Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は…
S.スペクター
8.リョウマ
11.ツタンカーメン
13.フーディーニ
「おらぁ!」
「ぎゃはぁっ!」
魔法が、天使の光が、悪魔の魔力が飛び交うレーティングゲーム用フィールドの最前線。見渡す限り、どこの方向を見ても異形達が激しく命の削り合いを繰り広げる戦場の真っただ中で俺はひたすらに眼前に映る敵をぶちのめす。
「はぁ!」
キャプテンゴーストに乗って戦場を飛ぶ俺はまた一発、鋭いパンチを敵に食らわせて往く道を切り開く。
「一発ぶちかませッ!」
「ギャウ!」
俺の合図と同時にキャプテンゴーストが吼える。同時に船首に備わっている主砲が光を蓄え始める。
ドォン!
戦火を潜り抜けるキャプテンゴーストの主砲『セイリングキャノン』が溜めた光をエネルギー弾として発射した。光の尾を引いて飛ぶと前方から迫る悪魔たちに着弾、爆発を起こしてまとめて吹き飛ばす。
「怯むな!偽りの魔王に与する連中は全て打ち滅ぼすのだァ!」
しかし、爆炎の中から次々と敵は突撃してくる。
「きりがないな…!」
ここにきてからと言うもの、寄せては来る波のように迫る敵をガンガンハンド、そして教わった八極拳の技で打ち倒しながら前進していた。何人倒したかはもう10人を超えたくらいで数えるのをやめた。
戦闘、如何に目の前の敵を倒すか以外のことなんて考える余裕なんてない。それ以外の事に気を取られ隙を見せればやられる。
周囲の兵士たちの猛りに煽られるように、自然と闘志が湧きたつのを感じる。
この命がぶつかり合い、燃え盛り、散っていく戦場で本当の戦いとは如何なるものかをしみじみと実感していた。
そんなところに、キャプテンゴーストに近づく黒い12の翼を広げた男を見た。
あれは堕天使の翼だ。俺の知る限り、堕天使で12枚の翼を持つ男など一人しかいない。
「悠!」
俺の名を呼んで近づくその男はやはり、我らがアザゼル先生だった。
「先生!」
「ちょうどいいところにいたな、お前に頼みたいことがある!」
喋りながらも先生は光の槍を投擲する。飛んでいく先の敵を次々と貫いては内包された最上級堕天使の強大な効力を以て塵にしていく。
「つい先、リアス達と連絡が取れた!」
「!」
先生がもたらした朗報に俺は仮面の下で安堵の表情を仄かに浮かべた。
「観戦室からフィールドに侵入できないように張られた結界を突破するために、オーディンの爺さんを先行させてな!ついでにあいつらに通信機を渡してもらったのさ!」
「堕天使の長、討ち取ったりィ!」
会話の途中、先生の後ろから果敢に戦斧を振りかぶる悪魔の姿が視界に入り込んだ。
「先生!」
気付いた俺はすかさずガンガンハンドの銃撃で撃ち抜く。肩に弾丸を受けた敵がぐらりとよろめいた。
続けて振り返りざまに先生が義手を突き出す。するとドッという音と共に義手がロケットパンチみたく発射され、強烈な一撃が悪魔の顔面を砕いた。
腕が自動で飛び、戻って再び装着されたのを見て先生は話を再開した。
「あいつらは案の定、ディオドラを倒しに行ってるみたいだ。…ま、あいつらをおとりにして好きにやろうとしたのは俺らだからな。それもあって俺はあいつらの好きにさせることにした」
結局思った通りに動いたのな…ま、情に厚いグレモリー眷属のあいつららしいか。
ついでに言うとグレモリー眷属とシトリー眷属には俺と同様に、三大勢力への不穏分子に対し実力行使を許可されている。このご時世、不穏分子なんてぶっちゃけいうと大体は『禍の団』なのだが。
「だが問題は、アーシアがディオドラに攫われてしまったことだ」
「アーシアさんが!?」
思いもよらぬ情報に、眼を見開いた。
