ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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お待たせしました。思ったより長引いたので例の分割方式で行きます。

Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は…
S.スペクター
2.エジソン
3.ロビンフッド
5.ビリー・ザ・キッド
6.ベートーベン
7.ベンケイ
9.リョウマ
10.ヒミコ
11.ツタンカーメン
12.ノブナガ
13.フーディーニ
40.ジャンヌ
46.ノーベル
50.呂布


第183話「名剣の巣窟」

「イッセーとイリナはうまくやってるかしら」

 

「彼にぶつけるなら二人かアーシアちゃんしかいませんわ」

 

「僕が先生の立場でも、同じ人選にしますね」

 

「コミュ力つよつよコンビ…」

 

出発の時刻までの間、リアス達は打ち合わせに使用したVIPルームの隣の部屋で休息を取っていた。怪我の治癒は完了すれど、失われた体力までは戻らない。決戦までに少しでも万全のコンディションに近づけるべく各々紅茶をたしなんだり、ソファーで横になるなどして静かに過ごしている。

 

「しーろーね♪」

 

…が、決戦に参加する彼女ら以外のメンツも静かにしているとは限らない。

 

がばっと小猫に後ろから抱き着いたのは黒歌。音も気配もなく忍び寄った彼女に、小猫は完全に不意を突かれた。居心地悪そうな彼女にお構いなしにと黒歌は容赦ない頬ずりを浴びせる。

 

「うっ、姉さま…」

 

「お姉ちゃんまた可愛い妹と一緒で嬉しいにゃん♪」

 

「私はそんな…」

 

「そうそう、赤龍帝ちんとはあれから進んだ?お嫁さん宣言しちゃったんだから、あんなことこんなこともしたのかにゃん♪」

 

「それは…!!」

 

「それは私も気になるな」

 

「ゼノヴィア先輩まで…」

 

あれこれを聞き出す姉に顔を赤らめる小猫。信頼する先輩までもが悪戯心ではなく単なる好奇心で追い打ちをかけてくる。

 

「やめてください!小猫さんが困ってますわ!姉と言えど許しませんわよ!」

 

「レイヴェル…」

 

「今度は何を吹き込むつもりですの!?」

 

友人を守るために、恐れることなく黒歌の袖を掴むレイヴェル。不死鳥の炎のように熱く友を想う意思を、小猫は黒歌を見据える彼女の瞳の中に見た。

 

「そんな怖い顔しないでよ焼き鳥ちゃん。白音にいい話があるのよ」

 

「いい話?」

 

「そうそう、前に仙術やら猫又の妖術やら教わりたいって言ってたでしょ?今度から白音にレッスンしにこの家に行ってもいい?私チョイスの本も何冊か置いてくからね」

 

以前、霧の結界から脱出する際に小猫は黒歌に仙術を教えてほしいと話していた。所属は違えど可愛い妹の頼みを無下にする彼女ではない。魔獣騒動以来、ヴァーリ達との行動の傍らで準備を進めつつあった。

 

だがそれには障壁があった。

 

「あなた、自分の立場ってものをわかって言ってるの?」

 

図々しい提案にリアスも流石に目を細めた。彼女らとは本来敵対関係にあり、今回も、前回も、状況により仕方なく共闘しているに過ぎないのだ。こちらのプライベートに近い領域に何のためらいなく踏み込んでくることまで心を開いた覚えはない。

 

「もっちろん!でも悪い話じゃないと思うけどねん。ぶっちゃけ周りに仙術に詳しい人なんていないから、困ってるでしょ?」

 

「それはそうだけど…」

 

言葉に詰まるリアスだが、伝手が全くないわけではない。京都での戦いで、自身は会ってはいないが一誠達と共に曹操と戦った初代孫悟空はその手のスペシャリストといえよう。しかし彼も相応のポストについており、多忙なため連絡を取ろうにも憚られるというもの。

 

「だいじょーぶ、見なかったふりしてくれればそれでいいにゃん」

 

「…小猫、あなたはどうしたいの?」

 

「私は強くなりたいです。皆に置いていかれたくない。その為なら、姉の教えも受けます」

 

曹操、英雄派の幹部たち、そしてアルルとラディウス。名だたる強敵たちと戦い、あるいはその戦いを目に焼き付けたことで彼女は自身の強化の必要性を強く認識していた。

 

