ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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第189話「昇る神十字」

〔BGM:Delirious(呪術廻戦)〕

 

天高くそびえる巨塔、ジグラートへと進む悠河たちの殿を務めた朱乃達。勢いは衰えどもなお止まらぬプラセクト達の猛攻を、彼女らは少数精鋭で食い止める。

 

「仕置きが足りませんわね!」

 

加虐的な笑みをうっすら浮かべる朱乃は容赦なく上空から雷光を叩きつけ、電熱と衝撃の暴威で数十匹を纏めて屠る。黒焦げた大地に一匹も虫を残さず、次なる撃滅の雷を空へ走らせる。

 

「そおれぃ!!」

 

美猴が巨大化した如意棒の豪快な一振りで10匹近くをその堅牢な殻ごと砕きながら吹っ飛ばす。猿のごとき軽快さと巨象の如きパワーを併せ持つ彼は自由気ままに空も地も問わず戦場を駆けまわり、引っ掻き回していた。

 

力強さ、自由とは対照的にスマートに洗練された立ち回りを見せるのはイレブンが変身したホーネットレイダー。

蜂のようなエネルギーウィングを展開し、ホバリング、高機動力を生かし寄せ来るプラセクト達を確実にかつ迅速に一閃により屠っていく。

 

それに追随する蜂型ミサイルの群れの統率はイレブンの慣れを如実に表すように精度を上げ、今や彼女の死角を完璧にカバーするに至っていた。

 

〔BLLIZARD!〕

 

飛行戦の最中、徐に取り出した淡い水色のプログライズキーを装填する。

 

〔Progrise key confirmed. Ready to utilize. Polar bear's ability〕

 

電子音声が発せられると同時、後部の『ドローエクステンダー』を引き絞るとアタッシュアローの銃口に凍てつくエネルギーが収束していく。

 

〔フリージング・カバンシュート!〕

 

空から撃ち落とされた氷の矢が高速で地面に着弾。たちまちに着弾地点から冷気が迸り、広範囲に渡ってプラセクト達を大地ごと凍結せしめる。

 

「まだまだ行っちゃうわ!」

 

空を飛びながら聖魔剣でプラセクトを切りつけながら片手で光輪を等身大サイズまで大きくし、チャクラムのごとく投擲するイリナ。凍結し動きを封じられたプラセクト達を余すことなく両断し、砕きとどめを刺していく。

 

まだ知り合ってからそう時の経っていないイレブンたちだが、激戦の中で自然と連携を取るようになっていった。

そうでもしなければ、これだけの数との戦いがいつ終わるかもわからない状況をこの人数で切り抜けることは困難だ。

 

「行くよ」

 

そして氷と共に砕かれたプラセクトの欠片がキラキラ舞う戦場を颯爽と駆ける騎士たち。氷を踏み砕き、行軍する騎士団が猛り狂うプラセクト達に接敵する。

 

名のある魔剣を引っさげた禁手の聖騎士団を引き連れる木場が行く手を阻むプラセクトを一閃の下に余すことなく剣の錆に変えていく。

 

ジークフリートから受け継いだ魔剣群の力は強力無比だが、フルに使うには魔剣の呪いも相まって躊躇われる。しかしそのリスクを聖騎士団に持たせることで生身の自身に降りかからなくするという反則じみたやり方で存分に発揮できるのだ。

 

「しっかし、こいつら懲りねえな!」

 

「倒しても倒してもまだまだ湧いてくるわ!豪獣鬼もまだ元気ってこと!?」

 

遠巻きに見える豪獣鬼の戦いの様子。天変地異を思わせるような強大な魔法、長大な光の剣を幾度と叩きつけられているがまだまだ大地を舐めさせるには遠いようで、凶暴性は衰えずにまだ六華閃の二人との交戦を続けている。

 

ジグラート外周の特記すべき戦力は豪獣鬼のみ。物量のきつさはあれど、強敵のいないことからしのぎ切れないことはない。

 

そんな彼女らの見込みは、アルルの見通すところでもあった。

 

〔BGM終了〕

 

「!おい、何かでけえ気が来るぞ!」

 

「!」

 

〔BGM:What can you see In their eyes - version 2nd(BLEACH)〕

 

