ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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久しぶりの坂本監督回。フォームチェンジ祭りは楽しいですね。

Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は…
S.スペクター
1.ムサシ
3.ロビン
4.ニュートン
5.ビリーザキッド
7.ベンケイ
11.ツタンカーメン
12.ノブナガ
13.フーディーニ

時間停止解除により一部眼魂が復活。



第35話 「天龍激闘」

拳を構え、意識を集中する。

 

相手は白龍皇ヴァーリ・ルシファー。魔王の血筋から得た圧倒的なまでの魔力に加えて『白龍皇の光翼』の能力も兼ね備えている。

 

神滅具の能力は触れた相手の能力を10秒ごとに半分にし己の力に変える『半減』。故に能力を発動させないためには遠中距離からの攻撃が定石となる。だが生半可な攻撃ではさっきのように障壁を張られ防がれてしまう。

ならここは…。

 

霊力を込めた足で踏み込み、真っすぐ駆け出す。

 

相手の攻撃を受けないようにしながらインファイトを仕掛ける!

 

〔アーイ!バッチリミロー!バッチリミロー!〕

 

新たな眼魂を装填し、パーカーゴーストを先行させる。

 

白龍皇、ヴァーリに纏わりつくように周囲を飛んで牽制させる。ヴァーリは歯牙にもかけず全身から白いオーラを放ち吹き払った。その間にも距離を詰める。

 

〔カイガン!ビリーザキッド!百発百中!ズキューン!バキューン!〕

 

数歩分の距離になったところでパーカーゴーストを纏い、飛来したバットクロックとガンガンセイバーガンモードでの同時攻撃を走りながら仕掛ける。

 

トリガーを連続して引き射撃を浴びせるが奴は躱す動作を一切見せずにすべて受け切った。銃撃を浴びた鎧にヒビは微塵も入っていない。

 

「チィ!」

 

やはり硬いか。流石は二天龍の鎧!

 

舌打ちする間にもヴァーリの拳がゴウッと音を立てて迫る。気付けば迫っていた。速い。

 

既の所で拳をガンガンセイバーを握る手で叩きそらす。反対の手でヴァーリの顔面目掛けて打撃を放つ。ガツンと硬い音を立ててぐらついた。

 

すると下から突き上げるように白い波動を放つ手が伸びる。スウェーバックじみた動きで回避、続けて至近距離での膝打ち。腹に突き刺さるように放たれ鎧を砕くまではいかないがよろめかせた。

 

さらに猛然と回し蹴りを放つ。よろめくヴァーリの兜を纏う頭にヒット、さらによろめく。

 

「出血大サービスだ!」

 

最後にバットクロックとガンガンセイバーを合体、二つの砲口がせり出すライフルモードへと変形する。

 

銃口を頭部に押し当て、引き金を絞る。

 

ドカァァァン!!

 

容赦なく連射を浴びせ放たれた霊力が一瞬光り、小さく爆発を起こした。爆炎に白龍皇の姿が一瞬隠れた次の瞬間、爆炎の中から猛然と白い鎧を纏った手が迫る。

 

「!!」

 

今にも掴みかからんとする手。急ぎ飛び退って躱した。爆炎が晴れ、ヴァーリが変わらず白い鎧を纏う姿を現した。

 

ただ向こうも無傷ではないようだ。兜がひび割れ、パキンと音を立て一部が割れてその中の額から血を流す端正な顔を晒した。そこから覗く目には痛みも疲れもなく、ただただ戦いに飢えた男の目があった。

 

「どうした、もう終わりか?」

 

さらにまだ余裕のある声。割れた兜は一瞬光るとすぐに元の完全な形へと戻った。

 

…全然効いてないな。鎧も、奴を戦闘不能にしない限り何度でも元通りになるだけか。

 

「…まだだ!」

 

ビリーザキッド眼魂を引き抜き、別の眼魂を装填する。

 

スペクターの特徴は眼魂を入れ替えてフォームチェンジすることで多彩な戦い方、攻撃が可能になるという点。それを最大限に生かし、奴の実力に迫る!

