最近某番組で獅子座のレグルスが『王の星』と呼ばれてますけど、実はレグルスは『ロイヤルスター』という四つの王の星の一つでしてね…。4つの王者の星、劇場版でこのネタを使ってくるだろうか。
Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は…
S.スペクター
8.リョウマ
11.ツタンカーメン
13.フーディーニ
「――ディオドラが黒?」
ある日の夜、俺はアザゼル先生から連絡を受けた。久しぶりに一人寂しく我が家で夕飯を食べ、丁度食器の片付けが終わった直後だ。
今家を留守にしているゼノヴィアを含めたグレモリー眷属は全員、なんとテレビの撮影で冥界に行っている。
元々魔王の身内という立場、そして麗しい美貌もあって幅広い層から人気を集めていた部長さんは冥界全土で放送されたシトリーとの試合で眷属含めさらにその知名度を上げた。そうして最近続いている若手悪魔の試合を特集する番組に呼ばれた、ということらしい。
その話を聞いた時、あいつらもテレビデビューするくらいの知名度を持ったのだとしみじみと思った。絶対にその番組を見なくちゃあな。あ、冥界のテレビ番組って普通のテレビじゃ映らないか。…兵藤宅にお邪魔するしかないな。
閑話休題。こうして番組に呼ばれていないため一人家に残った俺に突然連絡してきたアザゼル先生が話したのは、近日グレモリー眷属が対戦するディオドラについてだった。
『先日ヴァーリがイッセーと接触した件を受けて調査したんだが、あいつの言葉通りディオドラは旧魔王派と繋がっていた。おまけにグラシャラボラス家の前次期当主の不審死にも絡んでたことも判明していよいよ真っ黒ってわけさ』
あいつトレードの件で本性表したと思ったらもっと黒いもん抱えていたのかよ。あいつのセリフからして古い悪魔たち寄りの思想を持っていたのはわかっていたが、よりによってテロリストともつるんでいたとは。
グラシャラボラスと言えば、バアルに精神的に再起不能にされたあのヤンキーみたいな恰好したゼファードルという悪魔だ。ディオドラが元々試合に出る予定だった次期当主を殺して、その結果試合に出ることになりサイラオーグ・バアルと戦って心を折られてしまった。間接的に、ゼファードルもあいつの被害者ってことになるのか。
ヴァーリの件というのはつい最近の事、兵藤が悪魔の契約の仕事で夜の団地を自転車で飛ばしていたところなんと和平会談で『禍の団』に与し、アザゼル先生を裏切ったヴァーリと遭遇したというのだ。
戦いが好きでアザゼル先生のもとを去った奴はまた赤白対決を仕掛けに来たかと思いきや、禁手に覚醒し着々と力をつける兵藤の様子をただ見に来ただけだという。そしてその去り際、ディオドラに気をつけろと言う忠告を残した。
あの男が何もしてこなかったというのはにわかには信じがたいが、部長さんがサーゼクスさんやアザゼル先生にこの一件を報告し、かねてよりディオドラを怪しんでいた先生は調査に乗り出した。
しかし、いくらあいつの本性を知っていたとはいえ『禍の団』と繋がっていたというのは驚きだ。あいつのアスタロト家は現魔王ベルゼブブを輩出した名家。政府に近しい魔王の親戚がテロリストたる禍の団と繋がっていたという事実は下手すれば現体制を揺らがせることになりかねない。
…しかしどうして、古い悪魔寄りの思想を持っているにしても現体制寄りの立場を持っていて、かつ魔王の身内であることもあっていい扱いを受けてるであろう奴が旧魔王派に?それにヴァーリがわざわざ俺達に忠告しに来たことも解せない。なぜ敵に塩を送るような真似を?
「それ、本当ですか?」
『ああ、間違いない。アガレスとの試合を観た時から怪しいとは思っていたが…それもオーフィスの『蛇』を使ったとすれば筋が通る』
「パワーアップの効果があるという例の『蛇』ですか」
世界最強という無限の龍神、『禍の団』の首領たるオーフィスが生み出す『蛇』。それは使用者の能力を限界以上に引き出すという。
俺も居合わせた三大勢力の和平会談、そこに乱入した旧レヴィアタンの女カテレア・レヴィアタンも『蛇』と呼ばれるパワーアップ…あるいはドーピングだろうか、アイテムを使用してアザゼル先生と一戦を交えた。蛇を使ったカテレアが、ファーブニルの鎧なしとはいえ先生と互角に渡り合うほどの力を発揮したことがその効果の脅威のほどを証明している。
俺の言葉に「ああ」と肯定の意を返す先生。
『オーフィスの蛇をもらったということは旧魔王派でもそこそこの立場を持っているんだろうな』
そもそもアザゼル先生がディオドラに不信感を抱くきっかけとなったのはディオドラが帰った後に見たアガレスとアスタロトの試合だ。
試合終盤、アガレス家次期当主たるシーグヴァイラ・アガレスとディオドラが交戦する中、急にディオドラが凄まじい魔力を発揮してシーグヴァイラを追い詰め、ついには勝利した。
先生の持つデータからしてもあそこまでの数値は出ていなく、力を隠していたのかと疑問符を浮かべる試合の結果だった。
『グレモリーとアスタロトの試合、きっと奴は行動を起こす。赤龍帝や聖魔剣、ネームバリューの高い奴の出る試合だ、現魔王は勿論各勢力の要人たちも観戦に来る。旧魔王派が狙うには絶好のタイミングだ』
先生は厳しい声色で告げる。電話越しにでも先生が厳しい表情をしているのがありありと伝わって来た。
「なら、今からでも試合を中止に!」
テロが起きるとわかって、あいつらをその火中に送るわけにはいかないだろう。如何に俺達がコカビエルだったりテロだったりと実戦を乗り越えてきたとはいえ、戦場では何が起こるかわからないし、今度も同じように行くとは限らない。避けられる戦いなら避けるべきだ。