いち早く迫る気配に気づいた美猴が声を張り上げ味方に注意を促す。はっと振り向く朱乃、その時には後方から高速で迫る黒い翼があった。

 

「ハァッ!」

 

凶暴な眼光を宿す男の一閃が朱乃を捉える寸前、雷のスピードで飛び込んだのはイレブン。蜂の羽音を響かせながら間一髪でその剣をアタッシュアローで受け止めた。

 

「チッ、横槍が!」

 

「やられてはポラリス様に向ける顔がありませんので」

 

鍔ぜりあう刃がまき散らす激しい火花で明らかになった男の正体に朱乃は驚いた。

 

「コカビエル!?」

 

先の戦いでアルルの軍門に下ったことが明らかになったばかりの堕天使の元幹部。因縁深いアザゼルや悠河、ヴァーリのいないこの戦場に現れるとは思わなかった。手ごわい敵の増援に、緊張感が高まる。

 

バチン!

 

火花が一際大きな音を放って弾け、両者が距離を取る。同時、コカビエルは光の矢を複数本生み出してはイレブン目掛け放つ。風を切り裂くそれらをイレブンは同じくアタッシュアローからエネルギーの矢を次々に放って撃ち落とし、見事にすべてを相殺せしめた。

 

「ほう、貴様がポラリスとやらの側近か。今ので腕が立つと分かった。次は容赦せん」

 

同時、二人の姿が消え壮絶な剣戟音が戦止まぬ空へ鳴り響く。長年の戦闘経験に裏打ちされた両者の技量が負けじとせめぎあうように激しい剣戟合戦を繰り広げ始めた。

 

「僕たちも援護に…」

 

一瞬見上げた矢先にプラセクトが襲い掛かって来る。迂闊だったと焦る木場だが隣り合った騎士団がディルヴィングで切り裂き剣の錆にすることで難を逃れた。

 

「これじゃ援護には回れそうにないね…」

 

コカビエルの手ごわさはよく理解している。だからこそ、交戦経験のある自分も加勢に加わるべきだと思ったが眼前に立ちはだかるプラセクト達がそれを許さない。思うように動けない現状に、眉を顰めた。

 

たたたたた。

 

軽快かつ俊敏な足音が駆ける。プラセクトの群れをかいくぐり、あるいは足場にして飛び回って走る影が木場に飛び掛かるや否や双刃をふりかざす。並々ならぬ敵意を感じ取った木場は半ば反射的に聖剣でガードする。

 

「誰だ!?」

 

「ちっ、やっぱ初手で仕留めるのは無理か」

 

鍔迫り合いは一瞬、突然仕掛けてきた男はさっと身を引く。急襲を仕掛けてきたのは小綺麗なスーツに身を包んだ若い男。油断も隙も無いその構えから、積んできた戦闘経験の濃さが伺える。

 

青年の得物は弓。弦に鋭い赤い刃が付いておりいかにも近接戦にも対応できそうな形状をしている。そしてそれらから感じる波動は間違いようのなく。

 

「武器タイプの神器、君は…」

 

「俺は烏鷺森。ウヴァル分家の元眷属だ」

 

「ウヴァル…!?」

 

その名を聞いて思い出したのは魔獣騒動直後に流れたニュース。元七十二柱に名を連ねる名家の分家で魔獣騒動の陰で眷属悪魔が反乱を起こし、その主が殺害されたという。下手人の悪魔たちは騒動後失踪し、行方をくらませたままになっていた。

 

この類のニュースは今珍しくない。曹操が流布した禁手に至る方法。それによって手にした元人間の眷属悪魔は強大な力で主に反旗を翻したり、あるいは暴走して大きな被害をもたらした。魔獣の被害、旧魔王派の蜂起、そして全ての原因となった英雄派の暗躍と並び、問題視された。これら四つの要素が絡み合い、魔獣騒動と呼ばれているのだ。

 

「キシャァァァァァ!!」

 

奇声を発しながらプラセクト達が襲い掛かって来る。それに紛れるように烏鷺森も動き出し、木場に迫る。それを見た木場は露払いを騎士団に任せ、単身で烏鷺森を迎え撃つ。

 

「眷属悪魔…!禁手に至って、自分の主を殺害したのか!」

 