日々修行を重ねるグレモリー眷属のトップ戦力ですらそう易々と潜り抜けられない戦い。猫又の力を受け入れた今でも、このままでは格差が広まるどころか最悪の事態もありうるかもしれないインフレ具合だ。強くなるには猫又の力の理解を深め、その得意である仙術を伸ばしていくしかない。その為にも先人の知恵と助力が必要だ。それは今、姉以外にはいない。

 

姉には借りがある。でもそれと同時に僅かばかりの恐れもある、嫌悪感もある。しかしこの先、仲間たちと困難を乗り越えるためならその心のシミをこらえることなど、なんということではない。

 

「だそうだけど?」

 

「…わかったわ。好きにして頂戴。ただし、監視は置かせてもらうわ。後であなたからアザゼルにも話を通しなさい」

 

「助かるにゃん♪これからもお邪魔させてもらうにゃん」

 

渋々ながらのリアスの了承に黒歌は舞う様に喜んだ。小猫のレッスンも楽しみだが、一時の滞在時で兵藤邸の快適さを噛み締めたため、あわよくば住み込んでしまうことも考えていた。

 

「小猫さんがそう言うなら私も何も言いませんわ」

 

「レイヴェルちゃんとも仲良くしたいしねん」

 

「私も!?」

 

「はぁ…困った物ね」

 

フェニックス家から預かった客人にまで手を出そうとする野良猫の手綱をどう握るか、これから考えなければとリアスは頭を抱えた。

 

そんな彼女の悩みなどつゆ知らず、黒歌はきょろきょろと部屋を見回す。

 

「あれ、そのアザゼルはどこにゃ?」

 

「彼は今、首脳陣とリモート会議よ。これからの行動を魔王様やミカエル様、ゼウス様にオーディン様と連絡を取ってるわ」

 

「ゼウス?」

 

「ハーデスの件よ。コキュートスで幽閉していたコカビエルが復活していたから、それについて色々話し合うそうね」

 

「ふーん。コカビエルと言えばあんたらにとっても因縁深い相手よね。でも、今なら楽勝なのかにゃ?それとも向こうは英雄化があるからトントンってとこかしらね?」

 

「そうね、イッセーは勝てると思うけど悠や祐斗も勝てるかはわからないわ。二人とも眼魂の数や魔剣の調子で変わって来るから」

 

「今、魔剣つったか?」

 

話に横槍を、いや横剣を入れるような女性の声。突如ばたんとドアが開け放たれる。

 

「よっ、邪魔するぜ」

 

ずかずかと部屋に入って来るのは赤いロングヘアーの女傑。六華閃当主に伝わる眼精疲労防止のコンタクト『蒼青鏡』により赤青のオッドアイの瞳の奥には熱い情熱が燃え滾っている。集まった注目をリアスに負けないスタイルで一身に浴びる彼女は気やすい調子で話しかけてくる。

 

「あなたは六華閃の…」

 

「レーヴァテイン・レイドだ。人は私をソードマスターと呼ぶぜ」

 

大仰な二つ名と生まれ持った名を、一点の陰りもない自信たっぷりの表情で彼女は名乗り上げる。その一言でリアス達は知り合ったばかりの彼女の人柄をうかがい知ることができた。

 

「ソードマスター…そうですの?」

 

「うん。剣においては作り手としても使い手としても最高峰。剣士で知らない者はいないと言っても過言ではないよ」

 

「うちのアーサーが戦いたい剣士リストの上位に挙げる強者にゃ。嫌味たらしい奴の相方とは思わなかったけどね」

 

「嫌味たらしい?ガルドラボークさんのこと?」

 

「それ以外にいないにゃ」

 

「ははっ!あいつは堅っ苦しくて面白くねえよな。ありゃ嫌われるよ」

 

「あいつ、仲間からもそんな評価なんだな」

 

一番近しい人間にすら笑って辛辣なコメントを吐かれることにゼノヴィアは同情の念を覚える。知られていないがレジスタンスを通じて面識がある彼女にとってはレーヴァテインは、ガルドラボークに共鳴し凛をめぐって意見を対立する敵であり、剣士として超えるべき壁でもあった。

 

「でもあいつなりに全体のことを考えて動いてんだ。そこと実力は認めてやってくれ」

 

しかしレーヴァテインの評価はただそれだけではない。ローハンの遺志を継いだことによる強靭な意志と決断力、そして数多の魔法が記された魔導書を使いこなす技量は特筆に値するものだ。己の評価を顧みず、全体に費やす自己犠牲の精神。他者からの理解は得にくいが、それは一種の必要悪であると彼女はこれまでの行動を見て確信していた。