「ああ、テロが始まってまだあいつらが混乱している隙をついて攫って行ったらしい。全く、やってくれるよあいつは…!!」
話ながらも苦虫を嚙み潰したように眉を顰める先生。
「あいつにはオーフィスの蛇がある。それに最悪、追い詰められたらアーシアを人質に取ってくる可能性もなくはない」
…確かに、このままあいつらをディオドラにぶつけるのはまずいな。
「そこで、お前にはディオドラがいる神殿をリアス達と一緒に挟み撃ちする形で向かってほしい。あいつらがディオドラとにらみ合ってるところに乱入して、一気にアーシアを解放してくれ!」
「話は聞かせてもらったよ」
そのセリフと同時に視界に紅い凶悪なまでのオーラが放たれる。
そして姿を見せたのは、いつもの魔王のローブに身を包んだサーゼクスさんだった。他の悪魔や天使のように翼を出さずして、浮遊している。
「サーゼクス、お前ももうこっちに来たのか」
「ああ。アザゼル、さっきこのフィールドでオーフィスの目撃情報が入った」
「!!」
「何だと!?ボスも直々にお出ましか…!!」
サーゼクスさんがもたらした情報に、戦慄が走る。
オーフィスと言えば、旧魔王派の属する禍の団の首領だ。それがここに来たとなれば…先生がVIP達を呼んで正解だったな。この戦い、もっと激化しそうだ。
「紀伊国君。ここは一つ、私からも頼まれてはくれないだろうか。オーフィスが来ている以上、我ら首脳陣は彼を抑えるのに専念しなければならなくなりそうだ」
「偽物がお出ましだなぁ!」
話に水を差さんとする悪魔たちに一瞥もくれることなく、サーゼクスさんは片手を突き出して放ったオーラで消し去る。
「リアスを、私の可愛い妹たちをどうか頼む」
――ッ。
サーゼクスさんは真剣な眼差しで俺に部長さん達への心配と無事を望む思いを痛烈なまでに訴えてくる。
…サーゼクスさんは俺の事情を知らない。心に思ったままのことを言ったのだろう。
だが『妹』、そのワードを出されて今の俺が動かないはずがない。
「…わかりました。推進大使なんて肩書きを貰ったんですけどあまり仕事がなくてですね」
コカビエルに勝ちはしたが肩書きを貰ってからの活躍と言う活躍がなく、悩むところでもあった。あまり結果を出せていない、ミカエルさんの誘いを蹴ってまでサーゼクスさんとアザゼル先生がくれたこの肩書きに相応しくないのではないかと。
テロリストを倒し、駒王町を守る推進大使という仕事らしい仕事がないのはそのせいではないかと。
「こういう時だからこそ、しっかり働かせてくださいよ。期待されたからにはしっかり応えます!」
だからこそ、サーゼクスさん達の期待に応えたい。ただ大切な者を守るという俺の信念だけでなく、自身に与えられた名誉ある肩書きに、彼らの思いに応えうる、そんな恥じない自分であるために。
俺の答えに先生もサーゼクスさんも満足げに笑んだ。
「特別サービスだ、俺達が道を作る」
そう言って先生がさっと取り出したのは紫色の宝玉が収められた黄金の短槍。和平会談の時にも見た、黄金の龍王、ファーブニルの力が封じられている先生が開発した人工神器だ。
『禁手《バランス・ブレイク》!』
力強い言の葉が秘められた力を解放へと導く。
光と共に先生は龍王の力を秘めた眩い金色の鎧を纏う。
…今気づいたんだが、鎧の形状が所々兵藤やヴァーリの天龍の鎧と似ている。開発の際に、過去の所有者から得たデータを引っ張り出したのだろうか。
龍王の力を得た先生はばさりと12枚の黒翼を広げ、身の丈ほどもある光の槍を周囲に無数に生み出す。
隣に並び立つサーゼクスさんも両手に危険な輝きを放つ紅い魔力を滾らせる。
「俺たちからの出血大サービスを受け取れやァ!!」
