ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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最近、蒸し暑いですね。こっちの内容も燃えるように熱い展開をしたいです。


Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は…
S.スペクター
8.リョウマ
11.ツタンカーメン
13.フーディーニ





第58話 「船上の激闘」

猛烈なスピードで向かう弾丸に、標的たるサーゼクスは気付けなかった。

 

派手に暴れて紀伊国悠を先行させるのに敵の注意を引きたいのもあったし、何より魔法や魔力、剣などが主流となっている対異形においてまさかスナイパーライフルという人間の武器を持ち込むような輩がいるとはつゆにも思わなかったからだ。

 

狙撃手たる大和もスコープ越しにその様子を見て、勝利を確信した。脳裏に魔王殺しの異名を得たことを可愛い弟に自慢する未来がよぎり、思わず口角が上がる。

 

しかしその弾丸はサーゼクスに命中する5mほど手前で突如としてその弾速を落とし始めた。

 

弾速を落としながらも弾丸は進めば進むほどにどんどん速度は落ち、ついには完全に静止した。その弾丸は静止してすぐさまその場に駆け付けた男の手に取られる。

 

「危ないところでしたね、サーゼクス様」

 

弾丸を手に取った男は言う。浅葱色の袴に身を包み、刀を握るまさしく日本の侍を体現するかのような姿、そして立ち振る舞いを見せる美男だ。

 

「沖田か」

 

サーゼクスが沖田と呼ぶその男こそ、かの新撰組の一番隊組長の沖田総司である。故あって魔王サーゼクス・ルシファーの『騎士』、転生悪魔になった彼は研鑽を重ね、人間だった頃以上の剣の腕をこの戦場で存分に振るってきたのだ。

 

そしてさらに、神々しい槍を握る老人が、純白の翼を羽ばたかせる女性を伴って沖田に次いで現れる。

 

「超越者と呼ばれようとまだまだ小童じゃな、サーゼクスよ」

 

「オーディン様」

 

北欧の主神オーディン。彼は観戦室とフィールドを隔てる結界を打破するために付き添いのヴァルキリーを置き去りにして先行し、アザゼルたちVIPや兵士たちの道を切り開いた。

 

「どうやら敵に狙撃手がいるようです、ラファエル様とも協力して狙撃手を探知しようとしたのですが結界にかからない。ラファエル様ほどの実力者が作る結界が探知できないということはまずありえないでしょう、ということは…」

 

沖田は敵を切り刻み進む中で数度、突然銃に撃たれたような動きを見せて落下していく堕天使や悪魔を見た。

 

それを見て、銃によるものだと気付いた時は驚いたものだった。そして同時に、長年の経験から培ってきた勘が主の危機を告げ至急駆け付けたのだ。

 

「結界の範囲外から狙撃をしているということですね。危機感を覚えた私たちは旧魔王派が最も狙うであろうサーゼクス様の下に至急駆け付けたというわけです」

 

沖田の言葉をゆるりとした振る舞いをする女性が付け加える。ウェーブしたブロンドヘアーを長く伸ばし、穏やかな顔つきをしている。その背には純白の翼が8枚生えており誰の目にも彼女が上の位に位置する天使であることは明白だった。

 

「君は?」

 

「あ、申し遅れました。私、ウリエル様の御使い、♦のQを務めさせていただいてます、メリィ・エルティと言いますー」

 

柔らかな笑みを浮かべて丁寧にお辞儀するメリィ。そのおっとりとした振る舞いや表情から、既にその人柄の良さが滲み出ていた。

 

そして沖田が摘まんだ弾丸に目線をやる。

 

「その弾丸は私の神器『金羊の子守歌《ゴールデン・ララバイ》』でゆーっくりにしました。神器が作るフィールドに入ったものは動きがゆっくりになっちゃいます。それとー」

 

メリィが余所に視線を泳がす。その先には、我先にとサーゼクスに挑まんとする血気盛んな悪魔が接近していた。

 

しかし近づくにつれ急に動きも活気も鈍くなり、ついには戦闘中であるにもかかわらず寝息を立て始めそのまま真っ逆さまに墜落してしまった。

 

