ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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気づいたら評価が上がってました。高評価を頂きありがとうございます。
さらにD×D公式から久々のスピンオフの供給。中等部は全然話題になってないので気になりますね。

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第175話「晩酌」

伊豆の街でトンカツを堪能した俺達。街中を練り歩き土産を買うと、再び車に乗って今度は山道に入った。

二度目の先生の車の乗車になったが、先生も満腹なのか山道を緩やかな運転で移動する。

 

「すー…グレートレッドが10匹…」

 

オーフィスに至っては緩やかな揺れで気持ちよさそうに寝息を立てている。どんな数え歌だ。次元の狭間にあんなサイズのバケモノが何匹もいてたまるか。

 

しばらくすること、前方に突然深い霧が発生する。英雄派との戦いで霧に苦い思い出のある俺の心に不安がひた走る。

 

「先生、霧が…」

 

「大丈夫だ、そのまま突っ切るぞ」

 

なんと先生は迷いなく、車を霧の中へ進めた。窓から見える景色が分厚い白のヴェールに覆われ前も横も後ろも何も見えなくなる。こんな状況、運転どころではないと思ったが数秒後には嘘のように視界が晴れ、前方に和風の旅館が姿を現した。

 

「おぉ…!!」

 

古風な雰囲気ながらもボロくはなく手入れの行き届いており、かといって庶民が足を遠ざけるような高級感があるわけでもない、心落ち着く雅な外観だ。木造の温かみのある色調が辺りの森の雰囲気を邪魔することなく調和している。

 

駐車場に車を止めて荷物を手に降りると、後から続くロスヴァイセ先生の車からも続々と皆が期待の表情で降りてきた。

 

「風情あるいい旅館ですわね」

 

「素敵な夜になりそうだわ」

 

お姉さま方もわくわく、満足そうに旅館を眺める。兵藤の手を握って、どこか顔を期待に赤らめているようだ。

 

「これが日本の旅館…!!」

 

「レイヴェルは初めてだったね」

 

修学旅行に来ていなかった1年組は特に期待に胸躍らせ、楽しそうな表情だ。旅行中、残りのオカ研も来ていたらと何度も思ったが、こんな形で実現できて喜ばしい限りだ。

 

「ここで夜を過ごすんだな、ゼノヴィア」

 

「ああ。この旅館、まだ中に入ってないけどもう気に入ったよ」

 

二人並び、俺たちは心そっと手を絡めてきた。

 

「悠、今夜は…」

 

耳元で甘く囁かれる途中、がらがらと玄関の戸が開き、着物姿の老婆が現れた。しわしわの顔に不気味な笑顔を浮かべ、相応の笑い声で俺たちを出迎える。

 

「ようこそお越しくださいました、いっひっひ」

 

「よう女将!今日は厄介になるぜ、俺たちの貸し切りだ」

 

「貸し切り!?」

 

この人が女将、ってかこの旅館を貸し切りで使えるの!?先生、準備がいいな!運転に振り回された末にこんなラッキーな出来事が待っていようとは。耐えた甲斐があったぞ。

 

「はい、ようこそおいでくださいました。ここは悪魔や堕天使の方々に御贔屓にして頂いている異形専用の旅館ですぞい」

 

「異形専用の旅館…」

 

「ここに来る途中に霧を抜けたろ?あれは人除けの結界だ」

 

あの霧、人除けの結界だったのか。だから先生は全く気にもせずに突っ込んだんだ。何も知らないこちらは気が気でなかったが。

 

「えっ、あれは…」

 

いち早く何かに気づいたアーシアさん。その視線の先にいたのは。

 

「ご機嫌用皆様、先にお待ちしておりました」

 

「「「「「うぇぇ!!?」」」」」

 

なんと、私服姿のグレイフィアさんだ。メイド服ではない初めて見る私服姿。思わぬ人物の登場で一同に衝撃の波が駆け抜ける。

 

なんでと訊くよりも早く、グレイフィアさんは言う。

 

「オフを頂きましたので。学生たちだけの旅行は危険と思い、私も保護者として参りました」

 

「たまたまグレイフィアもオフって聞いたから話をダメもとで投げたら来たんだよ」

 

先生が呼んだんかい。グレイフィアさんも休みを取った話は聞いたが、まさか俺らと合流しようとは。

 

