ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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今年最後の更新です。

気が向いたらオリジナル御使い募集でもやってみようかな…。

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第46話 「第一印象は大事」

「ついに…ついに戻ってきたァー!!」

 

やっとの思いで着いたグレモリー本邸の前で叫ぶ。

 

20日間が経ち、俺は山での修行を無事に終えることができた。

 

アザゼル先生が当初課していたものをあらかた習得することができた。ついさっきの別れの際、オルトール先生からはすごく褒められた。『よくぞ耐え抜き、自分のものにした』と、お墨付きまでもらった。俺もあの先生には感謝と尊敬の念しかない。

 

それにしてもこの20日間、本当に厳しかったな。一回利き腕が酷い筋肉痛になって数日日常生活に支障をきたすことなんてあったし。

 

…まあ修行の話はさておきだ。

 

「さて、あいつらはどこだ?」

 

既に帰ってきているだろう兵藤たちを探さないと。

門を通り、敷地内を歩き始める。

 

それから程なくしてだった。

 

「おーい、紀伊国!」

 

俺の存在に気付いたらしく兵藤の声が聞こえた。

早速声が聞こえた方へと駆け出す。

 

やがて兵藤だけでなく木場と初めて会った時と同じシスター服のアルジェントさんの姿が見えた。

仲間との再会に自然と頬が緩む。

 

近づくにつれて走るスピードを落とし、仲間たちと合流する。

 

「久しぶりだな、20日ぶりか」

 

木場と兵藤、最後に会った時と比べるとかなり筋肉がついたな。特に兵藤は逞しさすら感じるほどだ。

木場はそこまで筋肉がついたようには見えないが相当鍛えたはずだ。

 

「最後に来たのはお前だな!」

 

「君も逞しくなったね」

 

俺の登場に喜ぶ木場と兵藤。

 

しかしだ、こいつらと一緒にいる全身に包帯を巻いたこの人は一体?

包帯は土に汚れ、所々血が滲んでいる。

 

そう思っていると、俺の怪訝な視線に気づいたようだ。

 

「やあ、久しぶりだね」

 

手を軽く振って挨拶してきた。この声からしてゼノヴィアだな。

 

…でもこのまま返すのは面白くないからちょっとふざけてみるか。

 

「み、ミイラ女…!?」

 

「私だ!ゼノヴィアだ!!イッセーにも同じことを言われたぞ!」

 

そういってミイラは自分の顔に巻かれた包帯を無理やり剥いだ。

 

包帯の下にあったのは顔中に切り傷やあざのある久しぶりに見た愉快な同居人、ゼノヴィアの顔だった。

 

顔だけでなく全身に巻いた包帯の下にも似たような傷や痣があるのだろう。

 

「ゼノヴィアか、お前も随分大変だったんだな…」

 

「ああ、デュランダルの膨大なパワーの制御に失敗して何度死にかけたことか…」

 

ため息交じりに語るゼノヴィア。

切り傷が残っているのはデュランダルの制御に失敗して聖なる力が傷に残ってしまったからだろうか。

 

しかし今度は顔を明るくした。

 

「しかし、随分逞しくなったな。見違えたぞ」

 

「男子三日会わざれば刮目して見よ、というだろ」

 

それは俺だけでなく兵藤と木場もだがな。…そう言えば天王寺や松田、元浜はなにをしているだろうか。

 

「得意のことわざだな、メモを…って本邸に置き忘れたんだった」

 

「外出組は揃ったようね」

 

会話の途中、聞きなれた声が聞こえた。

 

城門から現れ、悠然と歩み寄るその声の主は我らが部長さんだ。

 

「部長!」

 

変わらないその姿を見て兵藤が心底嬉しそうな表情をし、部長さんの下へ走り出す。

部長さんも仲間との再会に目を細くする。

 

「お帰りなさい、イッセー。随分逞しくなったわね」

 

再会を喜び、しっかりと確かめるようにさらりと兵藤の頬を撫でた。

 

「さあ、本邸で報告会をしましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本邸の兵藤の部屋で、20日ぶりにオカルト研究部のメンバー全員が顔を合わせた。

再開に破顔し、厳しい修行を思い出話にし、それから俺達はそれぞれの修行の成果について報告を始めた。

 