 

〔カイガン!ニュートン!リンゴが落下!引き寄せまっか!〕

 

「はっ!」

 

ニュートン魂に変身して右手を地面に向け、斥力を発生。弾かれるように勢い良く俺は吹っ飛び空へと飛びあがる。

 

弧を描くように飛び、ヴァーリを飛び越えるその瞬間、レバーを引く。

 

〔ダイカイガン!ニュートン!オメガドライブ!〕

 

「こいつでどうだ!」

 

音声と同時に殴るように右手を真下に突きだす。すると増幅された斥力のフォースフィールドがヴァーリの真上から放たれた。

 

ゴゴゴゴゴゴと音を立てながら地面が悲鳴を上げる。さらにメキッと地面に小さく浅い円状のクレーターがヴァーリを中心として作られた。

 

「グ…ウゥ…!」

 

フォースフィールドを雨を浴びるようにして受けるヴァーリは勢いよく地に片膝をついた。唸りながらも必死に斥力に耐える。俺は斥力に支えられるかたちでヴァーリの真上に静止した状態だ。

 

斥力に抵抗しながら奴がゆっくりと宙を見上げた。俺とマスク越しに目が合う。その時、奴がにやりと笑った気がした。

 

「ヌッ!」

 

突然ヴァーリが右手を勢いよく地面に押し当てる。

 

刹那、白い波動が地面を走るヒビから迸り、けたたましい爆音を伴った大きな爆発を起こした。猛然と爆風と土煙が舞い上がり俺を襲った。斥力で何とか支えているが全く前が見えず動きが取れない。

 

不意に土煙の中で影が揺らめいた。

 

「一瞬集中が途切れたな、おかげで君の攻撃から抜け出せたよ」

 

声と共に眼前を埋め尽くす土煙から現れたのはヴァーリ。刹那、腹に重い衝撃、激痛。

 

「グハッ…!」

 

鋭いアッパーカットが俺の腹に打ち込まれ、さらに打ち上がる。追い打ちをかけるように目にも止まらぬスピードで打ち上がった先にも現れ、握りしめた両手を振り上げて力強く叩きつけられた。俺は木っ端のように軽々と吹っ飛ばされ地面に激突した。

 

「先輩!」

 

「あ…が…!」

 

視界がぐらぐらする、口の中は血の味がする、衝撃で息が吐きだされた体が激しく空気を求める。

 

痛い痛い痛い。それでもおもむろに膝を掴み、それを支えにゆっくりと立ち上がる。

 

まだ戦いは終わっていない。後ろには部長さんたちがいる、後には引けない。

 

「フー…フー…」

 

〔Divide!〕

 

「っ!?」

 

無慈悲な音声がヴァーリの光翼から発せられる。その瞬間、力が一気に抜けたのを感じた。

 

…殴られた時か!俺の力が弱まるのと反対に奴の光翼の輝きが増した。

 

「…存外君もあまり大したことはないな、俺を相手にするには色々なものが足りない」

 

奴が手首のスナップを利かせながら言う。その声には落胆の色が宿っていた。

その言葉が精神的にショックを与えた。

 

「くそ…!」

 

滲み出る悔しさで拳を強く握り、歯を食いしばる。無力感が次第に俺の心を苛んだ。

 

奴は強い。血統、センス、経験、技術。全てにおいて俺を上回っている。まるで生まれながらにして戦に愛されたかのようだ。どの点においても俺が勝てる要素は微塵もなかった。

 

…俺はまだ弱い。この先、間違いなく和平を嫌う禍の団との戦いが始まる。きっとヴァーリクラスかそれ以上の敵とも出くわすだろう。そいつらと戦うことになれば今のままじゃ俺も、皆も殺されてしまう。大切な者を何一つ守れぬまま奪われる。己の命さえも。

 

でも諦めるわけにはいかない。あの時のように命惜しさに逃げ出せば、俺は死ぬほど後悔する。俺は何も失いたくない、だから戦う。内に秘めたる闘志と意地を燃やして、敵を砕く。

 

それが俺の決めた道、紀伊国悠、仮面ライダースペクターの道だ。既にこの手を血に染めた俺は道を引き返すことは出来ないし、下りることも出来ない。ひたすら前進するのみ。諦めるという選択肢ははなっから存在しない。

 

「……」

 

闘志を燃やし、拳を握る。今度は悔しさでなく闘志によってだ。赤々と燃え滾る闘志。たとえ勝てなくても奴を退かせるまでにはいきたい。

 

「…ほう」

 

奴も俺の戦意が再び燃え上がったのを感じ取ったのか、再び構えを取った。

 

せめて奴に一矢報いる。ヘタレな俺にも意地と言うものがある、譲れないものがある。そのために俺はもう一度力を振るう!

 

 

 

 

ドゴォォォォン!!

