ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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なるべく早く次話を投稿したいな…。

Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は……
S.スペクター
3.ロビン(借)
4.ニュートン(借)
5.ビリーザキッド(借)
7.ベンケイ(借)
11.ツタンカーメン
12.ノブナガ
13.フーディーニ


第21話 「聖魔剣覚醒」

「んじゃーまずは、準備運動からァ!!」

 

狂喜の笑みに彩られた顔をしたフリードが馳せる。

俺たちは今、前方をコカビエル、そして大きく離れた後ろにフリードとバルパーに挟まれた状態で校庭にいる。

 

「ッ!」

 

フリードに応じて、ゼノヴィアさんも聖剣を持って駆けた。俺たちもゼノヴィアさんの後に続いた。先輩組は翼を広げて飛び立つとコカビエルに攻撃を放って牽制し始めた。

 

「んんー?ヒャァ!!」

 

二人が各々の聖剣でぶつかり合う。打ち合うたびにフリードの剣は加速を見せた。

夕方戦った時より明らかに速い。ほかのエクスカリバーと統合した影響だろうか。

 

「『天閃』の神速!そして!」

 

フリードが飛び退き、剣をゼノヴィアさんに向けると刀身が伸び、幾重にも枝分かれした。

 

ゼノヴィアさんが対処せんと構えるがゼノヴィアさんに向かう途中で刃が周囲の背景に溶けるように消えた。

 

「『擬態』の変化と『透明』の力!」

 

ゼノヴィアさんはじりじりと下がりながら消えた刃をさばく。

 

「最後は『夢幻』の幻影でございまーす!」

 

フリードの姿が一瞬霞むと、一人、二人、三人とどんどん増えていく。

一斉に飛び出し、次々とその聖剣を血に染めんとゼノヴィアさんに剣技を振るった。ゼノヴィアさんは険しい顔をしながらもなんとか防ぎ切る。

 

最後の剣戟を防御した瞬間、ゼノヴィアさんの聖剣から衝撃波が放たれフリードはそれを後ろに跳躍して回避した。

 

「…これは私一人の手に余るな」

 

額の汗を拭ってゼノヴィアさんが言った。

 

確かに、これは厄介だな。フリードが備える剣のセンスと統合されてさらに強化されたエクスカリバーの4つの能力。武器のレベルも折れた聖剣の一本と、他の四本を一つにしたものといえばどちらが上かは言うまでもない。

 

ゼノヴィアさんが木場に声をかけた。

 

「木場裕斗、まだ協力関係が生きているなら協力してエクスカリバーを破壊しようじゃないか」

 

「…いいのかい?」

 

「我々の任務は聖剣の奪還、最低でも聖剣の基になっている『かけら』を回収できればいい。──剣は使い手を映す鏡だ。あれはもはや聖剣ではない」

 

ゼノヴィアさんは、どこか憐れむような目でフリードのエクスカリバーを見た。伝説の聖剣もあんな狂人につかわれては可哀そうだ。早いところフリードを倒して奴から解放したいものだ。

 

「それから紀伊国悠」

 

「ん?」

 

今度は俺の方を見た。

 

「フリードを追う際拾ったものだが、使えそうか?」

 

ゼノヴィアさんが手渡したのは赤い眼魂。赤い英雄眼魂と言えば一つしかない。

 

「…ああ、この状況でこの眼魂。タイミングが良すぎて震えるよ」

 

早速手渡された眼魂を起動させ、ドライバーにはめ込む。

 

〔アーイ!バッチリミロー!バッチリミロー!〕

 

ドライバーから出現したのは銀のフレームが巻かれた赤いパーカーゴースト。

レバーを引き、パーカーゴーストを身にまとう。

 

〔カイガン!ムサシ!決闘!ズバッと!超剣豪!〕

 

仮面ライダースペクター ムサシ魂。

肩部を保護する強化フレーム『ハガネノタスキ』の適度な締め付けが神速の斬撃を可能にし、パーカーの赤い布地『カタギヌコート』は二刀流を戦闘スタイルにするこのフォームにおいて重要な接近戦における優れた防刃性と物理攻撃への防御力を持っている。

 

フード部の『ニテンノフード』は空気の流れ、殺気を読み取り敵の動作を予測する。また特徴的なちょんまげにも見える後頭部に装着された『ゴリンノマゲガタナ』は眼魂のベースとなった剣豪、宮本武蔵の剣術のデータから戦術を作成提案する機能を持っている。額の『セツナノハチマキ』は敵の攻撃の見切りを可能にし、顔の『ヴァリアスバイザー』には赤い二本の刀の模様『フェイスデュアルウィード』が浮かび上がっている。

