ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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ファイズ完走。最後まで人間関係や葛藤がしっかり描かれていてすごく面白かった。
三原デルタは決して弱いんじゃなくていつも相手が悪い…だけだよね?

Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は…
S.スペクター
1.ムサシ
3.ロビン
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7.ベンケイ
11.ツタンカーメン
12.ノブナガ
13.フーディーニ



第29話 「もう一人の『僧侶』」

「…」

 

放課後、俺たちオカルト研究部の部員全員がある扉の前に立っていた。

それは旧校舎の一室、厳重に『KEEP OUT』のテープが張られ立ち入り禁止、開かずの間とされてきた部屋だ。

 

何度かこの部屋の近くを通り、そのたびに一体中に何があるのだろうと思った。今までこれといった説明もなくただただ謎の部屋とされてきたこの部屋の全貌が今日、遂に明らかになるというのだ。

 

「本当に、ここにその『僧侶』がいるんですか?」

 

予め聞いた話によるとこの部屋には更なる部員、眷属がいるとのことだ。

 

駒の種類はアルジェントさんと同じ『僧侶』。話を聞いた時は驚いたものだった。兵藤とアルジェントさんは話は何度か聞いていたが面識はないらしく、完全に情報がなかったのは最近入ったばかりの俺とゼノヴィアだけだった。

 

「ええ、さっきも話したけど今までは彼の能力が危険視されて封印するように上から指示されていたの」

 

「でも今回、レーティングゲームやコカビエルとの一戦を経て部長が評価されたことでようやく解禁されたのよ」

 

部長さんと朱乃さんが続けて説明する。長年敵対してきたという堕天使の幹部とやりあえば否が応でも評価は上がるだろうな。それに封印されていたというならライザー戦に姿を現さなかったのも納得がいく。しかし上に封印されるほどの能力とは一体…?

 

部長さんがドアをそっと撫でる。

 

「普段は一日中この部屋にいて、深夜だけは術が解けて出られるようになるのだけれどどうにも本人に出る気がないみたいなの」

 

「…つまりはヒッキーか」

 

謎の『僧侶』は引きこもりか。どうやら性格に難ありなようだ。

 

「でも、悪魔稼業では私たちの中では一番の稼ぎ頭よ。パソコンを介して人間と契約を取る特殊なスタイルでね」

 

パソコンで契約を取る悪魔って、悪魔も進んでるんだな…。試しに塔城さんにその部員のことについて訊ねてみた。

 

「…塔城さんはその人のこと知ってる?」

 

「はい、裕斗先輩も何度か会ったことがあります」

 

つまりは兵藤が入る前に眷属になり、封印されたということか。

 

「さて…」

 

部長さんがドアに手を当て魔力を込める。

するとドアに幾重にも施された魔方陣が浮かび上がり、パキン!と音を立てて消滅した。

 

今度はドアノブを握り、ゆっくりとドアを開けた。真っ暗闇の部屋に外の黄昏時の黄金の日差しが差し込み中を照らし出そうとしたその時、耳をつんざく悲鳴が闇の中から聞こえた。

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「だぁぁ!!びっくりしたァ!!!」

 

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃ!!?」

 

悲鳴に驚いたこちらも思わず大声を上げるとさらに同じくらいの声量で悲鳴が帰ってきた。「ふふっ」と笑い声が聞こえ、周りを見ると他の部員たちが俺の様子をおかしそうに笑っていた。

 

「お前ら笑うなよ…」

 

こっちはホントにびっくりしたんだよ。殺人事件か何かかと思ったよ。

 

兵藤が部屋の中の闇を目を凝らして見る。

 

「…棺桶?」

 

兵藤がふと言葉を漏らした。何かが見えたようだが。

 

「は?俺には真っ暗闇しか見えないぞ…ってお前らは悪魔だから暗視できるのか」

 

悪魔は夜などの暗がりではその身体能力が増す。暗がりでなくとも普段から闇を見通す能力を備えているのだ。

 

「大丈夫ですよギャスパー君。封印が解けて外に出られるようになったのですよ、さあ一緒に外に出ましょう」

 

「…」

 

中にいるという『僧侶』…ギャスパーというのか、は部長さんの呼びかけに応じずただ沈黙を貫いた。

 