 

突然、けたたましい爆音が上がった。聞こえてきたのは近くでカテレアと戦うアザゼルの方からだ。

 

近くで戦うアザゼルが巨大な槍で一閃した。それはカテレアの体に大きな傷を与えるだけでなくその衝撃の余波で遥か後方の地まで裂いたのだ。

 

「ただでは終わらせない!!」

 

膝を突き、血を吐きながらもカテレアが叫ぶ。

 

突き出した彼女の腕が触手の形状に変化してアザゼルへと伸び、黄金の鎧を纏う腕へとさながらつる植物のように絡みついた。さらに触手に怪しげな紋様が一瞬浮かび上がった。

 

「自爆の術式…!死なばもろともってか!」

 

巻き付かれた本人は忌々し気に言う。舌打ちしながら空いた手で光槍を生み出し、カテレアに向けた。

 

カテレアはそれを見て、さらににたりと笑みを深めた。

 

「無駄ですよ、今の私を殺せば強力な呪術が発動しあなたも死ぬ!」

 

「…」

 

「二人とも離れるわよ!アザゼルなら一人でも何とかするわ!!」

 

部長さんの言葉を受けて、兵藤とギャスパー君が一斉にアザゼルから距離を取り始める。俺と相対するヴァーリは光翼を広げ、空へと退避する。

 

「マジか…!」

 

〔カイガン!フーディーニ!マジいいじゃん!すげえマジシャン!〕

 

急ぎフーディーニ魂に変身、飛行ユニットを起動して飛翔する。空から見下ろすと、アザゼルが槍で触手を断ち切ろうとするが切断できずにいた。

 

「その触手は私の命を削って生み出した特別製です。如何にあなたと言えども切れはしない!」

 

カテレアはしてやったりと言わんばかりの笑みを浮かべる表情で言った。

 

それを聞いたアザゼルは大きくため息を吐くと、諦めたように肩をすくめた。

 

 

 

 

その時、アザゼルが思いもよらない行動に出た。

触手が絡みつく腕を、なんと自身の光の槍で切断したのだ。

 

「なっ!?」

 

俺も驚いた。堕天使総督が自ら腕を切り落とすとは…。

 

「腕の一本くらいくれてやるよ。ついでにこいつも持っていけ」

 

切断に使用した槍をすぐさま投擲した。

 

まさかの行動に呆気にとられたカテレアは、反応に遅れた。そしてあっけなく光の槍に貫かれてしまった。

 

「ぐ……!!」

 

深々と刺さった腹からジュワッという音を立てて一気に煙が上がる。

 

悪魔にとって光は猛毒。それは魔王の血族とて例外ではない。やがてカテレアの体は霞むように消えいき、最後まで驚愕の表情を浮かべたまま断末魔の悲鳴も残すことなく塵と化して消滅した。

 

旧魔王レヴィアタンの血を引く者、カテレア・レヴィアタンは己が血への意地とプライドを抱えたまま戦場で果てた。

 

光にやられた悪魔はああやって消滅するのか…。兵藤たちがああいう目に合わないよう俺も頑張らないとな。

 

俺は彼女の死に様を戒めとしてしっかり脳裏に刻み込んだ。

 

彼女の消滅の後、アザゼルの纏う鎧がカッと光った。同時に黄金の鎧が消え元の堕天使総督アザゼルの姿を外に晒した。

 

「人口神器の限界か…まだまだ改良しなくちゃあな。もうちょい付き合ってもらうぜ、ファーブニル」

 

アザゼルは労るような声色で手に持つ黄金の槍を優しく撫でた。

 

カテレアは打ち取られた。後は…。

 

空から様子を見ていたヴァーリがゆっくりと降下し、さっきまで旧魔王の血筋の仲間が踏んでいた地を踏んだ。

 

「さてどうするヴァーリ?俺は片腕だけでもやれるぞ、今度は俺と紀伊国悠との二対一だ」

 

アザゼルが隻腕で槍をヴァーリに向ける。俺もそれに応じて降下し、再び戦闘態勢に入る。

 

それに対してヴァーリはただただ深く、息を吐いてみせた。

 

「…しかし、運命とは残酷なものだ」

 

「何だ、諦めたのか?」

 

突然の呟きにアザゼルは茶化すように返した。それを聞いて奴はかぶりを振った。

 

「違う、俺のように魔王+伝説のドラゴンという冗談のような存在がいれば、そこの赤龍帝のように何もないただのごく平凡な人間に伝説のドラゴンが憑くこともある。俺たち宿命のライバルの間にある溝はあまりにも深く、そして広い」

 

…自分の宿命のライバルがつまらない奴だと文句を言ってるのか?神器の性質上、仕方ないことだと俺は思うのだが戦いを好む奴にとっては我慢できないことらしい。

 

神器は普通、人間かその血を引く異形に生まれながらに宿り所有者が死ぬとまたランダムに別の者に宿る。神器は同じものが複数存在するが神滅具は例外、同じ時代に二つと存在しない。

