ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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第191話「縛り」

「見た目に反して、中は随分と手入れされてますわね」

 

レイヴェルはアルギスとジークルーネとの戦いの最中、どさくさに紛れてアルギス達が守るように門前に構えていた大きな館に侵入していた。

 

「ここにきっと、結界を解くカギがあるはず」

 

戦いの間際、ロスヴァイセは彼女に耳打ちしていた。ジークルーネの魔法の痕跡をこの館に感じると。ロキとの戦いでもジークルーネはプラセクトを生み出す魔法陣を結界魔法に隠していた。同じように動くはずとロスヴァイセは踏んでいたのだ。

 

「早く結界を壊して、リアス様達を助けないと…それが、今の私にできること」

 

結界がある限り、外部からの通信もこちらからの通信も遮断され、救援は見込めない。結界を解いて内外との連携を復活させ、戦況をひっくり返す。それがレイヴェルの役目だ。

 

人気のないが、手入れは念入りにされている内装。ここには誰かが住んでいる。それに先程から道すがらに見かける蛇を模した彫刻、そして七十二柱の悪魔を示す紋章。更にはジークルーネと同質の力をも感じる。

 

「この館…やはりアンドロマリウス家の」

 

アンドロマリウス家の所有する館に間違いない。そしてここはアルギスが住む空間、あるいはそれを模した空間でもあるのだろうか。同時にここが結界の根源に違いない。

 

やがて彼女はとある一室に行きつく。誰かの私室なようで、机や本棚、布団、この部屋だけ妙に生活感があり、ついさっきまで使われていたかのようだ。

 

「この写真...」

 

ふと目についたのは小さい子どもと、美男美女の両親が映る家族写真。アルギスの幼いころを映したものだろう。あの陰湿な今の彼とは打って変わって屈託のない笑顔を浮かべている。両親も穏やかな表情で、良好な家族関係だったことが伺える。

 

「彼にもこんな時代があったのですね」

 

今まで倒すべきとして認識していた相手の穏やかな一面を垣間見て、彼も自分たちと変わらない悪魔なのだと思った。だがそれはそれとして、彼の行いが許されるわけではない。仲間を傷つけ、冥界に仇なす今の彼は倒さなくてはならない悪だ。

 

しかし、何故写真に残されたような平穏な生活を送って来た彼が悪魔という種族に敵意を剥き出しにするようになってしまったのか。アルルに与し世界の滅びを望むようになってしまったのか。

 

もしかしたら、この部屋にそのヒントがあるのでは。状況が状況だが、ふと湧いた好奇心が彼女を部屋の更なる探索へと駆り立てる。

 

引き出しを片っ端から開け、本棚に収められた本を片っ端から調べ上げる。

 

「…ん?」

 

ふと気になったのは本棚の隅にひっそり隠れていた一冊の薄い日記。表紙は焼けこげており、中を開けば修復の跡だらけだ。

 

誰の日記だろう。そう思い目を走らせる。そこに書かれた日記の主の名前は。

 

「ネイクス・アンドロマリウス…」

 

 

 

 

 

 

 

 

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ヴァーリチームが手に入れた大型戦力、ゴグマゴグ。古の神が作り出した兵器である彼は普段亜空間に収納され、ルフェイに管理されている。

 

しかしその彼女が洗脳され敵に回った今、ゴグマゴグも同様に牙を剥く。

 

「来るにゃ!」

 

〈BGM:理子の捜索(呪術廻戦)〉

 

黒歌が叫ぶと同時、ゴグマゴグが巨大な戦槌のような腕を振り下ろす。緩慢なように見えて速度も出ている一撃が地面に着弾すると大きな振動を起こし、土煙を巻き起こす。

 

既に戦いの舞台は屋敷の外に移され、さながらイギリスのような風情ある街並みを猫又姉妹は駆け抜け、応戦する。

 

馳せる二つの影をセンサーに捉えたゴグマゴグが片腕の機関砲から一斉砲火を放つ。絶え間なく撃ちだされる凶弾が建物を、道路を、街路樹を、ごとごとくを蜂の巣に変え、抉り吹き飛ばしていく。生身の人間が受ければ致命傷は免れないそれを、黒歌と白音は恐れず突き進む。

 

銃弾の雨嵐に呑まれぬよう軌道を縦横無尽に変えながら接近し。

 

「えい」

 

ドゴンッ!

