ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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第32話 「駒王会談」

「…ハァ」

 

自然と漏れ出たため息が早朝のやや薄暗さが残る空に消えていく。

 

首脳会談開始から遡ること17時間前、つまりは早朝。旧校舎の裏手に集まった兵藤、ギャスパー君、そしてアルジェントさんと俺はギャスパー君の神器を制御する特訓に励んでいた。

 

「い、イッセー先輩…疲れましたよう……」

 

「まだだギャスパー!俺たちには叶えなくちゃいけない夢があるはずだ!!」

 

ギャスパー君の弱音を気にせずに兵藤がボールを放り投げる。宙に放たれたボールをギャスパー君の目が捉えた瞬間、宙に浮いたまま静止してしまった。

 

この地道な練習を繰り返してきた結果、20回に一回は成功するようにはなってきた。ああして弱音を吐いているがこの特訓や俺たちの話を聞いて少しは自信も湧いてきたことだろう。

 

しかしギャスパー君と兵藤の夢とは一体なんだろうか。兵藤があんなに熱意をもって取り組んでるって時点で怪しさしかないが…。

 

「イッセーさん、ボールです!」

 

「ありがとうアーシア!行くぞ!」

 

投げられたボールは神器の発動に失敗してそのまま地に落ちて転がるか、あるいはうまいこと発動した神器によって停止させられる。転がったボールを俺が回収してアルジェントさんに投げ渡し、それを兵藤に回す。これを延々と繰り返す。

 

神器の制御に役立つと言われる赤龍帝の血を飲むことをギャスパー君が拒んだ以上、これしかできる訓練はない。

 

「おい紀伊国!そろそろ代わってくれ!」

 

「……」

 

結局、昨日はミカエルさんが帰った後も誘いに乗るか乗らないかをずっと考えたが一向に答えは出なかった。

 

俺は本当に今の立場でいいんだろうか。悪魔に転生できなかった俺は人間として、グレモリー眷属の『協力者』というポジションになし崩し的に落ち着いた。俺はあいつらを仲間だと思っている。

 

だがあいつらにとって、周りの人から見て俺は本当にグレモリー眷属の仲間なのだろうか?やはり異形の世界に足を踏み入れた以上どこかの組織に正式に所属しておいた方がよいのではないか?

 

「おーい、紀伊国?」

 

自問を繰り返す思考の海にどっぷりと沈んだ俺は、兵藤の声によって一気に引き上げられた。

 

「…ん、ああ!わかってる」

 

無理やり笑顔を作り、先ほどまで浮かべていただろう影のある無表情を誤魔化した。

だがその心中を見透かしていたのか、兵藤は心配そうな表情で問い詰める。

 

「お前どうしたんだ?またゼノヴィアと何かあったのか?」

 

「いや…」

 

少なくともゼノヴィアとの間でトラブルは何一つ起こっていない。この返事に関しては真実だ。

 

「…兵藤、お前ミカエルさんと会ったんだよな」

 

「ああ。アスカロンをもらったし、アーシアが追放された理由も聞いた…それがどうかしたか?」

 

「アルジェントさんが追放された理由?」

 

「なんでも天界にある『システム』っていうのにアーシアの悪魔も癒せる神器が悪影響を及ぼすから、だってさ」

 

「なるほど…」

 

そういえば昨日システムに悪影響なのは主の不在を知る者だけでなく一部の神器もそうだと言っていた。悪魔も癒せるという点がシステムの維持に必要な信仰に害をなしてしまう…か。

 

俺は意を決して、昨日のことを打ち明けることにした。

 

「…実は俺も昨日ミカエルさんと会って、天使側につかないかって言われたんだ」

 

「天使側に!?」

 

驚く兵藤。当然の反応だろう、悪魔である兵藤にとって天使は敵。自分の友達が天使側に誘いをかけられたと知れば嫌でも驚き、そして警戒する。

 

「ああ、会談で和平を結べたらお前らと敵対することはないし、お前ほどの力を持つ者なら『協力者』なんて曖昧な立場じゃなくこの際立場をはっきりさせておいた方がいいって…」

 

俺は頷いて話を続けた。話を聞いた兵藤は驚きこそしたが責めるような表情はしなかった。

 

「…そうか、お前はどうするんだ?天使側に行くのか?」

 

「…わからない、わからないんだ」

 

苦悩を表すように自然と俺は両手で頭を押さえていた。

 

