ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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大変長らくお待たせしました。もはや「ペースを速めます」といった文言の信用がない…。

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第174話「デッドリー・ドライビング!」

「先輩の最近のおすすめ映画は」

 

「ジョンウィック一択。アクション祭りで見終わった後油マシマシの大盛ラーメンを食った気分になる」

 

「同感です。いいアクション映画を観た後は動きを取り入れたくなります」

 

伊豆までの移動時間。車中は思い思いの雑談で盛り上がる。思えばオカ研内で大人数で何の変哲もない雑談をするのは久しぶりかもしれない。いつも何かしら戦いや異形関係の話題だったから、肩を張らずに気楽に会話できる。

 

「その映画、ゼノヴィアさんも絶賛していました!でもアーシアは見ない方がいいって…」

 

「あはは…確かにあの手の映画はちょっとショッキングすぎるかな」

 

苦笑いする木場。アーシアさんにあれはキツいだろう。なにせずっと撃ちっぱなし殴りっぱなし殺しっぱなしだから。純粋無垢なアーシアさんには刺激が強すぎる。

 

「その映画、私なら大丈夫でしょうか?」

 

「レイヴェルは…ちょっときついかも」

 

「確かにな、二人で行ったけど最初は音がデカくて心臓が止まるかと思った」

 

内容もないようだがあの音量でずっと銃声に打撃音だぞ。慣れないうちは耳が割れそうだったわ。

 

「あらあら、二人は派手なアクション映画が好きなのね。恋愛系も観たりはしないの?」

 

「サブスクで観たりはするんですけど、映画館に行くといつもウキウキになって彼女がアクション観たいって言うんですよね」

 

「それわかる!それか教会関係の映画なのよね!」

 

「場面がありありと想像できる…」

 

あいつ、大画面で観るならアクション一択って感じなんだよなぁ。一回だけ恋愛系も観たんだけどそれよりアクションの方が大画面と音を楽しめるといってそれっきりだ。教会関係は日本だとあまりないから彼女が言わないだけか?

 

「へぇ、水族館には行ったけど映画館はまだなの。二人っきりで映画館…言葉にするだけでもドキドキするわ。私も今度誘ってみようかしら」

 

「朱乃、計画を練るならもっと小さい声で呟くことね」

 

「あら、真っすぐなイッセー君にリアスのような回りくどいやり方が通じて?」

 

「言ってくれるわね…!!私だって一緒に観たい映画はいくつかあるわ!」

 

「でも果たしてイッセー君に刺さるかしら?」

 

お姉さまがすげえバチバチしてる。一回あいつが死んでからというものの、寂しさの反動でさらに愛が強い…というか重くなったんじゃないか?

 

「一緒に映画を観るね…ありきたりだけどすごく良さそう!」

 

「わ、私もイッセーさんを誘って映画を観たいです!」

 

「アーシア先輩のアグレッシブなアプローチ…私も負けてはいられません、でも」

 

おーっと、イッセーガールズのイッセーガールズによるイッセーのための戦争が始まったぞ。俺はそっとフェードアウトしましょうかね。

 

「映画館じゃなくてもいいかもしれません。映画鑑賞では『一緒に観る』ではなく『同じ感動を共有する』ことに意味があると思います」

 

「な…」

 

「深いわぁ…」

 

「これは負けね…小猫に負けたわ…」

 

塔城さんの深みのある意見にお姉さま方が言葉を詰まらせると、ヒートアップした雰囲気が一斉に鎮まっていく。皆も一様に納得した表情を見せた。

 

観るという行為そのものではなくそこで得た物に意味を見出す。それはある種、映画鑑賞のみならずフィクションを楽しむうえでの神髄ではなかろうか。

 

今後、それを念頭に置けば彼女との映画鑑賞をより楽しめる気がする。後で映画の選定でもしようか。熱が冷めないうちに。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、和やかな雰囲気の下で皆があの映画はどうだこの映画ならとディスカッションが始まる。愉快な会話をBGMに窓からの眺めでも楽しもうかと思ったら。

 

「ねーねー深海君」

 

「ん?」

 

「綾瀬ちゃんのパパのこと、なんか聞いた?」

 

話しかけてきたのは紫藤さん。少し前に上柚木の父親が奈良に行ったきり、音信不通になり戻ってこないのだ。行方不明とされているが、最悪亡くなっているかもしれない。

 

