Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は…
S.スペクター
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50.呂布
第172話「動き出す者たち」
そこは冥界の山岳地帯。おおよそ人の立ち入らぬ大自然が支配する険しい環境に無縁なはずの剣戟音が、鳥の嘶きのように幾度となく鳴り響いていた。
「ぐぁ!」
襲い掛かるは不可視の衝撃波。なすすべなく身を打たれて呻きを上げ、アーサーは地面を転がる。
魔獣騒動の後、独自に神龍戦争時代のディンギルの痕跡を探し始めたヴァーリチームはこの地帯を訪れた。
二手に分かれて捜索を始めた矢先、この男は突如として現れた。
見知らぬ男は名乗りもせず攻撃を仕掛けた。アーサーとルフェイもそれを迎え撃つべく戦闘が始まった。
「ルフェイ…!!」
口の端から血を流すアーサー。その視線の先にはルフェイが力なくぐったりと倒れている。ローブを土で汚し、可愛らしい顔は額から紅い鮮血を垂らす。
戦闘開始直後、ルフェイはフェンリルとゴグマゴグを動員して返り討ちにせんとした。力を封じられたとはいえ異形界トップクラスの魔獣と古代兵器だ。生半可な相手では数秒ともたないレベルだが、男は驚くことにそれを難なく捌き瞬く間に無力化してしまった。
ゴグマゴグの巨体故に鈍重な動きという弱点を突いて翻弄しつつ、確実に四肢を破壊。フェンリルに至っては俊敏な動きを容易く見切り、首根っこを掴んで遥か彼方に投げ飛ばすという荒業で対応したのだ。
兄妹は驚愕したが、すぐに切り替え冷静な対応を試みた。しかし、ルフェイに狙いを絞った男は激しい魔法攻撃を突破して拳打を決めて意識を刈り取る。
妹を目の前で倒されたことに感情揺らぐアーサーは幾度となく激しい剣戟を浴びせた。時に真正面から、時にコールブランドの空間を切り裂く能力を応用し、あらゆる角度、死角から攻撃を叩き込んだ。だが、コールブランドの刃も、ゴグマゴグの重火器も、フェンリルの爪も、ルフェイの魔法も、如何なる攻撃も男に傷一つ付けることができなかったのだ。
刃が触れた瞬間、かきんととてつもなく硬いものに弾かれたような音を立ててそのまま弾かれる。爆炎の魔法を繰り出そうとも、それをものともせず、体の一切を焦がさないまま炎の帳から現れる。
全ての攻撃が通用しない。からくりのわからないこの男の不可思議な術、解明するべく慎重に戦ったがあらゆる動きに目を光らせても謎を解き明かすヒントに繋がるものはなにもなかった。
そうして今、彼は久方ぶりに追い詰められようとしている。
「コールブランドが全く効かない…どういう…」
アーサーは対峙する男を睨むように見上げる。
超然的な雰囲気を纏い、全てを見透かす達観した青い眼差し。神父服のような衣装の上からライトアーマーを纏った一風変わった出で立ちのブロンドヘアの短髪の初老の男。地面に刺さったコールブランドを見て、懐古の色をその瞳に宿した。
「コールブランド…懐かしい剣だ。故にその特性は理解している。そして才能任せの剣筋では私に届くことはない」
「!!!」
男の手が剣とルフェイに伸びる。その時、空から白い魔力の光弾が雨のごとく降り注いだ。
空切るそれを男は一瞥するのみで構わず、剣とルフェイを掴む。その間接近した光弾の悉くが男に触れた瞬間、何もなかったかのように雲散霧消してしまった。
「アーサー!ルフェイ!!」
空から急降下して現れたのはヴァーリだった。ゴグマゴグの銃撃やルフェイの激しい魔法の音を聞きつけ、即座に黒歌達より先行して駆けつけたのだ。
状況をざっと見まわし即座に把握。一瞬目を見開くと、すぐに苦境に眉を顰めた。
あのフェンリルとアーサーがこの男一人に圧倒されたというのか。にわかには信じがたかった。その事実が、目の前の男への警戒を最大限まで引き上げた。
「ヴァーリ…無様を見せてしまいましたね…」
「気に病むな。それよりこいつは…」
二人の目の前でルフェイを肩で担ぎ、コールブランドを地面から抜き放った男。先ほどはルフェイの直撃を避けるべくある程度威力を調整した一撃だが、それが全てかき消された。
「当代の白龍皇…まだ若いな」
「人間…だが、それにしては異質なオーラだ。異形にしては人間の色が強い」
ヴァーリと男。互いを警戒しつつも値踏みするような視線が交錯する。