 

ドライバーからガンガンセイバーを召喚、片方の刃を分離し新たなグリップを展開しガンガンセイバー 二刀流モードにする。

 

「おおん?ちょんまげと刀。これがサムライってやつですかい?」

 

なめるように俺を見たフリードが感想を言う。まあ、時代区分としては間違ってないな。

 

「これが噂に聞くジャパニーズサムライか…!」

 

心なしかゼノヴィアさんがわくわくして輝く目でこちらを見つめてくる。外国人ってのは皆サムライが好きなのかね。

 

一歩前に出て、二刀流の構えを取りながら言う。

 

「木場!俺たちがフリードを抑えておくから先にバルパーからやってしまえ!」

 

「っ!わかった!」

 

木場がバルパーの下へ駆け出す。それと同時にフリードも動いた。

 

「させねえってんだよ!」

 

木場に向けて振るわれた凶刃を二振りの刀で受け止める。

 

「それはこっちのセリフだ!」

 

俺とフリード、両者同時に後ろへ飛ぶとフリードが聖剣を『擬態』の効果で伸ばし枝分かれさせた。さらに刃は透明になって消えた。またあのコンボか!

 

「さすがのサムライさんもこのエクスカリバーの前には!!」

 

キィン!突然響いたのは甲高い金属の音。俺が聖剣の攻撃を刀で弾いたのだ。見えないはずの攻撃を防ぐことが出来た理由はこのフォーム特有の見切り能力。透明であっても空気の流れで動きを察知することはできる。

 

さらに片腕を動かし、再度迫る殺気を弾く。弾く、弾く、弾く!

 

「ならもう一段ギアをアゲアゲで行くぜぇぇ!!」

 

見えない殺気が一段と増えた。今までは前方からだったが今度は360度全てからだ。深呼吸をしてその時を待つ。

 

ヒュン!

 

(来た)

 

剣閃を煌めかせ防御する。せわしなく手を動かし、剣と剣がぶつかる火花が散る前にまた新たな火花が生まれていった。自分の腕でカバーできない死角、主に背後からの攻撃は全て肩部に装着された二本の刀『ゴーストブレイド』が自動で防御していた。

 

剣を振るいに振るって、傍から見れば何もない俺の周囲の虚空に火花に彩られた世界を作った。

 

「これがジャパニーズサムライの力…!」

 

「紀伊国、あいつすげぇ…」

 

「イッセー先輩と同じ赤でもこっちのほうがイケイケです」

 

「ぐはっ!小猫ちゃん、それは言わないで…」

 

「大丈夫です、イッセーさんもカッコイイ赤です!」

 

…お前ら、少しは動け!

 

「嘘だろ…てめえ全部見えてやがんのか!!?」

 

「いや、見えないさ」

 

剣をさばきながら奴の言葉に否定の意を突きつける。

 

「はぁ!?なら何で」

 

「空気の流れの変化、後はお前のバレバレな殺気で全部攻撃は読める!」

 

「…ちい、マジかよ…!」

 

こいつホントわかりやすいんだよな。後は表情の変化もとかかな。こいつのイカレ具合を利用する時が来るなんてな。これも全部、英雄眼魂の力だ。素の俺じゃこんな芸当は到底できない。ムサシやビリーザキッドのような何かの技術に特化した眼魂を使っているとその凄さや恐ろしさをひしひしと感じる。

 

こいつの攻撃を全部防げるのはいい。だが問題は…。

 

「…数が多すぎんだよ!」

 

数の多さと速さ。おかげで俺は一歩も奴に近づけない。透明化を解除したらきっと俺は黄金の刃の檻に閉じ込められているように見えるんだろうな。

 

「はぁ!」

 

ゼノヴィアさんが手薄になったフリード本体に向かって飛び出した。

 

「クソが!」

 

伸ばしていた剣を引っ込めて、元の形状で戦い始めた。

 

 

 

 

 

「バルパー・ガリレイ。僕はあなたの『聖剣計画』の犠牲者だ。今は悪魔として、この場にいる」

 

そのころ向こうでは木場とバルパーが対峙していた。険しい顔つきで木場がバルパーに詰め寄る。

 

「ほう、これはこれは。こんな極東の国で出会うとは奇妙な縁だな」

 

