ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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お待たせしました。待ちに待った覚醒回です!

「Be the one」観てきました。戦兎と万丈最高のコンビかよと盛り上がりながらもブレないヒゲとポテトで安心しました(笑)。

眼魂もだいぶ増えましたね。残りの英雄眼魂やディープスペクター眼魂は何処に。

Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は…
S.スペクター
1.ムサシ(+)
3.ロビン(借)
4.ニュートン(借)
5.ビリーザキッド(借)
7.ベンケイ(借)
11.ツタンカーメン
12.ノブナガ
13.フーディーニ


第22話 「RESOLUTION BLUE」

「そんな…」

 

「紀伊国君…」

 

まさかの展開に驚くしかなかった。悪化する戦況の最中で仲間の逃亡。ただでさえ下がりつつある士気の低下は免れない。

 

「ククク…ハーハハハハハ!!」

 

戦場にコカビエルの高笑いがこだまする。頭を押さえて心底おかしそうに笑った。

 

「何て情けない、とんだ腰抜けがいたものだ!!ハハハハハ!!」

 

皆、悔しそうに歯噛みする。コカビエルが不利な戦況に顔を歪めるリアス達を見据えて言い放つ。

 

「もう奴が戻ってくることはないさ。一度戦場を投げ出した者が帰ってきたためしはない」

 

「…私たちだけでもやるしかないのか」

 

ゆっくりとデュランダルの柄を握り、ゼノヴィアが構えなおす。一人仲間が減りこそしたが戦意は尽きていない。

 

この町は10分も経たないうちに滅びる。それを回避するには眼前で笑うコカビエルを倒すほかない。それゆえ彼らには既に諦めるという選択肢はない。

 

それを見たコカビエルも光剣を握り、いつでも来いと言わんばかりに不敵に構えた。

 

「さぁ、戦いを続けよう。もっと俺を楽しませてくれ」

 

 

 

 

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

 

 

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

走る、走る、走る。

 

息を荒げながらも走る俺は正門を目指していた。先の戦闘で受けた傷が痛むが休む暇なんてない。直にこの町は吹っ飛んでしまうからだ。

 

もう嫌だ。あんな目に合うのは二度とごめんだ。俺は逃げる!走りながら俺はこの町から脱出する方法を走りながらも考えていた。

 

まずは急いで家に帰って財布を回収、そして自転車で駅に直行。快速に乗れば5分もかけずにこの町から出られるはずだ。そうすればあの堕天使とも二度と会うことはない。そして俺は平穏に一生を過ごせる。喉から手が出るほど渇望した物がようやく手に入る。

 

「ははっ…!」

 

そう思うと自然に笑いが出た。俺は生きたいんだ。折角手に入れた第二の人生をあんな連中に壊されてたまるか!

 

「がっ!」

 

途中で足がもつれて勢いよく転んだ。顔を打ち付け、切れた唇から血が滲み出る。

 

「痛ってて…」

 

ふと一瞬振り返った時だった。

 

「ッ!!?」

 

俺の脚を掴み、這いよる二つの影があった。

 

ボロボロの服から見える痛々しい傷だらけの体。片方だけの黒翼、それらは片や金髪、片や黒髪の堕天使の女。両者ともに眼球があった場所に無窮の闇をたたえており、そこからとめどなく血が流れ出ていた。口から洩れるのは言葉にすらなっていない億千もの呪詛。

 

俺はこの二人を知っている。忘れるはずもない。なぜならこの二人は俺が殺した者だから。

 

それが今、亡霊となって俺を地獄に引きずり込もうと現れたのだ。

 

「あああああああ!来るなっ!触るなぁぁ!!」

 

絶叫を上げ、何度も手で振り払うように動かすが手ごたえはない。

 

「来るなあぁァぁァぁァ!!」

 

こんなもの見たくないと言わんばかりに地面に何度も顔を打ち付ける。どんなに痛くても、皮膚が擦り切れて血が流れようと止めなかった。

 

「はぁ…はぁ…」

 

絶叫に喉が痛み、せき込んだ後再び振り返ると影は跡形もなく消えていた。

 

…さっきのはただの幻か。そのときこっ、こっという足音と共にこの場に現れる少女がいた。

 

「おーおー、酷い顔をしておるのう」

 

幻と入れ替わるようにこの場に現れた銀髪の少女。相変わらずのミステリアスな雰囲気を放ち俺を見下ろしている。

 

「あ、あんたは…」

 