「警察の捜査も入ってるけど、全然進展がないって聞いてる。割と業界では著名人だったからちょっとしたニュースになってるな」

 

「そうよね…綾瀬ちゃん、ここ最近どんどん表情が重いの。きっと心配でたまらないんだわ。きっと綾瀬ちゃんのママも同じ気持ちよ」

 

紫藤さんの言う通り、最近の上柚木は日に日に憔悴している。授業中もぼーっとしていて先生にあてられても答えられなかったり、休み時間も誰とも話そうとしない。それでも登校するのは彼女の生真面目さか。

 

「早く見つかるといいですね…綾瀬さんのお父さんにご加護があるよう、お祈りします」

 

アーシアさんも上柚木とかなり仲がいいからな。友達のことが気が気でならないはずだ。

 

しかし、行方不明になってから約2週間。遺体が見つかったわけでもなく、連絡がつかない。家族仲は良好でばっくれたとも考えにくい。あるとしたらフィールドワーク中に何らかの事故に巻き込まれたか、あるいは。

 

「まさかとは思うけど異形絡みとか?」

 

と、紫藤さんは一つの可能性を示す。異形が絡んでくるとなるとまた話が変わってくる。

 

「…確か、最後に調査に出たのが奈良の山奥の集落だったな。だったら魔物やはぐれ悪魔に襲われたって線が濃厚か」

 

「あるとしたらそれかしらね…」

 

山奥なら大公の目を逃れるための潜伏先としてうってつけだろう。

 

「うーん、でも結局、自分で言っておいてなんだけどそもそも異形が絡んでるかどうかすらも怪しいからね。ここは警察の方々の頑張りを祈るしかないよね…」

 

「そうだな…異形関係でない事件に、俺らが無暗に首突っ込むわけにはいかないしな」

 

なんでもかんでも異形が絡んでいると判断するのは俺達の悪癖かもしれない。ここ最近面倒ごとばかりに巻き込まれ続けたせいで直ぐに禍の団関係だと考えてしまう。この世界は異形だけで回っているわけではないのに。

 

「ごめんね、楽しい旅行で暗い話になっちゃって」

 

「いや、いいよ」

 

友人の悲しみに何もしてやれないのは辛いな。天王寺も気にかけているんだが、中々少しでも前向きにはできないらしい。何事もなく、帰ってきてくれるのが一番の解決法なんだが…。

 

「私も皆の会話に交じりたい…」

 

運転席から悲しい呟きが聞こえたような。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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緩やかな走行が続き二時間後、高速道路に入った車は予め予定していたサービスエリアに止まった。長時間の走行は疲労をもたらし、事故に繋がる。適度な休憩は必要だ。

 

「お土産コーナーに行ってきますわ」

 

「私も私も!」

 

「二人とも財布忘れてる…」

 

レイヴェルさんに紫藤さん、塔城さんは到着して早速土産コーナーに駆け込んだ。俺も後で行こうかな、ずっと車内に居っぱなしだと体もなまるし気分転換にもうってつけだ。

 

「ちょっとアザゼル、あの車にどんな改造をしたの?」

 

「物騒が過ぎますわ」

 

「んだよいいじゃねえか」

 

先生は絶賛車の改造や運転のことで二大お姉さまから説教中だ。説教されて然るべきだと思う。改造車は普通に捕まるぞ。もはや改造の域を優に超えているが。

 

「んぁぁ…」

 

「ギャスパー、大丈夫か…?」

 

「誰か酔い止め持ってる?」

 

元から色白だったギャスパー君の顔色は白を越えて真っ青だ。高速運転による恐怖と乗り物酔いのダブルパンチだろう。ここまで追い込むほどの先生の運転…本当に、ギャスパー君が哀れでならない。

 

「だ、大丈夫ですぅ…まだ、僕は…」

 

「うん、大丈夫じゃないな」

 

意を決して、俺は名乗り出る。

 

「先生、次からは俺とギャスパー君で交代します」

 

と、涼しく覚悟を決めた顔で彼をかばうが内心は恐怖でガクブルである。後輩をこんな状態にさせる運転の車になど誰が乗りたいと思うだろうか。しかしだからといってギャスパー君をこのままこの車に乗せるのは気の毒だし、楽しい旅行の後味が悪い。

 