部長さんはため息を吐き、部屋の中へと入っていき俺たちも後に続く。

 

歩を進めるたびに年数がたっているのか木造特有のギィときしむような音が聞こえる。次第に暗闇に目が慣れていくと部屋の内装はまるで女子部屋のようにかわいらしいものであることがわかった。カーテンは閉め切られ、棚にはぬいぐるみがずらりと並んでいる。不気味なくらいの静けさと闇がここは閉じられた空間であることを認識させた。

 

ギャスパー君を探そうと闇に目を泳がせると不気味な部屋の雰囲気には合い、しかし可愛らしい部屋の内装にはそぐわない物が中央に存在しているのを発見した。

 

棺桶である。古めかしい装飾が施され、しかし最近まで使われたのか埃をかぶっていない棺桶が横たわっている。

 

そしてその棺桶に背を預け、体操座りでうずくまる影がいた。

 

「女の子だ!しかも外国の!」

 

いち早く反応したのは兵藤。

俺も暗闇の中で目を凝らし、影の姿をよく見る。

 

微かにドアから差し込む光に反射する髪の色は金、震える体は細く小さく見慣れた駒王学園の女子制服を纏い怯える眼差しを持つ顔立ちは間違いなく少女のものである。

彼女がグレモリー眷属二人目の『僧侶』、ギャスパーか。

 

「…」

 

喜ぶ兵藤とは対照に胡乱な視線を送るゼノヴィア。

 

「どうしたゼノヴィア?」

 

「…もしや彼女は」

 

「イッセー、ゼノヴィア。この子は男の子よ」

 

ゼノヴィアの言葉を遮って部長さんが思わぬ事実を指摘する。

 

「「えっ」」

 

兵藤とゼノヴィアは声を漏らした。

 

内心俺も同じように驚いている。嘘だ…。俺を騙そうとしている…。だってこんな…こんなに声も高くて可愛らしい格好と目つきをした奴が男なわけは…。

 

「彼は女装趣味があるの」

 

「ええええええ!!?」

 

追い打ちをかけるように明かされた事実に兵藤が声を張り上げて驚く。こんな男がいるなんて世界は広いんだな…。

 

「ひぃぃぃぃぃ!!ごめんなさいぃぃぃ!!」

 

絶叫に震え上がるギャスパー君は半泣きで半ば叫ぶようにして謝罪する。

予想外の展開に打ちひしがれた兵藤は両膝を突き、その場にうなだれた。

 

「そんなっ…見た目は完璧に美少女なのに…こんなっ…!こんな残酷なことがあるなんて…!金髪のダブル『僧侶』だって嬉しかったのにッ!」

 

…おう。いつだってエロが迸る兵藤はブレない。言われてみればアルジェントさんも金髪だし、『僧侶』は二人そろって金髪ってことになるな。

 

「しかし何だって引きこもりなのに女装癖を…」

 

普通、女装と言うのはコスプレ然りそれを見せる誰かがいてこそ成り立つものだと思うのだが。

 

ギャスパー君はもじもじしながら答えた。

 

「だってこっちのほうが可愛いもん…」

 

「が…は……」

 

ギャスパー君の返事を聞いてショックからか床にめり込む兵藤。

 

「人の夢と書いて、儚い」

 

追い打ちをかける塔城さんの呟きによって完全に沈黙する兵藤。…哀れ。

 

「あ、あの…この人たちは…?」

 

おどおどしながら俺たちに目をやるギャスパー君。俺たちが初対面なように向こうにとっても初対面だし当然の反応だ。部長さんがアルジェントさんに手を向ける。

 

「紹介するわ、彼女はあなたと同じ『僧侶』のアーシア」

 

「はい、よろしくお願いします!」

 

「ひっ!」

 

元気のいいアルジェントさんの声にすらびくつくギャスパー君。かなりの重症だなこれは…。

 

「そしてここで倒れているのが『兵士』のイッセー」

 

「…」

 

まだショックから立ち直れずに倒れる兵藤の頭を突っついてやる。

 

「おい起きろ」

 

「う、うぅ…何だ紀伊国か…」

 

かすれるような声が返ってきてゆっくりとだが起き上がった。

 

