ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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第39話 「冥界列車で行こう」

打ち合わせから二日後、俺たちが朝から集まったのは駒王町の駅だった。

俺を含めて集まった全員が見慣れた駒王学園の夏服に身を包んでいる。

 

「もう一度確認しておく、忘れ物はないな?」

 

「ああ。着替えに洗面用具、タオル、デュランダル。目覚まし時計も持ってきたぞ」

 

ゼノヴィアが手に引っ提げたボストンバッグから荷物を取り出しては俺に見せる。

最後に取り出したのは鷲掴みにしたバットクロックだった。やや苦し気に呻くような声を上げている。

 

「…それ目覚まし時計じゃなくてバットクロックだからな、ガジェットだからな、武器だからな。そういや見ないなと思ったらお前がバッグに詰め込んでたのかよ!」

 

「時計型ガジェットなら目覚まし時計でもいいだろう?」

 

「ぐっ、それはそうだが…」

 

ちなみに他のガジェットたちは人目に触れないように俺のバッグに詰め込んだ。一泊二日の旅行ならまだしも長期間家に置いていくのも可哀そうなので連れていくことにした。長く留守にすることになる家はポラリスさんが何とかしてくれるだろう。

 

「…ところで俺ら修学旅行に行くんじゃないんですよね?」

 

「もちろん、私たちは冥界に行くのよ」

 

俺の確認に部長さんは当然と言った風に頷く。

 

「それじゃ、まずはイッセーとアーシア、ゼノヴィアと紀伊国君から来て頂戴。残りのメンバーはアザゼル先生と合流した後で下りてきて」

 

部長さんの言葉と同時に俺たちは部長さんの後に続いた。

 

やがて部長さんが足を止めるとその前にあるのはごく普通のエレベーターだった。

 

「エレベーター?」

 

駅、そしてエレベーター。…まったく先が読めない。まさかエレベーターで下りた先が冥界でしたなんてことはないよね?

 

部長さんは俺の心配などつゆ知らずボタンを押し、エレベーターのドアが開く。

俺たちは続々とエレベーターの中へと歩を進める。ゼノヴィアとアルジェントさんから先に入り、次に俺と兵藤、最後に部長さんと言った具合に詰めて入っていく。

 

「これ大丈夫か…?」

 

「中々狭いわね…」

 

元々そこまで広くなく俺たち皆がバッグなど大きな荷物を持っていることもあってかなりぎゅうぎゅう詰めになっている。

 

各々、狭さへの苦悶の声を漏らす。その中で最後に入り、操作盤の近くに立つ部長さんは1、2といった階層ボタンを押すわけでもなく、ポケットからカードを取り出して備え付けの電子パネルにかざした。

 

すると突然、下に降りる感覚が俺たちを襲った。ここは一階、下の階層などないはずなのに。

 

「へ!?」

 

思わず驚愕の声を上げた。

 

最初は部長さんを除いた皆が驚いたが、次第に予期せぬ感覚に慣れたのか驚きの色は薄まっていった。

 

「この町には悪魔専用の領域がたくさん隠れているわ、この駅では今から行く地下の秘密の階層と言った具合にね」

 

「全然知りませんでした…」

 

「当然よ、悪魔専用と言ったじゃない。普通の人間はまず行けないわ」

 

…しかしだ。

 

先ほどから腕に何か柔らかい物が当たっている感触がする。この柔らかさはバッグが持つ物ではない、位置的にも『そう』としか考えられない。自分でもややバツの悪そうな表情になっていくのが分かる。

 

「…ゼノヴィア」

 

この気まずい思いを抑えられない俺は思い切って本人に言うことにした。

 

「どうした?」

 

本人は俺の思いを知らずかあっけらかんと返す。人前でこんなことを言うのは可哀そうだと思いここから先を言うべきかここで有耶無耶にするか葛藤が生じるが俺はさらに心の中で勇気の一歩を踏み出す。

 

「あ、あの、その…当たってるんだが」

 

俺の心中を知ってか知らずか彼女はふっと笑みを深めた。

 

「当たっているんじゃない…当てているんだよ」

 

「!?」

 

想定外の返答に俺は息を呑んだ。

 

そのセリフを一体どこで…!?

