ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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めっちゃ長くなりました。

マコト兄ちゃんの久々の変身、よかったなぁ…。

久しぶりに動いたカウント・ザ・アイコン。これから動く機会が増えます。

Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は…
S.スペクター
1.ムサシ
3.ロビン
5.ビリーザキッド
7.ベンケイ
11.ツタンカーメン
13.フーディーニ



第43話 「オカ研男子 in 温泉」

「…ん」

 

意識の緩やかな浮上、覚醒が近づくと同時に眠りによって閉じていた目が開く。

完全に目が開くと視界に映ったのはつい最近見知った天井だった。

 

「ここは…」

 

息を吐くように自然と声が漏れ出る。ここは確か、グレモリー本邸に来た時に俺にあてがわれた部屋だ。

 

「目が覚めたか」

 

ふと声をかけられた先に目を向ける。そこにいたのは椅子に座り双眸に憂慮の色を浮かべるアザゼル先生だった。

 

「アザゼル先生…」

 

確か、昨日からサーゼクスさん達との会談で別れていたはずだったが…。それについて聞こうとした時だった。

 

「悠!」

 

どたどたとこの優雅で気品のある室内にそぐわないせわしい靴音が迫ってくる。

 

「う…つっ」

 

何事かと思い、ゆっくりと上体を起こす。すると俺が寝ていたベッドの前には安堵に頬を緩ませるオカ研の皆が揃っていた。

 

こいつらがここにいるってことは若手悪魔の会合が終わったってことか。一体どれほどの間俺は寝ていたのだろう。

 

…よく見ると俺の格好、新しい制服になってる。戦闘でボロボロになったからグレイフィアさんあたりがとっかえてくれたのだろうか。これと言った外傷も特になく。多分寝ている間にアルジェントさんが回復してくれたんだろう。若干の気怠さと少しばかりの痛みはまだ感じるが。

 

「話を聞いた時はビックリしたわ」

 

「取り敢えずは一安心ってところだぜ」

 

「紀伊国先輩が無事でよかったです…」

 

それぞれ心配と安心の言葉を口にする。随分皆に迷惑と心配をかけたみたいだ。

 

「怪我はあいつらが帰ってきて早々に呼んで、アーシアに回復させた。だが無理はするなよ。『聖母の微笑』は怪我を治すことはできても消耗した体力、魔力、そして流した血までは元に戻せないからな」

 

「はい」

 

俺達が何度も窮地を切り抜けてきた理由の一つたるアルジェントさんの神器もそこまで万能ではないってことか。

 

「一応の事情はグレイフィアから聞いているが…何があった?」

 

アザゼル先生が真面目な表情で俺に問いかけてきた。

 

「…事の発端は…確か、グレモリーの城を観光しているときです」

 

そう、俺達が観光で最後の城を巡っている時だった。ポラリスさんから連絡があって眼魂の情報を得たのだ。

 

…だがもちろん、ポラリスさんのことは『まだ』話すわけにはいかない。あの人にきつく秘匿するよう言われてるからな。だから皆に悪いが、一つ嘘を吐かせてもらう。

 

「どこからかガジェット達が眼魂の反応を拾って、俺は皆が会合に行った後の時間を使って眼魂を回収しようとして魔烈の裂け目に行きました。そこで…」

 

「謎の悪魔に出くわしたってわけか」

 

アザゼル先生が俺の話に続く。

 

ガジェットだが昔レイナーレを追っていた時に眼魂の回収も命じてたし、今でも4体に増えたガジェットを動員して街に探索に出していたりもする。…が、何度やってもスカだった。半ば回収を諦めかけたそんなときにやっとこさ入ってきた眼魂の情報、食いつかないわけがなかった。

 

ポラリスさん絡みでなくとも眼魂に食いついただろう。今後の戦いのことを考えればなおさらだ。

 

ガジェットの話はさておき、アザゼル先生の言葉に頷く。

 

「はい、奴の名はアルギス・アンドロマリウス。ゼノヴィア、そいつは前に俺達を襲ってきた悪魔だ」

 

「何!?またあいつと戦ったのか!?」

 

まさかあの時の悪魔が出てくるとは思わなかったらしい。まあそれは俺も同じだが。

 

あいつと初めて遭遇したあの時、ゼノヴィアも居合わせていた。戦闘に入ろうとしたその時、駆け付けた大和さんの介入で団地のど真ん中で戦闘を始めることなく向こうを撤退させることができた。

 

しかしだ、意外なことに驚いたのはゼノヴィアだけじゃなかった。

 

アルジェントさんと兵藤以外の面子も俺の話に驚いたといった反応を見せたのだ。

 

「…アンドロマリウス」

 

「ここでその名前を聞くなんてね…」

 

えっ、皆が知ってるってあいつそんなに有名人なのか?