「天使側に行けば、和平を結ばなかった場合俺はお前たちの敵になる。和平を結んだときはお前たちと敵対はしないけどもしかすると俺を手元に置きたい勢力が取り合いを始めるかもしれない、下手すれば俺の存在が問題になりかねない」

 

「…」

 

兵藤は黙って、真剣に俺の話を聞いてくれた。その姿に学園で変態だと罵られるような要素は微塵も存在しなかった。

 

「…お前は、今の俺の立場をどう思っている?」

 

俺は恐る恐る兵藤に訊ねた。

 

兵藤の返答次第では、俺の答えは大きく変わるだろう。兵藤はうーんと唸り、言葉を返した。

 

「…俺はあんまり難しいことはわかんないけどさ、お前は俺たちの仲間でいたいんだろ?」

 

「ああ、それはもちろんだ…でも、俺はグレモリー眷属じゃない、お前たちと同じ悪魔じゃない…俺は本当にお前たちの仲間なのか?」

 

ミカエルさんの話を聞いて己の立場について深く考え始めた結果、俺は自身の今の立場すら見失いかけている。

 

以前なら肯定できたはずの問いにさえ今の俺は満足に答えられない。

兵藤はさっきほど難しい表情をせずに問いに答えた。

 

「うーん、もしお前がそれで悩んでいるんだったら、お前がグレモリー眷属じゃないから仲間じゃないなんてことはないよ。レーティングゲームも、コカビエル戦も俺たちは一緒に命懸けで戦い抜いた!そんな奴をどうして仲間じゃないなんて言えるんだ?」

 

「!」

 

俺はその言葉にハッとした。

 

奴の言う通り今まで俺はグレモリー眷属と共に戦場を駆け抜け、命懸けで戦い抜いてきた。ともに強敵と戦い勝利をおさめ、その喜びを分かち合った。あいつらを信頼し、信頼される。

 

そんなことが出来たのはそれこそ俺があいつらの仲間だからだ。

 

「おーいアーシア!ギャスパー!」

 

兵藤は声を上げて向こうで特訓の続きを待つ二人へと呼びかけた。

声に反応した二人がさっさっと土を踏んで、俺たちの下に駆け寄った。

 

「どうしたんですかイッセー先輩?」

 

「何でしょう?」

 

「二人は紀伊国を仲間だと思うか?」

 

二人に問いかける兵藤。問いかけられた二人は特に難しそうな表情をすることなく答えた。

 

「えっと…まだイッセー先輩たちと同じで付き合いも長くないんですけど、それでもこうやってどうしようもない僕と向き合ってくれるいい人…同じオカ研の仲間だと思います」

 

「私は合宿やレーティングゲーム、先月の戦いで、紀伊国さんが皆さんと一緒に頑張る姿をたくさん見ました。同じグレモリー眷属じゃなくても、私は紀伊国さんを大切な仲間だと思っていますよ」

 

二人は迷いに揺れる俺の目を見てそう言った。他意のない純粋な気持ち。それを聞いた時俺の胸が深く打たれたような気がした。

 

「だってさ。お前の立場がどうかなんて関係ない、大切なのは…その、何て言うのかな…あ、絆だ!!」

 

兵藤がエロに溢れてそれ以外の物があまりなさそうな頭を振り絞り言葉を紡ぐ。

 

「俺たちオカ研と絆で結ばれている限り、お前も俺たちオカ研、グレモリー眷属の立派な仲間だ!」

 

そして俺の胸にコツっと拳を当て、燦々と輝く太陽のような笑顔と聞く者に希望と勇気を与えるような明るい声で言い放った。

 

その言葉で、俺の迷いは霧散した。流れる雲に覆われて隠れてしまった俺の蒼天は元の澄み渡る青い空へとその姿を取り戻した。

 

…そうだ、俺は何を迷う必要があったのだろうか。

 

「…はっ、はははっ!はははははは!!」

 

込み上げた笑いを抑えきれず、盛大に解放してしまった。

 

「ど、どうした…?もしかしてさっきの言葉変だったか?」

 

「いや、お前の話を聞いていると立場がどうのこうので悩んでた俺が馬鹿らしくなったよ。…ありがとう、兵藤」

 

「いいってことよ!」

 

俺の礼に屈託のない笑顔で返した。

 

…木場やアルジェントさん、部長さんたちがあいつに夢中になるのも分かる気がする。いや、俺はそういう趣味はないしそっちの道を歩むつもりはないからな!?