「何でなんだよォォォォォ!!」

 

涙交じりの兵藤の絶叫が優美な雰囲気漂う室内に響く。

 

「何で俺だけ原始的な生活してるのォ!?俺なんて毎日オッサンに追いかけられて、兎を狩ったりイノシシを捕まえたり、水は雨水を沸騰消毒させて、挙句の果てに禁手に至れず…ああああああああ!」

 

20日間の修行、山でタンニーンさんに追いかけられまくった兵藤だが禁手に至れずじまいだった。

体力や筋力も相当付いたことを喜んではいたが、その点に関してはかなり気にしているようだ。

 

それにしても体力筋力だけじゃなく随分本格的なサバイバルスキルまで身につけたんだな。アザゼル先生もこれは想定外だったらしく、呆れ半分で驚いていた。

 

「どうしてなんだ…どうして…」

 

「かわいそうなイッセー…後で私がたっぷり慰めてあげるわね」

 

「うう…部長…」

 

見慣れたやり取りが修行から帰ってきたのだという実感をもたらす。

 

そこへ先生の咳払い。

 

「今更嘆いても仕方ねえよ、一応その可能性もあると踏んでいた。龍王と修行すれば至れるんじゃないかと思ってたんだがな…あと一か月あれば」

 

「流石にあれをもう一か月は可哀そうかと」

 

やったのは追いかけっこだけじゃないとは言っても本人が20日でああなるものをもう一か月はダメだろ。

 

「さて、ざっと目標を100%達成できたのは木場、アーシア、リアス、そして悠。50%は朱乃、ギャスパー、ゼノヴィア。残念ながら0はイッセーと…小猫か」

 

この20日間で当初の目的を果たせなかったのは塔城さんも同じだ。どうやら自分の猫又の力を恐れているらしく向き合うことなくひたすらトレーニングに励んだようだ。

 

「すみません…」

 

申し訳なさそうに俯く兵藤。それは塔城さんも同様だ。

頭をぽりぽりかきながらアザゼル先生が言う。

 

「そう悲観するな。達成できなかったとしてもお前らの努力は無駄じゃねえよ。目標を達成することだけが強くなることじゃない、そういう意味ではお前も小猫も十分やったさ」

 

龍王と20日間追いかけっこで十分じゃなかったらそれはそれで超スパルタだな。

 

「報告会はこの辺で終わりにするわね、皆明日のパーティーに備えましょう」

 

部長さんの言葉で、久しぶりに全員の顔が揃った報告会は終わった。

 

 

 

 

 

 

次の朝、やはり冷たい床で寝ていた。

 

また蹴り落とされたんだな。でもなんだか、帰って来たって感じがして嬉しかった。

 

 

 

 

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夕刻、俺達オカルト研究部と生徒会がいるのは空だ。

厳密に言えば、空を飛ぶタンニーンさんの背だが。

 

前に乗ったキャプテンゴーストよりも早く、流れるように周囲の景色は移り行く。

これだけの速さだが背にしっかりと風よけの結界が張ってあるのでその辺は気にする必要はなく、存分に雄大な景色を楽しめる。

 

何故俺がタンニーンさんの背に乗っているかというと、先日修行を終えた兵藤を本邸に送った際、タンニーンさんの方からパーティーに送ろうという申し出があったからだ。

 

生徒会ことシトリー眷属も一緒にいるのは当初部長さんは会長さんと一緒に会場入りする予定だったから。

 

タンニーンさんの背に乗っているのは俺と兵藤、匙、部長さんと会長さん。

タンニーンさんの周囲を飛ぶ大小色様々な龍はタンニーンさんの眷属。その背には他のオカ研や生徒会メンバーが。

 

龍の背に乗って飛ぶ。まさにファンタジーの王道中の王道といった事柄だ。しかもそのドラゴンは龍王と来た。

全国のファンタジー好きに自慢できる夢のような体験の中に今、俺はいる。

 

このまま景色を楽しむのもいいがそれだと面白くないので俺と同じ様に近くで景色を眺めるあいつに話しかけよう。

 

「よっ、匙」

 