 

瓦礫のフィールドを走り抜け、勢いをつけた小猫の飛び蹴りがゴグマゴグの足に突き刺さる。僅かに揺れる巨体にさらにだめ押しと言わんばかりに。

 

「もう一押し!」

 

黒歌が追撃をかけ、両手の掌底打ちが炸裂する。今度こそ巨体が揺れ、バランスを崩してゴグマゴグがあれよあれよというまにずしんと倒れこむ。

 

「これで少しは…」

 

「白音!」

 

落ち着く間もないと黒歌が叫ぶ。倒れたばかりのゴグマゴグが無機質な挙動で首を動かし、その双眸が黒歌と小猫を捉えた。瞬間、カっと輝き熱線を放つ。

 

「にゃあ!?」

 

猫の特性を持つだけあって優れた反射神経で対応し、咄嗟に飛び退り散開する。さっきまで二人がいた箇所にすぐさま着弾し、大爆発を起こす。

 

後ろで巻き起こる破壊をチラ見し、その威力に冷や汗が伝うのを感じた。

 

「目からビーム…」

 

「こいつホントに多芸なのよねー」

 

「アザゼル先生が喜びそう」

 

軽口をたたく黒歌だが、ゴグマゴグの猛攻は終わらない。片手を向けると、手首部分の隙間から火が噴き出し、勢いよく射出される。

 

「ロケットパンチまで…」

 

「任せなさい!」

 

躍り出る黒歌が仙術と混ぜ合わせた魔法を次々に放つ。追尾性を持たせた豪炎弾が空を馳せ、泳ぐように自由に飛ぶロケットパンチに命中し爆ぜるが勢いが衰えることはなかった。

 

「やっぱ私の魔法じゃしんどいわね…」

 

そこそこ魔法も得意な方と自負してはいるが、ルフェイのように魔法全振りではないため、あの装甲を破るには練度、威力不足か。

 

大地を割り砕く質量の塊が、高速でこちらに向かってくる。それがいよいよ間近に迫ろうという瞬間。

 

空を縦横無尽に高速で駆け巡る拳が、突然動きを止めた。噴き出す炎すらも。

 

「僕が止めます!」

 

後方で文字通り目を光らせるのはギャスパーだった。蝙蝠に変身してゴグマゴグのセンサーに引っかからないように動きつつ、停止の邪眼で二人のアシストを的確に行っているのだ。

 

「ナイスギャー君」

 

「やるじゃん」

 

やがて推力を失ったロケットパンチはそのまま重力にからめとられ、真っ逆さまに地面に落下していった。

 

異変に気付いたゴグマゴグが頭部を動かし、怪しく光る双眸が空飛ぶギャスパーを捉えようとしたその時、白い光を帯びた雷と火炎弾の数々が一斉にゴグマゴグの頭部へ殺到し爆発を起こした。

 

「あんたの相手はこっち!」

 

仙術と魔法を掛け合わせた攻撃を放ったのは黒歌だ。下手にヘイトがギャスパーに向いて集中攻撃をされるのは不味いと判断しての行動。

 

「姉さま」

 

「わかってる」

 

小猫と黒歌。少ない言葉で意志を確かに通わせ、同時に駆けだす二人。落下したロケットパンチを踏み台にして、一気に跳躍。ゴグマゴグの目と鼻の先に一息で躍り出る。

 

「白音、合わせなさい!」

 

「言われなくても」

 

二人の仙術が共鳴を起こし、身体能力を更に引き上げる。白と黒、姉妹二人の拳が同時に炸裂する。ゴグマゴグの巨体もぐらりと揺れ、そのバランスを僅かにくずし一歩後退する。

 

「はぁ!?ちょっと、ゴグマゴグ硬すぎでしょ!!敵になるとこんなに厄介なのね!」

 

「生物じゃないから仙術も効き目がないですね」

 

仙術とは自身や相手の体内に流れる生命力、気に作用する技法。生きていないものに通用する道理はない。

 

悪魔の翼で飛行し、ゆっくりと地上に降りながらも次の一手を打つため思考を張り巡らせる。

 