「リアス、羽目を外すつもりだったでしょうけどそうはいきません。殿方と添い遂げたくば旅行の盛り上がりに乗じるのではなく普段の生活で完遂させなさい」

 

「うっ、お見通しというわけね…」

 

図星を突かれたようで言葉を詰まらせる部長さん。旅館で一体何をするつもりだったんだ。やることやりたいなら家でやれ。

 

「そうピリピリしてやんなよ、折角の楽しい旅行が台無しだぜ?」

 

ぽんぽんと宥めるようにグレイフィアさんの肩を叩く先生だったが、蛇のように素早い動きで手首をつかまれてしまう。

 

「そうはいきません、あなたにも話すべきことが山積みです。サーゼクスに悪影響が出る前にこれまでの反省と今後のことについて話し合いましょう」

 

「おい、ちょ、待てよ!俺は酒飲んで岩盤浴もして、遊びつくすだけだってのに連行するのか!?」

 

華奢な手だが相当な力なのだろう。先生が抵抗も出来ずに引っ張られ連れ去られようとしている。何処かに連れ去られながらも俺達に助けを求めるような目線を向けてきた。

 

大恩ある先生を助けるか、俺や後輩を恐怖のどん底に陥れた先生を見捨てるか。その答えは即座に出ている。

 

俺達は笑顔で手を振り。

 

「「「「「いってらっしゃい!」」」」」

 

「この薄情者ォォォォォ!!!」

 

折檻を受けに旅立つ先生を見送るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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夕飯前、大浴場近くの広間にて。寛ぐ者もいれば、疲れを見せずに激闘を繰り広げている者もいる。

 

「サー!」

 

「くっ、姑息なところを狙うな!」

 

「ど、どっちを応援すればいいのでしょう…?」

 

卓球で激しく鎬を削る紫藤さんとゼノヴィア、そして観戦に回るアーシアさん。対抗心を剥き出しに俊敏な動きで球を打ち返している。長距離の移動にも拘らずまだ元気が残っているんだな。

 

「ギャー君とレイヴェルも温泉饅頭食べる?」

 

「え、いいの?」

 

「ありがたく頂きますわ!」

 

「あああああああああ…」

 

「あぉあぉあぉ…」

 

一年組は一年組で楽しそうにゲームコーナーで集まって歓談している。ロスヴァイセ先生とオーフィスはマッサージチェアで気持ちよさげに寛いでいる真っ最中。オーフィスは寛いでいるというより遊んでると言った方が近いか…?

 

俺はそんな皆の様子を特にどうするわけでもなく眺めるだけだ。旅館を探検する中で偶々辿り着いたってだけ。

 

そんな俺に兵藤と木場が声をかけてきた。

 

「よ、暇か?深海は誰と一緒の部屋なんだ?」

 

「一人部屋なら、一緒に来ないかい?」

 

そう、兵藤と木場、ギャスパー君は三人一部屋なのだ。如何に仲がいいと言っても男女混合というわけにはいかない。しかしこの大所帯の男性陣は5名。三人部屋からはぶられた二人はどうなるかというと。

 

「…お前ら、わかってるだろ。俺達四人以外の男性といったらあの人しかいないって」

 

「…ご愁傷様」

 

言葉にせずとも察してくれた木場の同情の目が刺さって痛い。夜は一体何に付き合わされることやら。

 

それはさておいでだ。礼儀として、俺はある人と話しておかなければならないし、話してみたかった人がいる。

 

その人の下へ、自販機で買った午前の紅茶を片手に歩み寄る。

 

「お疲れ様です」

 

「ありがとうございます」

 

マッサージチェアに背を預けてゆったりしているロスヴァイセ先生。駒王町から伊豆までの運転の疲れを癒している真っ最中だ。

 

「長距離長時間の運転、大変でしたよね」

 

「戦闘とは違う意味で気を遣いますから。それに、未成年の引率で気分は半分修学旅行ですけどね」

 

運転中には伸ばせなかった手足を思いっきり伸ばしてロスヴァイセ先生は気持ちよさげにリラックスする。修学旅行に比べれば人数はかなり少ないが、大所帯であることには違いない。プライベートとはいえ年長者として各々の動向にも気を配ったりして苦労したはずだ。

 