「敵のエネルギーを奪って、ぐっすり眠らせることもできちゃいますよ」

 

「ウリエルの若造、可愛いだけじゃなく厄介な神器を持った女子を選んだようじゃの」

 

会話の途中に、再び銃弾が飛び込んできた。しかし先のように標的に命中することなく次第に速度を落とし、完全に静止してしまう。

 

「…」

 

沖田は無言で静止した弾丸に刀を振るう。気付いた時には既に振り抜かれていた、恐ろしいまでの速さを伴う鮮烈な一太刀。

 

そしてすぐに金属同士がぶつかり合うキィーンという耳をつんざく甲高い音が鳴り響いた。

 

圧倒的神速の刃を受けた弾丸は相も変わらず、傷一つつくことなくそのまま重力に従ってひゅるひゅると落下していった。

 

「私の太刀を以てしても容易に切れない硬度とは…」

 

「!」

 

流石の沖田もこの結果に軽く驚いた。しかし彼以上に驚いていたのは彼の『王』たるサーゼクスだった。

 

沖田の剣の腕は魔王の眷属なだけあって冥界随一。そんな彼の実力を一番よく知っているのは彼を眷属に選んだサーゼクス自身だ。それほどの力量を持つ彼が本気を出していないとはいえ断てなかった。

 

「叢雲殿に打ってもらった刀と私の一閃で断てない硬度の弾丸、探知結界の範囲外の距離からの狙撃…敵の中にやり手がいるようですね」

 

「じゃがサーゼクスの『騎士』よ、狙撃手のいる方角は読めたか?」

 

「はい、何度か狙撃を見たので既に方角は特定済みです」

 

沖田は先の一閃で振り抜いた刀をある方角へと切っ先を向ける。

 

「それがわかれば十分じゃ。どれ、キツイお仕置きを北欧の主神直々にプレゼントしてやろうかの」

 

にやりと笑うオーディンも、同じ方角へ得物たる神槍を向ける。見る者を圧倒する輝きとオーラに包まれたその槍の名は…。

 

「グングニル!!」

 

一声と同時に槍から、途方もない威力のオーラが迸る。空を揺るがし、焼く神の一撃は行く先の敵を飲み込みさながらビームのように真っすぐに突き進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

遠方から狙撃を行う大和は、魔王への狙撃に割って入った男に驚いていた。

 

「サムライだと…?しかもあの羽織は…!」

 

ファンタジーを具現化したような世界に現れた日本の武の象徴とも呼べる存在、サムライ。刀を振るい見覚えのある羽織を着て勇敢に、それでいて美しさすら感じる太刀を以て敵を切り伏せていくその姿に日本人である大和は大いに心を揺さぶられた。

 

「失敗したようね」

 

動揺する大和の意識を冷たいクレプスの声が引き戻す。

 

…いいや、まだだ。

 

大和は自身に言い聞かせ、冷静に考える。バレたとしてもこの距離まで行くには時間があるし、何よりあの場からここまで攻撃を届かせることなんてまず…。

 

不意にクレプスが少しばかり眉をひそめた。

 

「…今回はここまでみたいね」

 

唐突なクレプスの言葉に大和は疑問符を浮かべる。そしてすぐに、大気を大きく震わせる音に気付いた。

 

「!?」

 

音の鳴る方へ向けば、こちらに巨大なビームのような光が真っすぐにこっちへ向かってきているではないか。

 

あれを喰らえば死ぬ、瞬時に大和はそう理解した。

 

異形との戦いをろくすっぽ経験していない彼に、神がどれほど強大な存在かなんて推し量れるはずもなかったのだ。

 

「ここまで働けば十分でしょう、戦線離脱するわ」

 

クレプスが手のひらで魔方陣を操作する。すると足元に転移用の魔方陣が開きカッと光が二人を飲み込んだ。

 

転移の光が消えた数瞬後、大和とクレプスが潜んでいたはグングニルのオーラによって跡形もなく消し飛んだのだった。

 

 

 

 

 ▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲▼

 

 

 

 

 

 

キャプテンゴーストが航行を続ける間にも、その船上で戦いは行われていた。

 

