ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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初の外伝です。

先日、ビルドのプレミアイベントに行ってきました。生キャスト、トーク、ハイタッチ、全てが最高でした。カシラとげんとくんとハイタッチが出来てテンションが上がり過ぎて死ぬかと思いました(笑)。待ち時間は「Ready Go!」をフルで聞けてハイパー大満足。


外伝 「フランス帰りのブラザー」

「んん…この”しんにょう”というのは難しいな…」

 

「まあそれは慣れだな、後たまに上のちょんが二つになるときもあるから気を付けろ」

 

「なんだと…」

 

月末の休日、俺は外に出る準備をした後リビングでゼノヴィアの勉強に付き合っていた。漢字ドリルと向き合うゼノヴィアがうーんと唸る。

 

悪魔に転生したことであらゆる言語を自分が理解できるようになったゼノヴィアだがそれは音声言語に限ってのみ。文字までは認識できないのだ。そのためゼノヴィアはひらがな、カタカナ、そして漢字の練習に励むことになった。

 

ひらがなやカタカナは難なく理解できたが漢字が難しいというので俺が見繕って買ってきた漢字ドリルを毎日一生懸命解いている。真面目だから毎日しっかりやってる姿を見ると感心する。

 

今日、俺は天王寺の兄さんがフランスから帰ってくるので折角だから顔を合わせようということで天王寺の家に行く予定がある。そろそろ家を出ようかと思っていたのだが漢字の練習をするゼノヴィアを放っておけず今こうして時間ぎりぎりまでわからないところを教えてやっていた。だがそれももう限界のようだ。

 

「ゼノヴィア、悪いけどそろそろ時間だ。一人で大丈夫か?」

 

「ああ、そうだったな…」

 

ちょっと残念そうに言うゼノヴィア。約束の時間は10時、壁掛け時計の針は9時50分を指している。

 

立ち上がって玄関に向かおうとすると「ちょっと待ってくれ」と呼び止められた。

 

「悠、私もついて行っていいか?」

 

「ん?いいけど、急にどうした?」

 

振り返って理由を訊ねる。

 

「いや折角だからクラスメイトと交流を深めたいと思ってね」

 

学園に入ってからというもの誰にでも優しくするアルジェントさんと違ってゼノヴィアはやや近寄りがたい雰囲気があってなかなかうまくいっていない様子があった。

 

俺や兵藤、アルジェントさんでフォローしてなんとかうまくいくようにはしている。美少女ということもあって悪く思われるどころか人気もあるみたいだが…。

 

「それに私は『タコパ』というものが気になる」

 

タコパか。そういえば俺が天王寺たちと話しているのを聞いて訊ねてきたことがあったな。天王寺がタコパとたこ焼きについて教えると「たこ焼きか…」と興味深いといった表情をしていたが。

 

「…お前本当はたこ焼きが食べたいだけだろ」

 

「い、いや違う!交流を深めたいのも本心だ!」

 

俺が訊くとちょっとだけ動揺した。…かまをかけてみるか。

 

「でも本当は?」

 

「たこ焼きが食べたい…はっ、しまった!」

 

はっと口元を抑えるゼノヴィア。

 

…最初、クールでかっこいい人だなという印象だったけど一緒に生活し始めて実はバカなんじゃないか説が俺の中で唱えられ始め、それは日に日に確信に近づいている。

 

戦士として生きてきたが故の浮世離れと真面目で一直線な性格が相まってより馬鹿に見えるのだろう。まあ変態な方向に熱意を向ける兵藤と違って真面目なことにだけ一生懸命に取り組むからいいのだが。

 

俺との生活の中で彼女は驚いたり楽しそうだったり色んな表情を見せる。しかし時折見せる浮かない顔は一体なんだろうか。まあ今ここでそれを問う暇はないしあまりもたもたしていると天王寺や上柚木を待たせてしまう。そう思い頭の隅に追いやる。

 

「そんなことだろうと思ったよ…早く着替えて出発するぞ」

 

「よし」

 

ばたばたとゼノヴィアが自室のある二階への階段を駆け上がった。ちなみに空いていた両親の部屋をそのままゼノヴィアに提供して使ってもらっている。棚以外全てポラリスさんが処分してしまったから今度ミトリにベッドやら家具を買いに行かないとな。

 