「注意してください。奴には一切の攻撃が効きません」
「なんだと?なら…」
剣の腕に全幅の信頼を寄せ、自身の中で最強の人間候補に挙がるアーサーが傷一つ付けることなく苦戦を強いられている。この事態を重く見たヴァーリは白銀の鎧へと変化すべく力を高めようとするも。
「…ふむ」
力を高めるヴァーリの一方で、男は興が削がれたようにくるりと背を見せ、退こうとする。
「待て、逃げるのか!?」
彼にしてはらしくなく、叫ぶようにアーサーが問う。妹と剣が敵の手中にあるという事実は彼の冷静さを失わせるには十分すぎた。
「逃げるのではない。私はただ、使命を果たしただけのこと。その証に、この名を覚えておくといい」
穢れなき白のローブを風にたなびかせ、男は静かに、堂々と名乗りを上げた。
「我が名はラディウス。真なる神、ディンギルに仕え、最上におわす方…偉大なる『裁決』に連なる者だ」
振り向きざまにラディウスがコールブランドを振るう。聖なる切っ先によって時空が裂けて生まれた虚空の闇へ、ルフェイを抱えて歩む。
「待て!」
「ルフェイ!!!」
追跡しようと踏み出す二人。アーサーは必死に手を伸ばす。
家を出奔した自分に着いてきてくれた妹をあのようなわけのわからぬ輩に奪われるなどあってはならない。ましてや聖王剣も同様というなら言語道断。否が応でも敵を逃すわけにはいかない。
力の限り叫び、伸ばす。しかし無情にも裂け目は即座に閉じられる。
「!!」
「くっ…!!」
身を激しく焼く悔しさに、アーサーは拳を握りしめ歯を思い切り食いしばった。
誇りの象徴たる聖王剣を奪われただけでなく、妹すらも敵の手に堕ちた。この感情を屈辱と言わずして何というか。
「…行くぞ、アーサー」
「…どこに行くというのですか」
そんな彼に対し、ヴァーリがかける言葉は実に単純明快だった。その声もまた、ぐつぐつと滾る感情に震えていた。
「決まっているだろう。俺達に牙を剥いた代償は…必ず払わせる」
叶えし者最強と呼ばれる男は、天龍の逆鱗に触れた。
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「よっと!」
縄で結んで十字にした木を地面に振り下ろし、突き立てる。
かつて俺と信長が戦った冥界の村近隣の森。かろうじて魔獣の被害を免れ、ありのままの自然を残すそこは戦死した男の墓標を立てる静かな環境を求めるにはうってつけだった。
この墓に信長の遺体はない。今頃冥界の研究所で解剖され、調べつくされているところだろう。一度は魔人化した体がどうなっているか、研究者たちは気になって仕方ないだろうからな。取り調べ中のヘラクレスやジャンヌをバラすわけにはいかないし、ジークは灰になって消えた。消去法で、信長しかいないわけだ。
だからこれはただの気休めだ。それでも何かしら、この男のためにしてやりたかった。
「あんたから繋いだバトンは絶対に無駄にしない」
形見の刀を花束代わりに墓前に添え、俺は改めて誓った。
敵であるはずの俺を生かし、英雄になれと言って未来を託した。迷いぬいた末に貫くべき信念に辿り着いた
、敵ながら気高い男だった。その意志を背負い、俺はこれから生きていこう。
「あなたが弟を止めたのですね」
決意を固くする最中、背後から声。ふと振り返ると、そこに佇んでいたのはたおやかな和服の女性。腰に帯刀したただならぬ気配の刀と手にした花束がその凛とした雰囲気をより際立たせる。強い意志が煌めく青と黒のオッドアイが、墓標を見つめていた。
「紹介が遅れました。天峰叢雲、創星六華閃の一角、天峰家の当主です。以後、お見知りおきを」
「あんたが六華閃の…」
ガルドラボークさんとレーヴァテインさんに並ぶ武器職人の最高峰。現在ガルドラボークさん達がレジスタンスへの加入を交渉中で、信長が首謀者として襲撃された家だと記憶している。
そして、信長の父親の家だとも。
「ガルドラボークと…ポラリスなる者から顛末は聞きました。弟のことも…六華閃の本当の使命のことも」
叢雲さんは腰を落として、そっと墓前に花束を添えた。其の所作の間に彼女はいかようにも読み取れる複雑な感情を浮かべた。怒りとも、悲しみとも、寂寥とも。
「…少し、話を聞いていただけますか」
その間は死者の冥福の祈りか、溢れる気持ちの整理か。数拍おいて彼女は意を決したように口を開いた。