「硬いし、デカいし、兵器だし。どう戦おうかしらね」

 

「かっこいいけど…おっかないです…」

 

「流石に停止の邪眼を使っても有効打にはならないしねー、どうしたものかしら」

 

自分たちの攻撃手法の悉くが通用しない、あるいは通じにくいときた。とことん相性の悪い相手に流石の黒歌も嘆息し、頭を悩ませるしかない。

 

「姉さま、ゴグマゴグに効果的な攻撃はありますか?」

 

「んー、突き抜けた攻撃力かな?うちでできそうなのはヴァーリ、フェンリル、アーサーくらいね」

 

「!」

 

会話する間にも待つ道理はないとゴグマゴグが足を振り上げ、一気に振り下ろす。その威力で幾つもの建物が倒壊し、瓦礫の山を新たに作り出していく。

 

巻き上がる衝撃の波を猫のように軽やかな身のこなしでやり過ごす。向こうの攻撃が大振りなお陰で躱し続けていられるが、攻撃と回避に伴う疲労は徐々に蓄積しつつあった。

 

「それか止めるなら、ルフェイを正気に戻すことね。彼女ならある程度言うことを聞かせられるわ」

 

「…なら、ここは足止めに徹するべきです」

 

「右に同じく…って言いたいけど、あんたはアーサーの下に行きなさい」

 

「お姉さま?」

 

〈BGM終了〉

 

思わぬ指示に小猫は黒歌の方へ振り返る。

 

「ルフェイを正気に戻すには仙術の助けがあった方がいい。それまで私がゴグマゴグを見るにゃ。仲間だからどんな攻撃をするかもわかるし、足止めは私の方が向いてるにゃ」

 

「…」

 

「あ、でもギャスパー君?にはこっちに残ってほしいにゃん。足止めならこれ以上ない能力だからね♪」

 

「僕もですか!?」

 

思わぬ指名にびくりとするギャスパー。まさか小猫の姉に指名を受けて共闘する日が来るとは夢にも思わなかったのだ。

 

「そっ、どうせならゲオルクを倒した能力も使えたらいいんだけど…まだよくわかってないのよね?」

 

「はい…あれから何度も試したけど、駄目でした」

 

「いいのいいの、邪眼だけでもじゅーぶん」

 

役に立てないとしょんぼりするギャスパーだが、気にしていないように黒歌はからからと笑う。

 

「…姉さま、ギャー君と一緒でも流石にあれの相手は…」

 

「大丈夫大丈夫♪あーれぇ?嫌いで苦手なお姉さんが心配なのかしら?いやよいやよも好きの内ってこのこと?本当に白音ったら、可愛いんだから♪」

 

「!!」

 

思わず胸中を口にしてしまったここに来ておちょくるような姉の態度につい顔を赤くし、踵を返す。

 

「姉さまの好きにしてください。死んでも助けません」

 

「好きにさせてもらうにゃん♪」

 

そうして白音は戦場から走り去っていく。彼女の仲間を助けるべく。

 

「…全く、素直じゃないんだから。誰に似たのかしらね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二体のガンマイザーが融合した新たなるガンマイザー。その名はガンマイザー・ハイドロクライメット。天候を操るクライメットに水を操るリキッドの力が加わったことで、大気中の水分を操る力が更に増大した。つまり。

 

高圧水流の弾丸。一発一発が肉に食い込み、抉り取る威力を秘めたそれを難なくステップを踏んで躱す。

 

〈BGM:悲壮なる決意(遊戯王ゼアル)〉

 

「遅い」

 

早速間合いを詰め、袈裟切りを仕掛けるアーサー。綺麗に両断するはずだった一太刀は、水しぶきと共に受け流された。いや、すり抜けたという方が正しいか。

 

「自分の体を…!」

 

剣先が舐めた箇所が水と化している。話に聞くネクロムと同じように液状化能力を持っているようだ。通常の物理攻撃ではダメージを与えることはできない。

 

そして反撃と言わんばかりに、ガンマイザーの全身から焼け付くような熱波が放出される。天候操作能力の賜物であるそれに咄嗟に身を翻しながら距離を取って回避する。

 

「くっ…」

 