ゼノヴィアは部屋にまだベッドがないので夜はリビングのソファで寝ているのもあってあまり自室を使っていないようだが。数分後、急いで着替えてきたゼノヴィアと一緒に俺はこの家を出た。

 

 

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「おい天王寺、来たぞ」

 

『はーい、ちょいまち!』

 

インターホンを通じて声をかけるといつも通り元気のいい天王寺の声が返ってきた。

数秒後、玄関が開き、顔を出したのは上柚木だった。先に来ていたか。

 

「さっさとは…ってゼノヴィアさん!?」

 

「やあ、タコパしに来たぞ」

 

「まあそういう訳でこいつも来ることになった」

 

もうたこ焼き食べたいって隠す気ないだろ。

 

ちなみに上柚木とゼノヴィアはアルジェントさんと同じ様にキリスト教徒ということもあって話が通じるみたいだ。休み時間は上柚木、アルジェントさん、ゼノヴィア、そして桐生さんで固まっていることが多い。

 

「え、ええ取り敢えず家に入って…」

 

言葉に甘えて家に入る。「お邪魔しまーす」と言って靴を脱ぎ上がる。見た感じちゃんと掃除されているな。

 

「これが天王寺の家か…」

 

廊下を進んでドアを開けリビングに入る。キッチン側にはダイニングテーブル、その反対のテレビ側には背の低いテーブルが置かれており中々小綺麗な内装だ。

 

「おっ、来たね!ゼノヴィアちゃんも一緒か!」

 

リビングに入ってきょろきょろ見渡す俺に天王寺が明るく声をかける。

 

「よっ天王寺、お前のお兄さんは?」

 

「そろそろ来るはずや、取り敢えず茶を出すわ」

 

天王寺が器用にマグカップの持ち手に指を引っ掛けて4人分用意する。

 

俺とゼノヴィア、上柚木が腰を下ろして背の低いテーブルを囲むと、更にポットとマグカップを持ってきて麦茶を注いだ。ゼノヴィアがカップに注がれたものをまじまじと覗き込んだ。

 

「これは麦茶か」

 

「せやで、ゼノヴィアちゃんは初めてか?」

 

「いや、毎日悠の家で飲んでいるからね」

 

「へぇー」

 

まあ俺が好きで毎日飲んでるからな、俺は今まで一度も麦茶を切らしたことはない。それにゼノヴィアも気に入ってくれたようで単純計算で毎日の消費量が二倍になった。おかげでポットをもう一つ用意してストックを作らなければならなくなった。

 

ゼノヴィアのホームステイ初日、あいつは家中の物をまじまじと見ていたな。家電、食べ物などを見ては「これが経済大国か…!」と驚いていた。俗にいうカルチャーショックというものだ。

 

何日か経ってそれもかなり落ち着き今度は色んなものを知りたいと桐生さんや上柚木、オカルト研究部の皆に色々聞いたりしていた。教会から追放されて悪魔になって新しい人生を歩み始めたあいつの今はとても充実してるようだ。時々お祈りをしては頭痛に悩まされるが。

 

しばらく談笑していると玄関のある方からガチャっとドアの開く音が聞こえた。続いて足音が聞こえ徐々に近づき今度はリビングのドアが開いた。

 

「ただいま」

 

黒いスーツの下に白いシャツを着た男が入ってきた。

 

キャリーバッグを壁に立てかけるとサングラスを外してその下の黒い目がさらされる。

短く切った銀髪、精悍な顔立ち、逞しい体つき。

 

この人が天王寺のお兄さんか…。どことなく硬派な雰囲気だ。天王寺が嬉しそうに駆け寄った。

 

「兄ちゃん、お帰り!」

 

「お、飛鳥!久しぶりだな!それに綾瀬も」

 

わしゃわしゃと天王寺を撫でるお兄さん、上柚木が頭を軽く下げ会釈する。

 

「お久しぶりです」

 

「ああ、綾瀬も元気にしてるみたいだな」

 

今度は俺の方に視線が移った。

 

「紀伊国君も久しぶり…ってそうか、記憶がないんだったな」

 

やや申し訳なさそうに言う。俺のことは天王寺から聞いてるみたいだな。

 

「あ、すみませんね…」

 

「いやいいさ。両親も亡くしてつらい目に遭ったと聞くが元気そうでよかった」

 

安堵して笑みを浮かべるお兄さん。それを見て俺の緊張も少しほぐれた。

 

ちょっと怖かったけどいい人そうでよかった。お兄さんの視線がゼノヴィアに移った。

 