 

つまり兵藤は現在、唯一無二の赤龍帝なのだ。神滅具を宿すことはあいつが望んだわけでも籠手に宿るドラゴンがあいつを選んだわけでもない。無論、ヴァーリもそうなのだが。

 

ヴァーリの目線が兵藤に向いた。

 

「兵藤一誠。君のことは調べさせてもらったよ。父はサラリーマン、母は専業主婦、両者の血縁、先祖には異形に関わる物は何もない。そして君にはブーステッド・ギアのほかに何もない」

 

突然兵藤の身の上を奴はべらべらと語りだした。

 

プライバシーの侵害って言葉を知らないのか?先祖まで調べ上げるとは俺もびっくりだが。

 

奴の声色に、憐れみと嘲笑の色が宿った。

 

「それを知った時、呆れと失望を通り越して笑いが出たよ。親が魔術師か神器持ちであれば少しは変わっただろうが…ああ、そうだ。こういうのはどうだ?君は復讐者になるんだ」

 

「…は?」

 

ヴァーリの突然の提案に声を漏らす兵藤。顔を見るに全く奴が何を言ってるのかわからないようだ。

 

俺も奴の言っていることが分からなかった。だが、何となく嫌な予感がする。

 

「今から俺が君の両親を殺しに行く。両親の人生もただ老いて死ぬよりも俺のような貴重な存在に殺されれば華になるだろう。そして君は復讐者として重厚な運命に身を委ねられる。どうだ?これで少しはマシになるだろう?な?」

 

身振り手振りも大げさにヴァーリは語る。

 

提案は残酷、その理由はあまりに自分勝手。口から紡がれる言葉、そして実力ともにまさしく傲慢の悪魔とも呼ばれるルシファーの名に相応しいものだった。

 

ちらりと兵藤の表情を伺う。俯きがちになり、影が出来てどんな表情をしているか分からなかったが弾かれたように顔を上げヴァーリを睨んだ。

 

その時のあいつは、見たこともないほど憤怒に染まり切った表情をしていた。

 

「ヴァァァァリィィィッ!!!」

 

その時、兵藤が赤く爆ぜた。

 

爆発にも似た咆哮とオーラの解放が大気を殴り、地面を砕く。ゴウゴウと風は泣き叫

び、大地は悲鳴を上げる。

 

籠手の宝玉からくるめく光が溢れ出す。それに呼応してアザゼル特製のリングに嵌められた小さな宝玉も光り始めた。

 

「ふざけるなよ…!!テメエにとってはつまらない親だろうけど、俺にとっては今まで育ててくれた最高の親なんだ!!テメエなんかに殺されてたまるかァァァッ!!!」

 

〔Welsh Dragon Over Booster!〕

 

籠手から力に満ちた音声が流れる。一瞬、カっと赤い光を放つと兵藤の全身をごてごてとした竜の鱗にも似た赤い鎧が覆っていた。胸や膝には籠手と同じ翡翠の宝玉が埋まっている。

 

不完全ながらも赤龍帝の籠手の禁手『赤龍帝の鎧《ブーステッド・ギア・スケイルメイル》』。赤い力の化身が、今現れた。

 

ライザーと決闘した時と同じ姿だ。あの時は宝玉に10という数字が描かれていて10秒間だけしかその状態を維持できなかったが今回は14と表示されている。だがあの時と文字の色が違う。おそらくは14秒でなく14分ということだろう。

 

あのリングの補助でここまで時間が伸びるとは、グリゴリの技術はすごいな。俺は内心感嘆の声を上げた。

 

「テメエだけは絶対にぶっ潰す…!!」

 

怒りに満ちた言葉を吐く兵藤。

 

「紀伊国、絶対に手を出すなよ。あいつだけはぶん殴らねえと気が済まない…!」

 

「…!あ、ああ」

 

俺を一瞥し、凄味がかった声で告げた。あいつが纏う濃密な龍のオーラに一瞬気圧された。

 

映像越しではなく生身で初めて見る赤龍帝の禁手、その圧倒的な力。これで不完全とは到底思えないレベルの迫力だ。これがもし完全な物になり、あいつが完璧に扱えるようになればこれほど頼もしい者はいないだろう。

 

それに相対する奴はビビるどころかむしろ歓喜に打ち震えていた。

 

「怒りで力が増大したか…!!」

 

『強い感情はさらなるドラゴンの力を引き出す。彼はお前以上にドラゴンの力を引き出すのが上手いかもしれないな』

 