バルパーはいつものように汚い笑みを浮かべると、ひと息をつき語り始めた。

 

「─私はね、幼いころから聖剣が大好きだった。聖剣のことについて書かれた絵本を読み、物語を聞いては心躍らせ、聖剣を使うものに憧れた。だからこそ、私に聖剣を使う素質がないと知った時の衝撃は大きかった」

 

どこか遠くを見るような目で、懐かしむような声色で大司教は語る。

 

「憧れは消えず、やがて私は聖剣を使うものを人工的に生み出す研究を始めた。そしてそれは完成した」

 

「なに?完成だと?」

 

怪訝な表情を見せる木場。

 

「そう。研究の中で私は思いついたのだ。聖剣の適性を数値化し、基準値に達するものがいないなら『満たなかったものから因子だけを抜き取ることはできないか?』とね」

 

因子だけを抜き取る…。そうか、低い数値の因子でもそれを集めれば適正値に達する因子を作れるということか!

 

「そうか、聖剣使いが祝福を受けるとき体内に入れられるものは…」

 

ゼノヴィアさんは何か思い当たりがあるようだ。

 

「そうだ、その成果がこれだ」

 

バルパーが取り出したのは透き通るような青い結晶。見る者の心を惹くように青く煌めいていた。

 

「君の同胞を殺し、因子を抜き取り結晶化したものがこれだ。4つあるうち三つはフリードに使ってしまったがね」

 

「俺以外にいた奴らは因子に体が追い付かなくなって死んじまったんだぜ!俺ってすごいでしょー!?」

 

「知るか!」

 

フリードが聖剣で鋭い突きを放つ。見切りの効果で避けながら、避けられないものは刀で弾いた。一撃一撃が『天閃』の効果で速度が底上げされておりムサシの見切りがなければとっくに串刺しにされていたであろう。

 

バルパーが木場の下に結晶を投げ、転がした。

 

「そんなに欲しけりゃくれてやる。環境があれば既に量産できるのでな。聖剣使いの軍団を作り、私を排除したヴァチカンとミカエルに復讐してやるのだ!」

 

それがバルパーの目的か。…こいつもまた、復讐に囚われている。

 

木場は結晶を拾い、そっと抱きしめた。

 

「きゃあっ!!」

 

後ろで声が聞こえた。コカビエルと戦っていた先輩たちがダメージを追い、地面に叩きつけられたのだ。

 

「先輩!」

 

「ふん」

 

玉座に頬図絵を突きながらコカビエルが片手で槍を生成、木場に向かって飛ばした。

 

「木場!危ない!!」

 

「!」

 

結晶に気をとられた木場の反応が遅れた。空を切って迫る槍は地面に突き刺さると衝撃波を放った。ゴウっという音が鳴り、砂煙が上がった。

 

「余所見すんなよ!!」

 

「くそっ、邪魔だ!」

 

時折ゼノヴィアさんと入れ替わりながら攻めるがそれでもフリードは軽口を叩けるレベルの余力を残していた。

 

巻き起こった煙が晴れると、倒れる木場の周りにぽうっと淡い光が浮かび上がった。

一つ、また一つと光は増え、やがてそれは人の形を成した。その光景にフリードすらも動きを止めて見入っていた。

 

「これは…」

 

「戦場に満ちる力が、あの結晶のうちに眠るものを解き放ったのでしょう」

 

姫島先輩がそうつぶやいた。結晶に眠るものということはこの人たちが木場の同士か。皆、同じような服を着ており、同じ様に無表情をしている。

 

「皆…」

 

それを見た木場の頬に一筋の涙がこぼれた。

 

「僕は…ずっと思っていたんだ。僕だけが生きていいのかって。僕よりも夢を見て、希望を抱いていた子がいたのに…僕だけ平穏な暮らしをしていいのかって…」

 

嗚咽を漏らしながら語る。それを聞く魂たちは無表情だった。もう、笑ったり泣いたりする気力すら失ってしまったのか。

 

そんな中、一人の魂が何かを訴え始めた。耳では聞き取れないが、神器の力かハッキリと何を言っているのか脳内ではっきりと理解できた。

 

『僕たちのことはいいんだ。だから、僕たちの分まで生きて』

 

「…!!」

 

木場が目を見開く。すると魂が何かを口ずさんだ。

 

これは歌だ。他の魂も共に歌い始めた。戦場に静かに、優しく響き渡る歌声。その歌には友を思う温かみが込められていた。聴く者の心を鎮める歌にあのフリードやバルパーの表情からも笑みが失せていた。

