のある所作だった。

 

「おかしいな、アーシア・アルジェントと言えどこんな短時間であの傷を動けるレベルまで回復させるのは無理だと踏んでいたが」

 

まじまじと曹操は俺の体を舐めるように眺める。移り行く視線が、先ほど曹操に貫かれた傷の個所で止まった。止まった視線の先には緑色のオーラの塊が刺し傷を埋めていた。

 

「…そのオーラ。まさかグリムの能力か」

 

「…そうだ、具現化したイメージで無理くり傷を塞いだ」

 

咄嗟に思い付いた応急処置だ。痛みはともかく、出血はこれで抑えられる。曹操が円盤に乗って兵藤を追っていた所を見た瞬間、アーシアさんの治療を待つ暇も惜しくなって飛び出した。

 

あの七宝の威力は俺が身をもって知っている。まともに喰らえば戦闘不能になるのは不可避なそれを兵藤はもろに受けてしまった。深手を負ったあいつを曹操が逃すはずがない。絶対にあいつは自らの手でとどめを刺しに来る。

 

それを止めるために俺はここに来たのだ。

 

「…傷だらけでも仲間のために立ち上がるその意志。恐れを知らぬ勇気と賞すべきか、状況を把握できない蛮勇と嗤うべきか」

 

見下す曹操が追い打ちをかける。槍をくるくると回すと、鮮やかな閃光を描いて俺の太腿を貫いた。

 

「がぁぁぁぁぁッ!!」

 

痛い痛い痛い。激痛で叫びが体の芯から迸った。傷口から漏れ出す赤い血がプライムスペクターのスーツに染み込んでいく。頑丈なはずの強化スーツなど知ったことかと言わんばかりに聖槍の一刺しは容易く太腿を貫通していた。

 

こいつ、脚を狙ってきやがった。これじゃあ立ち上がれないし、この痛みを背負ったままテクニックタイプという言葉を文字通り体現するこいつとやりあうのはかなりキツイ。

 

ずぶりと生々しい音を上げながら槍がゆっくりと引き抜かれる。

 

「足を潰された君はもう逃げられない。でも始末するのは兵藤一誠からだ」

 

「なん…だと」

 

「君の爆発力は侮れない。爆発力の源にある不屈の精神は称賛に値するよ。だがもっと恐ろしいのは兵藤一誠の未知のポテンシャルだ。神器の力が煩悩と結びついたとき、どんな奇跡を起こしてくるかわかったものじゃない。だから今、ここで、確実に仕留めておくのさ」

 

聖槍に付着した血を振って払う曹操が、再び兵藤に狙いを定めた。

 

これから来るとどめの一撃。奴は完全に戦いを今終わらせる気でいる。だが兵藤は逃げるそぶりの一切を見せない。

 

「…なあ、最後に聞かせてくれよ」

 

静かな兵藤の問いかけ。そこには不思議と、敗北も諦観の感情もなかった。

 

「何かな、このタイミングで君が俺に何を問うのか気になるところだね」

 

「さっきの白銀のヴァーリと今のお前が戦ったら…どっちが勝つ?」

 

「流石の俺でもあれは無理だよ。出力、スピード、パワー、どれをとっても桁違いだ。君も見ただろう、あのプルートがぺしゃんこにされて瞬殺だ。あの技は受け流せないし、転移で逃げる前に致命傷を負わされる。もはやあの領域は超越者だよ」

 

俺たちをここまで追い詰める曹操が勝てないと評するあのヴァーリの新たな力。消耗が激しいが、曹操ですらヴァーリが消耗で倒れる前に勝負が決するというのか。

 

しかも超越者と言えば冥界に三人はいる、サーゼクスさんを始めとする強者の中の強者。悪魔という種を逸脱しているとすら言われる存在だ。その域に限定的ではあるものの踏み込めるあの男の力…やはりあいつは最強の白龍皇なのだろう。悔しいが認めざるを得ない。俺でもプルートを瞬殺するのは不可能だ。

 

「…ははは」

 

そのコメントに兵藤は笑いを零した。怪訝そうに曹操が眉を顰める。

 

「何がおかしい?」

 

「いや…俺が失敗しても、あいつがやってくれるって確信できたからさ」

 

「?」

 

意味ありげに笑う兵藤に俺も曹操も揃って疑問符を浮かべる。あいつ、何を考えている?

