ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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今回はレジスタンス組について掘り下げていきます。ポラリスの巡った世界について一部触れます。割と今後の伏線がたくさんある回ですね。

活動報告に新たな裏話を上げましたのでそちらも見ていただけると本作をより楽しめるかと思います。


外伝 「スキエンティア」

「だはぁー疲れたぁー…」

 

レジスタンス基地の広大なバトルフィールド、実体のあるホログラム技術によって鬱蒼と木々が生い茂る森の環境を再現されたフィールドに大の字に倒れる。

 

先ほど週3の模擬戦を終えたばかりで全身を支配する疲労のままに俺は息を吐いた。

 

それとほぼ同時にホログラムがすうっと消え、元の近未来的空間へと戻っていく。

 

「お疲れ様です」

 

そしていつもと同じ様に全く疲れた様子を見せないイレブンさんがタオルと水を持ってきてくれる。タオルで汗を拭い、水を呷る。戦闘で動き回り体温の上がった体に冷たい水が行き渡る。

 

ああ、いつもながらキンキンに冷えてやがる、ありがてぇ…!

 

「ぷはぁっ、眼魂がめっきり取られたせいでビット攻撃がキツイ…」

 

夏休みの間にアルギスや凛に眼魂をほぼ全て取られたおかげでかなり戦闘スタイルの幅は狭まってしまった。

 

近距離戦闘のツタンカーメン、遠中近全てを万能に戦えるリョウマ、そして空中戦ができるフーディーニ。

 

ガンガンハンドで遠距離を攻撃できるとはいえ銃撃特化のノブナガやビリーザキッドに比べればやはり撃ち合いになると弱い。

 

悪魔や堕天使など異形には飛行できるものが多いのでフーディーニを持っていかれなかったことは不幸中の幸いだったと言える。

 

さっきの模擬戦だと森の見通しの悪い空間もあってほぼ向こうのワンサイドゲームになっていた。ビットが木々の間を縫って飛び、どこから来るか予測するのも難しい。

 

「それだけ今まで眼魂に頼った戦闘をしていたということです。あなたの場合、近距離戦を磨くだけでは能力を存分に発揮できません。今後は生身での射撃訓練も考えましょう」

 

「あいあいさー…」

 

鬼教官だ…。修行のオルトール先生もかなり鬼だったがイレブンさんもいい勝負ができそう。

 

「お、やっとるの」

 

何気なくこの場に姿を現したのはポラリスさん。腕を組み、珍しく赤ぶち眼鏡をかけている。

 

「ご苦労イレブン。今日明日はゆっくり休むといい」

 

「かしこまりました」

 

労いの言葉をかけられると踵を返し、このバトルフィールドから出ていくイレブンさん。この場に残ったのは俺とポラリスさん一人だ。

 

疲れで乱れた息が整ってきた頃、ポラリスさんが声をかけてきた。

 

「この後用事はあるか?」

 

「いや、何も」

 

こっちに来るときは大体、オカ研が悪魔の仕事で部室を留守にしている時か家に帰ってゼノヴィアが寝た後なんだが…今回は前者だ。こっち側の時間の流れを早めているのでここでのんびり過ごしても問題はない。

 

「なら今日は我らがレジスタンス基地を散歩してみんか?」

 

 

 

 

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基地に来てバトルフィールドに行くときに何度も見た光景。

 

廊下は全て金属質な鈍い光沢を持ち、壁や足元に走る青い光のラインが流れ星のように光の尾を引いて流れる。

 

今の機械技術では到底実現不可能に思える光景、まるで今より遥かに文明の発達した世界を描いたSF映画の世界に迷い込んだかのような錯覚さえ覚える。

 

今までは特に用もないのでいつもの広間とバトルフィールドしか基地内の施設を利用していなかった。だからそれ以外の部屋に行くのは今回が初めてだ。

 

「そう言えば、ここって正式な名前ってあるのか?」

 

今まで基地とばかり言ってたが、組織の基地なのだから名前くらいあってもおかしくないのだが。

 