 

「あなたが以前話した悪魔ね、あれ以来全く手掛かりがつかめなかったけど…アンドロマリウスだったのね」

 

「知ってるんですか部長?」

 

皆の反応についていけない兵藤が部長に訊いた。

 

「アンドロマリウスは元七十二柱の悪魔よ、大戦後の旧魔王派と新魔王派の抗戦で断絶したと聞いていたけど…血筋は絶えていなかったのね」

 

七十二柱だってのは本人が言ってたから知っていたけど、あいつ断絶した家の悪魔だったのか。

 

先の悪魔、天使、堕天使三つ巴の大戦によって各勢力は多大な犠牲を出し、一時は種族の存亡の危機にも陥った。

大戦によって悪魔サイドが失ったのは主たる四大魔王だけでなく七十二柱と呼ばれる富と力を持ち、軍団を率いる七十二の悪魔の家もその多くが激戦の中で軍団を失い果てにはその血を引く悪魔が戦死、あるいは戦火に巻き込まれる形で断絶してしまったという。

 

内心の驚愕を一旦抑え、話を続ける。

 

「…それは兎も角、奴の目的は俺の抹殺と眼魂の回収らしいです」

 

俺の話に皆がまた驚く、しかし今度は疑問符交じりの驚きだった。

 

「は?…ちなみに聞くけどそいつは『禍の団』なのか?」

 

「いや、それすらも分からない。ていうか脅威度でいったら赤龍帝のお前を抹殺した方が今後相手の得になると思うが…」

 

だって各勢力のお偉いさんがたも知ってる、そして恐れる二天龍の片割れだぞ?成長すれば間違いなく陣営を代表するレベルになるだろうしまだ禁手にも至っていない今が絶好の倒すチャンスだろう。

 

「何故奴はお前だけを狙う?何か奴と因縁があるのか?」

 

今度はゼノヴィアからの問い。アルギスに関しては俺にとって分からないがほぼ100%を占めているので転生のことのように嘘を吐く必要がないから心の底から「知らない」「わからない」が言える。

 

ていうか本当になんであいつ俺だけを狙うんだよ、全くもって意味がわからん。俺何かあいつに狙われるようなことしたか?

 

うんざりとした内心が返答に表れてしまった。

 

「それはこっちが知りたいよ。第一初対面はお前と一緒にいた時のあれだぞ…まあもしかしたら俺が記憶を無くす前に何かあったのかもしれんが…あ」

 

喋っている途中でふと思い出した。

 

「どうかしたかい?」

 

「あいつ、戦う前とか逃げる時に『あの方』とか言ってたんだ。多分そいつの命令であいつは動いてるんだと思う」

 

だとしたら俺と何か関係があるのか、それとも俺をうざったく思っているのかは知らんがアルギスが俺を抹殺しようとする理由は『あの方』にあるということになる。

 

何て言うかあいつ、多分その上司への忠誠が厚いタイプだよな。あの十字架もどきと言い。

 

アザゼル先生が髭を生やした顎に手を当てて考える。

 

「あの方、か…上司がいるってことはつまり組織で動いてるってことになるな。ならやはり『禍の団』か?」

 

「いいえ、その可能性は低いわ」

 

アザゼル先生の発言を否定したのは部長さんだった。

 

「アンドロマリウス家は抗戦時、新政府側に付いたの。『禍の団』に入る悪魔ならほぼ旧魔王派に付くだろうし、かつて敵対していた旧魔王派に味方するとは考えにくいのだけれど…」

 

「だが旧魔王派でくても各勢力のならず者も参加している。奴はその類なんじゃないか?」

 

「いえ、奴の振る舞いや発言からしてならず者といったタイプでないのは確かです」

 

戦ってみて感じたがあいつはただ暴れたいだけのならず者ではないだろう。何かしっかりとした目的があって動いている、そんな感じだ。

 

「考えれば考える程分からないな。眼魂についてはどうだ?」

 

「俺もよくわかりませんが奴は眼魂から強力な力を持った…ゴーレム?傀儡?みたいな怪人を作り出す能力を持っています」

 

奴は英雄眼魂に魔方陣をかざし、そこから何かエネルギーのような靄が発生してそれが形を変えてガンマイザーを生み出していた。

 

ぶっちゃけ今日驚いたことランキング一位はそれだ。昨日今日で散々冥界の自然、文化に驚かされたが不意打ち過ぎて軽くそれらを凌駕した。

 

すると意外にも朱乃さんがかぶりを振った。

 

