ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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もう一万字を超えることになんとも思わなくなってきたこの頃。

D×Dのメモリアルブックが出るそうですね。しかもDVDの特典だったEXもついてくるという。未公開の設定も合わせてとても楽しみです。…今作のEXの内容、どうしよう。

Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は…
S.スペクター
1.ムサシ
3.ロビン(借)
4.ニュートン(借)
5.ビリーザキッド(借)
7.ベンケイ(借)
11.ツタンカーメン
12.ノブナガ
13.フーディーニ


第23話 「仮面ライダースペクター」

聖書に記されし堕天使と対峙するのは群青色のパーカーを纏い、その背に真っ二つに割れたバイクのようなユニットを背負う異形のシルエットを持つ戦士。戦士の全身に走る青いラインは今までにないほどの強い輝きを放っている。それは覚悟を決めた俺の意志の具現である。

 

仮面ライダースペクター フーディー二魂。

このフォームが使う特殊な鎖『タイトゥンチェーン』は最長500mまで伸ばすことができ、パーカーの布地『レビテーションコート』にも編み込まれ防御力を高めている。

 

今までのゴーストチェンジと大きく異なるシルエットを持つこのフォームの最大の特徴は背部のユニットによる飛行能力である。飛行ユニットを背から分離してグライダーモードにすることも可能であり、マシンフーディーのホイールは回転翼『シュトゥルムローター』になりこの中心部にはタイトゥンチェーンを生成し射出する装置が組み込まれている。

 

フード部の『サイキックハンターフード』が放つ波動は変身者の意識と感覚に作用し、物事の本質を見抜く力を高める。また頭部に備えられた飛行ユニット管理装置『ラズリアビオニクス』は回転翼の出力バランスを自動調節し、分離した飛行ユニットの遠隔操作する機能を持っている。

 

〈挿入歌:GIANT STEP(仮面ライダーフォーゼ)〉

 

背中のユニットを分離すると、俺とコカビエルの上空を旋回し始めた。地上での接近戦なら背中のユニットは邪魔になるからだ。

 

大地を踏みしめ、拳を強く握る。奴は俺の攻撃に剣を構えて備えている。

刹那、蹴る、馳せる、右拳を突きだす。

 

「がっ!!?」

 

奴は俺の動きに全く反応できずに攻撃を受けた。火が付いた俺の戦意、覚悟は今まで届きもしなかった格上の相手の領域に一時的に届くレベルの強さを俺に与えてくれた。

奴は何が起こったか全くわからないといった表情をしている。

 

「はぁっ!」

 

「ぐっ!」

 

今度は左拳の拳打。迸る霊力が宙に青い線を描き、真っすぐコカビエルの腹に打ち込む。心地よい快音が空気を揺るがした。衝撃によろめくコカビエルに追撃を加える。

 

「せやっ!!」

 

「がああっ!!」

 

右足の蹴り。真っすぐコカビエルの腹に叩き込み、ザザザとコカビエルが後ずさる。

 

「何だこいつ…!さっきとは比べ物にならない程パワーもスピードも上がっている…!」

 

ぷっと血を吐き捨て、口元を拭う。やつは信じられないといった顔をしていた。

挨拶代わりのつもりだったが、十分すぎるくらいだったみたいだ。

 

「本当に、俺の心に応えているのか」

 

拳を握り、己の力の上昇を改めて実感する。

いける。これならコカビエルに勝てる!

 

「お前は今、この場で俺が倒す!!」

 

相手を指さしての宣言。奴の表情が憤怒の色に染まった。

 

「やれるものならやってみろォ!!」

 

今度は奴から動いた。両手に光剣を携えて間合いを一気に消し飛ばして来る。

 

「!」

 

一歩分の間合い、コカビエルが双剣を振るう。奴の怒りを現すように苛烈な剣技が迸る。

 

ステップを踏み、後退し上体をそらす、体を横に捻る。暴力的なまでの剣技の嵐を俺は全て躱し続ける。

 

右左下、下段から振り上げ、袈裟、薙ぎ、突き、交差、平行線を描く薙ぎ、斜め下、斜め上、中心を狙う突き。

 

奴の戦意、殺意の乗った熟練の剣技。全て躱す。俺も奴の剣技と同等のスピードで。

 

奴の攻撃は普段の俺なら目に収めることも出来ずに細切れにされるレベルの速さであることはわかっている。そもそも普段の俺がこんな達人めいた芸当を出来るはずもない。

 

