ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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色々あらすじとかタグを修正しました。アドバイスしてくださった方、ありがとうございました!

書いてたら1万字越えしたので分割しました。それでも1万字越えしましたが。悠のタイマンを書くのもいいけどやっぱり原作組との共闘も楽しい。

Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は…
S.スペクター
9. リョウマ
11.ツタンカーメン





第60話 「並び立つ赤と青」

〔Count start〕

 

兵藤の赤龍帝の籠手から初めて聞く音声が発せられると、嵌めこまれた緑の宝玉に120の数字が浮かび上がる。

 

「禁手開始まで2分だ!」

 

兵藤は夏休み期間中の修行と黒歌との戦闘を経て、ついに補助なしでの禁手の発動が可能になった。

 

倍加を使わなければ最大30分間、禁手状態を維持できるが発動まで2分間のラグがある。しかもその最中倍加は使用できず無防備な状態を晒すことになるという中々きつい条件だ。

 

「わかった、それまで俺達が時間を稼ぐ」

 

だが多人数での戦いなら、その欠点を補うことができる。

 

一歩前に出る俺はゴーストドライバーを出現させ、スペクター眼魂を装填する。

 

「変身!」

 

〔カイガン!スペクター!レディゴー!覚悟!ド・キ・ド・キ・ゴースト!〕

 

素早く変身プロセスを完了、スペクターに変身して戦闘の準備を整えた。今のにらみ合いから、直に来る攻撃に備える。

 

「…悠、くれぐれも無茶はしないでくれよ」

 

「大丈夫だよ、それに今回は皆がいるからな」

 

ゼノヴィアが心配そうな視線を送ってくる。変身後なので表情を見せることはできないが、顔を向けて不安を和らげようとなるべく優しい声で返す。

 

今までの凛との戦いは一人だった。だが、今はそうじゃない。彼らと共に戦うことで、彼らと力を合わせることで戦術の幅は大きく広がる。

 

前にもっと自分達を頼れとゼノヴィアに言われた。今回は存分に、頼ってみようじゃないか。

 

「ギャスパー君は下がって、停止の力でフォローを」

 

「効くかはわかりませんけど…やってみます」

 

朱乃さんの指示に自信はなさげだがギャスパー君は頷いた。

 

オーフィスの蛇で強化されたというディオドラ。凛と同じく一筋縄ではいかない相手だろう。停止の邪眼は自分との差が開けた実力者相手ほど停止時間が短くなる。両者ともに長時間の停止は見込めないだろうが、僅かなりとも隙を強引に作るのには使えるはずだ。

 

ディオドラは情報によればこれといった特殊能力はない。脅威なのはオーフィスの蛇だけで、全員で一斉に袋叩きにすれば勝てない相手ではない。

 

そして凛に対しては、オカ研の皆との共闘という状況なら有効打を出せる。

 

〈BGM:牙をむく紋章獣(遊戯王ゼアル)〉

 

「雷よ!」 

 

初撃を飾ったのは朱乃さん。虚空から出でた雷条が空を焼いて真っすぐ凛へと伸びる。それを凛はさっと横に跳んで回避する。

 

「休む間は与えないよ!」

 

回避した凛の下へ、木場が二振りの聖魔剣を携えて颯爽と馳せる。

 

しかし彼女は雷を回避して以降動くそぶりを見せない。お得意の液状化を発動してそのまま攻撃を受けようとしている。

 

「!」 

 

だが数㎝と距離が縮まり木場が剣を振るったところで急に体をそらして躱した。 

 

そのまま続く剣技を回避しながら、凛は木場の持つ聖魔剣にちらりと一瞥する。

 

「雷の聖魔剣か」

 

ぽつりと呟いた。言葉の通り、聖魔剣の刀身はバチバチと弾ける雷を帯びていた。 

 

「悪いけど、君の液状化は対策済みだよ」

 

次々と二振りの聖魔剣から放たれる剣技の数々。破壊力の魔のオーラ、邪を打ち祓う聖のオーラ、そして雷の魔力の3つの力を帯び、鮮烈な剣閃を描いて振り抜かれるそれを、彼女はまるで舞を踊るかのように軽やかな動作で次々に躱していく。

 

 

 

 

 

 

ネクロムのスペックについて話した時、当然俺達はその対抗策を考えた。どうすれば厄介な液状化を突破してダメージを与えられるか。

 

いよいよ議論を始めようかというときに、兵藤は何気ない一言を放った。 

 

『水タイプなら電気タイプが効くんじゃね?』

 

『『『『……』』』』

 

その時、呆気に取られた皆の沈黙がしばし続いたのを覚えている。確かに水は電気を通す(厳密には水の中に含まれている不純物が)し、それならいっそ凍らせてみるのもどうかということで話はまとまった。

 

 

 

 

 

 