先生の叫びと共に、無数の光槍の雨が、横殴りに降りつける。無数の槍が無数の命を散らし、運よく命中しなかった者はサーゼクスさんが放つ絶対的な滅びの魔力の牙にかかる。
縦横無尽、自由自在に動き回り、俊敏かつ凶悪に敵に喰らいついていくサーゼクスさんの魔力。魔力を完全にコントロールし、まるで己の手足のように扱っているようだ。
両者の強大な力はあっという間にぞろぞろと寄せ来る敵を一掃し、大規模な乱戦極まる戦場に、穴が生まれた。
「任せたぜ、しっかりあいつらを救ってこい!」
「さあ、行きたまえ紀伊国君!」
「はい!」
二人の言葉を受ける。短い返事の他に言葉は返さない、これ以上の気持ちは行動で見せるのみ。
「飛ばしていくぞ、キャプテンゴースト!!」
俺の意思を読み取って怪船は次第に航行する速度を上げ始め、すぐにトップスピードに入った。スピードに伴って強烈な向かい風が襲うが、両腕をクロスして両足に霊力を集中して耐え抜く。
「ぬううう…!」
猛スピードで戦場を駆けるキャプテンゴーストの前方に出て道をふさごうとする者など誰もいなかった。どうせ出たところで轢き逃げされることなんて目に見えて分かるからだ。
耐えること1分弱。ようやく最も両勢力の衝突が起こっている域から離脱した。
突き抜け、スピードをそのままに遠くに見える神殿群を目指して突き進む。
ふと、先生たちが気になって後ろを振り返る。
前線の中で紅い魔力と黄金の輝きが縦横無尽に駆けまわっているのが見える。派手に暴れて、こっちに注意が行かないようにしてくれているのか。先生たちには頭が上がらないな。
だが、全てが全て上手くいくわけではない。
前線を突破した俺に気付いた10数名ほどのの悪魔が、こちらに飛んでくる。
「流石に気づかれたか」
〔ガンガンハンド!〕
すぐさま銃モードで、船の背後から真っすぐこちらに向かってくる悪魔たちを迎撃する。
狙うは本体ではなく、翼だ。
ここはかなりの高度があるし、翼を撃ってバランスを崩して落としてしまえば戦闘不能にできるだろう。そうでなくとも多少の牽制にはなる。
こういう遠距離で迎撃するような時にこそノブナガやビリーザキッド、あるいはロビンフッドの出番なんだがな。
生憎3つ全てが凛の手元にある今、ない物ねだりをしても仕方ない。
一番威力のあるキャプテンゴーストの主砲で迎え撃とうにも、一度旋回して主砲を向けなければならない。その分時間をロスすることになり奴らに隙を見せることにもなる。
ここは一つ、自力の腕前で踏ん張るしかないようだ。
「生憎、その人数だと定員オーバーなんでな」
次々に銃撃を放ち、迫る悪魔たちを迎え撃つ。向こうは回避しながら徐々に距離を詰めてくる。
しかし、不運にも狙い通りに翼を撃たれた者はふらふらと墜落していく。
「怯むな、落ち着いて回避しろ!」
ほんと上手いこと回避してくれるな!結局5人くらいしか落とせなかった。距離もそこそこに、仕掛けるタイミングを見極めんと8人ほどの悪魔が扇状に広がって俺とにらみ合う。
「ここは一つ、新入りを使ってみるか」
取り出した眼魂はリョウマ眼魂。すぐに起動してドライバーに装填する。
〔アーイ!バッチリミロー!〕
ドライバーによって眼魂の力を秘めたパーカーゴーストが召喚された。袖の無い代わりに、裾が膝のあたりまで伸びたタイプのものだ。
〔カイガン!リョウマ!〕
レバーを引いて、パーカーを纏う。
〔目覚めよ日本!夜明けぜよ!〕
仮面ライダースペクター リョウマ魂。
このフォームのシルエットに置いて一際目を引く肩部に備わったアーマー、『バトルシップショルダー』は堅牢な防御力を誇る。顔面の『ヴァリアスバイザー』に浮かび上がるのは東洋の龍を模した『ペルソナドリーマー』、そしてフード部の『ゴウカイフード』は変身者の精神力を強化し、度胸をつける波動を放つ。それと同時に、精神に影響を及ぼす有害な電波や物質はフードに取り付けられた黄金の角『イシンホーン』の波動で無効にできる。
