ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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今年の目標はパンデモニウム編まで進めることです。英雄派と悠のやり取り、色々考えてます。しかしZ/Xの方で想定外すぎる展開に遭いちょーっと悩んでおります。まあ4章の終わりまでに影響はありませんが。

ヘルブロスについては外伝で掘り下げます。

Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は…
S.スペクター



第49話 「赤・龍・覚・醒」

目下『禍の団』を称する悪魔の襲撃を受ける魔王主催のパーティー会場となるホテル、その近隣の森にて二人の戦士がマスクの裏からにらみ合う。

 

片や黒いパーカーを身に纏う純白の戦士、仮面ライダーネクロム。

 

そしてもう一人は左上半身にターコイズブルー、右上半身に白の歯車を装備した奇抜なシルエットの戦士、ヘルブロス。

 

ヘルブロスが携えるは紫色の銃身に金色の歯車が嵌められた銃『ネビュラスチームガン』に赤いバルブが取り付けられ金色の刃が輝く片手剣『スチームブレード』を合体させた『ネビュラスチームガン ライフルモード』だ。

 

先に仕掛けたのはネクロム。颯爽と距離を詰める。

 

そうはさせまいとヘルブロスは銃撃で牽制するがネクロムは全ての攻撃を液状化で無効化し、攻撃をものともせず直進、近接戦を許してしまう。

 

迫る拳をスチームガンで受け止める。

 

「忘れもしない忌々しい気…貴様、『叶えし者《キラツ》』か!」

 

「…それを知っているとは、貴様どこまで我々のことを知っている?」

 

ぶつかり合い、言葉を交わす両者。ヘルブロスが発した言葉には並々ならぬ敵意が乗っていた。一方ネクロムが発する言葉には感情のない、ただただ冷静に状況を俯瞰するだけのものだ。

 

拳をスチームガンで受け止めながらライフルからブレードを分離し牽制の剣戟で反撃する。

 

「答える義理はない!」

 

「ならこちらも答える義務はないな」

 

それを液状化ですり抜け、お返しにとパンチを見舞う。

 

拳打、さらに蹴りの連撃を上手く流しつつも後退するヘルブロス、スチームガンに手のひらサイズのボトルのようなもの…フルボトルを差し込む。

 

〔フルボトル!冷蔵庫!〕

 

さらにブレードのバルブを回転させる。

 

〔エレキスチーム!〕

 

スチームガンの銃口に冷気が、ブレードの刃が電撃を帯びる。

 

「…!」

 

〔ファンキーアタック!冷蔵庫!〕

 

横薙ぐようにスチームガンをネクロムの足元目掛けて撃ち、冷気を纏った弾丸がネクロムの足を凍らせる。

地面に張り付くように足を凍らされ、液状化を発動できないネクロム。

 

「『液状化』の弱点をもう見抜くか…!」

 

「固めてしまえば液状化も使えまい!」

 

好機を逃さんと一気に馳せ、電撃を乗せたブレードでネクロムを切り裂いた。電気を帯びているため液状化ですり抜けようとすれば逆に痺れてしまう。そのため液状化を発動せず受け切るしかなかった。

 

流れるように怒涛の剣戟を放ち、最後に電気を帯びた刃をネクロムに当てる。

 

「…!」

 

刃から電気を流し込まれ、動きを鈍くするネクロム。続けてヘルブロスはスチームガンに新たなフルボトルを装填する。

 

〔フルボトル!ガトリング!〕

 

「液状化は厄介な能力だが…対処法が分かれば大したものではないな」

 

〔ファンキーアタック!ガトリング!〕

 

ためらうことなくトリガーを引き、銃口からエネルギー弾を至近距離で連射する。

 

「ぐぅぅぅっ!!」

 

エレキスチームにより液状化を封じられ、足元を凍らされたネクロムはガードすることもできず全弾をまともに受けてしまう。

 

衝撃に吹っ飛ばされ土煙を巻き上げながら地面を横転していく。

 

その中でごとごととネクロムが奪った眼魂のいくつかが転がっていく。それをヘルブロスはさっと拾い集める。

 

液状化とは文字通り自身の体を液状にすること。それにより敵の攻撃を無力化したり狭いところをすり抜けるといった芸当が可能になる。便利に見える技だが無論弱点はある。

 

それは『液体』としての弱点。一定の温度以下に達すれば凍り、一定の温度以上になれば蒸発する、さらには電気を通す(水に溶けている物質により)液体の特性をヘルブロスは突いたのだ。

 

「ちぃ…」

 

「ふん」

 

状況はヘルブロスに傾きつつある。この調子で攻めれば勝利は間違いないだろう。

 

そして何より、相手が敵の眷属であるということが何より彼女の戦意を沸き立たせていた。憎き敵に願いと魂を捧げ眷属になった愚者に負けるわけにはいかない。

 

(…いや、ここでこいつを捕えれば情報を抜き出せるのではないか?)

