ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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大変遅れました…色々難産でして、申し訳ございません。

Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は…
S.スペクター
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42.ユキムラ
43.ゲオルク
44.ハンゾウ
46.ノーベル
49.曹操
50.呂布


第173話「伊豆に行こう!」

「ドラゴンショット!」

 

「まだまだ!」

 

紅のオーラと聖なる裂光の応酬。果敢に光を突破する兵藤と赤い閃光を切り裂くゼノヴィア、二人がぶつかり合う。

 

兵藤とゼノヴィアの激しい模擬戦を俺は一汗拭きながら見学していた。普段は木場とやりあう兵藤にしては珍しい組み合わせ。それもそのはず、この組み合わせには意味があるのだ。

 

この模擬戦にはいくつか目的がある。グレートレッドとオーフィスの力で再生した兵藤が紅の鎧をどれだけ維持できるか、パワーがどこまで上がったかの確認、そしてもっと大きな目的が。

 

「おら!」

 

兵藤の切り裂くような拳を正面からエクスデュランダルで防ぐゼノヴィア。殺しきれぬ拳のパワーに押され、じりじりと後ずさった。

 

「速いな!それにパワーも!」

 

「そっちのエクスデュランダルもな!」

 

拳を受け止めたエクスデュランダルの切っ先が幾つにも分裂し、至近距離の兵藤目掛けて走る。擬態の能力をこんな形で使ってくるとは、あいつもエクスカリバーの能力の理解を深めて来たらしいな。

 

「おわっ!」

 

苛烈な突きのいくつかを掠めながらも兵藤は咄嗟に後退しつつ、伸びる切っ先の突きを捌いていく。

 

「ふ、なら…!」

 

カシュっと音を立てて勢いよくエクスデュランダルの柄から鍔が一本飛び出す。7本のエクスカリバーを使う気か。あいつが現状実戦で使える剣は破壊、天閃、擬態ぐらいだが果たして…。

 

「さあ、行くぜ。煩悩開放!」

 

それに対抗するべく、兵藤もとっておきの技を発動させた。奴の体からピンク色の波動が溢れ出し、ゼノヴィアをもその領域に収める。

 

「パイリンガル!!」

 

「!」

 

発動するがゼノヴィアの抜刀より早く、即座に兵藤が突貫。赤いオーラを放出しながら、凄まじいスピードで馳せた。

 

遅れてゼノヴィアの抜刀。抜き放った刀身を地面に叩きつけて、ド派手な衝撃波を巻き起こす。その余波は見ているこちらもびりびりとしびれを感じるほどだ。

 

地面を砕き、激しく土煙を巻き上げながら衝撃波が兵藤へ向かう。だが兵藤は止まらない。破壊の波を諸共せず、赤い彗星になった兵藤は突貫。

 

「はっ!」

 

ついには間合いに入り込み、真っすぐ振りぬいた拳。拳圧が周囲の大気を揺らし、それを目の前で寸止めした。

 

「…ここまでだな」

 

「はぁ…」

 

俺の一言で二人は拳と剣を下した。禁手を解き、汗ばんで息を吐く兵藤に冷やしたタオルを手渡す。ゼノヴィアには冷えたスポーツドリンクを渡すと、ぐびぐびと気持ちのいい飲みっぷりを披露してくれた。

 

「どうだ?」

 

「やっぱり真紅の鎧になってから効果が強まってる。発動も早いし、前よりもはっきり声が聞こえたぞ」

 

「グレートレッドとオーフィスの力と…君自身の力が増したことで進化したのかもね」

 

「それなら、今度こそ凜に届くかもしれないな」

 

前に交戦した時、パイリンガルで凜の声を聴くことはできなかったという。恐らく弱体化しているとはいえ神相手だったからまだ練度の低い術が効かなかったのだろう。

 

だが今は戦いを切り抜け、自力を伸ばしたこいつのパイリンガルは範囲、持続時間、出力、共に大きく進化している。これなら今の彼女にも届きうるのではなかろうか。

 