「それは恐らくアンドロマリウスの力ではありませんわ。アンドロマリウスの特性は蛇と意思疎通し、操る力。それは恐らく何らかの特殊な魔法ですわね」

 

アンドロマリウスの特性って…フェニックス家でいう『不死』みたいなものか?なら部長さんの技からしてグレモリー家の特性は『滅び』ってことになるのだろうか。

 

「うーん、となると眼魂を集める目的はその怪人を量産しての戦力増強か?」

 

「…なあ、もしかしたらだけどさ」

 

会話の中に恐る恐ると言った様子で割り込んできたのは兵藤だった。

 

「お前のコブラケータイを操ってわざと呼び出した…ってあったりする?」

 

俺のコブラケータイを操る?それは一体…。

 

兵藤の発言に木場とアザゼル先生が得心がいったようにはっとした表情をした。

 

「そうか!一応コブラ…蛇の特性を持ったガジェットだからね。能力の対象にできるのかもしれない」

 

その発言を受けて兵藤の発言に疑問符を浮かべていた他のメンバーも「あっ!」と言って気付いた。

 

なるほどそういうことか!俺も分かったぞ。

 

「ガジェットを介してお前を人目のつかない場所に呼び出して抹殺、か。イッセー、お前にしちゃ良い推理をしたな」

 

…まあ本当はそうじゃないんだけど、今後奴がその手を使ってこないわけではない、ていうか使ってくるかもしれない。いい話を聞いたな。奴と相対するときはその可能性も頭に置いておくとしよう。

 

兵藤の推理が終わった後、俺の話を再開する。

 

「…一応、あいつが使役する怪人は『ガンマイザー』と呼ぶことにしてます。俺が戦った二体は槍型と気象を操る人型タイプです」

 

ガンマイザーは全部で15体。人型と武器型、そして球体型がそれぞれ5体ずつ。どれもが強力な能力を秘めており先ほど戦ったクライメット以外が相手でも苦戦は免れないだろう。

 

…でもガンマイザーのことについて詳しく喋ると逆に疑われるな。ここも黙るしかないのか。

 

 

 

…いっそ、皆に俺のすべてを打ち明けられたらと何度思ったことか。

 

でも言えない。ポラリスさんに口止めされているって言うのもある。なんでもそれが公にバレれば面倒な輩に付け狙われるぞとか脅し半分で言われた。…もうその面倒な輩に狙われている気がするが。向こうが俺のことをどこまで知っているか知らないがな。

 

それだけじゃない、俺は怖いんだ。折角掴んだ今の日常。ゼノヴィアとともに一つ屋根の下で暮らし、学校に行けばオカ研の皆と談笑し、時に敵と戦って実力と共に絆を深める毎日。もし、全てを打ち明ければそれが変わってしまうかもしれない。

 

信じてもらえないかもしれない。ポラリスさん曰くこの世界でも異世界の研究は行われているが実在は今だ確認できず空想の域を出ないものだという。人間の化学でも異形の科学でも証明できないことを話して、お人好しのあいつらでも流石に信じるはずがない。

 

それどころか俺が裏で何者かもはっきりわからないような人物と関り、挙句軽々しくその組織にまで入ったことを糾弾されるのではないか?俺が今後の皆のためと信じてやってきたことが全て、仲間であるはずの自分達よりも得体の知れない誰かを信じたという裏切りに捉えられるのではないか?

 

信頼は拒絶に変わり、異端の目で見られる俺ははじき出される。そしてポラリスさん側からも約束を守れなかったと不信の念を抱かれ、最後には居場所を失う。

 

俺はそれが嫌だ。だから俺は現状を維持することを選んだ。ポラリスさんの言う全てを打ち明ける『その日』まで待つと。

 

 

 

…おっと、話が随分と逸れた。確かガンマイザーの話だったな。

 

「気象を操るだと?煌天雷獄《ゼニス・テンペスト》かよそいつは!」

 

アザゼル先生は俺のもたらした情報に驚いた。

 

何かゼニスなんたらとかいう新しいワードが出たな。この異形の世界に出ると息を吐くように初めて聞くワードが出てくる。

 

「先生、ゼニス・テンペストって何ですか?」

 

「なんだ知らねえのかよ。そいつはお前の籠手と同じ神滅具だ。しかも13種ある神滅具の中で二番目に強いって言われてる」

 

「マジですか!?」

 

神滅具には気象を操る物もあるのか!今度先生に神滅具について詳しく聞いてみようかな。多分、あの手の人は自分の好きなことになるとめっちゃ語るタイプだろうし。自分もそうだからよくわかる。

 

「まあ神滅具はさておきだ。槍型に人型…確か、お前以前英雄眼魂は15個あるって言っていたな。なら眼魂ごとに生み出せるガンマイザーってのは違うってことになるのか」

 

