詰め込んだら長くなりました。
ついに9000文字突破。
Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は……
S.スペクター
3.ロビン(借)
4.ニュートン(借)
5.ビリー・ザ・キッド(借)
7.ベンケイ(借)
11.ツタンカーメン
12.ノブナガ
「──ん?あれ?」
俺は転移した先で首を傾げた。
どう見ても転移した先が部室と同じだったからだ。
「まさか転移に失敗した?」
正式な眷属でない俺がいたから魔方陣がうまく作動しなかったのか?
兵藤も俺と同じように困惑している。
「いえ、外を見てみなさい」
言われて俺と兵藤は窓を開け外の様子を伺った。
そこには見慣れた駒王学園の姿があった。体育館もグラウンドも全てが同じ。違う点があるとすれば空にはオーロラのような輝くもやがかかっていること、そして学校の敷地が森と山で囲まれていることだ。
「悪魔の技術ってすげえな……」
「同感だ」
二人で驚いていると放送機器から音声が流れ始めた。
『皆様、この度は今ゲームの審判役を担うことになりましたグレイフィアでございます』
さっきのメイドさんの声だ。……審判役になるなんて本当にただのメイドなのか?
『今ゲームのバトルフィールドは異空間に再現された『駒王学園のレプリカ』です』
「異空間に作ったレプリカ…」
これも魔法の力か。本当に悪魔の力には驚かされる。
『両陣営転移された先、リアス様は旧校舎のオカルト研究部部室、ライザー様は本校舎の生徒会室が本陣となります。『昇格』はそれぞれ校舎に足を踏み入れた時点で使用可能になります』
生徒会室か。何度か生徒会のメンバーが並んでぞろぞろと校舎内を歩いているのを見たことがあったな。
『制限時間は人間界の夜明けまで、それではゲームを開始致します』
宣言とともに聞き慣れたチャイムが鳴り響いた。チャイムまで再現してるのかよ。
「まずは体育館を落としましょう」
テーブルに広げられた学校全体の地図、それにペンで赤丸をつける。
「旧校舎と本校舎、両方に隣接するここを先に落として本校舎への足場にするわ」
ここでは魔方陣による転移はリタイヤ時しかできないらしい。
移動手段は自分の足か翼。校庭からでも本校舎には行けるが校庭は本校舎から丸見えになっている。ここで一気に校庭を突っ切るのは危険だ。
校舎裏の運動場は当然警戒されるだろう。何人かそちらに回されるのは間違いない。
レーティングゲームは戦場をより把握し利用する方が優位に立つ、と先輩は言っていた。
「祐斗と小猫は旧校舎付近の森にトラップを、朱乃は霧と幻術をかけて頂戴」
「はい部長」
3人とも両手に小型の魔方陣を展開すると何かが現れた。
塔城さんは猫、木場は小鳥、姫島先輩は2体の小鬼。どれも可愛らしい見た目をしている。
「可愛い」
思わず声に出してしまった。
「使い魔って言うんだ。今度触ってみるかい?」
「喜んで!」
「即答かよ…」
そりゃこんな可愛い生き物とふれ合わない手はないだろう?