 

「桐生から教わったんだ。彼女は子作りというものに関しては博識でね、よく驚かされるよ」

 

桐生さんか!!休み時間あのグループは一体何を話しているんだ!?

向こうは無知な上、知識を求める二人の反応が楽しくて色々吹き込んでいるんだろうがそれがこんなことに!おのれぇ、図ったな!

 

こっちの様子を見て楽しそうに笑う部長さん。

 

「あら、随分と仲睦まじいわね。折角だから私も…」

 

部長さんが狭い空間で方向転換して兵藤の方へ向くと、そのまま豊かな胸が目を引く体を兵藤に密着させた。

 

「な!?ぶぶぶぶちょ!?」

 

俺の隣で兵藤が大声を上げる。

 

「部長さんだけずるいです!私だって!」

 

負けじとアルジェントさんも背後から部長さんやゼノヴィアと比べれば控えめな胸を押し当てる。

二人の胸にサンドイッチにされた兵藤はテレが入りながらも嬉しそうにニヤニヤしている。

 

「おいおい俺の目の前で何やってるの!?」

 

ちょっと何で俺の目の前でそんなHなことやってんの!?そういうのは人目がないとこでやれよ、今は俺とゼノヴィアという人目があるだろう!?

 

「でへへ…」

 

「おい兵藤ォ!!お前ちょっとはそのエロさを控えめにしろよ!!」

 

俺の心中を知らずに兵藤はこの状況にニヤニヤとした笑みをやめない。

 

二人を止められんのお前だけだろ!!お前がそうなったら誰が部長さんとアルジェントを止めるんだよ!!

万丈じゃないんだからさぁ!!

 

「ん…何だか、変な気分だ…」

 

俺の腕に豊満な腕を布越しに押し当てる心なしかゼノヴィアの顔が赤らむ。上げる声も色っぽくなってきた。

 

「ゼノヴィア!?お前ここで子作りしようとかやめてよね!?」

 

「なるほど、この閉ざされた空間でやるのも乙かもしれないね…」

 

俺のツッコミにいいことを思いついたように頷く。

 

しまった、かえって奴のエンジンに火をつけてしまったか…!ていうか用具室の時と言い暗くて閉じた空間が好きなのか!?

 

よくない、この雰囲気は非常によくない!!ストッパーが俺一人しかいないせいで誰も止められない。4対一だ。

ゼノヴィアはエンジンが入ったのかより強く胸を押し当て始めた。

 

本当に柔らかい。これを手で直に掴んだらどんな…ハッ!?いかん、雰囲気にのまれるところだった!

 

この雰囲気よ吹き飛べと願わんばかりに俺は声を荒げる。

 

「だぁーやめろやめろ!!こんな狭い空間をピンクな雰囲気にするな!!…あ」

 

言い終えると同時にチーン!という音が鳴り、眼前のドアが開く。

 

「…行きましょう」

 

早くも凛とした表情に切り替えた部長さんはエレベーターから出る。

取り敢えず深呼吸して落ち着いた俺たちもそれに続く。

 

…終わった。このムズムズするような雰囲気から解放された安堵か、悲しみか、何とも言えない感情が俺の胸中を支配していた。ゼノヴィアも何事もなかったような表情をしやがって。向こうから仕掛けてきたというのに。

 

そんな中、まだとろけた表情の兵藤が息を吐くかのように漏らす。

 

「ああ…幸せだった…」

 

「お前ちっとはあの切り替えの速さを見習え」

 

幸せの余韻に浸る兵藤の肩を押して歩調を速めさせる。

 

「…何か変な感じするけどあまり人間の物と変わらないな」

 

床や壁の装飾や模様はちょっと人間界の駅と違う感じがするが大体は同じだ。俺たちは部長さんを先頭に通路を進む。

 

 

 

その後下りてきた木場達とも合流し、歩き続けると駅のホームのような空間に出た。そしてそれは見えた。

 