「う…ぐ……!」

 

首を肩から伸びるニブショルダーで強く締め上げる凛。

 

この状況を突破しようと、ガンガンセイバーを銃モードに変形して銃撃する。マストのフレームに足を乗せ、真っすぐチューブを伸ばしていて位置は俺の斜め上真正面に固定されているので簡単に狙いはつけられた。

 

「…」

 

しかしメガウルオウダーからガンガンキャッチャーを召喚し、それを盾代わりに防いだ。

 

銃撃がキャッチャーの硬いフレーム部で弾け火花を散らした。

 

「!」

 

…もしかして、今は液状化が使えないのか?もし使えるならさっきの攻撃は液状化ですり抜けたはずだ。なら、上手くいけば攻められる。

 

「き…ぬぅ…!」

 

首を絞められる苦痛を堪えながらも、ツタンカーメン眼魂を起動させる。

 

〔カイガン!ツタンカーメン!ピラミッドは三角!王家の資格!〕

 

ツタンカーメン魂に変身し召喚されたガンガンハンドにコブラケータイが這いあがって合体、鎌モードにして鋭利な刃でニブショルダーを断ち切る。

 

「不意打ちの礼はさせてもらう!」

 

間髪入れずに跳躍する。一気に凛へ距離を詰めて鎌を振るったがガンガンキャッチャーで受け止められる。

 

「礼は不要」

 

「ぐは!」

 

お返しにと腹に拳打を喰らい、再び甲板に落とされてしまった。

 

「前回は傀儡とガンマイザーに力を割いていたのもあって貴様を仕留めきれなかったが…」

 

凛もひょいと甲板に降り立つ。続けてサッと虚空を撫でると、グリムと同じ深緑色のオーラが鬼火のようにいくつもともる。

 

「今回は私一人だ、今度こそイレギュラーは排除する」

 

突然凛が起こした現象に、俺は戸惑いの声を上げた。

 

「何…?」

 

「グリムは使用者の想像力をエネルギーにして具現化できる」

 

オーラは様々な形状へと変化する。鳥、剣光きらめくナイフ、荒々しい猛牛などなど。全てが俺にその矛先を向けている。

 

「やれ」

 

凛の一声でオーラが一斉に殺到する。

 

寄せ来るオーラの群れを鎌で切り裂いていくが、鳥の形をしたオーラがするりと刃を抜けて肩に直撃した。

 

「いてっ!」

 

ダメージを受けながらもなんとか持ち直し、次々とオーラを斬る。最後のオーラを鎌を振るい抜いて切り裂き攻撃をしのぎ切った。

 

「液状化だけが私の取り柄だと思ったか?」

 

そう言って凛は新たな眼魂を取り出す。メガウルオウダーに装填し、本体部を起き上がらせた。

 

〔YES-SIR!〕

 

オウダーから出現したのはリョウマと同じ裾の長いタイプで、蛍光イエローのパーカーゴースト。

 

〔TENGAN!GOEMONN!MEGAULーORDE!〕

 

再度メガウルオウダーを操作して、パーカーゴーストを纏う。

 

蛍光イエローの長丈の着物にはダイヤモンド状のカッティングが走り、その縁は中央に穴の開いた銭がずらりと並んだ装飾で飾られている。肩部から伸びて背で結ばれた帯『ニオウノタスキ』は霊力増幅機能を備えており、特徴的な頭部の歌舞伎のかつらの一種である大百日をイメージさせる『ダイビャクヘッド』と、顔面を防護する小判の形をしたフレーム『モノキュラーガードKB』が目を引く。

 

〔SINOBI THIEF!〕

 

安土桃山時代にいたとされる大盗賊、石川五右衛門の力を宿した仮面ライダーネクロム ゴエモン魂だ。オウダーからガンガンセイバーソードモードを召喚し、逆手持ちした。

 

「ゴーストチェンジで多様な能力を使えるのはこちらも同じ」

 

そして流麗なる動作で構えを取ると、ふっとその姿を消した。

 

姿を消したと思った瞬間。

 

「うあっ!」

 

剣戟を受けた。横合いからすれ違いざまにだ。

 