「ふふっ、一か月ぶりじゃな」

 

最後に会ったのは合宿の初日だったか。いや、今はそんなことを考えている場合じゃない。立ち上がって少女に告げる。

 

「…話してる暇はない、ここは危険だ。今すぐ逃げ」

 

「妾が何も知らないとでも思うたか?」

 

「!」

 

責めるような声色で話を途中で遮られた。

 

「…何故逃げた?」

 

今度は少女が咎めるような視線を送る。突き刺すような視線が、俺の擦り切れそうな精神を爆破させた。

 

「…そんなの、勝てるわけないからに決まってるだろ!!神と魔王と戦って生き残った堕天使の幹部?あんな桁違いの奴にどうやったら勝てるんだよ!?ライザーとは訳が違う!魔王の妹も、伝説の聖剣も全然あいつに通用しなかった!俺の全力も全くダメだった!そんなのどうすりゃいい!?」

 

身振り手振りも大げさに叫ぶようにして答える。きっと今の俺を鏡で見たらとんでもなく酷い顔をしているだろう。そんな俺の無茶苦茶な感情の爆発を少女は受け止めた。

 

「…」

 

「逃げるしかないだろ!?俺はまだ死にたくない…!やりたいことだってたくさんある!こんなところで死んでたまるか!!」」

 

「…」

 

「…何だよ、その目…」

 

俺の言葉を顔色一つ変えずに少女は聞いていた。その咎めるような視線をそのままに。

 

「おぬしは自分が何をしたのか本当にわかっておるのか?」

 

さきの責めるような声色もそのままに訊ねてきた。

 

「…ああわかってるよ、命惜しさに仲間を置いて逃げたんだ!もう戦うなんてうんざりだ!戦って、傷つけて、殺したって悲しいだけだ、つらいだけだ、痛いだけだ…。いいことなんて何一つないんだよ…!」

 

拳を握りしめ、震える声で答える。

 

思い返せばいつもそうだった。ミッテルトを殺した時、戦いがどういうものなのかを知り、殺しを為し得た自分の力への恐怖に怯えた。レイナーレの時は復讐を遂げ、満足するはずだった。なのに俺の心に残ったのは虚しさと悲しさだけ。

 

ライザーとのレーティングゲームでは友が傷つくのを黙って見ていただけ、飛び出したのは傷つききった後。その後、奮戦しても一瞬の隙を突かれて逆転され結果チームを敗北へと導いてしまった。

 

過程がどうであれ結果的に俺は傷つくばかりだった。

 

「…フフフッ」

 

少女は俺の言葉をおかしそうに笑った。

 

「…なんだよ、何がおかしい…!」

 

そして呆れの混じった声色で言い放った。

 

「おぬしは本当に憶病で、自分勝手じゃのう」

 

瞬間、俺の心が砕けた。目を見開き固まった。

 

どこまでも的を得た言葉。だからこそ深く俺の心に刺さった。

 

「自分勝手を重ねた先に、おぬしの求めるものは何一つないぞ」

 

「あ…ああ」

 

どっと両膝を地面につきうなだれる。顔をくしゃっと歪め、ぽろぽろと涙がこぼれ始めた。

 

「…何だよ…どうしてなんだよ…友達と他愛もないことで笑って平穏な日常を送りたいって願うことの何がいけないんだ…」

 

どうして?どうして皆が普通に欲しいと思うものを俺は欲しがってはいけないんだ。何でそれを邪魔するんだ。幾千の何故、どうしてが脳裏に浮かび上がる。

 

恐怖で心が擦り切れてしまう前に、俺の心は打ち砕かれてしまった。力なくうなだれる俺の姿を見る少女は静かに語り始めた。

 

「おぬしが恐れる戦とは命のやり取りじゃ。互いに譲れぬ物を背負いそれを守るために他者の命を奪い合う。その行為そのものに正しいも間違いもない。兵藤一誠と木場裕斗は既に多くの譲れぬ物を背負っておるぞ。奴らはそれを守るために今、命懸けで戦っておる」

 

少女は俺の後ろにある校庭を見据える。時々聞こえる爆音が俺たちに戦いが続いていることを知らせる。

 

「レイナーレ、ミッテルト…。お前の今までの殺しは間違っておらんよ。おぬしは自分の命と友の復讐というものを背負って戦った。そうでなければもっと多くの罪なき神器所有者が殺されていたことだろうよ。お前の行いはより多くの命を救ったのじゃ」