 

その疑問の答えに早速答えるように見せたのは、ドレス衣装の部長さんをデフォルメした玩具だった。

 

「…それは」

 

「スイッチ姫の玩具だよ…おっぱいの部分が飛び出すギミックでさ、試作品が家に届いたとき、リアスが呆れてたっけな…」

 

俺もその時居合わせたっけな。グッズは男の子受けしそうなものから女の子受けしそうなものまで、何でもそろっていた。この玩具を見たときは人間界なら絶対に子供向けで出ないだろうなという感想を抱いた。

 

さらに取り出したのは銃弾だった。何の変哲もない、人間界のドラマでも登場するようなありふれたもの。

それを玩具のおっぱい部分に押し当てた。

 

〔Transfer!〕

 

譲渡が発動し、玩具に力を込めてギミックのスイッチを押した。

 

玩具の仕掛けは神器の力で押し上げられたことにより、さながら拳銃で発射した時と変わらないスピードでおっぱいが飛び出し銃弾が放たれた。

 

「!」

 

これにはさすがの曹操も驚くが、奴は難なく槍で弾いた。その勢いで弾丸が割れて中身の液体が飛び出し、雫が曹操の右目に跳ねた。

 

あいつ、玩具でこんなことを…。俺でも思いつかないぞ。でも、最後の望みを託したであろう不意打ちは失敗に終わった。

 

…いや、不意打ちならどうしてわざわざ玩具を奴に見せた?そんなことをすれば弾丸を防がれるのは容易に想像できるだろうに。

 

「最後の悪あがきか。それもそんなつまらない玩具で…俺を落胆させないでくれよ」

 

液体のついた右目をこすりながら奴はつまらなそうに息を吐いた。

 

「なんだこれは?」

 

こするうち、曹操の体が大きく震えた。ごぼっと苦しそうにせき込み出したのだ。

 

口を手で押さえた曹操は、自身の手についたものに驚いた。

 

真っ赤な血がその手のひらを染め上げていたからだ。

 

「なんだ…?」

 

「ぐ…うぁっ!?」

 

奴の異変は続いた。さらには力が急速に抜けたのかその場に倒れこみ、四肢が痙攣を始める。

 

「力が抜けて…ごは!」

 

さらに吐血。おもちゃ売り場の冷たい床に生暖かい血が広がる。俺は訳も分からず、ただ茫然と奴の異変を見るしかなかった。

 

さっきまでぴんぴんしていた曹操は、今や見る影もなく床に倒れて血を吐き、もがき苦しんでいる。その一方で時間が経ったことで多少回復したらしく、両手をつきつつ兵藤が立ち上がった。

 

「足が震える…吐き気が…一体、何をした…!?」

 

「さっき打ち出したのは、次元の狭間で拾ったゴグマゴグの内臓式対魔物用機関銃の銃弾だ。大昔にできたはずなのに今と変わんない形してた。人間の技術って、昔の神様の技術とそう変わらないのかね」

 

ゴグマゴグの機関銃…つまりガトリング砲か。ルフェイが連れている大型ゴーレム、先生も前に次元の狭間で捨てられて停止した同型がうようよいるとか言っていた。グレートレッドとオーフィスと一緒に行動している間に入手したのか。

 

しかし弾丸は奴に命中していない。今ダメージを与えているのはむしろその中から飛び出して曹操についた液体の方だ。

 

「機関銃の弾丸だけで…これだけのダメージは、与えられないはずだ…!!」

 

「そう、だから弱点攻撃をさせてもらった。ライザーの時も、聖水を使ったようにな」

 

「弱点…!?」

 

ライザーとの決闘で、あいつは悪魔に必殺の効果を持つ聖水を使って勝利をもぎ取った。予め力を得るためにドライグに左腕を捧げて悪魔ではなく龍の腕にすることで、自身は聖水の効果を受けずに済んだ。

 

だが曹操は悪魔ではない。フィジカルの弱さこそあれど悪魔のように聖水は効かない。なら、あいつが見つけた曹操の弱点というのは一体…?

 

「体を再生するときに抜き取ったサマエルの血をオーフィスに頼んで弾丸に込めた。メデューサって髪が蛇の怪物だから、神様が憎んだドラゴンと蛇に分類されるんだろ?だから、今のお前に効くんじゃないかって思ったんだ」

 

「!」

 

「…そうか、サマエルの毒がメデューサの眼に…!!」

 

ようやく得心が行ったと曹操がかっと目を見開いた。メドゥーサの眼を移植されていた右目は毒の効果で潰れてとめどなく血が流れ出している、

 

サマエルの毒。それなら今の曹操の状態も納得がいく。外側から物理的に殴っても効かない頑丈な体も体の組織を破壊する毒には無力だったらしい。

 

