ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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話を相当先まで考えているせいか、現時点で言えないことが多すぎる。

早く先の話を書きたい…けど一話一話しっかり話を書かないと気が済まない性分なのでなかなか更新ペースが上がらない。

来週のジオウ本当に楽しみだな…。

Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は…
S.スペクター
1.ムサシ
3.ロビン
4.ニュートン
5.ビリーザキッド
7.ベンケイ
11.ツタンカーメン
12.ノブナガ
13.フーディーニ



第42話 「ガンマイザーの猛威」

思わぬ人物との再会、そしてガンマイザーの出現。

俺はこの状況に戦慄せざるを得なかった。

 

(おいおいマジかよ、よりによってガンマイザーかよ!)

 

まだこちとらディープスペクターすら手に入っていないというのに終盤に出てくるような敵を相手にするって、先月のコカビエルやヴァーリの時もそうだがパワーインフレ速すぎない?最初っからクライマックスしてるよね?

 

内心焦りまくりだがだからといってじっとしていても状況は変わらない。どうせ向こうは俺を殺る気でいるのだ。

ならこちらとしては黙って殺されるわけにはいかない。やりたいことだってまだあるしな。

 

それに、列車での別れをあいつらとの最後の会話にする気は毛頭ない!

 

そこからの行動は早かった。流れるようにスペクター眼魂を起動。素早くドライバーに差し込み変身待機状態にする。

 

〔アーイ!バッチリミロー!バッチリミロー!〕

 

周囲を舞うパーカーゴースト。いつもの変身ポーズを取りながら内心の焦りに呑まれまいと力強く言の葉を紡ぐ。

 

「変身!」

 

レバーを引くと同時に青い霊力が全身を覆うスーツと化し、パーカーゴーストを纏って変身完了する。

 

〔カイガン!スペクター!レディゴー!覚悟!ド・キ・ド・キ・ゴースト!〕

 

〔ガンガンハンド!〕

 

「ハァ!」

 

ガンガンハンドの召喚と同時に飛び出し、幸先よく先手の突きを放つ。

が、奴は悠々と上体を捻り躱し、さらには払いでお返しと言わんばかりに攻撃してきた。

 

アーマーを切っ先で切られ、追撃にと回し蹴りも食らう。

 

「くっ!」

 

転がる俺。さらなる追撃。奴が両手で槍を握り、大きく溜めるような構えを取る。

 

するとスピアーの先に鎌のような光刃が生まれた。

 

なんかやな予感しかしないな!!

 

「ふっ!!」

 

そしてスピアーを大きく振るい、溜めた力を一気に解き放つ。

 

慌てて俺は飛び退って溜め攻撃を回避した。態勢を整えていないうちに飛んだため、飛んだ先でも派手に転がった。

 

「つっ…っ!?」

 

顔を上げ、奴の方を見ると俺と奴との間に大きな斬撃の跡が残っていた。大きく、そこそこの深さもある。

 

あれを喰らっていたら間違いなく上半身と下半身が今生の別れをしていたな。初っ端から恐ろしい攻撃をしてくれる…!

 

「ふむ」

 

斬撃の跡の向こう、アルギスは軽快にスピアをバトンのように回すと、地面に突き刺した。

 

またデカい攻撃を仕掛けてくるのか…?

 

そう思っていた俺にとって、まさに想定外の攻撃を奴は仕掛けてきた。

腰を深く落とし、構えを取った。そして駆け出し一気に俺との間合いを詰めてきた。

 

「ッ!?」

 

「ハッ!」

 

綺麗に奴は俺の顔面に拳を打ち込んできたのだ。

 

ガンマイザーを捨てて直接攻撃に臨むとは…!

 

虚を取られた俺はたまらず受けた。一瞬星が見えたような気がする。口の中には血の味が広がり始めた。

痛烈な一撃に視界と意識がぐらつく中、構うことなく奴は打撃の嵐を見舞う。

 

頬に再びの拳打、腹に突き刺すような膝蹴り、そしてオーバーヘッドキックじみた回し蹴り。

 

「ぐはっ…!」

 

あっという間に地面に強く叩きつけられた俺を動けないようにとアルギスは踏みつけて抑える。

睨み付けるようにアルギスに視線をやる。目と目が合った瞬間、昏い紺碧の双眸をニッと細めた。

 

「実は私、悪魔にしては珍しく格闘戦が得意なんですよ」

 

「…ッ!」

 

極めつけに俺をサッカーボールのように蹴り飛ばした。吹っ飛ぶ俺はそのまま地面に大きく口を開ける裂け目へと放り出された。

 

俺の体が裂け目に飛び出した瞬間、重力に従って落下を始める。あっという間に勢いもつきさっきまで戦闘を行っていた場所から遠ざかっていく。裂け目に吹く風の悲鳴にも似た轟音によって聴覚はすぐさま塗りつぶされた。

 

(やばいやばいやばい!!)

