ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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待たせた分、かなり長めです。ついに一万字突破。

アニメDⅩD終わりましたね。
思えばハーデスや帝釈天、曹操と今後の重要キャラがたくさん出てきた巻のアニメ化でした。

過去の仮面ラジレンジャーにビルドの挿入歌の一部が流れてたみたいですね。「Evolution」早くFullで聞きたいなぁ…。

本作はなるべくアンチなしでやるつもりです。

Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は……

S.スペクター
11.ツタンカーメン
12.ノブナガ
13.フーディーニ


第19話 「天閃の聖剣」

交渉を無事に終え一息つく俺たち。今までのピリピリした空気にかいた汗を拭い、ドリンクバーで入れてきたレモンソーダをすすった。

 

「イッセー君、どうして?」

 

木場が今までの俺たちの行動の理由を訊ねる。それに答えたのは兵藤だった。

 

「俺たち仲間だし、今までお前には助けられっぱなしだからな。借りを返すわけじゃないけど力を貸してやりたいと思ってさ」

 

「…部長のこともあるんだろう?」

 

「ああ、でもお前が勝手に動いて「はぐれ」になったら部長だけじゃない、皆が悲しむ。小猫ちゃんだってお前のこと心配してたんだぜ?」

 

『はぐれ』か。おもに主を失うか、力に溺れ主を殺した悪魔はそう呼ばれる。時々この町にも出没し『大公アガレス家』の命令で先輩たちが討伐するらしい。

 

「私は裕斗先輩がいなくなるのは寂しいです…だから、どこにも行かないで」

 

儚げに木場に訴える塔城さん。

 

「そこまで言われたら仕方ないね」

 

苦笑すると一瞬目を瞑り、その目を決意あるものへと変えた。

 

「…わかった、皆の好意に甘えさせてもらうよ。でも、エクスカリバーは何としてでも破壊する!」

 

「そう来なくっちゃな!よし、エクスカリバー破壊団の結成だ!」

 

「おー!」と高く手を掲げる兵藤。塔城さんも小さくだが手を掲げていた。オカルト研究部の三人が盛り上がる中、匙と俺は…。

 

「なあ、俺たち蚊帳の外だよな」

 

「同感だ、そろそろ木場とエクスカリバーの関係について教えてくれよ。嫌なら嫌で無理に言わなくてもいいぞ?」

 

俺と匙はこの事件の情報については知らされているが木場とエクスカリバーの関係についてはからっきしだ。おかげで今までの話が断片的にしか理解できなかった。

 

「そうだね…少し話そうか」

 

珈琲を飲み、一息ついてから木場は語りだした。

 

 

 

 

 

『聖剣計画』。聖剣に適応し、使いこなせる者を養成するための計画がカトリックで行われていた。

 

それを研究するための施設に剣に関する才能や神器を持つ少年少女が集められ、木場もそこにいた。

 

来る日も来る日も過酷な実験が行われ、次第に仲間たちもやせ細り、一人、また一人と消えていった。それでも耐えた。彼らには夢があり、神に愛されていると思わされていた。聖歌を口ずさみ、いつの日か聖剣に適応し、仕えるべき主の剣になる日が来ると信じて。

 

だが苦痛に呻く日々はある日、終わりを迎えた。

 

ある日、聖剣に適応にできる能力値の平均以下しか満たないと判断されたがために『処分』の命が下され毒ガスが仲間たちのいる部屋に巻かれた。

 

毒ガスの有害物質に呻き、涙を流し、吐血し、薄紫色のガスは瞬く間に夢を語り合い、支えあった仲間の命を奪っていった。

 

命辛々逃げ出した彼は雪の降る森の中を彷徨った。だが毒ガスにむしばまれた体は言うことを聞かず、死を待つばかりの体となってしまった。

 

そんな彼を見つけ、手を差し伸べたのがイタリアに視察中だったグレモリー先輩だった。果たして木場は『悪魔の駒』で転生を遂げ、グレモリー眷属の『騎士』となった。

 

「うう…ひぐっ…」

 

