ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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あけましておめでとうございます!今年もよろしくお願いしますということで新年一発目の更新です!

それと前話「第一印象は大事」でパーティーシーンやラファエルのセリフを一部書き忘れていたので追加しました。あいつに触れています。

大変長らくお待たせしました、『奴』の登場です。

Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は…
S.スペクター
1.ムサシ
3.ロビン
5.ビリーザキッド
7.ベンケイ
11.ツタンカーメン
13.フーディーニ


第47話 「襲撃、そして再会」

〈BGM:アンデッド (仮面ライダー剣)〉

 

「ぎゃあ!!」

 

「ああああ足があああ!!」

 

会場は死と混乱の嵐に飲まれていた。

 

突如としてホールに現れた人形たちがその巨躯に反して俊敏かつ身軽に動き、各々が持つ得物で会場に集まった悪魔たちに殺戮を繰り出す。

 

鮮血が舞い、首や手足が飛び、悲鳴と怒号、そして絶叫が飛び交う。

 

「なんて硬さだ!」

 

「そんな、私の魔力が…」

 

混乱からいち早く立ち直った悪魔たちが応戦するが得意の魔力はその俊敏な動作で躱され、お返しにと剣戟を受ける。

 

魔力の直撃を受ける人形もいるが、あまりダメージは通っていないようだ。せいぜい衝撃でぐらつく程度。魔力の耐性もある程度備えているのか?ここに集まっているのはほとんど悪魔だし、それと戦わせる以上は当然メタははるか。

 

オルトール先生の言う通り、上級悪魔や貴族の出の悪魔は基本的に自分の強力な魔力に頼った戦いをする。彼らは自身の力に自信を持っているが、その自信は実戦を経験していないがゆえに脆い。結果、今のように得意の魔力が効かないという無慈悲な現実を突きつけられ、中には心を折られてしまう者もいる。

 

その類ではない眷属悪魔たちが剣や斧、槍を使って攻撃するが頑丈なボディに傷一つつかない。その状況に皆が焦りを見せている。

 

「おい、何体か違うのも混ざっているぞ」

 

ゼノヴィアがある方向を指さす。釣られてその方を見ると人形たちに混ざって雷条を飛ばしたり、太い岩石の棘を飛ばす怪人たちの姿があった。人形と同じ人型ではあるがそのシルエットや体色は大きく異なる。

 

「ガンマイザーまで…!」

 

確認できる限りこの場にいるのは2体。以前戦ったクライメットと、大地を操る力を持つプラネット。

 

アルギスがいる以上、当然いるか!奪われた眼魂は二つ、ガンマイザーを見るにアルギスが所持している眼魂は3つ。5つ以上は既に向こうの手に渡っていると考えていいだろう。

 

「ガンマイザー…アンドロマリウスが操っていたという怪人だね」

 

「あのアンドロマリウスの悪魔は逃げたようですわ、混乱に乗じて上手くやったようですわね」

 

朱乃さんの言葉を受け、奴が立っていたステージの方に目をやる。そこに奴の姿はなかった。

好き放題やって逃げる時は早いな、くそ!

 

…だが、あれほど俺を狙っていたあいつが人形やガンマイザー任せにして俺に目もくれず自分は逃亡というのが引っかかる。まだ何か他に策でもあるのか?

 

気になることはあるがこれだけは言える。

 

「…敵の狙いは恐らく俺達だ、サーゼクスさん達じゃない」

 

「どうしてだい?」

 

「まだサーゼクスさん達首脳陣が到着してないことが証拠だ。奴は以前から俺を狙っている、実力者ぞろいの首脳陣が来たらそれを達成しにくいと見たんだろう…それに、あいつらが『禍の団』ってこと自体出まかせの可能性もあるな」

 

「確かに、現魔王憎しの旧魔王派なら真っ先に魔王様たちを狙うはずだからね。事情を知っている僕たちはともかく他の人は彼の話を鵜呑みにしてしまう」

 

すると会話に割って入るようにコブラケータイの着信音が鳴りだした。

 

「こんな時に…!」

 

こっちがテロに巻き込まれてる状況だというのに電話をかけるとかどういうつもりだよ…!

