ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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今章の外伝はクレプスとル・シエルをメインにする予定です。初の、主人公が登場しない回になるかも。

間に合いませんでしたが昨日3月27日で、初投稿から一年になります。順調に、コツコツ地道に作品を続けられるのも読んでくださる皆様のおかげです。ハーメルンの物書き二年生になるバルバトス諸島を今後ともよろしくお願いします!

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第54話 「お似合いのコンビ」

「やべぇ、寝坊した」

 

早朝の駒王学園、その体育館の更衣室。夜明けの仄暗さを残した朝日が窓から差し込む。

 

ここにいるのは、兵藤からアルジェントさんとの二人三脚の練習に協力してほしいと頼まれたゼノヴィアに「お前も来い」と半ば強引に呼ばれたからだ。

 

最近体育祭の練習で疲れが溜まってるから休ませてほしいんだが、やはり悪魔と人間の体力は違うってことなのか?

 

「しかし、まさかディオドラとあたるなんてな」

 

急いで体操着に着替える俺の脳裏に浮かび上がるのは昨日あった発表のことだ。

 

つい先日、若手悪魔同士の試合でグレモリー眷族と最近の悩みの種、ディオドラ率いるアスタロト眷族の組み合わせが発表された。

 

シトリーとの試合以降、若手悪魔の会合に参加した他の家同士でもレーティングゲーム形式の試合が行われることになり、アガレス家を打ち負かしたアスタロト家のディオドラと戦うことになったようだ。

 

どうやら最近、アルジェントさんに絶賛求婚中の奴はラブレターはもちろんお近づきのしるしにと高級レストランのディナーチケットだったり色んなものを兵藤宅に送っているらしい。中には高級店のクーポンだったり、逆にこっちが欲しい位の物も中には混ざっているが部長さんが処分している。

 

もったいないな…実にもったいない。なんて思うけど使ったら使ったであんな野郎の物を使うなと皆に怒られるからよそう。

 

着替え終わるとすぐに更衣室を飛び出し、集合場所の体育館裏へと駆け出す。

 

すでにいた兵藤やアルジェントさん、ゼノヴィアもドタバタとした俺の足音に気付いてこっちを向いた。

 

「ごめん、遅れた!」

 

…。

 

俺の登場にびっくりしたのか、微妙な沈黙が流れた。

 

「…あれ、もしかしていい感じの雰囲気だったか?」

 

話の途中で割り込んでしまったパターンだろうか。それなら悪いことをしたな。

 

「気にすんな、ディオドラのことで話してただけだ」

 

軽く笑って、兵藤は俺の心配を消してくれた。

 

それか、あの男は自分の人生が大きく変わるきっかけとなった人物だ。アルジェントさんなりに思う所はあるだろう。

 

「あんなスカした野郎のとこにアーシアを嫁には出さねえ、アーシアも嫌なら嫌だってはっきり言っていいってな」

 

兵藤はそう、決意ある表情で言った。いつもの学園の覗き魔でなく、オカ研の頼れる熱血漢としての顔だ。

 

「…アルジェントさん自身はどうなんだ?」

 

「私は…この町も、この学校も、オカ研も大好きです。イッセーさんの両親や皆と暮らせる毎日がとても幸せです。だから、元の生活に戻れるとしても私は戻りません、イッセーさんと一緒にいたいです」

 

アルジェントさんは優しい笑顔で、自分の胸に抱く思いを語った。…こんな、こんなプロポーズまがいのことを言わせるなんて本当に。

 

「…お前も罪な男だな」

 

「どういう意味だよそれ!?」

 

この鈍感野郎め。本当に、色欲に真っすぐでなければいい奴なんだがなぁ。

 

「…アーシア、私は今でも悔いているんだ。君を『魔女』だと罵ってしまったことを、こんな私が君の友達でいいのかと…私が、友達でいても…」

 

ゼノヴィアも思いつめた表情で、アルジェントさんに本音を語った。

 

魔女の一件、どうやら相当兵藤たちを怒らせたらしいからな。許しを貰ったとしてもやはり心につっかえは残り続けるだろう。友として交友を続けるのならなおさらだ。

 

「私とゼノヴィアさんは友達です、済んだことですしもう気にしてません」

 

アルジェントさんはゼノヴィアの思いを優しく受け止める。

 

「…ありがとう、ありがとうアーシア…!」

 

屈託のない笑顔と言葉についにはゼノヴィアも泣きそうになり顔をくしゃっとした。

 

オカ研の教会コンビ、これからも仲良くしろよ。

 

「それから…紀伊国さん」

 

「えっ」

 

お、俺か!?この流れで何か俺に言いたいことがあるのか!?思わず素っ頓狂な声が出てしまった!