「ああそうだ!勝手に悪魔にされ、利用され虐げられるばかりだった俺達は禁手の力で立ち上がれた!でもお前たちは掴みかけた希望を叩き潰した!」

 

激情を表すような剣戟の嵐が容赦なく木場へ吹き付ける。息つく間もない、激情に任せた荒々しさと繊細な技術を兼ね備えた刃の五月雨を聖剣一本で受け止めていく。

 

しかし木場に刺さったのは彼の刃ではなく、言葉の方だった。彼の境遇は理解できる。同じ元人間の眷属悪魔、しかし主との巡り合わせが悪かったばかりに、真反対のマイナスの方向へ進んでしまった。自分ももしかしたらそうだったかもしれないと思うとやるせない気持ちになる。

 

「そんな俺達を拾ってくれたのがアルルさんだ!曹操さんに代わる、行き場のない俺達を導く新しい希望なんだよ!」

 

力任せに振るい、木場を弾き飛ばす彼は弓剣から光の弦を伸ばして昏い光の矢をつがえ、次々に射る。速度はそこそこ、木場に対応できないものではない。向かってくる矢を軽やかに剣で打ち落とす。

 

「それはまやかしの希望だよ、そんなものに縋り続ける限り君たちの…」

 

「そんなことは主に恵まれたから言えるんだよ!お前たちが俺達と同じ立場だったとしても同じことが言えるのか!?」

 

「…っ」

 

怒り、そして嫉妬に満ちた彼の眼差しと言葉に、木場は何も返すことができなかった。

 

「俺達の希望をまた奪おうって言うなら」

 

猛速、振り上げ、そして叩きつけるような剣戟を木場はすんでのところで受け止めた。

 

「容赦はしない!」

 

〔BGM終了〕

 

 

 

 

 

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ばたばたばたばた。

 

慌ただしく石畳の螺旋階段を駆け上がるのは俺と兵藤。皆と別れてからというもの、辿る気配も感じられずひたすら進んだところに見つけた階段だが。

 

「くっそ、この階段無駄に長い!」

 

もう苛立ちも隠さずに言う兵藤。何段、何分駆け上がったかなんて覚えてないくらいに永遠と階段は続いている。

 

「シンプルに体力を削りたいってことなのか!?」

 

時間も体力も無駄に持っていかれる。これを考えた奴の顔が拝みたいもんだ。まあ十中八九その当人とこれから会うことになるんだろうが。

 

 

 

 

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

 

 

 

 

 

睨みあう天使と悪魔二人、龍戦士一人。睨み合いは続くも戦いは始まらず、ただ時間が過ぎるばかりだった。

それはソーナたちが相手の付け入る隙のない立ち姿に気圧され、慎重にならざるを得なくなってしまったからだ。

 

「…」

 

対するネロも白い三対の翼を広げたまま、退屈そうに三人の行動を待つ。それは何よりも己の実力に対する自信の現れだ。ソーナたちがどんな手を打とうと、それを上回りねじ伏せることができるという天使の自負。

 

「ドレイクさんがオフェンスに。私と匙はサポートに入ります」

 

切り出すソーナ。すぐに匙が進言する。

 

「いや会長、オフェンスがこいつだけじゃ不十分です、ここは俺も龍王化して…」

 

『駄目だ、図体が大きくなる龍王化は的を大きくするだけだ。天使の力は悪魔と相性が悪い。龍王化と言えどもその理は絶対だ』

 

「なんだと!?今度は俺の龍王化を馬鹿にするってのか!」

 

ドレイクの指摘はもっともだったが、内心で反発心を煮えたぎらせる匙はそれを素直に受け入れることができない。そんな二人のやり取りをネロは苦笑する。

 

「あーあー、不仲そうで苦労するね全く」

 

「こいつ…!」

 

ネロの言葉が匙の火に更なる油を注ぐ。ぐいっと前に出そうになる彼の肩を直ぐにつかんで引き留めたのは。

 

「…匙、いがみ合ったまま勝てる相手ではありません。座天使は四大セラフ達熾天使の次の次に上の階級です。そんな天使の攻撃を我々が受けるのは非常にまずい、一撃で消える可能性もあります」

 

「!!」

 

真っすぐなソーナの瞳が匙の目を見据え、冷静に、かつ論理的に、諭す様に訴える。主であり、思う人である彼女の眼と言葉に匙は次第に慎重さを取り戻していくのを実感した。

 