「もしそうなら、残る13体も手ごわい能力を秘めていそうね」

 

まったくもってその通りです。重力、磁力、果てには時間を操る奴もいます。まあ磁力と時間に関してはまだこっちが対応する眼魂を持っているからいいんだが。特にツタンカーメンは死んでも渡せないな。

 

「そのガンマイザーっていうのに遭遇しないことを祈るばかりです…」

 

まだ見ぬ強敵の話を聞きあわあわとするギャスパー君。

 

…あれ、ギャスパー君が時間停止の神器を使いこなして禁手に至れば時間を操るガンマイザーにも対抗できるんじゃね?ギャスパー君が引きこもりを解消すれば目覚めるだろうか。少しだけど希望が湧いた気がする。

 

「ちなみにもっとその悪魔について情報はないのか?」

 

アザゼル先生がさらなるアルギスの情報を求める。

 

情報…情報か…。

 

奴との戦闘の記憶を未だ気怠さが残る脳から引っ張り出す。

 

「あー…確か格闘戦が得意ってことと…あと十字架みたいなペンダントを着けてるってことだけです」

 

あいつ十字架みたいなペンダントをつけていたな。十字の中心で二つの釘のような模様が交差している十字架。

会談でサーゼクスさんを襲ったミカエルさんの護衛も胸に同じマークがあったが…あれは組織のシンボルマークと言っていいのか?

 

「何!?」

 

突然ゼノヴィアが目を見開いて大声を上げた。

 

「悪魔が十字架だと!?羨ましいぞ!!」

 

いやそっちかよ!お前ホントに読めないな!

 

ミカエルさんがシステムをいじって悪魔のゼノヴィアとアルジェントさんでも祈れるようになったとはいえ、聖書や十字架までは触れられるようにはならなかった。流石に体質的な問題はクリアできなかったか。

 

「私もその人にきいたら十字架を触れるようになるでしょうか…!」

 

アルジェントさんもどこか期待に輝く眼差しをゼノヴィアに向けた。

 

アルジェントさんもか!?教会二人組に十字架の話はまずかった!

 

「よし!今度そいつに会ったら私とアーシアを呼べ!」

 

興奮したゼノヴィアが俺にづかづかと迫る。向日葵色の瞳が期待と希望に輝いている。

 

俺は驚きながらも冷静に返す。

 

「いや、あの十字架じゃなくてそれっぽいものだから」

 

「なんだつまらん」

 

手のひら返し速いなおい。

 

「んん!」

 

脱線しかけた話を戻し、注目を集めるためにか部長さんが咳払いする。

 

「アンドロマリウスの件はお兄様に連絡を入れておくわ。仮にも彼は貴重な元七十二柱の悪魔、雑な扱いはできない。彼の処遇に関しては政府の決定を待った方がいいわ」

 

え、倒したらだめっぽいのか?それだけ七十二柱が『元』とつくようになった今でも影響力があるってことなのか。

 

まあでもこちらとしても聞きたい情報はたくさんある。こちらとしては捕縛と言う指令になった方が都合がよさそうだ。

 

今度は朱乃さんが部長さんの話に続いた。

 

「断絶したお家の悪魔を発見したら保護するように政府が通達を出していますわ、敵対しているとはいえある程度はそのルールにのっとっておかないと」

 

「…アルギスに限った話じゃないんですね」

 

「ええ、断絶したと思われた家の血を引く者が見つかったという話は過去に何度もありましたわ。中には人間と混じって血を繋いだ家もありますのよ。…でも純血を尊ぶ貴族社会においてそうした家は元七十二柱だとしても煙たがられてしまう」

 

どこか複雑な表情で朱乃さんは語る。元七十二柱だとしても、か。純血主義の闇は深いな。

 

朱乃さんが話し終えた時だった、ギィという音を立てて自室のドアが開く。

 

「紀伊国さんもお目覚めのようですね」

 

「あ、グレイフィアさん」

 

入ってきたのはグレイフィアさんだった。まず、言わなければならないことがある。

 

「その…さっきはありがとうございました」

 

「お気になさらず。私はお嬢様方に仕える使用人として当然の行いをしたまでです」

 

グレイフィアさんはそう謙遜するが…当然の行いでガンマイザーを一撃で消し飛ばせないと思うぞ。

 

アルギスが最強の『女王』とか銀髪のクイーン・オブ・なんたらとか言ってたけどこの人、昔は相当暴れてたりしたのだろうか?

