現在、スペクターの使える眼魂は…
S.スペクター
2.エジソン
3.ロビンフッド
5.ビリー・ザ・キッド
6.ベートーベン
7.ベンケイ
9.リョウマ
10.ヒミコ
11.ツタンカーメン
12.ノブナガ
13.フーディーニ
40.ジャンヌ
46.ノーベル
50.呂布
「お帰り」
「ただいまー、はーあったかー」
すっかり日が暮れて昏くなり、街灯が道照らす時間帯。妹は変わらず疲れを感じさせない元気そうな声と共に玄関に入って来た。
「お疲れ、いつも遅くまで熱心だな。…妙に嬉しそうだけど、なんかあったか?」
靴をシューズボックスに戻し、上がってくる妹の表情はいつになく明るい。何かいいことがあったのは目に見えてわかった。妹は首をぶんぶんと笑顔で振って答えた。
「うんうん、次の試合決まった!私も出られるって!」
「マジか!それはめでたいな!お前、熱心に頑張ってたからな」
「えへへー、努力は実るってこういうことかな?」
俺も喜んでくれたことで一層嬉しかったか、はにかむ妹の笑顔が眩しい。
俺が高校一年になり、どこの部活にも入らない帰宅部を貫いている一方で中学2年の妹はバレー部として精力的に練習に励んていた。部活の初めは結果の出なかった彼女だが、2年に上がってからはその遅れを取り戻すように成長を見せ、ついには試合に出られるまでに至った。彼女の頑張りを、悔しがる姿を見てきた俺にとってはこれ以上鼻が高いことはない。
「お兄ちゃんも観に来てよ。妹の晴れ舞台だよ?」
「そりゃ勿論。俺が来るからには勝ってくれよ?」
「当たり前でしょ!いいスパイク決めちゃうから!!瞬き厳禁!」
俺が片手に持っていた玩具の箱に目が留まった。
「あれ、それって予告で出てた新しいライダーの玩具?」
「そうそう、アラン様のね」
話題になったのはつい最近発売されたDXメガウルオウダー。仮面ライダーゴーストに搭乗する敵ライダーのネクロムが変身に用いるアイテムだ。妹もライダーについてはそこまで詳しいってわけではないが、俺がいつも日曜の朝に観ているのに合わせて自然に一緒に観るようになった。
「あの俳優さんすごいイケメンよね、きっと数年後ブレイクしてそう!」
「最近はライダー出身の売れっ子が増えてきてるからな。今は埋まっていても、将来的にブレイクする俳優もいるだろ」
「その時は、私たち二人で後方彼氏面ってやつ?だね!」
「おう、マウント取り放題だ」
「…あっ、そうだ、ねえお兄ちゃん」
ふと思い立ったように妹はスマホを取り出して、あるお店の紹介画像を俺に見せてきた。
「私が今度の試合に勝ったらさ、一緒にネットで有名になってるスイーツ食べに行こ!どうしても食べたいのがあってさ!これなんだけど…」
紹介されているのはイチゴと林檎を存分に使ったタルト。ボリュームたっぷりで見るだけで食欲が沸き立ってくるような贅沢なビジュアルだ。
「…おー、すごい美味しそうじゃん。これは確かに有名になるわけだわ」
「でしょでしょ!行こうよー!」
「それはいいけど…でもお前ひとりでもいいんじゃないのか?」
「こういうのは一人ぼっちじゃ楽しくないもん。複数人で食べるのが良いんだよ」
「なら俺じゃなくて友達を誘えばいいじゃん」
「もー!普段勉強を教えてくれる恩返しがしたいの!それに、友達はみんな行ったみたいだし、私だけ仲間外れなんて嫌!」
可愛らしく頬を膨らませて、妹は俺の袖をぶんぶんと引っ張って来る。そこまで言われたら断れないじゃないか。
「…やれやれ、しょうがない妹だ。いいよ、試合に勝ったらな。俺のおごりも追加だ」
「やったー!これなら試合に絶対に負けない!」
こんなもんで試合に向けてのモチベが爆上がりするなら安いもんだ。俺としても妹の勝つ姿は是非とも見届けたい。
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「…さん、深海さん、深海さん」