 

「答えは出た…じゃ、特訓を続けるぞ!兵藤、交代だ。次は俺が投げる」

 

俺は気持ちを入れ替えながらも気分の高揚をそのままに特訓に戻ろうとする。その言葉を聞いてアルジェントさんたちも元居た位置に戻っていった。

 

「おう!任せたぜ紀伊国!」

 

兵藤からボールを受け取り、特訓を再開する。

 

「行くぞギャスパー!」

 

元気よく向こうでボールを待つギャスパー君に声をかける。

 

「は、はい!お手柔らかにお願いしますぅ!!」

 

「ギャスパー君、頑張ってください!」

 

へとへとだったギャスパー君もアルジェントさんの声援を受けて奮い立つ。

 

ああ、やっぱり俺たちは仲間なんだ。改めてそれが確認できたことに今の俺はとても嬉しかった。

 

答えは得た。あとはそれをミカエルさんに告げるだけだ。

 

 

 

 

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

 

 

 

 

「…以上が私、リアス・グレモリーとその眷属悪魔が関与した事件の報告です」

 

首脳陣の前で話すという極度の緊張に手が震えながらも部長さんが締めの言葉を紡ぐ。

 

宙に浮かび上がっていた映像が消え、それと同時に事件の顛末の報告も終わった。報告を受けたこの場にいる者達は様々な表情を見せた。顔をしかめたり、嘆息したり、あるいは笑ったり。

 

会談は順調に進んでいった。時々アザゼルの発言が場をヒヤリとさせたが当人はそれを楽しんでいるように見える。

 

こういった異形の世界の政治の話を聞くのは初めてだ。しかも各勢力の首脳陣の会談に参加するとか一生に一度あるかないかの貴重な経験だ。興味深いな、なるべく頭に入れておこうと思う反面初めて聞くワードも多々出てきて少し混乱した。政治の面も含めて俺は改めて人間と異形の違いと言うものを感じた。

 

「ありがとね、リアスちゃん♪」

 

レヴィアタンさんが部長さんにウィンクをやり、少し戸惑った表情で部長さんも会釈した。あの人のテンションに普通についていける人ってこの中にいるのだろうか…?

 

「ご苦労、座ってくれたまえ」

 

サーゼクスさんの言葉に頷き、再び部長さんが椅子に腰を下ろした。

 

「さて、この件への堕天使側の意見を一つ聞きたい」

 

サーゼクスさんの発言、皆の視線が図太く構える堕天使総督、アザゼルに注がれる。

当人は不敵に笑って発言を始めた。

 

「送った書類に書いてある通り、事件はコカビエルの独断。『白龍皇』が回収した後、奴は軍法会議にかけられ地獄の最下層『コキュートス』にて永久凍獄の刑に処された…それが全てだ」

 

「説明としては最低の部類ですね…」

 

「んだよ全く、相変わらず堅苦しい野郎だなオイ」

 

呆れて嘆息するミカエルさんに面白くねえなと言わんばかりに言葉を放り投げるアザゼル。

 

そういう面でも堕天使と言う種族は欲に生きる悪魔以上にある意味自由な種族であることを感じさせる。体質の面では悪魔と違って聖書のような祝福されたものを気にしなくていいらしいしな。

 

さらにサーゼクスさんがアザゼルに問う。

 

「…アザゼル、一つ訊きたいことがある。この数十年間、神器所有者を集めている目的は何だ?最初は戦力増強の後に戦争を仕掛ける気かと思っていたが…」

 

「あなたはいつになっても仕掛けてこなかった。そこにいる白龍皇など神滅具使いを引き入れたと聞いた時は強く警戒しました」

 

サーゼクスさんに続くミカエルさんの発言。

 

アザゼルが神器所有者を引き入れている理由か。アザゼル本人が神器マニアだし、引き入れるのは研究の面でも戦力の面でもプラスになる。その行動に何か裏があるのか…?