語り終えた時、匙は隠すことなく嗚咽を漏らしていた。木場の肩をがっしり掴み上ずった声で言った。

 

「木場ァ!つらかっただろう!苦しかったろう!最低だぜエクスカリバーも教会の指導者たちも!」

 

うんうんと匙が頷き、続ける。

 

「俺は今までイケメンのお前がいけ好かなかったが話は別だ!一緒にエクスカリバーを破壊しよう!お前の無念を晴らすためなら会長の仕置きだってなんだって受けてやる!でもお前は生きてくれ!!」

 

…なんていうか匙っていいやつだな。先輩のとこも会長さんとこも『兵士』は揃っていいやつだ。

 

「俺も匙と同感だよ。今ので教会のイメージがガラッと変わった」

 

俺が今まで教会に抱いていた清らかなイメージと遠くかけ離れた出来事が語られた。…多分、教会の闇を探ればこれ以上のことだって出てくるんだろうな。

 

「まあ、物をぶっ壊す復讐ならいくらでも手伝うさ」

 

今回の目的は『エクスカリバーの破壊』だ。俺は伝説の聖剣を破壊することに集中すればいい。また手を血に染めることもないはずだ。

 

「…ありがとう」

 

木場は絞り出すように感謝の言葉を告げた。

 

「折角だ、俺の話も聞いてくれよ!俺の夢は会長とできちゃった婚することだ!」

 

雰囲気を変えようと匙が語りだした。木場と同じ真剣味があるがシリアスにではなく明るく語った。

 

「モテない奴からしたら夢のまた夢かもしれない…でも、俺はいつか、絶対に夢を叶えて見せる!」

 

「モテない奴ね…」

 

確かに夢の夢かもしれない。できちゃう相手がいないわけだし。現に俺だってフラグがある相手がいないわけだし…。

 

でも匙の姿に兵藤と同じ熱血で真っすぐなところを垣間見た。もしかしたらそのうち本当に叶えるかもな。

 

「…ッ!聞け匙!俺の目標は部長の乳を揉み吸うことだ!!」

 

匙に触発された兵藤も語りだした。

 

…乳を揉むとか、できちゃった婚とかお前ら二人そろって主をなんだと思っているんだ。

 

「ッ!…お前はわかっているのか?俺たち下僕にとって主のおっぱいがどれほど遠いものかを」

 

「わかってる。でも届かないものじゃない。できる。俺たちならきっとできる!事実、俺は部長の乳を触ったことがある!」

 

「そんなことが…!?」

 

触ったことあるのかよ!お前もう卒業してしまったのか…!?俺や天王寺と遠く離れた世界に行ってしまったのか!?

 

「ああ、俺たちはダメな『兵士』かもしれない。でも二人ならできる、二人なら夢を叶えられる!一緒に頑張ろうぜ!!」

 

「うう…兵藤!」

 

再び涙を流す匙が兵藤の手をがしっと掴み握手した。『兵士』たちの結束も深まったようだ。

 

大声での会話に奇異の視線を向ける客の視線が痛いが。

 

「あははは…」

 

「最低です」

 

「馬鹿なのか、お前ら揃って馬鹿なのか!?」

 

だが、木場の放つ雰囲気が少し和らいだ気がする。…腹を割って話すことも、時に大切だな。

 

 

 

 

 

 

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「次の休みの日、楽しみだな」

 

数日後の学校、頬図絵を突きながら天王寺と談笑していた。

 

「せやね、小猫ちゃんも来るとは思わんかったな。今回は意外なメンバーやなぁ」

 

今週末、俺は天王寺たちとカラオケやボーリングに行く約束をしている。

そのメンツは俺、天王寺、上柚木、兵藤、アルジェントさん、木場、松田、元浜、そして同じクラスの桐生さん。

 

かなりの大所だと話を聞いた時はたまげたものだった。だが一つ問題がある。

 

「木場はちょっと雲行きが怪しいけどな…」

 

「何かあったんか?」

 

「いや、最近体調が悪いんだと」

 

「へぇー」

 