 

「私のこと、アーシアって呼んでくれませんか?紀伊国さんだけアルジェントさんと呼ぶので、私、何か困らせるようなことをしたんじゃないかと思って…」

 

「…え、それだけ?」

 

呆気にとられた。その話をされるとは今までの流れから思いもしなかったからだ。

 

「そう言えば、お前だけアーシアの事ファミリーネームで呼んでるよな」

 

「何か理由があるのか?」

 

「あ、いや…」

 

ああ、言われてみればそうだな。

 

俺は女性に対して苗字で名を呼んでいる。別にアルジェントさんと気まずいことがあったってわけでなく、それには思春期の男子特有の気恥ずかしさというか、恋愛とかそういう訳でもなく、なんというかそう言った青い春な感情があるからだが。

 

例外は妹の凛くらいのもんだ。…あれ、ゼノヴィアのファミリーネームってなんだ?

 

朱乃さんのように、本人からそう言ってほしいというなら…。

 

「い、いや特にないんだが、それなら…アーシアさん、で」

 

「はい!」

 

恥ずかしながらもそう呼ぶと、笑顔で返事が返ってきた。やっぱり、慣れるには時間がかかるかな。

 

「ヤッホー、皆!」

 

朝から元気のいい声を発しながらこっちにやってくるのは紫藤さんだ。俺達と同じく、体操着を着ている。

 

「来たか」

 

「あれ、紫藤さんも?」

 

「ゼノヴィアに誘われたのよ、早朝の学校もいいぞってね。そしたらこんな美しい友情の一幕が見れるなんて…これも天の導きね!」

 

感動したと言った様子で、祈りを捧げる紫藤さん。

 

うん、今日も平常運転だな。

 

「そういえば紫藤さんはオカ研じゃないんだっけ」

 

異形関係者かつ俺達と同じクラスで、よく俺達とつるむことが多いからてっきりそう思いがちだが実は紫藤さん、オカ研に入部していないのだ。

 

…その割には部室によく顔を出すのだが。

 

「そう、折角だから自分でクラブを立ち上げることにしたの!名付けて、『紫藤イリナの愛の救済クラブ』!まだ会長の正式な許可は貰ってないけどね!」

 

「ダメじゃねえか」

 

なんだその胡散臭さ満点かつ自己主張の激しい部活名は。オカ研よりひどいぞ。

 

「だから一応籍はオカ研よ!リアスさんのお願いで部活対抗レースの練習をお助けするわ!」

 

「やっぱオカ研じゃねえか!」

 

女装趣味、浮世離れしたクリスチャンの悪魔、学校一の覗き魔、本当にオカ研は変人の巣窟と言うか、類は友を呼ぶというか…。

 

いや俺は変人のつもりはないからな?

 

「さあ、全員揃ったことだし練習を再開しよう」

 

ゼノヴィアの一声で、俺と紫藤さんを加えての練習が始まった。

 

途中何度も転げそうになったが、練習を重ねてようやく競歩ぐらいの速さは出るようにはなった。練習した甲斐はあったもんだ。

 

練習にひたむきに打ち込む兵藤と一緒に走るアーシアさんはとても楽しそうで、幸せそうだった。

 

…そうだ、俺は自分の大切な者を、平穏な日常を守るだけじゃない。その大切な人にも幸せだと思える平穏な日常があるのだ。

 

テロリストが相手だろうがなんだろうが、俺は皆の日常を守りたい、そしてその輪の中にいたい。

 

俺はそう、皆の日常を天から見守ってくれる太陽が昇る青空に願った。

 

 

 

 

 

 

「…お前ら四人揃って何しようとしてたの?」

 

