ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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遂にUAが10000を突破しました!
こんな拙作を読んでいただきありがとうございます。
今後の予定としては三章最終話→ヒロインの絡みと新キャラ紹介も兼ねた外伝→設定→特別企画になっています。
これからも『ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼』をよろしくお願いします!
真DxD読みました。今後が楽しみな展開ですね。本戦は第4、5、7試合が見たいなと思っています。DXでやらないかな。

ついに黒白パンドラパネルとロストボトルのセットが…。ブラッドの再現は大変になる
なぁ…。

Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は…
S.スペクター
11.ツタンカーメン
12.ノブナガ
13.フーディーニ


第20話 「地獄の番犬デカm…ケルベロス」

「お兄ちゃん、テストの結果はどうだったの?」

 

ショートカットにした黒髪を持つ俺の妹、凛が頬図絵を突きながら先日のテストの話題を振ってきた。

 

コップの麦茶をあおって、記憶の引き出しを引っ張りながら質問に答える。

 

「あー、まあイマイチってところかな」

 

俺の返事にむすっと頬を膨らませて

 

「もうお兄ちゃんったら、いっつもテストの結果をそうやって誤魔化すんだから!」

 

その様子に我ながらかわいい自慢の妹だなと思う。俺よりも勉強ができて、頭もいい。

クラスの隅にいる俺と違って凛はクラスの人気者だ。

 

「いや誤魔化すっていうか本当にそうなんだが」

 

「本当にー?」

 

「本当だよ」

 

「そういえば」と話題を変える。

 

「お前、時間は大丈夫なのか?待ち合わせに間に合わなくなるんじゃないのか?」

 

今日は確か凛が友達と遊ぶ予定を入れていたはず。俺の言葉にハッとした凛が壁掛け時計を見る。

 

「あっ、もうこんな時間!」

 

ガタっと椅子から立ち上がってバッグを肩にかけ、玄関に向かった。

 

テーブルに凛のスマホが無造作に置かれているのを認めた俺は慌ててそれを手に取り玄関にいる凛の下へ駆け寄った。

 

「ほら、携帯忘れてるぞ」

 

スマホを手渡すと「ありがと!」と礼を返した。

靴を履き終えて玄関を開けると外に出ていった。

 

「それじゃ、行ってきまーす!」

 

「行ってらっしゃい」

 

優しく笑いながら笑顔で手を振ってくる妹を見送った。

 

これは俺が妹と過ごした最後の記憶。それから一時間後、悲劇のニュースが俺の下に舞い込んだ。

 

 

 

 

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「……」

 

罰ゲームを終えて帰宅した俺は一通り家事を済ませた後、テーブルに頭をのせて舟を漕いでいた。疲れもたまって、風呂に上がってすぐに眠気に襲われてしまったのだ。

 

「シャー!」

 

「……」

 

「シャー!」

 

「!!?」

 

右耳の鋭い痛みが俺の意識を強制的に覚醒させ、一気に俺の瞼を持ち上げた。

 

「痛った!何するんだ!?」

 

視界に移ったおそらく噛みついたであろう相棒を追及せんとするが、当の相棒はインターホンのある方向へと首をブンブンとふった。

 

「あ?」

 

インターホンから音が鳴っている。あれに出ろということか。確か今日は配達物はなかったと思うしこんな夜に誰が来たというのだろうか。

 

「痛っつ…尻が痛い…」

 

今だ痛みがうずく尻を抑える。手加減してくれると言ってたけど容赦なかったな…あの人。

 

インターホンのスクリーンを確認するとそこには見知った顔が映りこんでいた。

 

「兵藤?」

 

通話ボタンを押す。今の俺は尻を叩かれ、夢見を邪魔されて機嫌が悪い。

そのためいつもより低い声で応じてしまった。

 

「何だ、エクスカリバー破壊団は解散したんじゃなかったのか?」

 

『話は後だ、急いで学校に来てくれ!』

 

真に迫った兵藤の声にびっくりしながらもなんとか返事をする。

 

「は、はぁ…」

 

急かされるままに俺は制服に着替えると、玄関を出て学校に向かった。

 