本当のことを言えないので適当に誤魔化す。今週末までにエクスカリバーの一件を終わらせられるといいのだが…。

 

ふと近くで集まって雑談している女子グループに目をやる。

 

 

 

「アーシアは何を歌うの?」

 

「私は讃美歌を歌おうかと…」

 

「讃美歌ってカラオケに入っているのかしら」

 

机を囲って話をしているのはアルジェントさんと上柚木、橙色の髪を三つ編みにして眼鏡をかけた女子、桐生さんの三人だ。アルジェントさんの転校初日、桐生さんは持ち前の積極性を活かしてアルジェントさんに話しかけてそう時間をかけずに友達になった。

 

上柚木は家がキリスト教を信仰していることもあってかなりアルジェントさんと話が合うみたいだ。休み時間は大体この三人でグループを作って雑談している。

 

こちらの視線に気づいた桐生さんがじろりと一瞥した。

 

「…何じろじろ見てんのよ、天王寺はそんなに綾瀬っちのことが気になるの?」

 

頭をかいて天王寺は笑って答えを誤魔化した。

 

「い、いやぁまさか!」

 

その答えに上柚木がちょっと寂しそうな表情を浮かべた。

 

「…」

 

「あ、でもちょっと気になるかなー!」

 

天王寺の訂正にどこか満足したように上柚木は薄っすらと笑みを浮かべた。

 

やっぱ上柚木って天王寺のこと好きだよね?あれ?なんで同じ幼馴染の兵藤や天王寺にはフラグがたっているのに俺だけないんだ…。そう考えると悲しくなってきた。このことはいったん忘れよう…。

 

今度は桐生さんが天王寺の股間を一瞥し、ニヤニヤと笑い始めた。

 

「へぇ…まあお似合いだと思うわよ、あんたはサイズもそこそこあるしきっと満足するわ」

 

「ちょっ!桐生さん!?」

 

顔を赤くした上柚木が桐生さんを止めに入った。さらりと下ネタをぶっこんできたな今。

 

桐生さんはズボン越しでも男なら誰もが持つエクスカリバーのサイズを見ただけで測れるのだとか。大きくなった方も。やはり桐生さんは変態三人組寄りの存在なのでは…?

 

そう言われた当人は…。

 

「へ?サイズ?お似合い?何の話?」

 

全く話の意味を理解してないらしい。

 

「あぁ…これは手ごわいわね。綾瀬っち、諦めないで」

 

桐生さんはため息をつき、上柚木の肩をポンポンと叩き励ました。

 

「二人は何の話をしとるんや?」

 

「…まあ、サイズが何を指しているのかは教えよう」

 

そっと耳打ちし、この鈍感野郎に何のサイズか真実を教えてやった。

 

「え!?ああ、そう言えば!悠くんは先月10日くらい休んでたよね!!?」

 

こいつ無理やり話をずらしやがった…!

 

「ん、まあ前にも言ったと思うけど検査で病院に行っててな」

 

一応合宿期間中の欠席は表向きの理由は検査入院ということになっている。学園の上と通じているグレモリー先輩がでっち上げたんだとか。いい口実を考えたものだ。

 

「ホンマに病院に行ってたんか?なんか前と比べて体つきがえらいようなってたで?イッセー君もおんなじやで?」

 

「ギクッ」

 

「あ!今ギクッって言いおった!やっぱ嘘やな!?」

 

天王寺がここぞとばかりに追及し始めた。こいつ上柚木のことになると鈍感なのにどうしてこういうときは鋭いんだよ!