「電車…じゃない、列車だな」

 

「かっけえな…」

 

「はああ…」

 

紅い車体に金色の装飾が全面に施された列車。随所にはグレモリーを表す紋様が刻まれている。

見慣れた電車とは派手さという面で大きく上回るそれが静かに発車の時を待っていた。

 

「グレモリー家専用車両よ、私たちはこれに乗って冥界に行くの」

 

部長さんの家は列車を持ってるのかよ…。初めて聞いたよ、列車を持っている家なんて。

聞きなれたプシューという音と共にドアが自動で開く。

 

「それじゃ、乗り込みましょう」

 

部員達が次々と列車に乗り込む。

俺もそれに続いて一歩車内へ足を踏み入れたその時、それは思い起こされた。

 

 

 

 

『痛い…痛い…痛い…』

 

粉々に割れたガラスの破片。横転した車内で雨のようにガラスの刃の雨を受けた俺。

腹に破片がいくつも刺さり、破片に左目を切り裂かれ、横転時に強く頭を打ちつけ血を流して額から流れる血でタダでさえ狭まる視界は深紅に染まりゆく。

 

『誰か…助…け』

 

助けを求める声は今にも消えそうなほどにか細く。

視界が、意識さえも遠のいて…。

 

 

 

「ッ!!」

 

前世で電車の脱線事故に巻き込まれたあの時、今わの際の確かな記憶が蘇った。

今までははっきりと思い出せずそうやって死んだ程度の認識でしかなかったものがはっきりと。

 

すぐさま俺を襲ったのは恐れ。

震える、鳥肌が立つ、汗が出る、そして息が荒くなる。

 

「…ハァ…ハァ…ハァ…」

 

自然と両手が頭に伸び、抑えていた。

 

(…俺は…俺は…!)

 

突然思い出した記憶。そこでありありと思い出し感じた痛みが、死への恐怖が俺の心中を支配していた。

 

「紀伊国先輩…?」

 

「紀伊国?おいどうした!?紀伊国!!」

 

声が聞こえたような気がした。だがそれはねっとりと恐怖に絡みつかれた俺の心を解放するに足るものではなかった。

 

そうだ、俺はあの時確かに死んで…。

 

「悠!!」

 

その時、誰かが俺の顔をやや乱暴に掴んだ。

 

そして目が合う。いや、向こうが俺の目を無理やり合わせた。

 

「ゼノヴィア…」

 

彼女の向日葵のような黄色の瞳が真っすぐ俺を捉えて離さない。心配そうに俺の顔を覗きこむそれに不思議と安心感を覚えた。

早まる鼓動も呼吸も落ち着いてきた。

 

「もう大丈夫だ…」

 

その言葉で彼女は俺の頭を掴むように抑えた手をゆっくり離した。

 

「紀伊国、お前本当にどうしたんだ?何かあったのか?」

 

「先輩がいきなり震えだしてびっくりしました…」

 

「何でもない、もう心配は無用だ」

 

仲間の追及を遮るように俺はそれだけ言って足早に車内へ足を運ぶ。

それでも納得いかなかったゼノヴィアが声を荒げる。

 

「悠!」

 

「本当に!…何でもないから」

 

これ以上は聞いてほしくない。

 

その思いに駆られ声を荒げてしまい乱雑にバッグを置き、近くのシートにどかっと腰を下ろす。

向こうの皆も何か言いたげな顔をして、その思いを渋々だが押し殺し追及をやめ、各々の荷物を車内に置き始めた。

 

(…まさかあれを思い出すなんてな)

 

さっきは突然思い出したのも相まってショックで取り乱したが今はちゃんと落ち着いていられる。

 

だがショックの余韻からか俺の気分は浮かない。

内面を表すような仏頂面のまま、列車は大きく汽笛を鳴らし出発した。

 

 

 

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様々な色が暗がりに浮かんでは混ざり合い、溶け合い、最後に消える。

混沌そのものといった世界を見せる次元の狭間を列車は走る。

 