『まあ話を聞け。向こうは大々的に戦力を投入してテロってくるだろうから、こっちも魔王やセラフ、神たちと連携し、戦力を展開して一気に叩く。向こうにとってのチャンスだがこっちにとっても今後の憂いになること間違いなしのテロ組織の派閥をつぶす絶好のチャンスなんだよ』
焦る俺に対して先生は冷静に話を進める。通話の向こうで、先生が口の端を笑ませた表情をした気がした。
…なるほど、袋のネズミにされるところを逆に袋のネズミにするってことか。
『もちろん、リアス達を利用するからにはあいつらの安全を保障できるよう策は練る。…が、多分大人しく俺達に任せるようなたまじゃないだろう』
「…まあそうですね」
多分、あいつらの方から一緒に戦うと言って当初の予定通りディオドラをぶちのめしに行くんじゃないだろうか。
相当イラついてたみたいだし、むしろテロリストなら遠慮もいらないと戦意向上になるんじゃ…。
『ここまで話せばわかると思うが、お前にも今回の作戦に参加してもらいたい。既に多くのVIPに作戦を伝えたが、喜んで参加を決めてくれたよ』
「…っ」
先生の要請に、俺は思わず唾を飲んだ。
こんな大事な作戦に参加を要請されるという緊張、あるいはそこまで信頼されているということに対する嬉しさだろうか。
先生の言うVIPって三大勢力の実力者だけじゃなく色んな神話の神も一緒に戦ってくれるということか?どれくらい参加するかは知らないが、この世界ではVIP=超実力者と言ってもいいからそんな人たちと一緒に戦えるのなら安心して戦いに臨めるな。
ちなみに神と言っても商業、あるいは農耕など戦に関係ない事柄を司る神の方が圧倒的に多い、だがらといって侮ってはいけない。神と言われるだけあって並の最上級悪魔を軽々と凌ぐレベルの力を持っているのだ。
…あれ、これってもう勝ち戦なんじゃね?旧魔王派の連中、既に詰んでるんじゃ…。むしろこれで出てきたらあいつらバカだよね?
そして先生は、ここぞとばかりに付け加えた。
『それにもしかしたら、お前にもディオドラを直接叩けるチャンスが来るかもしれないぜ?』
―――っ。
その言葉に、俺は思わず口角をにやりと釣り上げた。
「…いいですね。どさくさに紛れて一発ぶちかましましょう」
そう言われると俄然やる気が出てきた。上手いことたきつけてくるな、先生。
テロリストの仲間だというのならもう遠慮する必要もない。うちの仲間を困らせ、散々酷いことを吐いたツケはしっかり払ってもらおう。俺を異物だのと虚仮にしてくれたツケも高い利子をつけてな!
『言うまでもないがこの話は極秘事項だ。イリナにも作戦への参加を要請したが、リアス達には内緒で頼む。作戦までは通常通り試合が行われる体を装うためにな』
「わかりました」
紫藤さんと俺を除いた面々、つまりグレモリー眷属には言うなってことだな。あくまで向こうにこっちの動きを悟られてテロを中止にさせないためにか。
テロなんて起こらない方がいいんだが、戦力を十分すぎるくらいに整えられた大きなチャンスだ。心配な点はあるがあえてことを起こさせて、将来のためにもここで憂いを断っておくべきか。
通話もそろそろ終わりかと思っていたら、先生は別の話題へと話を移した。
『それと最後に一つだけ…お前の神器だが、今までの戦いを調べてわかったことがある』
「…なんです?」
以前神器のエキスパートであるアザゼル先生がゴーストドライバーを解析した結果、セイクリッド・ギアと未知のテクノロジーの二種類の技術が使われていることが判明した。
急遽取りそろえたとはいえ、神器に関しては最先端の技術を持つグリゴリですら唸らせるほどに謎を秘めていることも判明し、
未知のテクノロジーに関してはポラリスさんですらお手上げと言うレベル。スキエンティアにも該当、あるいは近似するデータは一切なく、普段の老成した口調らしくむうと唸って首を傾げていたのを覚えている。
そんな時に、先生の発見と来た。一体どんな秘密が…。
『他の神器と比べて、使用者の心と同調して力を増幅する機能が桁違いに強い。神滅具かそれ以上のポテンシャルを発揮している…はっきり言って異常なくらいにな』
「…なるほど」
心に呼応して力を発揮する、それは全てのセイクリッド・ギアが持っている性質だ。
俺はその性質が様々な力を生んだのを見てきた。兵藤がヴァーリに両親を殺すと言われて激昂した時、内に宿る龍の力は呼応し、一気に力は増大した。
木場が死んでいった同志たちの魂に触れ、禁手に覚醒したのを見た。人の魂と密接に繋がっているが故に、人の思いに反応し、神器が一度抜き取られると所有者は死ぬ。
その性質が、俺のゴーストドライバーは一際強いと先生は言った。先生の話は続く。
『今代の神器使いは今までにない進化を始めている者が多い中でも、お前は一際異常だ。今までの記録にもそんな神器は存在しないし、なによりその神器の中に存在する未知の技術の領域が全く分からん』
「…確か、先生の予想だと相当高位の神が作ったもの、なんですよね」
『ああ、これほどのもんを作れるのは聖書の神に並ぶ知恵を持った神、そうだとしか思えない。だが他の神話に神器《セイクリッド・ギア》ほどのとんでも技術の塊を作れる神を俺は知らねえ』
…言っちゃ悪いが、あのどこかアホそうな感じのある駄女神に先生にそこまで言わせるほどの物を作れるとは思えない。それに、どうして俺の元居た世界の神が作ったものにこっちの世界のものであるセイクリッド・ギアの技術が使われている?