 

「歌?」

 

それを歌う魂たちの表情は今までの無ではなく笑顔だった。木場もみなと共に歌い始めた。

 

「──これは聖歌です」

 

アルジェントさんはこの歌を知っているようだ。悪魔は聖歌でもダメージを受けるらしいが兵藤たちにダメージを受けて苦しんでいる様子はない。魂の一人が言った。

 

『僕一人では聖剣を使えなかった』

 

それに他の魂も続く。

 

『でも、皆の力が集まればきっと』

 

魂たちが木場の手にそっと触れる。

 

『聖剣を恐れないで』

 

『僕たちはいつだって君と共にある』

 

『僕たちはいつだって』

 

「一つだ」

 

木場の言葉と同時に蛍火のような光が、次第に強まりやがてこの場一帯を覆いつくす眩い光になった。

 

 

 

光が収まると、その中心にいた木場の手に新たな剣が握られていた。

 

「な、なんだその剣は…!?魔と聖が入り混じった力だと…!?」

 

バルパーの顔に初めて驚きの表情が浮かんだ。今まで下品な笑みを浮かべるばかりだったが、今は目の前で起こった予想外の現象に驚きを隠せないでいる。

 

「禁手『双覇の聖魔剣《ソード・オブ・ビトレイヤー》』。同朋の思いを受けて、今至った」

 

赤い紋様が描かれた黒い刀身に白い刃。迸る神々しい光と禍々しい闇。

 

これが木場のバランス・ブレイカーか!おそらく兵藤のように代償を払って発動する不完全なものでなく、本物のバランス・ブレイカー。

 

「馬鹿な…聖魔剣だと言うのか!?ありえん!!フリード!!」

 

「ほいさぁ!」

 

嬉々として新しいおもちゃを得た子供のようにフリードが躍り出る。

 

木場の神速とフリードの聖剣による神速が戦場を駆ける。目にも止まらぬ速度で両者は剣を打ち合い、遂に聖魔剣の刃がフリードの頬をそって撫で、細い傷を作った。

 

「スーパーエクスカリバーを凌駕すんのかよ!?」

 

「真のエクスカリバーなら勝てなかっただろうね…でもその剣で僕たちの思いを断てやしない!!」

 

「クソが!!」

 

今度はエクスカリバーを伸ばして、例の『擬態』と『透明』のコンボを繰り出した。

木場はなんら動じることなく不可視の殺気を捌く。

 

「何で何で何でだよ!!最強の聖剣様が何でクソ悪魔に傷一つ付けられねぇ!?」

 

「君の殺気はわかりやすいからね!」

 

「…何だよ、またそれかよ…!」

 

苛立つフリードの表情は屈辱にまみれていた。するとゼノヴィアさんが一歩前に出た。

 

「…ペトロ、バシレイオス、ディオニュシウス、聖母マリアよ。我が声に耳を傾けたまえ」

 

厳かに呪文を唱えると、虚空に光が生じ始めた。

 

「刃に宿りしセイントの御名において、我は解放す。──デュランダル!」

 

虚空に空いた穴から、鎖が巻かれた青い聖剣が現れた。ゼノヴィアさんが柄を握ると鎖がはじけ飛び聖なる力が解放された。

 

デュランダルって…確か伝説の剣の一つだったな。ゲームでも時々見かけたことがある。

 

「デュランダルだと…!?貴様エクスカリバー使いではなかったのか!?」

 

バルパーが驚愕の声を上げる。それにゼノヴィアさんはにやりと口角を上げて答えた。

 

「私は天然物の聖剣使いだ。真の相棒はデュランダル。エクスカリバーは兼任していたに過ぎない」

 

「馬鹿な…。天然でデュランダルを扱えるに足る因子を持つ聖剣使いだと…!」

 

ゼノヴィアさんの言葉にバルパーは絶句するばかりだった。

 

ゼノヴィアさんがデュランダルを両手で構える。刃がはっきりと見える程濃厚な聖なる力を纏い始める。これはフリードのエクスカリバーを超えるレベルだ。

 

「デュランダルは想像を超えた暴君でね。異空間に閉じ込めておかないと触れたものはなんでも切り刻む暴れ馬さ。伝説の聖剣同士の決戦。初撃で死んでくれるなよ!!」

 

「黙れこのクソビッチがぁ!!」

 

フリードがゼノヴィアさんに殺気を向けた次の瞬間、ガシャン!と虚空に姿を隠しながら伸びていたエクスカリバーが出現し砕けた。

 

ゼノヴィアさんがデュランダルを振るい、攻撃を防いだのだ。たったそれだけでエクスカリバーを砕き、力の余波で地面がえぐれた。

 

「はぁ…!?」

 

フリードはその光景に絶句していた。

 

なんて威力だよあの聖剣!今までこんなものを隠していたのか!