「が!?」

 

また剣戟を受けた。今度は背後から。

 

そしてまた、今度は前方から袈裟切り。

 

消えたのではない、そう錯覚するレベルのスピードで動き回っているのだ。恐らく、眼魂に宿る石川五右衛門が一説で忍者であったと言われるが故の能力か。

 

「ぐ…おっ!」

 

攻撃は続く。超スピードで戦場を縦横無尽に動き回り、次々に剣技を繰り出しては離脱、そしてまた攻撃。これを何度も繰り返して来る。

 

「速…ぐっ!?」

 

攻撃を一度凌いだかと思えば、また別の方向から攻撃を仕掛けてくる。どこから来るかもわからない攻撃への防御に必死で、こちらから攻撃を仕掛ける余裕はめっきり奪われてしまった。

 

「捉えきれない…!」

 

見切れない。そして動けない。この場に釘づけにされ、スピードに対抗できずゴーストチェンジ一つでいともたやすく防戦一方に追い込まれた。

 

(何かこの状況を打開する策は…!)

 

攻撃を受けては防御しながらも頭を振り絞って打開策を考える。今の状態からゴーストチェンジは恐らく無理だ。

眼魂を出した瞬間に眼魂を奪われてしまう。

 

本当にアルギスは厄介な眼魂を奪ってくれたもんだ。タイマンで上手くはまれば相手を動けなくして、文字通り手も足も出なくさせる能力を持った眼魂か。

 

(…ん、動けなくなる?)

 

内心で呟いた言葉に、俺の何かが反応した。やがて、俺はひらめく。

 

相手の動きでペースを持っていかれるなら、逆にこっちのペースに持って行ってしまえばいい。無茶苦茶な暴論だが、今はこれがいいのだ。

 

こっちのペースに持っていくためにはまず、相手の動きを…!

 

「止めてしまえばいい!」

 

パーカーのフードと胸部に装着された金色の装甲『サンアメンライト』から、強烈に眩しい光が迸る。放たれた光は船上の空間を眩しい白一色に、塗りつぶしていく。

 

目くらまし戦術なんて、レイナーレ戦からの部長さんから逃げる時以来だ。おかげですっかりこの便利能力を忘れていた。

 

フラッシュは5秒ほど続くと、次第に弱まっていった。

 

「!」

 

光が止んだ後、俺のすぐ背後にいたのはたまらず目を抑えよろめく凛の姿があった。

 

ようやくつかんだ好機、これを逃すまい。

 

〔ダイカイガン!ツタンカーメン!〕

 

すかさずレバーを引いて右肘に増大した霊力を導く。

 

この距離なら決められる。

 

力強く、なおかつ素早く踏み込む震脚。

 

「はぁぁぁっ!!」

 

そして繰り出す技は数ある八極拳の技の中でも代表格とされる痛烈な肘撃ち『裡門頂肘』。

 

〔オメガドライブ!〕

 

 

「ぐふおっ!!」

 

渾身の、状況を打破する一撃が見事にヒット。快音を響かせて木っ端の如く吹き飛びマストの柱に体を打ちつけた。

 

かなりのダメージになったようで、すぐに立ち上がることはなかった。よろめき、うめきながらその場にうずくまった。

 

八極拳はリーチが短い反面、至近距離に置いて絶大な威力を発揮する。オメガドライブで霊力の上乗せを行えばここまでの威力を発揮するとは思わなかった。

 

「…ッ!」

 

彼女が呻き苦しむ姿に、心がずきりと痛む。それは確かに、戦場に立つ俺の戦意を弱めてしまい隙を生んだ。

 

そしてその瞬間を、変わってしまったあいつは見逃さなかった。

 

〔DAITENGAN!GOEMONN!OMEGAUL-ORDE!〕

 

うずくまりながらもメガウルオウダーを操作し、ガンガンセイバーに強大なオーラを纏わせた。

 

「!!」

 

兎のように飛びあがり、船上を馳せて距離を詰めてくる。一撃に備えようと鎌を構えた瞬間。

 

フッと忽然とその姿を消した。

 

「消え…ッ!?」

 