「…ん」
ゆさゆさと肩を揺さぶられる感覚に、自然と視界が開けていく。ぼやけた意識と視界が見据える先には。
「あら、お目覚めですわ」
「…あれ、朱乃さんにロスヴァイセ先生…」
心配そうな顔をする二人に、ギャスパー君やアーシアさんも俺の寝ぼけた顔を覗き込んでくる。そしてその背景には、冬も近づいたことで早くも日が暮れだしている暗がりの空。
思い出した。生徒会メンバーと喋った後、一人きりになってはやる気持ちを落ち着かせるために屋上に出た。しかし、溜まった疲れのせいでうとうと眠気に導かれるままに眠っていたんだった。傷は癒えても、体力の消耗までは手当で戻らない。
「仮眠の所、起こしてごめんなさい。でもこんなところで寝てたら風邪ひきますよ?」
「すみません…」
眠りに浸っていた体でゆっくり立ち上がる。疲れはもう感じない。仮眠のおかげでコンディションは取り戻せたようだ。
「先輩、すごく幸せそうな顔をしてたから起こしづらかったです…」
「そんな顔してたのか…アーシアさんももう、回復できた?」
アーシアさんは打ち合わせの後、治療の疲れでぐっすり眠っていた。ポラリスさんや猫又姉妹の仙術があっても圧倒的に回復要員が足りていない現状では、どうしても彼女に負担がかかってしまう。
「はい、ゆっくり休めましたからこれで戦いに参加できます」
と、アーシアさんは疲労を感じさせないいつも通りの笑顔で返してくれた。この様子なら大丈夫そうだ。
「私、深海さんのことがすごく心配で…あの戦いから、ずっと余裕がない表情に見えるんです」
「…」
「やはり、妹さんのことですか?」
心配そうなアーシアさんの言葉を引き継ぐように、ロスヴァイセ先生が問う。
「…はい。さっきも昔のことが夢に出てきて。ずっとあいつのことを考えてたから夢にまでなったんでしょうね」
今回に限った話じゃない。ここ最近はずっと昔のあいつとの思い出を夢に見る。ポラリスさんから提示されたリミットが近づくにつれ、焦りが強まりあいつのことばかりを考えるようになったせいだ。別に悪夢じゃないから、眠れないことはない。それでも、あまりよくないことな気がする。
「でも言い換えれば、それだけ妹さんに強い思いがあるということですよね」
「そうですね…あいつは、俺にとって太陽だった。本当にかわいくて自慢できる妹でしたよ」
「羨ましい、とか妬ましい、とは思わなかったんですか?」
「…いや、あいつが可愛い余りにそんなこと考えたこともなかったな。仲もすこぶるよかったし、あいつの為なら何でもしてあげたいってことも考えてた」
「これがシスコンですか…」
「なんだか羨ましいくらいの兄妹愛ですね!」
若干引き気味の先生に対し、アーシアさんは純粋無垢に微笑んでいる。いやいや、俺は事実を陳列しただけなんだけどな。引かれるとは心外だ。
「あらあら、そんなに愛されてるなんてゼノヴィアちゃんが嫉妬しちゃいますわよ?」
「いやいや、あいつだって凜と仲良くできたらそんなこと思わないですよ」
「ほんとに先輩って彼女のことになるとすごく盲目的ですね…」
「個人的に妹さんが兄の彼女とどう付き合っていくのかすごく気になります。不純異性交遊のこともありますから」
「あー…」
ロスヴァイセ先生が言ってるのは凜がゼノヴィアと接するとき、内心気まずいって思うんじゃないかってことだろうか。そしてそのまた逆も然り。
特にゼノヴィアは性のことに開けっ広げなところもあるから、そういうのに無垢で耐性のないあいつがうまくやっていけるか…先生に言われて初めて気づいた。
「ま、一方で俺は部活もやってなかったし、明るくもなければ友達もいたけどそんなに多いわけじゃない。成績も平々凡々でしたけど、そこだけはあいつには負けらんないって対抗心に燃えてました。勝てたことは一回もありませんでしたが」