「彼は紀伊国悠。眷属ではないのだけれど私たちの仲間よ」

 

「えっと、ギャスパー君でいいかな?よろしく」

 

なるべく不安を和らげるように声のボリュームも落として笑顔で挨拶する。

 

「…」

 

今までビビらせすぎたのか恐怖値がMAXハザードオンして反応すらしてくれなかった。少しは反応してくれよォ!と突っ込みたいが返って逆効果になりかねないので言わない。

 

「私は『騎士』のゼノヴィア。…お前、吸血鬼だな?」

 

彼女は鋭く、ギャスパー君に問い詰めた。ギャスパー君はその質問にビクッと体を震わせた。

 

「こいつが吸血鬼?」

 

「小さいころから何度か吸血鬼とはやりあっていてね、奴らは悪魔以上に光に弱い。後は僅かに人間と異なる歯の形でわかる」

 

なるほど、それならこの日光を入れない部屋の暗さも納得がいく。歯に関しては暗くてそこまで確認することはできないが。

 

「その通り、彼はギャスパー・ヴラディ。ギャスパー君は転生悪魔であり人間と吸血鬼のハーフなの」

 

「え!?」

 

俺と兵藤たち新参組が揃って驚く。ゼノヴィアはやはりと言った表情で話を聞いた。

 

悪魔に転生した人間と吸血鬼のハーフ…これはつまり紅渡か!彼も人間と吸血鬼がモデルになったファンガイアのハーフだった。

 

「ギャスパー、お願いだから外に出ましょう?」

 

「嫌ですぅぅ!!どうせ出ていったってみんなに迷惑をかけるだけなんですよぉ!!」

 

ギャスパー君は一向に部長さんたちの説得に応じようとしない。骨が折れそうだこれは。何か外を怖がる要因になった出来事が過去にあったのだろうか。

 

ついにギャスパー君の態度にしびれを切らした兵藤が前に出た。

 

「…ハァ、おい部長が出ようって言ってるんだから一緒に」

 

兵藤がずかずかとギャスパー君に歩み寄り華奢な腕を掴んだ。

 

するとその瞬間、消えてしまったのだ。ギャスパー君の姿が。何の前触れもなく、忽然と。

 

「ん?」

 

「…何が起こった?」

 

ゼノヴィア達も何が起こったかわかっていないみたいだ。部長さんや朱乃さん、木場と塔城さんは驚くこともなく「あれだね」と言っている。4人はあれが何なのか知っている?

 

「あいつどこに行った?」

 

あっちを向いてはこっちを向き消えたギャスパーの姿を探す。

 

目をあちこちにやる最中、棚の陰からこちらの様子を伺うギャスパー君と目線が合った。

 

「ひっ」

 

声を漏らすと今度は完全に棚の陰に引っ込んだ。状況を飲めない兵藤が何事かと朱乃さんに訊ねた。

 

「あのこれは一体…?」

 

「彼の神器は興奮すると、視界に移る全ての物体の時間を一定時間停止させる能力を持っています」

 

…えっ?時間停止?

 

「ええええ!!?」

 

「彼はその能力を制御できないがためにここに封印されていたの」

 

「…繋がった」

 

全てを理解した。彼はただ外が怖いのではない。自分の制御できない力に怯えて外に出ることを拒んだのだ。

 

異世界生活3か月目にしていきなり登場した身内のチート能力に、俺は驚くしかなかった。

 

 

 

 

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部室に戻った俺たちは部長さんの説明を受けながらくつろいでいた。

朱乃さんが運んだ紅茶を啜り、一息つく。

 

「『停止世界の邪眼《フォービトゥン・バロール・ビュー》』…」

 

単語を舌先で味わうようにつぶやく。それがギャスパー君に秘められた神器の名称。

 

「時間を止める能力って反則じゃないですか。よくそんな奴を眷属にできましたね…」

 

「『悪魔の駒』には『変異の駒』という特殊な駒があって本来複数の駒を必要とする転生を一つの駒で済ませることが出来るものがあるんだ。彼はそれを使って悪魔に転生したんだ」

 

木場が紅茶を啜り、丁寧に解説してくれた。

 