匙元士郎。やはり修行を得て大きく成長したように見える彼が景色から俺の方へ意識を向ける。

 

「紀伊国か、お前も修行したんだってな」

 

「ああ、悪魔領にいるのに堕天使と過ごした時間の方が長かったな」

 

「俺も似たような感じだな」

 

「…そういえばお前らはシェムハザさんとラファエルさんがコーチに付いたんだっけか」

 

「おう、特に『僧侶』の花戒と草下がラファエルさん直々に絞られたみたいでな…相当厳しかったのか帰って早々にうれし泣きしてたぜ」

 

そう言って匙は隣を飛ぶ黄色い鱗の龍へ視線を向ける。

 

その背で、同じ『僧侶』同士会話を弾ませるギャスパー君とアルジェントさん、そして柔らかな白髪を伸ばした静かな2年の花戒さんと茶髪で明るい雰囲気を放つ草下さんの姿があった。

 

「強くなったのはお前らだけじゃねえんだ、今度の試合楽しみにしてくれよな」

 

「参加できない分、しっかり試合を見せてもらうかな」

 

四大セラフのラファエルさんとグリゴリ副総督のシェムハザさんが指導したシトリー眷属。こちらが如何に聖魔剣や赤龍帝があるとしても一筋縄ではいかない試合になりそうだ。

 

「ところで会合の話は聞いたぞ、お前も度胸あるなぁ」

 

次に俺が振ったのは若手悪魔たちが集まった会合の話。匙はフッと笑って返した。

 

「度胸じゃねえよ。俺は会長の夢を笑われたことが許せなくてカッとなっただけさ」

 

一拍間を開け、匙は真剣でいて、熱に溢れた表情を見せた。

 

「俺は会長が建てた学校で先生になりたいんだ。身分も能力の差もなく、レーティングゲームを学びたいと願う子供たちのための学校。でも今は実現するには壁が多すぎる」

 

そして部長さんやタンニーンさんと話す兵藤を一瞥した。

 

「その壁をぶち壊すために俺は赤龍帝や聖魔剣のいるグレモリー眷属に勝って、俺達が本気で夢を目指しているってことをあの上役たちに証明しなくちゃならないんだ」

 

こいつの目は本気の目だ。確かな夢を抱き、本気でそれを実現しようとする奴の目。それを今まで見るたびにホント凄いやと感心する。

 

「はは、若者たちは夢に溢れているな」

 

俺達の会話に入ってきたのはタンニーンさんだ。愉快な笑いを上げているがそこに嘲笑の色は一切ない。

 

「そこの人間も、夢や目標があるのか?」

 

俺に話を振るのか!俺の目標か…うーん。

 

「あー…俺は大切な人をしっかり守り抜くことですかね」

 

ポラリスさんの叱咤を受けて立ち上がった俺の譲れない思い、願い。

あの時俺は二度と凛を、兵藤を失った時のような悲しさ、苦しさ、喪失感を味わわないために誓った。

 

だがタンニーンさんは違うと突き返す。

 

「それはお前の行動の指針だ、俺が訊いているのはお前の将来的な夢、なりたいもののことを言っている」

 

「俺がなりたいもの…将来の夢…」

 

顎に手を当て、うーんと唸る。

 

…あれ、そういえば俺って兵藤のハーレム王や匙の先生になるみたいな将来の夢を全く持ってないな。

 

「お、何かあるか?」

 

「…いや、俺はお前みたいな大層な夢はないな」

 

考えてみれば見る程、自分が将来について何も考えていないことに気づかされる。もう高校二年生、進路のことについても考えだす時期だというのに。

 

「ないならないでいい、だがこの世界ではいつ死んでもおかしくない。考えられるうち、決められるうちに持っておいた方がいい」

 

そうだな、これから『禍の団』との戦いに駆り出されることは増えるだろう。無事に切り抜けられればいい確実にできる保証はない。だからこそ、今ある日常の時間を大事にしなければならない。

 

…この時俺は初めて気づいてしまった。俺は『仲間を守る』という今のことだけを考えていて将来と言う未来については全く考えもしなかったことに。それこそが兵藤と匙との最大の差だったのだ。

 

 

 

 

