もしかすると23話の戦闘シーンに色々書き加えるかもしれません。戦士胎動編のクライマックスの戦いなのに物足りない気がするので。
Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は…
S.スペクター
1.ムサシ
3.ロビン
4.ニュートン
5.ビリーザキッド
7.ベンケイ
11.ツタンカーメン
12.ノブナガ
13.フーディーニ
「いやー、夜分遅くにすみませんね」
眼前で椅子に腰かけ、にこにこと笑うのは輝くような金髪の青年。
荘厳な白いローブを身に纏い、端正な顔立ちをしている。頭上には光輪が光る。
「…どうぞ」
緊張で声が震えるゼノヴィアがテーブルにカップを並べる。カップの中には澄んだ紅茶が注がれている。
…そんなに緊張するのか。でも、元居たところのトップと言えば当然の反応か。
青年が目を瞑ってカップを手に取り啜る。何気ない所作でさえ、この青年が行えば華があるように思える。
数瞬の後、カップを口から離しテーブルに戻した。
「…やはり、高級品よりも素朴な味わいの方が私は好みですね」
深い森の奥、人の手の届かない神秘的な泉のように澄んだ美声が青年の口から発せられる。
「あ、ありがとうございます」
よかったー!気に入ってくれた…!この人を不機嫌にさせたら一体どうなることやらとひやひやしたよ…!
「では改めて自己紹介を。私は天界陣営の四大セラフが一人、天使長を務めるミカエルです」
そう、俺たちが今応接しているこの人こそ天界のトップ、天使長ミカエルさんである。
これで俺は会談に参加する三大勢力トップに全員会うことになる。
「よ、よろしくお願いします…」
深々と頭を下げて挨拶する。何だろう、何もしていなくてもこの人から神々しいオーラが放たれている気がする。これが天使長…!
ゼノヴィアはややバツが悪そうな表情をしてそそくさとこの部屋から去っていった。
「彼女はデュランダル使いのゼノヴィアですか?どうかしたんですか?」
「はい。あの、『ようやく悪魔であることを受け入れたとはいえ、いきなりミカエル様と会うのはきつい』…とのことで」
そう、ミカエルさんが家に入る前彼女が耳打ちしたのだ。さっきの話で泣きつかれてもいるしまだ心が落ち着いていないだろうと思い俺は了承し、一人で応対することにした。
「そうですか…こんなことを言えた立場ではありませんが、彼女には大変酷いことをしてしまいました。信徒を救えないで、何が天使長ですか…」
ミカエルさんは残念そうに深々とため息を吐いた。あの人もあの人なりに思うところがあるようだ。
「今日は会談前にあなたとお会いしたくて来ました」
さっと切り替えたミカエルさんが穏やかな声色で話を切り出した。
「お、俺ですか?」
「ええ。あなたがコカビエルを倒した戦士なのでしょう?」
もうバレてるー!?何でだ?天界陣営には誰がばらした?紫藤さんは…いや、コカビエル戦の前に離脱したからコカビエルが倒されたことは知っていても俺がやったとまでは知らない。
なら、会談の打ち合わせで誰かが言ったのか?考えられる限り、その線が濃いな。
「ふふ、そう固くならずに。今後、否が応でもあなたの名は広まりますよ」
マジか…。有名になったらきっと大和さんが来た時の悪魔みたいなやつが増えるんだろうなぁ…。良くないな、こういうのは…。
「そういえばあなたはグレモリー眷属と共に行動していると聞いたのですが…あなたは何故悪魔に転生しないのですか?」
続くミカエルさんの問い。そこを聞くのか。確かに俺がグレモリー眷属と共に行動する人間と聞けばそう思うだろうな。何故悪魔に転生しないのかを。
「…いや、実は『しない』じゃなくて『できない』んです」
「できない、とは?」
俺の答えを聞き不思議そうに尋ねてくる。
「一度転生しそうなとき、魔方陣がいきなり起動して駒を弾いてしまったんです」
思い出されるのはあの夜、白龍皇が去った後のこと。『悪魔の駒』が起動しかけた時、俺を取り囲むように魔方陣が現れ駒を弾き飛ばしてしまった。その後もこの件に関しては進展はない。