「お前の乳技も頼りの綱の一つだ。奴にどこまで通用するかはわからないが、それでも可能性があるなら試すほかない」

 

兵藤の乳技は女性に対して抜群の効果を発揮する。身体的、精神的にも作用するそれならあるいはと期待を寄せている。

 

…正直、辱めにも近いこの技をアルルに憑依されているとはいえ凜にぶつけるのはかなり心苦しいものがある。しかし期限も限られている以上は手段を選り好みしてはいられない。心を鬼にしてでも、俺は凛を救いたいのだ。

 

「わかってる。この技がダチの役に立つならいくらでも磨いて使うさ!」

 

前向きな友の返事の頼もしさたるや。…その技の内容がアレでなければ、もっと手放しで喜べたのだが。

 

「よし、それなら次はドレスブレイクを試してみようか」

 

「任せてくれ。着替えなら沢山用意してきた」

 

俺の気持ちを理解している彼女は何と、わざわざ自分から兵藤の乳技の実験体に志願してきたのだ。恥じらいも捨て(元々あったか定かではないが)、一緒に同じ目標に向かってくれる仲間の存在がどれだけ俺の心を救ってくれることか。

 

「おう!じゃ、休憩挟んでやるか」

 

「…ちなみになんだが、ゼノヴィアの胸はどんなことを言ってた?」

 

「『支配の聖剣を使うと見せかけて破壊の聖剣の二刀流で攻める!』…だった」

 

「…」

 

「これが私の戦い方だ」

 

悪びれもせず、堂々とゼノヴィアは言ってのけた。道理で木場が悲しそうな目でゼノヴィアの戦いを見るわけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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翌日の水曜日、夕方になりある程度部員が部室に集まって来たタイミングでアザゼル先生は。

 

「よっしゃお前ら、伊豆に行こうぜ!!」

 

と、唐突に言い出した。

 

俺達はこれまでの経験上、身をもって知っている。あのテンションの先生はろくなことを起こさない。しかも伊豆とか具体的に地名も上げてるあたりリサーチもしてるな?ますます不安だ。

 

「いきなりどうしたのかしら」

 

「お酒に毒でも盛られて頭をやられたのでしょう」

 

ハイテンションに言う先生とは真逆に二大お姉さまは冷静な突込みで返す。アーシアさんと新参者のレイヴェルさんは嬉しそうな反応をしているが、それ以外のメンツの表情は渋い。やはり先生への疑いの目は深いのだ。

 

「なんだよつれねえな、もっと盛り上がれよ!この間の魔獣騒動の慰安旅行に行こうってんだよ」

 

あまりに皆の反応が薄いので先生も子供のように口を膨らませ始めた。

 

慰安旅行ね…中々心動かされるいいワードを使ってくるじゃないか。

 

「ふーん、いいわね。行きましょう」

 

「あ、あっさりと!?」

 

慰安旅行と聞くや否や、部長さんはあっさりと手のひらを反すのだった。さっきまでの疑いの目は何処に!?

 

「私も近々旅行で英気を養う計画を立てようとしていた所なの。そろそろ皆にはリフレッシュが必要だと思ってね。丁度いいわ」

 

なるほど、部長さんも部長さんなりに色々考えてはいたのね。言われてみればここ最近つらい連戦続きだったしなぁ。旅行といえば修学旅行というイベントもあったが、あれも英雄派の横槍を入れられて100%エンジョイできたかといわれたら難しいところ。

 

戦い抜き、学校抜きの100%エンジョイできる楽しい、リラックスできるイベントがあってもいいはずだ。

 

…なら、行かない理由はないな。

 

「いいわいいわ!皆で行きましょ!」

 

「皆様と旅行…初めてですわね。いい思い出ができそうですわ」

 