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タンニーンさんに乗ってやってきたパーティー会場は魔王領のとある高級ホテルの最上階、その大フロアにある。

 

室内を照らす豪華絢爛なシャンデリア、優美なタキシードやドレスを着こなす紳士淑女、テーブルに並んだ食欲をそそる豪勢な料理。

 

優雅ながらも賑やかなパーティー会場の喧騒に少し疲れた黒タキシード姿の俺は一人、メイン会場である大部屋の出口となる扉に歩みを進めていた。

 

このパーティーは若手悪魔のために魔王達が用意した物。だが部長さんに言わせれば若手悪魔たちの軽い交流会のようなもので、本命は部長さん達次期当主ではなくその父である現当主のお楽しみパーティーである。

 

とはいってもホテル周辺には軍が駐留している施設も存在し、会場内の警備も万全。昨今のテロでブイブイ言わせている『禍の団』対策はバッチリとのことだが…。

 

アザゼル先生やサーゼクスさん達は首脳陣の会談があるので遅れてくるとのこと。アザゼル先生はこういう催しに真っ先に行きそうなタイプだけど流石に会談の方が大事だよね。

 

…え、なんで俺がいるかだって?暇だからに決まっているだろう。そもそも6家の集まった会合ならまだしも、お楽しみパーティーだの軽い交流会と呼ばれる程度の緩いものだから部長さんやそのお父さんに「行きたい」と言ったらあっさり話が通ったのだ。

 

ちなみに俺以外の他の面子はそれぞれ色んな人に絡まれている。

 

部長さんであればそもそも魔王の妹という有名人なので将来を見越して媚を売る気か、有名人に顔を覚えてもらいたいと思っているのかはわからないがとにかく多くの人に話しかけられる。

 

そんな部長さんは朱乃さんと兵藤を連れて挨拶回りをしている。何故兵藤もというとそれは言うまでもなくあいつが赤龍帝だからだ。伝説のドラゴンが悪魔側に付いたということは悪魔界でニュースになっており、パーティーという機会を利用して人目拝みたいという人もいるんだそうだ。

 

木場はたくさん女性悪魔に話しかけられていた。イケメンのあいつは学校だろうと冥界だろうとこういうことに縁があるみたいだな。

 

ゼノヴィアはアルジェントさんやギャスパー君と一緒に行動している。ゼノヴィアは宅に並んだ料理にがっつき、アルジェントさんは時折話しかけてきた悪魔に柔和な笑みを浮かべて丁寧に対応して見せる。

 

会場中に人がいるというのに、ギャスパー君はややおどおどしてはいたが段ボールを求めることはなかった。

これも修行の成果か。実戦でなくこういう所で修行の成果が見られるとは思わなかった。

 

…俺?俺はどうだったかだって?

 

ほぼ『お前誰?』みたいな目で周りから見られてたよ。『なんで人間がここに?』とか『なんか地味だよね』なんてこそこそ言われて泣きそうだった。ショックで俺がギャスパー君と入れ替わるように段ボール生活が始まりそう。

 

極まれに『もしかして推進大使の人ですか?』と聞かれて握手を求められたりしてそれが唯一の救いだった。

認知度とかネームバリューってマジで大事なんだなとつくづく思ったな。

 

そう思いながら会場のホールを出て扉のすぐ左を曲がろうとした時だった。

曲がり角から歩いてくる誰かに気付かず、そのまま軽くぶつかってしまう。

 

「きゃっ」

 

「おっと、すいません…!?」

 

軽い謝罪の言葉を言おうと相手の方を向いた。

 

心を奪われるほどの美貌。見覚えのある形状をした荘厳な金と緑色のローブに身を包んだ美女。

額に淡いピンク色の輝きを放つ金のサークレットをつけ、腰まで伸びた煌めくブロンドの髪が目を引く。

 

どこか柔和で輝くような雰囲気を放つその人と目が合った。

 

美女は俺の謝罪に優しく微笑んだ。

 

「いえいえ、お気になさらず」

 

…なんかこの人、見覚えがあるな。確か修行中だったか…。

それにこの人のローブがすごいミカエルさんが着ていたものに似てる、同じ所属か?そしてこの如何にもすごい人ですよー、大物ですよーな雰囲気。

 