対抗心に燃えてたって言っても、あいつに勉強教えてって言われたら迷いなく教えていた。結局勝てなかった理由はそこなんだろうな。自分よりもあいつのことを優先してしまう性格。損をこいても、あいつのためならってつい思ってしまう。それが生前の俺だった。
「そうだな…あいつが太陽なら俺は月か?あいつの光で照り輝いて、生きてるようなもんです。だから、あいつがいなくなった時は本当に辛かった」
「そうだったんですね…」
恨むべき犯人も死んだことで燃えるべき復讐心も怒りもなく、1年くらいは虚無に憑りつかれていた。両親がいても、俺の元気は自慢のあいつの明るい声と笑顔でどれだけ支えられていたか気づかされた。
その中でもどうにか頑張って高校受験を乗り越えたのだが、結果としては脱線事故で死ぬありさまだ。今にして思えばあいつがいなくなったその時に、俺という人間の運命も終わっていたのかもしれない。
そう卑下する俺を、朱乃さんはくすくすと笑った。
「あら、私たちにとっては深海君もイッセー君と同じ太陽ですわよ?」
「俺が太陽?」
「ええ、深海君はいつも真っ先に体を張って皆を奮い立たせて引っ張ってますわ。私たちの進むべき道を照らしてくれる。あの魔獣騒動の時が正しくそうでした」
「そうです!イッセーさんを亡くして私たちは途方に暮れているのに、深海さんは一番に皆の為に立ち上がって、戦いました。同じくらい悲しんでるのに…その気持ちをこらえて、力にして」
朱乃さんの言葉にアーシアさんも続く。この二人はあいつが死んだとき、特にその焦燥っぷりが酷かった。片や放心、片や自死を考えるほどに。誰よりもショックを受け、動けなかった二人だからこそ、率先して立ち上がろうとした俺のことを評価しているのかもしれない。
「私はあの戦いの場にいませんでしたから、正直に言うとあなた達の悔しさ悲しさは私以上で、測り切れないところがあります。でも、あの中で一人動こうとした深海君は本当にすごいと思っています」
ロスヴァイセ先生はその時北欧へ修行に出かけていたため、あのホテルでの戦いには参加できなかった。先生も先生なりに戦えなかった疎外感と巡り合わせの悪さを呪っただろう。
「ロスヴァイセ先生…」
「それにイッセー君のおっぱい好きと深海君の不純異性交遊…どちらも難はありますが、元気な方が太陽だと言えるでしょう」
なんだそのフォローのようで貶してる追記は。事実だからぐうの音も出ねえぞ。
「僕も、先輩がいつも命張ってるからもっと強くなりたいって思えたんです。グリゴリに行った結果はイマイチでしたけど…でもまだ僕は諦めてません」
ギャスパー君も少し照れながらも、自身の思いを口にする。
「頑張る太陽みたいな先輩のように、僕も強くなって見せます。あの力だって、いつかは使いこなせるようになりたいです」
「それに、明るさも人に好かれることも深海君にないなんてことありませんわ。あなたのその真っすぐに仲間のことを考えて行動する情熱、それも太陽足りえる素質だと思いますわ」
「俺も、皆にとっての太陽…」
兵藤は紛れもなくこのグループの中心、部長さんを超える影響力を持っている。例えるなら兵藤が太陽で、俺達はその周りを周回する惑星、衛星だ。俺自身もあいつの影響を受けたからこそ、逆境でも戦う根性を身に着けたと思っている。今にして思えば、コカビエル戦で折れた俺が立ち上がれた理由にライザーと決闘する兵藤の姿が脳裏に会ったからなのかもしれない。
だからこそ、俺もまた兵藤と同じ太陽であるという発想はなかった。ロキ戦に曹操戦、俺もあいつと肩を並べて戦ううちに太陽に近づき俺自身も同質になっていったのだろうか。あいつと同じである、同じでありたいという自覚はない。でももしかしたら、その無自覚が俺を太陽たらしめたのかもしれない。