 

だがそれは今回ここに来た目的ではない。相方の話よりもっと彼女にとって大事なものがある。

 

「それはそうとだけどさ、お願いがあるんだよ」

 

「お願い?何かしら?」

 

神妙な表情のレーヴァテイン。何やら重大事項かと思うリアスに尋ねられると、ぱしっと両手を合わせ、なんとそのまま勢いよく頭を下げた。

 

「おたくらの剣を見せてくれ!!」

 

「…えっ?」

 

「剣を見せる?それだけ?」

 

そうリアスたちは呆気にとられた。頼み事と頼み込む態度の重さが釣り合ってない。なんてことのない頼み事を剣士として至高の名誉を手にしている彼女は一生のお願いをするかのように今、頼み込んできている。

 

「いやー折角グレモリー眷属に会えたんだからさ、聖魔剣とか、グラムとか、エクスデュランダルとか、凄い剣沢山持ってるから見たいなーって思って。界隈じゃすげえ有名だぜ?お前ら」

 

「界隈?」

 

「剣マニア、鍛冶職人の界隈だよ。こんなにすげえ剣を沢山持ってる集団なんて過去にそうないからな。というわけで頼む!見せてくれ!お願い!」

 

言われてみれば、とリアス達は思った。デュランダルとそれに統合された7本のエクスカリバー、グラムを始めとする魔剣群にアスカロンや聖魔剣とグレモリー眷属は名剣中の名剣、最上位にあたる業物を聖魔問わず多く保有している。

 

自分たちにとっては当たり前だが、第三者から見れば歴史的にもここまで多くの名剣を保有する集団はない。奇跡のようなチーム、垂涎の的ともいえよう。

 

「…私は構わんが」

 

「二人とも、見せてあげなさい」

 

「まじか!助かるぜ!」

 

部長に勧められ、祐斗とゼノヴィアは剣を取り出し始める。先にゼノヴィアが異空間に収納していたエクスデュランダルを差し出した。

 

差し出された聖剣を手に取ると、白い指ですっとその感触を確かめんと刀身を撫でる。その細部を目に、いや脳裏に焼き付けんとばかりにまじまじと見つめる。

 

「こいつがエクスデュランダルか!!エクスカリバー七本にデュランダルを合わせた聖剣…!!空前絶後の聖剣の融合!!はぁ…綺麗でかっけぇ…!!」

 

NOAHで手合わせをするたびデュランダルを見せてはいたが、エクスデュランダルになってからは彼女の多忙な時期と合わさってしまい、拝めずにいた。今回の彼女の興奮っぷりはその間溜まったフラストレーションの爆発ともいえる。

 

「おっ、この穴からエクスカリバーの柄が出てくるんだろ?」

 

「そうだ」

 

「すっげぇ!このカシャッて音!たまんねえ!男心くすぐるギミックだな!!はぁー、写真にとって待ち受け画面にしよ」

 

持ち主の許可を待たずしてポケットから取り出したスマホでカシャカシャと写真を撮り始める。全体図、柄、刃、とそれぞれのパーツを裏表何枚も連射して撮影。その狂いっぷりにリアスたちは言葉を失った。

 

「聖剣を待ち受けにする人初めて見ました」

 

「木場、聖魔剣やグラムを待ち受けにしたことはあるか?」

 

「考えたことすらないよ…」

 

「…んで、お前はこいつ使いこなせんのか?」

 

「いや、エクスカリバーの7つの能力は得意不得意ではっきり分かれる。自信を持てるのは3つくらいだ」

 

「そうか、そりゃあ宝の持ち腐れだなぁ。この聖剣、カッコよさとパワーは認めるが、エクスカリバーをデュランダルの制御・増幅係にしようというコンセプトが気に入らんなぁ。教会は何考えてんだか」

 

「聖剣を使える人材の不足だろう。引退された方々を含めれば申し分ない人材はいるが、現役ともなれば中々いない」

 

「そうかー、そうだよなー。そりゃ聖剣計画なんてトンチキするわけだわ…っておっと、デリケートなワードだったかな?」

 

聖剣計画は祐斗の人生を狂わせた教会の暗部。口が滑ったと口を手に添えてつぐむレーヴァテインだったが、本人は表情を崩すこともなく。

 