 

底がどれくらいかなんてまずわからないし、間違いなく落ちたら変身していても死は必須だ。

 

慌てて俺はフーディーニ眼魂を起動、ドライバーに差し込んだ。

 

〔アーイ!バッチリミロー!〕

 

それに呼応して空中で待機していたキャプテンゴーストがイグアナに変形し、そこからさらにマシンフーディーが飛び出し真っ二つに割れてパーカーゴーストになった。

 

レバーを引き、飛来したパーカーゴーストを落下しながら纏う。

 

〔カイガン!フーディーニ!マジいいじゃん!すげえマジシャン!〕

 

バッと手を伸ばし、タイトゥンチェーンを射出。目いっぱい伸ばし、裂け目近くの森の木に鎖を巻き付けてこちら側から鎖を勢いよく巻き上げる。

 

「ぐぅぅ…!腕が千切れる…!」

 

腕を強く引っ張られるような感覚。歯を食いしばって耐え、さっきの遠ざかっていく光景と逆に一気に裂け目から飛び出した。

 

「人をサッカーボールみたく扱うな!」

 

飛び出して早々に飛行ユニットを起動、抗議の言葉を飛ばして空を縦横無尽に飛びながらガンガンハンドの銃撃を浴びせる。

 

「チィ!」

 

惚れ惚れするほど華麗なバック転、くるくると回り斬撃の跡を大きく飛び越えて突き刺したスピアの下へ戻る。

素早く引き抜くと、ぐるぐる回して銃撃を弾いた。

 

うまいことスピアーを扱うなあいつ!

 

「だったら!」

 

〔ダイカイガン!〕

 

特大の一撃で奴の防御を崩す!

 

ハンドをドライバーにさっとかざすと銃口に群青色の霊力が収束する。

 

それに対して奴は防御をやめ片手を突きだす。そして眩い黄色の魔力が迸った。

 

相殺する気か、そううまくはいかない!

 

〔オメガスパーク!〕

 

トリガーを引くと同時に霊力の大玉が発射される。魔力と霊力が激突する寸前、黄色い魔力が突如として蛇のごとき形状へと変化した。

 

「何!?」

 

蛇は霊力をがぶりと喰らい、飲み込み、そのまま直進し宙で無防備を晒す俺に激突した。

 

「ぐあああっ!!」

 

爆炎と衝撃。

バランスを崩した俺はそのまま地面に墜落する。そこに休む暇をも与えまいとアルギスがスピアーを持って迫る。

 

急いで立ち上がって銃撃を数発見舞って牽制するも軽々と奴は接近する勢いを殺さぬままスピアーで弾いた。

 

もはや銃撃は意味なしとみてガンガンハンドをロッドモードに変形、こちらも接近戦で応じる。

 

迫るアルギスは鋭い突きのラッシュで攻撃を仕掛けてくる。

 

「お前…!悪魔のくせして十字架を着けて大丈夫なのかよ!」

 

集中して次々に繰り出される突きを躱し、いなし、時に躱しきれず身にかすりながらじりじりと引き下がる。

 

「敵の心配をするとは随分と余裕ですね、それにこれを十字架呼ばわりとはッ!」

 

俺の言葉に若干の怒りを見せたアルギスがさらに一際早く、鋭い一突きを放った。咄嗟にこちらもハンドを振るい、つばぜり合いを始める。

 

「これは私が信ずるあの方に捧げた忠誠の証!偽りの神の信徒どもが引っ提げる十字架と一緒にしないでもらいたい!!」

 

「そうかよ!それだけじゃない、お前には聞きたいことが山ほどあるんだよ!」

 

スピアとハンド、両者の得物がつばぜり合い纏うオーラがぶつかり合いスパークを起こす。

 