「でも…どこか危なっかしい所があると思います」
と、アーシアさんは憂いを帯びた表情を浮かべる。それに頷くロスヴァイセ先生も。
「そうですね。太陽で言うなら黒点、というべきでしょうか」
「命張りすぎ、妹さんに熱くなりすぎなとこは玉に瑕ですわね。特に、命を張り過ぎたらアーシアちゃんの仕事が増えちゃいますわよ?」
朱乃さんはうふふと笑って両の人差し指でバツを作る。ぐぬぬ、ゼノヴィアにも心配されてることをまんま言われてしまった。
「そうです!もっと、自分のことを大事にしてください!」
「命大事に、です!」
「これからの戦い、そうせざるを得ない場面があると思いますが私たちを頼ってください。その為に、とは言いませんが私たちは強くなってきたのは事実です。お互いに支えあうのがチームだと思いますよ」
皆揃って、今の俺を心配し諭す言葉を投げかけてくる。その真っすぐな言葉と眼差しが、つい独走しがちな今の俺に突き刺さるようで耐え切れなくなり、顔を逸らしてしまう。
「…なんだかそう皆に言われたら、ちょっと反省しなきゃだな」
「反省の後は行動あるのみです。次の戦いは深海君に頼られるのを期待してますよ?」
「僕も頑張ってアシストします!」
「…ああ、そうだな。それじゃ皆のアシスト、存分に頼らせてもらおうかな」
アルルとの決戦は幹部との戦いで戦力を分けないといけないが、せめて俺と一緒に動いてくれるメンバーにはしっかりアシストをお願いしてみよう。四人の指摘を受けて、俺の心構えは間違いなく変われた。
「でも…これだけ深海君がべた褒めする妹さん、オカ研に入ってくれたら面白そうですわ」
「生徒会のメンバーも欲しいって言ってましたよ」
さっき叢雲さんと一緒に話したときにそんな話題になっていたな。生徒会にも新しい風が欲しいんだろう。
「あらあら、部員の数は多くても副部長として譲る気はありませんわ。後輩をかわいがるのは先輩の務めですわ」
「僕でも仲良くなれるでしょうか…」
「大丈夫大丈夫、あいつ漫画に描いたようなオタクに優しい女の子だぞ」
あいつ、誰にでも明るく優しく振舞うから異性のオタク系の友人もいたな。変な虫が付かないように俺の方から注意はしていたけど。
「その一言でなんだか安心できます」
「成績優秀というのは教師としてプラスポイントが高いですね」
「私も、凜さんとお友達になってみたいです」
まだ本人に会ってないというのに皆あいつに興味津々だ。なら、その願いを叶えるためにも踏ん張らなきゃな。
「あっ、そういえば私たち深海君を探して呼ぶためにここに来たんです。集合時間がそろそろで…」
「ん?」
ロスヴァイセ先生にそう言われ、スマホを付けるともう集合時間まで1分を切っていた。仮眠もそうだが、皆との会話が弾んだこともあって完全に集合時間が頭から抜けていた。
「げ、やべ!」
「ちょっと感傷に浸り過ぎてしまいましたね」
「急ぎましょう」
踵を返し俺達は急いで、屋上から階段を駆け下りた。
ドタバタな終わりを迎えたが、ここでの皆との会話は俺の胸に深く刻まれた。俺もまた、皆に大きな影響を与える立場にある。ならばなおさら、皆の為にも頑張っていかなければ。でもただ孤独に頑張るんじゃない、仲間に頼ることもこれからはもっと覚えていかないと。
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朱乃さん達と一緒に駆け足気味に集合場所の部屋に向かい、ドアを開けると既に全員が揃っていた。俺たちの到着を待つように。
「寝坊か?」
「しっかり休んだだけだ」
薄ら笑いで迎えるヴァーリに返すと、今度は呆れ気味のガルドラボークさんが。
「大事な決戦前にこの体たらくとはな」
「そういうなよ。それでコンディションバッチリになるならいいってもんだろ」