「…思えばプライベートで二人っきりで話すことってあまりありませんね」

 

「そうですね、先生は俺たちの中では年長でもまだ新参ですから」

 

先生と話すときの話題は大体学校のこと、異形や戦いの話ばかりになる。こういう肩の力を抜いた話をするタイミングは希少だ。移動中のオカ研メンバーとの雑談といい、こういった中々ない機会も旅行になるとめぐって来るものなんだな。

 

「深海君は、同じクラスのイッセー君たちと比べると普通って感じがします」

 

「え、普通?」

 

いきなり没個性的だという悪口を言われたんだか。アザゼル先生の運転に振り回され続けたんでそろそろ泣いていいか?

 

「悪い意味ではありませんよ?教会出身の三人のようにどこかズレてるとこがなくて、尚且つ真面目ということです。むしろ良いなって思ってます。イッセー君は…言わずもがなです」

 

「あー…確かにズレてるとこはあるなぁ。他の面々と比べたらそう見えるんですね」

 

オカ研メンバーに限らず、あのクラスは松田や元浜といった奇人変人の巣窟だから余計にその「普通さ」が際立つんだろうな。

 

「今の環境、私は気に入っているんです。防御魔法に注力した家柄なので、それと真逆の攻撃魔法が得意な異端な自分を肯定してくれる。皆向上心に溢れてるから、それに影響されてもっと得意なことを思いっきり伸ばそうって思えます」

 

「向上心ですか。自発的は勿論ですけど、そうしないと生き残れないっていう事情もありましたけどね」

 

「そこなんですよね…ここに来てからロキ様に始まり、とんでもない敵とばかり戦ってます。こんな経験そうそうありませんよ」

 

確かに難易度鬼ハードな強敵との巡り合わせは新参者にはさぞキツイ環境に違いない。それでもめげずに苦手な防御魔法を磨き上げて付いてくる根性と、修行を積極的に行う成長志向の強いグレモリー眷属は相性がいいということだろうか。

 

「嫌だなって思ったりしないんですか?」

 

「いえ、それ以上に楽しいっていう気持ちが強いです。お給料もいいですし、チームもそろそろ出来上がったころに北欧から来た異端者を受け入れてくれて、今の生活は充実してるって心の底から言えます」

 

微笑みを浮かべる先生の表情には、内心の不安が一点もないことを示しているようだった。その微笑に俺はどこか安堵の気持ちを覚えた。

 

後から入った新参がそう言ってくれて嬉しく思うのは、先輩としての自覚がしっかり芽生えた証か。過酷な環境に新入りがしっかり付いて行けるか俺はどこか不安に感じていたのだろう。今、その不安を払拭できたことで内心距離が近くなったような気もした。先生の方が年上ではあるが。

 

「後は彼氏ができれば…」

 

「それは…きっと、そのうちできますよ」

 

俺には見える。紆余曲折あってロスヴァイセ先生も兵藤にぞっこんになる未来が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「あぁ…生き返った…」

 

「直近で生き返ったのは俺だけどな」

 

海の幸を夕飯で堪能した後に待っていたのは旅行の醍醐味。山奥の旅館ときたら当然露天風呂は付き物だ。貸し切りで俺達男子組の四人以外誰もいない風呂をのびのびと使わせてもらう。

 

湯船に肩までつかると、体の芯まで温かくなっていく。温泉の熱が連戦に次ぐ連戦で溜まった疲労を体から絞り出す。その快感たるや、湯気と一緒に天に立ち上っていくような…。

 

「木場は細マッチョだよなぁ…いいなぁ…そっちの方が女子受けするんだよ」

 

兵藤が肉付きのよくがっしりとした体つきなのに対し、木場は引き締まった体つきだ。出会った当初と比べてかなり逞しくなったと思う。たまに女子たちがひそひそあいつの変わりようを話しているのも耳にする。

 

ま、女子受けすると言ったりしているし体つきは変わっても根っこは変わってないが。

 

「イッセー君は鍛えれば鍛えただけつくタイプだよね」

 

「そうなんだよ…」

 

「今度皆に聞いてみればいいじゃないか。どっちのタイプが好みか」

 

「それもアリだと思うよ」

 

「そうかぁ…そうだなぁ…そうかもなぁ…」

 

浴槽の縁に顔を埋めること数秒、ばっと顔を上げた兵藤は。

 

「ギャスパー、お前はどっちがいい?」

 

「ぼ、僕は…」

 

いきなり直球で聞いてきたな。部長さんたちに訊く前のデモンストレーションのつもりか。しかしギャスパー君に聞いても兵藤に配慮してムキムキがいいって言うんじゃないのか?