変異の駒、ミューテーション・ピース…。それを使えば駒を8つ消費して転生した赤龍帝の兵藤でもこれだけで済ませることが出来るのか。

 

「彼はハーフとはいえ由緒ある家の出。吸血鬼の力、人間の血で手に入れた神器、そして優れた魔術の素養。とても駒一つで済むレベルじゃないわ」

 

生まれながらにして様々な力に恵まれた者、か。スペクターの力以外には何も持たない俺とは大違いだ。

 

「おまけに彼の神器の力は日に日に高まっている。…近い将来、『禁手』に至る可能性もあるわね」

 

顎に手をやりながら部長さんは神妙な面持ちで解説を続けた。

 

「時間停止能力のバランス・ブレイカー…」

 

一体どんな能力に変化するのだろうか。時間停止のみならずクロックアップできたり、時間遡行できたりするようになるのだろうか?もしそうなったらこれほど心強い味方はいない。

 

「僕の話なんてしてほしくないのにぃ…」

 

部室の隅からくぐもった声が聞こえた。目を向けた先にあるのは段ボール箱。

 

あの後中々部屋から出ようとしなかったので無理やり段ボールに詰めて部室に運んだのだが詰められた本人が気に入ってくれたようで今のところ大人しくしてくれている。

 

「箱入りヴァンパイア君はいつになったら出てくれるか…」

 

解禁されたのはいいが本人がこれじゃあな…。

 

「部長、そういえば吸血鬼って光がダメなんですよね?それなのに外に出すって」

 

兵藤が部長さんに訊ねる。

 

創作ではよく夜の支配者たる吸血鬼は光に弱く、太陽の光を浴びればすぐ消滅する存在として描かれている。

 

「吸血鬼の中には『デイウォーカー』という太陽が昇る時間帯でも活動できる者がいるわ。彼がそうなの」

 

へー、日中でも動ける吸血鬼。人間界に溶け込むには便利な特性を持つ吸血鬼もいるんだな。

 

「…あの」

 

今度はアルジェントさんが挙手した。逡巡の後、恐る恐る口を開いた。

 

「吸血鬼は人の血を吸うと聞きました。彼もそうなんですか?」

 

吸血は吸血鬼の名にもある通り、吸血鬼の代名詞と言っても過言ではない行為だ。彼を運用するのに俺たちの血を吸う必要がなるなら少し考え物だ。

 

正直に言って蚊ならまだしもそれよりももっと大きな生物に噛まれて血を吸われるのは少し怖い。きっと吸われる量も多いだろうしな。戦いの際中貧血で倒れましたなんてなったら話にならない。

 

「ハーフではあるけど彼もその例外じゃないわ。でも本人はあまり直接人から吸うのは好んでないし10日に一度輸血用の血液を飲めば問題ないわ」

 

吸血が嫌いで輸血用の血液を飲む吸血鬼…。吸われないのはよかったけどそれは吸血鬼としてどうなんだろう。初めて出会う吸血鬼がこんなのでよかったのか?

 

「…なあ君」

 

部室の隅へと歩を進め段ボールの蓋をちょっとばかり開けて隙間から縮こまるギャスパー君を覗き込む。

 

「!?」

 

目と目が合う。そして俺は口元を笑ませて、低い声で言った。

これを俗に、草加スマイルと言うだろう。

 

「いつになったら出てきてくれるのかなぁ…?」

 

「ひぃぃぃぃぃ!!」

 

刹那、段ボールが跳ね上がって俺の顔面を強打した。

 

「うごっ!?」

 

顔面を走る激痛に床をごろごろのたうち回る。

 

痛い…!鋭い痛みがやってくるっ!

 

ふふっと部長さんが苦笑すると立ち上がった。

 

「…これから私と朱乃、裕斗はトップ会談の打ち合わせに行くわ。その間、皆でギャスパーをお願いね」

 

そう言って朱乃さんと木場を連れて部室を後にした。

 

 

 

 

 

「…さて、まずはどうやってこいつを引きずり出すか」

 

特に痛みが残る鼻を抑えて腰を上げ、箱を見下ろしながら思案する。

 

「悠、私はこいつを鍛えるべきだと思うぞ。健全な精神は健全な肉体に宿るというしな」

 

ゼノヴィアが前に進み出た。その手には綺麗に澄んだ水の入った瓶が握られていた。

 

「おい吸血鬼、早くその段ボールから出ないと中に聖水とにんにく、それから十字架を放り込むぞ」

 

「!!?」

 

彼女の言葉に驚いたのか、びくっと段ボールが震えた。それ聖水だったのかよ!