咎めるような物言いの彼をレーヴァテインさんが諫める。とことん俺が気に入らないようだ。
「よし、これで全員揃ったな。ここに来たということは準備ができたということで良いんだな?」
ざっとこの部屋に集まったメンバーを見渡し、戦場に向かう戦士全員の集結を先生が確認した。その瞳が、部屋の中央に用意された大きな魔法陣に降ろされる。
「ポラリスから得た位置情報をもとに転移魔法陣を用意した。為念、罠の可能性も考慮し少し離れた位置に転移、そこから移動しつつ攻撃を仕掛ける」
「強行突破ですね」
「俺達ならそれができると見込んでのことだろう?」
「そうだ。敵の主用戦力は打ち合わせ通りなるべく適した人員で各個撃破していく。なにせ敵の本拠地だ。情報がない伏兵がいてもおかしくはない。それらは確認次第、余裕のある人員で対処に当たる」
「わかりやすいシンプルな作戦。私好みだねぇ」
「楽しい戦の予感がするぜぃ!」
レーヴァテインさんと猿は気楽でいいなぁ。彼女は主義主張はガルドラボークさん寄りだけど、本音や性格の所は彼が嫌うヴァーリチームの方が馬が合うんだろうな。
「ポラリス、あのブライトロンとかいうロボットは出せるのか?あれがあれば戦局は有利になるんだが…」
「無理じゃ。魔獣騒動から時間がなくての、整備が追い付いとらん」
と、ポラリスさんは首を振って先生の質問をばっさり切り捨てる。
ブライトロンはポラリスさんの世界産の巨大ロボットにツイントライブを搭載した超高性能メタルフォートレスだ。グレモリー領に進撃した豪獣鬼に対してもその圧倒的火力で迎撃軍に勝利をもたらした。確かにあれがあれば本拠地を丸ごと吹き飛ばすことも可能だろうが…。
「…が、今の妾はスペシャルじゃ。ブライトロンに匹敵するパワーは出せよう」
「その言葉、期待していいんだな?」
「勿論。ラディウス対策も用意しておる」
そう言ってポラリスさんは意味深に笑みを深める。そのスペシャルってのはさぞえげつない切り札なんだろうな、タイミングが合えば俺も一目拝みたいものだ。
「ふっ、そりゃ楽しみだ。あんたの手札には俺も興味がある。…それと椿姫、留守は任せたぞ」
「はい。こちらでできることがあればいつでも連絡ください」
「逆にこちらで何かあれば、常駐されている悪魔堕天使のスタッフ、輝聖や御使いと連携を取って対応します」
「OK、頼む」
副会長さんと花戒さんの返答に先生がこくりと頷いた。この町、前は天界関係のスタッフが全然いなかったのに最近のセラフ方の采配でかなり手厚いからな。手練れもいるし、俺達が留守にしても問題ないだろう。
「…レイヴェル、本当にいいのか?俺達に着いてきて。今ならまだ…」
心配そうな顔でレイヴェルさんに尋ねる兵藤。彼女は俺達と行動を共にしているとはいえフェニックス家から預かった客人の身であり、兵藤を支えるマネージャーだ。ホテルでの戦いなど、巻き込まれることはあれどレイヴェルさんの方から戦いに参加する必要はない。
「私の心は決まっています。皆さんだけ傷ついて、私だけ守られて何もしないのは御免ですわ」
打ち合わせの時にも聞かれたが、それでもレイヴェルさんの意志は固い。この人も俺達…特に兵藤と関わってから精神的に成長を遂げている。ライザー戦で初めて顔を合わせた時とは大違いだ。マネージャーとして兵藤を間近で支えるようになったことで、その意志の強さが似てきたのかな。
「…何か言いたげだな」
「いいや、あなたの想像通りのことを考えているだけですよ。しかし、フェニックス家特有の不死の特性があるなら心配は無用か」
アザゼル先生の追及に嫌味を含んだような薄ら笑いをするガルドラボークさん。どうせ足手纏いとか考えているんだろ。
「全く…それじゃ行くぞ」
嘆息しながらもアザゼル先生はセッティングされた魔法陣を起動させる。すぐに魔法陣から光が溢れ、俺達を呑みこんだ。