だが見える。はっきりと奴の動きが。

 

奴の剣筋、剣閃。奴が剣を振り上げ、振り下ろすまでの一連の動作がコンマ一秒にも満たない時間の間に脳が理解し、回避行動に移す。

 

全身に走る青い光は俺の身体能力を超人的、いやさらに上の域へと押し上げている。身体能力だけでなく反射神経、集中力さえも。

極限まで高まった集中力と身体能力によって俺はこの妙技を為し得たのだ。

 

「くそ、何故だ!?何故俺の攻撃が当たらない!?」

 

ふと、奴の動きに焦りが混じった。同時に動きに乱れが生じる。

 

「…ッ!!」

 

その隙を狙って、前進。糸を縫うように拳を腹にぶち込む。ドゴン!と快音を響かせ、コカビエルの動きが止まる。

 

「ぐふぅ!?」

 

「おおおおお!!」

 

続けて血を口の隙間から垂れ流すコカビエルの顔面に渾身の力を込めたパンチを真正面からぶちかます。手ごたえあり。メキッという音が一瞬聞こえ、木っ端の如く大きく後ろに飛んで行った。

 

奴は何度か地面をバウンドした後、ザザザと砂煙を巻き上げて横転してようやく止まった。

 

確かな手ごたえを感じた。…だがそれでも、終わらない。

 

「…く、そがァ!!」

 

向こう側、咆哮と共に立ち上がる。乱れた長髪を振り回すと奴のボロボロになった顔が露わになった。鼻は折れ曲がり、片眼は真っ赤だ。それでも尽きることの、衰えることのないギラギラとした戦意に満ちた目をもって俺を刺殺さんばかりの勢いで睨み付けてくる。

 

まだ終わりそうにないか。

俺は滾る力をそのままに地を踏みしめる。その時。

 

「…地上戦では貴様に分があるようだが、空中からの攻撃はどうだ!?」

 

コカビエルが10枚の翼を広げ、空へと飛んだ。

 

やつは俺が飛べないと思っているらしいな。なら、ここはひとつマジシャンとしてその名を轟かせたこのフォームらしく奴を驚かせてみるとするか。

 

「来い、フーディー!」

 

俺の呼びかけに応じて今まで空で旋回していたユニットが俺に向かって飛んできて再び背中に合体した。助走をつけて地面を蹴ると4枚の回転翼が回転し、俺を空へと舞い上がらせる。

 

初めての飛行だが眼魂側からのサポートを受けているような感覚があった。向こうが俺のイメージ通りの飛行を可能にしてくれる。だが初めての飛行に感動している余裕はない。

 

ドン!と霊力を解放して加速し、天で待ち構えるコカビエルに近づく。

 

「その神器は飛行能力も持っているのか…!」

 

毒づきながら広げた翼から鋭利な羽根を射出する。無数の黒い弾丸が俺に迫る。すぐさま旋回、迫る弾丸は虚空を切り校庭に降り注ぐ。

 

再び加速して近づこうとするが奴は即座に羽根手裏剣を飛ばす。丁度羽根の間を縫って行けない程の羽根間の狭さ、速度もかなりのもので本体に近づけず回避に精一杯。俺はたちまち攻めあぐねるようになってしまった。

 

「遠距離戦が望みなら!」

 

〔ガンガンハンド!〕

 

ドライバーからガンガンハンド銃モードを召喚。

 

加速、同時に羽根手裏剣が飛んでくる。俺はそれに追いつかれないようにぶっ飛ばしながらコカビエルの周囲を旋回する。そうしながら俺はガンガンハンドを片手で持ち、コカビエルに銃口を向けると同時にトリガーを引く。

 

「ぐっ!?」

 

腕から血が噴き出す。殺到する銃撃が次々に命中していく。

 

「がっ、ぐが!おのれぇ!」

 

コンパスが円を描くように俺は羽根手裏剣から逃げつつ空に大きな円を描きながらコカビエルという円の中心を銃撃している。

 

「…ちまちまとした攻撃では埒が明かないか!」

 

羽根手裏剣の射出をやめ、奴がバッと両手を天に掲げる。そして宙に光槍が生成される。そのまま投げつけるかと思いきや、奴はそうせずに手を掲げ続け、槍はドンドン大きくなっていく。やがて身の丈の何倍はあるだろうサイズにまで大きくなった。