 

「はー、やれやれ。俺の信用は三大勢力中最低かよ…」

 

アザゼルが二人の話にうんざり気にため息を吐いた。

 

「そうだな」

 

「そうですね」

 

「そうね♪」

 

「好き放題言いやがってこの…!」

 

漏らした言葉に、首脳陣の肯定の言葉が続いた。…ちょっとだけ、アザゼルがかわいそうに見えた。

 

震える声を静めて、アザゼルが問いへの返答をする。

 

「…神器の研究だよ。研究資料をお前らに送ってもいいぞ?それに俺は戦争になんか興味ねえよ。部下にも『人間界の政治に強く干渉するな』ってきつく言ってるし余所に影響を及ぼす気は殊更ねえ。俺は今の世界に満足してるのさ」

 

フッと笑みをこぼしたアザゼルの目線がミカエルさんへと移った。

 

「そういうあんたの所のウリエルだって、何やら戦士育成や世界各地の遺跡の調査に勤しんでるみたいじゃねえか。大戦で失われた武器でも掘り起こして育てた戦士に使わせて戦争でもしようってんじゃねえだろうな?」

 

アザゼルの言葉にミカエルさんはかぶりを振り静かに応じた。

 

「…いえ、しかし彼は『戦い』に備えているのですよ」

 

「『戦い』だ?戦争じゃないと来たら…あの連中か?」

 

「ええ、あなたの想像しているもので概ね間違いはありません」

 

…何だか話が二人だけで進んでいるぞ。サーゼクスさん達の方を見ると、レヴィアタンさんと揃って怪訝な表情を浮かべている。二人以外に心当たりがある者はいないようだ。

 

しかし話に出てきたウリエルとアザゼルが警戒している連中がいる…。もしかしてポラリスさんが言う『敵』と同じ連中か?

 

「そうかよ…ま、御託はこのくらいでいいだろ。とっとと和平を結ぼうぜ。お前らもそのつもりなんだろ?」

 

その言葉で室内に衝撃が走った。ミカエルさんやサーゼクスさんからならまだしもまさか堕天使側から和平を切り出されるとは誰も思っていなかっただろう。ミカエルさん達ですらこうなると思っていなかったらしく驚いていた。

 

驚いていたミカエルさんはすぐに切り替え、微笑みながら同意を示した。

 

「…ええ、もとよりそのつもりで会談に臨んでいました。このまま三すくみの関係を維持しても何の得にもなりません」

 

「私も同意する。神や魔王がなくとも我々は生きていかねばならないのだ。次に戦争が起これば間違いなく、悪魔は滅んでしまう」

 

同意を示し頷く首脳陣たち。俺は思わず息を呑んだ。

 

…すごい、俺は今歴史的瞬間に立ち会っている。きっと異形の世界の教科書があれば今後載るんだろうな。

 

前世ではこんなイベントに参加するなんて思ってもみなかった。というか転生3か月目にしてこの濃さってすごくない?俺が死ぬ頃には人生が超々特濃ミルクになったりするのか?

 

「そうさ、戦争を起こせば俺たちは共倒れ、人間界にも多大な影響を及ぼす。俺たちは戦争を起こすわけにはいかない」

 

アザゼルが以前のような飄々とした態度でなく真剣な表情と声色で言葉を紡ぎ始める。

 

「神がいない世界が間違っていると思うか?衰退すると思うか?現実はそうじゃなかった。俺たち皆、こうして生きている」

 

アザゼルが両腕を広げ、天井を仰ぎ見る。その目に移っているのは天井ではなくその先にある空…その彼方にいる者だろう。

 

「神がいなくとも世界は回るのさ」

 

静かに室内に響いたその言葉が、深く心に刻まれたような気がした。聖書の神がいなくてもその神話体系に属する異形や人間たちは変わらず生きている。豪胆で自由、エゴの塊とも呼ばれた堕天使総督の言葉はどこまでも的確にこの世界を表していた。

 

 

 

 

 

その後、各勢力の持つ戦力について協議がなされた。

 

「ざっと、こんなところか」

 

アザゼルの言葉で一応の終わりを見せ、緊張が少しほぐれたのか首脳陣が息を吐いた。

 

「話がひと段落ついたところで、『二天龍』と呼ばれる者達の意見を聞いてみましょう」

 

その中でミカエルさんがいつものように微笑みながら話を切り出した。

 

「お、俺ですか!?」

 

突然話題を振られたことに兵藤も驚いている…というか戸惑っている。

 

「そうだな。お前は世界を動かすほどの力を秘めている。ちゃんと意思を確認しておかなきゃ俺たちトップは動きづらいんだよ…ヴァーリ、お前はどうだ?」

 

アザゼルが後ろで相も変わらず腕を組んで控えている白龍皇ヴァーリに訊ねる。

 