「ほう、何でしょうっ!?」

 

向こうは拮抗するスピアをわざと引く。それによりつばぜり合いに勝とうとかけていた力が空ぶって思わず前のめりになるようによろめいてしまい、そこを奴が見逃すはずもなく弧を描くようなスピアの払いで追撃をかけてくる。

 

「ぐうっ!?」

 

横腹に打撃を受け、ふらふらする足を意地で踏みとどまり鋭いハンドの突きで返す。

 

「ハァ!」

 

「ふっ」

 

それを奴は柄で軽々と弾く。

 

「例えばァ!」

 

素早く別の眼魂を入れ替え、ドライバーから飛び出した紫色のパーカーゴーストが牽制をかける。

アルギスはじりじりと下がりながらスピアーを振るってやり過ごす。

 

〔カイガン!ノブナガ!我の生き様!桶狭間!〕

 

その間にレバーを引き、ゴーストチェンジを完了した俺がパーカーゴーストと入れ替わるように攻勢に出る。

向こうの攻め入るスキを作らないよう苛烈な連続攻撃で畳みかける。

 

「何でお前が俺を狙うのか!」

 

「…っ」

 

怒涛のロッドでの攻撃、流石の奴も迂闊に攻撃できず勢いに押されるまま、じりじりと下がりながら険しい顔つきで俺の攻撃を防ぎ続ける。

 

「何故眼魂を集めるのか!他にも!」

 

ロッドでスピアーを抑えた直後、銃モードに変形。ガンガンハンドがスピアーの柄を掴むような形になり力づくで押し下げる。

 

ここだ!

 

ここぞとトリガーを引き、ついに俺は銃撃をアルギス本体に打ち込んだ。

 

「ぐふっ!」

 

霊力弾が貴族服を破り腹から鮮血が噴き出す。

苦悶の表情を浮かべ、腹を抑えながらよろよろと後退するアルギス。

 

「お前の裏にいる奴のこともな!お前には洗いざらい吐いてもらう!」

 

俺は指さしながらはっきりと宣言する。それに対して奴はぷっと血を吐き捨てると呆れたような顔で瞑目し、肩をすくめるだけだった。

 

「…ハァ、やれやれ。眼魂の回収に飽き足らず私から情報を抜き取ろうなどと。随分と欲張りな人だ」

 

おいおい悪魔から欲張りって言われたよ。基本的に俺は謙虚でありたいと思っているが時に欲を出すことが意外にも事態を好転させる手になるとも思っている。だが二兎を追う者は一兎をも得ずとも言う。それは状況をしっかり見てからその手を切るのが望ましい。

 

だが今回はあのアルギスとかいう野郎単体、つまり一兎だ。ここは兎ではなく一石二鳥にさせてもらう。

眼魂と情報のな。

 

「…さて」

 

瞑目していた目が開かれる。刹那、奴の纏う雰囲気が一段と鋭い物になった。

 

殺意だ。多分次はすごい攻撃が来そうだ。

 

ハンドをロッドモードにして再び構えなおし、奴の一挙一動を見逃すまいと睨むようにマスクの裏から見る。奴の動きを予測して回避、あるいは渾身の不意打ちを叩き込んでやる。

 

動いた。スピアを軽快に回し、石突を地面に突き立てた。

 

「クライメット、やれ」

 

奴の次手は攻撃ではなく指示だった。予想が外れた俺は少し面食らった。

 

そして指示と同時に今まで一寸たりとも動かなかったガンマイザーが遂にその足を一歩前に踏み出し、アルギスの前に出た。アルギスは逆に大きく後ろに飛び退った。

 

「…!」

 

ガンマイザーが一般的な男性と比べて大柄な両腕を広げる。すると奴を中心に霧の塊…いや、小さな雲がいくつも生まれた。ある雲は黒っぽい色でバチバチと帯電しており、またある雲は寒々とした青っぽい白色をしている。

奴の能力はよく知っている。クライメットの名の通り気象操作による攻撃。吹雪、竜巻、雨、雷と気象という枠で考えれば奴の技のバリエーションは相当多彩なものだ。

 

ガンガンハンドを銃モードに変え、いつでも引き金を引けるよう構える。

 

どれから来る?雷か?吹雪か?

 

…いや、向こうの出方を窺っていても仕方ない。ここは先制攻撃だ!