 

 

 

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「で、一体何の用ですか?」

 

急いで学校に駆けつけてみると校門の前に見慣れたオカルト研究部メンバーと会長さんと匙たちが集まっていた。

 

初めて見る人も数名いた。一体誰だろう?質問に答えたのはグレモリー先輩だった。

 

「この学校全体を、生徒会のメンバーが結界で覆ってるわ」

 

「結界?」

 

改めて学校を見るが特に変わったところはない。多分人間には見えないけど悪魔には見えるようになっているんだろう。神器がなければ俺はただの人間だからな。

 

生徒会のメンバーって、もしかして会長さんと話している人たちだろうか。匙や会長さん以外のメンバーを見るのは初めてだ。

 

「どうしてそんなことを?」

 

俺は結界の理由を先輩に訊いた。

 

「コカビエルが現れたのよ。フリードとバルパー、奪われた聖剣も全て一緒よ」

 

「コカビエル…!」

 

確か堕天使の組織、グリゴリの幹部だったか。そしてこの一連の事件の黒幕でもある。バルパーやフリードと一緒に表に姿を現したということは何かを起こそうとしているということだろう。

 

「コカビエルが本気を出せばこの町なんて簡単に消し飛ぶわ。彼は神や魔王と戦い生き残った強者よ。これは少しでも被害を抑えるための処置よ」

 

…ここでコカビエルが暴れるということか。そしてここにいるオカルト研究部の面子で戦う。つまりは決戦だ。

 

この場にいないメンバーを思い出し、その行方を兵藤に尋ねた。

 

「おい兵藤、木場達はどこにいるんだ?」

 

「わからない、でもイリナがフリードにやられてエクスカリバーを奪われてしまったんだ」

 

「紫藤さんが!?」

 

フリードとの戦いの後、木場とゼノヴィアさん、紫藤さんは3人で逃亡したフリード達の行方を追っていった。

 

まさかこんなことになるなんて…。残る二人の安否も確認したいところだ。記憶はないが幼馴染という人物の負傷に心が痛んだ。

 

「幸い、アーシアのおかげで一命は取り留めた。今は会長さんの家で安静にしている」

 

無事を知り取り敢えず安心した。

 

「そうか。エクスカリバーって…あの日本刀がか?」

 

旧校舎の裏で二人を見た時、紫藤さんが使っていたのは紐に変化した日本刀。ヨーロッパのエクスカリバーがこの極東の国の刀と同じ形状をしているとは考えにくいが。

 

兵藤とは違う静かな声が俺の疑問に答えてくれた。

 

「あのエクスカリバーは『擬態の聖剣《エクスカリバー・ミミック》』。どんなものにも形を変えられます」

 

隣を見ると会長さんがいた。眼鏡をクイッと上げて続ける。

 

「話は変わりますが私たち生徒会は結界の維持に努めます。…ですが学園に被害が出るのは避けられないでしょうね」

 

会長さんは学校の方へと目を向けた。忌々し気な視線は恐らくあの中にいるコカビエルに向けたものか。

 

…会長さんはそれだけこの学校が心配なんだな。なるべく校舎を壊さないように戦えないものか。

 

「私たちオカルト研究部は結界の中でコカビエル達と戦うわ」

 

先輩の言葉にオカルト研究部の皆が頷く。その様子を見ていた会長さんが心配そうな声色で先輩に提案した。

 

「…リアス。あまり言いたくはないのだけど勝ち目はほとんどないわ。今からでもルシファー様に」

 

「それなら既に打診していますわ。加勢の到着は一時間後ですわ」

 

「朱乃!」

 

姫島先輩の報告に先輩が声を上げた。サーゼクスさんが来るのか!魔王が加勢に来てくれるなんてこれほど心強いものはない。

 

「リアス、先月のお家騒動はイッセー君のおかげでどうにかなったけどこれはもうあなた個人で解決できるレベルを超えているわ。魔王様の力を借りましょう」

 

姫島先輩がいつものニコニコした顔ではなく、真に迫った表情で先輩に詰め寄った。

 