もしメドゥーサの眼を移植しなければ、サマエルの毒の効果をここまで受けることはなかっただろう。だが奴は京都で攻撃を受けて失った右目の代用としてメドゥーサの眼を移植した。アザゼル先生を下す力をも発揮したが、結果として最後の最後で大きく足を引っ張る形となってしまった。パワーアップが裏目に出たというわけだ。

 

「ははっ…がは…悪魔でドラゴンの君を一度は殺した毒だっ…英雄化し、聖槍持ちとはいえ俺は人間…耐えられるはずがない…」

 

今にも死にそうなほどの激痛に苛まれているはずなのに、奴はおかしそうに自嘲の笑いを上げた。この状況ですらこのバトルジャンキーには楽しさを感じるのか。それか死にかけて脳がおかしくなってしまったのか?

 

「どんだけ殴っても躱してくるお前でも…これで終わりだ」

 

曹操が纏う英雄化のパーカーも光の粒子になって徐々に形を失っていく。

 

英雄化も解除され、懐から眼魂が二つ、からんころんと床を転がっていった。禁手の光も消え、槍は輝きを失っていく。奴が戦う力を見る間に喪失していくのが目に見えてわかる。

 

「体から、力が抜ける…フェニックスの涙もサマエルの毒には打ち勝てない…これまで相手の弱点を研究し、突いてきた俺が…弱点を突かれて…負ける…!!最高の皮肉だ…俺が..『人間』だから…敗北するのかッ…!!」

 

肉体スペックが異形種に劣る人間では聖書の神の悪意と称されるサマエルの猛毒には耐えられないだろう。

なにせドラゴンキラーの極致でもあるこの呪い、兵藤を一度は殺しヴァーリを殺すまではいかずとも数日不調にし孫悟空の助力がなければ解呪できない程のものだ。

 

それを受けてこいつが生き延びれるとは到底思えない。もう戦うどころか立つことさえできないだろう。

 

…俺たちの勝ちか。

 

しまらないフィニッシュだが、何も言うまい。こいつと戦ってギリギリの状態ながらも生き残れただけで御の字だ。

 

兵藤の機転が無ければまず負けていた。曹操の七宝を俺が対処しなければここまで辿り着けなかった。これは俺たち二人だったからこそつかめた勝利だ。

 

『ずむずむいやーん』

 

シリアスな場面を和ますようにスイッチ姫の玩具から音が鳴った。ぶふっと耐えられないと兵藤が噴き出す。

 

全く、先生たちに顛末をなんて報告すればいいんだ。こんな子供向けの玩具で兵藤が曹操を倒せましたなんて信じられるか?

 

「…なら、使うしかないな」

 

「?」

 

ガツ!

 

石突を強く地面に突き立て支えにし、震える足でなおも曹操が立ち上がろうとしている。

 

「あの時は…見せられなかった力を…お見せしよう」

 

意味深な言葉をつぶやく曹操。その目はまだ勝負をあきらめていない男のそれだ。

 

あの時は見せられなかった?…まさか!

 

「『覇輝《トゥルース・イデア》』だ」

 

「「!!」」

 

にやりと笑う曹操に、俺たちは戦慄する。

 

そういえばまだ使ってなかった。こいつ、土壇場で賭けに出やがった!

 

覇輝はどんな効果が起こるかわからない能力。効果によってはサマエルの呪いを打ち消してここから逆転されかねないし、かえって曹操に不利な効果になる可能性もある。結果がどうあれとにかくこの場から離れた方がいいのは確実だ。

 

焦る俺たちを他所に奴は槍を構え、厳かに詠唱を始める。

 

「槍よ、神を射抜く真なる聖槍よ――」

 

「くっ…足が…!!」

 

退避しようにも脚の激痛が重い足かせとなりこの場に俺を縛り付ける。これでは退避しようにもしきれない。おまけに体の力も抜けてきた。連戦の疲労がここで祟ったか。

 

「我が内に眠る覇王の理想を吸い上げ、祝福と滅びの狭間を抉れ――」

 

聖槍の先端がかしゃりと音を立てて開き、光を蓄え始める。

 

兵藤を見やるが、あいつも同様でどうにか離れようとするが体がふらついて倒れてしまった。

 

「兵藤…!!」

 

フーディーニの能力で鎖を伸ばし、せめて兵藤だけでも逃がそうとするがもう間に合わない。

 

「汝よ、遺志を語りて、輝きと化せ――!!」

 

最後の一節が綴られたその時、莫大な光が辺り一面を呑みこんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――。この戦いが終わったら、こいつらと一緒に武器職人のための組織を作ろうと思う』