 

数秒悩むようにうーんと唸って首を傾げ。

 

「祐斗先輩で」

 

「ほらなぁぁ!!」

 

「あはは…」

 

予想に反し、自分の意見をはっきり示すのだった。これには木場も苦笑いだ。早速裏切者が出たぞ。もう出鼻をくじかれて顔面を打ちつけてら。

 

「深海はどっちかっていうと俺寄り?だけど木場と間を取ってる感じか?」

 

「鍛えてるのもあるし、毎回ボロボロになるからボロボロになった分体が再生しようと頑張ってるんじゃないか?」

 

鍛えることには熱心だがどういう体つきになっているかまでは気にしていない。いつ来るかもわからん強敵に備えていると、ぶっちゃけそこまで気を配る余裕もないしな。

 

「そうだよなぁ…俺とお前はオカ研の無茶ツートップだしな」

 

「最近は無茶しないと勝てない敵ばっかりだ…身も心も擦り切れる。もうちょい肩の気を抜いて戦える相手がいいんだが」

 

「わかるぅ…」

 

二人そろって、たまった体の熱と一緒に愚痴を吐き出した。これまで戦った敵のラインナップ、異形バトル歴一年生が経験する内容じゃねえ。もうちょっと手心というものをだな。ヴァーリなら涎垂らして喜ぶんだろうけど、俺はあいつじゃないし、あいつのようにはなれない。

 

「でも、そうした戦いを切り抜けた後の休息はすごく気持ちいいよね」

 

「「それもわかるぅ…」」

 

きっと年齢を重ねたらそこにお酒も加わるんだろうな。激闘の後に酒を酌み交わして勝利の美酒に酔う。これ以上になく楽しいひと時になるに違いない。

 

そんなことができる年齢になるまで、この厳しい世界を生き残りたいものだ。

 

 

 

 

 

 

 

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「…というわけで、今から俺の晩酌に付き合ってくれや」

 

「うわ…」

 

部屋に戻った俺を待ち構えていたのは一升瓶を持ってにっこにこのアザゼル先生だった。風呂上がり早々にテンションダダ下がりである。

 

「そんなに落ち込むこたぁないだろ!?」

 

「いや、先生を見るたびにあのワイルドドライブが頭に浮かんで仕方ないんですよ」

 

あの道中、俺が何度事故るんじゃないか、死ぬんじゃないかと危惧したかわかるまい。もう二度と先生の運転する車には乗らねえ。

 

「そうビビんな。なーに、ただ駄弁るだけだ。たまにはこういう一対一の男の腹の明かしあいも大事ってもんだろ」

 

一升瓶に手酌で白く濁った酒を注いで、先生は気持ちよく一杯決めた。ぷはぁーと

 

 

「ここ最近のお前さんはどこか焦ってるように見えたが、今日になってスッキリしたような顔をしてんな。何かあったか?」

 

「いや、ちょっとゼノヴィアにアドバイスをもらっただけですよ」

 

「そうか、同棲してりゃ些細な曇りでも気づくだろうな」

 

具体的な内容までは察していないだろうが、何か悩んでいるくらいの認識だろう。流石、堕天使を束ねてきた元総督だ。部下のメンタルの把握もばっちりか。

 

「俺はゼノヴィアがお前と一緒にいて良かったと思っている」

 

…いきなりズバッと切り込んできたな。唐突だったので数秒フリーズした。

 

「その心は」

 

「お前は色々一人で抱え込むタイプだ。で、ゼノヴィアはずかずか突っ込むタイプだ。バカっぽいところもあるがそれも一種の愛嬌。事実、お前らくっついちまったしな。相性が良かったんだろ。じゃなきゃ今頃お前は潰れていたかもな」

 

「そ、それは…!」

 

「はは!いい反応だ、もっとそういううぶな反応が見たいんだ」

 

照れを隠すように顔を逸らすと先生は愉快気に笑った。

 

