戦士胎動編最終章の幕開けです。
Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は……
S.スペクター
11.ツタンカーメン
12.ノブナガ
13.フーディーニ(+)
第17話 「生徒会」
「~♪~♪~♪」
鼻唄を歌いながら学校の廊下を歩く。
曲名は「GIANT STEP」、数ある好きな曲の中からこの曲を選んだ理由は一つ。
ただの気まぐれである。しいて言うならフォーゼの舞台が高校であり俺が今いるここも高校だからか。
この世界では『仮面ライダー』は昭和期で終わっている。
故に数々の名曲や玩具も存在しない。玩具売り場を見に行ってもライダー関連の物がないのを見たときは少し寂しく感じたものだった。
ふと廊下の曲がり角に突き当たったときだった。
「きゃっ!」
「のわっ!」
曲がり角の向こう側から歩いてきた誰かとぶつかり、その誰かが持っていたであろう書類が辺りに散らばった。
「す、すみません!」
慌てて腰を落として書類を拾い集める。内容は見ない。というか焦って見る余裕がない。
「いえ、こちらの不注意が……」
ふと、同じく書類を拾っている人と目が合った。
眼鏡をかけ黒髪を短く切り揃えた女子生徒。
落ち着いた雰囲気を持つその生徒に見覚えがある。確か…。
すると。
「君はたしか……」
どうやら向こうもこちらに見覚えがあるらしく俺の顔をまじまじと見始めた。
書類を集めながら記憶の引き出しを探る。
俺の知り合いか?
会話したことがあればすぐ思い出せるはずだしそうじゃないということは直接の面識はないということだ。
でもどこかで…どこかで見たような…。
「「あっ」」
同時に互いの脳内検索に引っ掛かり、上げた声が重なる。
思い出した。
この人、この学校の生徒会長さんだ。
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「まさか、こんなタイミングで会うことになるなんて思いませんでした」
「いえいえ、俺もまさか生徒会長さんとこうして喋ることになるなんて思いもしませんでしたよ」
書類を集め終えた俺は詫びのつもりで会長さんの代わりに書類を運ぶことにした。
そうして今、会長さんと一緒に生徒会室へと向かっている。
俺の隣を歩くこの人こそ駒王学園の第三学年、生徒会長の支取蒼那先輩。
以前集会の時に前に出て話をしていたのを俺は思い出したのだ。こういう集会の話は大概聞き流すから道理で思い出せなかったわけだ。
そしてさっき書類を拾い終えたタイミングでこの人は自分に悪魔であると耳打ちしてきた。
「まさか会長さんも悪魔だったとは。俺のことはグレモリー先輩経由で?」
「堕天使の一件でリアスがあなたの事を話してました。実はリアスとは幼馴染ですよ」
「え!先輩と!?」
会長さんは頷く。
先輩で生徒会長で悪魔でグレモリー先輩の幼馴染か。
「ん?グレモリー家の人と幼馴染?」
悪魔の中でも名家とされるグレモリー家の先輩と幼馴染ということは…。
「もしかして先輩も上流階級の出ですか?」
「ええ。こう見えても旧七十二柱のシトリー家次期当主です」
「し、シトリー……?」
悪魔の名前はよくわからないが一つ分かったことがある。
「あ!だから支取なんですね」
「ええ。単なるもじりです」
最近は魔王といいフェニックスといいとんでもない悪魔とよく会うな。
そうこうしているうちに生徒会室へと到着した。
ガラガラとドアを開けて中に入る。
「失礼しまーす」
辺りを見回すと部屋の中は会議用の長机とホワイトボード、書類をとじたファイルがずらりと並んだ本棚が置かれていた。無駄なものが一切なく真面目そうな会長さんの性格を表したかのようだ。
「あ、会長!ってそいつは!」
長机に座り仕事を終えてくつろいでいたらしい男子生徒が立ち上がる。
会長さんが俺を男子生徒に紹介する。
「紀伊国悠君です。あなたもレーティングゲームで見たでしょう?」
「は、はい…」
ここでレーティングゲームという単語が出たということはこいつも悪魔か?おそらく会長さんの眷属か。
「匙、あなたも自己紹介しなさい」
「は、はい!」
前に出てドンと胸を張り、誇らしげに自己紹介する。
「俺は匙元士郎。会長の『兵士』だ!匙って呼んでくれ」
「紀伊国悠だ。ま、よろしくな匙・クロスロード」
「誰だよそれ…」
互いに握手をする。俺の中で匙って言ったらスプーンかそれしかないんだよ。
折角なので話題をふってみる。
「試合を観たのか?」
「ああ、お前ホント強いな!」
奥にある会長用の卓に座りながら会長さんが言う。
「あなたはもう一部の悪魔の間では有名人ですよ?あのライザー・フェニックスをあと一歩のところまで追い詰めた人間。有名にならないはずがありません」
「そこまで言われると照れますね…」
頭をかきながら目線をそらす。
「ただ、有名になるということはそれだけ狙うものも増えるということです」
「…どういうことです?」
会長さんの言葉に首をかしげる。
ゲームとはいえ貴族をぶっ飛ばすことはまずいのだろうか。
「『悪魔の駒』とレーティングゲームの導入によって優秀な眷属集めが流行っています。皆が私やリアスのように穏当に眷属を集めているわけではありません。中には強引な方法で眷属を集める貴族もいます」
「なるほど」
悪魔が皆、グレモリー先輩のように優しくないってことか。ま、悪魔だしな。案外悪魔にとってはそれが普通なのかもしれない。
「もしそのような輩に遭ったときはすぐに私かリアスに連絡してくださいね」
「了解です」
軽く敬礼して返答する。
最初見たとき厳しい人かなとも思ったけど実は優しい?