電撃攻撃に特化したエジソン眼魂を持たない俺では液状化を突破することはできない。しかし電気攻撃なら朱乃さんの専売特許だし、木場も聖魔剣に炎や雷などの属性を付与できる。俺の命を狙い、ボコボコにしてくれた妹の対策会議は数分と経たずに終わったのだ。

 

そして、兵藤の考えが正しいということはさっきの凛の雷攻撃を避ける反応が証明してくれた。

 

「液状化は無意味、なら」 

 

じりじりと後退しながら木場の剣に回避に徹する凛が一歩大きく飛び退いた。そして赤い眼魂を取り出し、起動させてメガウルオウダーに装填した。 

 

〔YES-SIR!〕 

 

メガウルオウダーから出現したのは、赤いパーカーゴースト。見間違うことなく、それはかつて奪われた眼魂、ムサシだ。

 

〔TENGAN!MUSASHI!MEGAUL-ORDE〕

 

赤いパーカーゴーストを纏い、ゴーストチェンジが完了した。顔面部の防護フレームは刀の鍔の一種、木瓜形という独特な形状をした『モノキュラーガードTS』に変化、赤く変色した複眼が輝いた。 

 

〔GORINN BLADER!〕

 

仮面ライダーネクロム ムサシ魂。メガウルオウダーからガンガンセイバー二刀流モードを召喚する。 

 

「その姿は剣に優れたフォームだね」

 

冷静に木場は相手を分析する。奪われた眼魂についても話したし、相手がゴーストチェンジしたときの対処もすでに練った。 

 

「ふ」

 

今度は凛から仕掛けてきた。ガンガンセイバーを携えると、風を切って猛進し、木場と高速で切り結ぶ。金属音をたて幾度もぶつかり合う互いの剣。聖魔剣とガンガンセイバーの剣光が煌めいては交差して弾け、息継ぐ間もなく次の剣煌を生む。

 

聖魔剣に目覚め、ライザー戦の時より剣士としては格段にレベルの上がった木場の高速の剣戟に難なく凛は対応していた。

 

木場が高速で突きのラッシュを繰り出す。それをガンガンセイバーの刃で受け、上段から切りつける。それを聖魔剣で受け切ると、至近距離にて反撃にと足元に短剣の聖魔剣を生み出して蹴り上げる。

 

向かう聖魔の刃をもう片方のガンガンセイバーで軽く弾く。すると弾ききった瞬間、刃を握る腕が動きをぴたりと止めた。

 

「ううう…!」

 

ギャスパー君がうまく停止させたのだ。しかし停止させるのに相当力を使っているのか、眼を輝かせながらも額に薄く汗を流して苦しそうに呻いてる。

 

片や受け止められ、片や停止させられた二刀流。この隙を逃すまいと木場は二振り目の聖魔剣で剣戟を繰り出す。

鮮やかに放たれたそれはネクロムの装甲を切り裂くかと思いきや。

 

「ふ!」

 

停止させられていた腕が再び動き出し、防御に走ったのだ。ギャスパー君が作った隙をついた木場の攻撃は届くことはなかった。

 

「停止時間は2秒か…!」

 

「私の時間を止められると思ったか?」

 

鍔ぜり合う両者の剣。つばぜり合いを解いてはまた交差し、何度も撃ち合う両者。

 

すると一度、二人は大きく後ろに後退して距離を開けた。

 

〔DAITENGAN!MUSASHI!OMEGAUL-ORDE!〕

 

メガウルオウダーを操作すると、眼魂に秘められた強大な霊力が刃に宿る。

 

「ッ!」

 

木場もその様子を見て警戒度を引き上げる。聖魔剣により自身の魔力と聖剣の因子を流し込み、強化させる。

その証左に、刃が輝きを放ち始めた。

 

両者がにらみ合う。虚空に穴が開きそうな勢いで集中、相手の動きを注視する。

 

「「……」」

 

そして消えた。何の前触れも、音もなく。

 

そしてぶつかった。剣と刀に宿る赤いオーラと聖なるオーラが激しく音を立てて弾ける。

 

両者ともに強大なオーラを纏った得物で目にも止まらぬスピードで切り結んでいるのだ。木場の駒はスピードに特化した『騎士』の駒だが…。

 

「僕の剣とスピードについてくるなんて…!明らかに紀伊国以上に力を発揮している!」

 

木場が敵の技量に舌を巻く。厳密に言えばその剣の腕はムサシ魂のサポート機能によるところが大きいのだが、サポートなしでの使用者の技量も増せばよりそのフォーム使用時の技量を伸ばすことも可能になっている。 

 

スピードに自信のある木場の方が徐々に押され始めている。剣士相手なら剣士ということで、ムサシ魂の相手は木場かゼノヴィアを想定していたがこちらの想像以上に眼魂の力を発揮しているようだ。

 

「ギャスパー君、さっきのように停止で!」

 

「無理です、うまく裕斗先輩の背に隠れていて停止できません…!」

 

「何!?」

 