「俺は強者と戦えればそれでいいさ」

 

不敵な笑み、だがどこか冷めた目で白龍皇は答えた。

 

「全く、この場でヒヤッとさせる発言を放り込むなよ…で、赤龍帝。お前の意思を訊こうか」

 

アザゼルの言葉を聞いて誰もが思っただろう、俺も思った。…お前が言うな。

 

「…俺は正直言ってよくわかりません。後輩悪魔の面倒を見るので精一杯で世界のこととか小難しい話はよく…」

 

兵藤は困惑の面持ちでそう答えた。

 

そうだろうな、仕事と生活両方でアルジェントさん、悪魔の仕事でゼノヴィア、そして悪魔としては向こうが先輩だがギャスパー君の面倒も見ている。自分の仕事も入れると世界のことなど考える間もない位大変だろう。

 

話を聞いたアザゼルがニヤッと笑んだ。

 

「じゃ、わかりやすく言おう。兵藤一誠、戦争になればお前は嫌でも表舞台に立たなければならない、戦うためにな。だが、和平を結べば戦争はなく、俺たちは種の存続問題に取り掛からなければならない…つまり、リアス・グレモリーと子作りし放題だ」

 

「ッ!!!」

 

返答に悩んでいた兵藤に雷に打たれたかのような衝撃の表情が宿る。

 

「どうだ、わかったか?」

 

「和平でお願いします!!是非!是が非でも和平で!!部長とエッチしたいです!!」

 

場の雰囲気を忘れ声を上げて和平万歳!と叫ぶ兵藤。お前はほんっとブレないし、わかりやすいよなぁ…。

 

「イッセー…」

 

恥ずかしさに顔を真っ赤にさせる部長さん。そりゃ兄の前であんなこと言われたらそうなるよな…。

 

「イッセー君、サーゼクス様の目の前だよ?」

 

「あ”」

 

調子に乗っていたあいつの顔がやれやれと苦笑する木場の注意で一瞬にして気まずい表情に変わった。

 

アザゼルに至っては心底楽しそうに馬鹿笑いしている。

厳格だったはずの会談が一気に賑やかな雰囲気に変わった。

 

「んじゃついでに、折角会談に呼んだんだしそこの人間の話でも聞いてみるか。このまま何も喋らずに終わるのも可哀そうだしな」

 

賑やかな感じが落ち着いた頃、豪胆たるアザゼルの目線が今度は俺に移った…って俺か!?

 

「そうですね、このタイミングで昨日の答えを聞かせてもらいましょうか」

 

「昨日の答え?何の話だミカエル?」

 

サーゼクスさんがミカエルさんに訊く。

 

「彼に天界陣営に加わる気はないかと勧誘をかけたのですよ。立場をはっきりさせておいた方がいいかと思いまして」

 

「オイオイマジかよ。俺も勧誘かけたんだが蹴られちまったんだぜ?こいつは神器に詳しい俺ですら知らない神器を持ってるんだ、そんなもん興味が沸かないはずがないし俺のとこに来てほしい位なんだが」

 

実に残念そうに言うアザゼル。

 

たしか最初に会った時「うちにこねぇ?」みたいに言っていたけど兵藤に反発されて引き下げたっけか。兵藤は元カノの堕天使に殺されたのもあるし、正直に言って俺も堕天使にはあまりいいイメージも思い出もなくてなぁ…。

 

「リアスから彼は『悪魔の駒』での転生に対して何らかの力が働き弾いてしまうと聞いている。…悪魔陣営に正式に加わるのは無理だろうな」

 

どこか残念そうにサーゼクスさんが言った。ま、妹である部長さんたちと仲もいいし実力もあるからちゃんと眷属悪魔になってほしいのが本音だろう。

 

「そりゃマジかよ…おい坊主、はっきり言ってこの場にいる全員の中で一番得体の知れないのはお前さんだ。コカビエルを打倒せる未知の神器、さらに『悪魔の駒』を使えねえときた。…お前は何者だ?俺たちをどう思っている?そしてこの世界をどうしたい?」

 

アザゼルが先程まで見せていた軽い態度でなく、真剣な表情で俺に問うた。この場にいる皆が俺を見ている。

 

俺は即座に理解した。…この返答次第で俺の人生は大きく変わり、立ち位置が定まる。そう思うと緊張で胸がバクバクする。額に汗が走る。それらを鎮めるために一つ、大きく息を吐いた。そして、答えを紡ぐ。