 

「ええいわかったわかった!正直に話すから耳貸せ」

 

本日二度目の耳打ちをする。

 

「実はオカルト研究部に誘われて合宿に行ってたんだよ」

 

「ええっ!?あのグレモリーせんぱ…」

 

驚いて大声を出そうとした天王寺の口を慌てて塞ぐ。

 

「バカッ!大声で言うな!」

 

「うぐもぐぐ……」

 

ある程度塞いでから解放した後、三度目の耳打ちで釘を刺す。

 

「兎に角、これは誰にも言うなよ。イイネ?」

 

「サー・イエッサー…」

 

どすの効かせた声に小さな声が返ってきた。…こんな感じで上柚木の思いに気付いてやればいいのに。

 

 

 

 

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放課後、町の公園に集合した俺たちエクスカリバー破壊団は公園に集まると神父服を制服の上から纏い町をうろつき始めた。俺には関係ないがこの神父服は悪魔の力を抑える力があり、向こうに悪魔だと悟られにくいようになっている。

 

今まで人気のない箇所を中心に回っているが収穫はない。今日は町はずれの寂れた教会に来ている。レイナーレが使っていた教会と比べると幾分か小さい。

 

「やっぱこれかっこいいな」

 

自分の神父服を見下ろしながら呟く。

 

「いやー、一度はこういうの着てみたかったんだよね」

 

前世ではコスプレしたいと思ったことはなかったが異世界に来た以上、こういったかっこいい衣装に身を包んでみたいという気持ちがあった。まさかこういう形で叶うとは。

 

「僕はあまり神父服は好きじゃないんだけどね」

 

複雑そうな顔で感想を述べる木場。やっぱり昔のことで神父を恨んでるよな。

 

「ああ、ごめん木場。そういう気はなくて」

 

謝罪を述べたその時だった。皆が一斉に歩みを止め、警戒の態勢に入った。

俺もドライバーを出現させ、攻撃に備える。

 

「…皆」

 

目をせわしなく動かし気配の出所を探る。宙に跳び出した影を最初に見つけたのは匙だった。

 

「上だ!」

 

一斉に視線が上に向く。

 

〈BGM:APPROACH(機動戦士ガンダムOO)〉

 

「──────!」

 

神父服を纏う銀髪の少年が目をぎらつかせながら凶刃を振り下ろしてきた。

散開して俺たちは初撃を躱した。跳び退きざまに眼魂をセットしレバーを引く。

 

「変身!」

 

〔カイガン!スペクター!レディゴー!覚悟!ド・キ・ド・キ・ゴースト!]

 

スーツが展開し、纏ったパーカーのフードを払い変身完了する。

 

饒舌に銀髪の少年がしゃべりだした。その手には銀が煌めく美しい剣が握られていた。

 

「フリードか!」

 

「おんやぁ?これはこれはイッセーくんではあーりませんか!ひっさしぶりだねぇ…嬉しいねぇ…殺したいねぇっ!!」

 

…スターバーストストリームしそうな声だな。こいつがフリード・セルゼンか。話に聞いた通りのイカレ具合だな。

 

最初のおどけた調子が一転、狂気の笑い声を上げながら兵藤に向かう。

 

それを風を纏う魔剣が止めた。肉を切る音でなく、金属同士のぶつかる甲高い音が響いた。

 

「悪いけど、君の相手は僕だ」

 

我らが『騎士』木場が刃を止めたのだ。

 

「イケメンナイト君も久しぶりでございますなぁ!!おや、見ない顔もいるねぇ、新しいお仲間さんかな!?」

 

なめるようにフリードが俺と匙を見る。木場とつばぜり合うなかでそれをするとはまだまだ余裕があるのか。

 

「よそ見する余裕があるのかな!」

 

木場が振り払うようにつばぜり合いを止め、次々に剣技を振るう。それを何ら苦にすることなくフリードは躱していった。時に切り結び、魔剣と聖剣が甲高い音を立てる。

 

速い。木場の速さはよく知っているがフリードはそれを上回る速さだ。これが元ヴァチカン法王直属のエクソシストの力なのか。なら奴の注意が木場に向いている間に策は打たせてもらおうか。

 

「おい兵藤、紫藤さんたちを呼べ!」

 

「わかった!」

 

俺の指示を受けて慌ただしく兵藤が携帯を操作する。

 

「俺も!」

 

ガンガンハンドを召喚し、フリードの足元を狙って銃撃する。切り結びながらもステップを踏んで躱された。

 

相手の動きを見て分かった。今の俺じゃこいつには勝てない。接近戦に持ち込んでもこいつの剣技に圧倒され聖剣にぶった切られるだけ。遠距離からの攻撃はあの神速ですべて躱され相手の間合いに入れられてしまう。今ある眼魂で奴に対応できるものはない。

 

ムサシがあれば話は別だが。この場で真正面からやりあってあいつに勝てる望みがあるのは木場くらいだろう。だが木場だけの力では勝利には届かないだろう。速さと武器のレベルはフリードが上。俺たちがいかにあいつをサポートし、この差を埋めるかに全てがかかっている。

 

だから今の俺にできるのは、フリードの体力を少しでも削ること!