 

6人の赤服の男女を従える褐色金髪の女性。

 

『ラディウス、貴様ほどの男が…!』

 

曹操と同じ槍を持つ男が、スケイルメイルを纏う騎士と激しく切り結ぶ。

 

『行け、―――!!我らに構うな、今こそ神域の門を閉じる時ぞ!!』

 

『二つの世界の未来のために、この戦いを終わらせようぜ!!』

 

『キメリイェス、カリエル…!済まない!』

 

光の中、俺はいくつかのヴィジョンを見た。騎士さながらの紫と銀色のスケイルメイルを纏う男と3対の白い翼の天使の男が戦場を駆け抜ける場面。

 

これらすべて自身がそのまま体験しているかのような、一人称のヴィジョンだ。だとするなら、これは誰かの記憶…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

意識が遠ざかり、光が徐々に弱くなる。光が完全に収まれば、変わらず玩具が散乱する売り場の様相が目に映る。

 

「…?」

 

「ど、どうなった…?」

 

変化はどこにもない。この場所にも、俺たち自身にも、何も。

 

この現象を引き起こした曹操は、ただただ絶句している。俺たち二人を相手に一切の余裕を崩さず、サマエルの毒を喰らってなお笑っていたこいつが言葉を失って聖槍を見つめていた。

 

「発動、しない…」

 

覇輝は何の奇跡も起こさなった。それどころか聖槍のオーラは徐々に弱まってきてすらいる。まるで聖槍自身が、戦う意思を無くしたかのように。

 

聖槍を見つめる曹操が、不意に何かを悟ったような表情を見せた。

 

「…そうか、それがあなたの『遺志』か。俺の野望より、赤龍帝の夢を選んだのだな」

 

聖書の神が曹操より兵藤を選んだだと?どういうことだ?覇輝は必ずしも所有者の利になるランダム効果を発揮するわけではないのか?

 

それにその発言だと、俺が記憶を見たことを曹操は知らないことになる。これは覇輝の効果ではないのか?

 

「随分と苦しそうだな、曹操」

 

絶えない疑問がいくつも湧く中、割れたガラス窓からヴァーリが入って来た。顔だけ晒して白龍皇の鎧を纏っておりいつでも戦えるようにしている。

 

槍を支えにして力なく項垂れる曹操を見下ろすヴァーリ。そんな彼に気づくと、曹操はふっと笑った。

 

「…ヴァーリか、君のライバルがやってくれたよ。やはり最高だな」

 

「さっきの光の高まり、『覇輝』を使ったのだろう?なぜ何も起きない?」

 

「『覇輝』は亡き聖書の神の遺志が所有者の野望を吸い上げ、相対する者に応じて様々な効果や奇跡を起こす。今回、聖書の神が示した答えは『静観』…戦いは赤龍帝の勝利であり、俺の野望より赤龍帝の夢の先を見たいと、答えたのさ」

 

…なるほど、効果の内容は勿論だが奇跡を起こす起こさないも遺志次第だと。本当にギャンブルじみた能力だったんだな。

 

「もしお前の野望を見たいのなら、お前を回復させたと言いたいのか」

 

「そうだ。そして俺よりもこの二人こそ…英雄たるに相応しいと、判断したのだろうね」

 

「聖槍が所有者のお前より兵藤一誠を選んだのか。足元をすくわれたな。だからあの時、手に負えなくなる前に俺と兵藤一誠を倒すべきと言ったんだ。余裕にかまけて無視した結果、このざまだ」

 

皮肉気に返すヴァーリに、曹操は弱々しく笑うしかなかった。

 

「…身体能力、生まれ持った素養の差。それ故、異形は人間を侮っていると思っていた。だから俺はその傲慢に付け入る形で弱点を調べ上げて戦ってきた…だが、いつの間にか侮る側に逆転してしまったようだ」

 

曹操はどさりと仰向けになり、天を仰ぐ。血濡れた目を隠すように腕を当てた。

 

「くそ…勝ちたかったな」

 

それは曹操の心の奥から出た本音に聞こえた。大会に惜しくも敗れたスポーツ選手のような血が出るほど拳を握りしめたくなる悔しい感情がその一言に滲み出ていた。

 

「兵藤一誠に勝つのは俺だ」

 

「君に一誠君は倒させないよ」

 

と、さらに現れたのはサイラオーグさんと木場。死にかけのこいつに追い打ちをかけるように続々と集まって来たな。

 

二人の姿を見て、曹操から乾いた笑いがこぼれた。

 