と思っていたら匙がそっと耳打ちしてきた。
「会長、お前がゲームで校舎をぶっ壊したときめっちゃ怒ってたぜ?」
「い!?」
あの時のことか…。
知らなかったとはいえ生徒会長も見てる試合でそれは流石にまずかったか。
「匙?何を話しているのですか?」
「か、会長!?これはですね!」
「い、いやーあの時は……」
バレてる…。会長さんがニコニコしてる。が、その目は決して笑っていない。
「ふふっ、もう過ぎたことです。あなたもあの攻撃が最善だと思ってああしたのでしょう?」
「は、はい!」
俺もあの時はこれくらいすれば不死でもダメージが入るだろうと思っていた。あの時は最善というか必死でやってたな。
「ですがレプリカとはいえ校舎が瓦礫の山と化すのはこの学園を愛する生徒会長としては心が痛みました」
悲しげな声で語る会長さん。…さすがに俺もやり過ぎたなとその時は思った。
「今後は気をつけます……」
「そうしてくれると助かります」
俺の反省の言葉に会長さんはフッと微笑んで返した。
今度は矢庭に会長さんが質問してきた。
「紀伊国君はリアスの眷属にならないんですか?」
やっぱり眷属持ちの悪魔として気になるところではあるか。
「…誘われたんですけど断りました。あの時は戦いから逃げたくて」
あの時、俺は自分でもわからないくらいにぐちゃぐちゃになった虚しさと辛さ、悲しさに押しつぶされ、流されるままに誘いを断ってしまった。
でも兵藤の頼みやサーゼクスさんとの出会いを経て少しずつ俺の中で何かが変わろうとしている。それが何かはわからない。ただ、きっといい方向に進んでいるんだと俺は思う。その答えを得るために。
「でも今は自分の力と向き合ってみたいと思っています」
「…そうですか」
俺の毅然とした態度に会長さんはまんざらでもないという笑みを浮かべた。
会長さんが話題を変える。
「もしよかったらリアスでなく私のところにきませんか?あなた、真面目でしょう?」
「え、なんでそう思うんです?」
「ぶつかったときの行動を見て分かりました。あなたならきっと生徒会も眷属の仕事もきっちりこなせそうです」
流石は会長を務めるだけあって人は見る目はあるな。
俺が真面目かどうかはさておきあまりバカなことはしたいと思わないしな。
匙が口角を上げながらこそっと告げる。
「会長は厳しいぞ?」
「匙、次の書類です」
「は、はい!」
会長さんから書類を渡され、匙が慌ただしく処理に手を動かす。
そろそろ向こうも仕事を始めるようだ。長居はいけないな。
「それじゃ、失礼しました」
そう言ってドアをガラガラと閉めて生徒会室を去った。
この学園は悪魔が多いな。でも、皆いい悪魔だ。
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二日後、この学校の伝統行事、球技大会が行われていた。
球技と言うだけあり一つの種目のみならず様々な種類の球技が行われるこの行事はクラス対抗、部活動対抗の二種が存在する。
クラス対抗では2位と言う結果に終わった俺は天王寺や上柚木と共に兵藤の所属するオカルト研究部対野球部のドッジボールの試合を見に行くことにした。
「流石の人だかりね」
「学園の人気者はすごいっちゅうことやな」
学校の人気者が多く集まるオカルト研究部なだけあって既に大勢の生徒達が注目し集まっていた。試合はまだ始まったばかりで大きな動きはない。が……。
「ぎゃぁぁぁ!」
何故か兵藤だけが狙われている。クラス対抗の疲労がまだ残っているのか既に汗だくになった兵藤は投げられたボールを跳んで回避する。野球部と言うだけあり流石の球速だ。
「イッセー死ねぇぇぇ!!」
「兵藤を倒してアーシアたんを守るんだ!!」
「お姉様たちが兵藤に汚される前に!!」
ギャラリーから沸き起こる兵藤への敵意をむき出しにした怒声。
皆殺意に目をぎらつかせている。
「なんでイッセー君だけ狙われるんや!?」
「ハァ……学校の人気者に当てたらそれこそ皆から恨まれるわよ」