「君は?」

 

「ゼノヴィアだ。悠の家にホームステイしている」

 

「ホームステイ…そうか、天王寺大和だ。よろしく頼む」

 

「ああ」

 

ゼノヴィアは豪胆な面もあるから年上でも堂々とした立ち振る舞いをする。時々学校で先輩と話すときヒヤッとする場面がいくつかあったが相手は皆、外国から来た美少女という認識もあってあまり気にしていないようだ。

 

じっと大和さんを見ていたらこちらの視線に気づかれてしまった。

 

「俺の顔に何かついているか?」

 

「いや、天王寺のお兄さんって思ったよりイメージ違うなと思って、逞しいし関西弁喋らないから…」

 

もっと関西弁バリバリかもと思っていたが実際は標準語だし何かすごい体つきもいい。イメージ的には天王寺を白とするならお兄さんの方は黒という感じがする。まあそれは服の色によるところが大きいが。

 

「はは!そうか、まあ商社に勤めている以上はな。働くためにフランス語や英語も相当勉強したさ」

 

「フランス語!?」

 

この人トリリンガルなのか!俺は素直に感心した。

 

「話してなかったか?フランスの商社で働いているんだ。そういえばゼノヴィア君は日本語がかなり上手だな」

 

「…まあね」

 

横目に答えるゼノヴィア。本当は喋る方では何も勉強してないけど悪魔だからなんて言えないからな。

 

天王寺が話に割り込んだ。

 

「ちなみにうちのお兄ちゃんはたこ焼き作るのがごっつうまいで」

 

「…!」

 

その言葉に分かりやすく反応するゼノヴィア。食い意地張ってるな。

 

「あなたもかなり上手いじゃない」

 

「でも兄ちゃんに比べたらまだまだや」

 

俺はこいつの腕を知らないからな。でも周りに言われるくらいだから今回のタコパは期待しても良さそうだ。

 

大和さんが俺の肩にポンと手を乗せた。

 

「紀伊国君も天王寺のお兄さんじゃなくて前のように大和兄ちゃんって呼んでくれてもいいんだぞ?」

 

ハハハ!と気さくに笑うお兄さん。

 

大和お兄ちゃんって、かなり仲が良かったのはわかったけど流石にいきなりは…。

 

「いやー!流石にそれは…大和さん、じゃ駄目ですか?」

 

「むむ…まあいいだろう」

 

大和さんが渋々ながら頷く。そしてゆっくりと腰を下ろしたのを見て俺たちも腰を下ろした。

 

天王寺が残る大和さんのマグカップに麦茶を注ぐ。麦茶を呷り話し出した。

 

「逞しいってのは多分、俺が高校時代荒れていた時の名残だろうな」

 

「え?荒れてたんですか?」

 

トリリンガルかつ海外で働いてると聞いてこの人きっと真面目で勉強もできる人なんだろうなと思っていたけど…。

 

「ああ、昔は名の知れた不良だったよ。馬鹿で、自慢できるのはかわいい弟と腕っぷしぐらいだった」

 

俯きがちに握った自分の拳を見ながら語る大和さん。

 

「あの時の大和さんは怖かったわ…」

 

「毎日喧嘩に明け暮れてたもんな」

 

マジか…。ゲームのタイトルじゃなくて本物の喧嘩番長かよ。

 

「でも父さんを亡くして一人で家族を養おうと頑張る母さんを見て変わったんだ。これからは俺が家族を守るってな。高校を卒業した後、すぐに就活して入った会社で知識や経験を培って今の会社に流れ着いたってわけだ」

 

「へぇー」

 

何というか、すごい。天王寺はこんなに立派なお兄さんを持っていたんだな。

 

…それに比べると俺はどうだったろうか。凛がいた前世では家族任せでろくに家事をしなかったおかげで転生したての頃苦労したし、正直言って今も昔もあまり勉強してない。兄としては二流、いや三流もいいところだ。

 

兄としても人としてもこの人を見習いたい、俺はそう強く思った。

 

「僕が駒王学園に行けたのは兄ちゃんのおかげなんや。だからいい大学出て兄ちゃんに恩返ししたいって思うてる」

 

天王寺がいつものように明るい表情ではなく真剣な表情で語った。ずいぶんと仲のいい兄弟だ、見ていて微笑ましい。

 

「ふふっ、ホントいい弟を持ったよ俺は」

 