「私はアーシアがイッセーと乳繰り合うことでよりコンビネーションを高めようと…」

 

「何でこのタイミングなんだ」

 

「ベッドでシた方が清潔よね?」

 

「一体何の話?」

 

「わた、私はい、イッセーさんと…」

 

「うんわかったわかった!無理に言わなくても…」

 

「ナニをしようとしました」

 

「お前はだぁってろ!」

 

結局、俺と紫藤さんで三人への説教タイムで早朝練習は終わった。

 

俺が片付けでちょっと目を離したすきに用具倉庫でなにやらいかがわしいことをおっぱじめようとしていたらしい。

 

なんで爽やかな雰囲気のまま終わらせてくれないの?

 

 

 

 

 

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その日の放課後、紫藤さんを除くオカ研部員がいつものどことなく部活の名前に恥じない不気味さを醸し出す部室に集合した。

 

今日の活動の前に、近々行われるアスタロト戦に備えての研究でアスタロト家と大公アガレス家の一戦と大王バアル家とグラシャラボラス家の一戦のビデオを見ることになった。

 

一応のオカ研部員である紫藤さんは天界側のスタッフの仕事で来ていない。なんでも、レイナーレと二度目に戦った時に来た教会を改修して拠点にするのだとか。

 

ああいう寂れたところってのははぐれ悪魔の潜伏先にはもってこいだからそうなってよかった。

 

「まずは私たちグレモリーとシトリーの試合の次に行われた、サイラオーグ・バアルとゼファードル・グラシャラボラスの一戦ね」

 

部長さんが部室に持ってこられた大画面のスクリーンが目を引く機械、それにディスクを入れた。

 

ちょっとすると画面に映像が映った。

 

映像の中で西洋の騎士のような銀の鎧を身に纏い、馬のような生き物に跨るバアルの『騎士』がゼファードルの『騎士』と打ち合う。しかしバアルの『騎士』の瞬間移動と見まがうほどのスピードにゼファードルの『騎士』は反応しきれず、鋭槍の一突きにてリタイヤさせられた。

 

他のバアル眷属たちも各々の長所を生かした攻撃で、着実にグラシャラボラス眷属を撃破していく。

 

大王バアル家の次期当主、サイラオーグ・バアルの率いる眷属、その誰もが高水準の実力を持っている。後で知ったのだが彼らは皆元七十二柱に属する悪魔の血を引いていた。

 

戦いは終盤、まるで様式美であるがごとくバアルの男、サイラオーグ・バアルとグラシャラボラス家の凶児と忌み嫌われたゼファードル・グラシャラボラス、『王』の一騎打ちが始まった。

 

どの試合も、最終的には『王』同士の一騎打ちになってしまうらしい。それが一番わかりやすく、盛り上がるってのもあるんだろうが…

 

「…強い」

 

誰かがそんな言葉を漏らした。その戦いは一方的とすら言えた。

 

服を着ても隠せないほどに筋肉粒々とした逞しい肉体を持つサイラオーグ・バアルはゼファードルの魔力攻撃の直撃を受けてなおびくともしない。

 

お返しにと返ってくるのはその剛腕から放たれる凄まじいまでのパンチ。ただの、パンチ。

 

たったそれだけのものがゼファードルの魔力をぶち破り、その拳圧が遠くの岩を容易く砕いた。

 

その様にゼファードルは冷汗を垂らし、瞠目した。焦り、そして恐怖すら覚えたゼファードルは今度はひたすらに魔力を撃ち始めた。俗に言う、グミ撃というやつだ。

 

大量に、矢継ぎ早に放たれた上級悪魔らしく強大な魔力が試合開始から堂々した振る舞いを崩さないサイラオーグに殺到し、大音量の爆発、そして破壊が起こった。

 

しかし爆炎は一息に消される。サイラオーグの放つ気合と呼ぶべきか、そのようなものによって吹き飛ばされた。

 

ゼファードルの猛攻を受けたサイラオーグだが、服がボロボロになったぐらいでサイラオーグ自身には大した、いやほとんどダメージは入っていない。そして威風堂々たる立ち姿を全く崩さない。

 

『お前の全力はそんなものか、グラシャラボラスの『凶児』よ』

 