さらには高圧水流、雷霆、猛吹雪。挙句には竜巻。天候操作による多彩な属性攻撃が次々と密集してアーサーに襲い掛かって来る。

 

「私も混ぜてくださいね」

 

それだけではない。ガンマイザーの後方から、同様にルフェイも属性魔法を放って攻撃を仕掛けてくる。怒涛の勢いで繰り出される数々の攻撃。空間を切り裂いて逃れる暇はない。

 

ならば頼れるのは自身の腕。この程度で怖じ気付くアーサー・ペンドラゴンではない。持ち出した聖王剣に相応しい使い手であらんとするため、たゆまぬ鍛錬を続けてきた。

 

聖王剣のオーラを引き出して刀身にまとわせ、寄せ来る攻撃の数々を斬り、断ち、穿ち、抉り、薙ぎ、貫き、裂く。アーサー自身に傷は一つもない。達人の技で、苦境を文字通り切り開いて見せる。

 

「さて、次は何を切って差し上げましょうか?」

 

くいっと眼鏡を上げるアーサー。その問いに答えるがごとく、ガンマイザーは左手を天に掲げる。そして異変はたちまちにして起こった。

 

アーサーの頭上、黒い雲がもくもくと生み出され、やがてぽつぽつと雨を零す。それは時間をかけず霧雨、雨、そして豪雨へと変化していく。

 

「私の周りにだけ雨を…」

 

打ち付けるような、痛みすら感じる重い雨粒が容赦なく打ち付ける。しかも天候操作は彼の周囲に限定され、彼の動きに合わせて天候操作された雲も動く。

 

「面倒ですね…!」

 

「うふふ」

 

動きは鈍るなかで、ガンマイザーは容赦なく雷を竜巻を飛ばし、後方から攻めるルフェイは光の魔法を放ち狙い撃ちにしてくる。

 

「くっ…」

 

コールブランドの剣戟で雷を弾き、竜巻を切り飛ばし、光線を切り飛ばす。剣士の遥か高みを目指し、その位に足をかける彼にこそ為せる業だ。しかし中々攻めに転じることはできずにいた。

 

やりづらい。それは戦況的にも、精神的にもどちらもだ。動きを制限されたこちらに遠慮なく強烈な攻撃を叩き込んでくる。

 

時折空間を切り裂いて、背後からガンマイザーに突きを入れるが斬られそうな部分だけ液状化して攻撃を無効化してくる。物理攻撃も効かない相手ともなれば猶更打てる手は絞られてくる。

 

そして何より相手はルフェイだ。何よりも傷つけたくない相手を前に、彼の戦意は大いにそがれてしまう。言葉では、頭ではわかっていても心の底と体が彼女に切っ先を向けることに忌避感を感じて彼の剣を鈍らせる。

 

「どうして?お兄様、どうしてなの?アルル様と敵対するの?」

 

「ルフェイ…」

 

光のない虚ろな目でルフェイが問う。戦う兄の姿が心底不思議でならないというように。

 

「アルル様達は世界を救うために人々の願いを叶え、世界を救うために滅ぼそうとしているだけなのに。お兄様は皆の幸せを邪魔してるんですよ?」

 

アーサーは内心衝撃を受けた。普段のルフェイなら絶対にそんなことは言わない。偽物かと疑ったが、それなら黒歌がとうに見破っている。ならばこのルフェイはやはり本物で、操られているのだ。

 

その動揺が、ガンマイザーの攻撃を捌く彼の手を一瞬鈍らせた。その隙間に滑り込むように走った雷が、アーサーの腹を穿った。

 

「ッ…!!?」

 

声にならない痛みと熱に思わず膝を突き、ごぼっと吐血した。如何に強者と言えど、肉体は人間。耐え切れるはずがない。

 

苦しむ兄の姿を見たルフェイは心配の言葉をかけるどころか、にこやかな笑みを浮かべ。

 

「お兄様、神に歯向かうから痛いんですよ?何も考えなくていい、歯向かわなくていい。ただ神の恵みと滅びを受け入れれば、苦しむことなんてないんです」

 

「…あなた、自分が破綻したことを言っていると気づかないのですか?」

 

「?」

 