「…先生の部下や仲間にも、いたんですか。そういう一人で抱え込むタイプ」

 

「いたぜ、コカビエルだ」

 

「!」

 

意外な人物の名に俺は驚かされた。堕天使の幹部の一角であり、俺達と因縁深い男だ。

 

先生と同じ古参の堕天使で過去の戦争を戦い抜いた猛者だが、戦争継続を掲げて休戦派の先生たちと対立したという。その結果、聖剣計画のバルパー・ガリレイと結託して教会からエクスカリバーを数本強奪して部長さんの統括する駒王町でテロを起こし、三大勢力の戦争を再開しようとした。

 

「あいつも仲間思いで一人で抱え込むタイプだった。だからこそ、堕天使至上主義に陥って俺たちの話を聞かず、独断で暴走しちまった。数少ない昔からの仲間だったのにな」

 

「暴走…あの時のコカビエルはまさしくそうでしたね」

 

野心に目をぎらつかせ、自身の行いに微塵の疑いも持っていない。めらめらと燃え盛る野望のままに行動していた。

 

「そうだろう?あいつは積極的に自分の意見を主張していた。戦争をやめるなと。でも俺たちは認められないと突っぱねて真反対の意見をぶつけた。互いに違う未来を思い描いて、意見はすれ違うばかり。その結果があのざまだ」

 

俺達との戦いで深手を負ったコカビエルは乱入してきたヴァーリに圧倒、捕縛された。その後地獄の底の評獄コキュートスにて凍結刑になり、この事件がきっかけで奇しくも三大勢力の和平会談に繋がり、コカビエルが思い描いたものとは真逆の未来へと進んだのだ。

 

「奴が戻ることはない。言葉を交わすことはおろか顔を見ることさえなくなった今、たまーに考えちまうのさ。どうすりゃあいつも今の輪の中にいられたか、ってな」

 

またお猪口に酒を注ぐと、先生は景気よくぐびっと呷った。普段は飄々とした先生の瞳に一抹の寂しさがよぎったようだ。

 

「抱え込むところはあるがお前はコカビエルとは違う。あいつには他種族への情がなかったがお前にはある。種族を越えた友情、愛って奴がな。その心、絶対に暴走させるんじゃねえぞ。いざってなったらまずはゼノヴィアを頼れ」

 

「ゼノヴィア、ですか」

 

「なんでって、そりゃあいつが一番お前を知っているからに決まっているだろ。ほんでだめなら俺達だ。頼ることは弱さじゃねえぞ」

 

「…わかってますよ。このプライムスペクターも、皆との繋がりあってこそ手に入れた力ですから」

 

あの時俺は自分の真実を打ち明け、仲間との絆をより強固にしたことでプライムスペクターの力は結実した。プライムトリガーを握るといつでもその時の感情を思い出せる。

 

まだレジスタンス関係を明かせない負い目はある。だがそれもいずれは明るみに出すつもりだ。レジスタンスとグレモリー、俺がその懸け橋としてディンギル対抗のための一助となる。それが俺のやるべきことだ。

 

「それでいい。お前は今のまま強くなれ、勿論欠点は潰してな。歪みそうなら俺たちが真っすぐに矯正してやっからよ」

 

「…」

 

「どうした、鳩が豆鉄砲を食ったようだぞ」

 

「思った2倍以上真面目な話だったのでビックリしただけですよ」

 

「曲がりなりにも俺はお前らの先生だからな。たまには先生としてカッコつけさせてくれよ。前線での戦いはいつもお前らに任せっぱなしってのは癪だ」

 

任せっぱなしなんて言いながらも、裏では俺たちが気兼ねなく戦えるようにするために尽力しているのは知っている。魔獣騒動の時だって、サーゼクスさんと一緒に冥府へ赴いてまでハーデスに目を光らせていたという。

 

日ごろは破天荒な行動で俺たちを振り回すこともあるが、こうして俺たちを裏で支えてくれているのだ。少しくらいは感謝を込めてこちらから寄り添ってもいいかもしれない。今日に関して言うなら運転だってしてくれたわけだ。これで礼の一つもなければ恥知らずはこちらだ。

 

「…酒は飲めないんで、烏龍茶でいいですか?」

 

「結構」

 