「あるとも、だが言うタイミングを逃してのう。いい機会だから解説でもしておくとしよう」

 

タイミング逃してたんかい。

 

「ここは妾達レジスタンスが所有する秘密基地、外次元航行母艦『NOAH』。大きさは約1km、ロールアウト当初と比べるとかなり小さくなったが主に動力を中心にかなりパワーアップ…というより魔改造されておる」

 

「1キロ!?」

 

これ1kもあるのかよ…!それでかなり小さくなったって元のサイズはどれだけなんだよ。ここ歩くだけでも随分長いってのに。それに…。

 

「ノア…っていうとあれか、『ノアの箱舟』からとったのか」

 

旧約聖書に記されたノアの洪水伝説。人類を破滅から救うため動物のつがいとともに神がその家族と共に箱舟に乗せた人間の名前。

 

「その通り。膨大なエネルギーを消費して異世界から異世界へと航行し…妾はこの機能を『アルカヌム・ヴィアトール』と呼んでおる。次の航行のためのチャージが終えるまでその異世界で過ごし、文明に触れその技術を取り込む。妾達はそのサイクルを繰り返してきた」

 

「大体次の世界に行くまで何年くらいかかるんだ?」

 

「最初は約30年かかったが技術革新で5年にまで短縮した、ちなみにこの世界に来たときは…確か、40年前じゃったか」

 

つまり時空を超える長旅を経験してきたポラリスさんは100歳以上は確定、と。いや、200歳はあるな。もしかするとアザゼル先生よりも年上の可能性も…。

 

「はっきり言って文明のない世界に来てしまったら地獄じゃぞ?未知の資源を得られたりはするが変化のない時間が万単位で続く。ずーっとイレブンと二人ぼっちじゃ。こっちは行く世界も時間軸も選べないしはずれの世界を引くほどしんどいものはない」

 

実感のこもった本当にうんざりした表情だ。…これ、何回かやらかしてるな。

 

これ、もしかしたら俺が元の世界に戻ることもできるのでは?いやでも行く世界を選べないというし、世界と言っても恐らく数えきれないほどあるだろうから天文学的な単位の確率だろうけど。

 

…いやよそう、俺はこの世界でやるべきことがある。あいつらとの縁を捨てることなんてできないし、何より凛を放っておくことなんてもってのほかだ。それに、もうあの世界での俺は死んだ人間。父さんや母さんが心配な気持ちがないわけではないが介入したところで混乱を引き起こすだけだ。

 

今やるべきことを成す。それが今の俺の最善だ。

 

「あんたが仮面ライダーとかの情報を持ってたのもそれか」

 

レジスタンスのデータベースに豊富にある仮面ライダーやらガンダムやらその他雑多なアニメのデータ。

 

アクセス権を得た俺は俺が死んだ後に放映された仮面ライダーを見たりしたのだが…。

 

「うむ、たまたまこの世界と同じ文明レベルの世界に来てな。そこの娯楽として有名じゃったの。もしかするとおぬしのいた世界かもしれんし、あるいはその平行世界やもしれん」

 

俺のいた世界の平行世界、か。凛が事故に遭わず生きている世界…なんてものもあるのだろうか。あるいは俺が事故で死ななかった世界も。

 

いや、過去のIFを考えても仕方ない。過去をどう悔やんだって戻ることはないのだから。

 

そもそも俺がいるこの世界もまた、平行世界なのかもしれない。何かのきっかけで本筋となる世界から分岐した世界。…考えれば考える程頭から煙が出そうだ。

 

「…しかし、どうして突然散歩なんて?」

 

今まで何も言わなかったのに、今日矢庭に基地を散歩しようと言い出したポラリスさん。

いつも裏の読めない表情に、今は何を隠している?