ため息をつきながら上柚木が答える。
「確かになぁ…」
学園でもトップクラスの美貌と人気を持つグレモリー先輩と姫島先輩を当てればから全学年から狙われ、マスコット的人気を持つ塔城さんは当てたらかわいそうなので無理、幼気なアルジェントさんを狙うことはできず同学年やの女子生徒の人気が高い木場を当てれば女子生徒が敵になる。
結果、消去法で兵藤を狙うしかないというわけだ。ギャラリーの怒声に負けず俺も声を張り上げる。
「兵藤ォ!逃げルォ!」
「イッセーくん頑張れ!!」
兎に角精一杯の応援(?)を送り、アウェー状態の兵藤を鼓舞する。
その際、木場が視界に入った。皆が盛り上がっている状況にそぐわないその表情が気になった。
「木場の奴どうしたんだ…?」
「木場君がどうかしたの?」
「いやさっきから何というか、ボーっとしてるような気がして」
どうにも木場の動きが微妙に鈍い。その表情はどこか心ここにあらずと言った感じだ。
その木場の様子に気付いた野球部のメンバーが木場に狙いを定めた。
「イケメンも死ねぇ!!」
それにいち早く気付いたのは兵藤だった。
「木場ァ!ボーッすんな!」
庇うように兵藤が前に躍り出る。
その時、痛々しいことが起こった。
「はうっ!?」
野球部渾身の剛速球があろうことか兵藤の股間にダイレクトアタックしたのだ。
兵藤はたまらずのたうち回る。悪魔に転生して頑丈になってもそこはやっぱり駄目なのな。
「イッセー君!?」
「イッセーさん!?」
オカルト研究部の皆が慌てて兵藤に駆け寄る。
集まって何か話をしたあとアルジェントさんが兵藤を連れてどこかに走っていった。
(なるほど、神器で回復するのか)
得心した俺は観戦を続けた。
その後、兵藤を失った怒りに燃えるオカルト研究部の逆襲が始まり、あっという間に野球部を全滅させた。その様は逆鱗に触れられた龍のようだった。
どんどんボールがカーブするわ、着弾したボールがエグい音を立てるわ。
でも、逆にそれだけ兵藤がオカルト研究部に大切にされてるとも思った。
あいつはいい仲間に恵まれたなぁ。
俺にはそれが羨ましく見えた。
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その夜、どしゃ降りの雨が降った。
地を打ちつける雨の音がざあざあと壁越しでも聞こえる。
絶えることなく音をたてる雨の様子をリビングの窓から頬杖を突きながらを眺める。
「……凛」
この世界には存在しない実の妹の名を呟く。
ふと先月のフェニックスの一戦を思い返す。
ライザーに最後の一撃を決める間際、ライザーの妹、レイヴェルフェニックスに邪魔され反撃を許してしまった。
その時、レイヴェルフェニックスの顔に一瞬凛の顔がダブって見えた。
「…いやまさかな」
俺の妹はこの世界にも元居た世界にも存在しない。
俺が死ぬ2年前にあいつは轢き逃げに遭いその命を落とした。
轢き逃げした車の運転手はパニック状態に陥ったのか立て続けに近くの建物にその車を激突させ死亡した。
当時の俺にやり場のない怒りと悲しみをその事故は植え付けた。
フェニックス戦の時は単にレイヴェル・フェニックスがライザーの妹だったからそう見えただけだろう。
「……」
俺の声が無くなればこの家はとても静かだ。
今は雨の音がその静寂を紛らわせている。この家に住んでいるのは俺とペットの相棒だけ。今になって家族のありがたみをしみじみと実感した。家事は全部俺がしないといけないし、孤独を紛らわせる相手でもあったのだ。孤独と暗い天気が自然と気分を下げる。ふと思ったことをそのまま口に出す。
「同居人とかできないかなぁ……」
ちょっとリアルが忙しくて更新が遅れました。もしかすると今月いっぱいは遅くなるかもしれませんがなるべく週一を目指していきたいと思います。
…決して今後の展開に悩んでるとかではありません。むしろ20巻辺りまで既に決まってるくらいです。はやく○○○○編まで書きたい。
次回、教会からあの二人がやってきます。