大和さんもまんざらではないという風に呟いた。

 

その後、持ちネタが1000万という大和さんと100万個の天王寺によるギャグ合戦が始まったが関西人のノリをイマイチ理解できなかったゼノヴィアを落とすのに二人は難儀した。

 

 

話もそこそこに上柚木が提案した。

 

「折角大和さんも来たことだし記憶喪失の前の悠の事について色々語るのはどうかしら」

 

なるほど、昔の俺を知る人がたくさん集まってるからこの場で色々話して記憶を取り戻す一助にしようということか。

 

残念だが俺は『紀伊国悠』ではない…が、俺も少しはこの体の主がどんな人物だったのかは気になるな。

 

「せやな、色々語ったるで!」

 

「記憶喪失?どういうことだ?」

 

話についていけないと言わんばかりにゼノヴィアが俺に訊いてきた。

 

「ああ…そういえば言うの忘れてたな」

 

たまに自分でも周りには記憶喪失で通していることを忘れることがある。ゼノヴィアに俺が過去に事故で両親と自身の記憶を亡くしたことを教える。

 

すると「そうだったのか…」と言って大和さんが顎に手を当てて首をひねる。

 

「昔の紀伊国君か…俺は今の紀伊国君がどういう人柄なのかがよくわからないな」

 

それもそのはず、俺は今まで大和さんに遭ったこともないからな。…ちょっとふざけてみるか。

 

「This is I!(これが俺だ!)」

 

「なるほどかなり変わったな」

 

「ええ!?」

 

ちょっとふざけただけで即断された。昔と比べてそんなに大きく変わったのだろうか。

 

「…昔の俺と比べてどう?」

 

恐る恐るほかの二人に訊ねる。

 

「昔と比べるとかなり明るくなったわね、あとかなり融通が利くようになったわ」

 

「僕と同じ様に自分のこと僕って言ってたな」

 

一人称が僕…かなり明るくなった…。なるほどかなり控えめな性格だったのか。

 

「でも真面目ってところは変わらへんな!」

 

真面目ではあるんだな。俺は自分の性格は他人が評価するものだと思っているから自分はああ言う性格だとは言わない。だが少なくとも真面目だとは思われているようだ。

 

「そうね、昔は引っ込み思案が激しくて怒ることなんてまずなかった、砂場の隅で一人で遊んでるタイプだったわ」

 

「俺ってそんなにヒッキーだったのか」

 

すると思いついたように大和さんが話し始めた。

 

「そういえばたった一度だけ怒ったことがあったな、確か今は別の町に引っ越した近所の悪ガキに名前を馬鹿にされたときだったか…」

 

「あ、思い出した!僕あの時ホンマにびっくりしたわ…」

 

天王寺もそうだったとしみじみと言う。

 

「名前?」

 

今の俺の名前が変なところでもあるのだろうか。特に苗字とかは変わってるなと思ったことはある。

 

「あなたの名前が女の子みたいだって言ったのよ、昔は自分の名前にコンプレックスを抱いてたようね」

 

「俺の名前が…?」

 

「せや、それで女の子みたいって言われた瞬間、大声でこう言い返したんや」

 

天王寺が子供を意識した高めの声で言った。

 

『ゆうがおとこのなまえでなにがわるい!』

 

「そう言ってその男の子にマウント取ってタコ殴りにしたんや」

 

「あの時は俺も驚いたな…」

 

大和さんも腕組みしながらうんうんと言った。

 

いやなんだよそれ、どこのZなガンダムの主人公だよ。ただ、普段大人しい人ほど怒ったら怖いとは聞くな。

 

その後も思い出話は続いた。一人で砂場で遊んでいるところを天王寺が一緒に遊ぼと誘った出会い、天王寺兄弟と

上柚木、兵藤との肝試し。皆俺の記憶を取り戻すという当初の目的も忘れて楽しそうに思い出話に花を咲かせた。

 

ゼノヴィアもふむふむと興味深そうに話を聞き、時に深いところを質問したりした。ついていけなくなって大丈夫だろうかと心配もしたがうまく話しに混ざっていて安心した。

 

 

 

時計の針が1時を指した頃、矢庭に大和さんが呟いた。

 

「…そろそろ昼飯時だな」

 

「せやな、んじゃタコパするか!」

 

天王寺兄弟が腰を上げ、キッチンに向かう。

 

「おお!」

 