この車両にいるのは部長さんを除いた面々。主たる部長さんはしきたりで先頭車両にいなければならないらしい。

しきたりって面倒だな。

 

ギャスパー君は段ボールにこもりながらゲームの真っ最中、塔城さんは物憂げに窓の向こうの景色を眺めている。

アザゼル先生は何やら資料を読んでいる、アルジェントさんと朱乃さん、兵藤は楽しくおしゃべり。そして残る俺を含めた面子は…。

 

「時の列車、デンライナー。次の駅は過去か、未来か」

 

「どうしたんだい?」

 

「いやなんとなく言いたくなった。さあ、お前のターンだ」

 

ふと思いついた冗談もほどほどに視線を窓の向こうの景色からゼノヴィアに移す。

 

機嫌を戻した俺とゼノヴィア、そして木場の三人で冥界に着くまでの間ババ抜きに興じることにしたのだ。

今は木場が颯爽と俺を見事に出し抜いて上がり、残り手札は俺が3枚、ジョーカーを握るゼノヴィアが2枚と言う状況で互いに睨めっこしていると言った感じだ。

 

「…むう」

 

俺の手札を右、左、真ん中と交互に目を動かし唸るゼノヴィア。硬い表情で俺の手札を一枚抜き取る。

その札を見たゼノヴィアは再び唸りながら新たな札を手札に加えた。

 

「よっし!」

 

一先ずこのターンを凌いだことに安堵する。だがすぐに俺のターンは巡ってくる。

ゼノヴィアはジョーカーの位置を悟られまいと自分の手札をシャッフルして再び構える。

 

俺のターン。俺は手をおもむろに動かし右、真ん中、左と手を札に近づけ彼女の様子を伺う。

微笑、無、無。

 

「…ゼノヴィア、お前右の時顔がすこーし緩くなってるぞ。それがジョーカーだろ」

 

「何!?」

 

俺の言葉に彼女は動揺を露わにする。

 

図星かよ。もうちょっと隠せ。

 

「というわけで左だ……っしゃあ!俺の勝ちじゃあ!!」

 

俺から見て左の札を引き、数字が揃ったのを確認して捨て札にして満面の笑みで勝利宣言する。

 

「負けたァー!!」

 

悔し気に声を上げながら頭を抱えるゼノヴィア。

 

「ゼノヴィアはもうちょっとポーカーフェイスを磨くべきだね」

 

「パワーや勢いではダメだというのか…!?」

 

「うん、もうちょっと頭というものをだな…」

 

「がーん!!」

 

さらに観戦していた木場から指摘を受けた。指摘と勝負の結果にショックを受けたらしく愕然としている。

 

木場の言う通りだぞ。話に聞けばやっぱり会談で襲撃を受けた時、飛び出して早々にデュランダルの波動をぶっぱなしたそうじゃないか。後先考えずに思い切った行動をするのは以前と変わらないな。

 

…あの後、皆が先の出来事を掘り返すことはなかった。いや、あえてしなかったのだろう。その優しさが今はありがたかった。

 

「…暇だし、もう一戦しようか」

 

「よし!!次は一番に上がってやるぞ!!」

 

「どう聞いてもフラグにしか聞こえないなー」

 

木場の提案を皮切りに意気消沈していたゼノヴィアの闘志が再び燃え上がる。我先にとカードをかき集める動きにその心がよく表れている。

 

まあ、勝つのは俺だがな!

 

俺も静かにやる気を燃え上がらせ始めた時、かつかつと靴音が近づいてくるのが聞こえた。

 

振り向くと、いくつかの書類を手にしたアザゼル先生がいた。

 

「お楽しみの所悪いが悠、取り敢えずお前の神器の解析結果が出たぞ」

 

実は数日前、俺はグリゴリの研究所でゴーストドライバーを解析してもらったのだ。

研究所と言ってもまだ機材しかないおおよそ施設とは呼べないもので、何でもつい最近和平を結んだことで関東に拠点を置きたかった先生が関東某所の人里離れた山の中に他勢力と共同で設立。まだ人事も決まっていない状態で先生が俺を研究したいが一心で機材だけを持ち込んでそこに俺を連れ込んだという訳だ。