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転移の光が収まり、視界に映ったのは鬱蒼とした森の中の景色。見慣れた冥界特有の木々に、少しばかり湿った土の匂いが鼻腔をよぎる。
いつも思うんだが冥界に行くとほぼ確実に森の中で戦っているな。まあ市街地で戦うわけにもいかんし、そもそも冥界が広大で開発に手が回っていないため、こうした手つかずの森林が面積として多いってのもあるが。
「本当にこの辺りにアジトが?」
「ああ。位置情報はあの先で違いない」
余りにもこれと言った怪しいものも気配もない、普通の光景だ。アザゼルの確認にポラリスが真っすぐ方角を指さす。しかしその先には高くそびえる山が屹立するだけで、ありのままの不自然などない大自然が広がっている。
「ということはつまり…」
「…ロスヴァイセ、気づいたか?」
「はい、大規模な結界がドーム状に張られています」
魔法に詳しいガルドラボークさんとロスヴァイセ先生は不自然を見抜いたようだ。変身していない生身の俺じゃ何もわからん。
「俺がやろう」
ざっと湿った土を踏みしめ、ガルドラボークさんが分厚い魔導書を手に呪文を詠唱しながら前に進み出る。
「開錠せよ、『ソピア』」
締めの言を鍵に、魔導書の封印が解かれページが開かれる。そして舌の根の乾かぬ内に更なる魔法を発動させる。
「第七十八項、天岩戸を解く宝鍵」
指定の頁がばっと開かれそこに記された文字が輝くと、遠く離れたところに無数の魔法文字が刻まれた巨大なドーム状の結界が突然姿を現した。異様な存在感を放つそれはばちっとスパークを立てると、霧のように細かな粒子になって頂上から徐々に消えていく。
「本当に結界が…!!」
「なんて規模だよありゃ!!」
「相当手の込んだ結界ですね…」
「俺でも気づかない程巧妙に作られた結界、アルルの仕業かあるいは相当な手練れがいると見た」
部長さんやアザゼル先生たち周りのメンバーもガルドラボークさんの魔法とそれにより暴かれた結界の大きさに驚いている。
「しかしホントに何でもありの魔導書だな」
「この魔導書内全ての魔法を会得すればできないことはほぼない。会得できれば、の話だがな」
そりゃ末恐ろしい本なことで。曹操が前に言ったことが確かならこの本、100ページ以上はあってそれぞれに魔法があるってことになる。流石にそんな数の魔法覚えられないし、覚えたとしてもそれを適宜適切な状況で使えるかは別だ。
「あれが…」
一言で言うなら白い巨塔。城のような外観の塔が天高くそびえ立っている。建築様式としてはメソポタミア文明が栄えた地域に見られるジッグラトと冥界やヨーロッパの城で見られる様式が融合したようだ。見た感じ、建造物は白いレンガでできている。殴れば一瞬で崩れそうだが、きっと魔法や魔力、あるいはアルル自身の力で相当頑強にしてあるだろう。
「よくもまああんなデカい物を建てられたもんだ」
「あの塔、切り倒し甲斐がありそうだ」
「…あの中に、凜が」
この手のアジトの定石として、一番天辺に敵の頭がいると決まっている。あの中央にある大きな塔…ドーム状になっている頂上に凜はいるのだろう。
「!」
顔が強張る俺の手を誰かがぎゅっと握った。その柔肌と温かみの持ち主は隣に立つゼノヴィアだった。
「大丈夫だ。私たちがいる」
「…ありがとう」
力強くも、寄り添う優しさのある言葉が強張る俺の肩の力を抜いてくれる気がした。そうだ、この戦いは一人で挑むもの、俺だけの為に挑むものじゃない。皆の為、世界の為、未来の為、挑むべき戦いだ。無理に一人突っ走ることも、抱え込みすぎることもないんだ。
「…早速おもてなしされるみたいだぜ」
城の前方に広大な魔法陣の光が立ち上る。閃光は一瞬、現れたのは巨大な豪獣鬼だった。四足歩行のトカゲのような鱗に覆われた巨体。所々から樹木の根が体の内側から突き出て、欠損部を補いつつよりそのシルエットを刺々しいものにしている。