謎は尽きない。俺の周りには謎を抱えた人が多いが、俺自身もまたその人に謎だと言われるような秘密を抱えている。
『お前の神器の未知サイドの詳細はガチガチにロックがかかっていて全く解析できなかった。多分、神器の心の強さを力に変換する機能が異常に高いのはその領域が関係しているからだと俺は睨んでいる』
今になって思えば、堕天使の中でも上位に位置する実力を持つコカビエルと真正面から戦って勝てる程の力を発揮するなんて神滅具でも禁手を使わなければ無理だろう。あの時から、既にその異常なまでのポテンシャルの片鱗を見せていたのだ。
だが、この原作とはもはや別物なゴーストドライバーがセイクリッド・ギアの性質を持っているというのなら。
俺はそのもしかしてという希望を抱いて、恐る恐る訊ねる。
「先生がこれを神器《セイクリッド・ギア》に分類しているってことは…禁手になることってできますか?」
全ての神器が至る究極、それが禁手《バランス・ブレイカー》。均衡を崩す力とも呼べるその力をこのゴーストドライバーも秘めているのだろうか。
しかし先生の返事は芳しい物ではなかった。
『うーん……そもそも禁手自体が元々、至る者が少なくてこっちも禁手に関するデータがあまりないから何とも言えないが、正直言って『ない』可能性の方が高い』
難しそうな声色で先生はそう断言した。
「どうしてですか?」
『詳しくはわかっていないが、禁手の発現のキーになるのは大まかに言えば使用者の内的な面での劇的変化。匙はともかく話を聞く限りコカビエル戦でそれを経験しているだろうお前が禁手になれないということはつまり……そういうことだ』
「…そうですか」
言葉にはあまり出さなかったが、実際は中々ショックだ。何せ、自分のパワーアップの可能性を一つ潰されたのだから。
自分で言うのもなんだが、コカビエル戦で俺が戦う覚悟を決めた瞬間、あれは先生の説が正しければ禁手が発動してもおかしくない精神状態だった。
神器、とくに禁手についてはその研究において最先端を行くグリゴリの長、アザゼル先生をもってしても不明な部分が多い。しかし現時点での神器研究の権威とも呼べる先生が言うのだから、そうなのだろう。
『心に反応して力が増幅する感応力が強いってことは、逆に言えばお前が大きなショックを受けると途端に使い物にならない程力が低下することでもある。上手く使いこなせればいいが、十分気を付けるんだぞ』
…思い当たり過ぎてぐうの音も出ない。
凛と会った時、俺はショックで上手く戦えなかった。精神的なものもあるだろうが、ショックで弱まった俺の戦意、意思をドライバーが強い感応力で読み取ってしまったのだろう。
ドライバーが生み出す霊力が一気に弱まった結果攻撃力も落ち、防御力もオメガウルオウドを喰らって生身に甚大なダメージをもたらす紙レベルにまで下がってしまった。先生の話でようやくわかった。
ドライバーの強い感応力がいい方向に働いたコカビエル戦、そしてそれが大きくマイナスに働いてしまった凛との戦い。この真逆とも呼べる二つの戦いは今後の戦いにおいて俺はしっかりと胸に刻んでおかなければならない。
『ま、お前の神器に関してはそんなところだな。話は以上だ。作戦の詳細は追って連絡する』
「わかりました」
通話が終わり、コブラケータイを閉じるとリビングに静寂が戻って来た。
ゼノヴィアが帰ってくるのは深夜になるだろう。流石に俺はそこまで遅くまで起きていられないからあいつには悪いが一足先に寝させてもらう。
「…静かだ」
音もなく、ぽつんとリビングの電気だけが付いた部屋。
(…あいつがいないと、寂しいな)
そう思わざるを得なかった。テレビ番組に興味を示したり、勉強を教えたり、俺の作ったご飯の感想を言ったり。
いつの間にかにあいつは俺の暮らしの大切な一部になっていたのだ。
慣れたはずの孤独が、今では苦痛に感じてしまう。
ゼノヴィアがこの家に来るまでは当たり前だった光景が、今の俺にはとても寂しいものになっていた。
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「ふっ、ふっ、ふっ!」
休日、珍しく兵藤宅を訪れた俺は地下のトレーニングルームでトレーニングに励んだ。
レジスタンス基地、『NOAH』でイレブンさんと模擬戦をやるのも十分なトレーニングにはなるがたまにはオカ研と一緒に鍛錬に励むのも悪くはない。
相も変わらずの金持ちのマンションのように団地にそびえ立つこの家には地下フロアが3階もあり、大浴場やプール、さらには映画観賞用の大スクリーンなどそこらのホテルを軽く超えるレベルの設備が整っている。もはや家じゃないだろ。流石は金持ちの名家、グレモリー家が手掛けただけはある。
もちろん最新鋭のトレーニングマシンも揃っており、チェストプレスを使用した俺は休憩がてら腰を下ろして、ボトルの水を呷る。
「ふっ、ふっ、ふっ!」
休憩する俺の前で練習用の木剣を振るうのはゼノヴィア。額に軽く汗を流しながらも、力強く、一定のペースを崩さず剣技を虚空に向けて放つ。