 

「…」

 

アザゼル先生は札が散らばる卓にぞんざいに書類を乗せた。俺はその一枚一枚に目を通し始める。

 

「結論から言うとだ、それは半分セイクリッド・ギアだ」

 

「半分…ですか?」

 

「ああ、神のような力を秘めた武具という意味での神器ならそいつは紛れもなく神器だ。だが聖書の神が作り出したセイクリッド・ギアという意味でならはっきりと神器とは言えないな」

 

「?」

 

「とどのつまりだ、そいつにはセイクリッド・ギアの技術と未知の技術がふんだんに使われてるってこった。未知の技術に関しては間違いなく神クラスのもんじゃねえと出来ねえ技術もある、それも神の中でも超上位クラスのものだ…全く、調べたら逆に謎が増えることになるなんてな」

 

俺はアザゼル先生の話にますます首を傾げた。先生の話が難しく内容が分からないのではない、俺が気になるのは使われている技術のことだ。

 

まずはセイクリッド・ギアの技術。何故俺を転生させたあの女神はセイクリッド・ギアの技術を持っているのか?

 

あの女神は俺の元居た世界の神であってこの世界の神ではないはず。だから転生先のこちらの世界の存在を知ってはいてもその技術体系まで知っているのはおかしくないか?…少なくとも、俺はあの女神が技術体系何て小難しいものをマスターできるほどあまり賢いようには見えないが。

 

そもそも俺の持っているゴーストドライバーは仮面ライダーゴーストに登場したゴーストドライバーではない。

 

何故なら俺の持つドライバーはあの女神の力で作られたものであって作中世界で天空寺龍たちが作ったものではないからだ。作中に登場するゴーストドライバーの作り方や技術なんてのはまず解説されないから作中世界のゴーストドライバーがどのような技術、理論で成り立っているかは実際にその世界に行ってみないとわからないしそもそもフィクションだからそんな世界はあるはずがない。だから能力や力はどれだけ同じ様なものを再現したとしても本物とは全く別のものになる。

 

つまり、俺が使っているゴーストドライバーは見た目は同じで作中の物と全く同じように使えるがその中身や変身や眼魂関係の技術は全く別物のパチモン、あるいはレプリカと言ったものだということだ。

 

…ある意味、俺はどこまで行っても仮面ライダーにはなれないってことかもな。

 

 

そしてもう一つは未知の技術。間違いなくあの女神の物だろうが彼女は果たして先生が言うほどの上位クラスの神なのだろうか?

 

少なくとも俺に土下座するくらいだからあまり威厳なんてものはない。そして『死んだことを黙っていてほしい』と言う頼み、つまりはそれがバレたらまずい相手がいるということだ。真っ先に思い浮かぶのは上司の存在。超上位クラスなんて最高神ぐらいの物しかないだろう。

 

…もしかしたら、俺の転生には別の神が絡んでいるのではないか?あの女神じゃない、超上位クラスの神が。

 

ダメだ、考えれば考える程わからなくなってきた。連絡を取れない向こうのことに関してはわからないことが増えるばかりだ。いつかその真相を知る機会が来たらいいのだが。

 

「そんで眼魂に関してだが…これは一種の魔道具と思っていいな。ゴーストドライバーと同じ技術でできていてそれぞれが偉人に由来する能力を秘めている。ゴーストドライバーと違い微弱にだが意思のようなものもあった」

 

意思…。フーディーニを一時期使えなかったのはそれが原因か。微弱ということは関ボイスではっきりと顕現できることは恐らく無理だろう。頼もしい戦力になるかもとちょっと期待していたが残念だ。

 

「ざっとこんなもんだな。聖魔剣の次はこんな半セイクリッド・ギア…聖書の神が死んでからわけのわからないもんがどんどん出てきやがる。これだからセイクリッド・ギアは面白いのさ」

 

アザゼル先生は増える謎に対して眉を顰めるのではなくむしろ楽しそうにしていた。技術者ならではの思うことがあるのだろう。俺は機械いじりとかは全くできないからわからないが。