 

ふとヘルブロスにその考えが浮かぶ。幸いにあの世界で得た力のおかげでその手の技には困っていない。

この世界であの者達が何を企んでいるのか聞き出せば協力してもらっているあの大天使の役にも立つだろう。

 

このチャンス、逃す手はない。

 

「…ん」

 

そう考えている時視界の隅に映ったのは力なく倒れている悠。胸からとめどなく血を流し顔色は白い。

 

この出血量と傷からして事切れるまでそう長くはない。

 

「しまった」

 

それを見て一気に先までの考えが霧散した。そして久々に滾りかけた戦意が冷め、思い出す。

 

自分がこの場に介入した理由は何か、それは悠を助けるためだ。そしてその悠は重傷を負い一刻も早い治療を必要としている。

 

それに思い至った時、戦意はふっと消えた。代わりに脳裏に浮かぶのは今何を為すべきか。

 

専用の電脳空間『ウェポンクラウド』からフルボトルを一つ実体化させスチームガンに装填する。

 

〔フルボトル!ライト!〕

 

〔ライフルモード!ファンキーショット!ライト!〕

 

即座にライフルモードにし空に向け、一発放つ。

しゅるしゅると光の尾を引いて空へと昇り、一際大きな光を放って消えた。

 

突然の行動に疑問符を浮かべるネクロムだったが、すぐに敵が意図するものに気付いた。

 

「信号弾…!」

 

「さて、どうする?ここは引かねば異変に気付いたラファエルやグレモリー眷属たちが駆けつけてくるぞ?」

 

「…ちっ」

 

一瞬の逡巡を見せ、凛はノブナガ眼魂を取り出す。そっと手をかざすとバチバチと紫色の靄が生まれ、火球へと変化すると森のより奥へと飛来していった。

 

「この借りは返す」

 

手短にそれだけ告げて、刹那の内にこの場から消えた。転移魔法もその類の物の一切を使わずに。

それを見届けるとすぐにヘルブロスは木の根元で倒れる悠の下に駆け寄る。

 

「この傷は…妾の手に余るな」

 

胸に深く、大きくつけられた傷を見て言う。すぐに判断を下したヘルブロスは通信を飛ばす。

この通信機能は機械同士ではなく通信魔法とも繋ぐことができる。数秒の後、通信は繋がった。

 

「ああ、忙しいところ済まぬが大至急こっちに来てもらえんか?」

 

『――』

 

短い問答の後通信を切る。

 

「戦闘系の技ばかりを追求してきたツケか…まああの大天使に任せれば何とかなるじゃろ」

 

ため息を吐きながらも天を仰ぐ。

 

自分の無力さを悔やみ、敵を倒す力を得ようと様々な世界を巡り、その世界での技術・あるいは文明を研究し戦闘技術を得てきた。だが敵を倒す飛びぬけた力に執着するあまり回復・治癒系の突出した術に目を向けてこなかったことに気付かされた。

 

あの大天使たちと協力関係を結んでおいてよかったと心から安堵する。まだこの少年を死なせるわけにはいかない。この世界に存在しない敵と戦うなら、こちらもこの世界には存在しない力で応じるまで。

 

「さて、基地に戻って今後のことを考えるとするかな」

 

スチームガンの十八番とも呼べる黒い煙を巻き、ヘルブロスはこの場から姿を消した。

 

 

 

 

▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

 

 

 

 

ヘルブロスとネクロムが戦いを繰り広げた森のさらに奥でもまた戦いは起こっていた。

 

相対するのは赤い龍の鎧を身に纏う兵藤一誠と、『禍の団』ヴァーリチームに所属する猫又。黒い着物を着崩し、豊満な胸を惜しむことなく強調する漆のごとき黒の髪の持ち主、名を黒歌という。

 