『ひ…!』

 

ゼファードルは今度こそ、完全に絶望した。顔を真っ青にし、絶望の色に染まり切りじりじりと後ずさる。

 

「ゼファードルの奴、手も足も出ないってか」

 

「ゼファードルも弱いってわけじゃない、今回はグラシャラボラス家の前次期当主が亡くなったから代理で参加している…だが、相手が悪かったな」

 

そしてついにサイラオーグの丸太のように太い脚から放った回し蹴りを受けたゼファードルのリタイヤによって勝負は終わりを告げた。

 

映像が終わり、部室にしんとした空気が流れた。アザゼル先生以外のここにいる誰もがあの逞しい肉体が放つ圧倒的なパワーとスピード、そして堅牢さに圧倒されたのだ。

 

「サイラオーグはお前らと同じ、修行をするタイプの悪魔だ」

 

先生はその空気を破るように言った。

 

「生まれながらに持つはずだった大王の証、『滅びの魔力』を持たず、代わりに才能を持って生まれたのはリアスとサーゼクスのグレモリーの従兄妹だった。奴は悪魔として無能の烙印を押され敗北に敗北を重ね続けた。だが、それと同時にそれ以上に尋常じゃないレベルで修練を重ねたんだよ」

 

大王バアル家、現魔王に匹敵、あるいは凌駕するほどの影響力を政界で持つとされる上位の悪魔のトップ。その次期当主が貴族の華とは遠くかけ離れた人生を送って来た。

 

意外も意外。そんな男が悪魔の上流階級にいるという事実は大いに俺を驚かせた。名家に生まれた部長さんや会長さんたち上級悪魔は皆、生まれながらに強力な魔力を持ち、恵まれた環境に生きていくのだとばかり思っていた。

 

しかし血統主義の残る悪魔社会では、たとえ大王の血筋だとしても才能がなければ厳しい人生を歩まざるを得なくなってしまう実力主義の面もまた持ち合わせていたのだ。

 

ゼファードルを容易く打ち倒したあの男があのレベルに至るまでに一体どれほどの辛酸をなめ、自らを鍛え上げてきたことだろう。

 

「純血悪魔にしては希少も希少、奴は修行と言う他の上級悪魔が絶対にしない方法で己を鍛え上げてのし上がり、若手最強とすら呼ばれるようになったのさ」

 

オルトール先生が上級悪魔は才能はあるのに修行をしないもったいない連中だと言っていたのに、その上級悪魔であるサイラオーグに期待しているってのはこのことだったのか。

 

あの姿を、あの強さを俺はしかとその目に焼き付けた。悪魔らしく魔力でなく、己の肉体一つで敵を撃ち滅ぼす大王バアルの悪魔、若手最強の男、サイラオーグ・バアル。

 

「サイラオーグはあの戦いで本気を出していない、一応6家の『王』のスペックを分析したグラフではゼファードルは奴の2番目にパワーが強かったんだがそれでもあの有り様だ」

 

それだけあの男のパワーが6人の中で突き抜けているってことか。とんでもないパワータイプがいたものだ、こっちもデュランダルや赤龍帝という馬火力揃いだというのに、それでも足りないと思わされる。

 

兵藤が映像を見る中でふと何かに気付いたようだ。

 

「…あのゼファードルの目、心を折られた奴の目だ」

 

「俺を見て言うのやめてくれない?」

 

こら兵藤、コカビエル戦のあれは本当に反省してるからやめてくれ。あの時の俺はまだ青かったし…いや、変身すると青くなるな、物理的に。

 

だがゼファードルの気持ちもわかる。圧倒的な力を前にして、己を保つってのは本当に難しい。そして一度屈してしまった恐怖に打ち克つのはそれ以上に難しい。奴も以前の俺と同じ様に精神的には未熟だったということだ。

 

だがあの恐怖を乗り越えたらゼファードルもきっと俺のように強くなれるんじゃないだろうか。

 

「あいつはもうリタイヤだな、完全に心を折られちまってる。このゲーム、グラシャラボラス家が抜けて残る5家の試合になる。お前らがディオドラと戦った次はサイラオーグで決まりだ」

 

「…!」

 