「おっ、お前もこのスピードが羨ましくなったか?」

 

「いや断じてない。後輩が見ていられないからってだけです」

 

「ほう、お前も随分先輩らしくなったじゃねえか。自己犠牲たぁ尊いな」

 

「急にラスボスじみた台詞はやめてくださいよ」

 

「人間からすりゃ俺はある意味ラスボスみたいなもんだろ」

 

そりゃごもっともだ。人間の代表気取りだった曹操も同じ認識だっただろうしな。

 

「ほ、本当にいいんですか?」

 

「俺のことは大丈夫。アーシアさん、代わりにギャスパー君のケアを任せた」

 

「はい、酔い止めも完備してます!」

 

アーシアさんに託せば安心だ。ロスヴァイセ先生の優しい運転と皆との和気藹々とした会話も回復の一助になるはず。

 

 

 

 

 

 

休憩も程々に、俺たちは車に乗り込み始める。

 

そう、俺はあのアザゼル先生のスポーツカーにだ。

 

「ようこそ、スピードの世界へ」

 

「君も来てくれて嬉しいよ」

 

「俺もゼノヴィアと一緒で嬉しいんだが…なんだかな」

 

そこは魔界の扉か。助手席と運転席から既に「向こう側」の住人と化した二人の不気味な笑い声が聞こえてくる。顔をひん曲げ、いやいやながらも俺は乗り込んだ。

 

「お前、本当にいいのか…?」

 

「かわいい後輩のためだ。無理は俺の専売特許だからな」

 

「説得力が半端ない」

 

オーフィスを挟んで一緒に後部座席に座る兵藤。何、愛する彼女と親友と一緒ならどこへでも行けるさ。

 

「スペクター、よろ」

 

「よろ」

 

おまけに最強の龍神様だっている。死ぬなんてことはない。しかしよろって、どこでそんな軽口を覚えたのか。

 

「トイレ休憩は済ませたな?早速飛ばすぜ」

 

全員が揃い、シートベルトを締めたのを確認すると即座にエンジンを吹かし、駐車場から飛び出した。

 

「いやマジで早速かい!!」

 

これから俺たちを恐怖のどん底に陥れる先生のデッドリードライブが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

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これはアザゼルの車に備え付けられたドラレコの音声記録である。サービスエリアから昼の飯どころに着くまでの間、二人の阿鼻叫喚が続いていたという。

 

「うぉぉぉちょっと飛ばしすぎって!!」

 

「先生ドラレコに撮られるって!!捕まるって!!」

 

「おいおい、もう音を上げるのか?法定速度は守ってるぜ?ドラレコの映像も後でちょちょいといじればいい」

 

「モラル!コンプラ!!意識して!!ゼノヴィア、なんか言ってやってくれ!!」

 

「楽しそうだな…私も免許が欲しいぞ」

 

「ダメだ、完全に向こう側に行ってる…!」

 

「深海…あれでもまだスピード出してない方だぞ…」

 

「嘘だろ…!!」

 

「おおおお」

 

「オーフィスは何ともないというかマッサージ感覚か…?」

 

「見ろ、海岸線に入るぞ!」

 

「普通なのタフすぎるだろ!」

 

「頼むから景色を楽しませて…」

 

「いい眺めじゃねえか。景色とスピードを楽しみながら海岸線を走るのも乙なもんだな」

 

「はぁーきれいだー」

 

「兵藤!手放すな、心を手放すんじゃあない!!」

 

「海、きれい」

 

「うみ、きれい」

 

「オーフィスとシンクロすなぁ!」

 

「よーし、そろそろ昼飯の時間だ!カツ食うぞ!!もうちょいで着くから待ってな!!」

 

「安心して待てないんだよ!!」

 

「カツの前に俺たちの安心を考えてくれぇぇ!!」

 

アザゼルは旅行後も時折音声記録を再生して一人の楽しみにしているとか。

 

 

 

 

 

 

 

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涼しい風が馳せる伊豆の海岸。快晴の空を映し出すかのように海は青い。絶好の海日和というべきコンディションだが少し季節外れなためか、賑わう観光客は少ない。

 

「♪~♪~」

 

銀髪の少女…ポラリスが素足のまま、引いては寄せる波が撫でる砂浜を歩けば、波風に白いワンピースが風に躍る。鼻歌交じりのご機嫌なステップで刻む足跡は波に攫われ、その存在を残さない。