隣でゼノヴィアが嬉しそうな声を上げる。ゼノヴィアが準備を間近で見たいとキッチンへと足早に向かい、それに俺も続く。丁度大和さんが冷蔵庫からスーパーで買ったのだろうタコ足を取り出していた。

 

「俺がタコを捌こう、飛鳥、お前は生地を頼む」

 

「オッケー!」

 

指示を受けた天王寺が棚からたこ焼き粉の入った袋とボウルを取り出して、ボウルに水

を注ぎこんだ。

 

その様子を見ていた俺は大和さんに声をかけた。

 

「折角だから俺も手伝いましょうか?」

 

「いや、ここは俺たちに任せろ。兄弟のコンビネーションをとくと見るがいいッ!!」

 

その言葉の後、無言でタコを捌き始めた。慣れた手つきで素早くタコ足を切っていく。

その隣で天王寺が卵と水、たこ焼き粉をシャカシャカとかき混ぜる。

 

「悠」

 

「何だ、ゼノヴィア」

 

兄弟の作業を見ていると小声でゼノヴィアが囁いてきた。

 

「あの手さばきはナイフの使い方に似ている」

 

「は?何で大和さんがナイフの使い方なんか…」

 

いくら大和さんが元喧嘩番長だからといってもナイフまでは使わないだろ。喧嘩は素手で殴ったり蹴ったりしかしなかったと言ってたし。向こうの暮らしを考えれば、もしかしたら果物用のナイフかもしれないが。

 

「…ま、見てるだけじゃなく俺らも出来ることをするか」

 

居間に戻り、壁に立てかけてた箱からたこ焼き機を取り出してテーブルの上に置きプラグをコンセントに繋ぎ、電源を入れる。

 

数分後、大和さんと天王寺がボウルとタコ足の乗った皿を手に戻ってきた。プレートにキッチンペーパーを巻き付けた箸で油をさっと塗り最初に生地を取って流し込んだのは大和さんだった。

 

「俺がフワッフワのカリッカリにしてやろう!」

 

プレートの丸い凹みに生地を注ぎ込む。ゼノヴィアはその様子を瞬き一つせず懸命に見ている。

 

「僕も負けへんで!」

 

ポンポンと天王寺がタコ足を乗せていく。乗せたところをプレート全体に生地を流し焼きあがるのを待つ。

 

「まだか?」

 

「大和さんのたこ焼きなんて何年ぶりかしら」

 

「ちょ、僕の方にも注目してや!?」

 

大和さんやたこ焼きの方に気が向く俺たちに天王寺が抗議の声を上げる。

 

「安心しろ飛鳥、お兄ちゃんがしっかりお前のたこ焼きを食べてやるからな!」

 

「恥ずかしいこと言わんといてや!」

 

二人は軽口をたたきながらも竹串でくるくると軽快に焼けてきたたこ焼きを回す。その動きはまるで熟練の職人のようだ。

 

すっかり焼けて丸く出来上がるとプレートから取り出し、湯気が立ち上るアツアツのたこ焼きを皿に盛り付ける。

 

「いただきます」

 

先陣を切ったのはゼノヴィア。箸でたこ焼きをつまみ口に運ぶ。ハフハフと言いながら咀嚼し…。

 

「な、何だこれは!?」

 

ガタっとゼノヴィアが立ち上がり目を見開いた。もしかして口に合わなかったか…?

 

「うまい…うますぎるッ!!」

 

「おおきに!」

 

ゼノヴィアの反応を受けて天王寺が嬉しそうに笑った。木場から色々教えてもらった俺の料理じゃそこまでの反応はなかったからちょっと悔しい。

 

「懐かしい味ね…美味しいわ」

 

上柚木も頬張りながらその美味しさに頬を緩ます。

 

「どれ俺も一つ」

 

箸で皿の上に並んだたこ焼きをつまみ頬張る。まだ残る熱が舌を刺激した。

 

「ほ…ほぉぉぉ…」

 

「どうした?熱いか?」

 

熱さにハフハフと言いながらも咀嚼して飲み込み、大和さんの声に答える。

 

「それもあるけど…美味しい…こんなたこ焼きは初めてです」

 

グルメリポーターではないから上手くは言い表せないが、形容するならまさしくカリフワトロだろう。完璧な焼き加減、丁度いいタコの大きさ。食べる側のことを考えつくされた一品だ。

 