マスクの裏で自信に満ちた表情で彼女を睨む一誠はつい先ほど禁手に至った。

 

その方法はまさしく空前絶後、主の乳首を押すと言う物。あまりのひどさに籠手に宿るドラゴン、ドライグはほぼ涙目だ。

 

一誠の隣に立つ当のリアスは黒歌が生み出した毒の霧を吸ったことも相まって悪い顔色に気恥ずかしさも混じっていた。

 

「兵藤一誠!よくぞやった!」

 

「オイオイまじかよ、こいつピンチに覚醒するタイプか!」

 

上空で両者一歩も譲らぬ戦いを見せるのはこれまたヴァーリチームの妖怪、美猴と元龍王タンニーン。

金色の雲、『筋斗雲』に乗る美猴は小回りを活かして最上級悪魔タンニーンの猛攻に一歩も引かない。

 

2つの戦いは一誠の覚醒を機に、一気にグレモリー眷属側へと傾き始めていた。

 

しかし。

 

「なんだあれは?」

 

美猴の如意棒の打撃を防ぐタンニーンがふとこちらに向かって飛来するものを目にとめた。

 

一見それはただの等身大の燃え滾る火球に見える。しかし龍王はその火球に秘められた異質な力に感づいた。

 

それと同時に火球は人型の異形へと姿を変える。肩部と胸部、そして頭部に埋め込まれた大きな赤い宝玉が目を引く炎の化身、ガンマイザーファイヤー。

 

「あれは…」

 

「『禍の団』の援軍かしら?」

 

突然の乱入者にその場に居合わせる誰もが注意を奪われる。

 

これを機にと美猴は筋斗雲を飛ばして一気に後退して森に降り、黒歌の隣に立つ。

 

「よっと!なんだあいつ?お前知ってっか?」

 

「知らないわよあんなの」

 

黒歌は不機嫌そうに返事する。自分の言うことを素直に聞かない妹、小猫…いや、白音と、弱いくせに意地だけはいっちょ前な下級悪魔、兵藤一誠に自分が追い込まれかけている事実が彼女を苛立たせていた。

 

「私もですね、あのようなものは見たことも聞いたこともありません」

 

「そうかアーサー…ってお前いつの間に!」

 

驚く美猴の視線の先には金髪に紳士服を着こなす青年。その腰には二振りの静かに聖なるオーラが滲み出る剣が治められている。

 

眼鏡をくいっと上げ、答えた。

 

「帰りが遅いので気になって来たんですよ、黒歌だけかと思ったらあなたまで…」

 

「いやいや、天龍に龍王だぜ?これで滾らなきゃ孫悟空の子孫として名折れってもんよ!」

 

楽しそうに軽口をたたく美猴にやれやれとアーサーが肩をすくめる。

 

「あなたもヴァーリの仲間ね」

 

「ええ、名をアーサー・ペンドラゴンと言います。そう言うあなたはリアス・グレモリーですね?」

 

リアスの言葉に答えるアーサーは静かに鞘に納められた剣を握る。

 

「聖剣の頂点に立つ聖剣、『聖王剣コールブランド』の使い手としてあなたの眷属たるデュランダル使いと聖魔剣使いに是非手合わせ願いたいと伝えてください」

 

そして剣を鞘から抜き放つ。惚れ惚れするほど美しい金色の刃の輝き、芸術のような装飾が施された鍔や握り。これこそが聖剣の中で上の上に位置するデュランダル、エクスカリバーを越える聖剣、『聖王剣コールブランド』。

 

それを音もなく、それでいて素早く振り下ろすと剣閃が空間を切り裂く。ぱっくりと開き、その向こうには底なしの虚無が漂う。

 

「それでは」

 

アーサーたちヴァーリチームは恐れることなく踏み込み、その姿を消していく。

最後に黒歌が軽く、親しい友人に挨拶をするかのように笑いながら手を振る。

 

「じゃあね~白音、今度会った時はお姉ちゃんの言うことを素直に聞いてくれると嬉しいにゃん♪」

 

それに対して白音…小猫は一瞬瞑目し、開くと毅然とした態度で返す。

 

「…私にはイッセー先輩たちがいます。もうあなたを恐れません、そして…私の力を恐れません」

 

「…ふふっ」

 

その返事にまんざらでもないような笑いを浮かべ、今度こそ空間の先に消えていった。

 

「待ちなさ…きゃっ!」

 