「救済は死や滅びによってではない。生きてこそ得られる恵み。ディンギルが謳うそれは、自身の行いを正当化する為の身勝手な方便にすぎません。死者に救済の歓びも安らぎを享受することなどできるでしょうか」

 

彼らが明け暮れる戦いの末に得られる勝利も、喜びも、生き残ってこそ得られる。戦いとは死と隣り合わせなもの、そんなことはわかっている。だが死ぬために戦うわけではない。勝利し、その先にある更なる自己研鑽と栄光の為に彼は戦うのだ。

 

彼らにとって救済も勝利も喜びも、与えられるものではない。自らの手で掴み取るもの。それを恩着せがましく、あまつさえ無償のように装って与え、やがてはその魂ごと自らの糧にするディンギルの傍若無人には反吐が出る。到底認められるものではない。

 

「それが何だというんですか?」

 

「…考える余地を与えない強力な洗脳を施されたようですね」

 

矛盾を突かれたにもかかわらず、ぽかんとした表情を浮かべるルフェイ。もはや言葉は通じない。

 

コールブランドを地面に突き立て、杖代わりにして立ち上がる。貫かれた腹が痛む。悲鳴を上げ、もう動けないと叫ぶように。しかしそれを意志の力で乗り越え。

 

「我が妹を危険に晒してしまったのは私の弱さです。ならばこそ」

 

勢いよくコールブランドを天に掲げる。惚れ惚れするような一閃が、雨を涙のように垂れ流す頭上の暗雲を見事に切り裂き霧散させた。

 

雨がやみ、天光が差す。陽の光を浴びたコールブランドが反射し、覚悟を決めたアーサーを祝福するがごとく神々しい光で彩った。

 

「ここであなたを取り戻し、私の弱さを断つ!」

 

〈BGM終了〉

 

 

 

 

 

 

 

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叶えし者の中でも筆頭クラスの男、ラディウス。

 

彼の拳はあらゆる敵意を砕き、彼の肉体はあらゆる敵意を弾く。無敵という言葉はまさしくこの男の為にある。

最上級の神と契約した、最初の叶えし者。原点にして頂点。実力、立場共に絶対的なものを持つゆえに揺るがぬ自信は彼の力の源とも言えるだろう。

 

彼の力は各勢力の筆頭でもあるアザゼル、ヴァーリ、そしてポラリスの3人を同時に相手取ってなお遺憾なく発揮されていた。

 

〔BGM:The Dignity of Lords(機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ)〕

 

「ふん」

 

『ぐっ!』

 

突き抜ける拳。その一撃で防御のために構えたドリルクラッシャーが簡単に砕け、余波で吹き飛ばされる。

 

彼女と入れ替わるように、間髪入れず背後から奇襲をかけるアザゼル。光の斧槍を渾身の力で脳天目掛け叩きつけるが、彼の体に傷どころか身じろぎ一つすら起こすことはできない。

 

「こいつマジかよ」

 

バケモノかと驚愕するアザゼルにすっとラディウスは指をデコピンの構えにして向ける。寸前、横やりを入れるように白い閃光となったヴァーリが突撃。攫うようにアザゼルからラディウスを引き剥がす。

 

掴みかかり、地面を引きずりながら高速移動するヴァーリ。触れることは出来ている。しかし地面を引きずり回しているにもかかわらず、一切傷もつかなければ汚れもなく、勿論ラディウスが表情を変えることもない。

 

「これでもダメか」

 

「白龍皇の翼、忌々しいながらも美しいな。片翼をアルル様に捧げるのも一興だろう」

 

「!」

 

ずいと右手が白龍皇の光翼へと伸びる。過去の戦いで彼の能力を少しでも知っているヴァーリは危機を察知し、咄嗟に引きずりから投げ捨てにシフト。腕を振り抜き、一気にラディウスが遠ざかり、行先の壁に激突した。

 

『どうじゃ』

 

「手ごたえはあった。だがやはりダメージは入っていない」

 

ヴァーリの下にエボルとアザゼルが集まる。三者ともに接戦の最中で掠めた攻撃で鎧や装甲を破損した状態だ。

 

『奴の能力のカラクリが読めん。概念系か、あるいは何かしら他のサポート等の一定条件で無敵を実現する能力か…?奴自身の認識も関わっている…?』

 