先輩の視線が俺に向く。
「紀伊国君はフィールドを囲む森を経由して大きく迂回しながら本校舎に侵入して頂戴、後は作戦通りよ」
「わかりました」
学校の敷地の外、町は再現されていない代わりに森で囲まれている。
フィールドの端を移動しながらか。距離も相当なものだ。このために地獄のランニングがあったのだろうか。
「じゃ行くか」
4人で部室をあとにしようとしたとき。
「紀伊国!頑張れよ!」
「ああ」
友達の声援を受けた。
(こりゃ頑張るしかないな)
そう思いながら部室をあとにした。
「ではここで別れましょう」
旧校舎を出てすぐ姫島先輩が言った。
「紀伊国君、頑張ってね」
「勝ったら打ち上げに来てください」
「もちのろんだ」
そう返事すると二人は森の中へと歩いて行った。
姫島先輩も小鬼を森に放して幻術をかけに行こうとしたとき、ふと足を止めた。
「紀伊国君」
「はい」
先輩はうふふっと笑って言った。
「健闘を祈りますわ」
そういって先の二人と同じ様に森の中に消えていった。
皆に期待されている。
その分責任も重く緊張するけど、なんだかそのことがたまらなく嬉しかった。
「さてと」
軽くストレッチして、ドライバーを出現させた。
今回の戦いは命の奪い合いじゃない。
あくまでゲームだ。死ぬわけじゃない。
そう自分に言い聞かせ、スペクター眼魂を起動させる。
ドライバーに差し込み、カバーを閉じる。
〔アーイ!バッチリミロー!バッチリミロー!〕
「変身!」
レバーを引き、スーツを展開してパーカーゴーストを纏う。
〔カイガン!スペクター!レディゴー!覚悟!ド・キ・ド・キ・ゴースト!〕
肩を軽く回し、静かに宣言する。
「ミッション、開始」
▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼
「……」
森の中は静寂に支配されていた。
校舎の再現度はかなりのものだが森の中で生きる虫やさえずる鳥までは再現されていないため少し違和感を感じる。
レーティングゲームは悪魔社会で熱狂的な人気を誇るゲームのこと。上級悪魔が各々の眷属を集め、戦わせる。大体どのゲームも相手の『王』を倒せば勝利となる。それはこのゲームも同じ。そしてそのシステムには『悪魔の駒』が密接に関わっている。
『悪魔の駒』の種類は元となったチェスの駒と同じ6つでそれぞれが異なる力を持っている。
兵藤の『兵士』は敵陣に踏み込めば『昇格』という力で『王』以外の任意の駒に昇格できその力を発揮できる。
アルジェントさんの『僧侶』はその悪魔の魔力を強化する謂わばサポート役。アルジェントさんの持つ神器『聖母の微笑』の回復能力にピッタリだ。
木場の『騎士』はスピード強化。さらに木場は自分の意のままに魔剣を作れる神器『魔剣創造《ソード・バース》』を使い様々な状況で立ち回ることができる。
塔城さんの『戦車』は攻撃力と防御力を強化する。塔城さんは格闘技だけでなく寝技なども得意としこの駒の特性とベストマッチしている。
姫島先輩の『女王』はそれら4つの駒の特性全てを兼ね備えている。
そして皆を率いるグレモリー先輩の『王』。これだけは駒が存在しないらしい。
今回のゲームでは助っ人の俺は『戦車』という扱いになる。
まあ『僧侶』よりは自分に合っているだろう。
『兵士』は兵藤を転生させるのに8つの駒をすべて使い切ったらしい。
「…あいつ実は相当すごいってことだよな」
転生させる対象によっては必要となる駒の数が増えたりするらしい。
兵藤の場合はその身に宿す神滅具がその理由だろう。
「……」
誰かが来る。足音がゆっくりとだが前方から近づいて来る。
霧のなかから姿を現したのはメイド服を着た茶髪の女性。
さっそくお出ましか。駒は一体なんだ?
「あなたが噂の助っ人ね?」
向こうが訊ねる。
「Exactly(その通りでございます)」
こちらもガンガンハンドを召喚し、構える。
「……」
空気がピリピリし始める。訓練ではない、本気でぶつかり合う久しぶりの感覚。
「先手必勝!」
先に動いたのは向こうだった。手のひらから炎の魔力を射出する。
こちらは銃モードの射撃で難なく相殺する。
合宿の中で射撃の練習もしたのだ。
もうとんでもない方向に外したりはしない。
「っ!」
女が走り出し、俺もその後に続く。
徐々に距離を詰め並走する形になる。
「くらえ!」
そこから魔力と銃撃の打ち合いが始まる。
魔力を打ち落とし、撃ち漏らしたものは体を軽くひねって躱す。
銃撃は魔力で相殺され、突破してきた銃撃は軽やかなジャンプで躱される。
躱された魔力と銃撃は木を穿った。
このままでは埒が明かない。
ガンガンハンドの『エナジーアイクレスト』をドライバーにかざす。
〔ダイカイガン!ガンガンミロー!ガンガンミロー!〕
砲口に青い霊力が収束する。
「もらった!」
動作の隙を狙って放たれた魔力が俺を襲う。
ガンガンハンドを盾にして防ぐ。
直後、爆発の衝撃と熱が襲った。
「いっつ!でも!」
ガンガンハンドを構える。
狙いは相手じゃない。相手の数歩前!