「転生を…ふむ。そのような魔法は聞いたことがありませんね」
俺の説明に、顎に手を当てて思考の後にかぶりを振った。
知らないのも無理はないだろう。多分、あの駄女神が仕組んだものだろうから。もしそうだとしたらどうにかして解除するよう言えないものか…。
「…実は今日は一つ、あなたに話があってきたのです」
話の話題が切り替わる。刹那、ミカエルさんの目が真っすぐに俺を捉えた。
「もしよければ我々天界陣営に加わりませんか?」
「…勧誘ですか」
組織の勧誘はこれで5回目だ。部長さん、サーゼクスさん、ポラリスさん、そしてアザゼルに続いてミカエルさん。そんなにどこも俺が欲しいのだろうか。
漏らした言葉に頷くミカエルさん。
「ええ、今のあなたは『協力者』という非常に曖昧な立場。あなたほどの力を持つ者は今度の会談に向けて立場をはっきりさせておく必要があると私は思うのですよ」
「…そうですよね」
ミカエルさんの話を聞いて得心した。
俺は実際、『レジスタンス』に所属しているわけだがそれは裏の話だ。その長たるポラリスさんは三大勢力と敵対する気はさらさらない(むしろ時が来れば協力する意思がある)らしく自分たちのことを内緒にしてくれるならどこの組織に掛け持ちしていいと言っていた。
表向き、今の俺はただの『協力者』。その気になればいつでも抜けられるある種フリーターであり、フリーターよりも立場が自由な存在だ。そんな立場の者が堕天使幹部とやりあえる存在というのは他の勢力から見て怖く見えるだろう。
敵対しているとも味方しているとも付かない存在。それなら敵か味方か立場をはっきりさせておきたいし出来ることならしっかり自分の手元に置いておきたいと思うはずだ。
「…これはもしかしたらの話ですが、今回の会談、三大勢力間で和平を結べるかもしれません」
数瞬の逡巡の後にミカエルさんが小声で話した。
「!?本当ですか…!?」
突如もたらされた衝撃的な情報に驚く俺にミカエルさんはにこやかに笑い話を続ける。
「ええ、その証拠にこちらは悪魔側から聖魔剣を数本頂きましたし、こちらからは赤龍帝に聖剣アスカロンを送りました。この会談は無駄な争いを無くす大きなチャンスです。先の大戦で多くの仲間を失い種の存亡の危機に陥った我々は争うべきでない、手を取り合うべきなのです。和平を結べたら天界陣営に加わってもグレモリー眷属と敵対することはありませんよ」
「うーん…」
ミカエルさんの話に言葉が詰まり、首を更に捻る。
それより兵藤は聖剣をもらったのか。アスカロン…アスカロン…ダメだ。アリオスガンダムアスカロンしか頭に出てこない。メジャーどころぐらいしかファンタジーは知らないんだよな。ともかく不完全な禁手しか使えない今のあいつにとってこれは大きいだろうな。
しかし和平が出来ればこっちにきても問題ない、か…。
「私も今、無理にとは言いません。答えは会談の後で聞くことにします。じっくり考えて答えを出してくださいね」
悩む俺を見てミカエルさんが猶予を与えてくれた。…ミカエルさんの言う通りこういう身の振りに関わることはしっかり考えてから返答したい。
「…あの、俺からも一つ聞いていいですか?」
恐る恐る俺は天使長に訊ねる。
「何でしょう?」
ミカエルさんはそれに快く応じてくれた。
折角天界のトップが来てくれたんだ。この際、聞いてしまおう。
「どうして神の不在を知ったゼノヴィアを追放したんですか?」
ゼノヴィアは偶然にも聖書の神の不在を知ったことで教会を追放され悪魔になり、その人生が大きく変わった。
だが信仰のない俺には聖書の神の不在がどれほど重要なことなのかイマイチわからない。そして事実を知る者を追放することにどういう意味があるのかも。
「あなたは天界にある『システム』をご存知ですか?」
「『システム』…?いえ、初耳です」
初めて聞く単語だ。天界にはそのような機械じみた名称の物が存在するのか?