追いかけようとしたリアスを熱波が襲う。思わず足を止め、気を取られた隙に空間の裂け目はすっかり消えてしまった。

 

〈挿入歌:Just the beginning(仮面ライダーウィザード)〉

 

熱波を放ったのはガンマイザー。今度は大きな火炎弾をいくつも地上にいる一誠に向けて放つ。

 

「うわっ、あちっ!」

 

両腕を交差し、迫る火炎弾を防御する一誠。

 

「鎧越しに伝わる熱さはライザー以上だな…!」

 

思い出すのはライザー・フェニックスとの一騎打ち。あの時、左腕をドライグに差し出して10秒間だけ禁手を発動しこの鎧を纏ったが、こちらが完全なだけあって防御性能も溢れる力も段違いだ。

 

それでも熱を感じさせるあの怪人の放つ炎には舌を巻くしかない。

 

ばさっと龍の翼をはためかせ、炎を吹き払う。そして羽ばたき、森の上空にてガンマイザーと対峙する。

 

「でも、今の俺なら!」

 

背中のバーニアを吹かし、猛進する。

真っすぐ、並の悪魔なら反応することすら困難なスピードで突進、ガンマイザーに重いパンチを喰らわそうとする。

 

しかし、攻撃が当たるどころかすれすれにガンマイザーを通り過ぎ攻撃は不発した。

慌ててブレーキをかけ、ぐいんと体が慣性の法則で前に持っていかれる。

 

「うぉぉぉ!?」

 

なんとか収まり、再びガンマイザーへと目を向ける。

 

「さっきは上手くいったけどダメか…!」

 

黒歌との戦いの最中、禁手に覚醒した一誠は妖力と仙術をミックスした攻撃をことごとく弾き、あるいは鎧で防御しながら圧倒的スピードで迫り、寸止めの拳を決めた。

 

そのスピードを活かせればと彼は思ったのだが結果は先の通り。

 

『急くな相棒、まだ至ったばかりで力の扱いになれていない。無茶をすれば禁手の維持時間が急速に減るぞ』

 

「わかったよ!」

 

籠手からの声に応答し、今度は翼の羽ばたきだけで距離を詰める。

そうはさせまいとガンマイザーが無数の火炎弾を放つ。

 

スピードはバーニアを吹かした時と比べれば格段に落ち、何度か火炎弾が鎧をかすめるが順調に距離を詰め、ついに拳打を放つ。

 

〔Boost!〕

 

「オラァ!」

 

倍増した力で真っすぐに放たれた強烈な拳がガンマイザーを仰け反らせる。

追撃に今度はキックを決めようとした瞬間、ガンマイザーはその身を火球に変え全身から猛炎と赤いオーラを放つ。

 

至近距離にいた一誠はたまらず受け、弾き飛ばされる。飛ばされながらもなんとか翼でバランスを取ったため地面に激突せずに済んだ。

 

「あちい、このままじゃ蒸し焼きになりそうだ!」

 

鎧越しに来る熱、さらに鎧の防護、密閉性も相まって鎧の中はサウナのように熱い。かといってマスクだけでも解除すればあの攻撃を浴びた際、高火力でもろに顔面を焼かれてしまう。

 

鎧の中は汗まみれ、せっかくのスーツは土に汚れその上びしょびしょ。熱中症にもなりそうだ。夏ではあるがほどよい暑さと涼しさの冥界で熱中症にはならないだろうと思っていたがそうでもない。

 

涼をとりながら敵を攻撃する方法…。

 

「あ、そうだ」

 

思いつくや否やバッと右腕を横に広げ、そのままブーストを吹かして突撃する。向かってくる風が鎧の微かな隙間から入ってきて気持ちいい。

 

「おらぁぁ!!」

 

飛び出す一誠はまたもやガンマイザーのすれすれ横を通って通り過ぎるかと思いきや、広げた腕がラリアットのようにガンマイザーに炸裂し一気に吹っ飛ばした。

 

「どうだ!」

 

『相変わらず破天荒なことを考える奴だ』

 

苦笑交じりに感想を述べるドライグ。そして一誠は次の攻撃の準備をする。

 

〔Boost!Boost!Boost!〕

 

「いっけぇドラゴンショットォ!!」

 

倍加した赤いオーラをぶっぱなし、追撃にと吹っ飛んだガンマイザーを攻撃する。向こうも宝玉を輝かせ業火のオーラで応戦するがあえなく禁手に覚醒した赤龍のオーラに押し切られ直撃を受けてしまう。