「いえ、そこは乗り越えたつもりです。お気になさらないでください」

 

「そっかそっか。なあ、お前は真のデュランダル使いとエクスデュランダル使い、どっちになりたい?」

 

「?」

 

「もっとわかりやすく言うなら、デュランダルのパワーをとことん突き詰めるか、エクスデュランダルの7つの能力全てを使いこなして技と力を両立させた剣士になるかってことだ」

 

「…私は…」

 

ゼノヴィアは自分でも思いがけず、言葉に詰まってしまう。

 

彼女の性格としてはデュランダルのパワー一辺倒の使用を極め、あらゆる難敵を切り伏せ、粉砕したいと考えている。これまでもそうしてきたし、それがデュランダルの持ち味を活かせる一番の道だと認識している。

 

一方でエクスカリバーの能力を得たことで戦術の幅が広がり、それを宝の持ち腐れにしたいためにも可能な限り能力を使いこなしたいという思いもある。それは周りからもよく言われていることだ。シンプルな火力を放つパワータイプが多いグレモリー眷属にとって、エクスカリバーの多彩な能力はチームの欠点を補うにうってつけだからだ。

 

周囲の期待と自身の内にある二つの気持ち。それらがせめぎあい、答えを明示できずにいる。言葉に詰まる彼女の唇を塞ぐようにすっとレーヴァテインは人差し指を添えた。

 

「はいダメー。今のを即答できないようじゃデュランダルは使いこなせねえよ。何事も中途半端が一番いけねえ。ちゃんと考えて、決めた道を突っ走りな。今言えんのはそんだけだ」

 

「…」

 

困惑するような、思案に耽るような、様々な感情の入り混じった表情のままゼノヴィアは押し黙る。今までは自分の心の内に押しとどめていた悩みを明るみにされ、彼女はいよいよ剣士として岐路に立たされることとなった。

 

「…次、聖魔剣出せるか?」

 

「はい」

 

レーヴァテインに言われるままに、祐斗は自身の神器能力で聖魔剣を生み出す。差し出されたそれを受け取る彼女は。

 

「ほーこいつか」

 

やはり上下左右表裏、聖魔剣の細部に至るところまで目を凝らしてじっくり舐めるように見る。瞬きも忘れるほどの集中っぷりだ。

 

「…」

 

不思議なことにエクスデュランダルの時とは打って変わって、目を輝かせることもなくただ静かに、真剣な眼差しを剣に注いでいる。先程の調子が好物を喜んでほおばる子供なら、今はまるで高級料理をしっかり味わうような大人のようだ。

 

「静かね」

 

「あれ、さっきみたいにはしゃがないのかにゃ」

 

リアス達もあまりのテンションの寒暖差に意外だと反応を示す。その理由を問われるよりも早く、レーヴァテインは答えた。

 

「いや、聖魔剣ってのはな、レイド家の夢なんだ」

 

「夢?」

 

「そ、うちの家は剣だったら魔剣も聖剣も取り扱うし、手間はかかるけど作れるもする。でも聖魔剣だけはどれだけ時間をかけても、何を費やしても作れなかった」

 

「世界の聖と魔の均衡がとれているからね」

 

聖を司るのが聖書の神なら、魔を司るのは四大魔王。それらの存在により、世界のバランスは保たれてきた。しかし過去の戦争でその両方が滅び、均衡は破られた。魔王の崩御は悪魔に知られることとなったが、聖書の神は人界、天界共に大きすぎる影響力を持つため、混乱を避けるべくその死は秘匿された。

 

もはや均衡など機能していないどころか存在していないことを知る者はごくわずかである。しかしそれは聖魔剣という均衡の消失を象徴する、聖と魔一体となった禁手の誕生により露呈しつつあった。

 

「ああ。でもうちの先祖は諦めなかった。想像上、理論上は形にしたけど世界のシステムが邪魔しやがる。それでも試行錯誤してな。その過程で何本も何本も魔剣崩れ、聖剣崩れを作っちまった」

 

レーヴァテインは聖魔剣の刃に映った自身の顔を見た。いつもはズボラで元気いっぱいな顔が、自分でも驚くほど神妙で、その片目に涙をたたえている。

 

「それだけやってダメだったものが、今になってポンと生まれた理由は見当がついてる。けど悔しいなぁ…あたしの手で世界で初めての一本を作りたかったなぁ…」

 