「そうかそうか!生地ならまだまだある、トッピングもな。我が家秘伝のソース、餅、チーズ…好きなものを試せ」

 

大和さんがドンと様々な具材が乗った皿をテーブルに置く。餅やチーズなどのオーソドックスなもののほかにもエビ、ソーセージなど意外なものなどずらりと皿の上に並んでいる。

 

「私はチーズを試すぞ!」

 

「コーンを試してみようかしら」

 

「僕はソーセージや!」

 

「俺はチーズと餅で行く」

 

一気呵成に皿の具材が掻っ攫われていく。プレートに注がれた生地の上に続々と具材を乗せ

 

ゼノヴィアにとっても俺にとっても初めてのタコパ。談笑しあい、自分の組み合わせを勧めて「おいしい」を共有する笑顔が絶えないものになった。

 

 

 

 

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すっかり日が暮れた帰り道、俺はゼノヴィアと一緒に家への帰路についていた。

俺の手には大和さんからもらったフランスのお土産が入った袋を引っ提げている。

 

「初めてたこ焼きを食べたが…とてもおいしかった」

 

ゼノヴィアが口元を緩ませながら言った。

 

「確かにあれはうまかったな…」

 

普通に店で食べるたこ焼きよりおいしかった。具材は至ってシンプルだがあの兄弟が卓越した技術を持っているということだろう。

 

「なあ、家にあれを焼く機械はないか?」

 

「んー、いやないな」

 

「そうか…」

 

残念そうに返すゼノヴィア。

 

そんなに気にいったか。それなら今度ポラリスさんにお金出してもらえるようお願いしてみようかな…。

 

ゼノヴィアがふと話を切り出した。

 

「…なあ、あの大和という男は…」

 

公園に差し掛かったその時、世界から音が消えた。辺りの景色は変わらないが音と言う音が消え失せている。

 

俺はこの現象を過去に二度経験している。

 

「堕天使か」

 

「いや、この気配は悪魔だな」

 

「悪魔…」

 

今までこの手の結界を張っていたのは堕天使だったから少し新鮮に感じる。悪魔とか堕天使ってのは人よけの結界を張ってから奇襲するのが好きなのか?恐らくなるべく静かにやりたいというのが本心なのだろうが。

 

「正解ですよ、人間」

 

物陰から男が姿を現した。夜の闇に紛れ込むような黒のローブを纏い、目を凝らすと紫の紋様も入っている。フワフワした茶髪、そして紫色の瞳をした眼鏡の男。首には変わった十字架のネックレスをかけている。悪魔って十字架もダメなんじゃなかったか?

 

奴は俺に視線を向けて話す。

 

「単刀直入に言うとね。人間、君を始末しに来たんだよ」

 

「俺狙いかよ…!」

 

もしかしてこれがポラリスさんの言うイレギュラーってやつか?奴の言葉を聞いてゼノヴィアが俺の前に出る。

 

「ここは我が主、リアス・グレモリーの縄張りだ」

 

「件のデュランダル使いか…ああ知っているとも。だがこの国には『バレなきゃ犯罪じゃない』という言葉があるのでしょう?」

 

悪びれもせずに奴は言うが…。

 

「いや俺たちの前に出てきた時点でバレてるだろ」

 

「だがここで君たちを消せば問題ない」

 

「日本にはそんな言葉があるのか…恐ろしいな」

 

「いや真に受けるなよ!」

 

そういう言葉は覚えなくていいんだよゼノヴィア!「んん!」と目の前の男が咳払いした。

 

「まあ御託はいい、私としてもあまりのんびりとしてられないので」

 

男の手に魔力の輝きが宿る。黄色い輝きを放つ手を俺たちにそっと向けた。

 

「始末させてもらうッ!!」

 

男の手から魔力の弾が放たれた。ごうっと風切り向かう弾丸をゼノヴィアは素早く召喚したデュランダルで切り裂いた。ぶつかってから切り裂くまで数秒、刃と魔力が拮抗したのが見えた。

 

「…悠、間違いなく奴は上級悪魔クラスだ」

 

「みたいだな」

 

デュランダルはたいていの攻撃ならすぐにぶった切れるんだけどな。数秒でも持ったってことは向こうはやり手だな。

 

男はそれを見てもうろたえるどころか逆に嬉しそうに笑った。

 

「ほう、思ったよりはやるなデュランダル使いッ!?」

 

その時、銃声と共に男の右肩から血が噴き出した。

 