 

オーラが消えると、そこにあったのは全身から煙を上げバチバチと機械のようにスパークを起こし、片腕をもがれたガンマイザーの姿があった。

 

動きも鈍く、オーラも弱い。限界が近いのは明白だ。

一誠は籠手に宿る龍に声をかける。

 

「ドライグ、例のアレいけるか!?」

 

『ああ、相変わらず一度の戦闘につき一回の技だが負担が減るよう調整しておいたぞ』

 

「それで十分!」

 

〔Boost!Boost!Boost!Boost!Boost!〕

 

マスクの裏でニッと笑うと音声と同時に『増加』が発動、神器の力が倍以上に増していく。そして背部のバーニアが爆音にも似た音を発し絶大な赤いオーラを吐き出す。

 

ゴォォォォォ…!!

 

やがて赤々と滾るオーラは西洋の龍の形へと変じ、勇ましくも咆哮を上げる。

 

かつてヴァーリ・ルシファーに一泡吹かせた大技。不完全な禁手で放ったあの時と違い、修行を経て完全なる禁手に至った。調整したといってもその事実で威力は大幅に向上しているのは明らかだ。

 

「行くぜ」

 

それを見計らい一誠はバーニアを吹かす。猛進する一誠と龍、ガンマイザーは最後のあがきにと火炎弾を連発するがそれでも猛進は止まらない。

 

「トドメだぁぁ!!」

 

一撃目はオーラの龍の噛みつき、そして数秒後に赤い流星と見まがう一誠のキック。

 

「ハァァァァァァァ!!」

 

叫びとともに突き刺すような猛烈なキックを放ち、オーラの龍と共に凄まじい勢いで流星の如く地面と激突した。

 

轟音と豪風が森を揺らし、猛烈な破壊をもたらす。煙が晴れると一誠が立つところには小さなクレーターが出来ており、辺りの木々は軒並みなぎ倒されていた。

 

「ハァ…ハァ…」

 

一誠は足元にいる存在を見下ろす。

 

クレーターの中心で四肢をもがれボロボロになったガンマイザーが上体を起こそうとした瞬間、ついにただの塵と化しその活動を完全に停止した。

 

「か、勝った…」

 

兜を消し、荒い息を吐く一誠。籠手から機嫌の良さそうなドライグの声が鳴る。

 

〔初陣を白星で飾るとは、流石だ相棒〕

 

「ああ…でも」

 

〔どうした相棒?〕

 

「水が飲みたい…」

 

汗だらけの顔、そして疲れ切った様子で切実な思いを吐く。さっきまでのサウナ状態から解放されたのはいいがのどがからっからだ。

 

黒歌からの連戦で疲れ果ててしまったので、今は早く涼をとりながら水分補給をして休みたい。

 

〔ハハッ!乳でなければ何でもいいさ、パーティーに戻れば貰えるんじゃないか?〕

 

「そういえばパーティーのことすっかり忘れてたぜ…」

 

様子のおかしい小猫を追いかけてきてから黒歌と遭遇、そして戦闘。さらには突然乱入してきた謎の怪人との戦闘。パーティーのことなど考える余地もない濃密な時間を過ごした。

 

会場に戻ったらどうみんなに説明しようか…。

 

「イッセー!」

 

「そこにいたか兵藤一誠!」

 

「イッセー先輩!」

 

「…さ、皆の所に戻るか!」

 

笑顔で駆け寄るリアスとタンニーン、そして小猫を認めた一誠は笑顔とサムズアップで答えたのだった。

 

 

 

 

 

 ▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

 

 

 

 

 

兵藤一誠がガンマイザーと激闘を繰り広げている頃。

 

グレモリー眷属及びシトリー眷属の活躍によりガンマイザー3体は倒され、残る人形たちも会場に居合わせた若手悪魔たちにより破壊、あるいはラファエルによって停止し事件は終息を迎え始めた。

 

ホテルでは駐留の軍が駆け付け、破壊された設備の修復作業に入り、負傷者の治療および遺体の身元確認が行われている。

 

だがそんな中、本来会場にいるはずの者が3人行方をくらませていた。リアス・グレモリーとその『兵士』赤龍帝こと兵藤一誠、そして和平協定推進大使紀伊国悠である。

 