眼魂に宿る英雄、坂本龍馬を体現した能力とシルエットをこのフォームは持っているのだ。
〔ガンガンセイバー!〕
ドライバーから召喚されたガンガンセイバーを握り、激突に備えて構える。
「敵を討ち取れェ!」
「木乃伊取りを木乃伊にしてやるよ!」
相手の勢いに負けじとそんなセリフを吐いて早々に、一番槍にと突っ込んできた悪魔の突撃をひらりと躱しざまに切り捨てる。
「ぬおお!」
続けて向かってきた一人の悪魔が力強く怒声を上げながら太い剛腕で大斧を振り下ろす。
大振りな攻撃なだけあって、隙は大きい。
瞬時に右脚に霊力を集中、増幅した脚力を使って一気に後方に跳ぶ。すぐさま元居た場所にドゴンと音を立てて強烈な一撃が刺さった。
無論攻撃の回避だけでは終わらせない。滞空時間中にガンガンセイバーガンモードへと変形させて銃口を向け、距離を開けながら斧の悪魔に連続で銃撃を浴びせる。
大振りな攻撃の隙を突かれた悪魔は連射をもろに受け、崩れ落ちる。
「我らを舐めるな!」
続いて挑んできたのは悪魔の剣士だ。
刃を交え、切り結ぶ。狭い船上で幾度も打ち合い、翻る剣光。炸裂する互いの剣技を、互いの剣技で受け止める。
(こいつ、そこそこやるな…!)
向こうも訓練しているんだろうが、それはこっちだって同じだ。イレブンさんのしごきを舐めるなよ?
1合目、交差するように刃がぶつかる。
2合目、再び切り結び、今度は力づくで押し切らんと向こうは剣に力を込めて押し切ろうとする。
「悪手だな」
それと同じことをイレブンさんとの手合わせでしたらこんなことをされた、今度はそれを別の誰かに教えてやる番だ。
こちらも向こうの力押しに負けじと踏ん張るのではなく、力を抜く。そしてさらりと受け流すように敵の真横に出る。最後に、横合いから一閃。
「がふ…」
深手を負い、力なく悪魔の剣士は倒れ伏す。
残る悪魔たち、その闘志は衰えずついには一斉に襲ってくるという選択肢を取った。
殺意と怒声を浴びせてくる悪魔たちだが、俺も怯まずガンガンセイバーをドライバーにかざす。
〔ダイカイガン!〕
音声と同時に刀身に青い強力なオーラが宿りだす。それを見て大技が来ると踏んだ悪魔たちは警戒し、距離を取り始めた。
だがもう遅い。
〔ダイカイガン!リョウマ!オメガドライブ!〕
腰を落とした構えを崩さないままドライバーのレバーを引いてさらに霊力を解放。青きオーラを刀身に上乗せする。
「はぁぁぁぁぁっ!!」
剣を前方に勢いよく一閃、同時に青い輝きがカッと煌めく。
〔オメガブレイク!〕
瞬間、迸った強烈なオーラは斬撃と共に俺の周りの悪魔たちに激突する。耳を打つ大きな爆音を伴い、一斉に吹っ飛ばした。
「ぐあああ!!」
爆炎の中からひゅるひゅると悪魔たちが落下していく。船に接近した悪魔の一群は哀れにも一撃で全滅させられてしまった。
後ろを振り向き、さらに周囲を見渡す。こちらの存在に気付いたものは先詰めかけてきたこいつらの他にはいないようだ。
「しかし使いやすいな、これ」
剣と銃、バランスよく扱えるフォームだ。これと言ってビリーザキッド、ムサシのように一芸に突出した能力、あるいはフーディーニの飛行能力のような特殊能力はない代わりに遠中近万能に戦うことができる。
これを奪ってくれたというポラリスさんには感謝しかない。フーディーニとツタンカーメンだけだったら遠距離戦がかなりきつかったところだ。
「よし、あとはこのまま神殿に」
〔TENGAN!GRIM!MEGAUL-ORDE!〕
「!」