トリガーを引き、収束した霊力が放たれる。
〔オメガスパーク!〕
「何!?」
俺の狙いに気付いた女は慌てて引き返そうとするがもう遅い。
霊力が着弾した瞬間爆発を起こし、地を吹き飛ばした。
「きゃあ!!」
衝撃に巻き込まれ、女は転がった。
「これで次は外さない」
ドライバーから眼魂を引き抜き、緑色の眼魂を起動させ差し込む。
〔アーイ!バッチリミロー!バッチリミロー!〕
現れたのはフード部分に飾り羽をつけた緑色のパーカーゴースト。
レバーを引きパーカーゴーストを纏う。
〔カイガン!ロビンフッド!ハロー!アロー!森で会おう!〕
仮面ライダースペクター ロビン魂。
各部に黄色い羽飾りのついた緑色のパーカーの布地『フォレストコート』はステルス機能を備え、肩部の伸縮自在の帯『シャーウッドバンド』は木に巻き付けてトリッキーな動きを可能にする。
『ヴァーダントフード』は特殊フィールドを発生させることで分身を生み出し飾り羽の『クレアボヤンスフェザー』は洞察力を高める。顔には緑色の弓矢の模様『フェイスシュートアロー』が浮かび上がっている。
ドライバーから全体的に黒く、刃が青みがかった金属体『クァンタム・ソリッド』で構成された剣、『ガンガンセイバー』を召喚し、折り曲げる。
『キィー!』
森の闇からコンドル型ガジェット『コンドルデンワー』が飛来し変形してガンガンセイバーと合体する。
翼部は弓に、首は矢のような形となったガンガンセイバー アローモード。
「ここは一旦退いて…!」
「いいや、ここで終わる」
ガンガンセイバーの『エナジーアイクレスト』をドライバーにかざし『アイコンタクト』を行う。
〔ダイカイガン!ガンガンミナー!ガンガンミナー!〕
緑色の魔方陣が浮かび上がり、弓部に光の弦が出現する。
弦の重なる部分に手を添え、力強く引くと同時に魔方陣が霊力となってアローの先端部に宿る。
「っ!」
相手は逃げ出そうとするがもう遅い。
「次は外さないと言った!」
〔オメガストライク!〕
トリガーを引くとチャージされた霊力が矢となって一直線に標的に向かう。
空を切り、女の腹を射抜いた。
「きゃあぁぁぁ!!」
倒れざまに光に包まれるとその姿を消した。
『ライザー様の『兵士』、リタイヤ』
アナウンスが戦場に響いた。
「よし」
まずは一人。相手は『兵士』だったか。
本陣に入って昇格する前に倒せてよかった。
レーティングゲームでは戦闘不能になると強制的に医務室に転移され、治療が行われる。
余程のことがない限り死にはしないがもしもの時は事故として扱われる。
そのとき遠くから轟音が鳴り響いた。
『ライザー様の『兵士』3名、『戦車』、リタイヤ』
どうやら向こうも作戦が成功したようだ。
移動時に魔法で体育館を落とす作戦についての連絡を受けていた。
兵藤と塔城さんが敵を何人か誘き寄せ、その間姫島先輩が魔力をチャージする。チャージが終われば二人が体育館から脱出したのを見計らって姫島先輩得意の雷で相手ごと体育館を吹き飛ばす。
なんて大胆な作戦だと思った。
『兵士』を一気に3人も落とせた。これはでかい。
アナウンスは続いた。
『リアス様の『戦車』、リタイヤ』
「まさか塔城さん!?」
予想外のアナウンスに衝撃を受ける。
作戦が成功して気の緩んだ所を狙われたか。
「…先に進もう」
あれこれ考えていても仕方ない。
『フォレストコート』の力、ステルス能力を発動する。
自身の姿、エネルギー反応を周囲の物体と同化させる能力である。
この森という環境、そして作戦の内容といいロビン魂のために用意したのかと思うほどピッタリだ。
敵討ちのための闘志を静かに燃やした。
▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼
「やっべ、いるじゃん……」
横を見れば木々の隙間からグラウンドが見えるようになった頃、
俺は茂みに隠れていた。外からは派手な剣撃や打撃の音と足音が聞こえてくる。
茂みの隙間から様子を伺う。
大剣を背負ったポニーテールの女性が歩いている。
おそらくは『騎士』か。
キョロキョロ辺りを見渡している。
(…まさか俺を探しているのか?)