 

呆気にとられたフリードに木場が迫る。エクスカリバーを破壊された事実に気を取られたフリードは反応が遅れてしまった。

 

「はぁ!」

 

木場が渾身の力で聖魔剣を残ったエクスカリバーの本体に振るう。ぶつかった瞬間、エクスカリバーは脆く砕け散り、返す刃でフリードの胸を深々と切り裂いた。

 

「がは…あ……」

 

傷口から血が噴き出し、後ろにどっと倒れこんだ。

 

「やったよ、皆。僕たちはエクスカリバーを超えた…!」

 

木場は聖魔剣をそっと撫でた。

 

 

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

 

 

 

「さあ、覚悟を決めてもらおうか」

 

木場が聖魔剣をバルパーに向けた。

 

「馬鹿な…聖と魔、反発しあう二つの力が交じり合うなど…!」

 

念願のエクスカリバーを目の前で完膚なきまでに折られ、バルパーは動揺を隠せなかった。

 

汗をたらし、じりじりと後ろに下がる。

 

「魔を司る魔王が死んだからか?いやそれだけではこの現象は…そうか!先の戦争で死んだのは魔王だけではなく…!」

 

何かをぼそぼそと呟いたその時だった。天から光の槍がバルパー目掛けて落下しその腹を深々と貫いた。

 

「が…あ?」

 

夥しい量の血を吐き、皆殺しの大司教は絶命した。

 

「バルパー、お前はよくやったよ。もう、俺一人で十分だ」

 

自分で自分の仲間を殺したのか…!

 

「さて…」

 

コカビエルの目が兵藤へと動いた。

 

「赤龍帝、限界まで力を高めて誰かに『譲渡』しろ」

 

まさかの要求…いや命令然とした言葉に皆が驚いた。

 

「ふざけているの!?」

 

「勘違いするな。どうせ貴様らでは俺に勝てないとわかっているからチャンスを与えているのだ。より俺を楽しませるチャンスをな」

 

要は舐めプかよ…。この場にいる全員を一人で相手にして勝てる自信があるというのか。

 

「…イッセー、私に譲渡しなさい。あの余裕に満ちた面を消し飛ばすわ」

 

先輩が前に出る。兵藤もそれに続き籠手の力を発動させた。

 

〔Boost!Boost!Boost!〕

 

籠手から音声が鳴るたびに兵藤の力が高まっていく。皆、微動だにせずその様子を見守った。

 

きっと皆俺と同じことを考えているんだろう。うかつにコカビエルに攻撃するより与えられたチャンスを活かして最大の攻撃を叩き込む。どっちが奴を倒せる可能性があるかなんて言うまでもない。

 

〔Boost!〕

 

「来ました」

 

数分後、最後の音声が鳴った。籠手が装着された手で、先輩と手を繋いだ。

 

〔Transfer!〕

 

音声と共に烈風が起こった。先輩を中心にして起こるそれは溢れ出んばかりの魔力が起こした現象だ。今まで見たどの攻撃をも凌駕する圧倒的な魔力。

 

砂埃が舞い、びゅうびゅうと風が鳴く。それを見たコカビエルは喜びに打ち震えた。

 

「…!いいぞ…!!やはり貴様は魔王の妹だ!魔王クラスに届くやもしれぬこの波動!!」

 

先輩の両手に絶大なまでに高められた魔力が顕現する。

 

「消し飛びなさい!!コカビエルッ!!」

 

両手を合わせて天から見下ろすコカビエルに向けると、一気に解放した。

獲物に絶対なる滅びを与えんとする魔力は獣の如くけたたましい叫びを上げた。

 

「来いッ!」

 

嬉々としてコカビエルはそれを黒翼を閉じて防御した。ドオンというすさまじい轟音を上げて黒翼と赤い魔力が衝突する。

 

永遠にも感じる長い均衡の後、消えたのは魔力の方だった。

 

「な…」

 

先輩が絶句した。先輩だけじゃない、この場にいるコカビエル以外の皆がこの結果に驚きを隠せないでいた。

 

…あの一撃でも倒せないのか…!