 

苛立ちながらも画面を開くと、電話をかけてきた相手の名前が表示された。

 

匙だ。シトリー眷属もこの会場にいるけどまさか…!

 

ボタンを押して通話する。

 

「匙、こっちはテロを受けてる真っ最中になんだ!?」

 

こっちが苛立ち交じりに出ると、向こうから切羽詰まった声が返ってきた。

 

『やっぱお前らもか!下の階の別のホールにいる俺たちも攻撃を受けてる!』

 

「マジか…!」

 

通話の音声に爆音と悲鳴が混じって聞こえてくる。向こうも相当暴れてるみたいだ。

 

『なんか3mはあるでかい人形みたいな奴と雷を出す奴だ!人形の方はこっちのホールだけじゃなく会場中に沸いてやがる!ガァッ!!』

 

「匙!?」

 

匙の苦痛の叫びと同時に通話が切れた。雷を出せる奴…ガンマイザーのことか。ガンマイザーの中で雷攻撃を放てる個体は2体。今このホール内にいるグリム魂から生み出された天空の化身、ガンマイザークライメットとエジソン魂から生み出される電気を司るガンマイザーエレクトリック。これで向こうに渡った眼魂は6個以上は確定だな。

 

ガンマイザーもいるってことは生徒会の助けは見込めないか…!

 

こんな危機的状況に居合わせない3人の顔を思い出した。

 

「くそ、こんな時に部長さんと兵藤は…!」

 

「部長がどうかしたのかい!?」

 

木場が怪訝な顔を浮かべて訊く。この様子だと他の皆も知らないようだ。部長さん達は何も言わずに突然出ていったのか。

 

「さっき兵藤と一緒に塔城さんを追いかけていって外に出たのを見た」

 

「小猫ちゃんを?」

 

「どういうわけかはしらな…」

 

俺が喋っている最中、会話に割って入るように大きな影が俺達を覆う。

 

それにいち早く反応したのはゼノヴィアと朱乃さん。すかさずゼノヴィアが亜空間からデュランダルを召喚する。

 

「デュランダルッ!!」

 

「雷よ!」

 

デュランダルの鋭利かつ強力な聖なる力を帯びた突きと朱乃さん十八番の雷が俺達を覆った影の主である人形の腹部に叩き込まれる。

 

人形はたまらず仰け反り、後ろに大きく吹っ飛んだ。

 

修行の成果が存分に発揮された一瞬のやり取りだった。皆しっかりと修行をこなしてきたようだ。

 

人形を追い払った朱乃さんが毅然と振り返る。

 

「部長が不在の今、私が眷属の指揮を執ります」

 

朱乃さんは眷属内では部長さんの次に偉い『女王』。『王』に付き従い、『王』が不在の時には代わって眷属の統率を図る存在だ。

 

「紀伊国君と私、そしてゼノヴィアちゃんは会場内に出現した敵の殲滅。アーシアちゃんは負傷者の治療、裕斗はその護衛を」

 

「はい!」

 

「朱乃さん、僕は…?」

 

「ギャスパー君はコウモリに変化、停止で敵を撹乱して頂戴」

 

緊張と恐れの入り混じった表情ながらもギャスパー君は頷く。

 

「さあ、こんな時だからこそ今までの修行の成果を存分に発揮する絶好のタイミングよ!」

 

…確かに、不謹慎だが朱乃さんの言う通り俺達が修行で得てきたものを発揮するにはこれ以上ない好機だ。

 

俺達の戦意を高揚させるように、毅然と、そして力強く言う。

 

「『禍の団』にグレモリー眷属の力を見せつけてあげましょう!」

 

「「「「「はいっ!!」」」」」

 

〈BGM終了〉

 

大きな一声の後、アルジェントさんが木場を伴って負傷者の下へ駆け出す。

ギャスパー君は吸血鬼としての力を使い、その身を無数のコウモリに変えて飛び去った。

 

(一応注意しておくべきか)

 

その場から離れようとするゼノヴィアと朱乃さんを慌てて呼び止める。

 