「ぐっ…がっ…!?」

 

続く銃声、左肩、右足に開けられた穴から飛び散る血。俺たちは何が起こったのか分からなかった。

 

更に第三者の声がこの場に響いた。

 

「そこまでだ」

 

「大和さん!?」

 

悪魔の後ろに立っていたのは大和さん。黒コートをはためかせ、夜のような黒の銃を握っている。その雰囲気は天王寺の家で会話した時とはまるで別人のように冷たいものだった。

 

底冷えするような声が大和さんの口から放たれる。

 

「これは警告だ、次は心臓を撃つ」

 

銃口と鋭い眼光がしっかりとはぐれ悪魔を捉えた。

 

「二人から離れろ」

 

ドスの効いた声。放たれる背が震えあがるほどの殺気。一瞬にして大和さんはこの場を支配してしまった。

 

「ッ…!!」

 

大和さんの殺気に震え上がった悪魔は慌てて魔方陣を展開し、転移の光に飲まれた。

 

同時に一帯に張られていた結界も消滅し夜に鳴く虫の声が聞こえるようになった。銃を下した大和さんが一息つく。

 

「…ふぅ、大丈夫か?」

 

大和さんが心配そうな顔で駆け寄る。

 

「は、はい…」

 

「さっきのは悪魔か…どうやらお前たちも面倒ごとに首を突っ込んでいるようだな」

 

「大和さんは悪魔のことを知っているんですか!?」

 

さらっと放たれた発言に驚きながらも訊ねる。

 

「ああ、小学校ぐらいのころは神話とか天使とかそういったファンタジー系の本を読み漁った。本物に遭うのはこれで二度目さ」

 

二度目…。大和さんはもうすでにこちら側の人間なのか…。

 

すると大和さんの視線がゼノヴィアが持つデュランダルに向いた。

 

「ところで君が持っているその剣は何だ?」

 

しまった、デュランダルを直すのを忘れていたか。ゼノヴィアもやらかしたというような表情を一瞬浮かべたがすぐにいつもの凛とした表情に切り替えた。

 

「これは聖剣デュランダル、私の愛剣だ」

 

「何だと!?本物なのか!?」

 

「ああ」

 

「すごい…これが彼の英雄・ローランが使っていたという伝説の剣デュランダル…!」

 

大和さんが食い気味にデュランダルを様々な角度から見始める。デュランダルを見るその目は興奮してキラキラしている。

 

「…」

 

俺とゼノヴィアがやや引き気味にその様子を見る。

 

大和さんってもしかしなくても中二病だよね。家で話していて思ったがときどきそれっぽい言い回しをするからそう思った。

大和さんが俺たちの視線に気づくと「おっと失礼」と言ってきりっとした表情に戻った。

 

「お前、もしかして戦士か?」

 

ゼノヴィアが鋭く問い詰める。もしかしなくても結界には入れたりあんな殺気放てる時点で普通の人じゃないだろう。

 

「戦士…あながち間違いではないな。それにもう隠せそうにないか」

 

フッと笑う大和さんが黒い銃をくるくると回し、告げる。

 

「俺はフランス外人部隊のスナイパー…コードネームはル・シエルだ」

 

「!?」

 

「ああ、俺は家族に商社に勤めていると嘘をついてフランス外人部隊に入隊していたのさ」

 

寂し気な表情で語る大和さん。俺は突然のカミングアウトに驚きを隠せなかった。

 

でも軍隊に入っていたのならガタイの良さも説明がつく。ナイフの使い方も訓練で学んだのだろう。

 

「その銃はただの銃ではないな」

 

ゼノヴィアの目線が大和さんが持っている銃に注がれる。よく見ると形状は銃そのものだが細かい装飾が施されていてただならぬ雰囲気を放っていた。

 

「これか?俺は昔、敵の作戦で仲間とはぐれてしまったとき悪魔に襲われてな、それ以来念じれば自由に出せるようになった。手入れも銃弾の装填もしなくていい便利な銃さ」

 

念じれば自由に出せるってつまり…。俺はゼノヴィアと顔を見合わせた。

 

「なあゼノヴィア、あれって神器だよな?」

 

「ああ、だが銃の神器と言うのは初めて聞くな」

 

神器って言うから木場のような剣とか籠手とか遥か昔からあるようなものをベースにしたものしかないと思っていたがどうやらそうでもないらしい。

 