そこから俺は一つの結論に達した。

 

「…あのー、もしかしてセラフの方ですか?」

 

俺は恐る恐る訊ねた。

ミカエルさんと同格と言ったら天界で言えばセラフしかないだろう。

 

「ええ」

 

美女は頷いて肯定の意を示した。

 

やっぱりそうか…!もしかして和平や禍の団絡みでの勢力間の会談で来たのか?アザゼル先生が最近行ってたようだし。

 

俺の後ろ、パーティー会場から出口に立つこちらに近づく足音。

 

「悠、私とい…」

 

せわしなく俺の背後から現れたのは青いドレスを身に纏うゼノヴィアだ。

彼女の目が俺からセラフ?に移った瞬間。

 

「なっ!!?」

 

驚愕を露わにし、突然俺の頭を掴んで無理やり下げさせた。

 

「お前いきなり何を…!」

 

「この人はラファエル様だぞ!!」

 

切羽詰まった表情で膝を突き、俺と同様に首を深々と垂れる彼女は言った。

 

…えっ?

 

「ええええええっ!!?」

 

この人がラファエル!?ミカエルさんと並ぶセラフの中でも上の存在、四大セラフのか!?生徒会のコーチをしたっていう!?

 

あ、思い出した!授業で習った各勢力首脳陣の写真に載ってた!

 

「ああああ何かごめんなさいぃぃ!!」

 

「ふふっ、そう固くしなくても大丈夫ですよ」

 

またもラファエルさんは朗らかに笑い、俺達は応じて頭を上げる。

 

「紀伊国悠さんですね、噂は聞いてます。それに戦士ゼノヴィアも」

 

「ラファエル様に覚えていただけるとは光栄です」

 

信仰も相まってゼノヴィアは今の大ボスたる魔王よりもセラフを敬っている。サーゼクスさんと初対面の時はここまでの反応はしなかったしな。

 

「今日はパーティーに招待されて来たのです。一足早く到着したので一人会場を回りたいと思った次第ですよ」

 

「護衛とかいなくて大丈夫なんですか?」

 

「護衛は和平会談の一件でシビアになっていましてね。護衛がなくとも腕っぷしには自信がありますし、『禍の団』が攻めてきたらまとめて結界に閉じ込めてあげますよ」

 

ラファエルさんは拳を握って明るく笑う。

 

アザゼル先生が言って通りに結界が得意なんだな。この世界のお偉いさんって神だとか魔王だとか腕っぷしが強い人は多いから護衛っているのか?と真剣に思うな。

 

「ラファエル様は強気ですね…」

 

「『第一印象は大事だから最初に軽くつかんでおきなさい』とウリエルがよく言っているので。彼は初対面の部下には必ずたこ焼きを振る舞っていますよ」

 

「「四大セラフがたこ焼き!?」」

 

なんだそれ!?ウリエルって授業で顔写真を見た時はこいつ凄い真面目で厳しいんだろうなみたいなオーラがあったけどそんな一面があるのか!?たこ焼きを振る舞う四大セラフって想像しただけでもシュールすぎるぞオイ!

 

「ええ…青と青、お似合いですね。では」

 

それだけ言い残してラファエルさんは向こうの通路へと去って行く。

 

まさかの大物との遭遇、その緊張と驚愕の余韻に浸った。

 

「まさかラファエル様に会えるなんて…主に感謝を」

 

隣でゼノヴィアは両手を合わせ、祈る。

 

何というかな…なんだろう、この感覚は…。

 

「うーん…」

 

「どうした?」

 

「いや、何て言うか…俺どこかでラファエルさんに会ってるような…誰かに似てるような…」

 

話してるときは緊張と驚きであまり分からなかったが、冷静になってみると初めて会った気がしない。過去に何度もあったような気がしてならないんだが。しかもそれはつい最近にも…。

 

「悠、あれは?」

 

唸る際中、ゼノヴィアが窓を指さした。

 

その時、窓から見える木々の間を走る影が見えた。白髪を揺らすあの姿は…。

 

「塔城さん…?」

 

どうも急いでるように見えたが、どうしたんだ?