「ここは慎重に。悪魔ではないドレイクさんを主軸に戦うのが最善です」

 

「…わかりました」

 

渋々と言った表情で引っ込む匙。ドレイクへの反発心と対抗心に主の前で良い姿を見せたいという思いが混ざり合った結果、彼は強敵の前であるにもかかわらず冷静さを失ってしまっていた。

 

「おたくの『兵士』さんは直情型だね。扱いにはさぞ苦心してるでしょ」

 

「ええ。でも…私にとって頼れるエースです」

 

ソーナとの会話の中でふと、ドレイクの姿が消えていることに気づいた。その直後、猛烈に迫る気配をネロは片手で受け止める。バシンと空気が弾ける音と掌の中に感じる確かな力にネロはふっと笑った。

 

〔BGM:反逆のデュエル(遊戯王アークファイブ)〕

 

「君は空気を読むってことを知らないのかな?話の最中なのに」

 

『それで勝てるなら喜んでそうするさ』

 

受け止められた右手を強引に振り抜いて次なる拳のラッシュを放つ。しかしそれを容易く弾いてはカウンターのパンチも適宜、鋭くねじ込んでくる。装甲に掠めるもダメージには至らず、臆さないドレイクは回し蹴りをかます。

 

それもくるくるとフィギュアスケートのように回転しながら飛んで後退して回避。着地と同時に地面を蹴り上げて迫り、メリケンサック状に展開した光力を纏ったアッパーを繰り出した。

 

「!」

 

流石の威力に突き抜ける衝撃、一瞬視界のぐらつきを感じたがすぐに立て直し、次いで繰り出すのは左脚。鯉が滝を上るがごとく蹴り上げがネロを捉えんとするももう片方の腕で受け、その威力の余波で後退する。

 

「ふぅ…一撃が重い…さすが、紛い物とはいえ赤龍帝といったところだ」

 

『その名は僕には不釣り合いだよ』

 

そんなドレイクの後ろからしゅんと黒いラインが伸び、ネロ目掛けて食らいつかんとするが光力で剣を生み出して軽い動作一つでバチンと弾いてしまう。

 

「ちっ」

 

「そいつは喰らわないよ。接続した相手から力を吸い取るんだろ?」

 

「こっちの手の内は当然バレてるか」

 

「当然、こんなのはどう?」

 

右手で虚空を円を描くように撫でると、宙に光の車輪が4つ出現する。ぎゅるるると高速回転するそれらが縦横無尽に空を飛び回って3人に襲い来る。

 

ドレイクに飛んでくるのは二つ。ウェポンクラウドから実体化したビームライフルでの銃撃で迎撃せんとするが、車輪は自律して行動しているかのように光条を巧みに潜り抜けて真っすぐに飛来してくる。

 

埒が明かないと判断したドレイクはビームサーベルを抜き放ち、車輪が接近して間合いに入ったその瞬間、刹那の内に両断して破壊せしめる。

 

「喰らうか!」

 

回避が難しいと判断し、思い切って両腕に黒い炎の盾を全力で展開しガキンと受け止める。移植されたヴリトラ系の神器の一つ、邪龍の黒炎(ブレイズ・ブラック・フレア。解呪の難しい呪いの炎は聖なる車輪を触れた傍からじりじりと削り取るはずだったが、高速回転する車輪の勢いは衰えるところを知らない。

 

「くっ…そ!!」

 

肌にピリピリと感じる聖なる力に目を歪める匙は両腕を振り上げ、車輪を弾き飛ばした。あらぬ方向へ飛んだ車輪は結界の端まで飛んでいき、やがて結界に衝突して四散するのだった。

 

「ふっ」

 

一方のソーナは大量の水の魔力を大蛇の形にして車輪へ差し向ける。蛇の獰猛な咢がバクンと車輪を呑みこむが、回転を止めない車輪は蛇を切り裂きながらソーナへと進行を続けた。

 

「ちっ!」

 

懸命に飛行を続け、捕まらないように自在な機動を描いて離れようとするが車輪との距離はじりじりと縮められるばかり。このままではいずれ捕まってしまう。

 