 

「紹介がまだだったと思ったのと、気晴らしにじゃ」

 

「気晴らし?」

 

「妹と再会したようじゃな、向こうは『叶えし者』になっていたと聞いたが」

 

「…ああ」

 

イレブンさんから聞いたか。レジスタンスの敵となった俺の妹。

 

「いかなる理由であれ自分の妹と戦うのは辛いじゃろう?救うためとはいえ、下手をすれば妹の命を奪いかねんか

らの」

 

「…まあそうだな」

 

正直に言うと、まだ妹に手を上げるのに躊躇がある。むしろその方がいい、兄として、それが正常なのはわかってる。だが、それではあいつを取り戻せない。あいつは遠慮なく俺を殺しにかかる、そんな感情に囚われていては取り戻す以前に自分がやられてしまう。

 

だが下手をすれば…最悪、あいつを俺自身の手で殺めてしまうことになってしまう。それは絶対に避けなければならない。俺はその取り戻すという思いと最悪の結末に至る可能性があるという不安の狭間に揺れているのだ。

 

「願いの規模によってステージ…『深度』は変わる。さらに心に強い衝撃を受けたり奴らの気に当てられるとさらに魂の汚染…病みともいうべきか、は深刻になっていく。深度3にもなればほぼ奴らの言いなりじゃ。増やした眷属を忍ばせて混乱を引き起こし、眷属とそうでない者の潰し合いを高みの見物することを奴らは楽しんでおる」

 

何ともたちの悪い連中だな。…もしかして既に悪魔の上層部や堕天使とか、あるいは人間社会にもアルギスのような『叶えし者』が潜んでいたりして。ゴキブリが一匹いれば100匹はいる、みたいな感じで。

 

いや凛をゴキブリ扱いするつもりはないんだがな。うちのかわいい妹をゴキブリと一緒にしたら罰が当たるってもんだ。

 

「妾達も『叶えし者』の呪縛を解く方法を模索したことはしたのじゃが…残念ながら見つからなんだ。すまんのう」

 

そう言うポラリスさんはいつにもなく心底申し訳なさそうだ。

 

「辛いことや今後の不安を忘れて、色々面白い物を見せてやりたいと思っての今回の散歩じゃ。楽しんでいけ」

 

口の端を上げて笑いかけるポラリスさん。それは見た目相応の少女の姿だった。

 

俺の内心を察してのポラリスさんの気遣い…俺がレイナーレ戦でへこんだ後もそうだがやっぱりポラリスさんはアザゼル先生のように面倒見がいいと言うべきか。部下の細かいフォローも忘れない、流石レジスタンスのリーダーを名乗るだけはある。

 

…だが、一つ気になっていることがある。

 

「俺を気にしているのはあんたのかつての仲間みたいになってほしくないからか?」

 

イレブンさんが語ったポラリスさんのかつての仲間のこと。ポラリスさんは妹を失ったその人と今の俺を重ねてしまっているのではないか?

 

「…どこで知った?」

 

少し低い声でポラリスさんは訊く。心なしか威圧感に近い物すら感じた。

 

「イレブンさんから、妹を亡くして狂気に堕ちた奴がいたってのをな」

 

「むう、あやつめ…いらんことを喋ってくれおって」

 

やれやれと忌々しそうに呟くポラリスさんはふっとこちらに顔を向けた。

いつものように涼しい表情でなく、どこか真に迫った表情で。

 

「妾の過去について知りたいか?」

 

「んー…まあ気になる程度には」

 

「なら聞かぬ方がいい。聞けば必ず、おぬしは後悔する」

 

俺の返答にいつになく冷たい表情でそうはっきりと断言した。

 

…逆にそう言われると益々気になるんだが。人間、やっちゃいけないと考えると逆にそっちに意識が行ってついやってしまう生き物だし。

 

「あんたも過去に色々あったって人か」

 

木場だったり塔城さんだったり、元カノに殺された兵藤だったりと俺の周りにはろくな経歴を持った奴が少ないが…あれ、もしかして俺もそれに入ったりする?友達を殺されたり、仲間を見捨てて命惜しさに敵前逃亡、妹に命を狙われる…うん、やっぱり俺もろくな経歴持ってなかった。

 