 

「…マジか」

 

「消し飛べェェェ!!」

 

奴が投げつけるように腕を振るい、同時に巨大な槍が俺目掛けて放たれた。

 

「流石にあれはまずいな…!」

 

槍は羽根手裏剣に比べると速さは劣るものの圧倒的な大きさによる攻撃範囲の広さでは大きく勝っている。ゴウッと風を切る音も同時に迫り、今いる所から離れようと急いで回避運動を取り、すれすれで回避に成功した。

 

「油断したな!!」

 

槍を躱した次の瞬間、コカビエルが開いた拳をグッと握る。すると躱した槍が一際眩しい光を放ち、ただでさえ巨大な槍の大きさの二倍はある大爆発を起こした。

 

「っ!」

 

避けようのない規模の爆発。光と炎が俺を飲み込まんと迫ってくる。回避運動を取る間もなく俺はあえなく光と炎に飲まれた。

 

 

 

 

 

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「紀伊国!」

 

「そんな…」

 

校庭で戦いを見守るオカルト研究部の皆から悲嘆の声が上がる。

 

「クククッ…」

 

空を飛ぶコカビエルの口からは小さな笑い声が漏れる。

 

「ハーハハハハ!!」

 

そして抑えることなく、天にコカビエルの笑い声が高らかに響き渡る。

 

「突然のパワーアップには驚いたが…所詮は人間。俺に勝てるはずもない!」

 

「誰がお前に勝てないって?」

 

突然、虚空から声が聞こえてきた。その声とはもちろん、俺だ。

 

「…貴様、生きているのか!?どこにいる!?」

 

コカビエルは俺を探そうとせわしなくあたりを見回し、声の出所を探る。

 

ポン!

 

マジックで使われるような音がコカビエルの背後に鳴り、先ほど爆発に飲まれたはずの俺が現れる。

 

「爆発からの脱出マジック成功、ってな」

 

フーディーニは脱出マジックで名をはせた偉人。当然その魂を宿すこのフーディーニ魂もそれにちなんだ緊急脱出能力、というよりはちょっとした瞬間移動ができる。

 

「ッ!なんだと…!!」

 

俺の声で存在に気付いた奴が振り向き距離を取ろうとするももう遅い。既にチャージは完了しているしこの距離なら外しようもない!

 

青い輝きを放つロッドを力強く突きだす。

 

〔オメガスマッシュ!〕

 

「ぐぅぅぅッ!?」

 

霊力のこもった一撃がコカビエルの背に炸裂する。コカビエルが今まで一番大きな苦痛の声を上げた。

 

背中が弱点だったのか?それとも当たり所がよかっただけか?痛みに耐えかねたコカビエルの動きが完全に宙で停止した。肩で息をして翼の動きもぎこちない。奇貨居くべしと俺は天を向いて、さらに上空へと飛行した。

 

風を切る、より高く飛ぶ。高く高く高く。もっと高く。

 

やがてこの学園を覆う球状の結界の頂点が見えてきた。そこでユニットを分離してグライダーモードにし、ユニットに足を乗せる。

 

「幕切れだ」

 

レバーを勢い良く引き、必殺技を発動させる。

 

〔ダイカイガン!フーディー二!〕

 

回転翼から勢いよく鎖が射出され、真下にいるコカビエルを絡めとる。刃のごとき鋭さを持つ翼ですら鎖に巻き付かれ断つことはできなかった。翼、両腕両脚を完全に封じられたコカビエルが吼えた。

 

「俺を追い詰める人間……!貴様は一体、何なんだ!?」

 

俺が一体何者か、か。

 

「俺は…」

 

今までの俺は仮面ライダーの力を持っただけのただのヘタレな高校生だった。

 

「俺は…!」

 

でも守る覚悟を、戦う勇気を持った今なら、胸を張って言える。

 

「『仮面ライダースペクター』だァッ!!」

 

グライダーから飛び降り、落下の勢いを利用して跳び蹴りの態勢に入る。

足が眩い群青色の霊力を纏い、落下の最中俺は体をひねり回転を加えた。

 

〔オメガドライブ!〕

 

「ハァァァァァァァァ!!!」

 

烈叫が迸り、キックが深々とコカビエルの腹に突き刺さり、ドッという鈍い音が空を叩く。奴は鎖で動きを封じられていたため抵抗もできず、真正面から全力の攻撃を受けた。

 

「ガハァァッ!!」

 

盛大に血反吐を吐き、目を見開く。インパクトと同時に回転翼が鎖を巻き取りコカビエルを鎖から解放した。

 

すると重力に従い、キックの威力も相まって流星と見まがうほどの速さで奴は地面に落下した。

 

ドォォォォォン!!