「ゼノヴィア、朱乃さん。あのガンマイザーは気象を操るタイプです。手ごわいので気を付けてください」

 

「気象ということは雷も使えるのね。…なら、『雷の巫女』の相手に不足はないわ」

 

そのやり取りを最後に、今度こそ散っていく。

 

「さて…」

 

気合を入れんと自分の拳をパンッと合わせる。

 

「片っ端からぶちのめす、それでいいな!」

 

俺の意志に応じてドライバーが出現、ベンケイ眼魂を起動させ装填する。

 

〔アーイ!バッチリミロー!〕

 

ドライバーからパーカーゴーストが出現し、逃げる悪魔たちを今にも切り裂かんとする人形に向かって飛び翻弄し始める。

 

「変身!」

 

レバーを引いて解放された霊力のスーツを纏い、さらにパーカーゴーストをその上に纏う。

 

〔カイガン!ベンケイ!兄貴ムキムキ!仁王立ち!〕

 

〔ガンガンセイバー!〕

 

変身してすかさずガンガンセイバーを召喚する。本来ならクモランタンと合体してハンマーモードにするはずだが今は追跡に使っているのでナギナタモードだ。

 

〈BGM:激闘(仮面ライダークウガ)〉

 

「パワーなら負けない!」

 

ぶんぶんとナギナタを振り回し、殺戮を繰り出す惨劇の元凶へと走る。

 

向かってくる俺に気付いた人形が手に持った大剣を振るう。

それをナギナタで受け止めた。すぐさまゴンっと重い衝撃が襲う。

 

「ッ!そこそこパワーもあるか…!」

 

足腰にも力を入れ、ぶった切られるというよりは潰されないようにと踏ん張る。

 

ベンケイを使って正解だった。真正面からのパワー勝負で他の眼魂を使っていれば間違いなくとうに押し負けていただろう。

 

だが、パワー勝負で負けるつもりは毛頭ない!

 

ベンケイの力で上昇したパワーを以て踏ん張り、肩部に取り付けられた宝珠『マイティネンジュ』のエネルギーを二つ分消費してさらに強化されたパワーで一気に押し返す。

 

「ぬんッ!」

 

つばぜり合いに押し負けた人形がぐらりと大きく態勢を崩した。

 

「ハァ!」

 

奇貨居くべしとすぐさま力強くナギナタの連撃を一気呵成に叩き込む。

 

まずは足。ぐらついて脆くなった体のバランスを一気に崩す。

 

狙った通り、さらに大きく態勢を崩し、尻餅をついた。

 

「ラァ!!」

 

今度は無防備に晒された腹部に渾身の突きを繰り出す。今度はパワフルにナギナタで殴りつけるように振るう。

全て、腹部を狙っての物。ベンケイのパワーを活かしてのごり押しの一点突破でこいつの硬さを攻略する!

 

「ハァァァァァァァ!!」

 

乱打に次ぐ乱打。

 

攻撃がヒットするたびにゴッ!ドッ!という轟音を響かせていく。思った通り、頑丈な腹部にヒビが入り始める。

クモランタンがいてハンマーモードにできればもっと早く出来ていたはずだがないものねだりをしてもしょうがない。

 

だが、ラッシュに集中するあまり人形が振り上げた大剣に気付かなかった。

今にも俺に反撃を繰り出そうとしたその時。

 

「させねえってんだよ!!」

 

「彼を援護しましょう!!」

 

先ほどこの人形に襲われていた悪魔たちが大剣を握る手に魔力攻撃を放つ。ダメージこそ入っていないがその衝撃で大剣が手を離れて宙を舞い、地面に刺さる。

 

「魔力が効かないなら霊力はどうだ!?」

 

〔ダイカイガン!ガンガンミナー!ガンガンミナー!〕

 

ナギナタを攻撃から引く際、ドライバーにかざす。エネルギーの送受信『アイコンタクト』が発動し、増幅された霊力を蓄えていく間にも攻撃の手を緩めず、腹部に間髪入れずに攻撃し続ける。

 

そして渾身の突きが、腹部に胸に届くほどの大きなヒビを入れた。

 

「ここだ!」

 

〔オメガストリーム!〕

 

ナギナタのトリガーを引き、蓄えた霊力を爆発的に解放。白い光を纏う刃で画竜点睛、再び突きを入れて膨大な霊力を叩き込み内部から人形を破壊、爆破させた。

 

ドォォン!!