 

「さて皆様、温泉のご用意ができました」

 

そんなグレイフィアさんが用意してくれたのは、疲れ切った身にとって最高の朗報だった。

 

 

 

 

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それから後、俺達オカ研は今日一日の疲れを癒す温泉タイムに入った。

 

湯の温かさと沸き立つ仄かに白い湯気が俺の体を包み込むようにし、自然な安心感をもたらしてくれる。

 

湯に自身の体に染みついた疲れを落とさんばかりに肩までしっかりと浸かる俺は木場から会合の顛末を聞いた。

 

「といった感じだよ」

 

若手悪魔の会合。それは次代を担う名家の有望な悪魔たちの顔合わせと互いを意識しさらに高め合わせるために魔王たちが設けた場だった。

 

参加したのは6人の若手悪魔と彼ら率いる眷属。

 

元七十二柱第56位、魔王ルシファーを輩出したグレモリー家より我らが部長、リアス・グレモリー。

 

元七十二柱第12位、魔王レヴィアタンを輩出したシトリー家次期当主、会長ことソーナ・シトリー。

 

ここまでは知っている。そしてここからはまだ見ぬ強者たち。

 

元七十二柱第一位、大王バアル家次期当主のサイラオーグ・バアル。悪魔にしては珍しく魔力を使わず己の強靭な肉体で敵を打ち砕く彼は若手ナンバー1、部長さんのいとこでもあるらしい。

 

元七十二柱第二位、大公アガレス家次期当主のシーグヴァイラ・アガレス。アガレス家は俺達にはぐれ悪魔討伐の依頼を出している家だ。そんな家の未来を背負う彼女は知略に富んだ戦術が得意なのだとか。

 

元七十二柱第25位、魔王アスモデウスを輩出したグラシャラボラス家次期当主、ゼファードル・グラシャラボラス。血の気の多い彼はシーグヴァイラさんと揉め事を起こした結果、サイラオーグさんによって沈められたそうな。

 

元七十二柱第29位、『超越者』と言われる魔王ベルゼブブを輩出したアスタロト家次期当主、ディオドラ・アスタロト。会合ではほとんど関わることはなかったが優しい感じの少年だそうだ。

 

なんともそうそうたる面子。こんな中に俺がいたら場違い感が凄まじくて胃がオーバーフローしただろう。

 

湯に濡れて垂れた前髪を払う。

 

「へぇー…お前らも会長さん達も大変だな。で、会長さん達との試合に備えての修行か」

 

アザゼル先生が以前から話していたレーティングゲーム形式の試合の相手は会長さん率いるシトリー眷属だったのだ。試合までの20日間、グレモリー眷属とシトリー眷属は修行期間に入る。

 

木場が頷く。

 

「うん、明日の朝、庭に集まってアザゼル先生が具体的な修行の中身について話すらしいから遅れないようにね」

 

「当たり前田のクラッカーだ」

 

「…ゼノヴィアと仲がいいんだね」

 

ふふっと楽しそうに木場が笑う。

 

「それは当然。仲の悪い人との同居生活なんて胃がキリキリしそうなものはまっぴらごめんだ」

 

同居人は寝食を共にする人だぞ。家とは自然と安らぎをもたらしてくれる場、何故その安らぎを妨害するような人間と一緒に暮らさないといけないんだ。

 

「しかしレーティングゲームの学び舎か…」

 

会合で6人の若手悪魔たちは各々が抱く目標、夢を魔王たちの前で語った。

 

部長さんの夢はレーティングゲームに公式に参戦しタイトルを取ること。

 

次に語った会長さんの夢が意外なことに『レーティングゲームの学校を建てること』だった。

 

一応、レーティングゲームの学校は存在しているがそれはあくまで上流階級向けの物。会長さんが目指すのは階級に囚われることなく一般庶民であろうと転生悪魔であろうと通える学校だ。

 

しかし会合に居合わせた魔王を除くお偉いさんがたは彼女の夢を笑ったのだ。『転生悪魔の流入などで冥界が変わりつつあるとしても下級、転生悪魔は上級悪魔に才を見いだされ、彼らは主に仕えるのが常である。古き良き貴族社会は悪魔が悪魔たるアイデンティティーでありそれを破壊するようなものはあってはならない』と否、不可能事だと突き付けた。

 

典型的な現状主義にとらわれた政治家だという一言に尽きる。今までの歴史だって古いものの『破壊』と新しい物の『創造』の繰り返しだ、それは二度の大戦を繰り返した人間の歴史と何より旧魔王の死という『破壊』とサーゼクスさんたち新しい魔王の登場という『創造』という悪魔の歴史が証明している。

 

変化のない社会なんてものは往々にして問題を抱えている。変化を抑える力が強いだけで変化のない時の流れの中で問題は次第に膨れ上がり、やがてはちょっとしたきっかけで爆発する。どんなに強固なシステム、秩序を築き上げた社会でもこの『破壊』と『創造』の輪廻から逸脱することはできない。