未だ姿を現さない助っ人の俺を警戒しているかもしれない。
なら、やることは一つ。
(不意打ちの一撃で沈める!)
この遠距離狙撃を得意とするロビンフッド魂では接近戦は圧倒的に不利だ。相手が気づいてない内に狙撃で倒す。
再びガンガンセイバー アローモードを召喚し、狙撃体勢に移ろうとしたとき……
ガサッ
「あっ」
コンドルデンワーの首『コンバージェンスネック』が茂みに当り、音を立ててしまう。
それと同時に俺も思わず声を漏らしてしまった。
このステルス機能は姿を見えなくするだけであって姿を消すという能力ではない。
や ら か し た !
「そこかっ!!」
気づかない筈もなく女剣士が猛スピードでこちらに突っ込み、振り上げた大剣を叩きつける。
俺は咄嗟に後ろに跳び回避する。
さっきまで俺が隠れていた茂みが轟音と共に吹き飛ぶ。
(なんてドジだくそ!)
内心毒づきながらも跳び退きざまにアローの連射を浴びせる。
連射といっても狙撃向けのアローモードでは大した連射速度ではない。
「ぬんっ!」
大剣で弾き、そのまま跳び俺を追撃するかに見えた。が
跳ぶことなく真っ直ぐに走っていった。
「って着地狩りかよ!?」
『騎士』のスピードを生かして俺が着地する場所にいち早く回り込んだのだ。
「はぁぁ!」
そのまま腕力に物を言わせて大剣を振るい、なすすべもなく俺はバットに打たれたボールのように軽々と吹っ飛ばされた。
「がはぁっ!」
一気に森を抜けてグラウンドに出たところで土煙を上げながらバウンドして倒れる。
「いっててて……」
「紀伊国君!?」
「紀伊国お前どこにいたんだよ!?」
心配してくれる友の声が聞こえた。
起き上がってみると向こうも戦闘中のようだ。
ただし、戦況は6対2と圧倒的にこちらが不利。
今しがた7対3になったが。
「…よっ」
軽く手を振り無事を伝える。森の中から女剣士が姿を現した。
『騎士』の駒はスピード特化だと聞いていたがどうにもこいつはパワー重視の戦闘スタイルを持っているな。なら…
「パワーにはパワーだな」
ロビン眼魂を取りだし、新たな眼魂を差し込む。
〔アーイ!バッチリミロー!バッチリミロー!〕
ドライバーから出現したのは白いパーカーゴースト。
レバーを引き、霊力を解放する。
〔カイガン!ベンケイ!〕
漂う白いパーカーゴーストを纏う。
〔兄貴ムキムキ!仁王立ち!〕
仮面ライダースペクター ベンケイ魂。
白いパーカーの布地たる『スズカケコート』は受けた衝撃をエネルギーに変換し、ダメージを受ければ受けるほど防御力は増していき、肩部には球体『マイティネンジュ』が取り付けられている。
またフード部分の『ソウシュウフード』は変身者の忍耐能力を向上させ、その上には小型の帽子『チュウギノトキン』、顔には弁慶の七つ道具を模した模様『フェイスセブンアームズ』が浮かび上がっている。
右手をつきだし、ガンガンセイバー ナギナタモードが召喚される。続いて地面から蜘蛛型のガジェット『クモランタン』が飛び出しナギナタの先端部と合体、ガンガンセイバーをハンマーモードに変形させた。
ハンマーを振り回し構える。
「さぁ、こい!」
俺の言葉を皮切りに、女剣士が真っ直ぐ突撃してくる。
ハンマーで大剣を防御する。それぞれの武器に込められた霊力と魔力が火花となって散る。
「ぬぐぐ…はぁっ!」
格段に強化されたパワーを以て、拮抗していたハンマーを振り抜き相手の態勢を大きく崩す。
「っ!?」
「ふん!」