「それだけに君が平凡でバカなのが残念でならないよ!」

 

ヴァーリと彼の内に宿る者との会話の後、赤い鎧の背面に備わったバーニアに似た噴出口から赤いオーラが噴き出す。一気にヴァーリとの距離を詰めて殴りかかる。

 

ブーステッド・ギア…ブースト。まさしくその名の通りだ。10秒ごとに力を倍にする『倍加』の能力だけでなくそんなことも出来るなんてな。

 

「平凡で悪いかクソバカァ!!」

 

「だから君はバカなんだ!」

 

悠々とそれを躱すヴァーリ。攻撃を躱された兵藤は崩れる態勢を何とか立て直して再びヴァーリに向かって行った。

 

突撃の際、左の籠手から星光を受けキラリと光る刃が伸びた。その刃にはエクスカリバーやデュランダルにも似た聖なる光が宿っていた。

 

「あれがアスカロンか…?」

 

兵藤がミカエルさんから受け取ったという聖剣。

 

「ああ、ゲオルギウスが振るったという龍殺しの聖剣『アスカロン』だ。エクスカリバーより悪魔への特効効果は弱いが代わりにドラゴンに大ダメージを与える『龍殺し』効果がある。上手く使えてないみたいだがな」

 

俺の疑問をアザゼルが回収してくれた。ホントなんでも知ってるなこの人。

 

今度は殴りかかるのではなくそれをむやみやたらに振り回すように攻撃をする。素人丸出しの剣戟など当然歴代最強の白龍皇とうたわれる彼に通じるはずもなく全て回避されてしまう。

 

「いかに龍殺しの聖剣と言えど当たらなければどうということはない!!」

 

「両者の禁手は能力を使うたびに体力か魔力を消費する。だがヴァーリのスタミナなら能力を何度も使用できるし一か月は禁手を持たせられる。…差は歴然だな」

 

「イッセー…」

 

隣で部長さんが心配そうに声を漏らした。その姿は仲間を思うものでもなくそれ以上の…。

 

刹那、兵藤の鎧が砕けた。ヴァーリの拳を引く動作が見えた。奴は胸部に神速の打撃を打ち込んだのだ。

 

「ガッ…!」

 

攻撃を受けた兵藤があまりのダメージに足をがくがく震えさせながら後ずさる。

 

「先輩!」

 

「弱い。弱すぎて欠伸が出そうだよ…どれ、もう一押し」

 

〔Divide!〕

 

光翼が音声と共に光る。兵藤の纏う赤いオーラが小さくなった。

 

〔Boost!〕

 

籠手の宝玉が音声と共に光る。小さくなったオーラが元の大きさに戻る。

 

「半減した能力は倍加の力で元に戻る…が、奴は半減した力を吸収して強化できるのさ」

 

今度はヴァーリの攻勢が始まる。両手から次々と魔力を打ち出す。所謂、グミ撃ちという技だ。

 

今だダメージにふらふらする兵藤は上手く回避することも出来ずに次々と受けてしまう。

 

「ほらほらどうした!?足が止まっているぞ!?」

 

近くに着弾した魔力の爆風に揺られ、直撃を受けては大きくのけぞる。鎧は何とか破壊されず小さな欠片が爆風で舞う程度にはなっているがその衝撃は内にある兵藤の体にしっかりとダメージを与えているはずだ。

 

「攻撃は真っすぐ突っ込むだけ、能力は使いこなせない…ライバル対決はここで終わ」

 

嘆息交じりの呟きの途中、爆炎の中から兵藤が飛び出した。噴出口から赤いオーラを噴き出し弾幕の向こうにいるヴァーリへと真っすぐに迫る。

 

途中、魔力の直撃を受けても止まらず、ただただ突き進んだ。顔面に魔力を受け、血を流しながらも闘志に燃える決死の表情を浮かべる友の顔が晒された。

 

「馬鹿の一つ覚えで!」

 

ヴァーリは俺がフーディーニで攻撃した時と同じ障壁を展開した。それを見ても突撃を止めず、兵藤が吼えた。

 

「ドライグ!アスカロンに譲渡しろォ!!」

 

〔Transfer!〕

 

ヴァーリの攻勢に変わるように攻勢。音声の後、左手で猛烈な拳打を突き出す。

 

拳が障壁にぶつかった瞬間、光翼と同じ輝きを放つ障壁はガラスが割れるようにいとも簡単に粉砕され勢いをそのままヴァーリの顔面に炸裂した。マスクの一部が割れ、ヴァーリの顔が見えた。

 

「ッ!!?」

 