 

本体に向けて銃撃を放つ。迫る弾丸、しかしそれは横合いから飛んできた。大きな氷塊に阻まれ相殺される。

 

そこから向こうの攻撃は始まった。展開していた雲から一斉に氷塊が俺目掛けて放たれる。

 

広範囲の氷塊の横殴りの雨。しかも速い。すぐさま銃撃にて応戦する。ノブナガ魂の能力で銃をコピーして一度の銃撃で倍以上の数の霊力弾を生み出し、寄せ来る氷塊を次々に打ち落とす。

 

ぶつかり合う霊力弾と氷塊。互いに激突し砕け散っては空間に煌めきを生み出していく。だが一々それに感動の念を覚える暇はない。

 

「つっ!」

 

撃ち漏らした氷塊が横腹をかすめる。それに気に掛ける暇も与えないと言わんばかりに氷塊の連射は続く。

 

届かない。防戦一方で本体に銃撃を当てられない。しかも撃ち漏らしまで出てきている。向こうはこっちの銃撃の倍以上の氷塊をとめどなく打ち込んでくる。

 

「こいつマジで厄介だな…!」

 

ここは一つ、オメガドライブで増幅した銃撃でひっくり返すしか…!

 

そう思って片手をドライバーのレバーに回した瞬間。

 

ぽつ。

 

ぽつぽつ。

 

「なんだ?」

 

ぽつぽつぽつぽつ。

 

ざあああああああああああ。

 

雨が降り出した。いつの間にか向こうは氷塊攻撃をやめていた。

 

…違う、この雨。変だ。だって…。

 

 

 

 

 

 

 

俺の周りにだけ降ってる。

 

ぽつぽつとした雨はあっという間に豪雨へと変わった。

 

上を見上げると俺が立っている位置を中心に厚い雲が一定の範囲、とめどなく雨を降らせていた。

 

おかげで地面はぬかるみ、激しい雨で動きは少しだが制限される。

 

「いや、関係ないな」

 

速攻で雲の範囲を抜け出せばいい話だ。

 

気持ちを切り替えて俺は接近戦に持ち込もうと駆け出した。

 

「いいえ、関係あるんですよねぇ」

 

クライメットが片手を天、俺の上にある雲にかざした。

するとあれほど激しく降っていた雨が嘘のように止んだのだ。

 

一瞬呆気にとられた俺は上空を見上げたまま足を止めてしまった。

 

そして見てしまった。灰色のような雨雲が今度は氷をイメージさせるような寒色系の色に変わるのを。

 

同時に上空の雲から激しい吹雪がビュウビュウと勢いよく吹き付ける。スーツ越しにでも感じるほどの寒さだ。まさか夏に寒いなんて思うことになるなんてな。

 

吹雪はまるで地面に叩きつけるかのように激しく荒れていた。

 

「くっ…これは流石に動けない…!」

 

脚はまるで地面にくっついてしまったかのように動かなかった。

 

…ん?地面にくっついてしまった?

 

刹那、全身を悪寒が舐めた。咄嗟に足元を見る。

 

するとどうだろう、豪雨でびしょぬれになった足がきれいに地面に張り付くように凍り付いていた。足に軽く積もった雪の間から氷の輝きが見えた。それだけでない、雨に濡れた俺の周りの地面全てが猛吹雪によって凍結していたのだ。

 

「しまった!!」

 

そこでようやく気が付いた。

 

さっきの豪雨はこの吹雪を最大限に生かすための布石だったのだ。

 

氷塊攻撃で俺の気を本体に向け、その間に上空に雨雲を生成する。そして俺の全身を豪雨でくまなく濡らし、続く猛吹雪で完璧に凍らせる。

 

見事にはめられた。おかげで足だけでなく腕も、胴体までも凍り付いてしまい、あっという間に俺の体の自由は奪われてしまった。

 

氷を操る能力でもなく、水を操る能力でもなくその二つを総合した気象を操る能力だからこそ出来る芸当。

 

「ハハハッ!いやはや見事に引っかかってくれましたね!ちょっと考えればすぐ気づくはずなのに」

 

哄笑を上げるアルギス。奴は手を上げ、再びクライメットに合図する。

 

すると奴の周りに展開していた雲が一斉に黒く変色しバチバチと帯電し始める。

 

(まずい、狙い撃ちにする気か!!)