 

地面に叩きつけられると同時にキックと同時に叩き込んだ霊力が炸裂し大爆発を起こした。爆発が地をえぐり、烈風と砂煙が巻き起こり大地と大気を揺るがした。

 

「おおっ!?」

 

風にあおられながら俺も地面に落下するかと思いきや、颯爽と飛んできたグライダーに足を乗せ、事なきを得た。

 

そのままゆっくりとした速度で高度を落とし、校庭に降り立った。

 

〈BGM終了〉

 

「紀伊国!」

 

「紀伊国君!」

 

「先輩」

 

校庭に降り立った俺にオカルト研究部の皆が駆け寄ってきた。さっきまでボロボロで立つのがやっとな感じだったのにそんなものを微塵も感じさせないくらいに皆の顔は嬉しさに満ちていた。

 

「お前、勝手に逃げるなよ!」

 

「一時はどうなるかと思ったわ…」

 

「よく帰ってきましたわね」

 

各々、安堵の声を上げるなど様々な反応を見せる。でも共通しているのは俺の帰還を喜んでいるということだ。

 

皆に話したいことがたくさんある。だがそれを話す前にまずは言わなくてはいけないことがある。

 

「…本当に、ごめんなさい!」

 

バッと深々と頭を下げて謝る。皆、突然の謝罪に驚いていた。

 

「俺は自分の命惜しさに皆を置いて逃げてしまった…!許してもらえなくて当然のことをした…!だから俺を」

 

「でも、あなたは戻ってきた」

 

気のすむまで殴ってくれ。その言葉をグレモリー先輩が途中で遮った。俺は思わず顔を上げてしまった。

 

「私たちを助けたくて戻ってきたのでしょう?もうそれで十分よ。現にコカビエルも倒しちゃったしこれ以上あなたを責める理由なんて何一つないわ。──あなたは、今の行いを誇ればいい」

 

「そうだぜ。…今のお前は、最高にかっこいいよ」

 

「…!本当に、すみませんでしたッ…!!」

 

兵藤の言葉に塔城さんや木場、姫島先輩もうんうんと頷いた。

グレモリー先輩やみんなの度量の広さに思わず仮面の裏で涙がこぼれた。

 

こんなどうしようもない俺を、皆は笑って許してくれた。これからは恩を返すという意味でも、大切なものを守るという意味でも皆に尽くせるようにしていきたいと強く思った。

 

 

 

 

 

涙が落ち着いた頃、気になることを訊ねた。

 

「アルジェントさんはどうしたんだ?」

 

塔城さんに背負われ、ぐったりとしているアルジェントさん。傷は全くと言っていいほどないのに目を覚ます様子はない。俺の疑問に木場が答えた。

 

「実は、先の大戦でアーシアさんが信じる聖書の神も死んでいたんだ。今まで上層部の秘密になっていたけどコカビエルがそれをバラしてそのことにショックを受けて…」

 

「そうか、聖書の神も死んだのか…」

 

思った以上に先の戦争で失ったものは大きいみたいだ。天界側は4大セラフ二人に加えて主導者たる神も失っていたなんて。キリスト教は文明が発達した今でも人々の生活に強く影響を与えている。上層部が秘密にしていたというのは恐らくそれを考慮しての判断か。

 

今まで信じてやまなかったものが最初からなかったというのは、誰よりも純粋で優しいアルジェントさんにはかなり応えるものだっただろう。ゼノヴィアさんも同じなのだろうか。アルジェントさんと同じ様に主の不在を知りそのショックでああなってしまった。敬虔な信徒ほどそのショックは大きいようだ。

 

「僕だってショックだったよ。僕たちの犠牲は何だったんだって…」

 

「…そうか、でもお前は」

 

「はぁ…はぁ…!」

 

俺の言葉を遮ったのは息も絶え絶えな男の声。声の源は小さなクレーターの中だった。皆、浅いクレーターに近づき中の様子に驚く。

 

そこにいたのはコカビエルだった。腹の肉は思わず目を背けるほどにむごたらしく潰れ、傷だらけの全身から血を流している。兵藤が驚愕の声を上げた。

 