「お前ら、本当に気をつけろよ。奴は魔王になるという目標を叶えるために全力で潰しにかかる。生半可な覚悟で相対できるレベルじゃない、お前らも強い覚悟と意思を持たないとゼファードルのように折られるぞ」

 

アザゼル先生の真に迫った言葉に皆は静かにうなずいた。あの男と戦う事実に、今からでも緊張している。

 

…いやー、あんなのと戦う羽目にならなくて本当によかった。あんなパンチ喰らったら変身してても一発で変身解除に追い込まれそうだ。生身なら仏になるのは確定だ。ちょっとだけグレモリー眷属になれなくてよかったと思ってしまった。

 

手ごわい相手だが逆にあれを越えることができたら、相当に強くなってるだろうな。若手最強、レーティングゲームへの公式参戦を目指す部長さんにとって避けられない壁だ。

 

部長さんはさっきまで映像を流していたモニターからメディアを取り出し、別のメディアへと入れ替えた。

 

「それじゃあ次は、アガレスとディオドラの…」

 

すると突然部室の床に魔方陣が浮かび上がった。見知らぬ紋様、サーゼクスさんのようなルシファーのものでもない。皆の視線がスクリーンから一気に突如として現れた魔方陣へと向いた。

 

「あれはアスタロトの…」

 

そして魔方陣が一際明るい光を放つと、そこにいたのはあの男だ。

 

初めて会った時と同じく、優しい笑みを浮かべ深緑の貴族服を纏う緑髪の好青年。

 

「ごきげんよう、グレモリー眷属の皆様。今日は一つ、話があってここに来ました」

 

最近のオカ研の悩みの種、ディオドラ・アスタロト本人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「却下するわ」

 

部室に凛然とした厳しい声を響かせ、部長さんはディオドラの話に否を突き付ける。

 

「そうですか、でしたら…」

 

「そういう話じゃないの」

 

不快感を強くしてディオドラの話を遮る部長さん。

 

アポなしで訪ねてきたディオドラが申し出てきたのはなんと眷属のトレード。

 

悪魔の駒にもトレードと言うポ〇モン交換のようなシステムがあり、同じ駒同士で互いの眷属を交換できるのだ。ただしレーティングゲーム前などでは一部制限がかかることもあるらしい。

 

そして奴の狙いは言わずもがなアーシアさんだった。眷属悪魔の情報が載っているらしいカタログを取り出したところに部長さんがノーを突き付けた。

 

「私はアーシアを、眷属という関係以上に妹のように思っているの。能力とかそれ以上にアーシアに対する情がある、だから手放したくないというのはどうかしら?」

 

「部長さん…!」

 

妹と言う言葉にアーシアさんは嬉しさのあまり目を潤ませる。家族を知らないアーシアさんにとって、自分の娘のように思い、愛情を注いでくれる兵藤の両親の存在は大きいという。

 

今の言葉が、一体どれほどアーシアさんの救いになったことだろうか。

 

「それにあなた、結婚の意味を分かっているの?意中の相手をトレードで手に入れようなんて、アーシアは物じゃないのよ」

 

迫力のある笑顔で、呆れを通り越して怒りすら感じる声色で言い放った。

 

…おお、部長さんが結婚の話をすると説得力があるな。しかしどんなに言われても、ディオドラは全く笑みを崩さないままだ。まるで顔に張り付いた仮面のように。

 

「…わかりました。今日の所はここまでにしておきましょう」

 

渋々ながらもディオドラはおもむろに腰を上げる。

 

今日の所は、ってまだ諦めないつもりか。よほどアーシアさんにご執心のようだ。何度も贈り物をしてる時点でもあれだが、直談判して断られてもまだ諦めないなんていよいよだ。

 

「ですが僕は諦めるつもりはありません。アーシア、たとえ運命が僕と君の仲を裂こうとしても必ず君を僕の下に迎え入れてみせるよ」

 

そう言うとディオドラはさっとアーシアさんに跪き、綺麗な手に軽くキスしようと顔を近づける。

 

傍から見れば少女漫画のワンシーンを連想させる一場面だが、その無神経がある男の怒りを呼び覚ました。

 

「……!」

 