「なんにせよ、それを解明できなきゃ俺達に勝ちはねえ」

 

幾度と接敵し、攻防を繰り返してきたが未だに相手の能力の種を解明できずにいた。それだけ敵の力が単純であり、圧倒的なのだ。単純すぎる故に逆に読めず、圧倒的故に対策のしようがない。

 

「ポラリス、お前の能力に奴に効くものはないのか?」

 

『カラクリを解明しないことには断言できぬが…』

 

「作戦会議は戦闘前に終わらせておくべきだな」

 

「!」

 

破砕した壁、砂煙の中からゆっくりとラディウスが歩み出でる。やはりその体は無傷で、汚れもない。そしてその手にはたんまりと砂が握られており。

 

「お返しだ」

 

勢いよく腕を振りぶちまけると、凄まじい速度で向かってくる凶弾の嵐と化す。

 

「おいおいこれも不味いんじゃねえのか!?」

 

〔Half Dimension!〕

 

ヴァーリは翼を輝かせフィールドを展開、波のように来る攻撃の質量を半減する。単純な物理攻撃の枠に収まらないこの技ならとヴァーリは打って出たが、やはり礫の驟雨の勢いが衰えることはない。

 

「これでもダメか!」

 

「不味い!」

 

〔ホーク!ライダーシステム!クリエイション!〕

 

咄嗟の判断で三人一斉に翼を広げて空を飛び、その暴威の範囲から逃れる。対象を見失った砂粒は彼らの背後にあった壁に衝突。凄まじい破壊の爆音を奏でるのだった。

 

打つ手もなく、回避するしかない3人の強者の姿を見上げるラディウスは呆れ気味に息を零した。

 

「白龍皇、堕天使の元総督、機界のアドミニストレータ、三人そろってこのザマとはな」

 

「ハチャメチャ能力でゴリ押しできるからって好きかって言いやがって…」

 

「恥だな」

 

「全くだ…ん?」

 

ヴァーリの言に同意するアザゼル。そんな彼の目にふとあるものが留まる。

 

『物体を半減させるハーフディメンションもダメか。何なら効く?』

 

「ならば次は極覇龍で…」

 

『ダメじゃ。奴の力がわからぬ以上、無駄な消耗は避けるべき。ここぞという時の為に温存すべきじゃろう』

 

「だが出し惜しみして勝てる相手ではない」

 

『それはそうじゃが…』

 

こちらが言いあっているにも限らず、ラディウスは手を出してくる気配はない。寧ろ欠伸をしてこちらの出方をじっと待っているようでもある。この3人を相手取ってなお余裕でいられる程、自身の力に自信があるということか。

 

「…やっぱりそうだよな」

 

『?』

 

ぽつりと呟くアザゼル。それは先のラディウスの攻撃で気づいた発見だった。

 

「奴の能力には制限がある。例えばさっきの砂粒、もし永久的に効果を付与されてるのなら、永遠に飛び続けてぶつかる一切合切を破壊しまくるはずだ。それが今はどうだ?」

 

「なるほど、確かにそうだな。破壊は最初の一回だけ。後は何も起きていない」

 

『つまり、攻撃力を付与できるのは初撃のみでそれ以降は効果が失せると。あるいは付与できる時間はごく僅か

か』

 

「そういうことだ。最も、本体の効果持続時間もどうかはわからんが」

 

「ほう」

 

アザゼルの推察に感心気にラディウスが口角を上げる。そのリアクションは彼の推察が正しいことの何よりの証拠であった。

 

『イレブンが前の戦いの際に測定した記録じゃと、最低3分はある。それ以上はいつまで連続して防御できるかは

未知じゃな』

 

「ならば、今からこいつの能力を確かめる」

 

「ヴァーリ?」

 

そう言って手に光球を握るヴァーリがラディウス目掛け投擲する。豪速のそれに敵は難なく反応し、腕の一振りで弾く。

 

しかしヴァーリの攻撃は終わらない。矢継ぎ早に、何度も何度も光球をラディウスへ投げ続ける。弾く玉、直撃する玉、いずれも爆発を起こし、爆発の中にまた飛び込んでいく無数の光球が更なる爆発を次々に生んでいく。

 

『お主、何を…』

 