奴はまさか破られるとは露程も思っていなかったらしく、驚愕の表情のまま大きく態勢をよろめかせた。

 

兵藤はそこから追撃するのではなく、光翼の付け根をがしっと掴んだ。

 

「お前の神器の能力はここで発動しているんだろ!!」

 

〔Transfer!〕

 

「吸い取る力と吐き出す力を倍加させたらどうなるんだろうなァ!!」

 

「何!?」

 

音声の後、ヴァーリの力…いや、奴が纏う鎧の力が増した。同時に各部の宝玉と光翼が赤、緑、青、黄色と不規則に目まぐるしく色を変えて発光し、光翼からは激しくスパークが散った。

 

ヴァーリ自身もガタガタと震え始めた。鎧が今危険な状態にあるのがすぐに見て取れた。

 

「そうきたか…!」

 

「アザゼル、イッセーは一体…」

 

「奴の神器『白龍皇の光翼』は触れた相手の力を10秒ごとに半減し己の力にする。吸い取った力は翼から龍市場にして放出することで限界を超えることなく力の上限を維持できるんだよ。それをあいつは『赤龍帝の籠手』で倍加させ、過剰に力を吸収させ吐き出させることでオーバードライブさせようとしている。全く、今代の赤龍帝はとんでもないことを思いつくな」

 

あいつ、よくそんなことを思いついたな。…いや、ドレスブレイクなんて技を開発するくらいだからあいつの思考は俺たちが届かない域にあるのかもしれないな。それとも、単にバカだから素朴な疑問を思いつくままに実行しただけか。いずれにせよ、あいつは意外性と言う物に満ちているかもな。

 

「イッセー先輩かっこいいです…!」

 

「さらにもう一発!」

 

再び先の障壁を破った左拳をヴァーリの腹部に放つ。するとあれだけ堅牢だった白龍皇の純白の鎧は紙のように容易く砕けてしまいそのまま露わになった腹に突き刺さるように痛烈な打撃がぶち込まれた。

 

「アスカロンの力を拳に込めたな。悪魔でありドラゴンでもあるヴァーリには効果抜群の一撃だ」

 

奴はその威力にズザザと砂を巻き上げ後ずさった。衝撃の余波か、マスクがさらに割れた。

 

額から血を流す顔を露わに、腹を抑えながら血反吐を吐き捨てた。

 

「…前言を撤回しよう。やればできるじゃないか」

 

やや楽し気に笑うと、鎧がカッと光り砕け散った鎧の箇所は完全に修復されてしまった。

 

あれでもダメか…。あの調子だと禁手の時間切れまでに倒せそうにないな。兵藤も禁手の消費と加えてかなりのダメージが蓄積しているはず。時間切れになる以前にあいつがダウンする可能性もある。

 

不意に、兵藤が己が籠手へと視線を下ろした。

 

「…ドライグ。神器は所有者の思いに応えるんだよな?…なら、俺のイメージ通りにできるか?」

 

『…相棒。面白いことを考えるな。だがリスクは大きい、死ぬかもしれないぞ。お前にはその覚悟があるか?』

 

「ああ。俺は部長の処女をまだもらってない。だからまだ死ねない、死んでたまるか。あいつをぶっ倒せるなら痛いのだって我慢してやるさ!」

 

『ハハハハハッ!いいだろう!我は力の塊と称された赤き龍の帝王!お前の見事な覚悟に賭けよう!この大博打、勝ってみせるぞ!兵藤一誠ッ!!』

 

兵藤が籠手に宿る龍と会話をし、決意を固めたような口調で拳を握った。何やら秘策があるような語り口だが…。

 

不意に兵藤は砕け散ったヴァーリの鎧の残骸の中から一つ、綺麗な宝玉を拾い上げた。

そしてそれをヴァーリに堂々と見せる。

 

「ヴァーリ!今から俺は、テメエの力で強くなる!!」

 

「何…?」

 

胡乱気なヴァーリの声をよそに突然、右腕の鎧に嵌められた宝玉を自分で叩き割る。

 

さらに宝玉を天に掲げ、さっきまで右腕の宝玉が嵌められていた穴に入れた。すると宝玉から白い光が漏れ出し、おもむろに兵藤の右半身を覆っていく。

 

…まさか、白龍皇の力を取り込む気なのか…?