 

「俺達は恵まれてるんだな」

 

この世の中、勉強のべの字も知らずその日その日を生きていくために働いたり農作物を育てたりスラム街でくすぶっている子供たちがどれほどいることか。

 

俺達が退屈に感じる日常もそんな子供たちからすれば喉から手が出る程欲しいものだ。普段あたりまえだとおもっているからこそ、本当の価値に気付けない。本当の価値に気付くにはその大切な物を失うしかない。…それが自分の家族だとしても。

 

「そうだね。…昔の同志たちに話したらきっと羨むだろうね」

 

どこか遠い目をする木場。木場も昔は恵まれた日常を知らない子供の側だったから思う所があるんだろうな。

 

「いいなぁ、お前らの会合の方がよっぽど楽しそうじゃねえか」

 

ため息交じりの声が会話に割り込んできた。振り向いた先には浴槽の縁に背を預けるアザゼル先生がいた。

 

「俺なんかずっと会談だぜ?サーゼクス達が会合に行ったら今度はミカエルとラファエルと会談さ。会談会談、ああだこうだ、大切だとわかってるけど疲れるし面白くねえ」

 

湯気と一緒に立ち昇るかのように心底つまらなさそうな顔で愚痴を垂れ流す。

 

「お疲れ様です」

 

「今のラファエルさんってどんな人…というか天使ですか?」

 

前の大戦でラファエルとウリエルは戦死、残った天使の中で多大な功績を挙げたという二人の天使がラファエルとウリエルの名を現魔王のように襲名したという。

 

現ウリエルの話はちょこちょこ聞くけど現ラファエルの話はあまり聞いたことがない。なら、本人に会ったという人に直接聞いてみるのがいいだろう。

 

「ん?現ラファエルか…あいつは先の大戦では前線に立っての戦闘より後方支援で功績をあげていた。癒しの力、そして結界。無論、戦闘に関しても相当なもんさ。あいつの防護結界は本当に硬くてな、当時は突破に相当手を焼いたもんだ」

 

アザゼル先生は昔を懐かしむような目で語ってくれた。…きっと、ラファエルだけでなく戦死したかつての仲間たちのことを思い出したのだろう。

 

なるほど、支援タイプの天使か。支援って言うのは前線でどんぱち派手にやるのと比べれば目立ちにくいがセラフクラスになれば凄まじいレベルになりそうだ。

 

「癒しの力…前ラファエルと同じですね」

 

木場も俺と同じ様に前髪を払いながらそう言う。

 

「ああ。話し出したらきりがないからここら辺で昔話はやめとくが…なによりあいつはガブリエルに匹敵する上玉だ」

 

後半の話になった瞬間、顔がややにやつきだした。

 

あ、これ兵藤と同じ顔だ。やっぱり先生と兵藤は波長が合いそうだな、エロ方面で。

 

「上玉…ってことは女性天使なんですか?」

 

「そうだ、胸のサイズに関しては負けているが本当に美人、信徒だったら速攻で拝みだすレベルさ。まったく天界は美人が多くて羨ましいぜ、いっそのことラファエルかガブリエルのどっちでもいいから堕天しねえかなぁ……」

 

アザゼル先生が先ほどとは打って変わって楽しげに語る。

 

「それミカエルさんが聞いたら怒りそうだ…」

 

セラフに向かって堕天してくださいなんて言えないだろ。てかセラフクラスが堕天使に降ったらそれこそパワーバランス崩れるぞ。

 

「ま、んなこと言ってねだったってしょうがねえわな。最近セラフたちは禍の団の対策の一方で悪魔祓いの不満を鎮めるのに手一杯だからな、あいつらもあいつらで忙しいのさ」

 

湯気に濡れた顔を手で拭う先生。丁度話が終わった時、浴場の入口の方からぺたぺたと足音が聞こえ始めた。

同時に呆れ気味な声も聞こえ始める。

 

「ギャスパーお前バスタオルで胸を隠さなくていいだろ、何がそんなに恥ずかしいんだよ!?」

 

「…でも、恥ずかしいです…」

 

兵藤とギャスパー君だ。兵藤の奴は最初は俺達と一緒に入っていたのだが、女装趣味からか裸の付き合いを躊躇して入口で何をすることなくただうろうろしているだけのギャスパー君に業を煮やして説得しに行ったのだ。

 

「やっと来たか」

 

ややうんざりげな先生の呟き。

あいつらが近づくにつれて沸き立ち充満する湯気で隠れていた二人の姿が露わになる。

 

うをう、ギャスパー君胸までバスタオルで隠してるな。女装趣味もここまでくると筋金入りだな。

 

「イッセー先輩、僕をそんな目で見ていたんですか…?」

 

「だぁーやめろ!俺を変な世界に引き込むなー!」

 

兵藤の心からの叫び、なんと豪快にもギャスパー君を抱え上げそのまま勢いよく湯船に放り投げ…た!?