「時間制限があるなら永遠に攻撃を受け続けることはできないはずだ!」

 

「全く!脳筋極まれりだが、試す価値はあるな!」

 

アザゼルもまた一斉攻撃に加わり、無数に展開した光の槍を雨のように降らせ、ラディウスに叩き込む。既に巻き上がった土煙、爆発で姿を視認することはできないが、センサーで確かに彼の存在を感知できている。

 

エボルもまたトランスチームガンでの射撃で攻撃に加わる。三人の息つく間もない怒涛の攻撃が大地と大気を揺らし、凄まじい破壊を起こし続ける。ただひたすらに、考えるよりも先に次の攻撃を加える。圧倒的質量ではなく物量による乱打。それが30秒、1分、1分半と続いていく。

 

「アザゼル、まだ疲れていないだろうな?」

 

「当たり前だ!役職降りてもまだまだ現役だこちとらぁ!」

 

軽口をたたきあいながらも二人の手は止めない。継続の為出力はある程度下げてはいるが、それでも一発一発が中級悪魔は軽く消し飛ばせる威力だ。上級悪魔だって受ければただではすまない。それを二人は息するように繰り出す。

 

『お主ら、余裕をこく暇が…』

 

土煙の中、きらりと何かが輝いた。そう思った時には勢いよく光の槍が飛び出し真っすぐにヴァーリ目掛けて避退していた。

 

「ヴァーリ!!」

 

考えるよりも早くアザゼルが飛び出し、ヴァーリを突き飛ばす。次の瞬間、ヴァーリを貫くはずだった光の槍がアザゼルの腹に刺さってしまう。

 

「ぐはっ!!」

 

『アザゼル!!』

 

驚愕の展開に攻撃の手が思わず止まる。巻き起こる土煙を一瞬で吹き払い現れた無傷のラディウスの手には、アザゼルが放った光の槍が握られていた。

 

「もらい過ぎるのも悪いと思って、返したまでなんだがね」

 

「貴様ァ!!」

 

吼えるヴァーリ。怒りで瞬間的に跳ね上がった出力を全開にヴァーリはラディウスへ突貫するが、難なく避けられた挙句、顎を蹴り上げられ、彼方へ打ち上がってしまう。

 

「がっ…」

 

『あの二人を一瞬で…』

 

白銀を使っていないとはいえ特異点で二天龍に名を連ねるヴァーリと堕天使の元総督のアザゼル。強者の中の強者とも呼べる二人を相手に互角どころかいともたやすくのしてしまうこの力。

 

想像以上だ。ウリエルからの情報にもないこの男、一体何者なのか。

 

「互いを想う心は美しい。それ故に崩れた時は何よりも脆い。そうは思わないかね」

 

『…』

 

一人残され、警戒度を限界まで引き上げるエボル。相手の動向、僅かな一挙手一投足をも察知しつくさんとする。まだ能力の全貌を掴み切れていない。どう立ち回るべきか。

 

「アザゼルの考察は正解だ。私の能力は触れている物質にも付与できる。手を離せばあっという間に効果時間は減り、やがては消失する。いいところを突くあたり、流石は総督だ。頭がよく回る。だが…」

 

びしっとラディウスは真正面から相対するエボルを指さす。

 

「ポラリス。私が今最も警戒しているのは貴様だ」

 

『何?』

 

「異界より来たれし貴様の未知数の手札。アルル様や私も脅かしうるかもしれん。故に、真っ先に排除すべきだろう」

 

「!」

 

一息で駆け、距離を消し飛ばし、ポラリスの間合いに立ち入るラディウス。薙ぐような回し蹴りにエボルは左腕で受け止めるが、やはり頑強な装甲が一撃で砕け散る。

 

「ぐぁっ!!」

 

そしてその衝撃は、スーツで防護されている生身にも響く。今ので左腕の骨が砕けたのを感じたエボル。呻き、一歩退きながらも踏ん張り。

 

〔フルボトルバスター!〕

 

至近距離で召喚したフルボトルバスターの銃口をラディウスに押し当てる。しかしそれも。

 

「ぬぅん!」

 

手刀を力強く振り下ろし、あっけなく破砕して見せる。武器がただのガラクタに様変わりする瞬間にただただ戦慄を禁じ得ない。

 

