ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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ジュニアハイスクールD×Dの情報が続々上がってますね。久し振りの新刊、楽しみです。


Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は…
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10.ヒミコ
11.ツタンカーメン
12.ノブナガ
13.フーディーニ
40.ジャンヌ
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50.呂布




第184話「根暗の贖罪」

レジスタンスのメンバー向けに用意された一室。客室に相応しい綺麗な内装とゆったりできる黒ソファははるばるやって来た客人をリラックスし、もてなすためにある。

 

しかしソファーに腰かけるドレイクの内心は穏やかではない。

 

(なんだってイレブンさんは僕に彼女の対応を...)

 

仮面に隠れ、表情は見えないながらも内心苦々しく思うドレイク。その向かいには明るい笑顔で振舞うイリナと一誠が。

 

「よっしゃ、ポテチ持って来たぜ!戦前の腹ごしらえだ!」

 

「サンキューイッセー君!ドレイクさんも一緒に食べましょ!」

 

『あ、ああ…どうぞ、召し上がれ…?』

 

根暗な彼には二人が生み出す賑やかな雰囲気に耐え切れないのか、ついには自分でも何を言っているのかわからなくなってしまいそうだ。

 

『イッセー、イリナ。お前らに頼みがある』

 

アザゼルから託された極秘任務。それはイリナと共にドレイクとお話をして関係づくり(秘密を探る)をすること。ドレイクはレジスタンスの中でも特に謎めいており、注目度の高い彼の情報価値は非常に高い。彼のみならず、ポラリス達が真に味方か、はたまた敵か。その内面を探り判断するためにも重要な任務だ。

 

既に不信感を持っているリアスや木場では向こうも警戒する為、特に人当たりの良いイリナや同じ赤龍帝である一誠にその任を託した。果たして、強引ながらも完全にドレイクはイリナたちのペースに乗せられることになった。

 

『…仲間の下に戻らなくて大丈夫なのかい。僕と話をしても楽しくないだろう』

 

「いやいやー、折角だしどんな人なのか知りたいと思って!」

 

「俺も同じとこです。だって、同じ赤龍帝なら仲良くしたいじゃないですか。ドライグはあんまりいい顔しないと思うけど」

 

と、ニコニコして話すがこれは二人の全くの本心である。仮面で隠された顔、素性、その全てが彼らの好奇心をくすぐる。その好奇心あってこそ任務もあるが二人の自発的、積極的な行動なのだ。

 

『僕はつまらない人間だよ。語るに及ばないし、赤龍帝を名乗る資格もない』

 

「そんなことないですよ!だってさっきも俺を助けてくれたし、バアル戦の時は深海を助けてくれたじゃないですか!」

 

「そうそう!この世につまらない人間なんて一人もいないんだから!」

 

『…ふふっ、君たちは眩しいね。見習いたいくらいだ』

 

「私、それが取り柄なもんで!」

 

謙遜しても引き下がらない彼らに、ドレイクは思わず笑みをこぼした。日陰が似合う彼にとって、明るい二人は眩しい太陽のようだった。

 

「俺たちに訊きたい事とかないっすか?」

 

「折角の縁、オープンに話しましょ!」

 

『訊きたい事…ポラリスさんから君たちの経歴は聞いているからね。中々…』

 

と、ドレイクは難しそうに首をひねる。彼女らのこれまで、そしてこれからを聞かされている彼にとっては、一誠達以上に一誠達のことを知っていると言えるかもしれない。

 

「うそ、私たちばっちり調べられてる!?」

 

『そう。グレモリー眷属の中でも特に兵藤一誠君、君はスペクターに並ぶ最重要人物に位置づけられている』

 

「マジっすか!?なんか怖いな…」

 

『彼女のことだから悪いようにはしないと思うよ。僕も詳しくは知らないけど…そうだ、質問があるとするなら、君たちは、かけられた期待に対して重いと感じないのかい?』

 

ドレイクもまた、過去は多くの物を背負ってきた。しかし今となってはあらゆるしがらみから解放され、自由の身となった。そんな彼が今の自分とは反対に、過去の自分以上に多くの期待を背負う彼らがその期待とどう向き合っているのか、知りたいところだった。

 