「『システム』は神が作ったもので、信徒に奇跡や加護を与えたり神器に関連する機能を持っています。神が不在の今、我々四大セラフを筆頭に『熾天使』で何とか起動できるもののその機能は大きく低下してしまいました」
「そんなものが…」
神器や奇跡ときたらそれは世界規模に効果を与えるものではないか。異形の技術と言うのは時に人の叡智が届かない境地の物を作り上げてしまう。魔法、魔力など神秘の力の凄さの一端を感じた。
ミカエルさんの話は続く。
「神の不在を知る者や一部の神器はシステム、信仰に更なる悪影響を及ぼしてしまうために教会から遠ざける必要があったのです」
「だからゼノヴィアを…」
ようやくわかった。ただ単に異端と見なして追放したのではない。そうしなければただでさえ危ういシステムによって維持される秩序が崩れる可能性があったから。
「ええ。『システム』を守るためとはいえ、彼女には大変悪いことをしてしまいました」
俯きがちに申し訳なさそうに言うミカエルさん。
俺は正直言って100%納得はしていない。秩序を維持するために仕方のないことだとわかってはいる、だが追放された者はどうなる?追放された者が皆ゼノヴィアのように今の幸せな生活にたどり着けるとは限らない。むしろ教会に恨みつらみを抱いて路頭を彷徨う者がほとんどだろう。
「…俺はその処置に納得したわけではありません。…でも少なくとも彼女は今の生活を楽しんでいますし、彼女のことに関してはそう気に病む必要はありませんよ」
追放された彼女は新しい仲間と出会い、新しい日常を手に入れた。それを楽しむゼノヴィアの件に関してはもうミカエルさんが思い悩む必要はないと俺は思う。
「そうですか…そういうことなら私も安心できるというものです。本当なら彼女に直接謝罪したかったのですが…」
ミカエルさんも追放された人のことを気にはしているみたいで安堵の息を吐いた。
今日はダメでも明日には会談がある。今度はゼノヴィアも参加するしその時にいくらでも機会があるだろう。
「…あのー、四大セラフって言ってましたけど、今は二人じゃないんですか?」
今一度気になることを訊ねる。四大セラフは先の大戦で二名戦死したらしいから今は二人なのでは?
「二人?…ああ、先の大戦のことを言っているのですね」
ミカエルさんは俺の質問に首を傾げるがすぐに思い至ったようだ。
「実は我々天界陣営は四大セラフの穴を埋めるために先の大戦で多大な功績を上げた二人の天使をその一員に加えることにしたのです。彼らは戦死したウリエル、ラファエルの名を襲名しました」
それはつまり悪魔の現魔王と同じということか。サーゼクスさん達も旧魔王が死んだあと、魔王の名を役職として受け継いで魔王の座に就いた。天界側は死んだのがウリエルとラファエルだけだから、全員新しくではなく新しく就いたのが二人で済んだのか。
「当初は彼らの襲名に反対する声もありましたが、功績だけでなく彼らの人柄も次第に認められて今ではその名に恥じない立派な天使になりましたよ」
にこやかに語るミカエルさん。
きっとすごい人たち…いや天使たちなんだろうな。流石に天使のトップたちもプライベートが破天荒だったら俺の胃が死ぬ。間違いなく、死ぬ。
ふと壁掛け時計を見たミカエルさんが立ち上がった。
「…そろそろ時間のようです。元々びっしり詰め込まれたスケジュールの僅かな隙間でここに来たのですから」
「そうだったんですか。わざわざ自分なんかのためにすみませんね…」
「いえ、いいんです。やはり赤龍帝やあなたのような若い人は希望と力に満ちています」
俺の顔を見て明るい笑顔を見せた。ニコニコフェイスじゃない、これが天使長の笑顔…!めでたい感じがするな。
リビングを出て玄関までついていき、別れる天使長を見送る。
「では、明日の会談でお会いしましょう」
玄関を開けたミカエルさんは微笑むと、夜の闇の中に消えていった。