『簡単に壊してくれるのう…!!』

 

壊れたバスターの残骸を投げつけるが容易く払いのけられ、次なる攻撃が迫る。

 

〔宝石!ライダーシステム!クリエイション!〕

 

ダイヤモンドフルボトルを装填。ダイヤモンドでできた防御壁を生み出すが、蹴り一つでいとも簡単に砕け散る。

 

『防御が意味をなさない…!!』

 

「あらゆる防御も無意味だ」

 

『まだだ!』

 

望みをかけて取り出したのは白のラインが入った黒いデバイス、エボルトリガー。使用すればエボルを更なるステージへと押し上げ、常軌を逸した力を発揮できる。上部のスイッチを押し込み。

 

〔オーバー・ザ・エボリューション!〕

 

エボルドライバーのポートに差し込もうと振り下ろす瞬間、手に鈍い衝撃を受け、エボルトリガーが宙を舞う。

 

『!』

 

「諦めろ、無駄な足掻きは苦しみを長引かせるだけだ」

 

例のごとくデコピンで空気砲を放ち、彼女の手から撃ち落としたのだ。憐れむようなその一言が、焦燥に蝕まれる彼女の心に火をつけ、侵食する焦燥を焼き尽くす。

 

『退く気なぞないわ!』

 

吼えるエボル。ドライバーのレバーを勢い良く回し、拳に全エネルギーと呪力を集中させる。渾身の一撃の予感。

それに応じるべく、ラディウスも拳を構え。

 

《エボルテック・フィニッシュ!Chio!》

 

青い星光纏い市拳と神々しき拳が衝突する。瞬間、互いのエネルギーの波動と共に黒い雷のような異質な力が迸る。

 

「なんだ、このオーラは!?」

 

驚くラディウス。しかしそのオーラが微塵も弱まる気配はない。互いのオーラが荒れ狂い、周囲に飛び散りコロシアムの風景を破壊していく。

 

『くっ…うううッ!!』

 

「あぁっ!!」

 

錐もみ回転しながら吹っ飛び、地面に体を打ち付けるエボル。やがて変身が解除され、華奢な彼女の生身が晒される。ラディウスとぶつけ合った右腕はあらぬ方向へひしゃげ、潰れ、千切れかけのありさまだ。

 

「ベルトが…」

 

ラディウスが拳を振り抜いた際に掠めたのか、外れて遠くに転がったエボルドライバーも抉れたような損傷を受けて真っ二つになってしまっていた。使い物にならなくなったのは一目瞭然だ。

 

「くっ…一発…か。今日は、運がいい」

 

あらぬ方向へひしゃげた腕が瞬く間に再生し、元通りの状態へ変じる。その芸当にラディウスは感心気に唸る。

 

「体を再生したのか」

 

「これは反転術式。マイナスの呪力同士を掛け合わせ正のエネルギーに変換することで行える治癒術。そして先のは黒閃。打撃との誤差0.000001秒以内に呪力が衝突した時、空間の歪みが生じる現象。クリティカルとでも思っておけばよい」

 

「ほう…呪力、異界の力か」

 

「あいつ…そんな芸当ができんのか」

 

彼女の解説と披露した反転術式に、敵も味方もなく皆が興味深そうに目を見張る。異界の力、彼らが知りえることのない事象、興味を抱かないわけがない。

 

「打撃の威力も平時の2.5乗跳ね上がるのじゃが…貴様の能力には効かなかったか」

 

ゆっくりと体を起こし、立ち上がるポラリス。ぱさぱさと服に付いた埃を祓い。

 

「さて、妾の術式は黒閃を決めなければ使えなくてのう。条件は果たした…貴様に見せてやろう、呪いというものを」

 

ポラリスの体から、青き異質な力が沸き起こる。おどろおどろしい力が、更なる混沌を生む。

 




Q:何故ブラックホールにならなかったのくぁ!→A:ブラックホールは流石に味方を巻き込む危険も高いし、戦闘力を50倍に引き上げる能力はポラリスが反転術式を全開にしても負担とガス欠で終わっちゃうので…

もうちょっとだけポラリスサイドの戦いは続くんじゃよ。そして次の回は…?

次回、「術式解放」
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