「あいつ、まだ生きてたのか!?」

 

皆の前に出ていつでも攻撃できるように構える。

 

傷が多少痛むが、向こうと違ってまだ余力は十分ある。もう一度オメガドライブを叩き込めば今度こそ…。

 

コカビエルが息も絶え絶えにゆっくりと歩を進めた。

 

「ふざけるな…!俺が人間に負けるだと…!あり得ん!認めん!俺は必ず戦争を……!?」

 

刹那、空が割れた。パリンと音を立ててガラスのように。いや、違う。

この学園を覆う結界が壊されたのだ。

 

「結界が…!?」

 

空を見上げる俺たちの視界に白い輝きが映る。一際明るく輝く星と見まがうほどの美しい輝きにこの場にいる誰もが息を飲み、魅了された。

 

その輝きを放つのは鎧だ。鎧を着た何者かが暗黒の夜空のもと雄大に構えている。各部に宝玉が埋め込まれた穢れなき白の鎧、空に広げる青い8枚の光翼。俺と同じ様に鎧は全身を覆っていて顔を伺うことはできない。鎧の形状は以前見た兵藤の禁手で発現した鎧にそっくりだ。

 

だが背に生えた光翼と放たれている圧倒的なまでの力という点で異なっている。彼の者が放つ静かな緊張感がこの場を飲み込んだ。

 

「『白い龍《バニシング・ドラゴン》』…白龍皇か!」

 

それを見て最初に声を上げたのはコカビエル。

『白い龍』ってまさか、兵藤に宿る『赤い龍』と対を為すというあのドラゴンか!

 

「神滅具『白龍皇の光翼《ディバイン・ディバイディング》』、その禁手『白龍皇の鎧《ディバイン・ディバイディング・スケイルメイル》』…。赤に惹かれたか…!」

 

あれも兵藤の籠手と同じ神滅具の一つなのか。しかも禁手に至ったもの。一体どんな能力を…?

 

その時、光が瞬いた。一瞬の内に空で構えていた白龍皇が消えたのだ。

 

「ぐあっ…!?」

 

次に聞こえたのはコカビエルの悲鳴。いつの間にかにコカビエルの背後を取った白龍皇がコカビエルの翼をちぎり取ったのだ。

 

速すぎる。今何が起こったのか全く分からなかった。

 

「…汚いな。アザゼルの羽は夜の常闇のような美しい黒だったぞ」

 

初めて白龍皇が喋った。声の低さからして男か。

 

ちぎった羽根を適当に放り投げた。その言葉と行動がコカビエルの癇に触れた。

 

「ッ!貴様!」

 

すかさず槍を生成して反撃するが、するりと避けられてしまった。カウンターに白龍皇が拳を傷ついた腹に叩き込んだ。

 

「うっ…!うっ……」

 

衝撃にコカビエルの体が一瞬ビクンとはねるが、それっきり動かなくなってしまった。

 

…あの堕天使幹部を気絶させたのか。

 

ぐったりとなったコカビエルを白龍皇が抱えた。

 

それと同時に校庭に巨大な魔方陣が出現し、一際強く光ると魔方陣の紋様が端から徐々に光の粒子となって消えていった。

 

「魔方陣が…!」

 

「助かったのか、俺たち…」

 

魔方陣に蓄えられていた力は蛍火のような光の粒となって天に立ち上っていく。月光と相まって神秘的な光景を生み出していた。

 

「あのフリードとかいう男も回収しなければな」

 

白龍皇はそんな光景を気にも留めずに倒れ伏すフリードを抱えていった。そして光翼を広げ空に飛び立とうとしたその時。

 

『無視か、白いの』

 

聞きなれない男の声が聞こえた。いや、俺は何度かこの声を聞いている。兵藤のブーステッド・ギアの音声と同じ声だ。兵藤の方を向くと籠手の宝玉が光っていた。いつも音声だけだと思ってたけど普通に喋れるのかよ。

 

『久しいな、赤いの。起きていたか』

 

今度は白龍皇の宝玉が声に合わせて光りだした。中々渋いいい声してるな。

 

『ああ、折角会ったというのにこの状況ではな』

 

『そう気に病まずとも我々は再び出会うさ。そういう運命にあるのだからな』

 

『そうだな。…今の段階ではお前と満足のいく戦いはできないしな』

 