ライザーとの先輩の婚約は先月の婚約パーティーでサーゼクスさんの許しを得た兵藤とライザーの決闘の結果、破談になった。

 

姫島先輩の説得に先輩は渋々首を縦に振った。

 

「…わかったわ。生徒会はディフェンス、私たちはオフェンスよ。加勢が到着するまでの間、コカビエルの注意を引き付ける。これはゲームじゃない、死戦よ。それでも、皆生きて帰りましょう!!」

 

「「「はい!!」」」

 

声を揃えてオカ研の皆が答えた。

 

気合は十分みたいだ。…ゲームではなく死戦か。ゲームのように負けても転移されて治療を受けられるのではなく、実戦は本当に死んでしまう。そう思うと緊張に顔がこわばった。

 

このタイミングでオカルト研究部にも生徒会にも属さない俺の役割を訊く。

 

「あのー、俺はどうすれば?」

 

「あなたももちろんオフェンスよ」

 

先輩がさも当然というように答えた。

 

「デスヨネー…」

 

ふと先輩が手元に小型の魔方陣を展開し、見慣れた形状のアイテムを取り出した。

 

「忘れていたわ、これを使って頂戴」

 

手渡されたのは合宿の時に借りた4つの眼魂。

 

ありがたい。この4つの眼魂があればかなり戦いやすくなる。

 

「わかりました、やってみます…そういえば」

 

「何かしら?」

 

もう一つ、一番気になっていたことを先輩に訊いてみた。

 

「コカビエルって何でこの事件を起こしたんですかね?大戦で種の危機に陥ったのに何で勢力間の関係を悪化させるようなことを…」

 

先の大戦を経て、悪魔は魔王を、天使側は四大セラフを2人も失い、元々天使が堕天することで生まれるために勢力が他二つと比べて小さい堕天使は真っ先に手を引いていった。

 

エクスカリバーを強奪すれば天使側との関係悪化は免れないし、サーゼクスさんの妹の町で暴れたら優しくて妹思いのサーゼクスは黙っていないだろう。

これ以上の戦争は種の危機もあって誰も望まないはず。

 

「それこそが奴の目的なのよ、奴は戦争を起こすつもりよ」

 

「戦争を…!?」

 

部長の返答は予想を裏切るものだった。

 

「教会からエクスカリバーを強奪して天使側の関係を悪化、魔王様の妹たる私の町で暴れてお兄様を引きずり出すつもりなの」

 

「サーゼクスさんを引きずり出す…」

 

まさか戦争目的でこんなことをするとは。

 

…もしかしたら俺たちがサーゼクスさんを呼ぶように仕向けたのかもな。そうするしかなかったとはいえ奴の思惑通りになってしまったという訳だ。

 

「奴が言うには先の大戦が中断されて不完全燃焼ということらしいわ…迷惑な話よね、個人の欲のために世界を巻き込もうだなんて」

 

先輩が物憂げな視線を学校に送る。

 

…戦争狂の堕天使幹部か。ホント、恐ろしい奴がこの町に来たものだ。

 

「紀伊国君、改めてお願いするわ…奴の企みを止め、戦争を起こさせないためにあなたの力を貸して頂戴」

 

先輩がそっと俺の手を両手で握る。真っすぐな視線が俺を捉えて離さない。

 

…ここまで来て、引き下がれるかよ。

 

「…俺なんかがどこまで皆の役に立つかはわかりませんけど、頼まれたからにはやってみます」

 

「…ありがとう」

 

安堵の息を漏らしながら先輩が礼を言った。

 

「紀伊国」

 

後ろから声をかけられ、振り返ると匙がいた。

 

「俺は一緒に行けないけど、頑張れよ。後は任せた」

 

匙が肩をポンと叩く。俺は微笑みながら自分の尻を指さしながら返事をした。

 

「ああ。…そうだ、尻を労れよ」

 

「それはこっちのセリフだっての」

 

決戦前の他愛もないやり取り。でもこの軽口で幾分かは緊張がほぐれた。

いよいよ、このエクスカリバーを巡る事件もクライマックスだ。

 

 

 

 

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正門から学校に侵入した俺たちは異様な光が見える校庭へと走った。

 

校庭にたどり着くとそこには異様な光景があった。

校庭一面に魔方陣が描かれており、その中央には4本の剣が宙に浮いている。

うち2本は見覚えがある。日本刀の形をしたものは紫藤さんが使っていた『擬態の聖剣』だ。そしてもう一本はフリードの『天閃の聖剣』。ということはあそこにあるのは全部エクスカリバーか!