「弟は…尊敬する父を殺害し、大勢の犠牲を出した大罪人です。しかし、彼の過去を知った私には恨み切ることもできません。父から受けた仕打ちを考えれば、こうなって然るべきでしょう。ですが父を恨むことも私にはできません。父は父のやり方で家を守り、次代に繋ごうと必死でした。その陰でプレッシャーに苦しんでいたことでしょう。結果、信長という闇を生んでしまった」
彼女は華奢な手を強く握りしめた。やりきれない思いのままに。
「私にもっと知恵と力があれば、あの時の信長に手を差し伸べ、あのような賊に身を堕とさず、妾の子なれど私と共に家のために尽力する道もあったのではないか、と今でも考えます。…家に仇なす者に情を抱くなど、当主として失格ですよね」
昏い後悔の色を双眸に浮かべ、まるで墓前で懺悔するかのごとく彼女は胸中を告白した。
その告白は当主としてではなく一人の人間としての後悔だった。身内を失い、身内の過ちを止めることができなかったことを悔いて苦しむ彼女。それは彼女の優しさに由来する感情だろう。肉親を愛し、身内に愛情を注げる器の主だと俺は知った。
ならば、俺からかけるべき言葉がある。
「…思い悩んだって、信長は帰ってきませんよ」
「…わかってます」
「過去の過ちは取り消せない。なら、また繰り返さないことが大事だと思います。信長はあなたの罪じゃない。先代当主の罪です。でも、当主の座を継いだあなたは天峰が同じ過ちを繰り返さない未来を選択していくことができる。そうすれば、信長も少しは浮かばれるでしょう」
望まれないまま生まれた彼の苦しみを同じくするものが増えることは彼が一番望まないはずだ。なら、罪を背負った先代から責任と誇りある当主の座を受け継いだ者として責任がある。それを果たすことが天峰から信長へできるせめてもの罪滅ぼしではないのか。
「過つ前の道に戻ることができないってあいつも分かっているから、信念を持って前へ進むことを選んだ。自分の行いにケジメをつけてあいつは命を燃やし尽くした。俺たちも彼のように前に進み、生きていくしかないんです。例えどんな苦しみを背負ったとしても」
俺はあいつから前に進む意志の強さを学んだ。信念を抱いて今を生き、未来へつなぐこと。その意志を持って踏んだ一歩一歩が大事の成就に繋がるはず。
俺には信念がある。仲間と共に戦い、生き抜くこと。そして、凛を救うこと。そのために俺は命を燃やし、前に進む。信念を…願いを叶えるために。
迷う今の彼女に必要なのは意志の強さだ。どれだけ傷つこうとも、道を見失うことなく、傷をないがしろにすることなく進み続ける意志。信長が存命なら、きっと同じものを彼女に求めたのではなかろうか。それはきっと、当主として人を導くリーダーの重要な素質でもあるはずだ。
「…それに、俺にバトンが託された様に、あなたにも信長が託そうとしたバトンがあるんじゃないんですか?」
「…私に託そうとした、バトン」
「じゃなきゃ、天峰襲撃の際に同じ現場に居合わせたあなたが無事だった説明がつかない。あの男は天峰を恨んではいてもあなたを恨んではいなかった…これは単なる想像でしかないですけどね」
襲撃メンバーは信長のほかジークとジャンヌと聞いている。あの強力無比な禁手を持つ信長と魔人化と英雄化を使える英雄派の幹部たち。それら全員を相手にすれば並の相手では命はないし、猛者だとしても深手を負う可能性は多分にある。
生みの親だけでなく、自身に過酷な環境を強いた天峰家そのものを恨むなら叢雲さんにもその矛先が向けられてしかるべき。しかし彼女は今、英雄派の幹部たちとの戦いを経験し、深手を負うこともなく今生きている。それは恨みの矛先が父だけに向けられていたという証拠ではないのか。
その考えに叢雲さんはハッとしたような表情を見せた。
「…信長は父を殺し、私を生かすことで天峰に光ある未来をもたらしたかったのでしょうか。全ての闇を自分一人で背負うことで…」
十字架に目を落とし、深く瞑目する叢雲さん。こぼれそうな涙をこらえているようにも見えた。しかし彼女は悲しみに項垂れることはしなかった。
「…ありがとうございます。おかげで迷いが晴れました」
開眼。その目に霧のように浮かんでいた負の感情はない。晴れ渡る空を見上げ、帯刀する刀に手を据えた。
「決めました。私もガルドラボーク達と共にディンギルと戦います。信長のような路頭に迷い、道を誤った被害者を二度と出さないためにも私なりの信念を貫きます。彼の命は無駄にしません」