参加者の目撃証言を基にホテル周辺の森を中心にした捜索活動が即座に行われ、グレモリー眷属のメンバーも何人かが参加した。

 

「どこにいるんだ、悠…!」

 

今、翼を生やして空から3人を探すゼノヴィアもその一人。その表情には心配の色が色濃く浮かんでいる。

そしてふと、隣で共に飛ぶ人物へと顔を向ける。

 

「…しかし、本当にこちらについてきてよかったんですか、ラファエル様?」

 

「ええ、重傷の者は全て治療しましたし後はアーシア・アルジェントや病院に任せて問題ありません。ミカエル様やサーゼクス達ももう着いたようですしほぼ手持ち無沙汰です」

 

隣に並んで飛ぶ12枚の金色の翼の持ち主はラファエル。ブロンドの髪を美しくもなびかせ、ただ飛翔しているだけの姿すら一種の芸術のように思える。

 

負傷者の治癒をあらかた終えた彼女は後をアーシアに任せ、行方の知れない3人の捜索に自ら志願したのだ。

 

「それに…嫌な予感がするのです」

 

ラファエルの表情に憂いの色がのる。

 

「嫌な予感…ですか?」

 

「ええ、まあただの勘ですが。携帯は繋がりますか?」

 

「そうだ!」

 

携帯を取り出し、すぐに悠へと電話をかけるゼノヴィア。しかし一向に繋がる気配はない。

 

「ダメです」

 

首を振るゼノヴィアは携帯をしまうと、再び森へと視線を下ろす。

 

探索の途中、ラファエルが妙なものを発見した。

 

「見てください」

 

ラファエルが指さす先には戦闘が行われたのか木々が折れたポイントがあった。

 

「あれは…」

 

「あそこから微かにですがオーラの残滓を感じます。それもホテルを襲撃した怪人の…」

 

二人はすぐに木々が折れた跡に降り立つ。辺りを見渡し、何か手掛かりがないかと探り始める。

 

大気中に漂う煙の中に、濃い血の匂いがある。ここで戦いが起こったのは間違いないだろう。

 

ふと、一際強い血臭を放つ木に目を止めたゼノヴィア。目線を下ろすとそこにあったのは力なく地に倒れ伏す男。

この濃い血の匂いはこの男の胸につけられた大きな傷から発している。

 

そして、その男の顔を見たゼノヴィアは顔を真っ青にする。

 

「悠!?」

 

思わず大声を上げて倒れる悠の体を起こす。その顔は白く血の気がない。

 

「おい、しっかりしろ、悠!」

 

何度声をかけても全く反応を示さない。

後に続くラファエルが傷の具合を見て言う。

 

「…まだ微かに息はあります。しかし時間がありません」

 

「…!」

 

すぐさまラファエルは金色のあたたかな光を両手に蓄え、惨たらしい傷口に添える。

あたたかな光が傷を包み込むようにし、徐々にだが傷口が塞いでいく。

 

深刻な状態に切迫しながらも、どこか『覚悟』のようなものを感じさせる表情を浮かべながら呟いた。

 

「あなただけは…死なせない」

 

「ラファエルさま…?」

 

さっきラファエルが治癒を施した負傷者の中には彼と同じ様に瀕死の重傷を負った者も何人かいた。

当然差し迫った表情で治癒に当たるのだが、今ほどの必死さは見せなかった。

 

「生きてくれ…悠…!」

 

大天使の呟きに怪訝な表情を浮かべながらも、今のゼノヴィアには自分の恩人であり大切な仲間の無事を切に願うことしかできなかった。

 

 




サブキャラの集い in cafe パートfinal

「紀伊国ってさ、随分と変わったよね」

「せやね、記憶喪失になる前はごっつ引っ込み思案やったなぁ」

「それこそ兎みたいに大人しくて自己主張が苦手だったわ」

綾瀬と飛鳥が思い出すのは幼いころから変わらない友の姿。

公園の砂場で遊んでいる時も、自分達が声をかけなければいつも一人で遊んでいた。

「確かに、二人ほど付き合いの長くない俺達からしてもあいつは本当に大人しくて優しい奴だったな」

「前に出たがらないのは変わらないけど以前と比べたら積極的で明るくなったと思うわね…記憶を無くしたら性格までがらっと変わるものなのかしら?」

「基本的には変わらないらしいわ。記憶喪失って言ったって大抵は思い出したくないことをショックで忘れるだけですもの。でも、10年以上もの記憶を無くしたら変化はすると思うわね」