 

その近くに、バルパーの姿もあった。

 

「…あいつ、一体何を…?」

 

「四つのエクスカリバーを一つにするのだ」

 

〈BGM:時空竜 召喚(遊戯王ZEXAL)〉

 

兵藤の呟きに応えたのは天からの声。皆がそろって空を見上げた。

 

宙に浮く玉座に座る鋭い目つきと厳めしい顔つきを持つ堕天使の男。

装飾の施されたローブを纏い、その背には10枚の黒翼がある。それだけで奴がどれほどの格か理解できた。

 

「あれがコカビエル…」

 

堕天使幹部にして、この事件の黒幕。

奴がバルパーに声をかけた。

 

「バルパー、作業はどのくらいで終わる?」

 

「五分もかからんよ」

 

「そうか」

 

奴の視線がバルパーから俺たちに向いた。

 

それだけの動作にゾッとした。威圧感、プレッシャー。奴の持つそれがひしひしと感じられた。奴はがっかりと言った調子で話した。

 

「なんだ、魔王の妹君か。サーゼクスかセラフォルーのどっちか楽しみにしてたんだが」

 

「あなたの相手は私たちよ!」

 

その言葉の直後、何かが空を切った。

 

ヒュン!という音の後聞こえたのはドォォォン!という爆音。聞こえたのは体育館のある方角。

 

「ッ…!!そんな…」

 

爆発の跡には何も残らなかった。いや、その中心に先ほど投げられた槍が刺さっている。そのサイズはレイナーレやミッテルトが使っていたものとは比べ物にならないほど大きい。ただの一撃で、一瞬にして俺たちの体育館は消え失せてしまった。

 

これが堕天使幹部の力。過去の大戦で神や魔王と戦った猛者。次元が、桁が違いすぎる。今ので理解してしまった。今の俺たちが戦える相手じゃない。ライザーとは訳が違うやつとゲームではなく本当に命を懸けた実戦で戦わなければならない。本当に勝てるのか俺たちは?

 

そのバカげた力のスケールに足がすくむ。じりじりと後ずさる。呼吸が荒くなり始める。やつの一撃は、圧倒的な力の差を知らしめ俺の心に恐怖の楔を打ち込むには十分過ぎた。

 

…いや、一時間だ。それまで凌げば後はサーゼクスさんが何とかしてくれる!そう思って尻ごむ心を何とか立ち直らせる。

 

「つまらんな…まあいい」

 

コカビエルがパチンと指を鳴らす。

 

「どれ、まずは俺のかわいいペットたちと遊んでいけ」

 

地面にひときわ大きな魔方陣が展開すると、そこから何かが這い出てきた。

 

殺戮に飢えたぎらつく赤い目、黒い毛の生えた巨体、そして何よりも目を引くのは3本の犬の首。

 

3つ首の犬なんて俺の知る限り一つしかない。化け物が吼える。

 

「GRRRRR!!」

 

「首が三つある犬!?」

 

「地獄の番犬ケルベロス…!地獄から持ち出したというの!?」

 

ゲームでもお馴染みの地獄の番犬ケルベロス。それがゲームではなく現実に俺たちの目の前に現れたのだ。

 

「よくわかんないけどやばいってのはわかりました!」

 

「皆、行くわよ!」

 

「行くぜ、ブーステッド・ギア!」

 

〔Boost!〕

 

皆が戦闘態勢に入る。俺もそれに応じてドライバーを出現させる。

 

〈BGM終了〉

 

「イッセー、あなたは「譲渡」の力でサポートして頂戴。それと譲渡は何回使えるかしら?」

 