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深夜のゼノヴィアが寝静まる頃、俺はレジスタンスの基地の一室、広大なバトルルームでイレブンさんと模擬戦をしていた。青く金属光沢を放ち近未来の様相を見せるこの部屋は本来、どこもかしこも真っ白であった。しかしあらゆる環境を再現できるというこれまたトンデモ機能で今はこの内装になっている。
レジスタンスに加入してからだいたい週に3日、俺はゼノヴィアが寝静まったの見て基地とつながった自室の扉から模擬戦に行っている。何故訓練でなく模擬戦なのかと言うと訓練で色々覚えさせるよりも経験値が遥かの上の自分達と戦った方が自然とレベルが上がるというポラリスさんの考えだ。
模擬戦でイレブンさんもかなり手を抜いているとはいえ普通に剣も銃も当ててくるので当然、厳しさは普通の訓練の比ではない。
〈BGM:攻勢(仮面ライダーゴースト)〉
〔カイガン!ツタンカーメン!ピラミッドは三角!王家の資格!〕
鎌を振るい、煌めく剣戟を弾く。
矢継ぎ早にイレブンさんのビームソードが宙に赤い光の線を描き、剣技を繰り出す。
惚れ惚れするような動きに俺が生まれるより遥か昔から培ってきた経験が見え隠れする。
次々と剣技を繰り出し、それを受け止めては刃を返し、刃と刃がぶつかり合い拮抗するエネルギーと霊力が火花となって散る。下段からの切り上げを飛び退って回避する。
「防御に徹するだけでは敵を倒せませんよ」
悠々たる佇まいのイレブンさんから発せられるのは注意の言葉。何度も模擬戦で戦っているがこの人に剣での勝負で一発でも当てるあるいはかすらせたことはただの一度としてない。それだけの経験に裏打ちされた技術、実力を彼女は持っている。
「わかってますよっ!」
踏み込み、猛進。鎌を振り上げ、一気に振り下ろす。纏う霊力が空にターコイズブルーの軌跡を描く。
イレブンさんは渾身の一撃をビームソードで軽々といなし、反撃と言わんばかりに鋭く突きを繰り出す。
咄嗟にガンガンハンドのオレンジ色のグリップ部で受け止める。ごり押しで突きを振り払い、下段からの斬り上げを見舞う。即応し後ろに引くイレブンさん。
「次は格闘戦です」
ビームソードをデータ化して電脳空間にあるという彼女専用の武器倉庫、ウェポンクラウドに収納する。
拳を握り疾走、一気に間合いを詰めた。俺も即座に鎌を投げ捨て応戦する。
顔面に向かって伸びる右ストレートを上腕で弾き腹に掌底を入れる。
「ぐ…!」
揺らぐ体に切り裂くような後ろ回し蹴りで追い打つ。一閃、衝撃の後にイレブンさんは何度かバウンドして態勢を整え立ち上がる。あの攻撃を受けてなお顔や体、スーツには傷一つついていない。それだけ頑丈ということか。
「…他と比べると格闘の伸びが良いです。才能がありそうですね」
「才能じゃない、師匠の教えがいいものでな」
俺の格闘技術の根底にあるのは強化合宿での塔城さんとの組手地獄だ。俺は10日間であらゆる蹴りや拳打を教わり、組手で何度も飽きるくらい食らい続けた。そうされて技術の一つも盗めないようでは助っ人の意味がない。そう思って夜に自室でこっそり練習もした。
「では、問題のビット攻撃に移りましょうか」
言葉と同時に大きく後ろへ跳ぶ。追い打ちをかけんとイレブンさんが無線式兵器、ビットを複数飛ばす。形状は薄い板のようで、先端には黒々とした砲口、後方部にはスラスターとなる穴がいくつか存在している。後方の穴から小さな青い火を噴きギュンと言う音を立てて縦横無尽に宙を駆け巡り殺到する。
接近するビットの数は6。近接戦を得意とするツタンカーメン魂ではビットによるリーチの届かない距離を保ちながらのオールレンジは苦手なので、眼魂を入れ替えて新たなフォームに変身する。
〔カイガン!ロビンフッド!ハロー!アロー!森で会おう!〕