部長さんが賛成の意を示すと部員の皆も一気に旅行のスイッチが入り、雰囲気が盛り上がり始めた。

結局のところ皆も考えることは同じだったんだろう。

 

だがつと、部長さんが暗い表情を見せる。

 

「…でも、今お兄様が大変な時に旅行なんてしてもいいのかしら」

 

今部長さんが憂慮しているのは兄、魔王サーゼクス・ルシファーのことだ。

 

現在、冥界では大王派の議員の不祥事が明るみに出ており、テレビもラジオも新聞も、あらゆるメディアで連日連夜とりただされている。スキャンダルを各所に垂れ流したのはポラリスさんだと俺は知っているが、恐らくも噛んでいるだろう。

 

大衆から非難の声が上がり、挙句各勢力に仇なすディンギルとの繋がりすらも暴かれてしまった以上は大王派も看過できず、なんとサーゼクス側に与する形で追及しているという状況だ。その対応でサーゼクスさんとそれを補佐する眷属の方々は休みなく働きづめだという。

 

そんな状況で自分たちだけ呑気に遊んでいられないと思うのは彼女が魔王の妹としての責任と立場を自覚してこそだろう。

 

だが先生は部長さんの憂いをふんと笑い飛ばした。

 

「いいんだよ。政治は俺達大人に任せとけ。これまでとんでもない事件と連戦続きだったんだ。ここでがっつり英気を養おうぜ。あれだけの武勲を立てりゃ誰も文句は言わねえさ。グレイフィアだってサーゼクスに休めって言われて休暇取ったんだからな」

 

「お義姉さまも…!?」

 

「ああ、お前はどうする?皆旅行に行きたそうな顔をしてるが?眷属の心身のケアも立派な『王』の務めだぞ」

 

言葉の通り、俺たちは政治面でサーゼクスさんの助けになることはできない。ならばこそ、部長さんの今果たすべき役目は眷属の面々を自分含め労うことだろう。

 

先生に言葉で背を押され、皆の顔を見渡した部長さんは「ならばと」心配の念を晴らした表情で。

 

「…そうね、それなら行きましょう」

 

リーダーがそう言うなら仕方ない。俺も全力で旅行を満喫するまでだ。

 

「よく言った!そうとくりゃ、今度は日程だ。いつにする?」

 

「今度の土日にしましょう。日本の言葉には『善は急げ』とあるわ」

 

今度の土日ね。予定も空いているし、タイミングとしては申し分ない。伊豆旅行、今から楽しみだ。

 

「!『悪は滅べ』ではなかったのか…」

 

「大分勘違いがすごいけどある意味正しいな」

 

そんな語気の強い慣用句があってたまるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

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「…」

 

冬の気配も強まり、そろそろ毛布なしで寝るのはつらい季節になって来た。空模様は厚い雲に覆われ、仄かな月光も届かない。

 

明日は快晴だと予報が出ているが、それを疑わせるような空模様だ。

 

ベッドの上で二人で一緒に横になっていた。言い出しっぺはこちらからだ。最初は一人で部屋に寝るつもりだったがふと、無性にそういう気分になって彼女を呼んだ。

 

「なんだか二人で寝るのも久しぶりだね」

 

「そうだなぁ…戦いに勉強尽くしで、数日会ってない時期もあった」

 

「あの数日間は本当につらかったよ。君には会えないし、入院した君のこと、死んだイッセーのこと、折れたエクスデュランダル、冥界の危機…不安が重なってイリナにも心配を掛けさせてしまった」

 

「同感だ。病室のベッドで何もできず、兵藤のことで何もできなかった自分が悔しかった。あの時は皆不安で一生懸命だったんだ」

 

兵藤がいない数日間、皆悲しみに明け暮れ、道に迷い、その末に進むべき道を見定め直した。どんなに苦しくても進むしかないのだと決意し、命を振り絞って強敵を打ち破った。それは兵藤が戻ったとしても決して無駄にはならない。あの経験と、それによって内に生まれた強い意志は今でも胸の内に滾っている。