 

会場にひときわ目立つ爆炎が起こり、破壊しきれなかった人形の欠片が辺りに散っていく。

 

〈BGM終了〉

 

「まずは一体…」

 

まだまだホール内には数多くの人形が残っている。撃破の余韻に浸る暇はない。

 

…しかし、なんか焦げ臭いような?

 

「…あ」

 

においの元を探ると、爆炎の火の粉がカーペットに燃え移っているのを見た。

やべえ、やらかした!

 

「オイオイ!あんたが誰かは知らんがここを火事にするつもりか!」

 

「でも助かったわ!」

 

逃げる悪魔たちの内何人かが炎に気付き、水の魔力で消火を始めた。よく見るとその多くはさっき俺が倒した人形に襲われてた悪魔だ。

 

この様子を見てると、多分冥界に消防士とかいないんだろうなと思う。だって皆水出せるし。いたとしても凄い暇で給料泥棒なんて呼ばれてそう。

 

「なあ教えてくれ、あんた何者なんだ?」

 

貴族服を着崩した軽い雰囲気の男が俺に訊ねた。

 

「お、俺ですか?」

 

こういうのってテレビでよく見る展開だがまさか当人になるとは。皆の視線が俺に注がれている。

 

彼らにとって俺は自分達の窮地を救った謎の戦士。…一応、推進大使とか肩書き持ちだから名乗っておこうか。

アザゼル先生たちもせっかく任命したのに知名度が低いままじゃ浮かばれないだろうしな。

 

「…一応、グレモリー眷属の協力者だったり和平協定推進大使なんて肩書きを貰ってたりしてます」

 

「推進大使?聞いたことねえな」

 

男は首を捻る。だが悪魔の一人が手を上げた。

 

「あ。私知ってるわ、人間だけどリアス姫と眷属と共にコカビエルと戦った『スペクター』っていう戦士がいるって」

 

「オイオイマジかよコカビエル!?あのリアス・グレモリーと一緒に戦った!?あんたすげえな!!」

 

男は笑いながら俺の肩をポンポン叩く。他の悪魔たちも「すごい…」や「頼りになるわ」と感嘆や喜びの声を上げていく。

 

そこまでされるとなんか照れるな…。だが悪い気はしない。

 

ドッ、ドッ、ドッ。

 

歓喜に満ち始めた雰囲気を破るように突然大きな足音が聞こえた。

 

爆炎に気付いた他の人形たちの注意がその場に居合わせた俺に一斉に向き、こっちに迫ってきている。

人形だけでなく、ゴツゴツとした岩石の化身のような姿をしたガンマイザープラネットもだ。

 

 

 

…ガンマイザー。生憎俺が負けたクライメットはどうやらゼノヴィア達が相手をしていて、そちらとのリベンジマッチの機会は得られないみたいだ。

 

だが同じガンマイザーのこいつなら俺の雪辱をある程度晴らせるだろう。こいつとタイマンに持っていけば修行の成果を十分に発揮できる。

 

そのためには、向かってくる人形どもが邪魔だ。

 

 

 

「こっちに来る、早く逃げろ!」

 

「ああ、あんたのことは忘れない!ありがとよ『スペクター』!」

 

悪魔たちが礼の言葉を残して去って行く。

 

〔カイガン!ツタンカーメン!ピラミッドは三角!王家の資格!〕

 

ツタンカーメン魂にチェンジし、唯一追跡に使わず残しておいたコブラケータイをガンガンハンドと合体させ鎌モードにする。

 

(今度は破壊力でなく鋭さだ)

 

近接戦に持ち込まず、少しの間でもこいつらを無力化する!