尻たたきの後に聞いたが兵藤はレーティングゲームの際、『譲渡』という力に目覚めたという。籠手の能力で倍加した力を対象に『譲渡』し、パワーアップさせる効果。

 

「俺のパワーアップも合わせると持って3、4回です」

 

「無駄撃ちはできないわね…わかったわ」

 

「GAR!」

 

3つ首は片やじっと様子を伺い、片や低くうなり、片や凶暴に吼える。

 

〈BGM:乱戦エクストリーム(仮面ライダーW)〉

 

〔アーイ!バッチリミロー!バッチリミロー!〕

 

スペクター眼魂を挿し、パーカーゴーストを出現させて変身待機状態に入る。

 

「変身!」

 

レバーを引いて、眼魂に秘められた霊力を解放する。

 

〔カイガン!スペクター!レディゴー!覚悟!ド・キ・ド・キ・ゴースト!〕

 

〔ガンガンハンド!〕

 

スーツとパーカーゴーストを纏って、フードを取り払うと早速ガンガンハンド 銃モードを呼び出して銃撃を開始する。

 

「GAW!」

 

命中した箇所から肉が爆ぜた様子はない。…硬いな。

 

「食らいなさい!」

 

「消し飛べ!」

 

雷と滅びの力の連撃を受けるがまだピンピンしている。かなりの頑丈さも備えているようだ。

 

「隙あり」

 

先の攻撃で先輩達に注意を向けたケルベロスに塔城さんがアッパーをかます。

ケルベロスの巨体がぐらつき、態勢を崩した。これを機に一気に攻め込もうとした矢先。

 

「フン」

 

パチン!とコカビエルが指を鳴らすと次々に魔方陣が地面に浮かび上がった。

そこから影が現れた。

 

「おいおい…」

 

さっき見たのと同じシルエット、唸り声、そして巨体。

 

「GAOOOOOO!!」

 

「GRRRRRR…」

 

「GAW!!」

 

現れたのは三匹のケルベロス。うち一匹は他の三匹よりも一際大きい。

一匹は兵藤とアルジェントさんの方向へと走っていき、もう二匹はこちらへと向かってくる。

 

…戦力を分散させて倒す気だ。ここはゴーストチェンジを駆使して抑えるしかないか!

 

「先輩!二匹とも俺がなんとか抑えるんでその間に他の二匹を倒してください!!」

 

「わかったわ!」

 

ガンガンハンドでこっちに向かってくるケルベロスの顔を狙って撃つ。

あまりダメージは通っていないようだが狙い通り注意が俺一人に向いた。

 

「こっちだ!」

 

先輩達から離れながらも銃撃を続け、こっちへとおびき寄せる。

先輩達が他の二匹を倒すまで持ちこたえるか、倒しさえすればいい。が…。

 

「GAW!!」

 

ケルベロスたちは容赦なく豪炎を吐く。回避に努めながらも舌打ちする。

 

「くそ…流石にこれは分が悪すぎ…ん?」

 

〈BGM終了〉

 

突然聞き覚えのある軽快な音楽が鳴りだした。音楽に聞き覚えのある俺は何事かと思い懐からコブラケータイを取り出し画面を開く。

 

するとスクリーンにある数字が映し出されていた。『1987』。見覚えのない番号だ。しかしこの軽快な音楽はメール受信の音。ということは。

 

「…これを入力しろってか」

 

画面が指示する通りの番号を入力する。

 

「のわっ!」

 

ケルベロスたちが待ってくれるはずもなく、鋭利な爪を振るい俺の命を刈り取らんとする。

 

最後の数字を入力して数秒の後だった。視界に暗い影が映りこんだ。その形は人の物でもケルベロスの物でもない。それは俺の後ろからケルベロスの方へとゆっくり進んでいく。影の正体を確かめようと空を見上げる。

 

そこにあったのは舟だった。ボロボロの白い帆『ミラージュマスト』を掲げ、船首には主砲『セイリングキャノン』を備えており船体の左右からはトカゲのような腕『レプティルアーム』が生えた異形のシルエット。

 

「あれは…キャプテンゴースト!」

 

〈BGM:ブレイヴ!(バトルスピリッツ ブレイヴ)〉

 