 

ザッパァァァン!!

 

落下した地点に大きく音と飛沫が立つ。

 

「あちちちち!!イッセー先輩酷いですぅ!!」

 

すぐさま湯からギャスパー君が飛び出す。

 

…今のは流石に可哀そうかな。あとでフォローするか。

 

兵藤も後を追うように飛び込むように湯船に飛び込んだ。

 

「お前元気だなぁ、俺ははしゃぐ気力もないよ」

 

怪我が治ってもまだ体がだるくてかなわん。早く元気になりたい。

 

「お前はゆっくりして今日の疲れを癒せばいいんだよ、明日から修行だぞ?お前が疲れを落とせない間にお前を追い抜くからな!」

 

「随分と気合入ってるな」

 

「ああ。俺はこの修行できちんと禁手に至って…皆の役に立ちたいんだ。ライザー戦のようなことになるのは二度とごめんだ」

 

その時俺はあいつの目に熱く、固い決意が宿っているのが見えた。

 

ひたむきなお前ならきっと至れるさ。お前はルシファーの血を引いてかつ白龍皇のヴァーリをあと一歩のところまで追いつめた男だろう?お前ならきっとできる。

 

「そうだイッセー、こっち来い」

 

いきなり話に割り込むアザゼル先生がひょいひょいと手で合図を出す。

 

「お前は…リアスの胸を揉んだことがあるか?」

 

「はいっ!この手でしっかりと!!」

 

なんつー会話をしているんだこの二人は。

 

「なら乳首を押したことは?」

 

「ッ!!?」

 

兵藤にまるで雷に打たれたかのような衝撃が走る。まあ実際俺、雷に打たれたけど。

 

「そ、それは…ないです」

 

「なら押して見ろ、あれはな…ブザーだ」

 

「ブザー…ですか?」

 

「ああ…ここから先はお前の目と耳で確かめろ。きっとわかる」

 

何てあほな会話をしてるんだ、これは二人の世界に入ったな。巻き込まれないようにそーっと離れるか…。

ゆっくりと気取られないようにアザゼル先生たちから離れる。

 

「悠、お前はどうだ?ゼノヴィアに迫られたことがあったらしいじゃないか」

 

「えっ!?」

 

突然背にかけられた声にビクンとなって動きが止まった。堕天使総督の目は欺けなかったか!てか誰にそんなこと聞いたんだ!?

 

「い、いやありませんよ!?何もそんな卑しいことなんて…」

 

上ずり気味な声で返す。いやー、あの後も何度か迫られかけたことはあったけどノータッチ…何もしてないからな?

 

しかし俺の言を信じないアザゼル先生が追及する。

 

「嘘つけ!年頃の男女が一つ屋根の下で暮らしたらやることなんて一つしかねえだろ!」

 

「お前ゼノヴィアのあの調子なら絶対卒業まで持っていけるだろ!男なら獣になれ!」

 

兵藤まで…この野郎!

 

「うるせぇ!やってないつったらやってないんだよ!!それになぁ!そういうのはちゃんとした段階というものをだな…」

 

もし一回でできてしまったりしたら…そんなことになったら俺責任取り切れないぞ?向こうはそれでもOKそうだけど。

 

それでも…男だからちゃんとした恋愛とかそういうのをしてみたいって気がある。でも前世はそういうのに全く縁のない学校生活だったからまるで自信がない。

 

「…お前案外ピュアなとこもあるのか…これは意外だな」

 

アザゼル先生が意外そうな目で見てくる。案外ってなんだ、俺って普段どういうイメージを持たれてるの?

 

「じゃあお前もついでに聞いてけ、聞いて損はないさ」

 

「…わかりましたよ」

 

渋々アザゼル先生の方に寄る。

 

「いいかお前らよく聞け!おっぱいにはな…無限の可能性があるんだよ!!」

 

「無限の…可能性!」

 

アザゼル先生の言葉に兵藤は瞠目する。

 

女性の胸の可能性は…無限大だ!!