 

この場から離れようとする意思に反して体は全く動かない。既にほぼ全身を凍らされた俺は全く回避できない無防備な状態を晒してしまった。

 

「行け」

 

どこまでも冷徹な合図、一斉に黒雲からカッ!という稲光と共にいくつもの雷条が殺到する。

 

「があああああっ!!」

 

雷条がくまなく俺の全身を氷ごと撃ち砕き、焼く。視界と意識がちかちかする。

許容範囲を超えたダメージに変身が強制解除される。

 

「がふぅ!!」

 

血反吐を吐きそのまま前のめりに倒れる。その時2つほど眼魂がころころと転がってしまった。

 

眼魂はそのままアルギスの方へと転がっていき、奴のブーツにコツっと当たって止まった。

 

「ふむ」

 

アルギスは身をかがめて転がった眼魂を拾い集めた。

 

「一つ、二つと…まだこの他にも持っていますよねぇ?」

 

(しまった…眼魂が…!)

 

「ま、物言わぬ骸にしてから回収しましょうか」

 

ゆったりと、そして余裕からか軽い足取りで奴が近づいてくる。先のダメージで体を動かすことすらままならない俺は地面に頬をつけるばかりだ。

 

スーツとそれを覆うアーマーによって軽減はされたものの雷で負った火傷と衝撃により痛みで俺の全身は激痛に支配され切っていた。少し体を動かそうとしても鋭い痛みがそれを阻む。

 

「さあ、これで詰みです」

 

口の端を上げてスピアーの穂先を突きつけるアルギス。

 

「クソ…!」

 

鼻血を流して顔を物理的に真っ赤に染めた俺は対照に悔しさにギリッと歯を強く噛みしめる。こんなところで俺は…!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死ねないッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドォォ!!

 

その時、俺とアルギスの間に轟音を伴う銀色の魔力が飛来、炸裂した。

 

「ッ!?」

 

アルギスは直前で素早く後ろに飛び、直撃を免れる。炸裂の後、軽い衝撃の余波が俺を襲った。

 

「うっ…何だ…!?」

 

両腕をクロスしてそれに耐える。余波が消えた後、魔力が当たったところを見ると小さな小さなクレーターが出来ていた。あのサイズとはいえ軽いクレーターを作るような攻撃をまともに受ければただでは済まないだろう。

 

しかし一体誰が…?

 

「間に合ったようですね」

 

内心の疑問に答えるようにその声は聞こえた。弾かれたように聞こえた方…上空を見上げるとそこには銀髪のメイド長、グレイフィアさんがいた。

 

「グレイフィアさん!?」

 

「クライメット!」

 

やや切迫気味のアルギスの叫びと共にクライメットが前に出る。

周囲に十数の雲を生み出し、そこから雷、氷塊、吹雪、あらゆる気象攻撃をグレイフィアさん目掛けて一斉に放った。

 

「ハァッ!!」

 

対するグレイフィアさんも片手を突きだし、気合の一声と共に手のひらから凄まじい銀色の魔力の奔流が放たれる。

 

絶大な魔力の奔流は気象攻撃と拮抗するどころか一瞬で飲み込み、さらにはクライメットごと飲み込んだ。

 

強烈な魔力を一気に浴び、やがてクライメットは跡形もなく爆散した。

 

「なッ…!?」

 

「一撃かよ…!!」

 

思考と表情が一気に驚愕の色に塗りつぶされる。

 

なんだ今の攻撃!?ガンマイザーを一撃で倒すって冥界のメイドさん、強すぎだろ!!アルギスも口をあんぐり開けてるし!

 

その間にゆっくりとグレイフィアさんが俺の隣に降り立つ。

 

「あの…どうしてここに?」

 

「観光と言う割には荷物の一つも持たずに行くのがおかしいと思ったので」

 

あっ。どうせ何もいらないだろと思って手ぶらで行ったのが仇になったか…。

いや、そのおかげで助かった。このままグレイフィアさんが割り込まなければ間違いなくやられていた。

 

突然の乱入を不快に思ったのかいつもよりトーンの低い声でアルギスが訊ねた。

 

「グレイフィア・ルキフグス…最強の『女王』、『銀髪の殲滅女王《ぎんぱつのクイーン・オブ・ディバウア》』とも呼ばれるあなたが何故私の邪魔を?」

 