 

そう思い至った刹那、凄まじい赤と白のオーラのせめぎ合いが右腕で起こった。

 

「ガアアアアアアアアアアッ!!!」

 

『グオオオオオオオオオッ!!!』

 

のけぞった兵藤の口と籠手の宝玉から、聞くも痛々しい叫びが迸る。

 

「なるほど、俺の力を取り込む気か…!」

 

『不可能事だな。相反する我の力を取り込めば死ぬぞ』

 

驚くヴァーリと冷静に目の前の光景を見る『白い龍』アルビオン。

 

『アルビオン!グッ…変わらず頭の固いお前にこいつから学んだことを一つ教えてやろう!!』

 

ドライグと呼ばれた赤い龍は苦痛に呻き、叫びながらも笑いを含んだ声でアルビオンに話しかけた。

 

『何だと…?』

 

『バカも貫き通せば、不可能も可能になるとな!!』

 

「アアアアアアアアアア!!ハァッ!!」

 

〔Vanishing Dragon Power is taken!〕

 

暴れまわるオーラを振り払い、右手を突き出す。その右手の籠手の色は全身赤の鎧の中で一際目立つ白だった。

 

形状は赤龍帝の鎧と同じだが色はヴァーリの鎧と同じ、惚れ惚れするような純白。

 

〈BGM:Just the beginning (仮面ライダーウィザード)〉

 

「バカな…白い籠手だと…!」

 

白龍皇の鎧の兜から驚きに震える声が聞こえた。兜の裏でどんな表情をしているのか見えないのが残念だ。

 

「よし…『白龍皇の籠手《ディバイディング・ギア》』ってところだな!」

 

右手を突き出し、堂々と構えた。

 

「すげぇ…」

 

俺は思わず言葉を漏らした。

 

あいつ、本当に不可能を可能にした…!

 

兵藤が右手の新しい籠手をポンポンと叩く。

 

「お前、こいつを不可能だとか言ってたな?でも可能性はあった。聖と魔のバランスが崩れた今、聖魔剣ってもんが出来たんだ。それなら、同じ相反する赤と白の力が融合してもおかしくないだろう?」

 

『代償としては、確実に寿命が縮んだことだな』

 

寿命を削ったのか。悪魔は永遠にも近い時間を生きる。恐らく、悪魔で寿命を削るという表現はそれこそ100年、いや1000年は削ってこそ使われるものだろう。

 

パチパチパチパチ!

 

「フフフハハハハハッ!面白いな、兵藤一誠!なら俺も少しは本気を出さねば失礼と言うものだ!!」

 

拍手し、嬉々とした声を上げてバッと翼を広げて飛び立つヴァーリ、光翼を目一杯広げると聞いたことのない音声が流れた。

 

〔Harf Dimension!〕

 

光翼の光が増し、腕を大きく広げる。

 

メキッ

 

どこからか軋むような音がした。

音の出所を探らんと辺りを見渡すと、見てしまった。

 

旧校舎を取り囲む木々が、文字通り半分の大きさになってしまったのだ。

 

メキメキメキッ!

 

音は続き、さらに激しくなっていく。地面に転がる小石すらさらに小さくなってしまう。

 

「周りの物が半分になっていきますぅ!!」

 

「な、何だこりゃ!?」

 

俺も含めた皆は突然の超現象に理解が追い付かず、慌てふためいていた。

 

まさかこれも『半減』の力なのか!?こんな芸当もできるなんて神滅具は恐ろしいな…。

 

「赤龍帝、お前にもわかりやすく教えてやろう」

 

アザゼルはこの現象の中にあっても冷静な態度を崩さない。強者の余裕と言う奴か。

 

「奴は半減の能力を周囲に展開してあらゆるものを半分にしている。つまり、リアス・グレモリーのバストも半分になる」

 

「…は?」

 

〈BGM一時停止〉

 

訪れたのは一瞬の静寂。兵藤の動きが完全に止まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドォォォォォォン!!

 

「ふざけんなテメェェェェェェェェェ!!テメエの力で部長のおっぱいを半分にされてたまるかァァァァァァァ!!!」

 

〔Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!〕

 

喉が裂けるような烈叫と共に、赤い光が爆ぜた。先ほどまでとは比べ物にならない質量のオーラ。宝玉からは壊れた機械のように音声が鳴る。叫びとオーラが地を砕き、風を殴る。旧校舎の外壁にヒビが走り、窓ガラスは全て砕け散った。

 

それを見た俺は顎が外れそうになるくらい驚いた。脳がさらなる超現象を前にして理解が追い付かずにいる。

 

「ええええええええええええ!!?」

 

お前なんて理由でパワーアップしてるんだよ!?それでパワーアップできるのか!?しかも何でヴァーリが両親の殺害宣言した時よりも激しく反応してんだ!?ダメだ、ツッコミたいことが多すぎて言葉にならない。何で天下の赤龍帝ともあろう者が主のおっぱいで強くなるんだ!?