脳内でイメージした敵と模擬戦をやってるんだろう。もっと、オカ研にもレジスタンスのような存分に異能を発揮しても壊れないフィールドとかあったらいいんだが。
「…あまりやり過ぎると、オーバーワークで塔城さんみたいに倒れるぞ」
俺がトレーニングを始める前から、ずっとこの場で剣を振るい続けているのだ。頑張っているのは感心だが、過ぎるのが少々心配だった。
「そんなことはわかっている。ふん!でも私は悔しいんだ」
剣を振るう手を止めず、彼女は返事を寄越した。
「悔しい?」
負けず嫌いのこいつが悔しいという言葉を吐くのは変なことではない。だが普段から自信に満ちた振る舞いをする彼女の『何が』悔しいのかをわからなかった。
「…私は弱い」
剣を振るう手を止めるとふうと大きく息を吐き、額に流れる汗をさっと腕で拭って彼女は言う。その表情には不安の色が浮かんでいた。
「あの試合でも、パーティー会場でも木場は私よりもうまくデュランダルを使っていた。聖剣の使い手としても『騎士』としてもあいつの方が上だ」
…なるほど。
シトリー戦で、ゼノヴィアがリタイヤする直前、聖剣使いの因子を持つ木場にデュランダルを託すという一幕があった。観戦する側としてはそういう芸ができることに驚かせられたばかりで当人の側の思いに微塵も気付かなかった。
「『騎士』の駒の特性だって、あいつの方が私よりも速い。出会った時は私の方が強かったのに、いつの間にかにあいつは才能を伸ばし逆転してしまったよ」
確か、ゼノヴィアがアーシアさんを魔女呼ばわりした時にその時はまだエクスカリバーへの恨みに取りつかれていた木場とアーシアさんを侮辱されたことに怒る兵藤と手合わせしたそうだ。
まだ聖魔剣を使えない木場は冷静さを欠いた状態でゼノヴィアとの一騎打ちに臨み、得物の性能面でも、使い手のコンディションの両方が相まって敗れた。
あれから聖魔剣を得て、聖剣を扱えるようにもなったことで木場は剣士として格段にレベルアップした。そのほどはゼノヴィアが制御に苦心するデュランダルを元の使い手よりも安定して振るうくらいだ。
「このままだと私は皆のお荷物になる。でもそれは猊下から受け継いだデュランダルの使い手としてのプライドが許さない。私自身の誇りにもかけて、一剣士としてもっと強くならないといけないんだ」
刃のような鋭い目の中に、先への憂いが見える。その言葉は自分自身に言い聞かせているようにも聞こえた。
…どうにも焦っているな。どことなく、夏休みの合宿前の塔城さんを思い出す。
自分の弱さに焦りを覚え、自分をつぶしてまで必死に前に進もうと足掻いている。
だが猫又の力を否定し続けてきた塔城さんと違うのは、ゼノヴィアは自分の持てる全てを使い、肯定しているということだ。そしてその持てる物、つまりデュランダルに対し、肯定を越えて誇りすら抱いている。
どういう経緯があってその誇りがあるのかは知らない。ゼノヴィアはあまり昔話をしないからだ。ただ何か良くないことがあったと思われるポラリスさんと違って、多分本人が語る必要がないと思っているからだろうが。
だが最近の戦績、そして正式なデュランダル使いたる自分よりも、アプローチは違うもののより安定した使い方ができる木場を見てその誇りが揺らいでいるのだ。
「…ゼノヴィア、こんな異形界に足ツッコんだ歴なんて一年にも満たない俺が言うのもなんだけどこれだけは言わせてくれ」
「?」
最近の戦績から自分の弱さに焦りを覚える気持ちは痛い位わかる。事実、今だってそうだからな。
ヴァーリにボコられ、ガンマイザーを連れたアルギスにもボコられ、果てには自分の妹にもボコられる。
そろそろ自信を無くしそうだ。だが、俺とゼノヴィアには決定的な違いがある。
俺はおもむろに腰を上げて、言う。
「もうちょっと、楽になれないか?」
「…どういう意味だ?」
「お前がデュランダルを大事に思っているのはわかってる。自分が由緒ある伝説の聖剣の使い手だったら、誰だってプライドみたいなものは抱くだろう。俺だってそうする」
先代の使い手から継いだデュランダルに対し、彼女は強く誇りを持っている。それに対して、俺はそういうプライドは持っていない。彼女はその力の使い手として相応しくあろうとしている。それはある種の先代の使い手たちへの憧れとも呼ぶべきものだ。
だが俺が持っているのは力に対する責任だ。当初の力への、仮面ライダーへの憧れは命のやり取りとはどういうことなのかという現実に砕かれ、その力を持ち、行使することへのとなった。
この力は俺にとって俺の仲間を守る、日常を守るという誓いを達するための手段でもあり、その手段を使って誓いを達することが力を持つことの責任を取ることにもなると俺は思っている。
「…でも、そのプライドに潰されるのは剣士としてどうだ?剣を使うからこその剣士が、逆に剣に使われているみたいじゃないか」
「!」
その言葉に、ゼノヴィアは目を見開いてハッとした。
力を使う者は、逆にその力に使われてはならない。そういう点では力に溺れるのも、その力に潰されるのと同じ意味なのだろう。