その夜、俺と先生は二人っきりで戦いのことやら人生相談やら語り明かした。年の近い野郎どもと騒ぐのも楽しいが、頼りになる先生と語らうのも悪くはない。途中で先生の酒が進むと自然に下の話になったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

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夜も深くなる頃。ずっと先生と語りっぱなしで体がなまって、少し動きたくなったので館内を歩いているとばったりその人と遭遇した。

 

「…あれ、グレイフィアさん」

 

「あら、深海さんですか」

 

浴衣姿のグレイフィアさん。銀髪が少ししっとりしている。同じ旅館にいるのにあまり見かけないと思ったらこんなタイミングで会おうとは。

 

「この時間帯なら誰も風呂にいないだろうと思いまして。うっかり一誠さんと一緒になってしまいましたが」

 

「えっ」

 

男女で一緒に温泉に入ったの?しかもグレイフィアさんって人妻だよね。ということは…。

 

「背中を流したりしましてね」

 

「えっ」

 

まずくない?兵藤の奴、未来のお兄様の大不況を買わない?今からでも抹消されるんじゃ?

 

「ふふ、冗談ですよ」

 

こちらの反応をからかうように笑うグレイフィアさん。彼女らしくない軽い言動、そして仄かに赤らんだ顔。どう見ても酒に酔っているのは明白だった。

 

「グレイフィアさんは、他にもどこか回ったんですか?」

 

「ええ、この辺りは海が綺麗と聞いて散策しました。冥界には海がありませんからね」

 

「あぁ、そういえば…」

 

冥界って海がないんだったな。魚料理もないことはないし、街並みも人間界とそんなに変わらないところもあるから忘れてしまいがちだ。

 

「評判通りの美しい海でした。途中で同じ観光客から砂城づくりの審判を頼まれたりもして面白い経験ができましたよ」

 

「す、砂城作り?」

 

「見た目からしてあなた達と年の変わらない女性二人組でして。変わった方とは思いましたが、悪い人ではありませんでした。人間界にはまだまだ私の思いもよらぬ出来事、方々がたくさんいらっしゃるのですね」

 

「は、はぁ…」

 

砂城作りに付き合うグレイフィアさんって…滅多に見れるものじゃないだろう。何も知らないとはいえ魔王の奥さんにそんなことをお願いできるなんて度胸のある二人組だな。一度会ってみたいものだ。

 

「深海さん達は大丈夫でしたか?アザゼルが主だって引率していたと聞きましたが」

 

「まあ目立った問題はありませんでしたよ。運転はアレでしたが」

 

「運転…そうですか、もう一度反省会が必要なようですね」

 

あっ、やっべ。いらんことを言った。なんだかグレイフィアさんの顔の赤みも引いてきたし酔いが冷めたのかもしれん。先生にかわいそうなことをしてしまった…。

 

「…そう、あなたに伝えたかったことがありました」

 

内心ひやひやしていると、グレイフィアさんがどこか改まった表情で切り出した。もしや、俺もグレイフィアさんの癇に障ることをしでかしてたか…?失礼なことをした記憶は全くないが、常日頃の行いで何かした指導されたり?

 

「つ、伝えたかったこと?」

 

「魔獣の一件の際、グレモリー領の病院を旧魔王派から守った頂いたことです。サーゼクスの愛するグレモリー領にいながらあのような凶行を許したことは私の恥です。あなたがいなければどうなっていたか…」

 

うーん、その件か。まずは怒られなくてよかったという安堵が先行した。

 

ニュースでも結構取り上げられてたし、インタビューも何度か受けたっけか。別に特段、特別なことをしたつもりはない。自衛に近い感覚か。あの状況だと俺も動かないと危なかったわけだし。

 

おかげで行動と戦いを共にしているおっぱいドラゴンと比較して散々影が薄いと言われてきたメディアからそういった声が一掃されたのは嬉しいところではあるが。

 

「俺はたまたまそこにいた、そしてやれることやるべきことをした、たったそれだけの話ですよ」

 

「その謙虚ながらも高潔な志、あなたもいずれ遠からず一誠さんに並ぶ冥界を背負う英雄になるでしょうね」

 

俺も兵藤に並ぶ冥界の英雄、か。グレイフィアさんほどの立場の方からそう認識されているならかなり近づいたんだろうな。…英雄になれという信長の言葉が現実になる日も、そう遠くはないかもしれない。