もうここに来た時のような昏い感情はない。前を進む気高い六華閃当主の顔つきだ。刀を司る天峰らしく、迷いを完全に断ち切れたようだ。
「あなたと会話出来てよかったです。それに…もう一つやりたいことを決めました」
「?」
「天峰家を改革します。今まで閉じた家を開放し、他の神話体系や六華閃と技術交流や伝承を活発にしたいんです。保守的な五大宗家の繋がりもありますから一筋縄ではいかないと思いますが、頼れる宛があります」
晴れやかで希望に満ちた表情で彼女は夢を語る。
聞けば先代のずっと前から他の六華閃との交流を閉ざし、五大宗家を始めとした日本古来からの勢力との関係を強めてきたという。それら上層部の保守的、利権主義のシステムに天峰家もまた取り込まれていたのだ。
「実は昔、ある一件でラファエルと事件に巻き込まれたことがありまして。以来、今でもこっそり個人的に連絡を取り合う仲なんです」
言われてみれば、ラファエルさんが天峰家とパイプがあるという話を聞いたことがあるな。四大セラフの一角とのパイプは対外的に相当大きな意味を持つ。ともすれば五大宗家との関係を悪化させることにもなりかねないだろうが、従来の主義との決別を目指す改革をするなら避けては通れまい。
「叢雲さんならきっとできますよ。俺にできることは少ないですが、何かあったら呼んでください」
迷いの霧から抜け出した彼女なら成し遂げられる。ラファエルさんだけでなくガルドラボークさん達も協力してくれるだろう。支えが多ければそれだけ望みを達成する可能性は上がる。
「ありがとうございます。でしたら私もあなたが困った時、力になりましょう。愚弟が繋いだ縁を大事にしたいので」
叢雲さんは優しく微笑み返してくれた。一人の男が繋いだ縁が、きっとこの先の未来で大きなことを成し遂げるきっかけになると俺は信じたい。
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「はぁ…はぁ…!!」
整った衣装にだらしない体が特徴の恰幅中年の男、ガイウス・ベトレアルは邸宅の廊下をひた走る。
外からは暴徒と化した領民からの罵声が絶えず聞こえてくる。だがそんなものを彼は意に介すことはない。彼を目下怯えさせるものは『失墜』である。
ベトレアル家は本来、貴族とも呼べないような極小の悪魔一家だ。神龍戦争期に急成長して今や大王派の古き中堅悪魔として確かな権力を握っている。
当然、その陰にはディンギルの暗躍があった。当時、次期当主だったガイウスは家の繁栄をディンギルに願い、その力と助けを持って今の地位まで上り詰めた。殺し、脅し、賄賂。なんでもした。ディンギルの契約によって齎されたその財力と権力を維持するために。
富の見返りとして、ディンギルたちは彼に叶えし者たちのサポートを求めた。戦後残った数少ない叶えし者たちを領地に密造したアジトに匿い、アルルが降臨した二年前からはアルルのサポートにも積極的に陰から動いた。
財力と権力を駆使した隠ぺい工作によって、その事実は決して暴かれることはなかった。大王派でも中堅でありながらある程度のポストであることから、現魔王派も手出しはできなかった。
しかしそれが。
「どういうことだ、こんなはずじゃ…!!」
つい先日、冥界のメディアが一斉に自身の隠ぺいしてきたスキャンダルを報じ出した。これまで葬って来たはずの証拠が全て掘り起こされ、果てにはディンギルとの繋がりまで暴かれてしまった。
これには大いに面食らった。絶対に漏れるはずがないという自信があったからだ。それがたったの一晩で予兆もなく突如として崩れた。
これには流石の彼も恐怖を感じざるを得なかった。
「一体どこから漏れた!?くぅぅぅ…!!!」
慌てて私室に駆け込み、荒くドアを閉めてはカギを掛けるとすぐにガイウスは通信魔法陣を開いて連絡を取り始めた。
『私だ』
返答は早かった。感情の冷え切った女性の声。アルル神のものだ。自身が契約した神ではないが、それ以上の地位を持つ彼女の命は絶対であり、2年前からは彼女に尽くしてきた。
「ガイウスです…!どこからかリークされたかはわかりませんが、全てが…」
『知っている。情報統制が甘かったようだな。いや、そんなことができるとすれば恐らくは機界の者か…』
アルルは全てを見透かしたように平坦な声色で返す。不気味なほどに冷静な彼女の反応が、ガイウスにはとてつもなく恐ろしかった。まるで自身に全く興味がなく、どうなってもいいかのように感じた。