 

〔ダイカイガン!ガンガンミロー!ガンガンミロー!〕

 

『アイコンタクト』をし、くるくると鎌を回して腰を落とし構える。

 

「ハァッ!!」

 

〔オメガファング!〕

 

霊力の滾る鎌を振るい、三角形の斬撃を飛ばす。

ターコイズブルーの閃光が回転し、さながら手裏剣のように縦横無尽に眼前を飛び、素早く人形たちを切り裂いていく。

 

腕、脚と様々な箇所を切り裂かれた人形は派手にすっころぶ。

 

空間の歪みを生み出し、鎌で切り裂くこともできるツタンカーメン魂ならできるのではと思ったが予想以上の結果だ。

 

そして阻むものを切り裂きながら前進する斬撃がプラネットに向かう。

 

すぐさまプラネットは自身の能力を使用して地面から盛り上がるようにして防壁をいくつも作り出す。

 

斬撃はそれをものともせず、切り裂きながらガンマイザーへ直進する。

 

最後の壁が破られ、プラネットはすぐさま両腕を交差して防ぐ。堅牢な表皮と回転する斬撃がバチバチと眩いスパークを起こした。

 

じりじりと斬撃の勢いに押され、後ろに下がっていく。やがて斬撃が爆発を起こして至近距離のプラネットを吹き飛ばし、壁を派手に突き破って外に出た。最上階から一気に飛び出し、周辺の森へと落下した。

 

倒れた人形たちの間を縫うように走り、外に出たガンマイザーの後を追う。そう、ガンマイザーが開けた穴から外に飛び出してだ。

 

〔アーイ!バッチリミロー!バッチリミロー!〕

 

流石にそれなりに高さがあるホテル最上階から変身した状態で落ちるのはまずいのでフーディーニ魂に変身する。

 

ブロロロロ!

 

…いやおい、なんでホテルの外壁を走ってこっちに来てるんだよ!?マシンフーディー!ああもう壁にタイヤの跡ついたじゃん!なんか言われるよねこれ!?

 

「…あ、全部『禍の団』のせいにすればいいんだ」

 

だって俺がこんなことしてるのも元はと言えばアルギスの奴がテロ吹っかけてきたからだし、仕方ないよね!

うんそうしよう!

 

〔カイガン!フーディーニ!マジいいじゃん!すげえマジシャン!〕

 

責任を逃れる言い分を考えながらフーディーニ魂に変身し、飛行ユニットを起動させて安全にガンマイザーが落ちた森へと降り立つ。

 

会場の外は森、時刻は既に夜を回っていることもあり一層薄暗さを増している。

 

〔カイガン!スペクター!レディゴー!覚悟!ド・キ・ド・キ・ゴースト!〕

 

冥界の土を踏みしめ、マスクの裏から睨み付けて腰を落として構える。

 

「さぁ、修行の成果を見せてやるよ」

 

〈挿入歌:GIANT STEP(仮面ライダーフォーゼ)〉

 

足に霊力を集中、強化された脚力を持って前進する。修行の中で俺は霊力をコントロールする術に磨きをかけた。俺が習得したとある拳法の技の威力をより引き上げるために。

 

向こうも近接戦に応じようと駆け出した。

 

互いに距離を詰めていき、間合いに入った。至近距離。

 

一瞬の内に地面を力強く踏みしめる。

 

その動作は一般に『震脚』と呼ばれる中国武術で広く使われる物。

 

踏み込みの瞬間腰を落とし、爪先を軸に体を捻り相手に対して90度になるようにする。

 

しっかりしめた脇、そこから地面に対して水平になるように勢いよく腕を振り上げる肘撃ち。インパクトの瞬間、肘に霊力を込め、さらに威力を向上させる。

 

裡門頂肘。

 

ドゴォォン!!