…あまり回りくどいことを言うのはよそう。馬鹿正直な彼女と接するなら、俺もまた馬鹿正直になって見るのがいい。それが少しでも彼女の気持ちに寄り添うことなんだと俺は思う。
「…まあその、俺が言いたいのは気負い過ぎるなってことだ。気負うなとは言わない、悩む気持ちはわかる。ただ自分を潰すほどに気負うのは止めろ」
俺はそうはっきり言い放つ。
強くなりたい、皆の足を引っ張りたくないと思うことは問題ではない。この異形の世界にいれば、誰だってそう思うだろう。特に悪魔社会は実力主義の面が強いから『より高みへ』と言う思いを抱く者は多い。
だがその思いが強くなり過ぎた結果、自分の身を滅ぼすようなことになったら元も子もない。自分の身があればこそ、叶えられる思いなのだ。思いを現実のものにしつつ、その思いを現実にしたとき喜べるような余裕を持たなければならない。
「何事も程々ってものが一番だ。気負い過ぎれば心にも体にも毒だし、あまり楽観視しすぎるのもまた問題だな。いい匙加減、塩梅でいこう」
「あんばい…?」
「あ、いい具合とか、加減って意味だ。塩に梅と書いて塩梅だ」
まだこういう表現は苦手だったな。我ながら舌が乗ってそう言う配慮を忘れてしまった。
「ふ、塩梅か。また一つ日本語の知識が増えたぞ」
自慢げに彼女はふふんと鼻を鳴らす。俺の話を聞いたからか色濃く不安と焦りをたたえていた表情が少し和らいだようだ。
「そーいう顔だよ。そういう感じでいいんだよ、あんまり気負ってるのを表に出してアーシアさんに心配かけるなよ?」
「…そうだね、アーシアだってあいつのことで悩まされたんだ。また不安にさせたらだめだね」
「そう、最近の負け続きでしょげてるのは俺も同じだ。だから一緒に悩みながら、強くなっていこう」
俺の精一杯の思いを乗せた言葉で締める。
悩んでいるのは一人だけじゃない。思いを共有できる人がいれば一人で苦難の道を進むよりも、もっと楽に進めるはずだ。
「…ってカッコつけて変なこと言ってしまった…ああ」
…あ、なんだかこっ恥ずかしくなってきた。カッコいいこと言ったつもりだけどこういうのは後になってツケを払わされるように恥ずかしくなるものだ、そして何度経験してもこの恥ずかしさには慣れない。
でも、彼女はそんな俺をバカにしなかった。
「…ふっ、君にはかなわないよ、やっぱり」
ふっと目を伏せ、ゼノヴィアはやれやれとクールに微笑んだ。
「君の言う通りだ。聖剣使い、剣士の二つの面で木場に追い越されそうになって私は焦り過ぎたみたいだよ、でも君の話を聞いて気が楽になった」
言葉通り、さっきまで憂いを帯びていた彼女の表情はかなり和らいでいた。カッコつけたしょうもない俺の言葉を
彼女は馬鹿正直にも真面目にしっかり聞いてくれたのだ。
「何を恥ずかしがってるのかは知らないけど、君にとっては恥ずかしくても私にとっては救われた言葉なんだ。そう恥ずかしがらなくていい」
彼女は俺の下へ歩み寄り、俺の手を取った。
「ありがとう、君にはいつも救われてばかりだよ」
そして最後に、感謝の言葉と屈託のないとびっきりの笑顔を向けた。
「…!」
太陽のように眩しい彼女の笑顔を俺は直視できなかった。
…なんというか、この笑顔を見てるとすごくドキドキする。
上手く言葉にできないが、普段そこらの男よりも男らしいこいつが見せる、年相応の女の子らしさに溢れた破顔。
いかん、俺のハート様がデッドヒート状態になりそうだ、マックスハザードオンからのオーバーフローだ!
ドキドキが止まらない!アーシアさんもそうだが教会出身者ってこういうところでピュアなのか!?
この気持ち、気恥ずかしさからか、ゼノヴィアの顔を直視できず胸のドキドキを収めようとあちこちに目を泳がせる。そうしてやっと、この部屋を覗く視線に気づいた。
ジー…。
「…今、いい雰囲気でした」
「羨ましいですわね」
「全くね」
ドアの隙間からこっそり覗いてくる視線が3つ。上から順に部長さん、朱乃さん、そして塔城さんがこっちへじっと視線を注いでいる。
そして俺のそらした視線と三人の視線が合った。
「「「あっ」」」
「…いや別に変なことをしようなんて思ってませんよ?」
揃ってうっかり声を漏らしてしまった三人にツッコミを入れた。俺とゼノヴィアはそういうことをするような関係ではない。あくまで同居人、他のオカ研部員以上に普段の生活から苦楽を共にする仲だ。そこに決してやましいものは含まれていない。
「あら、バレたのね」
観念した部長さんが愉快にふふっと笑んで、扉の隙間からこちらを覗いていた三人がぞろぞろと部屋に入ってくる。
「私はてっきり、そういう仲だと思っていたわ。ゼノヴィアも紀伊国君をすごく信頼しているみたいだし、一緒に暮らしているなら…ね」
「ゼノヴィアちゃんって積極的だから私もそうだと思っていたのだけれど…もしかして紀伊国君の方が奥手すぎるのかしら?」
…あれ、俺とゼノヴィアってもう付き合ってるとかそういう風に思われていたの?