「うーん、そりゃ思います。おっぱいドラゴンの仕事とかもあって忙しくなって、いろんな敵と命張って戦うし、昔じゃ想像もつかない人生だなって。でも、やってることは変わんないかな」

 

『変わんない?』

 

「はい。目の前のやることに全力を尽くすことです。敵も仕事も、あと学生生活も。そうすりゃなんだかんだうまく行くし、うまくいかなくても悔いはないなって思います」

 

「私も同感ね!ミカエル様のAって、大事なポジションだけどやってることは普段と何も変わんないわ。天使になったって、私がやりたいことは昔から同じ。私は私!」

 

人によっては重い心情を吐露する質問だが、二人はあっけからんとした様子で答える。ともにそれなりのポジションを持っているが、行動の指針としては大きな変化はあまりない。

 

二人はこれまでの戦いを通じ、大きな力を得ると同時に、それに比例した社会的地位と責任を得た。知名度も高く、誰もがその行動を注目し、期待をかける。大きな精神的負担になってもおかしくはない。だがそれは彼らにとっての足枷足りえない。

 

一誠も、イリナも、ここにいないメンバーも全員、今目の前の困難を乗り越えるために全力を尽くしてきた。その為の精神性は磨かれ強靭になれども、彼らの心は変わらない。

 

「なるほど…流石だよ。君達にはかなわないな。彼女らが期待するわけだ」

 

「んじゃ、私からも質問を一つ!質問のキャッチボールね!」

 

ドレイクは期待や立場というデリケートな話題を通じてイリナたちの心情に踏み込んできた。ならばこちらもと、大きく踏み込んでみる。

 

「ドレイクさんって、本当にポラリスさんの側近?」

 

『?』

 

「どうしたイリナ?」

 

余りに突拍子のない質問に、二人の赤龍帝は揃って首を傾げた。顔合わせの時にドレイク自身で彼女の部下であると名乗っている。彼を知る者はほとんどいない中、知っている者ですらそれを疑う者はいない。

 

「ドレイクさんってポラリスさんの仲間だけどなんだかイレブンさんとは違う気がすると思ったの」

 

「違う?」

 

「うん。雰囲気だったり、イレブンさんはいかにもポラリスさんの側近って感じだけど、ドレイクさんは立ち振る舞いからしてポラリスさんへの忠誠だけって感じがしないわ。でも深い理由があって、一緒にいる。そんな気がする」

 

「お前そんなこと考えてたのか…」

 

これと言った根拠もない質問、それをまだ知り合って日の浅い相手に仕掛けられる度胸に思わず彼は苦笑をこぼした。

 

『なるほど。鋭い直感は流石、ミカエルのAだね』

 

「いやいやー!」

 

『…僕はさっきの質問で君たちの深い心情に踏み込もうとした。こちらもある程度は答えないとアンフェアだ。僕は彼女らと違ってディンギルに私怨はないし、彼女らとは別の世界の出身…もっというなら、この世界の生まれだ』

 

「そうなんですか!?」

 

「うそん、私もてっきりポラリスさん達と同じ世界出身だと思ってたわ!」

 

これには二人も面を喰らって目を丸くした。異界出身のポラリスやイレブン以上に異様な雰囲気、装いをする者がまさか自分たちと生まれを同じくするとは夢にも思うまい。

 

『残念ながら。だから僕も彼女たちのディンギル討伐への並々ならぬ思いを完全に推し量ることはできない。僕自身も彼女らから完全な信頼は得ていないんだ。いやむしろ、二人の絆が強すぎると言った方が正しいか』

 

「なら、ドレイクさんの戦う理由って?なんでポラリスさん達と一緒に行動してるの?」

 

『…贖罪の為さ』

 

呟く彼はそっと仮面に手を添える。仮面の裏の素顔、その傷の疼きを押さえるように。

 

『僕はかつて過ちを犯し、全てを失った。名も、過去も、全てを。でも犯した罪は消えない。贖罪こそが今の僕が生きる理由さ』

 

「過ち…」

 

表情は見えないが、その重々しい口調が彼の心情の全てを物語る。完全に彼の過去というヴェールが開けたわけではないが、その隙間にちらついて見える固い覚悟に二人は気圧されるようだ。

 

「…本当に贖罪だけなの?無くしたものを取り戻そうとは思わないの?」

 