船は宙を航行しながら変形を開始し、フードを被ったイグアナにも似た姿『イグアナゴーストライカー』になった。重力に従って落下し、ドスン!と砂煙と轟音を立てると初陣を喜んでいるかのように吼えた。

 

「ガオオオ!!」

 

背を見ると、本来の『マシンゴーストライカ―』の代わりにマシンフーディーが搭載されている。

 

…折角のバイクなのに免許がないせいで完全に置物と化していたこいつがこんなところで活躍するとは。

 

「GRR!GAW!!」

 

それに呼応したこの場にいる4匹の中で一番大きなケルベロスがイグアナに向かって走り始めた。

 

「頼んだぞ、イグアナ!」

 

「ギャウギャウ!」

 

ポンポンと叩くと嬉しそうに唸り、自分に敵意を向けるケルベロスへと駆けだした。

 

「GAW!」

 

俺を忘れるなと言わんばかりにさっきまで相手をしていたケルベロスが爪を振るう。

間一髪、転がりながらもそれを回避する。

 

「うわっと!こいつでどうだ!」

 

早速借りた眼魂を使わせてもらおう。青い眼魂でライザーを圧倒したフォームに変身する。

 

〔カイガン!ニュートン!リンゴが落下!引き寄せまっか!〕

 

「GAW!」

 

ケルベロスが炎を吐く。冷静に斥力を操る右手を向け、フォースフィールドを発生させる。

 

「無駄」

 

斥力が豪炎を打ち消す。今度は左手の引力で校庭の砂を一気に引き寄せる。

 

「そいや!」

 

集めた砂を斥力で飛ばし、ケルベロスに浴びせる。目に入ったのか鋭利な爪で自分の目を掻き始めた。

 

その隙にケルベロスの腹下に滑り込むように入り、ドライバーのレバーを引く。

 

〔ダイカイガン!ニュートン!オメガドライブ!〕

 

増大した霊力が斥力となってケルベロスの腹にぶつかり、巨体が弾かれたボールのように空へと飛んで行った。

 

「GAW!?」

 

「打ち上げケルベロス、上から見るか下から見るか」

 

まだまだ遠のくケルベロスを見上げながら、ビリーザキッド魂へとゴーストチェンジする。

 

〔カイガン!ビリーザキッド!百発百中!ズキューン!バキューン!〕

 

「俺は下から撃つ」

 

召喚されたガンガンセイバー ガンモードがバットクロックと合体して銃口がせり出し、ライフルモードになる。

 

落下を始めたケルベロスが吐き出した炎を砲撃で相殺し、そのままドライバーにかざし、霊力を蓄え始めた。

 

〔ダイカイガン!ガンガンミナー!ガンガンミナー!〕

 

コウモリ型のグラフィックが出現し、標的をロックオンした。

それを見て、トリガーを引いた。

 

〔オメガインパクト!〕

 

あふれんばかりの茶色の霊力がケルベロス目掛けて真っすぐに放たれた。着弾すると大きく爆炎を上げた。

 

しかし、爆炎から腹に大きく傷を負ったケルベロスが姿を現した。なおも敵意をぎらつかせるケルベロスは落下を続ける。

 

「ッ!まだなのか!」

 

急いで眼魂を抜き取り、ノブナガ魂にゴーストチェンジする。

 

〔カイガン!ノブナガ!我の生き様!桶狭間!〕

 

〔ダイカイガン!ガンガンミロー!ガンガンミロー!]

 

素早くガンガンハンドをドライバーにかざし追撃の準備をする。

周囲にガンガンハンドの幻影が出現し、俺の初撃を待つ。

殲滅の合図となるトリガーを引いた。

 

〔オメガスパーク!〕

 

本体の銃撃を機に一斉に幻影も銃口から霊力の火を噴いた。

命中した個所からドドドド!と連鎖的に爆音を上げる。

 

「GAAAAAW!!!」

 

連射を受け続けたケルベロスはついに大きな爆炎を上げて弾けた。流石のケルベロスもダイカイガン二連発には耐えられなかったか。

 

「ふう…皆は!?」

 