 

『…!?』

 

ものの見事にプラネットの胸部にヒット。ドゴッという爆発にも似た音を響かせ木っ端の如く吹っ飛び、木に叩きつけられた。

 

そう、俺がこの20日間で学んだ拳法というのは八極拳。一撃を重視し、腕の届く範囲という至近距離での戦闘を得意とする中国発祥の拳法。リーチの短い技が多いため遠い間合いでの戦闘は不利だが、一度近接戦になればそのリスクを埋めるに十分すぎるほどの効果を発揮する。

 

先生は八極拳の技に自身の光力を乗せて凶悪な破壊力を実現した。俺はそれをスペクターの霊力に置き換えて使用する方法を編み出した。

 

「…効くなー」

 

ガンマイザーにここまで通じるとは思わなんだ。練習では木で試していたから対人戦で繰り出すとどうなるかまでは分からなかったからな。

 

…だが、これならいける!

 

よろよろと立ち上がるプラネット。地面に両手を当てる。

 

ずぷっ。

 

「っ」

 

奴の能力か、俺の足元が泥のようにぬかるみ動きを封じた。そしてそれは沼のようにじわじわと深さを増し、底なしの中へと引きずり込んでいく。

 

だが慌てる俺ではない。

 

〔ガンガンハンド!〕

 

即座にガンガンハンドを召喚。奴の近くにある木の太い枝にハンドを向けるとぐいんと一気にハンドが伸びた。

そして向こうの方から伸びたハンドを引っ込め、一気に沼から飛び出す。ついでにすれ違いざまにキックもくらわす。

 

思いもよらぬ攻撃にプラネットはもろに攻撃を受けた。だがそれでやられる奴ではなかった。

 

胸部、頭部、そして両肩の球体を輝かせオーラを蓄え始める。光は次第に輝きを増していく。

 

まさかオーラを放出して外から会場を吹っ飛ばす気か!

 

「させない!」

 

危険なほどに輝くオーラをものともせず接近し、再び震脚。

 

鋭く素早く拳を突き出す。ただ殴るのではない、これは突き技である。

 

冲捶。

 

インパクトと同時に流し込んだ霊力と衝撃が混ざり合い、ガンマイザーの体内で暴れ破壊する。

 

バチバチバチ!!と全身から火花を上げよろめき始めた。

動きがぎこちなく、内部でかなりのダメージを負ったようだ。

 

相手に霊力を流し込み、体内を攻撃する技。八極拳の寸勁や浸透勁を習得する一助になればという考えで編み出したものだ。残念ながら肝心の寸勁や浸透勁は習得できずに修行の期間が終わってしまったが。

 

おまけにとハイキックを喰らわせてガンマイザーを飛ばし、距離を開ける。

 

「渾身のピリオドを穿つ!」

 

まともに動けない敵の大きな隙を利用し、すかさずドライバーのレバーを引く。

 

〔ダイカイガン!スペクター!〕

 

ドライバーの音声と共に爆発的に増幅した霊力が青い光となって俺の右足に宿る。

 

「ふっ!」

 

そして一息にて敵に向かって跳躍、両足を交差させるようにボレーキックを放つ。

 

「ハァァァッ!!」

 

〔オメガドライブ!〕

 

薙ぐようなキックがプラネットの首に炸裂し、ドゴン!と大きな音を立て吹っ飛んだ。

 

何度も地面を横転し、木にぶつかって止まる。ダメージを大きく蓄積したプラネットは全身からバチバチと火花を上げ、まだ終わらないとぎこちない動作でおもむろに立ち上がろうとする。

 

しかし力及ばず、突然力が抜けたように地面に両膝を突き、小さな爆発を起こして跡形もなく消えた。

 

奴が立っていた後には塵さえも残らなかった。

 

やはりガンマイザーを倒しても眼魂は手に入らないか。アルギスが俺の前で見せた通り、元となる眼魂を取り返さなければ何度でもガンマイザーを生み出せてしまう。

 

微妙に違うが何度でも復活するという意味では原作と同じ不死。同じ個体を何体も同時に生み出せるかわからないが厄介な敵になることは間違いない。

 

〈BGM終了〉

 

「さて、戻るか」

 

踵を返し、急いでまだ激闘が繰り広げられているであろう会場に戻ろうとした時だった。

背後からザッ、ザッと足音が聞こえた。

 

それに反射的に反応し、振り向く。

 

「…やはり、『この』状態での傀儡とガンマイザーでは敵わんな。いや…貴様らの成長速度が著しいということか」

 