『ああ。今更僕自身の為に動いたってどうにもならないからね。だったら私欲を滅し、大勢の為に戦うまで。…でも、最後に死ぬ瞬間に生きてて良かったって思えたらいいな、くらいには思ってるよ』

 

「…それ、俺もわかります」

 

「?」

 

「サマエルの毒で死ぬとき、皆の顔が思い浮かんだんです。意識は消えそうなのに皆の顔が鮮明に浮かんで、皆に会えてよかったなって。結果はこうして生きちゃったんですけど、その経験のおかげでもっと皆を大事にしたいって思ってます」

 

「イッセー君…」

 

それは彼にとって忘れがたい記憶。半ば相打ちに近い形でシャルバを討ち、またサマエルの毒で死んだ。二度目の死と大切な人たちの別れはどれほど彼の心身を引き裂くほどに痛めたことだろうか。

 

しかしそれでも彼は生き延び、変わらず戦う選択を取った。大切な人たちへ向ける思いの強さ、そして彼が繋いだオーフィスとの絆あればこその今の彼である。命も、何もかもを失いかけた経験がより持てるもの、周囲の人すべてを大事にしたいという思いをより強くした。この記憶は今の彼を心身ともに形成する上で大きすぎるファクターとなった。

 

『そうか…今わの際ですら大事に思える人達なんだね。とても強い、消えない縁だ、大事にした方がいい。隣にいる彼女、とかね』

 

「も、もう!顔から火が噴いちゃうわ!」

 

ドレイクのふとした一言にイリナは顔を赤らめて逸らした。何故こうも痛いところをついてくるのかと彼女は思ったが、それも含めてポラリスから情報を得ているのだろうと得心した。

 

『ふふっ、察しの通り僕は罪深い身だ。だから自己肯定感も低い。もう一人の赤龍帝と呼ばれても誇りもないし、赤龍帝の力はあくまで僕にとっては戦うための力でしかない。そんな僕でも、誰かの役に立てたらと思うよ』

 

「いやいや、役に立つどころか俺はもう認めてますよ。ドレイクさんは凄く強いです。俺と深海、匙とドレイクさんで力を合わせれば絶対アルルにだって勝てます!!」

 

「うんうん、みんなでやっちゃいましょう!」

 

『ああ、そうだね。…なんだか君達といると、冷めた心が温かくなるような気がする』

 

紅茶が注がれたカップに手をかけた。そしてそれをゆっくり仮面に隠された口元に持っていき。

 

「「…」」

 

二人して、その様子を固唾をのんで見守る。もしかしたら仮面を外して素顔が見れるかもしれない。あれだけ頑なに隠されたら否応にも気になるのが性というもの。

 

この絶好の機会を見逃さずにはいられなかった。全神経を視神経に集中する。余計なものは削ぎ落せ。今、この瞬間を見届けるのだ。

 

その一心だからこそ、背後からかけられた冷めた声に跳び上がる程驚いてしまった。

 

「あなた達何をしているのですか?」

 

「「うわっ!?」」

 

反射的に振り返れば、イレブンが呆れた目で二人を見ていた。そして次にドレイクへと視線を向けたときには。

 

「「あっ」」

 

カップがテーブルの上に戻されている。中の紅茶は既に飲み干されていた。千載一遇のチャンスを逃し、残念がる二人にイレブンは呆れ半分に問うた。

 

「彼の素顔を見れるのでは、と思いましたか?」

 

「ぎく」

 

「彼の素性はなるべく詮索しないで頂けると助かります。彼はその点凄く気にしていますので」

 

『人様に聞かせられるようなものじゃないんだ。悪いけど、さっき以上のことは話せない』

 

(なるほど…ドレイクさんは機密に近い扱いなのね)

 

イレブンの話から推察するイリナ。一見、裏心なく天真爛漫に会話しているように見えて、彼との雑談が任務を兼ねていることを忘れたわけではない。

 

『そういえば、ドライグの調子はどうだい?』

 

「今は仮眠してます。戦いになったら起きるって言ってたんで、決戦の時は紅の鎧も使えると思います」

 

アルギスとの戦闘後、ドライグは再び休眠状態に入った。あの覚醒は一時的なもので、本人も完全な復調ではないと自覚していた。そのため次の戦いが大きなものになることを見越し、少しでも調子を上げるために眠りについたのだ。