 

「…」

 

真っすぐな双眸が俺の瞳を見つめている。そのもっと奥にあるものをも。

 

「目ヤニでもついてるか?」

 

「…今でも君は不安そうな顔をしている」

 

「…やっぱばれるか」

 

「君の考えることなら想像がつくよ。…ポラリスから提示された期限が近い」

 

「…そうだ」

 

ずばりと言い当てられた。それも当然か、英雄派との戦いが終わってからポラリスさんへの連絡を取る頻度は目に見えて増え、兵藤に乳技の打診もした。この動きで察しないわけがない。

 

「どう見てもここ最近、ポラリスさんが仕組んだ通りの流れになっている。ただ…実際にその時が近づいてるって思うと不安になる。兵藤の乳技だったり、色々手段を模索してるけど…」

 

彼女から目線を外し、天井に移す。白い天井は何も映さず、まるでここから先のビジョンのようだ。どれだけ準備をしても、確たるものにならないこの先。

 

「実際、本当にうまくいくのかって怖いんだ。かといってガルドラボークさんの思い通りになるのは嫌だし…君にも励まされたし、何度も自分に言い聞かせたんだけど、なかなかね」

 

語りながらも不安で声が震えそうになる。

 

怖いのだ。もし自分が失敗したらと。あれだけ願い続けてきた思いが結実せずに脆く崩れるその時が。

そんなことはあってはならないと力を身に着け、備えを積み重ねてきた。それでも不安は0にできない。なくならない微かな不安は増大し、俺の心を蝕んでいく。

 

逃げることはできないし、そんなことをする気は毛頭ない。進むしかないと分かっていても、進んだ先が望む未来でないかもしれない不安は俺の足首を掴み、歩みを止めようとすらしてくる。

 

そんな不安におびえる俺の手を、彼女はそっと手で温かく包んでくれた。

 

「…大丈夫。君は願い続けてきたんだろう?なら叶うさ」

 

優しい声に心惹かれ、一瞥した彼女の表情はどこまでも温かい微笑みだった。

 

「神器は持ち主の思いに応える。なら、君の強い思いを汲み取らないわけがない。君の努力と思いの積み重ねが、きっと君の願いを叶えてくれる」

 

「俺の神器…」

 

「それに、私たちがついている。皆だ。皆で立ち向かえば、恐れるものなんてない」

 

皆で立ち向かえば、か。

 

そうだ、この戦いは俺一人で闘ってるわけじゃない。皆と一緒だ。皆、俺の事情を知り、凜を助けようと力を貸してくれている。一人では困難なことも、皆の助けがあれば成功の確率はぐっと上がるはずだ。

 

「…そうだな。恐れることはない。皆と一緒ならどんな未来でも先に進める。…やっぱり、ゼノヴィアがいてくれてよかった」

 

「ふふ、ありがとう。凜を奪還出来たら、皆で歓迎のパーティーでもしよう」

 

「いいな、それ!」

 

きっと凜は知らない異世界で居場所もなく、乗っ取られていたとはいえ自分のしてきたことに苦しむだろう。皆との繋がりが、そんな彼女の寂しい心を癒してくれるはず。

 

彼女はいつも俺が迷ったときに、向かうべき道を見定めさせてくれる。考えなしと言われるような言動も、俺を勇気づけて前向きにさせてくれるには十分効果がある。そうでなければ後ろ向きのまま激戦に向かわなければならないこともあった。何度彼女に助けられてきたことか。

 

もう彼女がいないとだめかもしれない、とまではいかないがそれでも彼女がいてくれるだけでも心安らぎ、元気になれる。これから先も、ずっと一緒にいたい、いてほしい。

 

その思いを伝えようと口を開くより早く。

 

「…なぁ」

 

その潤んだ声でわかる。彼女の求めるものが。

 

「…先日のお祓いはどうした」

 

「一時期はスッキリしていたんだが…やっぱり、我慢できそうにない。久しくできなかったし…」

 