「上柚木は物知りだなー」

「これでもあいつを心配してるのよ。当然記憶を戻す方法だって調べたりしたわ」

ふんと鼻を鳴らす綾瀬。慣れないコーヒーの苦みに顔を少々しかめながら松田が言う。

「あいつって何を忘れたんだ?」

「日常生活に支障をきたすようなことは忘れていないみたい。でも家族や私たちとの思い出はアウトといったところね」

「それってまるっきり別人と言ってもいいレベルね…」

コーヒーを口に流し込みながら藍華が漏らす。

記憶を無くす前、そして後の彼と何度か会話を交わしたことのある彼女から見ても今の彼は別人のように思えたが、綾瀬の話を聞いてますますその思いは強くなった。

「実はあいつに幽霊が乗り移ってるんじゃねえの?」

「松田くんそれはアニメの見過ぎやろ」

「エロアニメのね」

「冗談だよ、幽霊なんているわけないもんな!」

冷静にツッコむ飛鳥と藍華に冗談だと言い笑い飛ばす松田。しかし一人飛鳥は浮かない表情を見せる。

「……」

「おいどうした天王寺?」

「うーん、悠くんが明るくなったのは嬉しいんやけど昔の頃の方も名残惜しい思うてな」

「なんだか、私も今の悠は変に感じるのよね。いつか、記憶が戻ってまた昔話をしたいいものだわ」

今はすっかり変わってしまった幼馴染との思い出に思いを馳せながら、綾瀬は飲み切ったコーヒーカップをコトッと卓に置く。

消極的な悠を積極的に笑いながら引っ張る飛鳥と、それをたしなめながらもやれやれと微笑む綾瀬。

それは今までの彼らの姿であり、懐かしむ思い出の一つになってしまったものである。

「…もうあの時みたいにはできひんのかな」

ふいに溢れた寂しさからそんなことを呟いてしまった。もちろん今の悠と過ごすのも楽しい。でも、今までと違うということをどうしても意識してしまう。

かつての楽しい思い出を全て忘れてしまった親友の姿を見ると、どこか遠くに行ってしまったような感覚を覚えてしまうのだ。

「しみったれた顔してるんじゃないわよ、またたくさん思い出を作っていけばいいって言ったのはあんたじゃない」

それに対し綾瀬は厳しいながらも、優しさのこもった言葉で叱咤する。
そして後に3人の言葉が続いた。

「上柚木の言う通りだ、これからも変わらず楽しくやっていけばいいんだぜ飛鳥!」

「まだ2年の折り返しにも来てないのよ?体育祭も学園祭も楽しいイベントはまだまだ盛沢山よ!」

「俺達だけじゃない、オカ研組もいるだろう?」

皆の言葉にハッとさせられる飛鳥。かつて自分が悠に言ったことをそのまま返され、自分の心の指針を思い出す。

今の自分を見ていたら、兄に笑われるだろう。人を笑顔にするのは好きだが、こんな姿で笑われるのは違う。

思い出を無くしたとしても自分たちの中には生きている。しかしそれは過去の出来事。また帰ってくることはない。なら、前を向き明るい未来のために今を生き抜く。

「…せやな、大事なのは今、前を向いて生きることや。後ろを向いてたら前に進めへん!マスター!ショートケーキ5人分!」

「はいよ!」

「僕のおごりや!皆、ありがとな!」

「流石天王寺!気前がいいわね!」

楽しく、明るく、笑顔で生きていく。それが自分の決めた心のありよう、生き方だ。
どんな困難があっても、笑顔で、皆で楽しくいられる方法を見つけて見せる。

たとえ友達が変わってしまったとしても変わらない。その友達と楽しい時間を過ごすことが今できること。

時間は皆に平等に流れるのだから、今生きるその時を少しでもいいものにしていきたい。

今までと変わらないそれを、これからも続けていきたい。







「…君は、そのままでいい」

外の窓からの呟きは、誰の耳にとまることもなかった。








ガンマイザーもネクロムも弱いじゃん!
と思っている人へ、彼らはとある理由があって本領を発揮できてません。ネクロムはそれに加えて弱点を突かれたのもあるのですが。

ヘルキャット編も今回を入れてあと3話で終わります。

次回、「取り戻すための」

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