俺は兎も角、あいつは…どうなんだろう?教会で育ったあいつは一般の女の子と比べて多分恋愛観は…ずれまくってんだろうなぁ。というよりそういう気持ちがあったとしてもそれが恋だと気付かないタイプじゃないか?多分、俺の方からアタックしても変な風に受け取られるんじゃないだろうか。
いやよそう。俺の中にそういう気持ちがあるとしても…というよりないわけではないんだが、今の関係が悪いように変化してしまう可能性があるならやめておく。今の日常が心地いいからこそ、俺はあえて停滞を選ぶ。
「意外と悠はガードが堅いんだ」
「人をゲームのボスキャラみたいに言うのやめろ」
…ん?
こういうのって普通、俺がゼノヴィアを攻略する側だよね?あれ、逆になってないか?俺がヘタレで奥手すぎるせいなのか?
俺は男として、もうちょっとアグレッシブになった方がいいのだろうか…。こういう時は男としての人生経験豊富そうなアザゼル先生に相談を…いやでもあの人を手本にするのはな…。
あそうだ、せっかく集まってるし訊いてみようか。
「そう言えば、昨日の撮影どうでした?」
今日は休日だからいつものように旧校舎で集まって話を聞くことができなかったので、丁度いいと訊ねた。
部長さんは楽し気に微笑んで、その様子を語ってくれた。
「やっぱり皆緊張していたわ。私はああいう状況に慣れているからよかったけど、特にギャスパーね」
「ギャー君、司会に話を振られた時時間を止められたみたいにカチカチになってました」
その時の様子が面白かったらしく、語る塔城さんの表情が微妙に柔らかい。
ていうかギャスパー君、時間停止の神器使いだろ。自分が止められてどうするんだ。
「でも私たちが話すより、やっぱり放送を見てもらうのが一番ね」
「絶対に見逃すなよ、悠」
ゼノヴィアはビシッと俺に指さして念を押す。ほう、ここまで言われたらますます気になるじゃないか。放送日を楽しみにしておこう。
ふっと思い出したように、朱乃さんは言った。
「そう言えばイッセー君だけ、別の撮影もあったようですわ」
「あいつだけ?」
「あとで聞いても、『放送を楽しみにして』としか言わないの。一体何の撮影だったのかしら…?」
あいつにだけ、他の撮影か。予想がつかないな。あ、でも婚約パーティーでのちょっとアレな発言もあるからもしかして週刊誌のような有名人のスキャンダルとかゴシップを扱う番組に呼ばれたのでは…?
まあ赤龍帝だからネームバリュー的にも大勢の目は避けられないが…あいつの将来、どうなるんだろうな。
「どうやら最近、イッセーは『乳龍帝』なんて呼ばれてるらしいわ」
「ち、乳龍帝…?」
会話の中に突然出てきた奇妙なワードに、戸惑いを隠せない。
赤龍帝じゃなくて乳龍帝か…。性欲に真っすぐなあいつらしいと言えばあいつらしい珍妙な呼ばれ方だが、どうしてそんな呼び名が?
「誰かがパーティー会場襲撃で私たちがヴァーリチームを撃退した時、イッセーが私の胸をつついて禁手になったことをメディアに流したらしいの。それでどこかの誰かが言い出した名前が『乳龍帝』…一体誰なのかしらね、あの情報を流したのは」
不満げに部長さんは嘆息する。心なしか、怒りの色すら混ざっているように思えた。
自分の胸をつつかれたなんて、結果的にはいい方向に転がったからいい物を誰がそんな人のこっぱずかしい秘密をばらしたんだよ。禁手に至ったのは他の上層部にも知るところになったけどその方法に関してはオカ研の秘密になってるはずだぞ。だって方法があんまりにも酷過ぎるし。
これには部長さんへの同情を禁じ得ない。でもそれがあいつの知名度アップに繋がったというのだから何とも言えないところだ。
「冥界の子供たちには赤龍帝の鎧がウケて『おっぱいドラゴン』として人気だそうです。すでにフィギュア化の話も上がっているとか」
「『おっぱいドラゴン』…へえ、まあ確かにあれは子供ウケよさそうだしな」
部長さんの話を塔城さんが補足する。やべえ、あいつどんどん二つ名を増やしてるよ。
前から思っていたけど兵藤の赤龍帝の鎧ってかっこいい。何よりガンダムを知っている身として、あの背からオーラをブースターのように吐き出すギミックは一番気に入っている。
赤龍帝でウケるんなら多分ヴァーリの白龍皇の鎧もいけるんだろうな。あっちも光の翼とかすごく綺麗だし。あ、でもテロリストのイメージがあるから怖がるか。
「それと…ライザーの妹が怪しいわね」
「……」
瞬間、兵藤ガールズの3人からムッとした雰囲気が滲み出始める。三人とも目を細くして、口を膨らませる。
部長さん達がこういう表情を見せるのは初めてではない。だが俺はすぐにその言葉の意味を読み取れなかった。
「?それはどういう……あっ」
思い出した。部長さんがこういう顔をするのは兵藤絡みの時だ。兵藤の取り合いで、あいつが他の女子に押されているのを見て、ヤキモチしてる時の物だ。
しかし、ライザーの妹って確か…ああそうだ、あの顔は忘れもしないぞ。金髪のツインテールをドリルのように巻いた、気の強そうな悪魔だった。なんせ俺が助っ人で出た試合で負ける原因になった奴だからな。言い方はあれかもしれないが、別に恨んでいるわけではない。
そしてため息交じりに部長さんは呟いた。
「レイヴェル・フェニックス…何故かわからないけど、そう遠くないうちにまた相まみえる気がするわ」
「また一人、ライバルが増えそうです」
「望むところですわ」
三人の反応は嘆息、そして不敵に笑んだりと様々だ。
スタンド使いはひかれあうみたいな理屈なのか?