もじもじと向日葵色の瞳を左右に泳がせながら、俺の胸を人差し指でなぞってくる。

 

「お互いに溜まっているんだろう?なら、一緒だ」

 

…そうだな、ここ最近のスケジュールはぎっちりでご無沙汰だったし。

 

なら、久しぶりに張り切ってみるか。

 

「あ、でも明日は旅行だから程々にしないといけないな…」

 

「そうだね、程々に、すっきりした状態で旅行に行こうか」

 

結果、程々にできなかったとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

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そして迎えた翌朝。

 

「いやー、快晴だな」

 

「ああ、いい旅行日和だね」

 

昨晩の暗雲は嘘だったかのようで、晴れ渡る青空の下にオカ研メンバーは兵藤邸前に集合した。思い思いの私服で荷物を携え、旅行を満喫する気満々なのが見て取れる。

 

「伊豆、いずこ?」

 

なお、今回はオーフィスも同伴だ。世間から存在を秘匿しなければならないが、かといって全員が出払う時に一人取り残すというのもということで連れ出すことになった。変装は勿論のこと、ロスヴァイセ先生が魔法を使ったカモフラージュを施すことで対策は万全だ。

 

「やあ。…深海君、大丈夫かい?」

 

木場の気分も上々らしく、いい笑顔で挨拶してきた。俺の顔が具合悪そうに見えるのか?

 

「いやいや、全然ノープロだ。旅行で落とす用の疲れを作っただけだ」

 

「私はまだいけたぞ」

 

えっ、あれでまだ余力あったの…?俺は夜が明けるころにはへとへとだったんだが。

 

元々戦士時代のフィジカルトレーニングで基礎体力があったのに加え、悪魔になってから種族的スペックも大幅に向上したからもっと体力お化けになったんだろうな。おまけに悪魔は夜に強い種族だから手に追えん。

 

「久しぶりの旅行だからドキドキするよ」

 

「伊豆の魚が今から楽しみです」

 

「いつか伊豆に行ってみたいと思ってましたの」

 

近くで一年組も仲睦まじく談笑している。リサーチでも伊豆は海鮮がうまいってもっぱら評判だったな。冥界は海がないからか、魚料理が人間界と比べてイマイチ少ない印象だからな。ここでたっぷり腹に収めておこう。

 

「ところで、今日の移動は魔法陣じゃないって聞いてるかい?」

 

「ん?魔法陣じゃない?」

 

「俺はてっきり魔法陣だとばかり…」

 

移動時間の削減でてっきり魔法陣経由で伊豆に行くものと思っていたが。まあ道中の談笑や眺める景色も旅行の醍醐味というもの。特に異存はない。

 

「なら交通機関で?」

 

「いえ、車移動よ。アザゼルの提案でそうなったの。アザゼルとロスヴァイセが出してくれるわ」

 

と、会話に入って来たのは部長さんだった。

 

「えっ、アザゼル先生の車…」

 

やっぱ異存アリアリだ。あの先生が運転する場面は見たことがないが、十中八九荒いに決まってる。安全運転してくれるとは到底思えない。伊豆に行く前に全員車酔いでリタイアしてしまいそうだ。

 

ものすごく嫌な予感がすると思った次の瞬間、耳を突き刺すのは獣が唸るような走行音。向こうから青いスポーツカーが高速で走ってきている。

 

「まさか…」

 

車は速度を殺さないまま角を曲がり、家の門前で派手なドリフトをかまし、華麗に停車を決めるのだった。

 

閑静な住宅街に似合わぬ激しい運転。人目もはばからずこんなことをする男は一人しかいない。運転席の扉が開き、ジャケットを着たあの男が姿を現した。

 

「よーお前ら、集まってんな!」

 

「アザゼル…あなた…」

 

皆引いていた。うわぁと擬音が空気に滲み出てそうなくらいに。

 

案の定じゃねえか!住宅街で軽くドリフト駐車決めるドライバーがどこにいる!!もう絶対乗らねえぞ!