悠然と現れたのは白地に金と薄緑のラインが入ったローブを纏った謎めいた雰囲気を持つ人物。体のラインと声からして女か。フードを目深にかぶっているためその表情は伺えない。

 

「誰だ!」

 

すぐさま警戒度を上げて対応する。

先のセリフ、そして現れたタイミング。間違いなくこの襲撃の関係者だ。

 

「…『あの方』、と言えばわかるか?」

 

その言葉ですべてを察した。

 

奴こそ、アルギスに俺の抹殺指令を出し俺の命を狙うアルギスの上司。『あの方』と呼ばれる存在。

 

「お前が『あの方』ってやつか、そっちから来てくれるなら探す手間が省けた」

 

バッと相手を指さし、毅然と宣言する。

 

「お前には聞きたいことが山ほどあるからな。大人しく縄についてもらうぞ!」

 

向こうから出てきたこのチャンスを逃す手はない。奪われた眼魂も全て取り戻し、全ての謎を解き明かす。

その機会を手にした高揚感もあって戦意も増す。

 

「私を捕えようとは片腹痛い、思い上がるなよ人間風情が」

 

どこまでも冷たい感情の乗った言葉を吐きながらローブの少女がおもむろにフードに手をかける。そして取り去っ――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はその時、何が起こったのかわからなかった。

 

あまりの衝撃、あるはずのない出来事に直面し、その衝撃が容易く思考を停止させた。

 

停止させたのは思考だけではない。一瞬だが呼吸さえもだ。

 

口が開き、顔が瞠目したまま固まる。見開いたままの目は一直線に、晒された少女の顔に注がれている。

高揚しかけた戦意などとうに忘れている。

 

この何でもありな異形の世界に身を置き始めても、微塵もこの出来事の可能性を考えた、あるいは頭によぎったことはなかった。

 

『テストの結果はどうだったの?』

 

脳裏に微かによぎる思い出の数々。

 

『それじゃ、行ってきまーす!』

 

最後だったはずの言葉。

 

 

 

 

 

「お前…まさか……」

 

あの時と何一つ変わらない…いや、見ないうちに少し大人びた顔立ちになった忘れることのない肉親の顔。

ショートカットにしていた髪は幾分か伸びた。だが以前と決定的に、全く変わってしまったものが一つだけある。

 

目。黒だったはずの瞳は赤に変わり、快活で明るさを周りに振りまいていた眩しい瞳は殺意と冷酷さを宿した絶対零度の瞳と化した。

 

衝撃に飲まれ、驚愕の激流に飲まれながらも微かに働く思考が先の言葉を紡いだ。

 

「凛…なのか…?」

 

今、俺の目の前に死んだはずの妹がいる。

 

しかし彼女は何も答えない。代わりに懐から大きな機械のついたブレスを取り出した。

黒い台座に乗った銀のフレームで覆われ、何か球状の物を入れるために開いたスロットがある本体から伸びるクリアグリーンの部位。

 

「それは…!!」

 

立て続けに襲ってくる驚きに呼吸のタイミングを見いだせない。

 

間違えるはずもない。

 

あれは仮面ライダーネクロムの使用する変身アイテム、『メガウルオウダー』だ。

 

俺の動揺、驚愕をよそにそれを左腕にあてがうと黒い装着バンドが巻かれた。

 

続けて取り出したのは眼魂。しかし俺が持っているものと比べてよりメカニカルなフォルムかつオウダーと同じ黒と緑のカラーリング。横に飛び出た起動スイッチを押し込んだ。

 

〔STAND-BY〕

 

囁くようで冷たさを感じる音声が流れ、瞳部分にあたるモニター『クアッドアイリス』が浮かび上がった。

続いて眼魂をメガウルオウダーのスロット『アイコンスローン』に差し込んだ。

 

〔YES-SIR〕

 

オウダー本体を起き上がらせ、『アイコンスローン』の横にある緑色のアクションスイッチ『デストローディングスターター』を押すとシステムが待機状態に入る。

 

〔LOADING〕

 