それを横合いからドレイクがビームサーベルを伴って駆け抜け、瞬時に切り裂いて破壊せしめた。

 

「手間をかけさせてしまいました」

 

『気にしないでくれ』

 

「おい!」

 

声を上げる匙、次の瞬間横合いから飛び出したネロの拳打がドレイクの顔面に炸裂する。振りぬかれた拳の勢いに頭部を揺さぶられながらもビームサーベルで反撃の一閃を繰り出すが、ひらりとステップを踏んで回避。そして踏み込み鳩尾へ掌底突き。

 

『…』

 

効かない。ポラリス謹製の鉄で作られた装甲は生半可な攻撃では衝撃を突き抜けることさえできない。

 

「はっ、硬…どんな素材使ってるの、その仮面」

 

『企業秘密だよ』

 

「そうかい」

 

打撃は無意味と悟ったネロは密着した掌からミニサイズの車輪を生み出し、高速回転させる。するとさながらディスクグラインダーのように押し当てた装甲を削り取り始める。耳をつんざくような甲高い金属音と激しい火花を吐き出す。

 

ぼっ、ぼっ、ぼっ、ぼっ。

 

ドレイクの対応よりも早く、二人を囲むようにその四方に黒い炎の壁が立ち上る。

 

「こいつなら…」

 

匙のヴリトラ系神器の一つ、『龍の牢獄《シャドウ・プリズン》』だ。このまま動きを封じ、その熱で蒸し焼きにする。ポラリスのテクノロジーの全容を把握しているわけではないが、これで蒸し焼きになるような柔なつくりではあるまい。仮にも赤龍帝の力を使っているという一応の信頼の下でドレイクごと巻き込むやり方を選択した。

 

「へぇ」

 

味方ごと自分を狙う方法を取って来るとは思わなかったネロは感心気な声を漏らした。だがそれでは彼を止めることなどできやしない。

 

無理やりドレイクとの接敵を振りほどくように離れ、匙目掛けて猛進を開始した。当然、その間には黒炎の壁が立ちはだかっているが。

 

「なっ!」

 

黒い炎に突っ込み、身を焼かれる直前に光力のバリアの幕を作って強引に抜けたのだ。

 

そして勢いのまま、匙の腹を蹴り上げる。豪快に空へ打ちあがる匙目掛け跳躍、追いつくとさらにオーバーヘッドキックを決め、地面に叩きつけた。

 

「がはっ!」

 

息と血を同時に吐き出し呻く匙の下に、悠然とネロは降り立つ。

 

「弱いなぁ…龍王化しないとここまで物足りないんだ」

 

「くっそぉ…」

 

嘲り、地に伏す匙を足蹴にする。

 

「でも少しはタフだ。ま、ちゃっちゃととどめを刺そうかな」

 

ゆっくりと人差し指を向けるネロ。その指先に光が集まっていく。だがその光が放たれることはなかった。

高速で飛来する氷の礫の対応に彼の注意が割かれたからだ。

 

ガシャンガシャン!

 

腕の一振りで数々の礫を無残に砕く彼はやはりソーナを匙にした時と同様に嘲る。

 

「…!」

 

「君の仕事は頭でものを考えることでしょ。指揮官が出張っちゃだめ。いくら上級悪魔だからって君もグレモリーより弱っちいんだから」

 

指を徐に掲げる。すると虚空に幾つもの光のひずみが生まれそこから一斉にビームを無造作に吐き出す。回避運動を取ろうとするソーナだが、範囲も破壊力もかなりのもので、躱したところでその余波に煽られ動きが不安定になってしまう。

 

「会長!」

 

ラインを伸ばす匙。狙いは接続ではない。彼女の足に巻き付け、乱暴ではあるものの振り回し、強引にビームの範囲から逃す。

 

「きゃっ!」

 

空へ投げ出され、地面に打ち付け転がされるソーナ。あのまま座天使の出力のビームで焼かれるよりは遥かにましだ。直撃を受ければ致命傷はまず間違いなかった。

 

「ちぇ、邪龍はしぶといな」

 

「あぁっ!!」

 

鬱陶し気に舌打ち、匙を踏みつける力を強める。徐に右手を掲げると、光の粒子が収束し刃の形に変じていく。光の手刀を振り下ろさんとしたまさにその時。

 

〔Boost!〕

 

ドカン!