『そうか。なら次に会うときは満足のいく戦いができるレベルの強さになっていることを願おう。ではな、ドライグ』

 

『ああ、じゃあなアルビオン』

 

それっきり会話は止まり宝玉の光も消えてしまった。赤龍帝はドライグ、白龍皇はアルビオンっていうのか。神器の名前ではなくそれに封じられているドラゴンの名前。

 

「っておいおい!意味がわかんねえよ!お前は一体何者で、何をやってんだよ!?」

 

話を飲み込めない兵藤が白龍皇に訊ねる。

 

まあ俺もさっきの会話からドラゴンの名前と二匹の龍が戦いたがっていることぐらいしか分からなかったぞ。

 

「フッ」

 

白龍皇はキザったらしく笑う。どこか小馬鹿にした感じだ。

 

「全てを理解するには力が必要だ。強くなれよ、俺の宿敵くん」

 

それだけを言い残してコカビエルとフリードを担ぐ彼は白い閃光となって空へ飛んでしまった。

 

戦場に静けさが残った。

 

〔オヤスミー〕

 

眼魂を抜き取り、変身を解除する。

 

終わったのか。

 

緊張の糸が切れると同時に深く息をつき、月光に美しく照らされる夜空を仰ぐ。これでこの町は救われた。俺たちの明日は、いつもと変わらず巡ってくる。

 

後ろで兵藤が木場に声をかけた。振り返りその様子を見る。視界の端にアルジェントさんが目を覚ましたのが映った。

 

「取り敢えず木場!エクスカリバーの破壊、やったじゃねぇか!!」

 

笑顔の兵藤が木場の背を叩く。叩かれた木場はどこか浮かない顔をしている。

 

「イッセー君、僕は…」

 

「まあそう言うなって!とにかくお前の仲間のことも聖剣のことも一旦終わりってことでいいじゃねえか」

 

「…うん」

 

兵藤の言葉に微笑みながら頷いた。

 

あいつのエクスカリバーをめぐる因縁も終わりを迎えた。前に進めるのは俺だけじゃないみたいだな。

 

「裕斗」

 

木場に歩み寄るグレモリー先輩。その表情は穏やかなものだった。

 

「…よく戻ってきたわ。禁手なんて誇らしい限りよ」

 

その言葉を聞いて木場がうつむきがちに自分の思いを紡ぎ始める。

 

「…部長!僕は皆に散々迷惑をかけて、悲しませてしまいました…。一度命を救ってくれたあなたを裏切ってしまいました…。もう、どう詫びればいいか…」

 

深い後悔と猛省の混じった声色。後半は声が上ずりながらのものだった。そんな木場に歩み寄り、先輩はそっと優しく一筋の涙が走った頬を撫でた。

 

「あなたは無事に戻ってきた。詫びなんていらない、それだけで十分よ」

 

その言葉が涙を堪えてきた木場の涙腺を壊した。木場はとめどなく溢れる涙を流しながらも声高に、宣言した。

 

「…部長。僕は今ここに、生涯あなたの『騎士』として生涯あなたの剣であり続け、仲間を守り抜くことを誓います!」

 

「…ありがとう、裕斗」

 

感動的な雰囲気に包まれる中、兵藤が嫉妬のまなざしで木場を睨みつけてきた。

 

「おい木場!俺だって部長の『騎士』になりたかったんだからな!でも、お前じゃないと部長の『騎士』は務まらねえし、その…しっかりがんばれよ!!」

 

照れくさそうに応援の言葉を付け加え、プイっと木場から顔を背けた。

 

…イケメンイケメンって嫉妬してないであいつも素直になったらいいのにな。

 

木場の話が済んだところでグレモリー先輩に近づき、話を切り出す。

 

「…グレモリー先輩」

 

真面目な表情の俺に先輩がきょとんとした顔を見せた。そして次の瞬間その表情は引きつったものに変わった。

 

「き、紀伊国君…その顔は……」

 

何故か先輩が俺を見てドン引きしている。同じく俺の顔を見た兵藤も顔を引きつらせながら言った。

 

「お前…!顔がとんでもないことになってるぞ!!?」

 

「は?」

 

兵藤の指摘を受けて何ごとかと顔をぺたぺた触るとぬめりとしたものに触れた。触れた手を見ると手が真っ赤な血に濡れていた。

 

「あ…」

 

思い出した。俺が逃げてるとき滅茶苦茶に顔を地面に叩きつけたんだった。

 