ずらりと並んだ牙を剥き出しにし、四つの赤い眼で真っすぐこちらを睨むように見つめている。
「いきなり豪獣鬼か…!」
「個体識別としては、アスモデウス領で撃破されたもので違いないな」
「おい、足元を見ろ!」
兵藤の声を聞いてそのまま魔獣の足元に視線を下ろすと、奴の巨大な影から這い出てくるように等身大サイズの魔獣がうじゃうじゃと生まれようとしていた。
だがそのフォルムは魔獣騒動で戦ったものと違い、どこか昆虫の特徴を併せ持ったものになっている。クワガタムシのような鋭利な顎が特徴の個体、蝶のような華麗な羽根で飛翔する個体、バッタのような逆関節に大きく発達した脚を持った個体等々。枚挙に暇がないほどのそれぞればらけた特徴を持った個体が、枚挙に暇がないほど次々に生まれていく。
「魔獣の製造能力も健在だな!」
「また虫相手…」
「なんだか、今までで一番メンタル擦り減る相手ですわね…」
「僕、やっぱりあれは慣れないです…」
「あれ、ロキが作ってたプラセクトみたいね。虫っぽいフォルムだわ」
かつてユグドラシルと融合したロキが生み出した昆虫の怪物、プラセクト。奴は大樹の真理に触れかけたときに手にした眷属だと言っていたが、当の本人も何故ユグドラシルからこのような北欧神話もへったくれもない昆虫のバケモノが生まれてくるのか、尋問してもよくわからないの一点張りだ。
一年組はすげえ嫌そうな顔をして背けている。あれが全部ゴキブリの特徴を持ってる奴だったら俺も顔を背けているだろう。多分、俺以外も数名。
「ユグドラシル由来の生命力でタフに強化されていると見た」
「へっ、タフなのはこっちも同じだ!」
獰猛な唸りや奇声を上げるプラセクト共は、既に俺達という生まれて初めての外敵を察知しているようで一目散にこちらへ進軍してくる。近づいてくる激戦の足音にヴァーリチームは。
「決戦か、血が滾る」
「ルフェイ救出の前の肩慣らしとしては丁度良さそうですね」
「潰し甲斐のありそうなムシケラ達ね、ここらで鬱憤晴らししちゃうにゃん」
「ラディウスにボコられっぱなしなんて癪だからねぃ」
微塵の怯えもなく、むしろ高揚すらしている表情だ。強敵との戦闘を約束され、かつ仲間を救うという目的がある彼らは今までにないほど戦いへのモチベーションが高い状態だろう。
「創星六華閃の使命、今こそ果たさせてもらう」
「先祖が忘れ去った使命を私が全うします」
「聞こえるぜ、戦いにいきり立ってるお前らの声。私と一緒に暴れようぜ」
それぞれの武器を手に戦いに備えるガルドラボークさん、叢雲さんにレーヴァテインさん。彼らは失われた真の使命を、うん百年以上ぶりに果たすことができる機会に奮い立たっている。
「さあお前ら、魔獣騒動から熱もまだ冷めきってねえがもうひと踏ん張りだ。気合入れていけ!!」
「ええ、行くわよ皆!今度こそアルルを倒し、深海君の妹を救いましょう!!」
「「「「「「はいッ!!」」」」」」
俺達オカ研メンバーもアザゼル先生と部長さんの檄で声を上げて一気に士気を上げる。そうだ、俺だけで凜を救うんじゃない。皆で救うんだ。一人では困難なことも、皆となら!
『士気が高いな。こんな経験は初めてだ』
「なら、この戦いで慣れておいてください」
「行こう。この戦いを、ディンギル討滅の為の橋頭堡とする」
〔エボルドライバー!〕
そう言って、ポラリスさんが装着したのは小豆色に金色の装飾が施されたドライバー。天文用具や工場を想起させるような独特のデザインが特徴的だ。
…って、エボルドライバーかよ!!ネビュラスチームガンが壊されたからって、露骨にレベル引き上げて来たな!!本気も本気じゃねえか!!この調子じゃブラックホールも持ち込んだりしてないだろうな!!