「…二天龍、獅子王、聖魔剣、英雄使い…これは流石に詰みだな。呪いのせいで戦闘にすらなりそうにない」

 

「各地域の豪獣鬼と超獣鬼は既に半数以上が討たれた。残りの討滅も時間の問題だ。魔獣創造の少年がシャルバに戦闘不能にされた今、もうあなたの負けだ」

 

木場が冷静に戦況を曹操に突きつける。俺たちの戦っている間にそこまで戦況は好転していたのか。

 

「ははっ…今になって、ああすればよかった、こうすればよかったと頭に浮かんでくるよ。結果は変わらないというのにね…君たちに手を出した時点で、俺の負けは決まっていたのかもしれない」

 

「らしくないじゃないか、負けに直面して泣き言か?」

 

「紀伊国悠…互いの『英雄』を掲げた戦いに俺は負けた。俺が出だしに掲げた『英雄像』は…間違っていたのか?」

 

「…今わの際に自信まで無くしたのか」

 

「人間として異形に挑戦し、異形を越え、英雄になる…だが俺はメデューサの眼という異形の力に縋ったばかりに敗れてしまった...自分で自分の理想像を否定したようなものだ。…俺は最後まで、信念を貫けなかった」

 

最後に信念を見出した信長と、最後に信念を逸れてしまった曹操、か。余裕と自信に満ちていたこいつが陰って弱気になっているのを見て沸々と湧くのは怒りだった。最期まで曹操の身を案じ、野望の実現を願っていた信長が不憫でならない。

 

だから俺は思いっきり言ってやることにした。

 

「バカかお前は。ビルからそのまま放り投げてやろうか?」

 

「は?」

 

「そんなものは自分で考えろ。最初に行ったはずだ。お前の行いは俺達からすれば看過できるものじゃないが、お前の『英雄像』は否定しないと」

 

「…」

 

「お前が今の自分か掲げるものが間違っていると思うなら、また見つめなおして探し直せばいい。正しいと思うなら貫け。そうすれば何かしら結果は出るだろ。それも、お前たちの言う『挑戦』ってものじゃないのか?」

 

「…はは、全く持って言う通りだよ。やはり、俺の負けだ」

 

思ったことをそのまま説教垂れてやったら満足そうに笑いやがった。ヴァーリもそうだが、戦闘狂ってのはよくわからん人種だ。

 

身は毒でボロボロ、心は軸たる信念を失い迷走。心身共に戦闘不能だ。これ以上の戦闘は無用だろう、後はこいつをお縄に…。

 

ぬめり。

 

感じたのはこれまでにも何度か覚えのある冷たいような、温かいような不思議な感覚。いつのまにか辺り一帯にぬめりと肌を撫でるような霧が立ち込めていた。

 

「…曹操」

 

ぽつりと苦しそうな男の声。霧の中から現れたのはギャスパー君に倒されたはずのゲオルクだった。

 

「ゲオルク、てめえ生きてたのか…!?」

 

俺たちは揃いも揃って驚いた。無数の闇の獣に喰われるあのような凄惨な能力を喰らって生きていられるとは微塵も思わなかったからだ。

 

だがその姿は無事というには程遠かった。片腕と曹操と同じく片目を失い、左足も能力の影響かどす黒く変色している。こちらも戦えそうにはない状態だ。

 

「俺たちは多くの間違いをしたわけではない…だが、一点だけ最悪の間違いをしたようだ」

 

のらりくらりと傷ついた体で曹操へ歩み寄ると、その手を取った。

 

「…二天龍に迂闊に手を出せば身を滅ぼす。シャルバのようにな」

 

「そうだな…また、立ち上がろう」

 

そして奴は転移の魔法陣を開く。こいつ、ここに来て逃げる気か!

 

立ち上がって追撃を加えんとするが、曹操に開けられた太腿の刺し傷がやはりずきりと傷んで俺の動きを止めた。

 

くそ、なんて面倒なところに風穴空けてくれたんだこいつは!

 

「…君たちが何度も立ち上がって来たように、俺たちもいつか…本当の『英雄』になるために」

 

霧が深くなり、二人の姿を隠していく。往生際が悪いぞ、この野郎!