その音声に気付くと同時に、太いチューブのようなものがしゅるりと俺の首に素早く巻き付く。
「ぐ……う……!!」
突然巻き付いたチューブの色は吸いこまれるような深緑で、その先端には万年筆のような鋭利なパーツがついていた。
次第に締め付ける力を増していくそれを外さんとチューブを掴みながら、不意打ちをかけた者がいるであろう方向へと首を回す。
〔FIGHTING PEN!〕
「……」
視界に映ったのはマストの柱に悠然と立ち、その肩からこちらに真っすぐチューブを伸ばしている白い戦士。
以前にも見たプロテクターに守られた白いスーツの上に纏うのは縁に万年筆を思わせる白い装飾で飾られた深緑色のパーカー。胸部の白いアーマーは開いた本の形をしており、チューブが伸びる肩部のパーツは古いタイプのインク壺と昔の作家やをイメージさせる。
頭部のゴーグルのレンズはパーカーと同じ深緑色に染まり、それを囲むフレームも本を思わせる四角い形状。
そして左腕の変身ブレスレット、メガウルオウダーにおさめられている、パーカーの源たる眼魂に宿るのはかの有名なグリム童話を編集したヤーコプ・グリムとヴィルヘルム・グリムたちグリム兄弟だ。
そのフォームの名は仮面ライダーネクロム グリム魂。そしてその姿を持って俺の前に現れたのは…。
「凛…!!」
深海凛。俺の妹にして、戦うべき相手にして、取り戻すべき者。
「また会ったな、貴様を殺しに来たぞ」
見下ろす彼女は平淡な調子で告げる。
「また会ったな、お前に聞きたいことが色々あるんだよ…!!」
見上げる俺は苦悶に声を荒げながら言い放つ。
神々すら集う戦場で、兄妹は再び邂逅した。
▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼
一発の銃声が鳴るたびに、前線で命を削り合う天使か、あるいは悪魔か、はたまた別の種族の兵士かが命を刈り取られる。だが戦場で兵士たちが上げる怒号、身を裂かれ焼かれる悲鳴、武器のぶつかり合う音、魔法や魔力の攻撃の音にかき消されてしまい誰もその音を聞き取る者はいない。
突然の攻撃で死ぬ彼らは共通して意識の全くの外からの攻撃を受け、一撃のもとに死する。
隣で戦う兵士が突然倒れたことに気付いて動揺する兵士は、眼前から迫る旧魔王派の悪魔たちの攻撃を受けるため先の現象に気を割く余裕もない。
その現象を起こしている男は、前線から1kmは離れた先にいる。岩陰に身を潜め、地面に伏せた姿勢で銃を構える男。コードネーム『ル・シエル』を名乗る天王寺大和だ。
(このライフル、今まで使ってきたものとまるで違う)
大和は狙撃に集中しながら、自分の得物の異質性、特殊性と言うものをひしひしと実感していた。
そう思うのも当然、このスナイパーライフル、実は旧魔王派が開発した物ではなく『禍の団』で旧魔王派とは別に大きな力を持つ派閥、英雄派が開発した物である。
きっかけは英雄派が神器研究のためにベルゼブブやアスモデウスといった旧魔王の血液の提供を要請したことだった。己の研鑽に余念がない彼らは自らが有する神器を積極的に研究している。ただし、神器研究の最先端を行くグリゴリができないような、『裏』のやり方でだ。
しかしシャルバ達とて、神器所有者とはいえ人間に自らの力の秘密とも呼べるものをただでくれてやるのは面白くない。そんな当時、ディオドラ・アスタロトと手を組んで計画を練り始めた彼らのもとに現れたのは情報を携えて現れたクレプスと、彼女がスカウトした大和だった。
情報をもたらし組織に貢献した彼女の提案、仮面捜索要員たる大和も戦力として動員する可能性を考慮して、何かしらの力を与えておくべきという話を聞き入れたシャルバ達は英雄派の要請を、神滅具を動員した本作戦の協力とこの武器の提供を引き換えに了承した。