 

「向こうは随分と楽しそうだな」

 

アザゼル先生が前方の席に目を向ける。俺もそれに続くように目を向こうにやる。

視線の先では…。

 

「ねえイッセー君、『浮気』、してみない?」

 

「ちょっと朱乃!すぐに私の大事なものに手を出して!!」

 

「はわわ…」

 

いつの間にかこっちの車両に来た部長さんを交えた三人が兵藤の仲睦まじい取り合いを始めた。

 

人気者は辛いな。これから毎日、あいつの家であれが繰り広げられるのか。あいつの心の安息は何処に…。

 

そんな時、取り合いに夢中の部長さんに声をかける者がいた。

 

「…あのー、リアス姫?そろそろ例の手続きを…」

 

白いあごひげを蓄えた初老の男性。列車と言う乗り物にピッタリの車掌服を身に纏っている。

男の存在に気付いた部長さんが男の方へ振り向くと、恥ずかしさに顔を赤らめた。

 

「…そ、そうね。ごめんなさい…」

 

「そうお気になさらずに」

 

寛大な様子で謝罪を受け止めた男は俺たちの方へと向く。

 

「おほん!グレモリー眷属の皆様、初めましての方は初めまして。そうでない方はお久しぶりです。私、当列車の車掌を務めておりますレイナルドと言います。これより、新人眷属悪魔の方々の照合を開始します」

 

男…レイナルドさんは初めて見る機械を取り出し、兵藤の方へと歩いた。

そして機器を兵藤に向け、モニターで緊張で硬くなった顔を捉える。

 

「体内の悪魔の駒と転生時に冥界に登録されたデータを利用して照合しているらしいぜ」

 

程なくして機械からピコーンという軽快な音が流れた。

この照合をアルジェントさん、ゼノヴィアと言った順に済ませ、今度は俺の方へと歩みを進めた。

 

「次は推進大使殿です、カードはお持ちですか?」

 

カード?

 

首を捻りながらも俺は次々にバッグから思い当たるカードを取り出す。

 

えーと、スペードのK…これはトランプ。銀河眼の光子竜…これは遊戯王。光龍騎神サジット・アポロ・ドラゴン…これはバトスピ。…あ。

 

「これですか?」

 

俺は最もこの上級にそぐうであろうカードをバッグから取り出す。顔写真が載った大使任命式でもらった特別なカード。これがあればある程度色んな所に顔が利くのだとか。

 

カードと顔をモニターでチェックすると先ほどと同じ様な音が鳴った。

 

「照合完了いたしました、次はアザゼル殿」

 

「ほい」

 

アザゼル先生の顔をモニターでチェックすると再び軽快な音が鳴る。

 

「これで全員分の照合を完了しました。後は目的地までごゆっくりお過ごしください」

 

こうして思った以上にあっさりと俺たちの入国手続きは終わった。

 

 

 

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

 

 

 

『まもなくー次元の壁を突破しますー』

 

40分後、暇を持て余した俺たちがいる車内にアナウンスが流れた。それから数秒して今まで薄暗い混沌の様相を呈していた外の景色ががらっと明るいものに変わる。

 

見渡す限りの山々、木々、大地を走る川、森の中に点在する村、そしてひと際目を引くのは見慣れた青ではなくどこか禍々しさを感じる紫色に染まった空。

 

それを見た俺は思わず感嘆の声を上げる。

 

「おおー!自然いっぱい…って空が紫色だ」

 

「ハハ!スッゲエな!!」

 

「すごいです!」

 

「これが冥界か…!」

 

まるで魔王が待ち受けるラストダンジョンの城でもあるかのよう。これぞファンタジー世界と言った感じだ。

…ってここ冥界だし、悪魔いるし、果てには魔王が四人もいるし当然か。

 

初めてこの景色を見る兵藤、アルジェントさん、ゼノヴィアは今までいた世界とは全く別の新しい世界を興奮に目を輝かせて眺める。

 

「ふふふっ、グレモリー領へようこそ」

 