 

「それは何よりです。全てはあなた方に掛かっているといっても過言ではありませんので」

 

『…ドライグは僕のことを何と言っていた?』

 

「敵じゃないんで敵意剥き出しではないんですけど、強い対抗心はあるみたいです。さっきの戦いもあいつに見せ場取られてんじゃねえ!って言われました」

 

『…そうか。ドラゴンは力とプライドの塊だ。言ってみれば紛い物の僕には殺意すら向けられるんじゃないかと思っていたよ』

 

安堵したというドレイクだが、言葉にはしなくてもイレブンも同感であった。リアスたちを味方につけたいポラリスサイドにとって、グレモリー眷属の中心である兵藤一誠が相棒との不和を起こして不調になるのは戦力上大問題になる。その不安が解消できたことは大きな収穫である。

 

「そうだ、立ったままなのもだしイレブンさんもよかったらどうぞ!」

 

「ではお言葉に甘えて…ポテチも頂いても?」

 

「勿論!」

 

イリナに勧められ、イレブンもゆっくりソファーに腰を下ろしてドレイクの隣に陣取る。すると戦士のものとは思えない細指をポテトチップスの袋に忍ばせ、中身を摘まみ口に運ぶ。

 

「…」

 

淡々と摘み、食してはまたつまむ。無言のままのイレブン、途切れた会話。沈黙が堪えられないイリナは。

 

(…ねえねえ、折角だしイレブンさんのことも聞いてみようよ!)

 

(マジで?ドレイクさんですらまだまだなのに)

 

(大丈夫!当たって砕けろ、よ!)

 

本来はドレイクをターゲットにした聞き込みだが、もう一人増えたのは思わぬチャンス。ドレイクよりもっとポラリスと近しい彼女なさらに有益な情報を持っていそうだ。もっと情報を聞き出そうとこそこそ耳打ちする二人にふとイレブンが硬い表情を僅かに崩して微笑んだ。

 

「お二人は仲睦まじいのですね」

 

「えっ!!そ、そんな仲睦まじいなんて…!!」

 

彼女の言葉に衝撃を受けたか、イリナは慌てふためき頬を赤らめた。乙女の恋心を初対面の他人に言及されるとは思いもしなかった。

 

「別に羨ましい、というわけではありません。そういったものを羨む感情はとうの昔に私も、ポラリス様も削ぎ落としてしまいました」

 

「えっ」

 

「それは、どうして…?」

 

「必要ないからです。戦いの為、目的の達成の為、性愛は非合理的で不要だと判断し、体の設計から排除してしまいました。他者への慈しみや親愛までは捨てていませんよ?」

 

「それってつまり…子どもを産めないってこと?」

 

「ええ。私たちの悲しみと戦いは私たち次代に残すべきではありません。私たちで完結するべきです。…非合理を求めたはずなのに、合理性を捨てきれない。生まれ育った世界の性でもあるんでしょうね」

 

己の胸に手を当てるイレブンはどこかもの寂しげに語る。

 

イレブンやポラリスは高度に発達した機械文明の技術とナノマシンを利用し、自身のアバターから生殖機能を人為的に失わせた。それに伴うホルモンバランスの乱れや心身の不調も同じくナノマシンの効果で克服し、まさしく彼女らは戦いに不要なものを捨て去ったのだ。

 

女性として生まれ持った当たり前の能力を自分たちの手で捨てた彼女らの考えは言葉では理解できても、心では受け入れがたかった。その姿にいたたまれなくなったイリナは話題を変える。

 

「えっと…イレブンさんって、ポラリスさんと昔からの付き合いなの?」

 

「そうですね。私は生まれたときから彼女のために尽くすことを定められていました」

 

「生まれたとき?」

 

またしても重い話題の予感。イリナは一瞬質問を間違えたかと焦り、イレブンは続きを話すべきかと一瞬逡巡したが、迷いを振り切る。今必要なのはコミュニケーション。胸襟を開いて話さなければ、向こうもまた心を開いてくれることはない。

 

「…これは話しても問題ないでしょう。私、13人姉妹の11女なんです」

 

「じゅ、十三人姉妹!!?」

 

「そ、そんなにお子さんがたくさん…!!?」

 