「わ、私を処断なさるおつもりですか…!?」
『このまま行けばそうなるな』
「そんな…!!」
寸分の迷いなく断ずる彼女にガイウスはいよいよ全身の血の気が引いていくのを感じた。
ディンギルの助けがなくなれば、いよいよ冥界に彼の立場はない。外患誘致に問われ公的に処刑されるか、あるいはアルルに刺客を差し向けられ殺されるであろう。
このときはっきり認識した。自分は『終わった』のだと。永い時をかけて蓄え、積み上げてきたその全てが自身の命と共に崩れ去るのだ。
『…だが、最後の働き次第では考えを改めないこともない』
「!!」
それはカンダタの糸だった。先の閉ざされた暗闇で唯一光る光明。ガイウスは何が何でもとすがりつく。
「アルル様…!!私はどうすれば…!?私にできることならなんでも…!!」
あの時と同じだった。金もなく、地位もなく、頼れるものもなく、それでも家族のために行動を起こさねばならなかったあの時。彼は目の前に現れた神にすがりついた。そうして彼は今に繋がる全てを手に入れた。
またあの時のような、ひもじい思いはしたくない。惨めな悪魔にはなりたくない。その一心だった。
『簡単なことだ。お前は時間稼ぎをすればいい。サーゼクスたちが本格的に我らの拠点のガサ入れに踏み出すまでのな』
「は…?アジトを移動されるおつもりですか…?」
『いや、どうせ位置の特定は時間の問題だ。ならいっそ、奴らをそのままアジトに招き入れる…選ばれた客人だけな。そのために準備が必要だ。全てのピースを揃えるためには』
通信魔法陣の向こう側で、アルルは薄く笑んだ。
『こちらから仕掛けるまで』
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「調子はどうだ、ま、魔獣騒動の後処理に不祥事の追及で多忙の極みだとは思うが」
『全くだ。グレイフィアにはよく動いてもらっているから、1日暇を出したよ。ここ最近は働きづめだったから、少しは休んでほしくてね。嫌そうな顔はされたが、渋々了承してもらったよ』
「奥さん思いの旦那さんなことで。お前も休んだらどうだ?」
『そういうわけにはいかないさ。…ようやく掴んだアンドロマリウスとディンギルの尻尾だ。何としてでもここで叩いておきたい』
「わかってる。俺も援護射撃の一つはしてぇところだが、出しゃばると旧魔王派や大王派の政治家がやれ内政干渉だのうるせえだろうしな」
『ああ、だから今回の件は我々に任せてほしい。幸い、内容が内容だけに大王派の者も協力して身内の不祥事の追及にあたってくれている』
「要するにガイウスはトカゲのしっぽ切りに遭ったわけだ。ディンギル側からもそうされるだろうけどな」
『だから、トカゲ本体に逃げられる前に捕まえたいところだよ』
「だが…随分とエゲツないリークだな。賄賂、脅迫、暗殺、などなどそれを50年分。よくもまあこれだけのスキャンダルを集められたもんだ。リーク元はわかったのか?」
『いや、各メディアからメールや電話の発信源を辿ったが、大元に繋がる痕跡の一切が消されていた』
「そうかよ。大王派の深部の情報をこれだけ集め、かつ現魔王派に利する行動をする輩となりゃ限られてくる。俺には皆目見当がつかん。お前は心当たりはあるか?」
『いいや、私もだ。アジュカや諜報機関を思い浮かべたが、あれだけの情報を一切気取られることなく掴み、メディアに流すのは不可能だろう』
「やっぱりか。うちにもそんな凄腕の連中が欲しいもんだぜ。堕天使は年柄年中人材不足だしな」
『…アザゼル、ことがうまくいけば奴らのアジトを暴くことができるかもしれない、と言ったらどうする?』
「マジかよ」
『リークされた情報、証拠からして彼がアルルのアジトを隠匿している可能性は非常に高い。となれば、近いうちに戦闘になるだろう』
「魔獣騒動の直近にか…だが、やるしかねえな。それに…」
『あのポラリスも一枚嚙んでくる可能性がある、と?』
「そうだ。俺たちがディンギルと戦うとわかりゃ絶対に来る。俺たちにディンギルの情報を流したあいつは並々ならぬ敵意を抱いていると小猫から報告を受けているしな」
『…案外、今回のリーク元はポラリスかもしれないな』
「かもな。俺も疑ってるぜ」
『ポラリスが真に敵か味方か…見極めるいいタイミングだろう』
今回はプロローグであると同時にヒーローズ編のエピローグも一部兼ねた回でした。次から本筋に入っていきます。
次回、「伊豆に行こう!」