仲間の安否が気になり、周囲を見渡すとけたたましい轟音が鳴った。

 

その方を見ると特大の滅びの力と雷に飲まれたケルベロスが消滅したところだった。そして今までこの場にいなかった二人の剣士の存在に気付いた。

 

「木場にゼノヴィアさんも来てくれたのか!」

 

向こうにケルベロスがいない。どうやらあちら側はひと段落ついたようだ。

 

「ガルッ!」

 

獣のごとき声が聞こえた方へ目を向けるとイグアナが一番大きいケルベロス──ボスべロスとでも言おうか──とキャットファイトを繰り広げていた。両者ともに所々爪痕があり、ボスべロスには噛みつかれて真っ赤に血に染まった箇所もあった。

 

「まだ手こずってるようだな」

 

銃を構え、ボスべロスへと突撃する。

 

「はぁぁぁ!!」

 

銃撃して少しでもボスべロスの気をそらそうとするがこの程度の銃撃を奴は意にも介さなかった。

 

「ガウ!ガウ!」

 

「GAAW!!」

 

イグアナがボスべロスの首元に食らいつくがその間に残りの2つの首がイグアナに牙を立てる。

 

イグアナが痛みに呻いた。その時、赤い魔力と雷が宙を走り、ケルベロスの首元を焼いた。イグアナに食らいついていた首がイグアナを離した。

 

「私たちも加勢するわ!」

 

「躾がなってませんわね!」

 

「横やりを入れます」

 

向こうで二匹のケルベロスを討伐し終えたオカルト研究部のメンバーが駆け付けたのだ。

 

流れが変わった。元のスペクターの姿へゴーストチェンジし直す。

 

〔カイガン!スペクター!レディゴー!覚悟!ド・キ・ド・キ・ゴースト!〕

 

「塔城さん、同時に仕掛けて足を崩そう」

 

塔城さんがこくりと頷き、拳に魔力を込め始める。

その間、ガンガンハンドをロッドモードに変形させてドライバーにかざした。

 

〔ダイカイガン!ガンガンミロー!ガンガンミロー!〕

 

「はぁぁぁ…ふっ!」

 

「はっ」

 

アイコンタクトの後、一斉に馳せる。俺は右、塔城さんは左。

 

ボスべロスが炎を吐き出さんとするが、口に炎を蓄えた段階で雷と滅びの力を叩き込まれ妨害される。

 

その間にも奴の前足の元に接近する。トリガーを引き、纏わせたエネルギーを解放する。

 

「らぁぁぁ!!」

 

〔オメガスマッシュ!〕

 

「はっ!!」

 

各々の一撃を叩き込んだのは同時だった。霊力を纏った一撃が、魔力を宿した拳打が前足の快音を響かせながら前足の関節に命中した。バランスを崩したボスべロスは一気に前のめりに倒れこんでしまった。

 

「GAW!?」

 

「雷よ!」

 

「食らっておきなさい!」

 

「はぁ!」

 

雷が、滅びの力が、魔剣の剣山が3つの首を同時に命中し抵抗せんと唸るボスべロスを黙らせた。

 

「とどめは任せろ!!」

 

宙に躍り出たのはゼノヴィアさん。落下の勢いを合わせて長剣を力強く振り下ろした。

 

「はぁぁぁぁ!!」

 

聖剣がボスべロスの皮膚を深々と裂いた。傷口から煙がシューシューと上がり、断末魔の悲鳴を上げたボスべロスは間もなく塵も残さず消滅した。

 

「…ふう、一狩り終了ってな」

 

〈BGM終了〉

 

ガンガンハンドを肩に乗せ、安堵の息をつく。

 

…あれが聖剣の退魔の力か。悪魔や魔物に効果抜群という。堕天使に効果は…多分ないだろうな。もし効果抜群だとしたら連中もエクスカリバーを破壊するだろうし。

 

「紀伊国!あのトカゲはなんだ?お前が呼んだのか?」

 

兵藤がイグアナに一瞥すると問いかけてきた。先輩達も気になるようで俺の答えを待っている。

 

アルジェントさんは恐れることなくイグアナを撫で、イグアナもそれに喜んでいる。

 