 

「!!」

 

「待て!!」

 

サイラオーグさんがいち早く飛び出し、拳を振るう。瞬間、曹操の聖槍から眩く光が放出される。

攻撃性はない。だが俺たちの眼をくらますには十分だった。

 

フラッシュは一瞬。次の瞬間には二人の姿はなかった。

 

かくして一瞬のスキを突かれて動きを止められた俺たちは、曹操たちを逃がすこととなってしまった。

 

…くそ、せっかくここまで追い詰めたのに逃がしてしまうなんて。奴も逃げるだけの余力が残っているとは思わなかった。俺も傷を負っていなければ止められたはずだった。

 

「逃がしちまった…」

 

兵藤の悔し気な呟きが響く。それを宥めるようにサイラオーグさんが肩を叩いた。

 

「気に病むな、お前たちはあの男に勝ったのだ。あのダメージなら奴も当分は動けまい」

 

「いや、サマエルの呪いを受けたのなら障害が残って二度と戦えない体になるかもしれないな。もうあのすかした顔を拝むこともないだろう」

 

と、断ずるヴァーリ。

 

逃げはしたが、再起は不能か。とはいえ、聖槍と霧という神滅具の中でも上位の二つをこのまま放っておくことはできない。近いうちに捜索・追撃部隊が放たれるだろうな。

 

「兵藤一誠。俺が目標とするグレートレッドと君は通じた。なら、ますますグレートレッドの前に君との決着を優先しなければならないようだ」

 

「だったらいつか決着つけようぜ。今よりもっと強くなってぶっ倒してやるよ」

 

そういえばこいつグレートレッドを倒すのが目的なんだったな。…あれ、もしかしてそのグレートレッドの一部から再生した兵藤を倒せばある種目的の達成に繋がる?

 

「滾るな。...それに、君との戦いも楽しみにしているよ」

 

「なんでだよ」

 

この流れでなんで俺をロックオンするんだ。二天龍だけで盛り上がる流れじゃないのかよ!

 

「この数日で少し面構えが変わった。それにまだ、その力を手にした君とは戦ってないからね。楽しい戦いができそうだ」

 

楽しい戦いってなんだよ。サイラオーグさんといい、戦いの予約を入れてくるのやめろ。サイラオーグさんはまだ許せるがお前はまだお尋ね者だろう。拳のぶつけ合いというか殺し合いになるぞ。

 

かつかつと優雅な足音。見れば、ヴァーリチームのアーサーが一人で現れた。いつも汚れの一点もない綺麗な黒スーツはどこか煤けた様子だ。

 

「ヴァーリ、我々も戻ってきました。予定通り暴れてきましたよ。冥府の三審判の気配を感じたときはひやりとしましたが」

 

「そうか、済まないな」

 

そういえばこいつら冥府でハーデスの軍勢相手に暴れたんだったな。それに加えてサーゼクスさんとアザゼル先生、ジョーカーが直接ハーデスに睨みを利かせに行ったから、かの冥府神も行動を起こせなかっただろう。

 

短くやり取りを終えると、今度は木場に向き直った。

 

「木場祐斗。ジークフリートを倒して魔帝剣すら手にしたあなたこそ、聖王剣コールブランドの使い手たる私の相手として相応しい剣士でしょう。いずれあなたとも剣を交え、剣士の高みを目指したいものです」

 

「…いいでしょう。その時まで、僕もグラムに相応しい使い手になれるよう鍛錬を重ねます」

 

ばちばちと両者の間に弾ける火花。グラムの前の使い手のジークフリートは魔剣の頂点たる魔帝剣の対になる聖王剣の持ち主のアーサーをライバル視していたらしい。持ち主が変わってなお、聖剣の王と魔剣の帝王の因縁は続くことになりそうだ。

 

「…ジークフリート?あれ、お前いつの間にあいつを倒したんだ?」

 

「色々あってみんなで倒したんだ。魔剣もその時手に入れたんだよ」

 

魔剣の一件を知らない兵藤が木場に尋ねる。今の今まで死んでいて、戻ってすぐに曹操との戦闘だったからそのあたりを把握してないのか。

 

四本の魔剣にグラム。今回7本のエクスカリバーを揃えたゼノヴィア同様に木場も大きくパワーアップを果たしたようだ。より一層グレモリーの『騎士』が頼もしい存在になったな。

 

「では、またお会いしましょう」

 

「強くなれよ、兵藤一誠、紀伊国悠」

 

ヴァーリとアーサーは別れの言葉を残し、踵を返して去っていった。

 

…最近はライバル認定して宣戦布告するのが流行ってるのか?絶対に乗りたくない流行だな。

 

〔オヤスミー〕

 

二人が消えたことでようやく俺も変身を解いた。同時に凄まじい脱力感に襲われ、その場でぐったりと横たわる。

 

「いて…はぁ…またゼノヴィアや皆に怒られるな」

 