「人並み以上にはの。生半可な気持ちで知るようなものではないし知ってほしいものでもない。妾の昔話についてはそこまでじゃ」

 

廊下での会話は有無を言わせぬ一方的なポラリスさんのぶち切りによって終わった。

 

反応から察するに相当、根の深い出来事があったようだ。

 

そのうち、向こうから話してくれる時が来るだろうか。俺が全てを兵藤たちに打ち明ける時が来るように。

 

 

 

 

 

 

廊下を進んでいると踏切のような黄色と黒の警告色が縁取る扉を見つけた。

扉には『DANGER』と赤い紙まで貼られている。

 

如何にも何かありげな部屋だ。

 

「この見るからにやばそうな部屋は?」

 

「そこは高重力ルームじゃ。魔法と科学技術を組み合わせて高重力環境を再現し、高重力下でしか製造不可能なとある代物を作るために用意した」

 

「なんじゃそりゃ」

 

高重力ルームってドラゴ〇ボールかよ、カ〇セルコーポ〇ーションでベ〇ータがやってた300倍の重力室での修行でもやろうってのか?

 

死ぬよ?無理だよ俺人間やめてないし、無理な空中変形で体にとんでもない負担をかけまくったユニオンのエースだって12Gまでが限界だし流石にポラリスさんもそこまで鬼ではない…と信じたい。

 

「半永久機関…『太陽炉』と、その世界では呼ばれておったの」

 

太陽炉、俺はその言葉とそれが意味するものを知っている。

 

「え!!それってGNドライヴか!?」

 

それってガンダムOOじゃないか!ポラリスさんはガンダムOOの世界に行ったことがあるのか!?

 

やばいいきなりテンション上がって来た、テンションフォルテッシモだ!!仮面ライダーも好きだがガンダムも好きな俺にとってはたまらない物だ!テンションの代わりに語彙力が無くなってきたがな!

 

「なんじゃ知っておったのか。そう、ここは『GNドライヴ』の工場じゃよ。大半は船の動力に回っておる、こいつのおかげでこの船のエネルギー問題が一気に解決したわい」

 

やっぱGN粒子ってすごいんだな…。まあ異星人との対話だって可能にする代物だし、二個のGNドライヴを同調させてツインドライブにすれば1万Kmもの長さのビームサーベルだって作れる出力だし当然と言えば当然か。

 

「こいつを発明した男はとんでもない天才じゃ。科学に携わる者として一度会って話してみたかったのぉ」

 

ポラリスさんにそこまで言わしめるなんてイオリア・シュヘンベルグ、ガチですげえ。いや200年前から200年後に使われる技術をたくさん発明してる時点でドが100個付く天才なんだが。

 

…あれ、そう言えばダブルオーの世界でどうやってGNドライヴの情報を手に入れたんだ?あれはソレスタルビーイングのトップクラスの機密事項だったはずだが…。

 

 

 

 

 

 

再び廊下を進むことしばし。俺達は大きなドアの前で足を止めた。

 

「ここは妾でもあまり足を踏み入れぬ部屋ではあるが…レジスタンスが秘している重要なシステムがある」

 

ポラリスさんは端末にパスワードを凄まじい速さで入力し、打ち終わったかと思ったら今度は端末に顔を寄せて覗き見た。網膜認証か?

 

扉がシャッと開く。

 

と思ったらまた扉だ。再びポラリスさんはパスワードを入力し、今度は手をスクリーンに乗せた。網膜認証の次は指紋認証か、パスワードもかなりの長さだったしセキュリティが頑丈な所みたいだ。

 

ドアが開き、今度こそその部屋にあるものが姿を見せた。

 

廊下と同じく金属質の壁に囲まれた広い空間。青が、赤が、緑の光が走り世界各所の映像を映し出すスクリーンが無数にある部屋の中央に大きな機械が佇み、その中心には幾何学模様の球体が治められている。神秘的ですらある淡くも眩い光を放つそれはまるで夜空に輝く一等星のようだ。

 

「ここは…」

 