兵藤の奴、学校での評価は地の底だというのに逆にオカ研をはじめとするあいつをよく知る周辺の人物からの評価は高い。エロという印象の皮をむけば、バカで真っすぐで他人のために危険を恐れず手を差し伸べられる奴。
だからこそ、皆に好かれ、皆の輪の中心にいられる。しかし、レイヴェルとかいうライザーの妹、自分の兄をボコボコにした兵藤にいい印象はないはずだが…何がきっかけだ?
あれこれ考えているうちに、朱乃さん達はふっと表情を引き締めた。
「…さて、頑張ってるゼノヴィアちゃんを見てたら居ても立っても居られないわね」
「私たちも始めましょうか」
話も程々にと、部長さん達はストレッチにと体を軽く動かし始める。
ディオドラとの一件から、兵藤たちの試合に向けて気合がより高まったように見える。
好き放題にしてくれた腹の立つ出来事だったが、かえって意識を高めるいい出来事にもなったようだ。
「私は今まで役立たずだった分、もっとみんなの役に立ちたいですから」
塔城さんは小ぶりな拳を合わせ、二人に負けず劣らず静かながらもやる気を滾らせる。
姉、黒歌との再会を経て猫又の力を解放することにした塔城さん。本領発揮はこれからといったところだ。
「紀伊国君」
「はい?」
そんな時、部長さんが俺に声をかけた。
「あなたが出られない分、私がしっかりディオドラを懲らしめるから安心して。それに、あなたの存在を迷惑がる上級悪魔にちょっかいはかけさせないわ。グレモリーの名において、決してね」
「部長さん…」
優しいながらも決意のある表情で部長さんは俺に語り掛けてくれた。
やはり前から思っていたが、部長さんには人を安心させるオーラがあるように感じる。それは母性と呼ぶべきか。
時に厳しいながらも、母性を思わせる優しい性格。きっと母親譲りなのだろう。夏休みで会った部長さんのお母さん。あの人の立ち振る舞いや言動は部長さんのそれとよく似ていた。
「待ってくれ部長、私だって悠をバカにしたあの男と戦いたいんだ。せめて一発くらわせるだけでもいいから戦わせてくれ!」
部長さんの言葉に軽く心を打たれていると、ゼノヴィアがグイッと前に出て訴える。
アーシアさん絡みの件だからオカ研の中でもけっこうあいつに対してイライラが溜まっている方だろうな…って俺?
「イッセー君を薄汚いなんて言った彼はおいたが過ぎますわ」
「一発拳を叩き込むべきです」
朱乃さんと塔城さんも彼女に負けず劣らずの戦意を見せる。
…どうやら、前回の一件で皆から相当なヘイトを買ってしまったようだ。
目の前で起こっているのはいつものような兵藤の取り合いじゃなくディオドラの取り合いだ。ただし、目的は大きく異なるが。
ディオドラの奴、幸せ者だな。本人不在とはいえこんな美少女たちに取り合いされるような状況が生まれるのだから。まあ美少女たち全員がお前をぶっ倒すために取り合いしているんだけどな。
…だがしかし、喧嘩はいけない。
「…なら、全員でボコせばいいじゃないですか?」
今までの流れから言って一対一じゃないといけないルールが敷かれているわけでもないし、多対多の状況が生まれることは多分にあるだろう。それなら誰が誰と戦うか、というのをわざわざ決めなくてもいいのだが。
「「「「あっ」」」」
思いつかなかったのかよ!皆して「それだ!」みたいな顔するのか!
赤龍帝のドラゴン・ショット、デュランダルのオーラ、滅びの魔力、雷光…あれ、あいつ死ぬんじゃね?
オーフィスの蛇で強化されていてもこの脳筋まるだしバ火力の怒涛の一撃を喰らえば塵も残らないよね?