 

コカビエルも額の汗を拭い、ローブの埃を払った。

 

「ふふふ…なかなかの攻撃だった。しかし、それでも俺を倒すには足りないな」

 

「雷よ!」

 

コカビエルが余韻に浸る前に、放たれた雷が一つ。

それもコカビエルは難なく翼で防いでしまった。

 

「この波動はバラキエルのものか!そうか貴様が!!」

 

「それ以上言うな!!」

 

姫島先輩が珍しく怒りの表情を見せ、追撃を加える。それも払うと、翼を開いて羽根手裏剣を飛ばして空を飛ぶ姫島先輩に攻撃した。

 

弾丸の速度で迫る羽根に先輩は対応できず切り裂かれ、空から落ちてしまった。

 

「朱乃さん!」

 

兵藤が跳躍し、それを受け止めた。すぐさまアルジェントさんが駆け寄り回復を始めた。

 

「ハハハハハ!!赤龍帝に聖魔剣、悪魔に堕ちたバラキエルの娘!兄と並んでとんだゲテモノ好きのようだな!」

 

「兄への侮辱は…なにより私の下僕への侮辱は断じて許さないわ!!」

 

「ならば来い!貴様らの宿敵たる堕天使の幹部を討つチャンス!これを逃せば貴様らの程度が知れるというものだ!!」

 

奴が吼え、両手に光の剣を生成する。

 

いよいよか、聖書に記されし堕天使の幹部との決戦。仮面の裏で一筋の汗が流れる。自分の心臓の鼓動がはっきりと聞こえる。

 

最初に飛び出したのは木場とゼノヴィアさん。同時に飛び出し、木場は聖魔剣、ゼノヴィアさんはエクスカリバーとデュランダルの二刀流でコカビエルとの距離を詰める。

 

「聖剣デュランダル!一度は折れたエクスカリバーとは違いその輝きは本物か!しかし!!」

 

コカビエルは先に繰り出されたゼノヴィアさんの攻撃を受け止め、腹を蹴り上げる。ゼノヴィアさんは宙を舞いながらも態勢を整え、着地した。

 

「貴様のような小娘にそんな代物を使いこなせるはずもない!先代の使い手、ヴァスコ・ストラーダはそれはそれは常軌を逸した化け物だったぞ!!」

 

ゼノヴィアさんは負けじと再び駆けだし、今度は木場と同時に剣戟を放った。

 

「この聖魔剣であなたを討つ!」

 

拮抗する聖魔剣とデュランダル、そして光の剣。

 

「聖魔剣と聖剣の同時攻撃か!だが覚醒したての聖魔剣は力がまだ安定してないようだな!!ぬぅん!!」

 

奴の掛け声と共に光力が衝撃波となって放たれた。

 

「ぐっ!」

 

「がっ!」

 

二人は吹き飛ばされ、地面をザザザと滑った。

 

その時、塔城さんがコカビエルの背後から飛び出した。ゼノヴィアさんと木場とやりあっているうちに懐に忍び込んだのだ。

 

「隙をついたつもりか?」

 

刃物のごとき鋭さを持った翼で薙ぎ払い、小柄な体をやすやすと吹き飛ばしてしまう。

 

「きゃっ!」

 

「小猫ちゃん!」

 

兵藤が飛ばされる塔城さんを受け止めアルジェントさんのもとに運んだ。

 

「グ…う…」

 

後ろから獣の唸り声が聞こえた。

 

振り返るとふらふらとイグアナが這っていたのだ。顎を貫いていたはずの槍は消えていた。時間経過によるものだろう。

 

「イグアナ…!無理はするな!!」

 

力を振り絞り、起き上がるとコカビエルに飛びかかった。

 

「ギャウウウウ!!」

 

「チィ!」

 

舌打ちしながらも翼で突撃を受け流すと、右手にためた光力をイグアナの腹にぶつけてコカビエルの遥か後方に吹っ飛ばしてしまった。

 

「…くそ!」

 

皆の攻撃がやつに届かない。どんな攻撃も武器も決定だにはならなかった。デュランダルや聖魔剣をもってしても奴との実力差は埋まらない。皆この状況に焦りを見せていた。

 

俺もそうだ。でも今やつを倒さないとこの町は滅ぶ。それだけは何としてでも避けないといけない。

 

「まだだ!」

 

「今度は俺も!」

 

諦めずに木場が再び突撃し、今度は俺も追随する。

木場の剣が光の剣とぶつかった瞬間、バキン!と音を立てて壊れてしまった。

 

「なっ…!?」

 

「どうした聖魔剣使い!?仲間がやられて集中が乱れたか!?」

 

「はぁぁぁぁ!!」

 

今度は俺が木場の前に出て、コカビエルに剣技を放つ。上段、下段、袈裟。あらゆる剣技を放ち、攻め立てる。

 

「…違う、何かが違うな」

 

コカビエルはじりじりと下がりながらも全て捌く。奴は木場やゼノヴィアさんに見せた戦いに興奮した表情ではなくどこか俺の攻撃に胡乱な表情を見せた。

 

…剣の腕もむこうが勝つのか!