 

その言葉にはどこか慰め、諭すような色合いがあった。

 

「…なら、俺の行いは正しいことだったのか?」

 

「いや、一概にそうは言えぬ。どんな理由であれ命を奪ったことには変わりはない。じゃが戦は殺生と切っても切れぬ縁を持っておる。仕方のないことじゃ。が、戦いの中で人を人たらしめる心を捨てた者は醜い獣じゃ。殺しに飲まれれば堕ちる。大切なのは心を強く持つことじゃ」

 

「心を…強く持つ…」

 

「心を、優しさを持ち続ける限り、おぬしのものは失われない。おぬしは戦いはつらいだけのものと言ったのう。じゃが、戦いは失うだけのものではない、そこから得られるものもある。戦いに飲まれず、優しさを持つおぬしはまだ堕ちてはいない。おぬしは自身の力と戦いを、他者を傷つけるものではなく前へと進む原動力にできるはずじゃ」

 

…今まで俺は戦いで何かを失うばかりだった。傷つくばかりだった。それでも戦いには得られるものがあるというのか。戦いこそが俺を前進させるというのか。

 

少女の言葉は俺の心にしっかりと響いていた。それでもまだ、俺は立ち上がれずにいた。奴の、コカビエルと死の恐怖に打ち勝てずにいた。砕け散った心は立ち直れずにいた。

 

「…まだ立てぬか。ならおぬしの選択が導く未来を教えてやろう」

 

少女は追い打ちと言わんばかりに語り始める。

 

「おぬしが置いて逃げたオカルト研究部とゼノヴィアはその後も命懸けでコカビエルと戦うじゃろう。じゃが奴らのレベルでは到底かなわず、一人、また一人と殺される」

 

「…!」

 

少女が語る未来の様が俺の脳裏にありありと浮かび上がった。血をまき散らして倒れ伏し、亡骸と化した皆が転がる校庭でコカビエルの笑い声が高らかに響き渡る。

 

…嫌だ。

 

「兵藤一誠はリアス・グレモリーを守るためならと『赤い龍』に代価を差し出して『禁手』になるじゃろう。今度の代償は右腕か、それとも全身かのう?じゃが今のあやつでは莫大な力を制御できない結果、自爆して終わりじゃろうよ」

 

「…やめろ」

 

俺の言葉に少女は耳を貸さない。

 

「仮に生き延びたとしても魔方陣の起動によってすべてが消し飛ぶ。誰も生き残ることはできんよ」

 

「…やめろ!」

 

声を荒げても言葉を続けた。

 

「こうしておぬしは居場所も、仲間も、友も全てを失う。妾の力があればおぬしを逃がすことが出来るじゃろうが、おぬしはその途方もない後悔を一生背負い、苦しむことになる。それがおぬしのみら」

 

それ以上は聞きたくない。その一心が俺を動かし、立ち上がり少女の胸倉を掴み大声で声をかき消した。

 

「やめろ!!」

 

フーフーと息を荒げ、睨み付ける。その様子を見ても少女は表情一つ変えることなく俺に問いかけた。

 

「この運命を変えたいか?」

 

「…ああ、変えたいよ。そんなクソみたいな運命…!でも俺なんかじゃ…勝てねえよ…あいつに…」

 

胸ぐらを掴む手の力が緩み、やがて離す。仲間を置いて逃げ出した俺なんかに…。

 

そう思った矢先、今度は少女が勢いよく俺の胸倉を掴み上げた。

 

「いつまでくよくよしておる!!甘えるな!その自分の弱さが、甘さこそがおぬしの大切なものを危機にさらすのじゃ!!」

 

「!!」

 

お返しだと言わんばかりに今度は向こうが声を張り上げて語る。

 

俺が皆を危機にさらしている…?俺の心に衝撃が走った。その衝撃がさっきまで俺の心に滾っていた怒りをかき消した。

 

「おぬしは『どうせ』という言葉で理由付けをして逃げてるだけじゃ!自分から、自分の力から、自分の運命からもな。逃げるのは簡単で、とても楽じゃろう。じゃがな、逃げを選ぶことは運命を変えることを願う権利を捨てることに他ならないのじゃ。運命を変える権利を得られるのは立ち向かい、抗う選択をしたものだけなのじゃ!」

 

「運命を…変える…」

 

…そうだ。全部こいつの言うとおりだ。いつだって俺は逃げてばかりだった。前世だって楽な方に流されるばかりの人生だった。現状を嫌だと思ったことは多々あった。

 

でも、俺はちっとも現状を変えようと立ち向かったことは一度だってなかった。そんな俺にハナから運命を変えようと願う資格などなかったのだ。

 

「これから敵は、世界の悪意はおぬしの大事なものを奪おうと何度でも牙をむくぞ。おぬしは奪われるままに奪われ、傷つくだけでいいのか?おぬしの大事なものを守れるのはおぬしの力と意志だけじゃ!」

 

俺の大切なものが奪われる…?