 

「ふっふっふ、先着4名は俺の愛車で海岸線をドライブできるぜ。さあ、誰が来る?」

 

先生の不敵な笑みに、誰が恐怖したか後ずさる音が聞こえた。

 

俺は絶対に乗らない。今ので分かった。乗ったら死ぬ、そう断言できる。俺は楽しい旅行を目的にしているというのにデッドリードライブに付き合いたくない…。

 

「4名って、じゃあロスヴァイセ先生の車は…」

 

兵藤の疑問に答えるように、またしても車の走行音が聞こえた。今度は落ち着きのある適正なエンジン音だ。

 

果たしてやって来たのは赤いワゴン車。先生の激しいドライビングと違って、速度を落とした安全運転を体現したかのような丁寧な運転っぷりだ。

 

停車するや否や、がちゃと空いた運転席から降りてきたのは私服姿のロスヴァイセ先生。修学旅行の時のようなジャージではなく、大人びた白と黒を基調にした装いに身を彩っている。

 

「お待たせしました。ワゴン車をリアスさんに用意してもらいました。安全運転を約束します」

 

おお…ロスヴァイセ先生の頼もしさたるや…。絶対こっちの車がいいぞ。

 

「お、俺はロスヴァイセ先生の車に乗ります!」

 

早速我先にと手を上げたのは兵藤だった。やはり狙いは同じか!

 

「おいおい、俺のドラテクが信用ならねえってか?」

 

「当たり前じゃないですか!絶対安全運転しないでしょ!3度目の死は嫌ですよ!」

 

「3度目の死はなかなか重いな…」

 

レイナーレ、シャルバに続いての死因が先生か…3回中2回を堕天使が占めることになったら、いよいよ堕天使滅すべしの思想に目覚めても誰も文句を言わんだろうな。

 

「なーに言ってんだ、スピーディーで快適な旅を約束するぜ?」

 

「スピーディーってどれくらい速度出すつもりなんですか?」

 

「ま、堕天使の速度だな」

 

「そこは人間の法定速度守ってくださいよ!!」

 

自分で言い出した旅行を自分で壊す気か!?飛ばしすぎて警察のお世話になりましたなんて最悪の旅行、俺は勘弁だからな!

 

皆が先生の誘いを嫌がる中、一人先生の方へ進み出たのは。

 

「私はアザゼル先生の車で行く。こっちがスリリングで面白そうだしな」

 

なんとゼノヴィアだった。お、面白そうだと…!?言われてみればゼノヴィアの豪胆な性格なら先生側についてもおかしくはない。

 

「わかってるじゃねえか、こっちは後3人行けそうだぜ」

 

「そうね、ならここは公平にじゃんけんで決めましょう」

 

部長さんの提案で、旅行前の天下分け目の戦(じゃんけん)が始まった。

 

この戦い、何としてでも征す!!和平推進大使の名に懸けて!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして一分後、俺たちは勝者と敗者に分かたれた。

 

「いやだぁぁ…どうして」

 

「ひぐ、うぐっ…」

 

「いたたまれねえ…」

 

負けたのはギャスパー君と兵藤、そしてオーフィス。嘆き、悲しみながら二人は俺達に背を向けスポーツカーに乗り込んでいく。

 

ギャスパー君は塔城さんに代わろうかと言われたけど、ここは男気を見せる時だと言ってがんと譲らなかった。それを見た兵藤もギャスパー君が頑張ってるんだということで乗ることを決心した次第だ。

 

「ようこそイッセー、お前には特等席の助手席に乗ってもらおうか」

 

「助けてぇ!」

 

「よいしょ」

 

悲鳴を上げる兵藤とは真逆にオーフィスは微塵の恐怖もなく、スポーツカーに乗り込む。スペック的にもメンタル的にもあの運転に難なく耐えそうだ。後でどんな反応をしてたかゼノヴィアに聞いてみるか。