 

思えばこうした完全に気分転換、娯楽のために二人で外出するなど何年振りだろうか。基本、外での仕事はイレブンに任せて来たし、用があったとしてもとても娯楽が割り込む余地などない案件だ。

 

「何も考えずに自然を五感で感じる…こういった時間は久しくなかった」

 

波を足で感じながら、その赤い双眸で果てしなく広がる海を眺める。長きにわたる開発作業、情報収集でたまった疲労も、砂と一緒に波と風に流されていくようだ。おかげで心はいつになく晴れ晴れとしている。

 

今回だけ、と言わず定期的にこういった機会を設けるのもいいかもしれないと頭の中の重要検討事項に加えるのだった。

 

「…」

 

一方、連れのイレブンは腰を低くして顔を俯かせ、何やらせっせと手を動かして作業に熱中しているようだ。

 

「…何を作っておる」

 

「城です。一度はこういうことをしてみたかったので」

 

こちらをイレブンが振り返り、その華奢な体に隠れた作りかけの砂城が披露される。作りかけながらも見事な出来栄えだ。完成すれば多くの人をうならせる傑作になるかもしれない。

 

「そうじゃったのう…お主は子どもの戯れとは到底縁遠い幼少期を過ごしてきたのじゃったな。人のことは言えぬが」

 

「でしたら、ポラリス様も作ってみませんか。自分だけの城を」

 

「む、よかろう。今日は機嫌がいい。これまでの開発業務で培ってきた妾のセンス、披露する時ぞ」

 

「なんだか柄にもなくわくわくしてきました」

 

イレブンの普段は硬い表情は自然と緩み、微笑みを見せていた。自分だけでなくイレブンも連日連夜の仕事で張り詰めた気分がこうして目に見える形でほぐれている。その表情にポラリスも自然と綻んでいた。

 

「折角でしたら勝負しませんか、どちらが美しい城を作り上げるか。勝った方が今晩の宿代を負担するというのはどうでしょう」

 

「面白い。しかしはて、審判は誰がするのじゃ?」

 

「…少々お待ちください。近くの人にお願いしてきます」

 

すっと立ち上がったイレブンが走り去ること数分後。

 

「…通りすがりの観光客を連れてきました」

 

「初めまして、グレイフィアと申します」

 

彼女が連れてきたのはメイド服ではなく完全なプライベートモードの魔王ルシファーの『女王』だった。

 

(ぐ、グレイフィア・ルキフグスじゃと…!!何という人選…いやそれより何故こやつがここに…!?)

 

予想だにしない審判の登場にポラリスは内心驚愕に目をひん剥いていた。

 

なんで魔王の妻がここにいるのか、と声を大にして言いたかったが喉を飛び出す寸前でギリギリ呑みこんだ。

 

「城を作る、と聞いて来ました。仕事柄城を見る機会は沢山ありますし審判の経験もあるので私でよければ」

 

「そ、そうか…それは頼もし…ですね」

 

普段の老成した口調を修正、一般的な言葉遣いに変える。城で働き、仕事で多くの悪魔の城を見て来たであろう彼女を砂城の審判に据えるなど、どれだけ評価のハードルが上がることだろうか。

 

これは気軽な遊びで済まないかもしれない。

 

「あなた達、あまり砂遊びをするような幼子には見えないけれど…こういう場所に来たらはしゃぎたくなるものなのね」

 

「そんなところです」

 

「私にも子どもがいるわ。家柄、こういった遊びには無縁だったから…こういうのを見ていると、少しは子どもらしい遊びも経験させれば良かったかもしれないわね」

 

「何かを始めるのに遅すぎることなんてありませんよ。私たちがこうして子どもの砂遊びを楽しんでいるように」

 

「…それもそうね」

 

その言葉にグレイフィアは冷静な面持ちにふと、柔らかな笑みを浮かべた。その笑みの裏の思いを彼女らが知るのは後になる。

 

「さて、砂城を作るのでしょう?」

 

「ええ。今晩の宿代をかけ、いざ尋常に」

 

「「勝負」」

 

「…」

 

30分後。忖度なしで全力の城を作り上げた二人。どちらも負けず劣らずの見事な造形だったが、審判の途中、両者の城が波に攫われ無効試合になったとさ。

 

 




次から話が動きます。

次回、「晩酌」
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