オウダー本体から肩部に緑色のチューブがついた黒いパーカーゴーストが顕現する。フード部の暗闇に恐ろしさすら感じる程の真っ白な目のような光がともっている。

 

それは凛の周囲を舞うように旋回していく。

 

そして凛の口からどこまでも無感情に、冷たい言葉が放たれる。

 

「変身」

 

再びスイッチを押し、オウダーに充填された霊力が解放される。

解放された霊力は随所に緑色の模様が入った純白の防護スーツ『エクスティンガースーツ』となって全身を覆っていく。

 

〔TENGAN!NECROM!MEGAULORDE!〕

 

舞っていたパーカーゴーストを身に纏い、カメラのシャッターのようでどこか人間の瞳のような模様が浮かび上がっている銀一色の顔面が目を引くマスク中央、そこに銀色の円形の防御フレーム『モノキュラーガード』に保護された視覚センサー兼フェイスシールドである緑色のレンズのような『ヴァリアスゴーグル』が装着されて変身完了する。

 

〔CRASH THE INVADOR!〕

 

完了と同時に森に屹立する木の葉のような色をしたオーラが周囲に放たれ、大気を揺らす。

 

仮面ライダーネクロム。ここに誕生。

 

「紀伊国悠、貴様を抹殺する」

 

 




サブキャラの集い in cafe パート5

「アーシアちゃんは清楚中の清楚って感じがしていいよなぁ」

「せやねぇー、2年、そしてうちらのクラスのマスコットと言えばアーシアちゃんやな!もう見るだけで癒されるわ!」

「同感ね、それにアーシアったら身近なことでもすごく楽しそうに話すの。あの純粋さを見てると自然とこっちも笑顔になるわ」

うんうんと頷き、アーシアの日頃の可愛らしい様子を思い浮かべる5人の会話が弾む。眩しいほどに純粋で優しく、明るいアーシアはすでにクラスの男女両方から絶大な人気を得ていた。

「うむうむ、しかし桐生。お前我らのマスコットともいえるアーシアちゃんになんてものを吹き込んでくれるとはどういうつもりだ?」

そんな中、くいっと眼鏡を直し、じろりと睨むような視線が元浜から藍華に刺さる。

「確かに、その点に関しては私も色々言いたいわね」

厳しい様子で同意の言葉を上げ、腕組む綾瀬。

優等生気質で生真面目な綾瀬は普段から不埒なものを学校に持ち込む松田や元浜に厳しい目を向けている。

「おお…珍しく上柚木が俺達の味方をしてくれた」

「何よ、これはたまたまよ。飛鳥はともかくあんた達にはツッコミどころしかないわ。けどアーシアを変な道に引き込むのは許されることではないわね」

「ふーん」

雰囲気がピリピリし始める中であっても、藍華は不敵な笑みを浮かべる。

「私はアーシアの手助けをしているだけよ。あのエロ魔人の兵藤を振り向かせるためにどうすればいいか、ここはエロの匠と呼ばれる私の出番じゃない」

「えっ…まさかアーシアちゃんはイッセー君のことを…?」

「なっ!?う、嘘だ…!」

「あんたそれに気づくなら綾瀬っちに気付きなさいよ」

「?」

「ハァ…ともかく、本当に私はアーシアの応援をしてるだけよ?アーシアの方が兵藤に合わせるためにエロ知識を求めてるのよ。私だって無暗にエロ知識を広めたりしないわよ、分別のないあんた達と違ってね!」

ドヤ顔で言い放つ藍華に変態二人組は返す言葉もない。

「ぎゃふん!?」

「元浜よ…紀伊国といい天王寺といい兵藤といい、どうして俺達の周りの連中は先を行ってしまうんだ…?」

藍華の言葉が刺さったのか松田は頭を抱えだした。

「あのアーシアが進んでいかがわしい知識を…ハァ…」

まともな人はこの中で私だけなのか。

そう思うとため息が止まらない綾瀬だった。


人形は特に能力がない代わりに物理特化。ガンマイザーは強力な能力があるぶん物理は人形程ではないといった感じです。

新年早々妹から殺害宣言をされる男、紀伊国悠。

次回、「ネクロム始動」

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