部長さんは俺たちの新鮮な反応を楽しむように笑って言う。

 

見渡す限りの大自然を湛えるこの大地全てがグレモリー領。部長さんが生まれ育った地か。

改めて上級悪魔グレモリーが悪魔社会においてどれほどの地位を持っているのかを実感した。

 

窓から景色を見るゼノヴィアが呟いた。

 

「ここがグレモリー領…」

 

「ええ、領土の大きさは本州と同じぐらい。まだ手付かずの森林や山、川は多いわ」

 

「本州!!?」

 

「更に言うと冥界は地球と同じくらいの面積だけど海がない分さらに土地は広いのよ。人口も冥界を悪魔と二分する堕天使やその他の種族を入れてもそれほど多くはないわ」

 

冥界ってそんなに広いのか…。それに部長さんの家の領土は本州並みの大きさってまじかよ。部長さんでこれなら魔王領は一体どれほどの広さなのか俺には想像もつかない。

 

「もう窓を開けても大丈夫ですわよ」

 

朱乃さんの勧めで俺たちは窓を持ち上げるようにして開ける。するとゴウっと音を立てて外の風が車中へと吹き込む。

 

「これが冥界の風…」

 

人間界で吹く風をさらりと言うならこの風はどこかぬめりと言った表現が合うだろう。若干の違和感を感じるが俺以外の面子は特に気にしている様子はない。俺が冥界の環境に慣れていない人間だからだろうか?多分、慣れれば問題ない範囲のものだ。

 

吹き付ける風はこれといって熱いわけでも寒いわけでもない。むしろちょうどいい位だ。その点に関しては人間界より快適だ。

 

「人間界の風と比べると変な感じがするかもしれないけど、毒が混じっているわけじゃないから大丈夫だよ」

 

「そうか」

 

俺の心中を読み取ったか木場が教えてくれた。

窓から身を乗り出し俺たちは少しでも近くで冥界の自然を味わおうとする。

首をせわしなく動かし目で大自然を楽しむ途中、俺の目にひと際目を引く物が映りこんだ。

 

「…すごい谷だ」

 

まるで大地にそれ相応のサイズのヒビが入ったような谷。

森の中にぽつんと不自然にできたように見えるそれは圧倒的な存在感を放っていた。

 

「あれは『魔烈の裂け目』。大戦でセラフと魔王クラスの悪魔が戦ってできたそうよ」

 

「悪魔があれを作れんのかよ…」

 

部長さんの解説にぼそりと驚きを漏らす兵藤。

 

冥界と天界の実力者がぶつかればこんな大規模なものが出来てしまうのか。この広大な冥界、探せば大戦の跡は山のように出てきそうだ。もしかしたらこれ以上の物もあるかもな。

 

その後も揺れる列車の中、俺たちは初めて見る冥界の景色による感動の余韻に浸った。

 

 

 

 

それから10分程で、列車はゆっくりとしたスピードに速度を落とした。その後も徐々にスピードを落とし続けついには止まった。

 

『まもなくーグレモリー本邸前ー、ご乗車ありがとうございましたー』

 

「着いたか」

 

レイナルドさんのアナウンスで皆がぞろぞろと腰を上げ始める。皆が置いた荷物をそれぞれが回収し、入口に向かう。だがその皆の中にいない者が一人いた。

 

「あれ、先生は?」

 

アザゼル先生だけは腰を上げることなく窓際で頬図絵を突いたままだった。

 

「俺はこのまま魔王領まで行ってサーゼクスやミカエルと会合さ、また後で来る」

 

「そう、お兄様によろしくね」

 

アザゼル先生は部長さんの言葉に軽く頷く。

それを見届けて、俺たちは列車の外に出た。

 

部長さんを先頭にステップを降りていく兵藤たち。その最後尾は俺。

 

「すぅー…」

 

冥界の風を目いっぱい吸いこみ、吐いた俺はゆっくりと、人生初の冥界の第一歩を踏み出した。




悠の隠し事が増えていく…。十中八九ろくな目に合わないパターン。

次回、「初めての冥界観光」

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