 

…嫌だ。そんなの嫌だ。大切なものを失ってまで俺は…生きたいとは思わない。あの時のように喪失感を抱えてまで俺は生きたくない!

 

でもそれを守るのが…俺自身の力なんて、今まで誰かを傷つけるばかりだった俺の力で守れるなんて、本当にそうだろうか。

 

「おぬしはまだ真に自分の力と向き合っていないじゃろう?本当はちっとも考えようとせず、状況に流されるばかりでそのうち答えが出るだろうと思考停止していただけなのではないか?」

 

「!!」

 

…そうだ。全部こいつが考える通りだ。力と向き合うと言っておきながら俺は何一つそれについて考えていない。

 

今回の件に首を突っ込んだのは俺の力と向き合うためと言った。でもフリードやケルベロスと戦って力を使ったが、その力について何も考えていなかった。それこそ思考停止して状況に流されるだけだった。

 

「おぬしは問題を先送りしていただけなのじゃな。─今がその時じゃ。逃げるな。己の力と向き合い、その責任を果たして見せろ!その先に道は必ずある!大切なものを捨てて逃げた先にあるのは後悔という地獄じゃ…!!」

 

決断を、選択を迫られた。ここでも決断を先送りにして醜く生き延びるか、己の力と向き合い、絶対的破滅に抗うため立ち向かうかの二択を。

 

力の責任ならサーゼクスさんにも同じことを言われた。責任。それが何のことなのか俺は未だわからずにいた。

 

「おぬしには大切なものがあるのじゃろう?愛おしく、守りたいものがあるのじゃろう!?おぬしはそれを失いたくないのじゃろう!?」

 

「ッ…!」

 

でもその言葉で気付かされた。今まで自分の命惜しさにすっかり忘れていた。

 

…そうだ。俺には大切なものがあった。関西弁のイケメン、クラス屈指の優等生な美少女、どうしようもないくらいに変態だけど情に厚くてどこまでも真っすぐなバカ。合宿で共に過ごしたオカルト研究部の皆。あいつらと過ごすのが俺は楽しかった、嬉しかった、最高だった。

 

なんでこんなことに今まで気づかなかったんだ…!どうしてあいつらを見捨てることができるんだ…!俺は皆を失いたくない。皆が笑って過ごせる日常を失いたくないんだ!!

 

「大切なものを守りたいのなら、『仮面ライダー』の力を持つ者なら!戦え!紀伊国悠!!」

 

「…!!」

 

そこまで言って、ようやく少女が俺の胸倉から手を離した。

少女は伺う。俺の言葉を待っている。

 

もし、本当にできるのなら。

 

こんな仲間を見捨ててしまった俺でも、どうしようもなくヘタレな俺でも本当に皆を守れるのなら。

 

燃えカスになった俺の心に小さな希望の火の粉がついた気がした。

 

「…俺はあいつに勝てるか?」

 

もし、コカビエルに勝てるなら。

 

「それはおぬしの力次第じゃ。おぬしの力は心の力、意思そのものじゃ。おぬしに強い意思があればおのずと力もそれに応える」

 

俺の力は心の力。今までそうではないかと思ったことは何度かあった。レイナーレ戦やライザー戦の時感情の高ぶりに応じて俺の力が跳ね上がっていくような感じがした。

 

「本当に運命を変えられるか?」

 

もし、立ち向かうという選択で皆の破滅の運命を変えられるのなら。

 

「それはおぬしの意思次第じゃ。──願え。大切なものを守りたいと。すでに運命の扉を開けるカギはおぬしの中にある」

 

運命を変えるカギ。

 

…そうか、そうだったのか。今まで、俺の意志と力がずれていたんだ。誰も傷つけたくない意思と、誰かを傷つけるために振るわれる力。そのズレこそが俺が今まで悩み苦しんだ原因、そしてそのズレなく重なり合った俺の意志と力こそが運命を変えるカギだったんだ。

 