 

「ふん!」

 

不意に奴が放つ膝撃ちを腹に受けた。

 

「ぐっ!?」

 

攻撃の手が止み、その隙にやつは片手に溜めた光力を一気に炸裂させた。

 

「がぁぁ!!」

 

マスクの裏で血反吐を吐きながら紙のように吹っ飛ぶ。

 

「『魔剣創造』!!」

 

木場が吼える。直後、コカビエルの周囲に聖魔剣が突きだしコカビエルを串刺しにせんとするが翼で身をおおい、防御。勢い良く翼を広げてそれを砕いた。

 

「目くらましにもならんわ!!」

 

剣の破片が煌めく中に木場が突撃、コカビエルと剣を合わせるが。

 

「ふん!」

 

「何!?」

 

二撃目で木場の聖魔剣はさっきと同じ様に砕かれてしまった。

 

「ぐあ!」

 

今度は直接拳で木場を殴りつけた。ドゴッという鈍い音を放ちながら真っすぐこちらに飛ばされた。

 

「…こんなものか」

 

コカビエルはつまらなそうに吐き捨てた。皆、顔に疲弊の色が浮かび大半が片膝をついている。

 

「ぐ…う」

 

絶望的状況。勝てないという言葉が色濃く俺の脳裏に浮かび始めた。この状況を覆す、あるいはかもしれない手はないか?

 

現在の手持ちの眼魂で最も火力があるのは…ベンケイか。ツタンカーメンのオメガファングは恐らく槍で簡単に破壊されてしまうだろうし既にニュートンはケルベロス戦で能力を見せてしまっている。その対策を考えている可能性は高い。恐らくベンケイを超える火力を持つフーディーニは何故か起動しない。

 

ならベンケイでどうやって倒すか。オメガボンバー?オメガドライブ?…いや、先輩の譲渡込みの滅びの力で倒せなかった奴だ。間違いなくこの二つを重ねがけしたとしても押し切れない可能性は高い。兵藤の『譲渡』もさっきので使い切っただろうしな。

 

…いや、もう一つある。ベンケイ、いや全てのフォームが備える必殺技がまだあった。今まで使ったこともないしテレビでも一度しか使われてなかったからすっかり俺の脳からその存在が消えてしまっていた。それとボンバーの重ね掛けならあるいは…!

 

そう思ってからの行動は早かった。今はこれにかけるしかない。息を整えながら立ち上がり、ベンケイ魂へとゴーストした。

 

〔カイガン!ベンケイ!兄貴ムキムキ!仁王立ち!〕

 

召喚したガンガンセイバー ハンマーモードをドライバーにかざす。

 

〔ダイカイガン!ガンガンミナー!ガンガンミナー!〕

 

ハンマーをぶんぶんと振り回し、刀身が増大した白い霊力を纏い始める。

コカビエルはその様子に呆れたように息をついた。

 

「まだ戦うか。だがその攻撃では俺を倒せんよ」

 

…わかってるよ。この攻撃が先輩の譲渡を合わせた攻撃にも届かないってことぐらい。

だから、奥の手を切る。

 

意を決し、ドライバーのレバーを引く。その動作を繰り返すこと、4回。動作が終わると音声が鳴り始めた。

 

〔ダイカイガン!ベンケイ!〕

 

ドライバーからかつてない量の霊力があふれる。それは俺の眼前に集まりだすと眼魂のような形をした球体の形になった。

 

「あの技…初めて見た」

 

兵藤がぼそりと呟く。そうだろうな、何せ俺も初めて使う技だからな!