堪忍袋の緒がついに切れたか。憤怒の表情で兵藤が二人の間にずかずかと割り込んで、ディオドラの肩を掴み無理矢理立たせた。

 

「…その手はなんだい?薄汚いドラゴン君」

 

「テメエいい加減にしろよ、こっちが黙ってりゃ好き勝手やりやがって…!」

 

ディオドラのにこやかな目線と怒りを滾らせる兵藤の視線が交錯する。

 

まずいな、完全にスイッチが入ってる。ディオドラも余計なことを最後にしてくれたもんだ、だが今は兵藤を止めないと…。

 

しかし向こうもこのまま黙っているはずがなく、乱暴に肩を掴む手を振り払った。

 

「君のような程度の低い存在に触れられるなんて不快だね…!」

 

笑みを崩さないまま嫌悪感を露わにして服に付いた埃を払うように、さきほど兵藤が触れた部分を念入りに手ではたいた。

 

こいつ、腰の低いけどしつこい優しそうな坊ちゃんだと思っていたら本性表しやがったな!皆も俺と同じことを思ったらしくアーシアさんの件で感じていた怒りがさらに燃え上がるのが雰囲気に出た。

 

一触即発、次のディオドラの発言次第では誰かが攻撃を始めるかもしれない空気の中。

 

パシン!

 

そんなディオドラの頬に一発のビンタが放たれ、乾いた音が空を震わす。

 

突然すぎる出来事に部室内がしんと静まり返る。そんなディオドラに最初に手を上げたのは怒りに燃える兵藤でも、部長さんでもなく。

 

「イッセーさんにひどいことを言わないでください!」

 

興奮して顔を赤くしたアーシアさんだった。

 

俺はその姿に言葉をなくした。初めて見た、アーシアさんが人に手を上げるところなんて。あの誰よりも優しくて、虫すら殺せないような純粋なアーシアさんが相手を傷つけたのだ。

 

「…!」

 

部室にいる誰もが、ディオドラでさえも今のアーシアさんに驚いている。流石のディオドラもアーシアさんの方から手を上げられるとは思っていなかったらしく、今まで変化することのなかった笑みが初めて消えた。だが…。

 

「…やれやれ、嫌われてしまったかな」

 

驚いた表情をすぐにいつものように微笑の物へと切り替えて、ビンタを打たれた頬をさするディオドラ。ここまでくると不気味とすら思ってしまう。

 

だが、それである程度溜飲が下がったか皆の空気が落ち着いていくのがわかった。このまま大人しく帰ってくれたらいいのだが…という自分の考えは甘かった。

 

ふっとディオドラが視線を俺に向けた。

 

「おや、もしかして君は噂の推進大使とやらじゃないかい?」

 

今度は俺か、こっちからは特に何もしていないが…そもそも言葉を交わしたことすらないぞ。俺から向こうに思う所はあってもむこうには…。

 

「何やら推進大使だと言われているようだけど、所詮はただの人間だよね」

 

「…まあごもっともで」

 

奴はバカにした調子ではっきりそう言った。

 

そう来たか。

 

奴はただ事実を言っただけだ。俺がただの人間、そんなことは俺が一番よくわかってる。

 

だが、その言い方と言葉に含んだものには心からの侮蔑があった。

 

悪魔が皆、部長さんや兵藤のように良い奴ばかりってわけじゃない。むしろそれが少数派なのはわかっている。

 

契約のための食い物、あるいは魔力を持つ自分達に劣る下等な生き物、そう人間を認識している悪魔が、特に上流階級に多いのはアザゼル先生から聞いた。

 

「ただの人間風情が、僕たち貴族悪魔の世界に出しゃばってくるのは思い上がりも甚だしいと思うんだ。最近新聞にも載ったみたいじゃないか、『和平協定推進大使、襲撃者を撃退す』ってね」

 

あ、そういえばそうだったな。

 

丁度冥界から帰る一日前に部長さんが見せてくれた新聞、パーティー会場の襲撃が見出し一面にでかでかと取り上げられている中に、紙面の隅にひっそりと記事が載っているのを見た。多分、人形と戦っている時に助けた上級悪魔が新聞社に書いてくれなんて言ったんじゃないだろうか。