一気呵成にハンマーのラッシュを叩き込む。上、右、そして最後に下から。
「ぐぁっ!!」
放物線を描きながらグラウンドに落下する。
「フィニッシュだ」
〔ダイカイガン!ガンガンミナー!ガンガンミナー!〕
ガンガンセイバーの『エナジークレスト』をドライバーにかざし、
必殺待機状態に入る。白い魔方陣が浮かび上がり、霊力となってハンマーに宿る。
ハンマーをぐるぐる回し大きく振り上げ……
「はぁぁぁっ!!」
〔オメガボンバー!〕
一気に振り下ろし、地面に叩きつける。
インパクトと同時に解放された強大な霊力が地を割り、女剣士目掛けて迸る。
「あっ……あ…がぁぁぁぁぁっ!!」
迸る霊力に飲まれた女剣士は、再び大きく宙を舞った。
間もなく光が女剣士を覆い、その姿を消した。
『ライザー様の『騎士』、リタイヤ』
戦場にアナウンスが鳴り響いた。
「えっと、後はいち、にい、さん……」
「シーリス!」
「よくも!」
残る人数を数えていると、猫耳の二人組、おそらく双子の姉妹か、が飛びかかってきた。
「ふんっ!」
「きゃあ!」
ハンマーを豪快に振るい、その衝撃波で二人を吹き飛ばした。
〔Boost!Boost!Boost!〕
横で仮面を被った女性と戦闘を繰り広げる兵藤の籠手から音声が鳴り響く。
聞き覚えのあるこの懐かしい声…合宿の時も聞いてまさかとは思っていたがやはり!!
「おい兵藤!その声やっぱり立木さんか!?」
「立木さんって誰だよ!?ちょっと黙ってろよ!!」
兵藤が赤い籠手を突き出し、掌にごく小さな魔力の塊を作り出す。
この流れは強化合宿でも見たことがある。
「ドラゴン・ショットォォォ!!!」
再び赤い籠手を突き出して魔力の塊を放つ。
一瞬にして、雀の涙ほどだった魔力は膨大な波動と化した。
「何!?ぐぁぁぁぁぁぁっ!!」
あっという間に仮面の女性は飲まれ、リタイヤの光に消えた。
波動は止まらずそのまた先の大地、森すら大きく消し飛ばした。
合宿の時は山一つ消し飛ばしかけたが。
これが兵藤の編み出した必殺技、ドラゴン・ショット。
手のひらに生み出した魔力の塊を神器の力で倍加させそれを相手にぶつけるという至ってシンプルだが恐ろしい威力を誇る技だ。
『ライザー様の『戦車』、リタイヤ』
「イザベラまで…」
「何なのあの火力!」
先の一撃にフェニックス眷属たちは絶句している。
今のうちに森に隠れて作戦を……
「逃がすか!」
先ほど吹っ飛ばした姉妹の片割れが俺に向かってくる。
これ以上ちんたらすると作戦に支障が出そうだ。
「兵藤、木場!あとは任せた!」
「わかった!」
「おい!もうちょっとここで戦ってくれよ!?」
素早くレバーを引き、オメガドライブの力と肩部の『マイティネンジュ』に蓄えられたパワーを拳に集中させる。
〔ダイカイガン!ベンケイ!オメガドライブ!〕
「チャオ!」
拳を地面に叩きつけ、ドゴンと強大な衝撃波とともに大きく土煙が舞い上がる。
「きゃぁっ!」
距離を詰めかけていた片割れは風にあおられ飛ばされていった。
土煙が晴れる頃には俺の姿はなかった。
▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼
「やっとここまで来た……」
ロビン魂に再変身しステルス能力を使いながら本校舎の裏手の森を歩く。
グラウンドではまだ戦いの音が聞こえるというのに相も変わらず森は静寂に支配されている。
『ライザー様の『兵士』2名、『僧侶』、『騎士』、リタイヤ』
おおっ、あいつらやったのか!