 

〔オオメダマ!〕

 

眼魂の全エネルギーを消費して放つ大技。野球選手のようにハンマーを構え、裂帛の叫びをほとばしらせ力強くスイングし球体にぶつける。

 

「ああああああっ!」

 

力強くスイングしそれを球体にぶつける。インパクトの瞬間トリガーを引き刀身の霊力を解放した。

 

〔オメガボンバー!〕

 

ドゴン!!と爆音を響かせ、球体は真っすぐに地をえぐりながらコカビエルへと向かった。

 

「何っ!?」

 

続く爆音。今までと比べものにならないほどの爆破音と烈風を巻き起こしごうごうと燃え盛る爆炎を上げた。

 

「はぁ…はぁ…」

 

肩で息をしてまだもくもくと煙を上げるさっきまでコカビエルが立っていた場所を見る。

 

今の俺が思いつく最大火力。もし、これで倒せなかったら…。

 

突然ドライバーのカバーが開くと勢いよく眼魂が排出された。同時に変身も解除されてしまった。

 

「変身が…」

 

オオメダマは変身に使うエネルギーも消費するのか。本当に、これは最後の切り札的な技だったんだな。

 

再び爆心地に視線をやる。未だ煙は晴れず沈黙に包まれている。兵藤がぼそりと声を漏らした。

 

「倒し…た…?」

 

「ククク…」

 

黒煙の中から笑い声が聞こえた。直後、一陣の風が煙を払った。

翼の表面がボロボロになったコカビエルが姿を現す。

 

「軽いな」

 

首をこきこき鳴らしながら言った。

服がところどころ裂けてはいるが本体にあまりダメージ通っていないようだった。

 

「そんな…ッ!?」

 

もう勝てない。

 

そう思った直後、眼前にコカビエルが迫る。すぐさま首もとに締め付けられるような圧迫感を感じた。

 

「がっ…あ…」

 

コカビエルが俺の首を締め、片手で持ち上げる。

俺の瞳を一瞬覗き込むような視線を送ると、光の短刀を俺の首に向ける。

 

「!!い…やだ…!」

 

間近に迫った、死。歯の根が合わなくなるくらいガタガタと震える。俺の命は今コカビエルの掌の上だ。

 

同じような思いをしたことがある。ミッテルトと遭遇し、殺されかけたあの時。

死ぬのがいやでいやで、生きたくてたまらなくなるこの感じ。今回は奴の放つプレッシャーも相まって前回と比べ物にならないレベルだ。

 

「そうか、攻撃が軽いと思えば道理で…」

 

コカビエルがぼそりと呟き、続ける。

 

「恐怖心が貴様の神器の力を落としているようだな。貴様の目は死を覚悟して戦う者の目ではない」

 

短刀を消し、俺を勢いよく地面に叩きつけた。

 

「があっ!!」

 

頭が痛む。呼吸を阻まれていた首が解放され、体が空気を求める。

それを見下ろすコカビエルの目は凍てつくような冷たさを持っていた。

 

「…興が冷めた。死ぬ覚悟もない者が戦場に足を踏み入れるなど…!」

 

コカビエルが人外の力を以てじりじりと擦り付けるように俺の頭を踏みつけた。

頭が押しつぶされるような痛みに喉が裂けんばかりの絶叫が迸った。

 

「がっ…あっ…あああああ!」

 

「紀伊国君!!」

 

「やめろ!紀伊国から離れろ!!」

 

その光景を見たグレモリー先輩と兵藤が飛び出すが、コカビエルが羽根手裏剣を飛ばし足止めしてしまう。

 

「…フン」

 

つまらなそうに鼻を鳴らすと、腹に鋭い蹴りを入れて俺を転がした。

 

「ぐ…うう…」

 

「とっとと失せろ。ウジ虫が」

 

どすの効いた声と睨み付けるような視線。濃厚なまでの肌を突きさす殺気。もはや奴の姿も声も動作全てが俺の燃え盛る恐怖心の炎に油を注ぐものになっていた。

 

「はぁ…ぐ…あ…ひっ…!」

 

ぎんぎんに痛む頭を押さえながらふらふらと立ち上がる。

ふらつく足で踵を返すと、コカビエルに背を向けて一気に走り出した。

 

「おい紀伊国!?」

 

「ああああああっ!」

 

死への恐怖心に煽られるまま、俺は無様に敵前逃亡してしまった。




恐怖心 俺の心に 恐怖心

ボスキャラを目に逃亡する悠マジ琢磨くん。
ムサシは使い勝手がいいですね。…このままだとツタンカーメンの出番が減りそうな。

今回のボンバー+オオメダマのイメージはエンペラーキバのドッガフィーバー。

次回、運命の岐路、辿り着いた答え。

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