一族が追い求めた物が今この手にある。だがそれは一族が生み出したものではない。その事実に対して悔しさはあれど、先取りして誕生させ、挙句神器で簡単に生み出してしまえる祐斗に対して恨みはない。彼に対して抱くのは感謝だった。一族の理論が、夢が間違っていなかったということを彼は証明したからだ。

 

こぼれそうな涙をこぼすまいと、彼女は天井を仰いだ。涙は零さずとも溢れる思いに暫しの間浸る。

 

その後、落ち着きを取り戻した彼女は眼差しを天井から聖魔剣へと下して。

 

「…なあ、神器で量産できるんだろ?一振りもらっていいか?」

 

頼まれた木場はリアスに一瞥し、彼女が頷くのを見ると。

 

「使ってください。あなたほどの使い手なら剣も本望でしょう」

 

「ありがとよ。おかげでいい剣が作れそうだ」

 

一族の長年の夢を手にし、にかっと屈託のない笑顔で礼を言う。改めて彼女は聖魔剣の握り心地を噛み締めるように感じると魔法陣を展開し、普段彼女が戦闘用の剣を保管している異空間へと収納した。

 

「…次はグラムです」

 

続いて祐斗が見せたのは魔剣の中の王、魔帝剣グラム。相も変わらずの不吉なオーラを漂わせるその剣の存在は周囲の者の表情を険しくさせる。

 

「おぉ…なるほどなるほど、デュランダルよりも尖った造形、改めてみると綺麗な色してるなぁ…!!血の色の刃に漆黒の刀身…魔剣版デュランダルって言われるだけあるわ。妖艶な美しさって感じだ」

 

切り替えも早く、レーヴァテインはまたもエクスデュランダルと同様のテンションで魔帝剣をじっと見定める。見るだけでも嫌なオーラを感じさせるそれに対し、微塵の恐れなく睨めっこしている。

 

「ちょいと触るぞ」

 

見るだけでは足りないと祐斗の許可を得るよりも早く、レーヴァテインはグラムの柄をがしりと握った。

 

「レーヴァテインさん、それに触ったら…!!」

 

慌てて制止しようとする祐斗だが時すでに遅く。グラムから凶悪なオーラが滲みだし、たちまちにレーヴァテインに絡みついていく。

 

「おっと」

 

グラムの魔剣としての呪いが、主の許可なく自身に触れたレーヴァテインに襲い掛かろうとしていた。それも魔帝剣と呼ばれる魔剣の頂点に君臨する剣の呪いだ。常人であれば一溜まりもないしっぺ返しを食らうところだが。

 

「なんだ?私と張り合おうってのか?」

 

ニコニコ笑顔の彼女が一転。低い声で返すレーヴァテインは呪いに侵食されながらも、意に介さない。逆に「ふん!」と気合一声、柄を強く握り返すとたちまちに禍々しいオーラは恐れをなしたかのように剣へと引っ込んでしまう。

 

「グラムが…鎮まった?」

 

「嘘…あんなに祐斗が苦労しているあれを」

 

この現象に持ち主の祐斗は勿論、リアス達も驚かされる。先代の使い手のジークフリートが手を焼いたと聞き、身内に渡った今でも健在な凶悪っぷりは彼女らも重々承知していた。それをこうもあっさりと、とにわかには信じられないようだ。

 

「ほおう、こりゃとんだ暴れ馬だ。歴代の使い手も手を焼く理由がわかるぜ。君、まだこいつを手にして日が浅いだろう?剣の方は使い手として君を認めちゃいるが、真の意味では認められてないな」

 

「真の意味?」

 

「単純に力を引き出しきれてないってことだよ。でも引き出そうとすれば魔剣の呪いで命を縮めるし、そもそも引き出す以前にグラムの力が強すぎて通常の運用もままならない。魔剣使いあるあるだな」

 

彼女は祐斗の悩みを一目で見抜いていた。グラムに触れたときの拒絶反応が思ったよりも弱い。それはまだグラムの中で木場祐斗という使い手がまだ根付ききっていないからだ。真の意味で認められているなら、持ち主の手から離れ別の剣士の手に渡ることに対し、もっと強烈な拒絶反応を起こしていたはず。

 

だが理由はそれだけではない。

 

「どうしてそれを?」

 

「グラムに触ってる時の表情でわかった。剣を恐れてるってな。そりゃこんな暴れ馬、ビビりながら使う奴を認めるわけがねえよ」

 