 

「「うわぁぁ…」」

 

俺は兵藤と声を揃えてドン引きした。

 

ゼノヴィア、元教会の戦士なだけあって吸血鬼には容赦ないな…。

 

「良かれと思って持ってきました」

 

塔城さんがいつの間にかにんにくを手に持っていた。もしかしてそっちもノリノリなのか!?

 

「さぁどうする?にんにくまみれになるか…?聖水まみれになるか?」

 

聖水のゼノヴィア、にんにくの塔城さん。二人とも実に楽しそうな表情を浮かべながらゆったりと段ボールに近づく。近づくたびに段ボールの震えは激しくなり。

 

「いやぁぁぁ!にんにくらめぇぇぇ!!」

 

ついに耐えかねたのか勢いよく段ボールからギャスパー君が飛び出し、逃げるようにして部室を走って出ていった。

 

「待て!」

 

ギャスパーを追おうと部室を飛び出すゼノヴィア。その手に握るのは聖剣デュランダルだ。

 

「デュランダルもらめぇぇぇぇ!!!」

 

恐怖に怯える彼の悲鳴が旧校舎にこだました。

 

 

 

 

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

 

 

 

 

夕日が空を焼くように輝く時間帯、旧校舎の周りでゼノヴィアと塔城さんによるチェイスが続いていた。

 

「ほら走れ!さもなくばデュランダルの錆になるぞ!!」

 

「ギャー君、にんにくを食べれば元気になるよ」

 

「どっちも嫌だぁぁぁ!!」

 

ギャスパー君は半泣きで逃げているが追う側の塔城さんとゼノヴィアは実に楽しそうにしている。

 

「そもそも何で教会の聖剣使いが悪魔にぃぃ!!?」

 

「…!」

 

ギャスパー君の悲鳴を聞いたゼノヴィアが不意に足を止めた。

 

複雑そうな表情を浮かべること数秒、すぐに足を走らせいつもの表情に戻った。

あれは一体…?

 

「おーおーやってるな」

 

そう言いながら歩み寄ってきたのは黄金色の日の光に目を細める匙。

 

「匙か、どうした?」

 

「解禁されたっていう噂の『僧侶』を見に来たんだが…あれか?」

 

絶賛逃走中のギャスパー君を指さす匙。兵藤が頷き問いに肯定の意を示した。

 

「ああ、あいつを見てどう思う?」

 

「どうって…すげえ可愛い美少女だと思うぜ」

 

「どころがどっこい、実は女装趣味の男なんだぜこれが」

 

「嘘だろ…てか引きこもりで女装趣味って矛盾してないか?女装って誰かに見せるためにするもんだろ?」

 

匙はげんなりとした表情で指摘する。

 

「だな、それにしても女装がよく似合ってるよなあいつ」

 

あいつの女々しい性格、顔立ちと言った要素が女装によく合っている。

 

「これで男なのがホントに残念だ…」

 

心底残念そうに兵藤がため息交じりに呟いた。

 

「へぇー、中々楽しそうじゃねえか」

 

聞き覚えのない男の声。振り向くといたのは深淵に渦巻くような昏い紫色の浴衣を来た男。顎髭を生やし、黒髪が光る悪そうな風貌だ。

 

振り向いてその男を見た兵藤の顔に驚きと警戒の色が浮かんだ。

 

「ッ!」

 

すかさず『赤龍帝の籠手』を展開し、構える兵藤。男は両手を上げて敵意がないことを示す。

 

「おっとおっと、今日は喧嘩しに来たわけじゃねえよ、どうせお前らが束になったって勝てねえのはわかってるだろ?散歩がてらに様子を見に来ただけだ」

 

束になっても勝てないというワードに場の雰囲気が一瞬ピリッとした。…異形の世界の関係者か?