それは俺の心に絡みついた迷いと恐怖の鎖につけられた錠を外すカギでもある。

 

「……」

 

…決めた。今まで俺は平穏を追い求めるあまり停滞していた。

 

でもこれからは大切なものを守りたいという意思と力を重ね合わせて、原動力にして前に進む。もう振り返らない。恐れない。

 

今までのような思いをしないためにも、今後の脅威から皆を守るためにも俺の力を使う。この誓いこそが俺が導き出した『答え』だ。曲がりくねった道を歩いてようやくたどり着いた。

 

〈挿入歌:BLAVING!(遊戯王ZEXAL)〉

 

「…最悪だ。こんなに逃げたいのに、逃げずに立ち向かえだなんて」

 

思わず笑いを漏らしてしまった。

 

「あんた、ほんとにどこまで知ってるんだ?」

 

俺の力を仮面ライダーという単語を使って呼ぶなんてまさか…。俺の問いに少女はいたずらっぽく笑って誤魔化した。

 

「ふふっ、それはコカビエル討伐の報酬じゃ。いつかのゲームのようにな。…今度こそ、全てを話そう」

 

いつかのゲームか。あの時も同じようにひょっこりと現れ、俺を立ち直らせたんだっけな。

 

「…決めた。俺の思いが、力が皆を守れるなら俺は迷わず使う。大切なものは何一つ離さない、奪わせたりしない!!これが俺の『答え』だ、力の責任の取り方だ!!」

 

俺にはこの世界で得た大切なものがたくさんある。オカルト研究部の皆、天王寺、上柚木、クラスの皆。

 

もしそれを壊そうというのなら、俺は守るために戦う。誰かを守る意思と、誰かを守るために振るう力。それが運命を変える、俺だけの答え、俺だけのカギだ。俺の心に決意と希望の炎が燃え盛る。

 

いつもと違う青い燐光を放ちながらドライバーが腰に現れた。これから踏み出すのは大きな第一歩だ。

 

「見ててくれ、俺の…変身!」

 

戦士『仮面ライダースペクター』としての最初の一歩。

 

スペクター眼魂を取り出し起動する。ドライバーのスイッチを押してカバーを開き、眼魂をセットした。

 

そして両腕を右に振るいながらドライバーのカバーを閉じる。

 

〔アーイ!バッチリミロー!バッチリミロー!〕

 

ドライバーの目のような部分から青い光と共に黒と青のパーカーゴーストが出現し宙を自在に飛びまわる。俺は右手の拳を力強く握り、引き寄せる。

 

そして堂々と力強く言い放つ。ある意味宣言とも言えるだろう。自分を変えて、新たな自分になるための言葉。

 

「変身ッ!」

 

ドライバーのオレンジ色のレバーをしっかり握り、引いた。

 

〔カイガン!スペクター!〕

 

ドライバーから迸った霊力が俺の体に纏わりついてスーツとなる。

 

〔レディゴー!覚悟!ド・キ・ド・キ・ゴースト!〕

 

パーカーゴーストが上から覆いかぶさるようにウィスプホーンが起き上がって完了した。

 

源泉から水が湧き出るように力が溢れる。今までの比ではないくらいに。おもむろに少女へと向き直り、礼を告げる。

 

「…ありがとう、行ってくる」

 

「ああ、おぬしの仲間たちを救ってこい」

 

少女は満足げに頷き、俺の肩を叩いた。さっと振り返り、逃げてきた戦場を睨めつける。

 

俺の心に今までの恐怖は微塵もない。颯爽と先ほどまで恐怖を感じていた戦場へと駆けだした。

 

「見せてもらおうかの…おぬしが本当に『特異点』かどうかをな」

 

〈BGM終了〉

 

 

 

 

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「くっ……」

 

傷だらけの剣を支えにして膝を突く。既に裕斗の剣は先ほど覚醒した禁手の聖魔剣ではなく、元の魔剣に戻っていた。禁手による体力の消耗と激しい戦闘による消耗が重なったからだ。

 

この場でまだ膝を突かずに立っているものはアーシアとコカビエルの二人のみである。回復要員であるアーシアは自らの神器で仲間の回復に尽力していた。

 

圧倒的実力を持つコカビエルを相手に何度も攻撃を仕掛けたグレモリー眷属とゼノヴィアであったが、どんな攻撃や連携も神や魔王と戦った堕天使幹部に膝を突かせることすらできなかった。

 