諸事情により内心声を出して驚くわけにもいかず、口から飛び出そうになった言葉をどうにかしてかみ殺す。
〔RAIDRISER!〕
〔Z/X DRIVER ORIGIN〕
イレブンさんやドレイクさんも彼女に続いてベルトを腰に装着していく。横並ぶ兵藤とヴァーリも、自身の神器を素早く展開した。
〔タンク!ライダーシステム!エボリューション!〕
ポラリスさんは青いタンクエボルボトルとライダーエボルボトルをベルトに装填。サイドの『EVレバー』を回すことで内部の発動機『EVダイナモ』も稼働、生成されたエネルギーが高速ファクトリー『EVライドビルダー』を展開し変身待機状態に入る。
〔THUNDER〕
イレブンさんは黄色いスズメバチが描かれたライトニングホーネットプログライズキーを起動。レイドライザーに差し込む。
〔ELTANIN〕
〔SINGLE STAR〕
ドレイクさんは薄灰色のステラギアをドライバーのスロットの一つに嵌めこむと、同時にその周囲に機械でできた赤いドラゴンのホログラムが出現する。
〔アーイ!バッチリミロー!バッチリミロー!〕
そして俺も、自身の魂の具現であるスペクター眼魂をゴーストドライバーに差し込んでカバーを閉じ、パーカーゴーストを顕現させる。
「ドライグ、行くぜ」
「ふん」
隣では兵藤とヴァーリがそれぞれの神器を展開し、戦闘に備える。
〔Are you ready?〕
それはポラリスさんのドライバーから発せられた音声。戦いの準備は出来ているか。そんなもの、答えるまでもなくできている。だから俺達は、開戦を高らかに宣言するように叫ぶ。
「変身」
「実装」
『界装』
「変身!」
「禁手《バランス・ブレイク》!」
「禁手《バランス・ブレイク》」
〔Welsh Dragon Balance Breaker!〕
〔Vanishing Dragon Balance Breaker!〕
赤と白、赤龍帝と白龍皇。対極に座しながら両者ともに龍の高みへ昇らんとする二天龍。兵藤一誠とヴァーリ・ルシファーがその力の具現たる龍鎧を纏う。
〔タンク!タンク!エボルタンク!!〕
ファクトリーが即座にポラリスさんの体を挟みこむことで彼女の体を強化スーツで覆い、仮面ライダーエボルへと変身させる。
赤、金、そして青で彩られた絢爛な天文用具をイメージさせる全体的な装甲はエボルコブラフォームのままだ。しかしこれはタンクボトルを使ったフォーム。当然、その差異は如実に表れている。天球儀と一体になったような戦車型の装甲を両肩に装着し、顔面部の装甲もまたビルド タンクタンクフォームとエボルコブラフォームが混ざり合ったような形状になっていた。
仮面ライダーエボル エボルタンクフォームといったところか。原作でも見なかった、エボルの新しい姿だ。
〔RAIDRISE!LIGHTNING HORNET!Piercing needle with incredible force〕
レイドライザー上部の赤いスイッチを叩くことで、プログライズキーに内包されたスズメバチと電撃の能力を付与した強化スーツがマテリアライズ。イレブンさんは纏い、異形の戦士と化す。
蜂の巣のような黄金のハニカム構造をあしらったデザインの装甲を腕や足、胸など体の至る所に装着したスレンダーな戦士。ライトニングホーネットレイダー。
〔IGNITION!MODE AIN!〕
〔ELTANIN!DRAGON ROAR!〕
二つのスロットを中央へ押し込むドレイクさん。ドライバーから溢れた青い光の粒子とドラゴンのホログラムを身にまとい、データとして内包されていた強化スーツがマテリアライズされる。ウィングを展開するバックパックからは絶えず赤い粒子が放出されており、両腕部や両脚には決戦仕様なのか新しい装甲が追加されている。
〔カイガン!スペクター!レディゴー!覚悟!ド・キ・ド・キ・ゴースト!〕
そして最後に俺も浮遊するパーカーゴーストを身にまといスペクターへと変身を完了する。
二天龍とスペクター、そしてレジスタンスの3人。姿を変えた俺達は真っすぐに進撃を続ける魔獣たちを見据え、堂々と宣戦を布告する。
「さあ、ピリオドを穿ちに行くぞ!!」
まさかの6人同時変身。エボルタンクは劇中未使用、玩具で音声のみ入ってたフォームです。
次回、「レイド家の剣」