 

それから1分ほどして後を追うように走るドレス姿の部長さんとタキシード姿の兵藤が見えた。

 

「…二人ともどうしたんだ?」

 

気になる俺はロビン、ビリーザキッド、ベンケイ眼魂を起動する。するとどこからともなく対応するガジェット達が現れた。

 

「お前ら、あいつらを追ってくれるか?」

 

コンドルデンワーたちはうんと頷き廊下の向こうへと飛び去り、クモランタンは廊下の壁を這って進む。

 

なにか良からぬことが起きる予感がする。

 

その考え通りに突然、すぐ近くのドアから差し込む会場の明かりが消えた。

 

「悠」

 

「ああ」

 

すぐさま頷き、さっき出たばかりの会場に戻る。

辺りは真っ暗で何も見えない。…あ、悪魔は暗視できるからあまり意味ないのか。

 

「何だ、急に?」

 

「演出かしら?」

 

しかしながら会場中から困惑の声は上がっている。

 

その時、カッという音ともに会場のメインステージの中央が照らされる。

魔王達が到着した時のために使われる予定で誰も足を踏み入れなかったそこにただ一人、会場にいる俺たちに向かって仰々しく両腕を大きく広げる男が一人。

 

「ご機嫌よう、会場にお集まりの皆様方」

 

大仰な演出も相まって会場にいる誰もが奴に注目した。

 

忘れるはずもない、俺の屈辱の記憶。

 

「あいつ…!!」

 

アルギスだ。こんな時に出てきやがって…!!

 

奴は俺の思いをつゆ知らず、薄く笑い話を続ける。

 

「私は『禍の団』旧魔王派所属、アルギス・アンドロマリウスと言う者です。以後、お見知り置きを」

 

そういってアルギスは恭しく一礼する。

 

「『禍の団』だって!?」

 

「それにアンドロマリウスって…!」

 

会場はざわめき始める。大袈裟な演出、そして和平会談を襲撃し、最近のニュースの的になっているテロ組織『禍の団』の名はこの会場全体を動揺させるのに十分すぎるほどの効果を持っていた。

 

「紀伊国君!」

 

俺とゼノヴィアの下に木場と朱乃さん、さらにアルジェントさんとギャスパー君が駆け寄る。

 

「彼が紀伊国君の言ってた…!」

 

「はい、奴です」

 

俺の命を狙い、先の戦いでガンマイザーを操り眼魂を奪い去った者。

 

やっぱりあいつも『禍の団』だったのか!しかもこんなに人の集まる場所を狙ってくるとは、魔王も来るし最近のテロ騒ぎで警備は厳重だろうになんで警備の連中は気付かなかったんだ!?

 

「此度は優雅で賑やかなパーティー会場をさらに沸かせるべく、さらなる趣向をご用意いたしました」

 

アルギスは高く腕を掲げ、パチンと大きく指を鳴らした。

 

すると同時に石造りの床、壁、そして天井の壁が所々大きく隆起し始める。

 

「どうなってるの…?」

 

近くの女性が状況に着いて行けず言葉を漏らす。

 

石造りの隆起はやがて人型へと変じていった。角の生えた頭、背に小さな白い翼の生えた胴体、筋肉粒々としてはおらずごく普通の適度な筋肉のつき、細身のシルエットの3mはある人形と言うべきものが続々と出現していく。

 

異なる点はと言えば得物だろう。剣、鉈、盾、槍などなどそれぞれが違う武器を構えている。

 

天井から出でたものは落下し、会場に並んだテーブルと料理の盛られた皿を落下の衝撃や巨体を以て破壊せしめた。

 

出現当初は這うように動いていた人形は次第にゆっくりと立ち上がり始めた。見上げるほどの大きさだ。この会場にいる数は20体前後か。

 

「なんだこいつら…!?」

 

突如として出現したそれらに会場はさらなる混乱の様相を呈し始める。

 

「ハハハッ!…それでは皆さん、ここは冥界ですが地獄を楽しんでいってくださいませ」

 

その中でただ一人、混乱の首謀者だけは慇懃に笑った。




ギリギリになりましたがなんとか更新することが出来ました。
来年もしっかり続けていきたいと思います。

それではよいお年を!

次回、「襲撃、そして再会」

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