だが俺の喜びは次のアナウンスで簡単に打ち砕かれた。
『リアス様の『女王』、リタイヤ』
グレモリー先輩の女王って……あの姫島先輩が!?
アナウンスはさらに続いた。
『リアス様の『騎士』、リタイヤ』
今度は木場が……。
「くそっ!」
悔しさに地面を踏みつける。
これで残るメンバーはグレモリー先輩、アルジェントさん、兵藤、そして俺。
敵討ちをしたいという気持ちもある。だがここで俺が作戦を台無しにすれば彼らの思いを無駄にしてしまう。
ここは気持ちを抑え、作戦の遂行に徹するのが一番だ。
「ここらで待機だな……」
身をかがめ、茂みに身を隠す。
作戦の第一段階、相手本陣の裏手に侵入はこれで終了。
続く第二段階はグレモリー先輩たちが相手の『王』、ライザーと戦い弱らせるというもの。
そして最終段階は弱ったライザーに俺が不意打ちでツタンカーメンの『オメガファング』で奴をピラミッド内の異空間に閉じ込め、相手が音を上げてリザインするのを待つ。どうせ倒せないのなら相手が降参するようにすればいい。
相手が不死身で倒せないとしても、やりようはいくらでもある。
例えば宇宙に放逐したり、太陽に吹っ飛ばして死と再生を繰り返させたり。
……なんで宇宙関連のアイデアばっかり出るんだろ。本当によく不死身の相手に勝てたよな。某波紋使いも魔法使いも。
丁度今、校舎の屋根の上、グレモリー先輩がアルジェントさんを連れてライザーと戦っている。その様子を蝙蝠型ガジェット『バットクロック』が捉えた映像をコブラケータイに送って見る。
先輩は既にボロボロで得意の滅びの力を以てしてもやつには及ばない。削りとられた顔が炎を上げて再生する。
『部長!兵藤一誠、ただいま参上しました!』
屋根裏の窓から元気よく兵藤が現れる。それと同時に先輩とアルジェントさんの歓喜の声も聞こえた。
〔Boost!Boost!〕
籠手の宝玉が光り、力が倍加する。
『部長、俺はバカだから詰みとかわかりません。それでも諦めません。最後の時まで戦い抜いて見せます!』
『イッセー!』
兵藤が駆け出し、拳をライザーにぶつけようとした瞬間。
〔Burst〕
聞きなれない音声が鳴ると同時に血反吐を吐きながら兵藤が倒れた。
「一体何が……?」
『力を倍にする能力なんて負担がそんじょそこらの神器の比じゃないことぐらいわかっていただろうに、バカが!』
倒れる兵藤が蹴り飛ばされる。
『イッセー!』
『イッセーさん!』
駆け寄るアルジェントさんの足元に魔方陣が展開した。
直後アルジェントさんが動かなくなった。
『アーシア!?』
『悪いが回復は封じさせてもらった』
ライザーの傍らに杖を持ったローブ姿の女性が妖艶な笑みを浮かべて佇む。
残った『女王』か『僧侶』か。
『……まだだ』
それでも起き上がり、ライザーに向かう。
ひょろひょろのパンチを放つが、膝蹴りの後、胸ぐらを掴まれ顔面に一発喰らう。
『ぐっ……ま…だ』
パンチを放つ直前に鋭い拳が兵藤の腹をえぐった。
さらに血反吐を吐き、うずくまる。
『かは………ま……だ』