 

「伸びろライン!」

 

隣で匙が腕に黒いトカゲのようなフォルムの籠手を出現させる。トカゲの口から長い舌がまっすぐフリードの左手に向かって伸びると、巻き付いた。

 

すぐさまフリードは腕に巻き付いたラインと呼ばれた舌を聖剣で切り落とそうとする。が、一向に切れなかった。

 

「チィ!なんだこいつ切れねぇ!」

 

毒付きながらも木場の剣技を聖剣で弾く。

 

「こいつは神器、『黒い龍脈《アブゾーブション・ライン》』だ。一応ドラゴン系の神器さ!これでお前は逃げられない!」

 

兵藤と同じドラゴン系の神器。兵藤の神器にはその昔、神と魔王に喧嘩を売りバラバラにされてしまった『二天龍』と呼ばれるドラゴンの一匹が封印されているという。あの籠手にもすごいドラゴンが封印されているのだろうか。

 

「ハァッ!」

 

木場が今までよりも一層のスピードを伴って剣を振るう。

 

「チッ!」

 

フリードは跳躍し、教会の屋根に乗ると翼を生やし追撃せんと上がってきた木場と再び切り結び始めた。

 

激しく剣がぶつかり合う中、フリードが語り掛ける。

 

「おやおやぁ、ぎんぎらぎんにぎらっぎらな目をしてるねぇ!そんなにエクスカリバーが憎いかい!?ええそうかい!?」

 

「黙れ…!」

 

まだまだ余裕の表情を見せるフリードと対象に焦りを見せ始めた木場。

 

不意にフリードが力強く聖剣を振るい、魔剣に叩きつけた。

 

「ほぅらぁ!!」

 

魔剣がガシャンと音を立てて砕けた。木場は己の剣が破壊されたことに目を見開き驚いた。

 

「なっ!」

 

「そんなパチモンの魔剣にエクスカリバーの相手は務まりませんぜ?」

 

「ッ…!」

 

残った魔剣の柄を投げつけるが、フリードは聖剣を軽く振りぬき弾かれてしまう。

その間に地面から魔剣が突き出し、それを引き抜いて再び打ち合い始めた。

 

「木場!」

 

銃撃で援護しようとするが、狙いのフリードの動きに変化が現れる。

 

木場と打ち合う中でじりじりと向きを変え、俺から見てフリードの姿が木場の背に隠れる形になってしまったのだ。これでは間違って木場を撃ってしまいかねない。

 

「こうなったら…!」

 

懐から群青色の眼魂を取り出し、スイッチを押す。

しかしいつものように起動する様子を見せなかった。

 

「っ!?ダメなのか…!?」

 

俺がまだ『答え』を見つけてないからか?打つ手なしの現状に歯噛みする思いだ。

 

「裕斗先輩を頼みます!」

 

突然、隣の塔城さんが兵頭を持ち上げ、投げる態勢に入った。

 

そのままブンと投げると、勢いよく兵藤が木場に向かって飛んで行った。

 

「木場ァァァ!受け取れェェェ!!」

 

飛んでいきながらも、籠手をつけた手を伸ばす。

 

「イッセーくん!?」

 

〔Transfer!〕

 

投げ飛ばされた兵藤が木場に触れると、聞きなれぬ音声が籠手から鳴った。

同時に木場のオーラがドッと増した。

 

「ありがたく使わせてもらうよ!行け!『魔剣創造』ッ!!」

 

木場の咆哮と共にありとあらゆる種の魔剣が地面から突き出す。徐々に魔剣の領域は広まり始めた。

 