太腿と腹の傷が痛む。グリムで無理やり止血していたがその能力も解除され、流血が再開する。ちょっとこの出血量はまずいな…。早いところ治療してもらわないと…。

 

「深海君!」

 

「はは…ちょっと張り切りすぎた」

 

「アーシアさんならゼノヴィアと一緒にそろそろこっちに着くはずだよ。僕と一緒に君を追いかけたからね。それまで持ちこたえてくれ」

 

「そうか…」

 

それならよかった。それにしても同時に飛んだゼノヴィアを追い越して到着とは、またしても二人の『騎士』としての方向性の違いが見えるな。

 

「ジークフリートとの戦いで、一度は腕を切り落とされたんだ。僕と言い君と言い、グレモリーの男子って無茶しがちなのかな」

 

「俺は…俺が見つけた答えに恥じない戦いをしたつもりだ。じゃなきゃ…命を賭して俺を生かした信長に示しがつかない」

 

「…どうやら、君も大きなものを得たようだね」

 

兵藤のいない数日間。その中で俺たちは英雄派の幹部たちと戦い勝利を得た。だがそれは単なる敵の討伐に収まらない。木場は魔剣を手にし、俺は英雄と言う存在の定義を見出した。今回得たものはこれから先の道を歩むうえで大きな支えになっていくだろう。

 

「事情は詳しくは知らないが、あの男との戦いで精神的にも肉体的にもまた一段と強くなったのがわかる。兵藤一誠の隣で雄々しく戦った君も俺は十分に評価している。非常時の際には、また共に戦おう。その力をぜひ貸してほしい」

 

俺の話を聞いたか、サイラオーグさんが真っすぐな眼差しで俺を褒めてくる。

 

…おいおい、男だけどなんて心動かされる台詞を言ってくれるんだこの人は。俺が女の子だったら落ちてたかもしれないぞ。流血で死ぬ前に褒め殺しする気か。

 

やっぱり大王バアルかつ、ここまで実力だけでのし上がり実力者を集める人ともなればカリスマ性ってのもあるものかね。

 

血が垂れる口の端を弱々しくも上げて、俺は精一杯の言葉を返す。

 

「…あなたほどの人にそう言われると嬉しいですね。また一緒に力を合わせて戦いましょう」

 

「ああ。…眷属を待たせているのでな。また会おう」

 

「サイラオーグさん、ありがとうございました!」

 

兵藤の礼に男は振り返らず、サムズアップで返した。そのまま窓辺から飛翔し去っていくのだった。

 

サイラオーグさん含めバアル眷属との語らいは中々にない経験で、楽しくもあり有意義なものだった。這い上がり、夢の実現という輝きを目指す者たち。共闘か、競争か、どんな形になるかはわからないがまた戦えるといいな。

 

「悠!」

 

その名を呼んだのは親しき人の声。入れ替わるように窓から悪魔の翼を広げて勢いよく飛び込んできたのは。

 

「…もう来たのか、早かったな」

 

「『天閃』を使って急いで飛んできた。…それでも木場たちには追いつけなかったよ。もっとスピードも伸ばすべきかな」

 

アーシアさんとオーフィスを伴って現れたゼノヴィアだった。

 

「イッセーさん、深海さん!」

 

「俺はいい…さきに深海を治療してくれ」

 

真っ先に兵藤に駆け寄ろうとするアーシアさんを止めて、兵藤は俺を優先してくれた。重傷なのはお互い様だろうに、こんなところでもお人好しか。

 

アーシアさんは戸惑うも、俺の腹と太腿にできた風穴からどくどくと漏れ出る血を見るとすぐに迷いを振り払って俺のもとに駆け寄った。

 

「もう大丈夫です」

 

「ありがとう…」

 

俺の傷を確認し、アーシアさんは神器による治療を始める。出血がひどく結構危ないところを行っていたから本当に助かる。もっと遅れていたら本当に危険だった。

 

そしてもう一人、ゼノヴィアが早足に駆け寄りしゃがみ込むと、俺の顔を間近でまじまじと見つめ始めた。

 

「今度は…何も責めないのか」

 

「どうせ、責めたところで君はやめないんだろう?会ったときからそうだ。木場のように冷静に見えて、考えるよりも行動に移すのが君だからね」

 

「誰の影響だろうな」

 

くすっと笑う彼女が俺から顔を上げた。腹をさすり、どこかバツの悪そうな表情だ。

 

「それに、今回は私も無茶をした。自分を机に上げて君を責められないさ」

 

「それを言うなら棚に上げて、だろ?」

 