皆、苦痛と体力の消耗に顔を歪めながらもその目は死んでいなかった。何度でも彼らは喰らいついた。町を破壊せんとする宿敵を倒すために。しかし破滅へのカウントダウンは無慈悲にも刻一刻と迫り、既に7分を切っていた。

 

「…まだだ」

 

剣を支えにして裕斗がふらふらと立ち上がる。それに応じて皆も立ち上がった。

 

「これ以上僕は、大切なものを失う訳にはいかないんだッ!」

 

皆が再び各々の戦闘の構えに入る。その目は絶対にあきらめないという強い意志と覚悟を宿し、燦々と輝いていた。

 

それを見たコカビエルはあざけるように笑った。

 

「…フン、しかし、教会の者は仕える主を失ってよく戦えるな」

 

コカビエルの意味深な言葉にリアスが追及した。

 

「何だと…?」

 

「どういうこと!?」

 

「なんだ、知らないのか。なら冥土の土産に教えてやろう!」

 

堂々と声を張り上げ、真実を暴露する。

 

「先の大戦で四大魔王だけじゃなく、聖書の神も死んだのさ!!」

 

彼のカミングアウトに、この場にいる皆が絶句した。

 

「な…!?」

 

「そんな…!!」

 

「う…嘘だ…」

 

主への信仰心のあるゼノヴィアとアーシアは大きく目を見開き、衝撃にわなわなと身を震わせた。

 

「知らないのも当然だな。先の大戦で三大勢力は大いに疲弊し、種の存続の危機に陥った。純粋な天使は増えることが出来なくなり、悪魔は人間を『悪魔の駒』で転生悪魔にする。どの種族も頼る人間に頼り、その人間も神がいなくては満足に生きられないからな。そんな中神の不在が知れ渡ればどうなる?勢力の均衡は崩れ、事実の露呈は人間界にも他神話にも多大な影響をもたらす」

 

「この事実は三大勢力でもトップの一部しか知らないものだ。この現状で戦争など誰も起こそうとしないさ」

 

「あ…ああ……」

 

あまりの衝撃に狼狽していたゼノヴィアがへたりとうなだれる。

 

「どの勢力も戦争で泣きを見た。神や魔王を失った悪魔と天界はまだしもアザゼルはこれ以上の戦闘は無意味と引き上げやがった!!一度上げた拳を引っ込めろだと!?耐え難い…耐え難いんだよッ!あのまま戦っていれば勝てたかもしれないのだ!!」

 

話しながらヒートアップしていき、拳を握り声を荒げた。

 

「主は…本当に主はいないのですか?なら…私たちが授かる主の愛は…」

 

おぼつかない足取りと声でアーシアが訊ねる。その姿は今にも脆く壊れてしまいそうなガラスの印象を与えた。

 

「そんなもの、最初からなかったのさ。貴様たちが主の愛だのと呼ぶものは天界にある神が残した『システム』によるものだ。神がいなくてもシステムさえ機能すればある程度の悪魔祓いや奇跡は起こせるからな。セラフ共はよくやってるよ」

 

「そんな……」

 

ぷつりと糸が切れたようにアーシアが倒れこむ。信仰心の深い彼女にとってそれほどまでに主の不在は衝撃的な事実だった。

 

「おいアーシア!?しっかりしろ!アーシア!!」

 

駆け寄った一誠が肩を揺らし、懸命に呼びかけるも何の反応も示さなかった。コカビエルの視線が裕斗へと移る。

 

「小僧、貴様の聖魔剣も神の不在の証拠だ。神と魔王が死んだことで聖と魔のバランスが崩れたからこその現象だろうよ」

 

今度は手を広げ、天を仰ぎ高らかに宣言した。

 

「俺はこれを機に戦争を起こす。貴様らグレモリー眷属の首を橋頭堡にし、サーゼクスやミカエルに我ら堕天使の力を思い知らせてやるのだ!!」

 

皆が彼に気圧されて息を飲む中、彼の宣言に果敢にも食いついたのは一誠だった。 

 

「ッ!ふざけんな!戦争だかなんだか知らねえけど、テメエの都合で俺の仲間を、部長を、この町を壊させてたまるかよ!!」

 

「だったらどうする?神や魔王に喧嘩を売った赤龍帝といえども貴様のような貧弱な使い手では俺を屠れんよ」

 

「くっ…!」

 

コカビエルの言葉に一誠が歯噛みする。

 