その後も何度も立ち上がり続けた。どんなに殴られようと、蹴られようと、血を吐こうと。
グレモリー先輩はライザーを止めようと何度も滅びの力を放つがそのたびに何事もなかったかのように再生してしまう。今は兵藤の傷ついた姿にとめどなく涙を流していた。
助けたい。
そう思う気持ちが増していくのがわかる。だが今ライザーが弱っていない状態で出れば作戦が失敗してしまうかもしれない。そうなればリタイヤしていった皆の思いが浮かばれない。今まで積み重ねたすべてが無駄になる。歯噛みしながら堪える。
『貴様!』
何度も向かってくるその姿についにライザーの怒りが爆発した。
『何なんだ貴様は!?どうして俺にそこまでして歯向かう!?』
ライザーの問いに虚ろな目をして答えた。
『部…長の……た……め…』
『イッセーもういいの!!やめて!!!』
「兵藤…!!」
ここまで傷ついて、こんな状況に追い詰められてなお先輩のために戦うというのか。
たまらず涙が込み上げてきそうになる。
『…もういい。レーティングゲーム中の死は事故として処理される』
『まさか!ライザー!』
ライザーの拳に今までの攻撃になかった炎が宿る。
『そんなに俺の攻撃が好きなら特大のをくれてやる』
『やめてライザー!!』
ゆっくりと近づくライザー。悲痛な叫びがこだまする。兵藤にもう攻撃をよけるだけの力は残されていなかった。
ライザーの拳が上がる。
『死ねぇい!!赤龍帝!!!』
『イッセー!!!』
プチン。
俺の中で何かが弾けた。
違う。今の俺のすべきことは作戦を成功させることじゃない。
あいつを助けることだ。一体何を我慢する必要があったのか。
木場達がいればきっと言うだろう。
「イッセー君を助けよう」と。
そこからの俺の行動は自分でも驚くほど早かった。
ガンガンセイバーをドライバーにかざす。
〔ダイカイガン!ガンガンミナー!ガンガンミナー!〕
アローの先端に緑色の霊力が収束し、手を添えるとコンドルデンワーの翼部に光の弦が出現する。狙いも今までよりも倍以上早く定まった。トリガーを引き、添えた手を離す。
〔オメガストライク!〕
放たれた矢は空を切り、拳が兵藤にヒットするよりも速くライザーの顔に直撃し爆発を起こした。爆発に巻き込まれた屋根の表面が一部吹き飛ぶ。
爆炎が揺らめき、中から不死鳥は現れた。
「ぐうぅ!誰だァ!!」
不意打ちにご立腹のようだ。おじることなく茂みから姿を現す。
奴もそれに気づいた。
すみません、と心の中で先輩に謝る。でも友達がこんなにボロボロになっているのに放っておかない奴はいない!
繰り返させない。俺の目の前で二度もそいつを殺させない!
敢然と屋根から見下ろす敵を睨み付ける。
「俺の目の前で、それ以上はやらせない!」
悠の「よっ」は龍騎終盤のライダー達とガゼール軍団の乱戦でファイナルベントに失敗した北岡先生イメージです。
これがしたかった……!スペクターが本編未登場のゴーストチェンジをしまくるその戦闘が!(ブレン風)
極端な話、予算なんてないのでガタキリバやアンダーワールド戦もクロックアップもやりたい放題ですからね。
次回、決着。