 

突然、匙に今まさにとどめを刺さんとした天使の姿が消えた。

 

赤龍帝の能力を利用して急加速したドレイクの飛び蹴りだ。瞬間的にネロの反応速度を超え、綺麗に吹っ飛ばすことで匙を危機から救うことができた。

 

〔BGM終了〕

 

『匙元士郎、ソーナ・シトリー、まだやれるかい?』

 

倒れた彼らをかばうように前に出たドレイクが眼差しをくれてやることもせず問う。

 

今、目のあたりにしたネロの数々の攻撃で理解したはずだ。匙とソーナ、彼らとの間に開いた実力の差を。それを理解してなお立ち上がる覚悟を、力ではない心の強さを彼は問うた。

 

「…当然です。私にもシトリー家を背負う者としてのプライドというものがあります。やられたままは私の…ひいては家の沽券に関わります」

 

迷いなく、立ち上がるソーナ。圧倒的に相性が悪い格上相手にも屈しない心持は自然と友に影響されたところなのだろう。

 

そして何よりも友に影響され、対抗心を燃やす匙の心に火が付いた。

 

「俺だってな…みっともない姿ばかり晒してちゃ、カッコつかねえだろ」

 

光力を込められた打撃を受け、全身が軋むように痛い。しかしその痛みを上回る意志の強さが彼を立ち上がらせる。

 

「あいつに追いついて…追い越すにはお前らに負けるわけにはいかねえんだよ!!」

 

〔BGM:ゼロワン、それが俺の名だ!(仮面ライダーゼロワン)〕

 

自分に喝を入れるように吼える匙。その眼には恐れなど微塵もない。目の前の強敵に打ち勝ち、乗り越え、己の糧にするという勝利への貪欲な追求心。そして今、並び立つ恋焦がれる主に自身の雄姿と勝利を捧げたいという一途な思いがそこにはあった。

 

『…なら、僕を利用して見せろ』

 

二人の答えにどこか満足げな言葉を呟くドレイク。その時、天から光が差し舞い散る羽根と共にネロが降り立っていく。

 

「いやー今のはびっくりしたよ。でももう同じ手は食わないよ!」

 

瞬間移動。吹っ飛ばされたネロだが座天使に名を連ねる彼の力をもってすれば容易いことではない。現れたネロのオーラとプレッシャーが一段と高まっている。ドレイクの倍加の力を乗せた攻撃を喰らい、彼の本気のギアが上がったのだ。

 

『仕掛けるぞ!』

 

背中のウィングから粒子を解放し、飛翔。ビームサーベルとビームライフルを携え、高速で距離を詰める。

 

「接近戦か、受けてたとう」

 

両手に高めた光力を集中させ、天使に並んで空飛ぶ不遜な龍を叩き落さんと構えるネロ。そんな彼にドレイクはビームサーベルを投げつけ、同時にビームライフルを連射する。

 

「小賢しい」

 

ビームサーベルを狙い撃って爆発させ目くらましに利用するつもりだろう。姑息な手に一笑に付すネロだが、その笑みは次の瞬間驚きに変わる。

 

ビームライフルで放った光条の一本がビームサーベルに命中する。しかしその真の狙いはビームサーベルの柄を狙い爆散させるのではなく、発振しているビームの刃を狙いぶち当てることにあった。衝突したビーム同士が乱反射、拡散し予測不可能な攻撃に転じる。

 

「これはっ!?」

 

流石のネロもたまらず直撃を受ける結果となる。無造作に飛んでくるビームの波動を数発もろに受けるも、残りは光力を防御に回したことで致命傷には至らなかった。それでも不意打ちであるため、痛いダメージにはなった。

 

『ビーム・コンフューズ…とポラリスは言っていた』

 

矢継ぎ早に襲い来るは二頭の水龍。波打ち、荒々しい様相のそれがネロに食いつかんと迫る。

 

「そんなもので僕を…」

 

「倒せるとは思っていません」

 

ぱちんと指を鳴らすソーナ。次の瞬間、ネロに食らいつかんとする水龍たちが一斉にはじけ、大量の水となって辺りに散らばる。

 

「小癪な…!?」

 

思わぬ展開に不意を突かれたことで、盛大に水をかぶり、視界が一時的に奪われる。その一瞬だけで十分だった。

 