木場も、アルジェントさんも、塔城さんも、姫島先輩も。俺を見る皆の顔が引いている。

 

そんなに俺の顔って今酷いことになってる?そんな反応をされたら逆に鏡で見たくなるじゃないか。

 

「誰か鏡持ってない?」

 

「いやいや見なくていいって!!そうだアーシア、早くあいつの顔を回復させてやれ!!」

 

「は、はい…紀伊国さん、大丈夫ですか?」

 

アルジェントさんが心配そうな顔で俺の顔に手を当てて神器で治療を始める。今まで全く痛みを感じなかった顔の傷が徐々に消えていくのを感じる。戦いでアドレナリンが出すぎて痛みが吹っ飛んでいたか。

 

治療が終わって、改まって先輩の方を向く。

コカビエルに勝ったら言おうと決めていたことだ。

 

「…俺を、オカルト研究部、グレモリー眷属に入れてください!」

 

再び頭を下げて頼み込む。

 

俺は一度、勧誘を蹴った身。そしてさらに今回、許してもらったとはいえ断られても仕方ないこともした。どの面下げて言っているのかと言われても仕方ない。

 

でも俺は今回の一件で前に進むことを決めた。オカルト研究部に、グレモリー眷属に入ることが前に進むために必要なことだと強く感じた。断られるとしても何も言わないよりは言うだけ言ってからの方がいい。

 

頭を下げたまま先輩の返事を待つ。「ふふっ」と笑いながら先輩は返事を口にした。

 

「勿論よ。今更言わなくても、あなたはもう私たちの立派な仲間じゃない」

 

俺の頼みを先輩は快諾してくれた。「顔を上げて頂戴」と言われ、俺は顔を上げた。

 

「歓迎するわ、紀伊国悠君。オカルト研究部にようこそ」

 

「よっしゃあ!!木場も戻ってきたし新入部員もできた!ハッピーエンドだよな!」

 

「可愛い後輩が新しく出来て嬉しいですわ」

 

「今度は悪魔の先輩としてみっちりしごきますね」

 

「いつかはこうなるかも、って思ってたよ」

 

「これからはもっと仲良くしていきたいです!」

 

皆、笑顔で俺を迎え入れてくれた。それを見て込み上げてくるものがある。

 

「取り敢えず、あなたの駒はゲームと同じ様に『戦車』にするわ」

 

部長さんが魔方陣で小箱を呼び出し、中から赤い『悪魔の駒』を取り出す。

 

戦車か。特性は攻撃力と防御力の上昇だっけか。まあ遠中近全部で立ち回れる俺には一番合う駒だと思うな。

 

部長さんが駒を手に持ち、俺に近づける。駒が赤い輝きを放ち始めた。

 

その時だった。俺を覆うように青い魔方陣が出現し、バチバチと青いスパークを起こしながら駒を弾いてしまったのだ。

 

「きゃっ!!?」

 

部長さんの手を離れた駒が宙を舞って地面に転がった。

 

「は?え?何で…?」

 

魔方陣は次第に光を失い、焼失した。

 

「これは…」

 

「…2か月前の波動と同じものを感じましたわ」

 

二か月前ってことは、俺が転生した時期だ。この魔方陣、まさかあの駄女神が仕込んだものか?だとしたら何で…。部長さんが駒を小箱にしまい、姫島先輩が顎に手を当てて推察する。

 

「この場にいるのは私たちだけ…つまり、さっきの魔方陣は何者かが発動させたものではなく彼に元々仕込まれていたもの、ということになりますわ」

 

「何か心当たりは?」

 

怪訝な顔で部長さんが訊ねる。

 

「…いえ、ありません」

 

あの駄女神が仕込んだと直接本人に聞かない限り100%断言できないし、眼魂をばらまくような奴でも俺を転生させてくれた大恩がある。俺が転生したことを黙っておくという約束もあるし転生云々、そしてあの駄女神に関することは皆には悪いが…伏せておくことにする。

 

「…まあ、できないというのなら仕方ないわね。悪魔じゃなくてもあなたは私たちオカルト研究部の部員よ。これからもよろしくね?」

 

こんな秘密を抱えた俺を、部長は優しく微笑んで受け入れてくれた。

 

「…っ!はい!」

 

入部ができたことに俺は嬉しくなって二っと笑って声高に返事する。嬉しさの反面、真実を言えない申し訳なさもあった。

 