刹那、鋭い衝撃を背に受けた。背後に目線をやれば、いつの間にか俺の背後に回っていた凛の、蛍光イエローのオーラに輝く烈閃が俺の背を切り裂いていた。

 

突然の衝撃に飛ばされ、俺はそのままごろごろと甲板を転がっていく。

 

「意識外からの攻撃は効くだろう?」

 

先の一撃で荒くなった息を整えながら、あいつは言う。

 

今気付いた。あえて最初の接近でトップスピードを出さなかったのはこの一撃を確実に決めるためだ。最初から超スピードで決めようとしても再び俺の目くらましを喰らって同じ失敗を繰り返すのは目に見えている。

 

あえて能力を使わずに接近し、十分な距離まで近づいたら超スピードで一気に俺の後ろに回り一太刀。みごとに策にのせられた。

 

「これは貰っていく」

 

攻撃を受けた際に眼魂を落としてしまったらしい。凛は俺の下から離れていく眼魂を拾っていく。

 

ただでさえこっちは眼魂不足だってのに…!こっちの戦況は悪化するばかり、折角サーゼクスさん達に任されたというのにこれじゃ…。

 

今まで使用したもの、ガンマイザーの性質と俺から奪ったものも含めて考えると…向こうが持っている眼魂は10近くは確定か。もしかすると、もう残りの眼魂も手に入れているのかもな。

 

俺の眼魂をすべて奪えば向こうは全15種コンプリートか?笑えない話だ。

 

〔YES-SIR!〕

 

再び凛は眼魂を変える。出現したパーカーゴーストは紫色の布地に金色の装飾が施された、今まで俺が使ってきたもの…ノブナガだった。

 

〔TENGAN!NOBUNAGA!MEGAUL-ORDE!〕

 

凛がゆっくりとその体に紫色のパーカーゴーストを纏う。再びガンガンキャッチャーを銃モードで召喚し、顔面にの防御フレームは軍配のような形状をした『モノキュラーガードGB』へと変じた。

 

〔TENKA WARLOAD!〕

 

仮面ライダーネクロム ノブナガ魂。…俺から奪った眼魂も含めて丁寧に使いこなしてきやがる。あえて俺の前で使うことで、挑発のつもりか。

 

「…貴様の攻撃に躊躇いが見える。さっきの攻撃も、まともに受ければ変身不能に追い込むダメージを与えられた」

 

「……」

 

…言ってくれるな。俺がどういう気持ちで今お前と戦っているか、まさか知らないはずがないだろうに。

 

「温いな。私とは戦えないか?」

 

「…!」

 

失望すら感じさせるその一言が、俺の感情を強く刺激した。

 

「凛…!」

 

鋭い痛みをこらえながらなんとか立ち上がる。

 

「どうして冥界でのパーティーを襲撃をした!?俺の命だけを狙っているならわざわざあそこまでの騒ぎを起こしてまで俺以外に危害を加える理由はないはずだ!」

 

俺をイレギュラーと呼んで排除したがる理由はよくわからないが、俺を殺すだけならわざわざあそこまで派手に暴れる必要はないはず。適当に俺が一人の時を見計らって仕掛ければいい話だ。

 

「どうして、か」

 

ふむと一拍置いて、考えるようなそぶりを見せた。

 

「あれには陽動を任せた。アルギスも鬱憤晴らしをしたいと言うのでな」

 

「鬱憤…だと?」

 

これといった感情のない声色で、凛は答えた。何ともないような言い方だったが、最後に付け加えた鬱憤晴らしという一言が、俺には信じられなかった。

 

そんな個人的な感情であれだけの騒ぎを起こしたのか?そんなことのために、あの人たちは犠牲になってしまったのか?