 

「こいつマジかよっ!主のおっぱいで力が増大化しやがった!!」

 

アザゼルは腹を抑えてげらげらと心底愉快そうに笑った。反対に当の部長さんはげんなりとした顔でその光景を見ていた。うん、普通はそういう反応だよな。

 

「…まさか女の乳でここまで力が増すッ!?」

 

ヴァーリの発言の途中、いつの間にかヴァーリの腹にえぐりこむような拳が撃ち込まれていた。

 

全く見えなかった。あのスピードは完全にヴァーリを上回っている。奴は全く反応できないと言った顔をしていた。

 

〈BGM再生〉

 

「これは部長の分!」

 

〔Divide!〕

 

籠手から音声が鳴る。同時に圧倒的なオーラを放つ白龍皇の力が弱まった。

 

さらにラッシュは続く、今度は顔面に拳打をぶちかました。怒りによって大きく跳ね上がった力を込めた拳はヴァーリの頭部を覆う兜を完全に破壊した。

 

「朱乃さんの分!成長途中のアーシアの分!」

 

今度は光翼を掴み、根元からもぎ取った。一瞬の出来事だ。悠々不敵に構えていた白龍皇の美しい鎧は息もつかせぬ怒りのラッシュで見るも無残な姿に変えられた。

 

そして次に、大きく頭を振りかぶった。

 

「そして最後にッ!元々小さい小猫ちゃんの分だァァ!!」

 

渾身の頭突きがヴァーリの整った顔面に炸裂した。ゴツッという痛々しい音が上がった。

 

「グハァッ!!」

 

大きく吹っ飛ばされ、土煙を上げながら横転する。

兵藤はすぐさま追撃に入るのではなく、籠手に声をかけた。

 

「ドライグ!もう一回、俺のイメージ通りにできるか!?」

 

『ほう、俺好みのいいイメージだ。いいだろう、最後まで付き合ってやるっ!!』

 

突然、赤龍帝の鎧の背面にある噴出口が激しく赤い魔力を噴いた。

ゴウッという音を立てて真っすぐ突き進むのではなく内にある莫大なオーラを放出している。

 

滝のように溢れる赤いオーラが迸り、唸り、暴れ、荒れ、やがてごつごつした鱗を備える太い手足の生えた龍の形を成した。

 

「GARRR!!」

 

怖気が走るような荒ぶる龍の咆哮。兵藤の後ろで相対する敵を威嚇する。

 

「今度は何を…」

 

「はぁぁぁ!!」

 

今度は兵藤が地を蹴り馳せる。同時に龍も追随し、次第に兵藤の足に鎧と同じ色をした燃え盛るオーラが宿る。

 

猛々しい龍を従えながら、ヴァーリに猛烈なスピードで真っすぐ迫る。

 

『ヴァーリ、あれを直接喰らうのはまずいぞ』

 

「そのようだな」

 

内に宿るドラゴンと会話するヴァーリが光翼を広げ、空に飛び立とうとする。

 

逃げる気か、そうは問屋が卸さない!

 

素早く腕からタイトゥンチェーンを射出しヴァーリの腕に巻き付け力強く引っ張る。すると鎖に引っ張られて一瞬よろめき、飛び立たんとするヴァーリの動きが止まった。

 

「!」

 

「ゼノヴィアの分ってな。…肉食った報いだ、受け取れ!!」

 

マスクの裏でニッと笑う。――行け、兵藤!

 

「だァァァァァァァッ!!!」

 

その間にも兵藤との距離が縮まる。力強く地を踏み、地から足が離れると飛び蹴りの態勢に入る。背面のブーストを吹かしさらに加速した。その様はまるで龍を伴って空を駆ける赤い流星のようだ。

 

接触の間際、動きを封じられたヴァーリの驚愕に目を見開く顔が見えたような気がした。

 

そして…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴンッ!!

 

「ごふぅあッ!!?」

 

快音を響かせ、赤い流星と龍がヴァーリの腹に吸いこまれるように同時に喰らいついた。

 

〈BGM終了〉

 




センス、経験共に悠は現時点のヴァーリには勝てません。常日頃からコカビエル戦程戦意が燃えていてあれくらいの力を発揮できるわけではないので。どこぞのイマジンが言ってた「戦いはノリのいい方が勝つ」というのはあながち間違っていません。

最後の攻撃のイメージはクローズのドラゴニック・フィニッシュ、あるいはNARUTOの夜ガイです。

新しいアンケートを活動報告でやってますので気になる人は是非。

次回、「和平と祈り」

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