「妾達レジスタンスが保有する最重要システム…『スキエンティア』。その本体じゃ」

 

「『スキエンティア』…」

 

「スキエンティアは世界中のコンピューターと繋がりありとあらゆる情報を収集、そして解析する。妾達はあらゆる情報をこのスキエンティアに集め、他の世界の情報と組み合わせ未知の技術を生み出し来たるべき決戦に備えるため新たな兵器を開発するのじゃよ」

 

今までポラリスさんが巡って来たあらゆる世界の膨大な情報がこの眼前に大樹のようにそびえたつ機械におさめられている。一体どれほどの容量があればこんな途方のないことができるだろう。まさしくレジスタンスという組織の心臓とも呼べる場所に俺は今足を踏み入れている、そう思うと不思議と胸が高鳴る。

 

「おぬしが閲覧するレジスタンスの情報は全てこのスキエンティアのものじゃ…一部閲覧制限をかけている情報は時が来れば解除しよう。おぬし何度か無理やりアクセスしようとしたじゃろう?」

 

「バレてるのか…」

 

以前ポラリスさんがどうしても話してくれないことが多いので、それならせっかくもらったアクセス権で調べてしまえと思ったらものの見事に引っかかったことがある。その時は焦ったな、いかがわしいサイトを見ていたらウイルスに引っかかった高校生のように。

 

…俺の名誉のために言っておくが俺はそんなこと今までないからな?

 

「当然。ソフトウェアにおいてこの世界で妾に敵う者なぞおらんからのう、なんならおぬしのパソコンの検索履歴を洗いざらい割り出してやってもいいぞ?」

 

「すみませんそれだけはマジで勘弁してください」

 

(あまりない)胸を張るポラリスさんは実に楽しそうな表情だ。

 

やめて、それだけはやめて。思春期の男子のパソコンの検索履歴とベッドの下は見たらダメなんだよ!

 

「これ誰が作ったの?ポラリスさん一人か?」

 

「妾を含めたレジスタンスの仲間たちと共に、かつて妾達の世界に存在したスーパーコンピューター『シャスター』から得たノウハウを活かして開発したのじゃ」

 

「あんたって天才だったんだな」

 

スーパーコンピューターなんてものを作れる時点で相当な技術力と頭脳の持ち主であることは確定だ。しかも国でなく一組織がそれを保有できるとは…。

 

ポラリスさんは俺の言葉に「いや」とかぶりを振った。

 

「天才ではない、仲間たちの力があったからこそ為し得たのじゃ。おぬしもよく覚えておくといい、一人でできることより仲間とならできることの方が多い。窮地に陥った時差し伸べてくれる手があり、それを取ることのできる者は例外なく強いのじゃ」

 

「仲間の手を取る…」

 

つまり、レジスタンスだけでなくオカルト研究部の仲間たちの手を取れということか。

 

ネクロムの力を持つ凛の力は強大だ。…だが、その力もあいつらと一緒なら突破できるかもしれない。

ゼノヴィアに言われたことは真実だ。今度、凛と戦うことになったら、兵藤たちを頼ってみようかな。

 

「あの頃が懐かしいのう…アルタイル、カノープス、デネボラよ」

 

『スキエンティア』が放つ青い星のような光を見上げるポラリスさん。夜空に瞬く星を見上げるようなその姿にいつもの飄々とした感じはなくどこか儚げで、悲し気だった。

 

あの様々な思いが絡まり合った目の裏にあるものが何か、今の俺には分からなかった。

 

「…?」

 

「すまぬ、つい感傷に浸ってしもうたわい。ここにあるのはあれだけじゃ、次に行くぞ」

 

俺の視線に気づき、軽い咳払いをしてポラリスさんは光に背を向ける。

 

神秘的ですらある光景に背を向けるのは後髪の引かれる思いだが、ポラリスさんの言葉に従い俺達はこの場を後にした。

 

 

 

 

 

 

何でもない金属製の扉に『イレブンの部屋』と達筆で書かれた文字と可愛らしい似顔絵が描かれた木のプレートが貼られている。

 

「ここはイレブンの私室じゃな」

 

「へぇ…」

 

イレブンさんは隅から隅まできっちりしたイメージがある。一体どんな部屋なのか気にはなるが流石にプライベートの空間に土足で踏み込むような真似はよす。

 

「気になるなら覗いてみるか?」

 

ポラリスさんはニヤニヤしながらそう言って何もない空間にスクリーンを展開した。

 

床に敷き詰められた畳、和式の部屋だ。壁には『こたみか』とこれまた見事な腕前で書かれた掛け軸がかけられている。…こたみか?何のことだろう?