 

ちょっとだけだとしても新聞と言う大衆の目に触れるものに自分が載るのはやはり気恥ずかしい。兵藤たちにはすごいじゃないかと自分のことのように嬉しそうに言われた。

 

一応の肩書を貰った以上、仕方ないことなんだが…それでもやはり恥ずかしいと感じてしまう。

 

「あまり気持ちのいい物じゃないなぁ。華やかな貴族悪魔の世界にとって、はっきり言って君は異物なんだよ」

 

ディオドラは優し気な笑みとは正反対の悪意すら感じる笑みを俺に向けてくる。

 

流石に人の前で異物とまで言われるとくるものがあるな…こう、頭に。だがそれでこいつを殴るのは違う。何故なら…。

 

「テメエ、俺だけじゃなく紀伊国までバカにするのかよ…!!」

 

「おい兵藤!」

 

アーシアさんの行動にびっくりして、ある程度怒りの静まった兵藤だったがディオドラの発言に再び怒りの火が再燃した。

 

折角収まりそうだったのにまた兵藤の怒りの炎を点火しやがって!ダメ押ししようとするディオドラもディオドラだが!

 

それでもディオドラは余裕を見せ、むしろ煽るのを楽しむかのように愉快気にハハハと笑う。

 

「おやおや、薄汚い転生悪魔のドラゴンと貧弱で下賎な人間同士、仲がいいみたいだね。お似合いのコンビだよ」

 

「テメ!」

 

「やめとけ!」

 

怒りの炎に油を注がれ、今度こそ神器を起動させて兵藤はディオドラに殴りかかろうとする。そんな兵藤を慌てて肩をガッと掴んで制止する。

 

「あれだけ言われて悔しくねえのかよ!?」

 

「何とも思わないわけないだろ。でもその怒りは試合で本人にぶつけるまで溜めとけ、ここで問題を起こせば部長さんの顔に泥を塗ることになるぞ」

 

怒りの表情で振り向く兵藤を、ディオドラに対してふつふつと内から湧き上がるものをぐっとこらえながらも諫める。

 

あんなやつでも魔王ベルゼブブを輩出した名門アスタロト家の次期当主、それなりの身分を持っているあいつをここで攻撃して問題を起こせば兵藤の主たる部長さんにも迷惑がかかる。

 

最悪奴がそれを利用して謝罪と一緒に賠償金のようにアーシアさんを要求する可能性だってある。

 

俺だってあんなくそったれに好き勝手されて、あげく自分を虚仮にされてイラついてはいるが、怒りのままに奴を殴り飛ばすのは利口じゃない。

 

さっきからやたら煽ってくるのもそれを狙っての行動だろう。

 

「だから、今は堪えるんだよ。それが今できる最善の対処だ」

 

「…くそっ」

 

なんとか俺の話に納得し、渋々ながらも苦虫を嚙み潰したような表情で怒りを鎮めた兵藤。それを見てとりあえずは肩を掴む手を離した。

 

しかしディオドラに向ける敵意までは押し殺せず、というよりむしろ隠そうともしない。敵意交じりの視線をディオドラに睨み付けるように送り続けている。

 

涼しい表情で兵藤の視線を意に介さないディオドラは俺を見てわざとらしく感心したと言った声を上げる。

 

「へえ、そっちの赤龍帝くんと違って冷静だね」

 

「自分がちっぽけな人間なのは理解しているつもりだよ。お前、部長さん達と試合するんだろ?」

 

最近の黒星続き、天使化した紫藤さんに走りで負け続けりゃ嫌でもわかる。隣に立つ兵藤の肩を軽くたたくように掴む。

 

「兵藤はこの一件の怒りを存分に赤龍帝の力でお前にぶつける、俺は兵藤たちにボコられ無様な姿をさらすお前を見て拍手喝采、感謝感激の雨あられだ」

 

普通に力を振るって相手を攻撃すれば罪になるが、レーティングゲーム形式の試合という己の力を存分にふるうことができ、合法的に鬱憤を晴らせる機会があるのだ。それを利用しない手はない。

 

俺はその場で戦いを通じて恨みをぶつけることは出来ないが、奴の無様な姿を観戦して溜飲を下げることならできる。

 