そこまで見抜く彼女の目には流石の祐斗も恐れ入った。ゼノヴィアもそうだが、彼女は剣士の悩みを的確に見抜きメスを入れてくる。それは彼女の六華閃として多くの剣士と出会った経験がその目を養ったのだろう。

 

「…なら、どうすれば?」

 

「簡単だ。こいつは力の塊だ。ならお前の力をぶつけて屈服させるんだよ。こいつと共に戦いを潜り抜け、こいつの全力を引き出し、それに耐え得る使い手だと認めさせろ。そうすりゃ魔剣の呪いを克服し、自由に振るえるはずだ」

 

「中々難しいオーダーですね…」

 

「それくらいじゃなきゃ魔帝剣使いはやってらんねえよ。ま、いきなりは無理ってのは承知だ。だから段階を踏んでやれ。徐々にグラムのパワーを上げて体を慣らすといい。呪いの軽減なら仙術使いもいるし、セーフティ張りながらだってできるだろうさ」

 

彼女は魔剣も、その使い手も多く見てきた。彼女だけでなく歴代当主が残してきた文献もあって使用者に代償を強いてくる魔剣の扱いには詳しい。だがグラムほどの魔剣のデータは中々ない。彼女のアドバイスがどこまで通じるかは彼女自身にも正確には測れないが、この男なら、聖魔剣という奇跡を生み出した木場祐斗ならやり遂げるだろうという確信ならある。それを信じた上でこのアドバイスを彼に託した。

 

「木場、まだまだ私たちは未熟なようだ」

 

「そうだね。レーヴァテインさんの話を聞いてわかった。もっとこの剣と向き合わないと…この剣に相応しいやり方で」

 

「ん?勘違いしてるかもだけど、貶すつもりはねえよ?寧ろ未熟で良かったわ、何せこれからもっと伸びるわけだからな!楽しみだ、お前ら伸びしろしかねえよ!」

 

「あはは…」

 

ニコニコの笑顔でぱんぱんと乱暴に、嬉しそうに二人の剣士の肩を叩く。剣だけではなく、その使い手もまた優秀で可能性ある人材であることを認識できソードマスターとして誇らしい気分だ。

 

「しっかしまぁ…すげえ…すげえよ。一日で聖剣と魔剣の頂点、世界のバグみてえな聖魔剣を拝めたんだ。ハァ...ハァ…興奮しすぎて絶頂しちまいそうだ。あぁ…パンツにシミができちまう…」

 

ふと思い返せば脳裏に焼き付いたコールブランドにデュランダル、グラム、そして一族の夢だった聖魔剣の美貌が鮮明に浮かんでくる。名だたる名剣を一日で堪能できたことに彼女は興奮のあまり体が火照ってしまった。

 

潤んだ瞳、赤らんだ顔。人目もはばからずもじもじし始める今の彼女には剣以外の何物も映らない。もはやこの場にいる全員がドン引きである。

 

「なんですかこの人…」

 

「こいつも変人にゃ」

 

「剣バージョンのイッセー様、というべきでしょうか」

 

顔を引きつらせ、意識せず後ずさる小猫たち。

 

一誠の変態性が女性に対して向けられるものなら、レーヴァテインのそれは剣に向けてのもの。熱意のレベルは大差ないか、むしろ彼女の方が上回るかもしれない。

 

「はぁ…ん?私の剣も見たいって?」

 

「いや言ってないわ」

 

「そうかそうか!それはまた、戦いの時のお楽しみさ」

 

「全然話を聞いてませんわ…」

 

「キャラが濃い…」

 

ついには勝手な空耳まで。完全にハイになった今の彼女の脳内には剣のことしかなく、全ての事柄が剣に結び付く。そして、更なる剣を求める。

 

「あ、そういえばまだ魔剣持ってるよな?ダインスレイブとかディルヴィングとか。ジークフリートからぶんどったろ?」

 

「はい?え、ええ、まあ」

 

「祐斗先輩が引いてる…」

 

「なあー見せてくれよぉ!時間もまだあるし、へるもんじゃねえだろ!?」

 

挙句、袖を引っ張って子どものようにだだをこね出す始末。リアスたちはこの日、レーヴァテインという人間の印象を深く記憶に切り刻むこととなった。




朱乃、ロスヴァイセ、アーシア、ギャスパーの出番はまた別の回に。

次回更新は数日以内になります。


次回、「根暗の贖罪」
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