 

…ごめんなさい、二人のテンションにのせられて悪乗りが過ぎました。

 

「ああそうだ!それは『無限』と称されるオーフィスを超える!俺はそれにはまって堕ちたが…一点の後悔もないッ!!お前らも女性の胸に…無限の可能性に触れてみろ!!そこに世界の真理はある!!」

 

勢いよく立ち上がって力説する先生。その一言一句、動作にすら熱い魂が込められていた。

 

もうやだこの人。明日からの修行、この人の指示に従って大丈夫なのだろうか。

本気で心配になってきた。

 

隣で兵藤が立ち上がる。

その表情に浮かぶは感動、その頬につたうは涙。

 

「先生…俺、やります!!」

 

〔Boost!〕

 

こいつ感動してやがる!!てか温泉で神器を起動して何をする気だ!?

 

「耳に『譲渡』して向こうの女湯の声を聞く」

 

俺の心を読んだかのように的確に答えやがった。お前、なんて凛々しい声で最低なことを言うんだ…。

 

ちなみに女湯はこの男湯と壁を隔てた向こう側にある。たまに向こうの会話も聞こえたりはするが湯の流れる音にかき消されてほぼ聞こえないようなものになっている。

 

「ほう、覗きか。だがそれじゃあ三流もいいところだ」

 

「じゃ、じゃあどうすればいいんですか!?」

 

「男なら…」

 

アザゼル先生は素早く腕を掴んで…。

 

「混浴さ!!」

 

兵藤を高く放り投げた。

 

…えっ。

 

宙を舞う兵藤は綺麗に放物線を描いて男湯と女湯を隔てる壁を越え、数秒後にザッパァァァンという飛沫の音が聞こえた。

 

「兵藤…お前はいい奴だったよ…」

 

数分後には覗きに厳しい塔城さんに見るに堪えないレベルでぼっこぼこにされて送り返されるんだろうな。

 

壁の向こうにいるあいつに向けて合掌した時。

 

『折角だ、悠!』

 

「!?」

 

こっちにもはっきり聞こえるくらいの声量でのゼノヴィアの声が聞こえた。

 

俺か!?なんか嫌な予感しかしないが…。

 

『お前もこっちにこい!』

 

「いや行かねえよ!!」

 

渾身のツッコミが、広い浴場にこだました。




おまけ サブキャラの集い in cafe パート3

「なんというか、珍しい面子ね」

コーヒーカップをテーブルに置く綾瀬が卓を囲む面々を見て言う。
この場に集まったのは飛鳥、綾瀬、藍華、元浜、松田の5人だ。

普段の学校ではそれに加えて一誠、悠、アーシア、ゼノヴィアも加えて行動している場面が多い。

眼鏡をくいっと上げながら元浜が言う。

「普段はオカ研組もいるからな」

「でもやっぱりあいつらがいないと物足りない気もするな…」

「…ところで、オカ研組は何をしているの?」

話を切り出したのは藍華。周りは知らないと言わんばかりに首を横に振る。

「僕もよう知らんわ。…けど、悠くんから『地獄に行ってくる』なんてメールだけは来たなぁ」

自身のスマホを操作してそのメールを見せた。メールに書かれた言葉はたったその一言のみである。

「そういえば」と話を切り出したのは綾瀬だった。

「よく考えてみたら私たちってあまりオカルト研究部の活動内容を知らないわよね、去年の学園祭で出し物をしていたけど」

「確かにそうだな!思えば学園の人気者が集うってところばかりに気がいってたな」

皆もうむうむと頷く。

「せやな~、いっそ今度本人に訊いてみいひんか?」

「ほう、それのついでに憧れのリアスお姉さま方とお近づきになる方法も…!」

裏心ましましのにやついた表情を浮かべる元浜。

「あんたたちがお近づきになったらさらに周りの目が厳しくなりそうだからやめといた方がいいわ」

「そうね、こういうのは遠巻きに見るからこそいいのよ」

それを藍華と綾瀬が諫める。

「むう…二人がそこまで言うなら仕方ないな…」

渋々ながら引っ込む元浜。

飛鳥が更なる話題を切り出す。

「せや、折角やから本人がいない今だからこそできる話っちゅうもんをしてみいひんか?」

「お。面白そうじゃない」

「んじゃ、誰から始める?」

「まずはだな…」

楽し気な雰囲気の中、5人が話題に選んだのは…。





実はポラリスの方をオカ研より優先してしまっている悠。後に痛い目を見る原因になります。

アンドロマリウスが断絶している設定は原作者ブログの裏設定より。アンドロマリウスは七十二柱最下位の悪魔です。

D×Dって亜種の禁手に至った奴がほとんどだから逆に正規の禁手がどんな能力になるのか気になる。忘れがちだけどイッセーやヴァーリも一応正規の禁手に目覚めてから極覇龍や真・女王という異例の進化を遂げてますからね。

予告します、次回はゼノヴィアと悠のベッドシーンから始まります(ニヤリ)。

次回、「修行開始」

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