 

「知り合いか?」

 

訊ねる匙、答える兵藤。

 

「あいつがアザゼル、堕天使総督だ」

 

「!!?」

 

場の雰囲気が弾かれたように張り詰めたものと化す。俺はゴーストドライバーを出現させ眼魂を握る。ゼノヴィア達も足を止めデュランダルを構えるなどして戦闘態勢に入った。戦闘要員でないアルジェントさんとギャスパー君は近くに隠れた。

 

「こいつがアザゼル…!」

 

聖書に書かれし地に堕ちた天使たちの長。その実力は先月襲来したコカビエルよりも間違いなく格上だろう。

 

いつ戦いが始まってもおかしくない雰囲気にあっても堕天使の長は悠然とした態度を崩さない。

 

「そうかっかするなって、ほら構えを解け。さっきも言ったが俺は様子を見に来ただけだ」

 

「…」

 

恐る恐る俺たちは構えを解く。神器の展開までは解かずいつでも戦う準備だけは崩さなかった。

 

眼前のアザゼルはきょろきょろと辺りを見回す。

 

「聖魔剣使いはどこだ?」

 

「木場ならいねえよ!どうせ木場の神器を狙ってきたんだろ!」

 

するとアザゼルはがっかりそうに息を吐いて肩を落とした。

 

「なんだいねえのかよ…そういや、コカビエルを倒したっていう戦士はどこだ?」

 

コカビエルを倒した…回収したのは白龍皇…後から兵藤から名前を聞いたがヴァーリだしそうなると俺になるのか?

 

すると一斉にアザゼルを除く皆の視線が俺に向いた。

…っておいっ!

 

「ちょ、バカ!なんで俺を見るんだよ!?」

 

「おーお前さんか!って人間か。ならお前さん、神器持ちか?」

 

アザゼルは興味深そうに俺を見る。その眼差しに敵意の類はなかった。

 

「そ、そうだけど…」

 

「コカビエルに勝てるほどの神器持ち…なるほど。お前さん、うちにこないか?」

 

「!?」

 

突然のオファーに目を見開いて驚いた。今まで敵対してきた堕天使、その長直々の勧誘。驚かないはずもなかった。

 

「お前のとこの堕天使が俺たちに散々迷惑かけといて聞くと思ってんのか!?」

 

兵藤が声を張り上げて抗議する。堕天使に己も仲間も殺された身としては当然の反応だ。

 

「そういうたぁ思ったよ。ま、当然と言えば当然だな。わりぃ、忘れろ」

 

ポリポリと頭を掻き、軽口で謝罪する。

 

…どうにも軽いな。これが堕天使の長か。天使と言えば真面目で厳かなイメージがあるのだが堕がつくと一気に変わるようだ。軽く、自由、豪胆。それの長ともなれば当然か。

 

「そこに隠れているヴァンパイア」

 

茂みの一角ががさっと揺れる。そこに隠れていたギャスパーにアザゼルが近寄ると、膝をついてまじまじと怯える目を覗き込んだ。揺れる茂みとかお前はポケモンか。

 

「『停止世界の邪眼』の持ち主なんだろ?五感で発動する神器は持ち主が未熟だととても危険な代物だから何か補助具で補ってやればいいが…手っ取り早いのは赤龍帝を宿す者の血を飲むことだな」

 

興味深そうにギャスパーを覗き込む目が今度は匙の方へ向いた。

 

「それは『黒い龍脈』だな。丁度いい、そいつをヴァンパイアに接続して余分なエネルギーを吸い取ってやれ。そうすれば暴走を抑えられるはずだ」

 

おもむろに立ち上がり、匙の腕に着いたトカゲのような籠手を指さす。黒いトカゲのような形状をした籠手は尾の部分が腕に巻き付くように伸びており目の部分は暗く赤い宝玉のようになっている。

 

「ついでにそいつには五大龍王の一匹、『黒邪の龍王《プリズン・ドラゴン》』ヴリトラの力が宿っている。そいつはあらゆる物体に接続できて力を吸い取ったり散らせたり、ラインを離して他の者同士を接続することもできる。成長すりゃラインの持続時間も本数も出力も増えるさ」

 

「マジか…」

 

驚きながらも匙は己の神器をじっと見つめる。

 