 

「あなたのような人間がリアスたちと行動を共にしてくれているのは非常に心強く思います。ただ…」

 

グレイフィアさんの顔色がすっと変わった。瞬間、背筋を冷たいものが走る。

 

「一点だけ、あなたとゼノヴィアさんの関係が爛れていると話を聞きました。年頃の男女が二人で住まいを同じくするというだけでも如何わしいところですが、婚前に色欲に溺れ行為に明け暮れるなど不純極まりません。リアスや他の方々が真似する前に一度ゼノヴィアさんも交えて話し合いましょうか」

 

「いぇぇぇ!!?」

 

そこ!?今それで怒られんの!?穏やかな雰囲気だったじゃん!!でもまあ、ロスヴァイセ先生ですら羨ましさ半分で怒られたわけだし、グレイフィアさんが許すはずもないか…。

 

「…ちなみにどこから聞いたんですか?」

 

「アザゼルからです」

 

「…」

 

運転のこと言っといてよかったわ。道連れだ道連れ。なんで俺も揃ってグレイフィアさんに怒られなきゃならんのだ。一緒に地獄に堕ちよう。旅は道連れ世は情けというだろ。

 

しかし、どう回答しようものか。こうなった以上、どの道を選んでも折檻ルートは確定だ。ならばいっそ、一言、俺の心に浮かんだことをありのまま言おうじゃないか。

 

俺は動揺する心を一息で沈め、決め顔で言い放った。

 

「…失礼だな、純愛だよ」

 

「よろしい。そこに直りなさい」

 

グレイフィアさんの怒気が高まる。言いたいことは言った。後悔はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

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一夜明け、朝食を食べると荷物をまとめてチェックアウト。エントランスに集合して受付も終わり、いよいよ俺たちは旅館を後にする。二日目も街を散策して昼飯を食べた後はいよいよ駒王町に戻る予定だ。

 

昨夜?タノシイヨルダッタヨ?タノシスギテナミダガトマラナカッタナー。

 

「いい旅館でしたわ」

 

「次回までにもっと卓球を上達しますわ…」

 

「次もまたレイヴェルを返り討ちにするね」

 

「昨日のお刺身美味しかったですね!」

 

「うん、また行きたいわね!」

 

旅館から出て駐車場へ歩く間にも旅館の余韻に浸る談笑は絶えない。俺が先生と駄弁ってる間にも女性陣でかなりお楽しみだったらしい。卓球の方だと教会組よりも一年組が盛り上がっていたとか。

 

すっと俺の隣に並んだゼノヴィアが訊いてきた。

 

「悠はどうだった?」

 

「ん、満足だよ。次は二人っきりで行こうか?」

 

「!!」

 

美味しい料理に露天風呂、五感全てをリフレッシュできたいい気分だ。異形関係者専門というだけあって他の利用客も少ないしのびのびできた。ゼノヴィアと二人っきりで旅行を楽しむならうってつけの宿だと俺は思う。

 

「二人か…いいな!もう次の日程を決めてしまおう!」

 

気も早くもう次の旅行を決めてしまう気だ。さて、次はどこがまとまった休みが取れそうだったか…。

 

いやいや、まだ旅行は終わっていない。次の旅行のことを考えるより今を考えるのが先だ。今日は確か

 

ふと、先生がぴたと歩みを止めた。

 

「…お前ら」

 

「?」

 

「わかってるわ。楽しい旅行に水を差すなんて無粋ね」

 

二人の剣呑な声色で緊張の雰囲気が伝播したか、皆一様に警戒の表情へと切り替わった。どうやら宜しくない気配を感じ取ったようだ。俺もそれに応じ、構える。

 

全員の視線の先にあるのは人除けの結界を担う霧。その向こうから現れる人影が四つ。黒いローブに身を包んだガタイの良い男?が二人。そして見慣れた顔が2人。

 

「この気配…まさか!」

 

白と金の高貴なローブに身を包んだ少女の顔は、俺が将来忘れることのない。

 

「アルル…!!」

 

どこまでも感情の色を映さない冷たい瞳が俺たちを見据えた。




次からいよいよ、久々の戦闘回です。

次回、「狂った翼」
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