如何に強力といわれる神器を持っていたとしても使い手の力量によっては宝の持ち腐れになってしまうということは一誠が一番理解し、悩むところでもあったからだ。

 

天を仰ぐコカビエルが天に向けて伸ばした拳を握る。

 

「この町を滅ぼしたのち、まずは天界から攻撃する!俺の背に古傷を残したウリエルにお礼参りをしなければならないからな!!」

 

天を向いていたコカビエルの目線が再び皆に向いた。

 

「だがまずは」

 

おもむろにコカビエルの目線がゼノヴィアへと動いた。

 

「俺を一番がっかりさせてくれたデュランダル使い、貴様からだ。デュランダルの使い手と知り期待したが…とんだ期待外れだったな」

 

嘆息しながらも宙を撫でるように手を動かし、光槍を生成する。その穂先がうなだれる教会の剣士へと向けられる。それを見た一誠が声を張り上げる。

 

「ゼノヴィア!逃げろ!!」

 

「…」

 

それをゼノヴィアは意に介さなかった。いや、今まで仕えてきたはずの主の不在を知り、信念も、熱意も全て打ち砕かれた彼女にはそんな余裕などなかった。

 

「もういい…主なき世界なんて私は…」

 

それこそ、禁忌とされてきた自殺を望むほどに。好機といわんばかりに光槍が空を切り、ゼノヴィアに迫る。

 

「ゼノヴィア…!!」

 

裕斗が彼女を抱えて回避せんと走ろうとするが、消耗しきった体は言うことを聞かない。その間にも槍は距離を詰める。

 

「主よ…私もあなたのもとへ…」

 

槍との距離が5歩分になった時、剣士と槍の間に割り込む影が現れた。

影はロッド型の武器で光槍を防いだ。

 

「お前は……」

 

 

 

 

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

 

 

 

 

 

校庭にたどり着いた俺は力なくうなだれるゼノヴィアさんがコカビエルの攻撃を受ける光景を目にした。

 

それを見てもなおゼノヴィアさんは全く回避する様子も見せない。うなだれたままだ。俺が校庭から逃げ出した間に何があったのだろうか。

 

「何やってるんだ…!」

 

毒づきながらも地面を蹴り、放たれた槍とゼノヴィアさんの間に割り込み、ガンガンハンドで防御する。

 

「ぐ…ううううう!!」

 

槍とロッドが激しく火花を散らす。堕天使幹部の槍なだけあり、とんでもない威力だ。凄まじいパワーに押されないように足腰にも力を入れて踏ん張る。

 

「うう…らぁっ!!」

 

腕を振り切り、槍を明後日の方向に吹っ飛ばした。数秒の後、遠くで爆発音が聞こえた。

 

「…」

 

〈BGM:貫く信念(遊戯王ZEXAL)〉

 

仮面の裏から、毅然とした目でコカビエルを見据える。

 

「紀伊国!?」

 

「先輩…!」

 

「紀伊国君!」

 

「君は…なんで…」

 

皆が俺の登場に驚く中、うなだれていたゼノヴィアさんが顔を上げて弱々しい表情で訊ねた。それに俺は答えた。

 

「一度は協力した仲だ、なら仲間だろう?」

 

変身中は通じるが普段は言葉が通じなくて会話も数えるほどしかなかった。それでも俺はゼノヴィアさんとこの戦場で志を共にし、背中を預けあって戦った。もう仲間といってもいいだろう。

 

「仲間なら、もう誰も俺の目の前で死なせない。だから命を投げ出すな、生きろ」

 

「…!」

 

俺の言葉に、まだ弱々しいながらもハッとした表情を見せた。後でなんであんなことをしようとしたか聞かないといけないからな。

 

「馬鹿か、拾った命を捨てに来たか!」

 

嘲笑をしながらコカビエルが俺に言った。

 

「…いや、死ぬつもりはないさ。でもな」

 

周りで俺を見つめる皆を一瞥する。

 

「どれだけ相手が格上だろうと立ち向かっていくこいつらの馬鹿が移ってしまったみたいだ」

 

こいつらはライザーの時だってそうだった。自分達より格上だとわかっていながらも「それでも」と現実に立ち向かっていった。そして、閉ざされた運命の道を切り開いた。

 

今回だってそうだ。ライザーの時とは規模も違うのにこいつらは諦めずにコカビエルに立ち向かった。そんなこいつらを見ていて俺もそんなことができるようになりたいなと思った。

 