 

「…俺はただの人間です。どこにでもいるヘタレでビビりな高校生。ちょっと色んなごたごたに巻き込まれて力を手に入れただけの人間です」

 

首脳陣たちの手前、慎重に言葉を選びながらやや震える声で話をする。

 

「俺は平穏を切に願っています。友達と談笑して、同居人に振り回されながらも笑顔でいる日常が大好きです。それを壊す者となら誰とでも俺は戦います。でも戦いが好きってわけではありません、だから和平を結ぶことで戦いを未然に防げるのなら、俺は皆さんを支持したい」

 

語るのは嘘偽りのない俺の本心、俺の願い。

そして今度は真正面に座るミカエルさんの目をしっかり見る。

 

「…ミカエルさん。あなたは昨日、俺に立場をはっきりさせておくべきだと言いました」

 

この厳格な雰囲気の中、天使長と一対一で向かい合う。一瞬押し殺したはずの緊張が高まるが拳をぎゅっと握り再び押し殺した。努めて静かな声で話す。

 

「でも、俺は気付かされたんです。仲間であるのに立場がはっきりしているかしてないかなんて関係ありません。そこにいるリアス・グレモリーとその眷属悪魔達は俺が人間で、眷属悪魔でないことに関係なく、俺を一人の友達だと、大切な仲間だと思っています」

 

サーゼクスさんの後ろにいるグレモリー眷属を一瞥する。

 

その答えを示したのは兵藤だ。奴のおかげで俺は自分の置かれた立場を再確認し、答えにたどり着いた。

 

「仲間かどうかなんて立場だけで決まるものじゃない。その人と絆で結ばれているどうかだと俺は思います。種族がどうであれ俺はグレモリー眷属の仲間です…だから、俺は今のままグレモリー眷属の仲間、『協力者』でいます。それが俺の答えです」

 

語るうちに緊張を忘れて毅然とした態度で答えを告げる。

 

「…そうですか、わかりました。私はあなたの意思を尊重します」

 

ミカエルさんは俺の答えを聞き、瞑目しながらも頷き受け入れた。

 

何とか言えた、そしてミカエルさんもそれに納得してくれた。折角の天使長直々のオファーを蹴るのは心苦しいが致し方ない。俺には既に信頼し、信頼される仲間がいるのだから。

 

「ま、いいんじゃねえのか?和平を支持するリアス・グレモリーの協力者ってことは言い方を変えれば和平を支持する俺たちの協力者ってことにもなる。下手に立場を決めてしまうよりも今後、かなり動きやすいいいポジションだと俺は思うぜ」

 

この会談のために用意されたという豪勢な椅子の肘掛けで頬図絵を突くアザゼルが発言する。

 

「私もアザゼルに同意だ。立場が曖昧な分、組織による縛りがあまりない。非常時に臨機応変に対応できる者が一人でもいた方が重宝されるだろう。…そうだ、いっそのこと何か彼に三大勢力間で特別な肩書を与えるというのはどうだろうか?それならある程度指揮系統などの問題を回避できるはずだ」

 

アザゼルに続くサーゼクスさんの発言と提案。

 

って俺に三大勢力間での特別な肩書!?俺とんでもないことになってないか!?声に出しそうになったが何とか抑えて驚いた。

 

「私も賛成します。肩書に関しては和平を結んだあとで話し合いましょう。…アザゼルならさぞ素晴らしい名称の肩書を考えてくれるでしょう」

 

ミカエルさんも頷いて承認した。しかし後半をニコニコしながら言ったのにはどういう意味が…?

 

「オイオイ、昔のことでいじるのはやめろよ…。まあ俺も賛成だ。さて、んじゃ和平を…」

 

うんざり気な表情を浮かべたアザゼルが和平を結ぶ書類にペンを走らせようとしたその時、ここ最近何度か味わった奇怪な感覚に襲われた。

全てを飲み込み、停止させんとする力。

 

間違いなく、ギャスパー君の力によるものだ。

 

 




『停止教室のヴァンパイア』編も折り返し地点に来ました。

最近書きたい話が多くて困る。大和とイッセーの絡みも兼ねたギャグ回とか、ネタに突っ走るレジスタンス組の日常回とか。掘り下げというのもこの作品において重視している要素です。

次回、「横槍を叩き込む」

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