「ヒャァッ!無駄無駄!俺様の剣は『天閃の聖剣《エクスカリバー・ラピッドリィ》』!これの使い手の動きはソーラピッドさ!!」

 

フリードは焦る様子もなく嬉々として次々と突き出した魔剣を砕き、徐々に距離を詰める。

 

今までの神速は聖剣の特性だったのか。奴の剣技が全く見えない。それほどまでに奴のスピードは聖剣の力により増していた。

 

「くそっ!木場!」

 

足を止めようとフリードに向けて銃撃するが奴の神速の剣技によって軽々と弾かれてしまう。

 

「死んねぇぇ!!」

 

勢いよくエクスカリバーを振り上げ、一気に下ろそうとした瞬間。

突如としてフリードの態勢がぐらりと崩れた。

 

「うっ…!力が…!?」

 

奴自身も自分の体の変化の理由がわかっていないようだ。

 

間一髪だった。あのまま行けば間違いなく木場はやられていた。しかしこれは…?

 

内心の疑問に答えたのは匙だった。

 

「俺の神器はラインを繋いだ相手の力も吸い取れるのさ!それっ!」

 

力一杯に腕を振るうと、ブォンと音を立ててラインに繋がれたフリードが宙に飛び出し地面にその体を強く打ち付けた。

 

「のわっ!」

 

「木場!こいつは危険だ、エクスカリバーより先にそいつからやってしまえ!!」

 

「そうさせてもらうっ!」

 

木場はとどめの一撃を与えんと徐々に距離を詰める。

 

「おっと、俺っちを倒してもいいのかい!?奪った聖剣の使い手の中で最強は俺様なんだぜ?俺を殺せばもう満足な聖剣使いとのバトルはできなくなっちゃうよー!?」

 

「君の軽口に付き合う暇はないよ!」

 

木場が追撃を加えようとしたその時。

 

〈BGM終了〉

 

「『魔剣創造』か、使い手の技量に応じて無類の力を発揮する神器だな」

 

突如として第三者の声がこの場に響く。皆の注意は一斉にその第三者へと向けられた。

姿を現したのは神父服を纏う初老の男。

 

「…バルパーのじいさんか」

 

フリードのつぶやきに皆の表情が驚愕の色に彩られる。

 

あいつがバルパー・ガリレイ。『皆殺しの大司教』と呼ばれた男か。

その男により激しい敵意を持って木場が問う。

 

「お前がバルパー・ガリレイか!!」

 

「そうだ」

 

問いにバルパーは肯定の意を示した。

今度はフリードがイライラの感情を込めながら問うた。

 

「おいおいじいさん!このトカゲのベロが切れなくてチョーうざいんすけど!」

 

「体に流れる聖剣の因子を剣に込めろ。自ずと切れ味は増す」

 

「へいよ!」

 

フリードの持つ聖剣の輝きが増し、それを振るうと今まで全く切れる様子の無かったラインがいともたやすく切られてしまった。

 

「なっ!」

 

引っ張っていたラインが切られ、匙がよろめく。フリードは解放された腕を確かめるとニヤリと笑った。

 

まずい、このままじゃ逃げられる!

 

「んじゃ、あばよ!」

 

意気揚々とポケットに手を突っ込んだ瞬間。

 

「ハァッ!」

 

周囲を囲む森の闇から矢庭に閃光が煌めき、装飾の施された長剣を振るった。銀髪のエクソシストはそれに素早く反応し己が聖剣でそれを防いだ。

 

「逃がさんぞ!フリード・セルゼン、バルパー・ガリレイ!」

 

「おおっとぉ!聖剣使いの乱入だぁ!」

 

乱入したのはゼノヴィアさん。歯を食いしばりながらゆっくりと長剣を押し込んでいく。

 

やつは不意打ちを鬱陶しく思うどころかむしろ喜んでさえいた。

 

「…ん?あれ?」

 

俺はさっきの出来事と同時にある変化にようやく気付いた。

俺の様子の変化に気付いた兵藤が問いかける。

 