スコープ、銃身、そして弾丸と何から何まで英雄派が保有する魔法、そして神器の技術がくまなく使用されている。彼らがここまでしてくれたのは、彼らが大和と同じ人間だからだろう。
人間であり、人間であることに誇りを抱き、そして人間の限界に挑もうとする彼らが大和に対して抱いたのは自分達と同じ様に異形に運命を翻弄された者への同情か、あるいは何か別の意図が含まれているのか。
彼らの考えることなど、上の思惑など大和に知る由もない。大和にあるのは、こんな仕事に手を染めることになろうともせめて家族への思いを失うまい、守ってやりたいという切望。
(だが、これならもっとやれる)
一度狙撃を終え、また次の狙撃を始める。スコープを覗き、1km以上は先にいる標的に照準を合わせる。合わせると同時に内蔵された魔方陣が起動し距離、重力、風向き、そして射撃のための角度を演算し自動調整した。
ただでさえ一般の銃よりもはるかに高性能なこれは元来大和が持つ驚異的な視力と組み合わせることで、恐るべき射程距離を持つ武器と化す。
引き金を引く。
英雄派が保持する神器によって製造された特別製の弾丸が銃声を伴って吐き出される。
放たれた弾丸はただひたすら真っすぐに、異形入り乱れる最前線へと突き進む。弾丸もそれに内蔵された弾薬も、魔法と神器の力が組み合わさって人間界のものとは比較にならない相当な破壊力を秘めている。
どんな鎧よりも固く、どんな武器よりも硬い神器製の弾丸は不幸にも標的となった兵士が纏う鉄の鎧などそれがどうしたと言わんばかりに突き破り、鎧の下の体ごと撃ち抜いた。
「ぐふっ」
短い苦痛の声と鮮血を漏らして、ふらふらと悪魔は地に落ちていく。
「期待に違わぬ素晴らしい腕前ね」
いつの間にか持ち出したキャンプ用の折り畳み椅子に腰かけるクレプスが言う。しかし彼の腕前を褒める言葉には何の感動も乗っていない。
さっきから彼女がすることと言えば双眼鏡で遠くの前線をただ眺め、時折大和に監視の意味で視線を送るくらいだ。
「褒める暇があるならお前も戦ったらどうだ」
「私はあくまであなたのサポート要員よ、戦闘は期待しないで頂戴」
(サポート要員と言う名の監視要員だろうがクソッタレ)
内心毒づきながらも狙撃を続ける大和。ふと、スコープ越しにある男を見た。
(あの紅髪の男は…)
先から狙撃している一般兵のような鎧の格好ではなく、より荘厳で妖しいローブを纏い翼もなく浮遊して戦場を駆ける男。血の色よりも深い深紅の髪がふと大和の目にとまったのだ。
(前にも見たことがあるようなあの髪は…)
そう思っているとすぐにスコープがはっきりとその顔を映し出した。
その顔を大和は知っている。魔王サーゼクス・ルシファー。旧魔王派が第一に打倒を掲げているという男だ。
そしてブリーフィングで渡されたVIPのリストで最も高いが掛けられていた男。同時に相当な実力者でもあるこの男の姿に、魔王ルシファーと言う名の力に、大和は息を呑んだ。
だが同時にある思いが心にともる。
(魔王ルシファーか、飛鳥の前で魔王殺しを名乗るのも悪くないかもな)
『魔王殺し』。中二病を患う自分にとっては何とも甘美で、心躍るワードだろう。弟に言ったとしても何を言っているかは理解されないが兄らしく、愛する弟の前でカッコつけたいものだ。
だから、大和はためらわなかった。
(Au revoir!(さよならだ))
放たれた弾丸は、狙撃手のささやかな願いを乗せて飛んでいった。
リョウマ+スペクター。ベースの色が同じだし本編で出してもよかったんじゃ…。
次の戦闘シーン、ネクロムが色んな英雄眼魂のフォームになるかも…?
次回、「船上の激闘」