まあその中に俺も加わる予定なんだけど。…あれ、なんでだろう。すごくムカついてたはずなのにあいつがかわいそうに思えてきた。
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ここは中国、深い霧と大きな山と言う大自然に外界から閉ざされた渓谷。ここは既に人間の領域でなく、外界から身を離れた妖怪や仙人たちの住まう隠れ里との狭間の世界である。
そこに足を踏み入れているのは2人の男女。
「やはり、ここにありましたね」
長く、険しい山道を歩くには不向きな貴族服を纏う青年、アルギス・アンドロマリウス。値の張りそうな靴は踏みしめた土や泥に汚れていた。
「玄奘三蔵の力を秘めたサンゾウ眼魂…あるとしたらここだと思っていた」
そして彼が主と崇める女、深海凛。華奢なその手が拾い上げた物は、15ある英雄眼魂のラストナンバー、サンゾウ眼魂。
「金銀兄弟に目を付けられないように行動するのも大変でしたねぇ。他の叶えし者たちと協力して、霧の探知結界をすり抜ける強力なステルス魔法を組むのに費やした時間と労力が報われて本当に良かった、ええ良かったです」
ここまで来るための準備を思い出し、安堵と喜びにアルギスはうんうんと頷く。
肌をぬめりと舐めるような、この地域一帯に漂う霧はただの霧ではない。近くの隠れ里に住む仙人たちが仙術で生み出し侵入者を探知するために張った結界なのだ。
無策に足を踏み入れたら最後、妖怪たちに見つかり攻撃されてしまう。特にここ一帯には金角大王、銀角大王という強力な妖怪の兄弟がおり、七星剣をはじめとする宝具の数々を操る彼らと一戦を交えることになればただでは済まない。
そのため、霧のエリアで仙人や妖怪たちに見つからないように活動するために念入りに準備をする必要があった。
「紀伊国悠もこの眼魂があるならここだと考えてはいただろうが、須弥山勢力のこの場所に来るには相当な手間がかかる。回収は後回しにするに違いないと思っていたが思った通りだったな」
彼女がこのサンゾウ眼魂がこの渓谷にあると確信している理由はたった一つ。何せ、ここはこの世界の玄奘三蔵が隠居する場所なのだ。この世界の三蔵法師の力に呼応してこの地に飛来したとしても何ら不思議ではない。
「…」
凛は眼魂の内部を保護する透明なクリアパーツに映りこんだ自身の顔を見つめる。
黒だった瞳は赤く、綺麗な黒髪にはつい先日から金髪が混ざり始めた。この世界に降り立った2年前からかなり変化した。
ふと、思い出す。
今日までの2年間、ひたすらに目立たず、そして歴史の表舞台から遠ざかった場所で活動し使命のために着々と準備を進め、動いてきた。大きく制限され、弱まってしまったため力の消費を最大限抑え、蓄えてきた今まで。
その日々は5か月前の出来事を機に変わり始めた。
「…5か月前、突然世界中に出現した英雄眼魂。15あるうちの多くが、あの忌々しい『赤い龍』の運命の中心地となる駒王町にあった」
兵藤一誠が転生悪魔となり、運命の歯車が動き出す4月。それと期を同じくして人間界だけでなく各神話の世界にも出現したのが今、この手に握る英雄眼魂。
出現の理由はわからないが、ガンマイザーという上等な傀儡を生み出し、さらにはメガウルオウダーなる神器に似たシステムにも対応できるため、完全に力を取り戻す『儀式』までのつなぎには丁度いいと考えた。
世界各地にわずかながら残った『叶えし者』達を動かし、他神話の世界に飛んだ物もヴァルキリーたちを通じて回収してきた。そして残る3つの持ち主は…。
「そしてその眼魂の使い手たる紀伊国悠。あの男は間違いなく異界からの来訪者…いや、その依代になっている、と言った方が正しいか」
先月の件で実際に会ってみてわかった。あれはやはり、元の紀伊国悠の肉体に異界から来た魂が乗り移っている。
バッドエンドフラグの覚醒のための引き金程度にしか考えていなかったが、ライダーとやらの力と異界の魂を得て全く予測不可能なイレギュラーへと変化してしまった。既に兵藤一誠たち特異点と同等とみてもいいだろう。
「あなた様と同類、ということでしょうか?」
「そうでもないしそうだとも言える。だが奴が使う仮面ライダーとやらの力は少々厄介だ。赤龍帝たちに与する以上は抹殺しなければな」
イレギュラーと言っても、自分達に利ある存在であればよし。害なす存在であるなら消す。だが厄介なのは一つのイレギュラーはまた別のイレギュラーを連鎖的に引き起こしてしまうということ。
彼の場合、力を集めると言われる二天龍と繋がりがあるというのがさらに問題だ。力のある龍は強者を引き寄せ、その戦いの中でさらに力を高める。やはり力のあるドラゴンという生き物は厄介だ。
その代表格が赤龍帝こと兵藤一誠。ドラゴンの性質に加え『特異点』でもある彼は間違いなく最大の敵。
そしてその赤龍帝は近々…。
「…さて、『覇龍』の発動が近いのだったな」
「あの戦いに参加するのですか?」
「ああ、グレモリー眷属はもちろんだがやはりまずは紀伊国悠を始末しておきたい。後顧の憂いは早めに摘むに限る」
彼が兵藤一誠のように龍神クラスに成長するとは考えにくいが、やはり円滑に計画を進めるためにも彼は抹殺しておくべき。
「それからお前には旧魔王派の動向の調査を頼みたい。最近の妙な動きが気になる」
近頃、儀式に必要な遺跡を探させている叶えし者たちが調査しに訪れた遺跡で旧魔王派の悪魔と頻繁に遭遇しているという。まさか自分たちの存在に気付いたとは考えにくく、妙に引っかかりも覚えていた。
「仰せのままに」
アルギスは恭しく、頭を垂れて指示を受ける。
アンドロマリウスの特性、蛇を操る力を持つ彼は諜報員としても非常に優秀だ。蛇との意思疎通ができる能力を利用して、毒蛇を忍ばせての暗殺や彼にとってはお手の物。
純粋な戦闘力で言えば一般の上級悪魔の域を出ないが、何も駒の使い方は戦闘だけではないのだ。
「それと…例の策をそろそろ使ってみるか」
感情の色が全くないながらも、整った顔に仄かに笑みを浮かべた。
歴史の裏で、破滅の先導者たちは策を張り巡らせる。
ポラリス「最近妾の出番が少ない件について」
悠「ホーリー編はがっつりあんたの出番ないらしいぞ」
ポラリス「( ;∀;)」
遅くなりましたが何とか平成最後の更新にできました。次話はもっと早く上げます。