だから、今度は俺が閉ざされた運命の扉を開けるカギになる。ふと、サーゼクスさんと話した時のことを思い出した。

 

 

 

『…俺は怖かったんです。この力で相手を傷つければ傷つけるほど大切な物を失うような気がして、大好きな日常からどんどん遠ざかっていくような気がしてたんです』

 

 

 

 

憧れて得た力で命を殺め、その力が自分に御せるものじゃないと怯え、逃げていた。

 

でもそうじゃない。がむしゃらに恐れを抱えながら力を振るうだけの今までと違い、今の俺には明確な『答え』がある。力を使うことへの覚悟と勇気がある。

 

「大切なものが遠ざかっていくとか、なくなっていくとか…その逆だ」

 

恐れて逃げるのではない。向き合い、現実に立ち向かう。そのための力。

 

「大切なものをなくさないために、奪わせないために、『守る』ために戦うと、そう決めた!!」

 

フーディーニ眼魂を取り出し、握る。

 

今までは使えなかった眼魂。だが、今になってその理由が分かった気がする。

葛藤、後悔、恐怖という鎖に縛られた俺の心を脱出王は見抜いていたのだ。その鎖から解き放たれて、前に進む覚悟を持った今なら使える。その確信がある。

 

「…俺に、力を貸してくれ!」

 

〈BGM終了〉

 

意を決してスイッチを押す。13の数字が浮かび上がり、すかさずドライバーに装填した。

 

〔アーイ!バッチリミロー!バッチリミロー!〕

 

スペクターのパーカーゴーストが消え、顔が銀色ののっぺらぼう状態のトランジェント態に戻る。ドライバーから音声が流れるが、一向に変化は訪れない。

 

その様子を見てコカビエルがおかしそうに笑った。

 

「くっ…ハハハハハ!!なんだただのハッタリか!!」

 

一転して、怒気をはらんだ声を放った。

 

「俺を侮辱するのも大概にしろ」

 

その一言に今まで以上のプレッシャーが込められていた。それに俺ははぐらかすように答えた。

 

「さて、それはどうかな」

 

「なんだと?」

 

ブロロロロロ…

やがて低く唸るエンジンの音が聞こえ始めた。

 

「…何だ、何の音だ?」

 

「これは…バイクの音?」

 

発信源はコカビエルの遥か後方。誰もがそこに視線を注いだ。

 

次第に音は大きくなっていき、ついにその姿も見え始めた。

 

鎖をあしらった青いバイク、マシンフーディー。それが運転する者なくひとりでにこちらに走ってくる。

 

「何だあのバイク!?」

 

兵藤が困惑の声を上げ、コカビエルは顔色一つ変えず羽根手裏剣で弾幕を張る。

 

羽根手裏剣の嵐の中、フーディーはするすると糸を縫うように弾幕の隙間を進む。やがてコカビエルとの距離が数歩分に迫る。

 

「ふん!」

 

瞬時に生成した槍を突きだす。しかしフーディーはウィリーの態勢に入り、易々とコカビエルを飛び越えてしまった。

 

そのまま飛び越えてきたフーディーがこちらに向かい、旋回して俺の隣に止まる。

 

するとガコンという音を鳴らしながらフーディーが真っ二つに割れ、中からバイクと同じカラーのパーカーゴーストが姿を現した。

 

「バイクが変形した!?」

 

こいつらさっきから驚いてばっかだな。まあ流石にバイクが無人で動いたり真っ二つに割れるのを見て驚くなと言うのが無理な話か。

 

レバーを引いて眼魂の霊力を解放する。

 

〔カイガン!フーディーニ!〕

 

バイクを背負った群青色のパーカーゴーストが上から覆いかぶさるようにして身にまとう。

 

〔マジいいじゃん!すげぇマジシャン!〕

 

顔のヴァリアスバイザーに群青色のカギ付きの鎖の模様『フェイスリストレイント』が浮かび上がり、いつものウィスプホーンより大型の『ストライカーホーン』が起き上がり変身完了する。

 

「俺の生き様…見せてやる」

 

その言葉に、内に滾る決意の炎を乗せた。

 

 

 




遂に悠が戦う覚悟を決めました。
友達からの頼みでもなく、復讐という達成してしまえば終わるものでもなく、自分自身の意思で。
ここまで長かったですね。

ある意味、戦士胎動編はこの回と次の戦闘のためにあるようなものです。後は今後に向けて伏線をばらまくこと。



次回、決着!…多分、ヒロインも明かします。

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