 

そしてみかん片手に熱心にゲームで遊ぶイレブンさんの姿があった。これって聞くまでもなく、扉の向こうの映像だよな。きっちりでなく今のイレブンさんから画面越しにゆるゆるなオーラが伝わっていた。

 

『そろそろみかんのストックが尽きますね…、明日買い物に行った方が』

 

途中で映像は途切れた。向こうが気付く様子もなかったしポラリスさんの側から切ったか。

 

「…意外と和物が好きなのな」

 

レジスタンスの仲間の意外な一面を垣間見た俺は彼女のまったりした様子に少々呆気にとられた。

 

「冬になるとこたつに入って出てこなくなる時もある。日本料理に関していえば妾よりあ奴の方が腕がいいのう」

 

何それ可愛い。こたつむりになったイレブンさんとか見てみたいぞ。

 

「ところでイレブンさんってさ…Type.XIってことは1とか5とかいるの?」

 

今まで気になっていたこと。なんとなくイレブンさんと呼んでいたが名前がタイプ・イレブンってことはその前のタイプ・テンとか最初のタイプ・ワンなんて人もいるんじゃないか?

 

ポラリスさんは俺の問いに首を縦に振った。

 

「あやつは13人のサイボーグのクローン姉妹の11女、『オリジナルXIII』じゃ。作ったのは妾ではないがの」

 

「13人姉妹!?」

 

同じクローン姉妹でもプルシリーズもびっくりの数だよ、全員が揃ったらどんな絵面になるんだろう?クローンだからみんな顔そっくりで誰が誰だかわからないなんてことになったりしてな。イレブンさんは結構美人だから残りの12人もみんな美少女に違いない。

 

「…っておいおい派手に穴が開いてるけど、修理しなくて大丈夫か?」

 

ふとイレブンさんの隣の部屋に大きな穴が開いているのが視界に映った。焦げてはいるが煙も上がっていないし熱くもない。随分前にできたように見えるが…。

 

「問題ない。これはかつての仲間が寝ぼけてレールガンをぶっぱした跡…思い出の名残じゃよ」

 

そんな思い出があってたまるか。寝相が悪いゼノヴィアだって寝起きデュランダルなんてしないぞ。

 

「あやつは元々ドジっ子で、感情制御回路を外してからはもっと拍車が…おっと、いかんのう。つい昔のことを喋ってしもうたわ」

 

苦労話を語るような、それでいてどこか楽し気に語り掛けたところを咳払いで中断した。

 

あんた昔の話をしたがらないくせに結構言いかけるよな。あれか、年食ってるからおしゃべり好き…

 

「何か言いたそうじゃな」

 

「いえ何も!」

 

バレてるぅー!?

 

それにしても今感情制御回路とかすごい物騒なワードが出てきたぞ。あんたまじで過去に何をやっていたんだよ。

 

アルタイル、カノープス、デネボラ、そして13人のクローン姉妹『オリジナルXIII』か。一体どんな人たちなんだろう?しかもカノープスとか、レジスタンスのメンバーは星の名前のコードネームをつける決まりがあるのか?