「二人とも何をこそこそ喋っているんだ?」

 

大和さんが訝し気な目で問い詰めてきたが「なんでもないです」と言いなんとか誤魔化す。俺は一番気になることを訊ねる。

 

「大和さんは何で外人部隊に…」

 

俺は大和さんのような気さくで優しい人がどうして軍隊に入るのか分からなかった。すると大和さんは俯きがちにフッと弱々しく笑い、語り始めた。

 

「就活も頑張ったんだが、俺みたいな半端者を取ってくれるとこはどこにもなくてな。俺みたいな元喧嘩番長が家族を養っていけるだけの金を稼ぐには命を懸けるか、裏の世界に行くしかなかった。元からミリタリーには興味があったし、俺はこの職を知ったときはすぐにこれにしよう!と決めた」

 

天を仰ぎ、遠い目で大和さんは語る。

 

「最初は大変だったな。言葉の間違いで何度も教官に殴られたし訓練もきつかった、でもこれも家族のためと思えばいくらでも耐えられたさ。おかげで視力を活かして凄腕のスナイパーとして仲間に頼りにされるくらいにはなった」

 

話し終えるとふと俺の肩を掴み、真っすぐな目で頼んできた。

 

「このことは絶対に飛鳥に言わないでくれ。言えば必ず俺を止めるだろう」

 

「でも他の方法だって…!」

 

高給とは言わないまでももっと真っ当に金を稼ぐことだってできたはず。言葉を言い終える前に遮られた。

 

「もう俺は引き返せないのさ。それに俺は生粋の喧嘩番長だ。俺一人が戦って解決するならそれで充分」

 

拳を握り、決意に燃える瞳で語る。

 

「…母さんが倒れたと聞いて俺はより覚悟を決めた。俺が飛鳥を、家族を守るんだとな」

 

大和さんは崩れた前髪を払い、咳払いして「すまない」と言う。

 

「兎に角、無事でよかった。何なら一緒に家までついていこうか?」

 

「いや心配ない。家のすぐ近くだしな」

 

ゼノヴィアが提案をきっぱりと断る。仮に襲ってきたら今度こそスペクターとデュランダルで返り討ちにすればいいだけだからな。

 

「そうか…一応気を付けていくんだぞ?」

 

「ありがとうございました、大和さん」

 

「礼には及ばない。また何かあったらいつでも連絡してくれ」

 

大和さんはそう言って踵を返し、「じゃあな」と手を振って帰っていった。

 

「…かっこよかったな」

 

ふと感想を漏らす。

 

方法は真っ当ではないが大和さんは家族を守るという信念をもって行動していた。ああいう人は尊敬にも信頼するにも足る。でもいつかは家族を守ることだけでなく自分の幸せも考えてほしい。そう願わずにはいられなかった。

 

「そうか?あの時のお前の方がかっこよかったぞ」

 

「!?」

 

思わずばっとゼノヴィアの方を向くと「どうした?」と何事もなかったかのように問いかけてきた。

 

「い、いやなんでもない…」

 

いきなりすごいことを言うな彼女は。年頃の男子にそうやって勘違いするようなことを言うのはやめてくれよ…。

 

何気ない会話を交わした後、俺たちは再び帰路に着いた。

帰宅後、ポラリスさんにせびったらイレブンさんの反応が良かったので買ってもらえることになった。

 

今度はオカルト研究部の皆とタコパするのもいいかなとあれこれ考えながらその日、眠りについたのであった。

 

 




作者はタコパしたこともたこ焼きを作ったこともありません。誰か教えてくれると今後の参考になるかもしれない(ボソッ)

大和の神器ですが見た目は今どきの自動拳銃です。銃と剣で1セットの神滅具とか出るぐらいなのでありだろうと思って出しました。

次回の更新は登場人物の設定集です。初出しの設定もあるかも?さらに次は特別企画です。内容は戦士胎動編の補足解説も込めた振り返り、NGシーン集などです。

次章予告



新章、始動――

「悠、君に折り入って頼みがある」

悪魔として新たな道を歩みだしたゼノヴィアの頼みとは。

「久しぶりだね、紀伊国君」

魔王との再会。

「君が噂の『スペクター』ですね?」

天使長は突然に。

「横槍を叩き込ませてもらうッ!!」

世界の悪意が牙をむく。

 死霊強襲編(コード・アサルト) 第一章 停止教室のヴァンパイア


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