 

「そう、あれは悪魔という種を憎む悪魔だ」

 

「どういうことだ…?」

 

「そこまで答える義理はない」

 

断絶していたと思われていたアンドロマリウス家の生き残り、過去に何かあったようだ。

 

「駒のガス抜きに丁度いいし、お前が皆とバラバラになればその分やり易くなる。我らの大望のために散った命などほんの些細な犠牲に過ぎん」

 

「お前は…そんな理由で…こんな…!」

 

信じられない。ここまで冷たく、残酷な言葉を何のためらいもなくすらすらと語ってのけるあいつの姿にショックを受けた。俺の記憶にあるあいつの優しさも、明るさも、容姿以外に見る影もない。

 

「お前のゴーサインでどれ程の人が傷ついたと思っている!?傷が治っても精神的に深いダメージを追った悪魔だって何人もいるんだぞ!!」

 

癒しの力に優れたラファエルさんのおかげで死傷者は最低限に抑えられた。それでも両手で数えきれないくらい多くの悪魔が犠牲になったし、中には傷が治ったとしても今回の件がトラウマになってゼファードルのようになってしまった悪魔も大勢いる。

 

彼らはきっと心に深く付けられた傷に悩み苦しみ、抱えた恐怖に眠れぬ夜を過ごすのだろう。

 

「だろうな」

 

「…ッ!」

 

意にも介さないような口ぶりに、いよいよふつふつと怒りがこみあげてくる。目の前であの惨状に巻き込まれた人達のことを思い出し、否応にもその惨状を引き起こした張本人に、それが妹であったとしてもこの態度が怒りを掻き立てる。

 

凛はほんの一かけらも犠牲者のことを気にしていないのだ。

 

「お前はこんな酷いことを平然とするような奴じゃなかった…!『叶えし者』になり手を血に汚してまで、お前が叶えようとする願いは何だ!?」

 

ここまでくるともはや別人と言ってもいい。こんなにも人間とは変わるものなのか。ポラリスさんの言う『敵』に願いを捧げて契約した者は、ここまで人格を歪められてしまうのか。

 

「ほう、『叶えし者』を知っているのか。その情報は誰から聞いた?」

 

向こうは俺が出した『叶えし者』と言うワードに、少しばかり興味を示した。

 

「質問を質問で返すな…!!」

 

「…まあいい、大方あの歯車の戦士からか。あの者もいずれは潰しておいた方が良さそうだ」

 

歯車の戦士ってのはポラリスさんが変身したヘルブロスのことを指すのだろう。あとで戦闘データを見たが特に苦戦する様子もなく、液状化の弱点を一目で見抜いていた。

 

肝心なことに、俺には電撃攻撃が出来るエジソン眼魂はなく、氷の属性攻撃が出来る術はないのだが。

 

「私の願いはたった一つだ」

 

すらりと手を前に差し出し、グッと握りつぶすような動作をした。

 

「夢幻の真龍と無限の龍神が守るこの『竜域《エネルゲイア》』を滅ぼす、ただそれだけのこと」

 

「…!!」

 

そうはっきりと言ってのけたあいつの言葉には、いつもの冷たさと相反した激しい感情があった。

 

無限の龍神とは禍の団のボスであるオーフィスのことだ。エネルゲイアという言葉が何を指しているのかは俺には分からない。そしてどうしてこのような考えを持つように至ったのかも。だが、今のあいつがとても危険な思想を持っているということは確実に理解した。

 

何としてでも、凛を止めなければならない。これは三大勢力に仇成す危険因子を排除するという推進大使としてだけでなく、兄としての責務でもある。道を踏み外し、外道に落ちようとする妹を止める。

 

今の彼女を知って、俺の覚悟はより強固に固まった。

 

「させない…お前にそんなこと、断じてさせない!!」

 

俺は叫ぶようにして宣言する。同時に戦意が再び猛りだす。

 

「いいや、私の道はこれからも続く。だが、お前の道はここで絶える」

 

しかしその覚悟は嘲笑的な声色で一蹴される。

 

「話が過ぎた。貴様が使ってきた眼魂で引導を渡してやろう」

 

向こうは話を切ると、ガンガンキャッチャーのソケットにピンク色の眼魂…ヒミコ眼魂を差し込んだ。

 

〔DAIKAIGANN!〕

 

銃口に霊力と、神秘的な色合いを見せる炎が収束していく。さらにそれだけでは終わらなかった。

 

〔DAITENGAN!NOBUNAGA!〕

 