 

もしそうなら俺だったら…『レグルス』。なんてな。

 

 

 

 

 

 

 

 

備蓄倉庫や小難しい機械や鉱石だらけの研究室を見て回り、楽しい散歩も終わりを迎えようとしていた。

 

「ここで最後、保管室じゃな。今まで開発した兵器を管理しておる、まあ物置と言ってもいいわい」

 

ドアのそばに取り付けられた機械を素早く操作すると、壁に取り付けられた頑丈そうな保管庫が一斉に開いた。

 

「え…これ…あ、おおおおおおおおっ!!!」

 

一斉に俺の眼前に飛び込んできたのは様々な忘れもしないアイテムの数々。

 

ビルドドライバー、カブトゼクター、ファイズドライバー、その他諸々。名前を上げればきりがないレベルに多くのライダーアイテムが並んでいる。

 

「すげぇぇぇ!!」

 

ライダー好きの俺にとってたまらない光景がそこにあった。どれだけ俺を喜ばせれば気が済むんだよ、ポラリスさん!

 

いや待てよ、ここは開発した兵器を保管している場所ということは…!

 

「これもしかして変身できるのか!?変身して戦えるのか!?」

 

「もちのろんじゃ。趣味も兼ねてスキエンティアで編み出した技術を存分に使って開発した…ま、所詮はガワだけで中身は全く別物じゃがの」

 

軽く笑って頷き、俺の問いに是を示した。

 

ポラリスさんは無数にあるライダーアイテムの中から一つ、金色の装飾のついた紫色の銃『ネビュラスチームガン』を手に取る。

 

「ちなみにガワだけで中身はまるっきり別物なのでネビュラガスを投与しなくても変身できるぞ」

 

器用にくるくるとスチームガンを回し、白とターコイズブルーの歯車が嵌められた手のひらサイズのアイテムを差し込んだ。

 

〔デュアル・ギア!ファンキーマッチ!〕

 

「いちいちギアを抜き差しするのが面倒と思って、思い切って一つにまとめてみたのじゃ」

 

確かに、ネビュラスチームガンで変身するエンジンブロスとリモコンブロスの合体形態、ヘルブロスの変身にはいちいち変身に必要なギアを抜き差ししないといけないからな。実戦で使う分には面倒な点だ。

 

それを二つのギアを一つにすることでその欠点を解消したのか。

 

スチームガンを前方に向け、凛然と言葉を放つ。

 

「潤動」

 

〔フィーバー!〕

 

トリガーを引くと黒い煙が溢れ出し、その中に輝く白とターコイズブルーの歯車が出現する。

回転する歯車をその身に纏い、黒い装甲に歯車を装着した奇妙なシルエットの戦士が現れた。

 

〔Perfect!〕

 

「ヘルブロス、参上…なんての」

 

軽く髪を撫でるような動作をして見せるが、残念ながら変身中なのでスーツの中にすっぽり収まっている。

両の手をぐっ、ぱっと開く。

 

「性能は原作よりも大きく向上しておる。表に出て介入するときにはこれを使うようにしておるが…専用で作ったものでない以上、やはりこれでは妾の力を十全に発揮できん。しかし力を出し過ぎて大きな破壊の跡を作るのを防ぐという点では役に立つのじゃがな」

 

あくまで隠密行動をしたいわけか。そういえばヘルブロスには透明化できる機能もあったな。それに加えてフルボトルを使えばより戦略の幅は広がる。

 

こんな物をこの一時間も経たない間にたくさん見せられて心躍らない俺ではない。感動すらするほどなのだが…同時にこうも思った。

 

「思ったんだけどこんなに秘密をベラベラ喋っていいのか?」

 

先ほどからポラリスさんは散歩と称して様々なレジスタンスの情報を俺に公開している。

 

レジスタンスという組織の枠に縛り付けることなくかなり俺を自由にさせているが、そんなのできっちりした情報の管理ができているとは思えない。今回のスキエンティアもそうだが組織の核といってもいい情報を持った俺を自由にさせていいのだろうか?