そうはさせまいとビットからビームが放たれる。空を焼き進む青い光条を出現したパーカーゴーストが防ぎ、それを纏うことで無事に変身完了する。それと同時に固まって動いていたビットも散開した。
すかさずガンガンセイバー アローモードを召喚、応射する。
トリガーを引いて緑色の光矢を放ち、一機一機確実に打ち落とす。射抜かれたビットは小さく爆発を起こし、燃え尽きずに残った残骸は地にガシャンと音を立てて落下した。
真正面、右、一射許してからの左。光矢とすれ違う光線が腹に直撃、爆ぜる。
「ぐぅ…!」
衝撃にぐらっとよろめくも踏み堪える。これで残るは3機。
斜め後ろから迫る光線が肩部をかすめる。即応し、振り向きざまにトリガーを引き一機落とす。
今度は左右からの同時攻撃。ビットがビームを剣状に展開、弾丸の如く猛進する。右足に霊力を収束、踏み込みと同時に爆発させ一気に跳躍する。獲物を見失った2つの牙を悠々と上から打ち抜いて爆散せしめた。
爆散の後、重力に従って落下。態勢を崩すことなく綺麗に着地して息を吐く。
「そこまでじゃ」
終了を告げる声がこの空間に響き渡る。
〈BGM終了〉
「ふぅー…」
〔オヤスミー〕
眼魂を引き抜き、音声と同時に物質化された霊力のスーツが霧散した。
「お疲れ様です」
先ほどまでとは違って緊張もほぐれた表情のイレブンさんが水の入ったボトルを差し出す。
「ありがとうございます」
キャップを捻り中身を呷る。模擬戦で熱くなった体が内から冷えていくのを感じた。
不意に視界の隅にこの戦闘用空間とモニタールームを繋ぐドアが開くのが見えた。
こちらに歩いてくるのは黒い貴族服に身を包んだ銀髪の少女、俺たちレジスタンスの唯一のメカニックにしてリーダー、ポラリス。
「少しはマシな動きをするようになってきたのう…じゃが何度かビームを食らったのはマイナスポイントじゃ。ビームを撃たれる前に全機撃墜するかビームをきっちり全て躱して全機撃墜せい」
「いや普通ビームを反射神経だけで躱すのは無理だって。変身込みでも」
辛口な評価に汗を拭って抗議する。イレブンさんは模擬戦時かなり手を抜いているとは言っていたがポラリスさんもイレブンさんもかなりスパルタだ。
最初の模擬戦はビット攻撃に翻弄されまくってビームを浴びに浴びて戦闘不能になったっけか。アニメや漫画を見ていると簡単そうに思えるがそんなことはない。無理、速すぎて躱せない。
イレブンさんが模擬戦で使うビットの大きさは大体前腕部よりちょっと小さいくらいの大きさ。砲口も小さいので角度で予測するとかもほぼ無理。なので俺はやられる前にやってしまえ戦法で臨んでいる。
そうして回を重ねるごとに慣れていき、今では落ち着いてしっかり対処できるようになった。
…でもビット攻撃に対処できるようになったで少しマシになった、か。この人は一体どんなレベルに行けばパーフェクトと言うのだろう。
「不可能を可能にするぐらいでないとこれからの戦いにはついていけんぞ。特訓あるのみじゃ」
「…そうだな」
先月コカビエルを倒せたのは俺の戦意に神器が応え爆発的に力が増したところが大きい。今後、敵と渡り合うにはそれに頼るばかりでは決して乗り越えられない。もっと俺自身の戦闘能力、技術も、パワーも磨いていかなければならないのだ。
「そうじゃ、一応言っておくが、戦場で敵を殺めることを迷うなよ。おぬしの迷いがおぬしを殺し、おぬしがとどめを刺さなかった者がおぬしの仲間を殺すやもしれぬからの」
矢庭に話し出すポラリスさん。ルビーのような双眸に憂惧の色が乗っていた。
「…わかってるよ、急に釘を刺すなんてどうした?」
戦う以上、相手を傷つけることは避けられない。相手の命を奪うことも。それはこの道を進む上で覚悟したことでもある。
「おぬしはまだ若い、それに優しいのでな。これからも心が揺れる時があるだろうと思うてな」
細い手で汗ばんだ俺の顎を手に取るように撫で、赤い瞳が俺の顔を映す。その視線はさながら細剣で貫くようだ。