 

兵藤とギャスパー君に同情の視線を送りながらも、俺達勝ち組はロスヴァイセ先生のワゴン車に乗り込む。

 

「はぁ…なんとか勝てた」

 

人数が人数なので3グループに分けてじゃんけんし、最後まで負け残った人がアザゼル先生行きになった。

俺は最後にオーフィスとじゃんけんし、無事に勝利を手にしたのだ。これで無限の龍神に勝ったという曹操すら為しえなかった勲章を得たぞ。じゃんけんで、だが。

 

「私もあの車に乗るのは勘弁だわー…アーシアもじゃんけんに勝ててよかったね」

 

「はい、流石にあの車ではゆっくりできそうにないですね…」

 

一番奥の列にアーシアさんと紫藤さん、朱乃さんが座る。続く前の列には俺と。

 

「隣、失礼するよ」

 

「ああ、ここスペースあるから荷物預かろうか」

 

「ありがとう」

 

木場が来た。男子二人しかいない勝ち組の中で妥当な組み合わせではなかろうか。

 

そして前の列には塔城さんとレイヴェルさん。最後に運転席のロスヴァイセ先生と助手席の部長さんという布陣だ。なんと華々しいメンバーだろうか。

 

きっと笑いの絶えない良い旅行になるだろう。出発前のこのわくわくも旅行の醍醐味だ。

 

「…え、なにあの車のアンテナ。ガチ過ぎない?」

 

ふと紫藤さんの言葉が耳に入り込む。

 

あの車のアンテナ?先生の車か?

 

何事かと思い先生の車を見てみると、なんとボンネットが展開してアンテナが突き出ていた。

 

…なんで?アンテナの位置、違くない?あれってテレビとかラジオを受信する用のアンテナだよね、普通天面についてるはずだよね。なんでボンネットから飛び出してるの?

 

「はぁ…」

 

「普通に改造車として捕まえられるのではないでしょうか」

 

ロスヴァイセ先生は冷静な突込みを入れるし。あれ、もしかして俺らより先生の扱いに慣れてる?

 

「堕天使の車ってあんなですの?」

 

「いや、あれは先生がおかしいだけだよ」

 

レイヴェルさんを混乱させようとするな!危うくあれが堕天使のノーマルだと勘違いされるところだったろ!元とはいえ堕天使の長として責任ある行動を…って、責任って言葉は先生から縁遠い言葉なんだったな。

 

がちゃり。

 

いきなりアンテナが折りたたまれてボンネットに収納されると、今度はミサイルがせり出した。

 

「っておいいいい!!!」

 

「ちょ、ミサイル!?」

 

「あの車一体どうなってるの!?」

 

いやいやミサイルはダメだろ!!なんでそんな物騒なものを積み込んでんだ!!ミサイル搭載スポーツカーで旅行に行けるか!逮捕しろ、もう今すぐ逮捕してくれ!!

 

「全くあの人は…」

 

「サービスエリアに止まったら色々話をする必要があるみたいね…」

 

お姉さま方は痛そうに頭を抱えだしたし。絶対同乗している四人、これからろくな目に遭わないだろ!!

 

次はどんなとんでも兵器が飛び出すのかと窓から眺めていたら。

 

「はやっ!!」

 

今度はいきなり先生のスポーツカーは爆音でエンジン音を鳴らしながら、爆速で彼方へ走り去るのだった。

 

ちょっと、もう出発するのか!?こっちはまだ何も連絡来てないぞ!!ほんとゴーイングマイウェイだな!!

 

「ロスヴァイセ、アザゼルを追うわよ!ただし安全運転で!」

 

「了解です!ちゃんとシートベルトを締めてくださいね!」

 

かくしてドタバタと、俺たちの慰安旅行が始まった。




ワゴン車の人数を増やしました。

次回、「デッドリー・ドライビング!」
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