メガウルオウダー側のノブナガ眼魂の力も解放させた。凛の周囲にガンガンキャッチャーと同じ形をしたオーラがいくつも出現する。その数は20はゆうに超えており、全てが神秘的な炎のともった銃口を俺に向けていた。

 

向けられる側になって初めてわかる、如何にノブナガ眼魂が強力だったということ。威力にしても、こうして無数の銃口を向けて相手をビビらせることに関しても一級品の眼魂だったのだ。

 

〔OMEGAUL-ORDE!OMEGA FINISH!〕

 

ガンガンキャッチャーとオーラが一斉に猛烈な銃撃を放ち、船上に破壊の嵐を巻き起こす。

 

「くそ!」

 

〔ダイカイガン!オメガファング!〕

 

刃にターコイズブルーの霊力を蓄えては、何度も斬撃を飛ばして攻撃を相殺する。しかし圧倒的に向こうは手数も、2つの眼魂の力を乗せた攻撃なためその威力も上だった。

 

すぐさま押され始め、均衡は容易に破られる。

 

ダムにせき止められていた水が溢れ出るように炎と霊力の銃撃の嵐が炸裂し、くまなく全身に食らいつく。

 

「がはぁっ!!」

 

銃撃に次ぐ銃撃に抗えるはずもなく、なすすべなく攻撃を受け続けてしまう。

 

やがて変身は解除され、その威力に吹っ飛ばされ宙に体が投げ出される。

 

「…あ!」

 

キャプテンゴーストの進路と真逆、後ろに飛ばされる。

 

いよいよ甲板を飛び出そうかというところで間一髪、甲板の端に設けられた柵を掴み落下は免れた。

 

「助かっ!?」

 

その時、大きく船は揺れた。

 

先の攻撃を受けたのは俺だけではなかった。船もその威力に揺れ、航行機能を司るマストに高威力の攻撃をぶち込まれてしまったことで一気にバランスが崩れる。船が煙を上げながらぐらんぐらんと大きく揺れては傾く。

 

「墜落するのか!!」

 

コントロールが効かない。今までのスピードをそのままに、墜落しながら付近の神殿目掛けて突っ込んでいく。

 

でもこんなことになれば凛だってただでは…。

 

そう思って向けた視線の先で、凛はメガウルオウダーを操作していた。

 

〔CRASH THE INVADOR!〕

 

基礎フォームたるネクロム魂に変身し、その体を緑色の液体へと変じさせていく。

 

液状化して落下の衝撃をやり過ごそうというはらか!畜生、本当便利だなその能力!!

 

「うおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

猛烈に吹き付ける風に抗いながら、手を伸ばして必死に甲板の柵にしがみつく。しかし変身が解除され既に常人の域に身体能力が戻った俺が耐えられるレベルではなかった。

 

(くっそ…もう限界が…!)

 

さらに先の戦闘で負ったダメージもあり、消耗した体に力が思うように入らない。徐々に柵を掴む力が弱くなっていく。

 

そしてじりじりと策を掴む手が風に押され、指が一本、また一本と放し始める。

 

「あっ!」

 

考える間にも神殿との距離はぐんぐん縮まる。

 

柵を放せばそのまま吹き飛ばされて落下死、逆に柵を掴んだままでいてもキャプテンゴーストが神殿に墜落。当然俺も衝突に巻き込まれ、ただでは済まない。

 

どっちみち、俺に残された道の先にあるのは同じ死というゴール。

 

「!」

 

しがみつかんとする意に反してとうとう限界を迎えた手が、掴む柵をするりと放してしまった。

 

頭が真っ白になった。どうしようもない事態に冷たい絶望が、心に忍び寄ってくる。

 

風に流されるままに体が飛び、ついさっきまで近づいていたはずの神殿が一気に遠ざかっていく。

 

遠ざかる景色の中でキャプテンゴーストが、少し遅れて神殿に突っ込んでいった。

 

怪船は、突き刺さるように、さながら隕石のように古びて荘厳な存在感を放つ神殿に墜落してしまった。




次回は一誠が活躍する、かもしれないです。

ネクロムのゴーストチェンジ祭り、まだ終わりませんよ?

次回、「力を合わせる」
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