声を上げて衝撃を受ける二人。子どもに恵まれない悪魔社会は勿論、人間界でも聞かない数字だ。彼らの中での貞操観念が音を立てて揺らぐのを感じた。

 

「姉妹、といってもクローンです。まっとうな男女の営みで生まれた命ではありませんよ」

 

「クローンって、本当にあるんだな」

 

「なんだか、SFみたいね」

 

「ポラリス様のかつての仲間…ベガ様がポラリス様を補佐する為、あるいは監視するために作られ、送られたのが私です。最も、私はポラリス様のカスタムを受けてその制御から外れていましたが」

 

「仲間なのにギスギスしてるんですね」

 

「昔は色々ありましたから」

 

その昔について色々踏み込みたいところだったが、まだ早いとイリナたちはぐっと言葉を呑みこんだ。相手は恐らく壁を作る慎重派。距離をまだ正確につかめないでいるうちに踏み込んでもはぐらかされるだけだと彼らなりに賢く考える。

 

「なら、イレブンさんはロボットみたいだけど自由ってこと?」

 

「はい。私は誰かに支配されて動いてはいません。あまり感情の起伏が無いように見えますが、心があります。好物も趣味もありますし、悲しみも喜びも感じます。ちなみに私の好きなものはこたつとみかん、通称こたみかです」

 

「なんだか急に親しみやすさを感じたわ」

 

「こたつとミカン…なんだか冬によく見る組み合わせだな」

 

「ええ。これに勝るものはないと思いますよ。そろそろ寒い季節、あなた達も是非お試しください」

 

「イッセー君、後でこたつあるか確認しましょ!」

 

と、イリナに急かされる一誠。内心、実際に出したらオーフィス辺りが好んで引きこもりそうだと思った。

 

「…そんなことより、私たちに訊きたいことがあるのでしょう?」

 

「ええっと…イレブンさん達の世界って、具体的にどんなのだったんです?この世界とどんな違いが?」

 

「高度に科学が発展した世界って言ってたけど、すごく生活が便利そうなイメージなのよね」

 

アザゼル達の前でも、ざっくりとした説明はされたがこうして時間を取れたことで改めて深堀したいと思っていた事柄だ。深海悠河ともまた別の世界から来た彼女たち。異形がいない以外はこの世界と大差ないとされる彼の世界とは打って違って発展した世界がどのようなものか、彼らは知りたかった。

 

「そんなにいい世界ではありませんよ。一言で言い表すならSFのような近未来のイメージかつ人々の生活が豊かになった世界…しかし、それはディストピアです」

 

「ディストピア?」

 

「ええ。ディンギルが来る前はスーパーコンピューターが社会システムも、人の思考行動も全てを支配する世界でした。大半の人類はシャスターが製造したクローン人間に取って代わられ、残された人類は抵抗活動を続けていました」

 

それは悠河も知る彼女たちの情報。在りし日の彼女らが生まれ育った世界のことをどこか懐かしむような感情を仄かに乗せて、イレブンは語る。想像した遥かに利便が良く、夢のある世界とは違った実状にイリナたちの中で持ったイメージが音を立てて砕けた。

 

「そしてクローン人間は生殖能力を持たず、子孫を残すこともできません。つまり私たちの世界ではあなたのハーレム王の夢も叶わないということです」

 

「もっと嫌になった…」

 

いよいよ一誠の表情が絶望に染まる。エロの本能に生きる彼にとって、生殖能力がない=エロがないという理屈になる。それは彼にとっては想像しがたい世界だ。

 

「…そっか、イレブンさん達みたいな体の人が一般的なんだ」

 

「そんな社会に異を唱え、革命の旗を上げた内の一人がポラリス様でした。人の未来を作るのは機械ではなく、人の自由意志であるべき。そう訴え、仲間と共にシャスターを破壊し世界に人間の自由を取り戻しました…それも、ディンギルに踏みにじられてしまいましたが」

 

「なるほどなるほど…!ポラリスさんって革命家だったのね!意外だわ!」

 

「すごい人なんだな!」

 

「そうです。私がこの世で唯一親愛する人です」

 

主を褒められたイレブンの堅い表情が緩み、破顔する。ドレイクから二人の間の信頼関係は固いと聞いたばかりだが、本人から話を聞けたことで二人はその程を実感した。それは恐らく、自分たちよりも固く濃い繋がりなのだろう。