「どうした紀伊国!?」

 

「…わかった」

 

「?何がだ?」

 

「ゼノヴィアさんの言葉だよ!あの人が何言ってるのかはっきりわかった!」

 

今まで微塵も理解できなかったゼノヴィアさんの言葉がはっきり日本語として聞こえた。

 

思えばあのフリードも流暢な日本語で喋っていたのにまるで気が付かなかった。本当はあのフリードも俺の知らない外国語をペラペラ喋っていたのだろう。ゼノヴィアさんが来て初めて気付いた事実だ。

 

恐らくは神器の力か。こんな便利な翻訳機能も付けてくれたのかあの駄女神は。眼魂はばら撒いたくせに変なところに気を使うな…。

 

「イッセーくん、紀伊国君、おまたせ!」

 

「イリナ!」

 

更なる応援も駆け付けた。形勢が逆転し始めた。

 

「貴様ら反逆の徒はまとめて私が断罪してくれるッ!」

 

長剣を向け、堂々と宣言すると疾風のごとき速さで一気に銀髪のエクソシストへと突っ込んでいった。

 

フリードは再び剣を構え…。

 

「戦うと見せかけてのバイなら!」

 

「…っ!」

 

蛇のごときスピードでポケットから小さな球を取り出し地面に叩きつけた。

すると眩い光が辺り一面を照らし、俺たちの視界を一気につぶした。

 

光が晴れるころには狂人と大司教の姿はとうに失せていた。

 

「逃げられた!」

 

「まだだ、追うぞイリナ!」

 

紫藤さんが頷き、ゼノヴィアさんとともに教会の向こうへと馳せていった。

 

「僕も!」

 

木場もその後に続いた。

 

「俺たちもお」

 

意を決し俺たちも駆けださんとしたその時。

 

「これはどういうことかしらイッセー?」

 

「力の流れがおかしくなっている思ったら…説明してもらいましょうか、匙」

 

静かに怒りをにじませた声が俺たちの足を止めた。

声の主は言うまでもなく、グレモリー先輩と会長さん。

 

「ぶ、ぶぶぶぶ部長!?」

 

慌てふためく兵藤。塔城さんはバツが悪そうに顔をやや伏せた。

 

「終わった……」

 

匙に至ってはうなだれ絶望のオーラを放ち始めた。…そんなに怖いか。

 

だがまあ、俺にはあのお二方と主従関係はない。この場から退散しようと歩を一歩進めるが。

 

「紀伊国君、あなたからもじっくり聞かせてもらうわ」

 

「Oh…」

 

有無を言わせぬ声色で止められてしまった。そううまくは行かせてくれないらしい。

 

 

 

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「はぁ…あなた達ね」

 

教会を離れた俺たちは町の公園で正座と事情説明をさせられていた。。

 

匙、俺、兵藤、塔城さんの順に並んでいる。グレモリー先輩と会長さんの表情には怒りと呆れの色が混ざっている。

 

「匙、あなたは本当に困った子ですね」

 

「「「「すみません…」」」」

 

揃って謝罪の言葉を述べる。申し開きのしようもない。

 

「裕斗はゼノヴィアやイリナと共にバルパーを追っていったのね?」

 

「はい…多分あいつは連絡を寄こさないでしょうね…」

 

恨みに恨んできたエクスカリバーを目前にした木場は今復讐の権化と化しているだろう。きっと俺らより自身の復讐を優先するはずだ。先輩が塔城さんに問いかける。

 

「…小猫、どうしてこんなことを?」

 

「裕斗先輩がいなくなるのは寂しいです…」

 

寂し気に顔をうつむかせる塔城さん。それを見たグレモリー先輩はため息をついた。

 

「あなたたち、自分のしたことの重大さを理解しなさい。下手すれば悪魔と教会の関係を大きく揺るがすことなのよ」

 

「「ハイ、すみませんでした部長…」」

 

「…馬鹿ね、あなたたち」

 

グレモリー先輩は二人を優しく包み込むようにそっと抱き寄せた。

 