…俺も驚いた。元々匙の神器についてはフリード戦以来話を聞くことがなかったし、それがまさか堕天使総督直々に解説されるとは。反応を見るに所有者たる匙ですら知らない情報もあったようだし神器マニアという話は本当のようだ。

 

「ざっとこんなところか。…そうだ、うちのヴァーリがびっくりさせて悪かったな。あいつは変わり者だが、すぐにでも赤白の決着をつけようとは思ってないだろうよ」

 

兵藤を一瞥しそれだけ言い残すと、奴は踵を返して帰っていった。

 

「…よかったな匙、五大龍王だってよ。お前兵藤に負けないくらいすごいもの持ってるじゃないか」

 

「あ、ああ…取り敢えず、あいつが言ったとおりにやってみるか。でも練習の内容はどうする?」

 

練習か…。ギャスパー君の時間停止能力を上手く利用できる練習法…。

 

ふと天を仰ぎ見ると、黄金色の空を鳥が駆けていくのが見えた。

その時、俺の脳裏に電撃が駆け巡ったような気がした。

 

「…俺たちがボールを投げて、それを止めるってのはどうだ?」

 

咄嗟に思いついたアイデアを提案すると匙は「いいなそれ」と言って快諾した。

 

「俺、ボールを持ってくる!」

 

俺の提案を聞いた兵藤が体育館のある方へ駆け出していった。

 

 

 

 

 

数分後、兵藤が持ってきたボールの一つを手に取り、遠くで待つギャスパー君を見据える。

 

ギャスパー君の手には匙の神器から伸びる黒いラインが繋がれていた。ラインで余分なエネルギーを吸い取りつつ神器の安定した発動を目指そうということだ。

 

「じゃ、投げるぞ」

 

「は、はい!」

 

合図を出すと準備万端を示す返事が返ってきた。

 

「ソウラァ!」

 

掛け声とは対照的にゆるーくボールを投げる。緩やかな弧を描いて飛ぶボール。真っすぐギャスパー君の視線がボールを捉えた時、ボールは石のように固まり動きは宙で止まった。

 

「止まった!」

 

「やるじゃねぇかギャスパー!」

 

ギャスパー君の隣で様子を見ていた兵藤が嬉しそうに彼の頭を掻き撫でる。

ギャスパー君もこの結果に驚きつつもはにかみながら笑った。

 

「じゃ、このまま続けるぞ」

 

その後練習は夜まで続いた。何度か失敗して俺が止められることもあったが回数を重ねていくごとに失敗の数も減っていった。そして練習の中でギャスパー君の神器の特性がだんだんわかってきた。

 

彼の神器は視界に映る者全ての時間を数分間だけ停止させる。その範囲が広ければ広いほど停止時間は短く、狭いほど停止時間は長い。現状、視界に入った特定のものだけを停止させるのは無理なようだ。

 

練習を終えて帰るとき、匙は疲れた表情をしているかと思いきや満足そうな表情をしていた。アザゼルのアドバイスで自分の神器の新たな可能性が見えたからだろう。あの堕天使総督はちょっとのアドバイスでギャスパー君と匙、二人の神器の可能性を大きく切り開いた。ああいった神器に詳しい人が味方にいればいいのだが…

 

え?ポラリスさん?

あの人はあまり神器に興味はないみたいで別のものを研究しているようだ。それに…

 

『神器のことは神の子を見張る者に任せておけばよい。研究のために不用意に神器所有者と接触を図ればこちらの存在が公になりかねんからのう』

 

と言っていた。あの人の真意は俺の手の届かない深淵にある。

 

あの人は俺を鍛えてくれたり困ったことがあればすぐに相談に乗ってくれるが自分自身のことはまるで話に出さない。特に昔のことを聞こうとするとすぐにはぐらかす。その時も飄々とした態度を崩さない。

 

あの人の過去には何かある。そしてそれはレジスタンスの目的と密接に繋がっている。そんな気がする。

 

 




ギャスパーは書いてて楽しいキャラだなぁ。

悠「行け!ギャスパー!」

ギャスパー「が…がおお!!」

悠「ギャスパー、きゅうけつ!」

ギャスパー「生臭いの嫌ですぅぅ!!」



次回、「自分の生き方」
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