「彼はグレモリー家の客人そして…お嬢様の大切な仲間。お嬢様たちの留守の間に怪我をされたとあってはお嬢様や御当主様へ申し訳が立ちません」

 

「グレイフィアさん…」

 

アルギスの疑問に凛然とグレイフィアさんは言い放った。

 

グレイフィアさんそんな物騒な二つ名があったのか…。流石、グレモリー家のメイド長は伊達じゃないな。

同時に頼もしくもある。彼女の毅然とした立ち振る舞いが俺の心に戦意の炎を再点火した。

 

「ぐ…うう…ッ!」

 

全身を走る激痛にこらえながらもなんとか立ち上がる。それを見てアルギスは「やれやれ」と肩をすくめた。

 

「ああそうですか…誰かに尽くすという点では流石、ルシファーに仕えるルキフグスの悪魔ですよ」

 

「さて、今度は私があなたの相手を務めましょうか?」

 

その言葉と同時に肌を突きさすような戦意がグレイフィアさんから滲み出る。

 

この場の空気を一瞬にして支配した。アルギスも渋い顔をして苦笑いした。

 

「…いえ、ここは引きましょう。流石にあなたを御せる自信はありませんよ」

 

槍を地面に突き立て、魔方陣を展開した。

 

逃げる気だ、だが俺には追撃するほどの余力はない。グレイフィアさんも無暗に追撃する気はないらしく戦意を鎮め始めた。

 

「紀伊国悠、あなたは直に私が仕える御方と相まみえることでしょう。その時こそ、あなたの最期です」

 

不敵にも奴はそれだけ言い残してこの場から転移で消えていった。

 

「…行ったか」

 

安堵の息と共に全身から力が抜けその場に倒れかけるところ、グレイフィアさんが肩を貸してくれた。

 

「一先ずは本邸に戻りましょう。話はそれからです」

 

「…はい」

 

疲れ果てながらも内に渦巻く悔しさが滲む返事が出た。正直に言って今にも意識が落ちそうなくらいダメージが大きい。この調子だと本邸に戻るまでに意識は持たないだろう。

 

アルギス・アンドロマリウス。ガンマイザーを操る奴の実力は相当なものだ。

 

あのガンマイザーの出現から見るに奴は使用する眼魂と対応するガンマイザーを召喚できる。クライメット以外にも厄介な能力を持つガンマイザーは数多くいる。それを召喚させないためにも向こうに眼魂を取られるわけにもいかない。

 

そしてガンマイザー抜きにしても奴の戦闘力は優れている。魔力攻撃を含めて今の俺では奴に勝つのは困難だ。

 

おまけに奴のバックに誰かいると来た。間違いなくアルギスよりも強いだろうな。こうもボコボコにされてしまった以上、これは俺一人で解決できる問題ではなさそうだ。帰ったらアザゼル先生とポラリスさんに要相談だな。

 

 

 

 

そしてここから先は俺の推測に過ぎないが、少なくとも奴はガンマイザーを召喚した時点でガンマイザーの知識をある程度持っていると思われる。もちろん俺は転生特典にガンマイザーなんて頼んでないしな、向こうに眼魂の情報は多少は渡ったとしてもガンマイザーの情報が渡る可能性はまずない。だって原作みたいに変に自我を持って反乱とか大きな騒ぎを起こされても困るし。

 

この世界に『仮面ライダーゴースト』と言う作品が存在しない以上、ガンマイザーも存在しない。

 

…つまりだ、もしかしたらだが…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルギスは俺やポラリスさんのような異世界からの来訪者…あるいは転生者なのかもしれない。

 