「おぬしの選んだ守るために戦うという道はいばらの道じゃ。一度選んだ以上、おぬしはもう前に進むしかない。非情に徹さねば進めぬ時もある。よく覚えておけ」
「…ああ、しかと肝に銘じておくよ」
ポラリスさんの言葉を内心反芻して心に刻み付ける。非情に徹する覚悟。
…そうだ、戦いに優しさなんていらない。俺は死ぬ気はないし仲間を失うなんてもってのほかだ。自分の優しさにこだわって大切な者をなくすくらいなら俺は…。
▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼
次の日の深夜、俺は月明かりが窓から差し込む学校の廊下を歩く。
いつもは生徒で賑わうこの廊下も今は静けさに支配されている。こんな深夜に学校ですれ違うものなどいない。最も、今は結界が張られているのでごく一部の者以外学校の敷地に侵入することも出来ないが。窓からこの学校を取り囲む天使や悪魔、堕天使の姿がちらほらと見えた。
こんな時間に新校舎にいる理由はただ一つ。今日、この場で直に首脳会談が行われるからだ。俺は先月のコカビエル事件の関係者としてそれに呼ばれた。
ちなみに俺がオカルト研究部と一緒でない理由は俺は今グレモリー眷属の「協力者」と言う扱いで一応どこの組織にも属していないことになっているからだ。そういう立場だからこそアザゼルやミカエルさんからの勧誘が来たのだろう。
「…失礼します」
ドアをガチャリと開けて職員会議室の中に恐る恐る入る。
すると中では既に卓を囲む形で首脳陣が座っていた。この場にいるのはサーゼクスさんとレヴィアタンさん、そしてサーゼクスさんの後ろで控える給仕係のグレイフィアさんと会長さん、最後に黒髪を長く伸ばし眼鏡をかけた鋭い目つきの副会長さんの悪魔陣営、頬図絵を突くアザゼルとその後ろで壁に背を預け腕を組む白龍皇ヴァーリの堕天使陣営。最後にミカエルさんと護衛らしき見知らぬ女性天使の天界陣営。
場の空気は静かなもので、首脳陣はそれぞれの勢力を表す色…天使は白、堕天使は黒、悪魔は深い赤(レヴィアタンさんは深い藍色)のローブを身にまとい皆が真剣な面持ちで会談の始まる時を待っている。
俺の入室に反応して一斉に視線が俺に集められた。
「よく来たね、そこに座りたまえ」
サーゼクスさんが用意された椅子を指さし、俺はそこに腰かけた。位置的にはミカエルさんの真正面にいる。
「…君だったのか、あの時の戦士は」
声をかけてきたのはこちらを品定めするような目で伺う白龍皇。口元の不敵な笑みを隠しきれていない。会談の後で喧嘩を吹っかけてこないことを祈るばかりだ。
コンコンというノックの音の後、聞きなれた声を耳にする。
「失礼します」
ドアが開けられぞろぞろと入ってくるのはオカルト研究部。部長さんを先頭に神妙な面持ちで部屋に足を踏み入れる。ギャスパー君だけいないのは能力を制御できていないことを考慮して参加は見送られたからだ。
「私の妹、リアス・グレモリーとその眷属だ。コカビエルの一件で活躍してくれた」
「報告は受けています、改めてお礼を申し上げます」
ミカエルさんの謝辞に会釈で返す部長さん。
「うちのコカビエルが迷惑かけて悪かったな」
頬図絵をそのままに詫びるアザゼル。豪胆な人物とは聞いているがその通りの態度だ。
「そこに座りなさい」
その言葉に応じて部長さんたちが会長さんの隣にずらりと並んだ椅子に腰かけた。
「揃ったところで確認したいことがある。この場にいる者は全員、『聖書の神の不在』を認知している。間違いないな?」
サーゼクスさんの問いに皆そろって頷く。あの場に居合わせなかった会長さんも知っているというのは初耳だな。会談に参加するうえで後から聞かされたか。
それを確認したサーゼクスさんが「うむ」と言って幕開けの宣言を行う。
「それでは、三大勢力首脳会談を始める」
現ウリエルとラファエル、いずれ彼らも登場します。
ちなみにイレブンは装備も含めて本気ではありません。
次回、「駒王会談」