 

「…先の話であなた方はポラリス様に不信感を抱いた、違いますか?」

 

「それは…」

 

「あなた方はそうでなくとも、特にアザゼルやリアス・グレモリーはそうかと、私は感じてます。思慮深い方ほどそう思うでしょう」

 

否定できず口ごもる一誠だが、イレブンは責めない。ポラリスとの話で懸念した通りの反応だったからだ。

彼女はその懸念を少しでも払拭するために、この場に来た。

 

「ポラリス様を信用しきれないあなたの気持ちは理解できます。昔からああいう性格に悩まされた方ですから。でもあの方は決して悪意をもって他人を害するような方ではありません。伊達に年齢と時間を重ねていませんから」

 

「…」

 

ポラリスって何歳なんだろうという質問が口から飛び出しかけたが、イリナはぐっとこらえた。

 

「ポラリス様もそうですが、私もあなた方と良い協力関係を公私共に築き上げたいと考えています。ようやく顔を明かしたこの戦いをその第一歩にしたいのです」

 

「イレブンさん…」

 

「一つ、ポラリス様のプライベートの情報を話しましょう。ポラリス様とあまり接しにくいとお思いかと思いますので、これを知れば多少親しみやすくなるかと」

 

「おっ!」

 

貴重なポラリスの情報だ。一言一句聞き逃すまいと、一誠達は耳に意識を集中させた。

 

「ポラリス様は引きこもりで普段仕事しっぱなしなのでそれ以外の生活スキルが壊滅的です。特に料理に関しては知識があってもスキルがありません。私がいないとダメダメです」

 

「「…」」

 

二人は黙りこくった。価値ある情報かと思いきや、プライベートの恥ずかしい情報をぶつけられ不意打ちを受けた気分だ。それと同時に、一誠の舌にあの混沌をぶちまけたような苦い思い出の味が滲むのを一瞬感じた。

 

以前生徒会と関わった際に会長手作りのケーキを食べたのだが、その余りのポイズンクッキングっぷりに意識が飛びそうだった。会長のポイズンクッキングがお菓子限定なのかはわからないが、料理というくくり全般苦手だというのであればポラリスはその上を行くのだろう。

 

「…でもなんか、ポラリスさんのことを話すとき楽しそうだわ」

 

「ええ、単なる上司と部下の関係には収まらない絆があると私は感じています。パートナーのようなものでしょうか。本人の前では中々恥ずかしくて言えませんが、気持ちは通じ合っていると思います」

 

それは嘘偽りなき本心。永い時をかけ、培った絆が二人を結んでいる。彼女にとって復讐が全てではない。忠義と絆こそ、気の遠くなるような時間の中でも生きる意志を絶やさず前進することができた動力源でもあるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よ、余計な情報まで言いおって…!掃除ぐらいできるわ!」

 

本人に聞かれて恥ずかしいことを知らぬ間に本人に聞かれること程恥ずかしいことはない。デモンストレーションが終わって戻って来たので、イリナたちの対応を任せたドレイクに助け舟を出そうかと思いきや、まさかイレブンも会話に参加していてこんな発言をしているとはポラリスも思わなかった。

 

予め開示してもOKな情報の打ち合わせはしていたがまさか自分のプライベートまで喋られるとはと、羞恥に唇が思わず震える。が、その感情も数瞬後にはため息と共に冷めていった。

 

「はぁ…そうじゃのう…お主にはいつも助けられっぱなしじゃ。フォローまでさせてしまって、頭が上がらんわい」

 

イレブンが言ったこと全てがまごうことなき事実なので否定のしようがない。真実は真実として、受け入れ改善していかなければならない。イレブンには家事と外での任務を、自分は開発と情報処理に明け暮れる日々の中、自身にしかできないという現実に甘んじていた。

 

「とりあえず…料理からか」

 

今晩の夕飯をタスクに加える。この戦いの行方がどうであれ、死力を尽くした戦いの後になるのは違いない。誰にも知られず一人、彼女は気合を入れるのだった。




ということでキャラの深堀シリーズ第二弾でした。まだ書けない謎もりもりの彼ですが、今章ではもうちょっと…?

次回、「夢の中の太陽」
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