自分でもわかる不敵な笑みというものを浮かべて、真っすぐに言い放つ。

 

「俺の怒りは、敗北したお前の姿を見て存分に発散させてもらおうか」

 

「……!」

 

手は出さない、その分兵藤たちが試合でやってくれるだろうからな。だが言葉だけならただのはったりだとしても幾らでも言える。

 

散々人を虚仮にしてくれたんだ、これくらいはさせてくれなきゃ気が済まないと言うものだ。

 

挑発返しに奴は張り付いたような笑みを崩さない。しかし完全に流せたわけではないらしく眉をひくひくさせている。

 

「ダメ押しだ、お前も何か言ってやれ」

 

「あ、おう…」

 

そう言って兵藤の背中を叩いて前に押してやる。そして、真っすぐディオドラと向かい合って一言。

 

「テメエが馬鹿にしたドラゴンの力、存分に見せてやるよ!」

 

…決まったな。

 

「…言っておくけど、僕みたいに人間でありながら悪魔の世界に位をもって踏み込もうとする君に不快感を持つ貴族は少なくない。自分の身が惜しければ過ぎた真似はしないことだね」

 

「ご忠告痛み入るよ」

 

捨て台詞めいた言葉を吐いたディオドラ。奴が転移魔方陣で帰ろうかという所にアザゼル先生が何か通信魔法で情報を受け取ったようだ。

 

「ジャストタイミングだ。リアス、ディオドラ、試合の日程が決まったぞ…5日後だ」

 

「そうですか…次の試合で、すべてを決めようじゃないか。僕が勝ったら、アーシアを渡してもらおう」

 

「上等よ、絶対に勝ちは譲らないわ」

 

両者、『王』同士の戦意に満ちた視線が一瞬交差する。その後すぐにディオドラは転移魔方陣で帰っていった。

 

今度の試合も、シトリー戦のように俺にはどうすることもできない。ただ一つ、部長さんたちグレモリー眷属の勝利を願うこと以外は。

 

 

 

「二度と来るな、あの野郎!」

 

「朱乃、塩をまきましょう」

 

「聖水も撒こうか、私も腹が煮えくり返る思いだったよ」

 

「それやったらお前にもダメージ入るだろ」

 

 

 

 

 




イリナと悠はオカ研でもグレモリー眷属でない者同士で一緒に行動する機会が多くなりそうです。例えば10巻とか。

次回、「決戦前の裏で」




1周年記念 2周年に向けての今後の予告的なもの




「ぱぇ……?」

「…殺してしまった、俺が…」

異世界に転生した少年は、戦いと言う現実を知る。


「友達と他愛のないことで笑って、平穏な日常を送りたいって願うことの何がいけないってんだよ……」

命の重さに、戦いの苦しさに心を砕かれた。


「―願え、大切な者を守りたいと。運命の扉を開けるカギは、おぬしの中にある」

「俺は、仮面ライダースペクターだ!」

しかし、立ち上がった。『力』を使うことの意味を誓いにして――


「紀伊国悠、貴様を抹殺する」

そして、世界を越えて因果は巡り合う。








ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼 一周年目

死霊《ネクロム》の強襲、その先へ――










「おぬしに極秘任務を任せよう」

「つまり、あなたの後輩です」

北極星《ポラリス》の導く道の先に。


「君はこっち側の人間なんだよ」

「貴様とは戦ってみたかった。『英雄』の力を使う者と、その『英雄』の名を継ぐもの同士でな!」

人間の高みを目指す者達が、動き出す。


「『神祖の暴食の仮面』を…我が…もとに…ぃ」

「どうやらここはアタリのようね」

旧魔王の魂を求める者達の暗躍。


「此度の一件、煩わしいグレモリー眷属を葬るには丁度いい」

「これが、私の新たな力です」

破滅の先導者たちの思惑がもたらす混沌。




意思と意思は絡み合い、生まれる因果の果てにあるモノとは――




『この世界に生きる若人たちに告ぐ』

「今から俺は…」










『汝ら、この世界を守ってはくれまいか?』


「お前らに、俺の真実を話す」









ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼 

2周年に向かって、走り続けます!よろしくお願いします!

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