やっぱり先輩って母性があるなーと思った合宿期間と今日。数秒その状態を続けた後、今度は俺に問いかけた。

 

「あなたは何故彼らに協力したのかしら?」

 

「俺は自分の力と向き合いたくて…」

 

俺の返答に先輩は呆れの混じったため息をついた。

 

「ハァ、それなら他にも方法はあったでしょうに…」

 

突然、隣から匙の悲鳴が聞こえた。

 

「イタァイッ!」

 

「悪い子にはお仕置きです!」

 

「ぎゃああっ!すみませんでした会長!ですから許してぇ!」

 

隣で会長さんに尻を突き出した匙が猛烈なビンタを尻に受けている。叩く会長さんの手にはほのかな青い光が宿っている。その威力は匙の悲鳴が物語っていた。

 

…まさか魔力を込めたビンタ!?

 

「…さて、あなたたちにも一発入れておこうかしら。イッセー、勝手な行動をした罰よ」

 

グレモリー先輩が片手に淡い赤い光を宿した。その目は兵藤だけを向いていた。

怯えた声を出し、兵藤が問うた。

 

「ひぃっ!ぶ、部長!木場はどうするんですか!?」

 

「使い魔を捜索に出したわ、発見次第皆で迎えに行きましょう。さあ、イッセー尻を出しなさい!尻たたき百回よ!」

 

「ちょっ!部長!?」

 

塔城さんに目を向けると今度は俺に縋るような目線を送ってきた。それに俺は笑顔で答えた。

 

「ほら兵藤、早くやれよ。痛みは一瞬だぞ?」

 

「紀伊国ィ!俺を売ったのか!?」

 

こいつはときどき女子剣道部の覗きとかやってるみたいだから日頃の悪行の罰も兼ねて受けた方がいいと思う。

 

「何を言っているの?あなたも尻を出しなさい」

 

…は?

 

「え、な、何故にですか!?」

 

俺はこいつの行動に付き合いこそした。だが同じ塔城さんは罰の対象になっていない。匙は主たる会長さんが許さなかったみたいだが。思い当たる理由は全くない。

 

「私の下僕の裸は高くつくわよ?」

 

「あっ」

 

言われて思い出した。先日見た塔城さんとアルジェントさんの裸。後になぜこうなったか塔城さんに尋ねたら兵藤が紫藤さんに放った『ドレスブレイク』なる女性の衣服のみを弾けさせる技がフレンドリーファイアしてしまって結果だと言った。

 

「って兵藤ォォォ!!お前のせいじゃないかァァァ!!」

 

「紀伊国先輩も反省した方がいいと思います」

 

救いはなかった。当の兵藤は宙に目を泳がせて下手な口笛を吹いていた。

 

「いや、ちょ!魔力を込めた尻たたき百回なんて悪魔はともかく人間の俺がそんなことされたら死にますよ!ね、そうですよね!?」

 

「安心しなさい、その点を考慮して加減はするわ」

 

「ぎゃああああっ!会長オオオオオ!!」

 

近くから聞こえる匙の悲鳴がより一層俺の恐怖を煽る。会長さん容赦ないな…。

 

「加減してもダメなものはダメでしょう!?」

 

恐怖をこらえながらも必死に抵抗を続ける。

 

「勘弁なさい。あなたもさっき言ったじゃないの、痛みは一瞬だ、てね」

 

俺の台詞を利用されてしまった。もう俺には罰を受ける選択肢しかないのか。

 

「ウウ…ハイ…」

 

渋々尻を突き出す。俺の隣で兵藤が爽やかな笑顔とサムズアップで語りかけてきた。

 

「紀伊国!俺と一緒に地獄に落ちようぜ!」

 

クソォ!尻を叩かれるのはお前だけじゃないのかよ!ナズェダ!ナズェ!!

 

「兵藤ォォォォォ!!」

 

「さあ、始めるわよ!!」

 

その後、悲痛な叫び声が夜の公園に響き渡ることになった。

 

 

 




レーティングゲームで大暴れしたからか今回の悠は大人しいです。
まあまた大暴れしますけど。




次回、いよいよ決戦。

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