 

「問題ない。おぬしは妾を裏切らないからの…いや、裏切れないと言うべきか」

 

「何でそう言い切れるんだよ」

 

「仲間思い、妹思い、その根底にあるのはおぬしの他人を思いやる優しさじゃ。無意味に他者を傷つけることができないヘタレなおぬしがグレモリー眷族たちに危害を加えるつもりが毛頭ない妾を裏切ることはないし、力に溺れて獣と化すこともない」

 

全てを見透かすような赤い目がヘルブロスのマスクの裏から俺を見る。その言葉は不気味なほどに俺の心を読み取っていた。

 

今のセリフを言えるのも、いろんな世界で色んな人を見てその人の心を知ったからだろう。いわゆる年の功というやつか。

 

「俺は兵藤たちにあんたたちのことを喋るかもしれないぞ」

 

それこそ修行前夜でゼノヴィアに喋りかけたように。グレモリー眷族とレジスタンス、仲間に秘密を作って動かなければならない俺の気持ちが俺より長生きしていろんな経験をしてきただろうあんたに分からないはずがない。

 

「その時はその時じゃ、おぬしが妾達を利用しているように妾とておぬしを利用しているのじゃからな」

 

そう言うポラリスさんは随分な余裕を感じる。秘密が漏洩しても幾らでも対処する手段はあるってことか。

 

今日の話によればスキエンティアで世界中のパソコンやら監視カメラや端末から情報を得ているようだし、さらには世界中の扉からここを繋いで現れることもできるし逃げる手段はほぼないに等しい。

 

…あれ、これって俺の性格抜きにして物理的にも裏切れないんじゃ?裏切ってどこか遠い場所に逃げても見つかって首はねられるんじゃね?俺が凛にやられた時のイレブンさんの気迫なら本当にやりかねない。

 

それとも、他意はなく俺を信じているってことなのかもしれない。何だかんだでポラリスさんはお人好しだからな。じゃなきゃ二度もへこんだだらしない俺に発破をかけたりしない。

 

もう裏切るなんて物騒なことを考えるのはよそう。今必要なのは、状況を打破するために仲間を信じ、その手を取ることだ。まだ問題は『禍の団』だったりと山積みなのだから。

 

「…そういえば、こんなに広い基地なのになんで誰ともすれ違わないんだ?ほかのメンバーはどこにいるんだ?」

 

レジスタンスという組織であるからには多くのメンバーがいるに違いない…のだが、この散歩、いや今までこの基地に顔を出す中で一度も二人以外の人間に会ったことがない。

 

「妾達しかいないのじゃから当然じゃろう」

 

そうポラリスさんはとんでも発言を……ん?

 

「……は?」

 

突然のカミングアウトに思考が驚愕の色に塗りつぶされる。

 

妾達しかいない?それは…。

 

「あ、今まで言わなかったかの?レジスタンスのメンバーは妾、イレブン、そしておぬしの3人のみじゃ」

 

「えっ」

 

たった3人?レジスタンスが?

 

「ええええええええええっ!!?」

 

たった3人しかいない船の中に、俺の絶叫が響き渡る。

 

夏の最後に、何気なくトンデモない事実を明らかにされた俺なのだった。

 

ちょっとだけ、レジスタンスに入ったことを後悔した。

 

 




ポラリスは某アガレスのガノタが見たら泣いて喜ぶものを山のように持ってます。

色々ライダーのアイテムを出しましたが基本的にはスペクター、ネクロム、ヘルブロス、そしてあともう一人のみを本作では出すつもりです。それ以外のライダーの登場予定は一切ありません。

次回からホーリー編です。それが終わったらドキレディか、あるいは活動報告にまた裏話集でも上げようかと思います。


次章予告

「イッセー君、ゼノヴィア!おっひさー!」

新たに学び舎にやっていたのはかつて行動を共にしたパートナー。

「あなたの『僧侶』をトレードしていただけませんか?」

アスタロトの坊ちゃんは魔王の妹君の地雷原に足を踏み入れる。

「堕天使に天使、果てにはオーディンか…以前の俺なら目を輝かせただろうに」

戦乱のフィールドで銀髪の狙撃手は息を吐く。

「お前は何を願った!?」

仲の良かった兄妹は争い合う。

死霊強襲編 第三章 体育館裏のホーリー

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