「ああ、『イグアナゴーストライカー』…ま、俺の使い魔二号みたいな感じか?」

 

「使い魔にしては魔の気配を感じないが」

 

ゼノヴィアさんの指摘を受ける。

 

「…まあ、あくまで使い魔みたいなもの、ってことで」

 

しかしゼノヴィアさんはまだ納得した様子を見せず、さらなる質問をぶつけてきた。

 

「君は、私の言葉が通じないんじゃなかったのか?」

 

「今は神器の効果で通じるようになってるんだよ」

 

「…そうか」

 

俺の返答に一応の納得した様子を見せた。不意にグレモリー先輩が赤い魔力を滾らせ、空へと放った。

 

「消し飛べ!コカビエル!」

 

空に座するコカビエルへと放たれた魔力。食らいつかれる間際でもコカビエルは慌てることもなく翼をはためかせると一瞬に全てを消滅させる魔力は消滅させられてしまった。

 

…先輩の滅びの力は効かないのか。

 

コカビエルの視線が攻撃を放った先輩にではなく俺に向いた。

 

「…なるほど、貴様が報告にあった人間の戦士か。変わった神器を使うというのは本当のようだ」

 

「ガルルルル!」

 

イグアナが威嚇するようにコカビエルを見上げて低く唸る。

ヒュッと隣で風切り音が聞こえた。反射的にそちらを向くと。

 

「ガ…ウ……」

 

「イグアナ!!」

 

大きな光の槍に頭を貫かれ、ぐったりと倒れるイグアナの姿。ぴくりとも動かずその目は閉じられている。

 

「そんな…おい…」

 

何度も叩くがピクリとも動かない。頭が急速に冷えていく。見上げるとコカビエルはニヤニヤとその様子を見ているだけだった。

 

…いつでもお前たちをこうすることが出来るんだぞとでも言うのか。

 

ふと視界の端に眩い光が差し込んだ。

 

「──完成した」

 

続くバルパーの声。その声は感動からか震えていた。

 

校庭の中央にある四本のエクスカリバーが一際眩しい光を放つ。余りの眩しさに手で目を抑えた。光が収まり、目から手を離すと校庭の中央にあったはずの聖剣は姿を消し、代わりに濃厚なまでの神聖なオーラを放つ一本の剣があった。

 

あれが統合したエクスカリバー。黄金に輝く刀身は仄かに青白い光も放っていた。

 

突然校庭に描かれた魔方陣がカッと輝くと消えてしまった。

 

「エクスカリバーの統合で発生した力で魔方陣も完成した。二十分後、この町は消し飛ぶ」

 

「なっ…!?」

 

突然の宣告に皆が声を上げて驚いた。

 

あの魔方陣は町を吹っ飛ばすための物だったのか!今から二十分。加勢が来る頃にはとうにこの町が吹き飛んだあと。頭にすうっと冷たいものが這う。

 

(そんな…嘘だ…)

 

確かに先輩はその気になればこの町も吹き飛ばせる奴だとも言った。その言葉が現実味を帯びてきた今、実力差への恐怖心はさらに油を注がれた。

 

…20分であの堕天使幹部を倒せるのだろうか。

 

天から見下ろすコカビエルが言う。

 

「解除するには俺を倒すしかないという訳だ。フリード!」

 

「はいよ!」

 

「あいつはフリード!」

 

奴の呼び声にどこからともなくあのイカれたエクソシストが姿を現した。

 

「最後の余興だ。統合されたエクスカリバーを使って戦って見せろ」

 

「了解しやしたぜ、ボス!」

 

軽い足取りで陣の中央へと向かい、黄金の聖剣を手に取った。

 

「さてさてぇ、このスゥープァーでスペシャルなエクスカリバーちゃんで因縁のクソ悪魔たちを首ちょんぱしちゃいますかね!!」

 

狂人の悪意が始まる。

 

 




コブラケータイの電話受信音は電王ロッドフォーム待機音。
メール受信音は仮面ライダークロニクルの起動音。なお気分でよく変える模様。


次回、大技炸裂。

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