おまけ サブキャラの集い in cafe パート2

飛鳥の視線の先に座る二人とは。

「ちょっと天王寺、JK二人を待たせるなんていー度胸じゃない」

頬図絵を突きながら半眼で飛鳥に視線を送る桐生藍華と。

「言い出しっぺが約束の時間に遅れるのは感心しないわね」

腕組みしながら瞑目する、日光に麗しいブロンドヘアーが煌めく上柚木綾瀬。

いつもの駒王学園の制服とは違ってカジュアルな私服姿である。藍華は明るい色を押し出した服装、綾瀬は黒をメインに据えたどこかお嬢様らしさが出る出で立ちだ。

「あーごめんな!かんにんしてや!」

二人のに両手を合わせて頭を下げる飛鳥。不機嫌な綾瀬を相手にする時、彼は頭が上がらなくなるのだ。

駒王学園に入る前から続く彼らの関係、この光景に慣れたように「ふふ」と苦笑する綾瀬は腕組みを解く。

「まあ、コーヒー奢るっていうなら許してあげないこともないけど?」

「はいよ」

言って早々、二人の前にコーヒーが並ぶ。虚空に立ち昇る湯気、そしてコーヒーの香ばしい独特な香りが二人の鼻腔をくすぐった。

急に出されたコーヒーに彼女らはぽかんとする中、コーヒーを出したマスターが頬を緩めてニッと笑った。

「あ、これサービスだから。飛鳥君の友達みたいだからね」

テーブルの近くを去るマスターと入れ替わるように飛鳥が椅子に座る。

それだけ言ってカウンターに戻ろうとした時だった。ドアから聞こえるカランカランという音が更なる来客の訪れを告げた。

「いらっしゃい!」

店の入り口から慌ただしく姿を現したのは夏の暑さに汗を流す二人の男子だった。

「わりい遅れた!」

「松田氏が探しているDVDの捜索に時間を取られてな」

坊主頭が特徴の松田、そして眼鏡をかけたいかにもオタクと言われる類の人種であると認識させる元浜。

「はあ…あなたたちね」

さらなる遅刻犯の登場に鋭い声と共に綾瀬はため息をつく。
綾瀬は優等生気質もあってこういったことには厳しいのだ。

「おや、君たちも飛鳥君の友達かい?」

「は、はい」

「ならサービスでコーヒーを出すよ。ちょっと待ってね」

慣れた手つきで作業を始めるマスター。突然マスターに声をかけられたことにやや驚きながらも二人は飛鳥達の下へ合流する。

「あのマスター随分と気前がいいわね。もっと早くこの店のことを知りたかったわ」

「あちち」と言いながらコーヒーに口を付ける藍華。

「ここでバイトしてるならもっと早くこの店の事教えてもよかったじゃない」

ふーふーと冷ましながら綾瀬はコーヒーを飲む。その動作に幾分かの優雅さも感じられ、松田と元浜は感心の眼差しを軽く送った。

「…あのマスター、実は元宇宙飛行士らしいで」

飛鳥は声のボリュームを落とし、ひそひそ声で皆に話した。

「えっ!?」

「そうなの!?」

「マジか!」

飛鳥のひそひそ声につられるように皆の驚きの声も潜めるようなものになっていた。

「ほんまほんま。他にも今は留守にしてるけど娘さんも店の手伝いをしてたりするで、怒るとごっつこわいけどかわいいで!」

「何!?なら今度是非紹介してくれ!」

飛鳥の話に松田が食いつく。

「いやー、そこまで仲いいってわけでも…」

「ぬう…なら一目見るだけでも!」

食い下がる松田。半眼で彼を見る藍華が話に割って入る。

「松田、あんた私たちには興味ないっての?ピチピチのJK二人だっていうのに?」

「上柚木はともかく俺は清楚系がいいんだよ!」

「ちょっと、私は清楚系じゃないって言うの!?」

「アーシアちゃんに楽しそうに良からぬことを吹き込む奴のどこが清楚系って言うんだよ!」

「まあまあ!とにかく二人ともコーヒーを飲んで落ち着きや」

飛鳥の介入によって渋々ながらも互いに構えた喧嘩の矛を下げる両者。

「…この話は必ず決着をつけてやるわ」

「俺と元浜はコーヒーまだなんだけどな」

「あ、もうちょっと待っててね」

カウンターからマスターの声が届く。
こんな調子で、緩く賑やかに5人の会話は続く。






ちなみにガンマイザーの強さは大体上級悪魔の中くらいと言った感じです。…まあ、あくまで本物ではなく「再現」なので。

クライメットの攻撃を書いてて改めてデュリオってチートだなと思った。井坂先生と言い気象操作能力は本当に強い。

そしてあの方あの方って一体誰なんだと思っている方、もうしばしお待ちください。

長い長いあとがきでしたが最後にこれだけは断言しておきます。

本作に登場する転生者は悠を含めたった二人だけです。(ポラリスは異世界からの来訪者であって転生者ではない)

次回、「オカ研男子 in 温泉」

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