俺には真実を言えない約束がある。…でもいつか、真実を打ち明けられる日が来たらいいなと思う。今だって皆は俺の大切な仲間だ。でも本当のことを全て話し、受け入れてもらえた時こそ心の底から仲間だと、そう言える気がする。

 

 

 

 

 

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

 

 

 

 

「……」

 

校庭の端から、勝利に沸くグレモリー眷属を眺める。

愛剣のデュランダルは既に異空間にしまい、与えられた『破壊の聖剣《エクスカリバー・デストラクション》』は布に包んで背負っている。

 

「私は…」

 

今まで人生の全てを捧げてきた主。主の教えを信じ、主に仇なす堕天使や悪魔、吸血鬼を討ち滅ぼすことこそが教会の戦士の戦士たる自身の生きる意味だと思っていた。だが、今回の戦いで信じるべき主の不在を知ってしまった。確たる証拠も聖魔剣という形でこの場に存在している。私は一瞬で全てを失ってしまった。

 

…これから先、どうすればいいかわからない。自身の信念、生きる意味、今まで信仰にと費やしてきたもの全てを失ってしまった。この虚しさを抱えて生きるくらいならいっそ死んでしまいたい。自殺は主の教えで禁じられている。でも、それを禁じた主は既にこの世に存在しない。

 

なら、あのままコカビエルの手にかかれば主のもとへ行けるのではないか?そう思って私はコカビエルの攻撃を避けなかった。槍に貫かれ、絶命して主のもとへ旅立とうとした。主のいない世界なんて私は生きたくない。

 

しかしその願いが叶うことはなかった。あの紀伊国悠という男が自分を庇い、捨てるはずだった私の命を救ってしまった。一度は戦場を命惜しさに逃げ出した男は、今までになかった戦士の覚悟を持って戻ってきたのだ。逃げ出した時は心底軽蔑した男がまるで別人のように見えた。

 

私はその男を今すぐにでも斬りたかった。責めたかった。何故、拾った命を捨ててまで私の願いを邪魔するのだ、と。でもそれはできなかった。喪失感でそんなことをする気力も湧かなかったのだ。だから代わりに訊ねた。なぜ、私を守った?と。

 

すると男は、「仲間だから助けた。仲間なら死なせない。だから命を投げ出すな、生きろ」と。なんともひどい奴だと思った。この喪失感を抱えたまま生きろというなんて。

 

そのまま男は今までの倍以上に跳ね上がった力で真正面からコカビエルを打ち倒してしまった。この町を吹き飛ばすはずだった魔方陣も解除され、私は捨てるはずの命を救われてしまった。あの男はたった一人でこの絶望的状況をひっくり返してしまったのだ。

 

あの男の背中を見て私は初めて他の戦士をカッコイイと思ったのだ。今まで上司や先輩戦士に憧れ、私もこうありたいと思ったことは何度かあった。でも、カッコイイと思ったのは始めてだった。信じてきたものを失った私の心にあの男の背中と言葉は鮮明に残った。

 

「…生きろ、か」

 

主を信じて生きてきた私には主の不在を知った今、どうすればいいかわからない。どう生きていけばいいかわからない。

 

だがとにかく今は与えられた任務を果たそう。強奪されたエクスカリバーの奪還、あるいは破壊。既に統合されたエクスカリバーは聖魔剣と私のデュランダルによって破壊された。あとは4本の聖剣の芯となっていた『かけら』を回収するのみ。そして負傷したイリナと共に帰還しよう。

 

身の振りは後で考えればいい。上層部しか知り得ない秘密を知ってしまった以上、ろくなことにはならないだろうが。

 

だがもし、あの男のように新たな志を得ることが出来たなら。私も新たな道を歩めるだろうか。失ってしまった生きる意味と信念の代わりになるものを手に入れられるだろうか。そうであればいいなと思う。

 

瞑目して私はこの場を後にした。




という訳で、ヒロインはゼノヴィアです。何でかって?それは特別企画の時に話しましょう…。タグの追加は次回の更新時にします。

スペクターの戦闘時挿入歌は「GIANT STEP」です。歌詞的にもタイトル的にもこれがあってるなと思ったので。ゴーストは挿入歌がないので自分で考えるしかないんですよ…。でもその分好きな曲を使えるのでいいんですけどね。ディープスペクターの時にも新しく考えます。


次回、戦士胎動編最終回。

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