「はぁぁ!!」

 

次に飛び出してきたのは匙。悪魔の翼を広げて裂帛の気合を吐きながら、神器を纏った右手を握る。

 

「サポートに入る、と言いましたが前に出てオフェンスをしないとは言っていませんよ」

 

送り出した匙の後姿。生徒会に入った時よりも大きくなったように見える彼の雄姿に、誇らしさを感じ自然と笑みがこぼれていた。

 

果たして、黒炎を纏った渾身の拳が真っすぐにネロの腹を打ち据えた。ずしんと駆け抜けるインパクト、感じた確かな手ごたえ。ゴリ押しとばかりに瞬時に至近距離からラインを伸ばして接続。

 

「どっ、がはっ…!?」

 

ネロは木端のように吹っ飛び、何度かバウンドした後に大の字に突っ伏した。大ダメージを負ったのは間違いない。

 

翼を羽ばたかせ、匙とドレイクがゆっくりと白い大地に降り立つ。

 

「どうだ、シトリーの『兵士』を舐めるな!」

 

倒れたネロの姿に、びしっと指さし高らかに言ってのける。これまでやられっぱなしだった鬱憤はものの見事に晴れたのだった。

 

だが、戦闘不能に持ち込めたわけではない。

 

ピクリと動くネロ。ゆっくりと右手で拳打の穿たれた腹をさする。

 

「…今のはびっくりした。流石に効いたよ。ヴリトラの力をダイレクトにぶつけられちゃ、ちょっとしんどい。おまけにラインまでつけられて...詰めにかかってるね」

 

〔BGM終了〕

 

ぐいぐいと自分の胸にこびりつくように繋がれたラインを引っ張るが、剝がれる気配はない。ヴリトラ系で匙が元来持っていた神器だが、他3つのヴリトラ系神器を入手したこと、龍王化を会得したことで基礎スペックも大きく向上していた。

 

『もうお仕舞いだ。まずはここの情報を洗いざらい吐いてもらう。吐かなければ翼を一本ずつ斬る』

 

ビームサーベルを抜き放ち、ゆっくりと、警戒を隠さずに歩みを進めるドレイク。今度こそ戦闘不能に追い込む心づもり、チェックメイトだと詰め寄る。

 

こつ、こつ、こつ。

 

その歩みの時間は、彼に次の手を思案するには十分だった。

 

「はぁ…使いたくなかったけど、使うしかないじゃんか」

 

「?」

 

大の字に横たわった状態からゆっくりと重い腰を上げて立ち上がるネロ。右腕の袖をまくり、そこに刻まれたディンギルの十字の紋章を露にする。すると紋章からたちどころに神々しいオーラが溢れ出し、ネロ自身を呑みこむ巨大な光の柱が立ち上る。

 

「な、なんだ!?」

 

「とてつもない…こんな力をまだ隠し持って…!?」

 

目の前で巻き起こる絶大なオーラの奔流、吹き荒れる烈風に三人は手を出せずにいた。

 

ぶちん!

 

「ラインが!?」

 

オーラの力に押し負けたか、匙が繋げていたラインが千切れてしまう。眩さに目を細めながらも、ドレイクはこの現象をシステムを使って解析を試みる。

 

『これは…ディンギルそのものの力か』

 

「ご名答」

 

光の柱の中から響くネロの声。柱の頂上に一瞬、ディンギルの十字の紋章が象られると弾け、光に隠されたネロの新たな姿が出現する。

 

白いスーツの装いが一転、全身をプレートアーマーで覆った姿。黄金に縁どられた白い鎧が眩いばかりの高貴さと神聖さを放っている。

 

「真徒『エン・ギラツ』。叶えし者の中でもよりディンギルに信仰を捧げ、賜った力をより磨き上げたものだけが到達できるステージだ」

 

ピシュン!

 

ドレイクと匙の間を閃光が走る。何事かと振り向く二人。そこにあったのは、腹に穴をあけられたソーナの姿だった。

 

「がふ」

 

何が起きたのかすら理解と反応が遅れ、血反吐を吐くソーナがその場にどさりと崩れ落ちた。

 




モチーフは滅却師完聖体と聖闘士です。

次回、「真徒の光」
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