彼女はひょいと俺の首元を手で支えて浮かせ、その間に自身の膝を入れる。支えが無くなると、頭部にむちっとした温かくて柔らかい感触を感じた。

 

これはあの膝枕というやつだ。膝枕は何度かしてもらったことはあるが、こんなに幸せな膝枕は初めてだ。相も変わらず大きな胸で半分顔が隠れているが、それでも優しく微笑みかけてくれた。

 

「数日会えなかった分、甘えてくれていいぞ」

 

「じゃ、お言葉に甘えて」

 

「いいなぁ…俺も膝枕されたいなぁ…」

 

「…い、イッセーさん、後で私もゼノヴィアさんみたいに膝枕します!」

 

「マジで!?いいのか!?」

 

どうやらイチャイチャする俺たちを見てアーシアさんにも火が付いたようだ。盛り上がるのはいいけど、しっかり傷を治して…。

 

「…よく生き残ってくれた。それだけで十分だ」

 

…あぁ、生きててよかったなぁ。こうしてもらえるだけでも今日一日戦い抜いた甲斐があった。

 

同時進行のアーシアさんの治療の効果もあってか、すごく安心する。心が落ち着いて、溶けてしまいそうだ。

 

もうこのまま、ゆっくりと重い瞼を閉じてしまいたい…。

 

「ドライグ!馬鹿野郎!死ぬな!!」

 

と、安心感に引っ張られる俺の心を引き戻したのは兵藤の悲痛な叫びだった。

 

「どうした?」

 

籠手に向かって懸命に語り掛ける兵藤。ドライグに何かあったらしい。

 

「ドライグが…意識を失うって…」

 

「何だって…!?」

 

まさか、実は覇輝の効果が発動していて神器の中に宿るドライグが重傷を…!?それとも、まだサマエルの毒の効果が残っていたのか?

 

戦いには勝ったというのに、こんなことあるかよ…!

 

心配する俺たちを他所に無表情を貫くオーフィスがひょいと籠手の宝玉を覗き込んだ。

 

「次元の狭間で力を使って疲れてる。寝るだけ」

 

「…へ?」

 

…えっ、寝るの?疲れたから寝るって言えばそれは至極当然の話だけど、寝るだけ?

 

もしかして、ドライグの言い方が悪くて兵藤が勘違いしちゃった?

 

ぽかんと呆気に取られて口を開ける兵藤。固まること数秒。悲しみの表情は見る間に泣きながらの怒りに変わり。

 

「…馬鹿野郎ぉぉぉぉぉ!!!」

 

渾身の絶叫が炸裂した。

 

それを言いたいのはこっちだ。全く、勝手に勘違いしたあげくに人を勘違いさせて心配までかけさせやがって。何事もないならそれでいいが。

 

それに、さっきまで戦闘してたってのにホント元気な奴だ。血が噴き出ても知らないぞ。ま、血が噴き出しそうなのは俺だけどな。

 

「…はぁ。さて、ひとしきり叫んだことだし。帰ろうぜ、今度こそ、皆のいるところに」

 

「我、赤龍帝の家に帰る」

 

視線を交わす兵藤とオーフィス。いつも無感情なオーフィスが、可愛らしい笑顔を浮かべていた。

 

またあのマンションじみた家に一人居候が増えるみたいだ。ま、部屋ならまだまだ空きがあるし問題はなかろう。

 

その他政治的な問題はあるだろうが、魔獣が引き起こした目下の混乱の後処理も残っている。赤龍帝が手懐けたオーフィスの処遇に手を付けるのは後になって来るだろうな。やるべきことはまだまだ山積みだ。魔王様たちはしばらく忙殺されるに違いない。

 

だが今だけは勝利の余韻にゆっくり浸ってもいいはずだ。

 

「…長い戦いが、やっと終わった」

 

「ああ、やっとだ。気が抜けたらなんだかお腹が空いてきたぞ」

 

「今日は飯を作る元気はないなぁ…」

 

元々入院していた身、無理やり飛び出した上に強敵との連戦を重ねもう立てそうにない。しばらくはゆっくり休んで…。

 

「少し休んだら、中間テストの勉強もしないといけないな」

 

「あっ」

 

何気ない彼女の言葉で、俺の心は折れた。

 

完全に忘れてた…。

 

 




悠河だけに見えた何か。実は覇輝の効果ではなく、覇輝によって強く現出した聖書の神の遺志と
プライムトリガーが共鳴したことで偶発的に起きた現象になります。なので覇輝を使った曹操も
『遺志』も悠河が何かを見ていたことを知りません。

次回、「補習授業のヒーローズ」
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