言われて初めて気づいた。彼女は木場の剣技に追いつきながらも絶妙にギャスパー君から見て木場の背に隠れて、視界に収まらないように立ち回っているのだ。

 

…だが、俺達の策はただ木場をぶつけるだけでは終わらない。

 

「はぁぁ!!」

 

超スピードで剣を撃ち合う木場を相手にしているうちに、背後に回ったゼノヴィアが切りかかる。しかし振り下ろされた聖剣の刃を、背部のゴーストブレイドが俊敏に自動で反応し交差して受け止めた。

 

そのままなんと前方と後方、攻撃を同時に防ぎ、さらには前後両方の相手と剣を撃ち合うという凄まじい芸当を見せ始めた。

 

「これでいい」

 

自動で攻撃してくる剣を捌きながらゼノヴィアはふっと笑う。

 

そう、攻撃はまだ終わらない。

 

前後の攻撃を受け止める凛に、左右から俺と塔城さんが攻撃を仕掛ける。

 

「横槍を」 

 

「叩き込む!」 

 

二刀流と自動防御を前後からの攻撃で封じてからの左右同時の挟撃、これを防ぐ手段はもうないはずだ。

 

おまけに今の塔城さんは猫又の力を解放しており、白髪から白い猫耳と、臀部から尻尾が生えている。名前通りの猫になったわけだ。

 

猫又の力を解き放ったことで、同時に塔城さんは体内を巡る『気』に作用する仙術を使えるようになった。その効果はざっくり言えば、ゲームで言うデバフか。気を乱して相手の魔力をうまく扱えないようにしたり、魔力攻撃の耐性を低下させるといった芸当ができるのだ。

 

塔城さんの仙術を液状化が使用できないだろう今のうちに決めておけば、これからの戦いをこちらの有利に持ち込める。

 

そう思った矢先だった。

 

〈BGM終了〉

 

「っ」

 

前後同時に木場とゼノヴィアと切り結ぶ凛は、地面を軽く踏み鳴らした。

 

すると俺の前方の地面が突如として盛り上がる。そこからゆっくりと出でたのはかつて見た、パーティー会場を惨劇の様相たらしめたあの人形だった。

 

「これは!?」

 

俺の方だけでなく塔城さんの方にも不意打ち気味に床から這いあがるように出現した人形。思わぬアクションに虚を取られ、その長い腕の放つ拳打を許してしまう。

 

「きゃ」

 

「うっ」

 

幸いにも威力は控えめだったので、大きなダメージにはならずに済んだ。しかしながら詰めた距離は離されてしまった。

 

俺達への攻撃の後、人形たちはそのまま木場とゼノヴィアにも襲い掛かる。凛を抑える二人は素早くつばぜり合いをやめ、飛び退って離脱する。

 

人形はそれから何もすることなく、塵となって風に吹かれ消えた。

 

「あくまでその場しのぎってことか」

 

彼女の話が確かなら、ガンマイザーや人形の生成には力が必要になる。今回はそれらを使わない代わりにここまでの力を発揮しているらしいが…。

 

「まさかあんな手があったなんて…」

 

「少なくとも、あれはネクロムやムサシの能力じゃない」

 

「なら、魔法かしら。土人形…ゴーレムを召喚する術は存在するらしいし」

 

これに関しては、『叶えし者』としての力なのだろうか。しかし、こんな力を得るのが彼女の願いなのか?だとしたらあのエネルゲイアを滅ぼすというのは…?

 

「…一応の腕は見せてもらったことだし、僕も動くとするか」

 

一連の接近戦を静観していたディオドラ。開戦から保っていた沈黙を破り、右手に魔力を込めていよいよ動こうかという奴の前にざっと立ちはだかる者が二人いた。

 

「あなたの相手は私が引き受けるわ」

 

「お前にはアーシアを泣かせた報いを受けさせなければならない」

 

毅然とした態度で相対する部長さんとゼノヴィア。二人の言葉と意思を、奴は嘲笑で一蹴する。

 

「威勢のいいことだね、でもすぐに叩き潰してあげるよ」

 

やがて部長さんとゼノヴィアがディオドラと交戦を開始した。ディオドラの強化された魔力と部長さんの滅びの魔力、そしてデュランダルのくるめく聖なるオーラが飛び交い、神殿に破壊の跡を付ける。

 

あいつは一先ず、二人に任せよう。まずは凛の方から何とかしなければ。

 

そう思っていた矢先、凛はさらなるゴーストチェンジを行おうとしていた。

 

〔TENGAN!NEWTON!MEGAUL-ORDE!〕

 

15の英雄たちの中で唯一のダウンジャケット型のパーカーゴーストを纏う。リンゴの形状をした銀色の防護フレーム『モノキュラーガードAP』に囲まれた複眼は青色に変化した。

 

〔GRAVITY ELUCIDATOR!〕

 

仮面ライダーネクロム ニュートン魂だ。その能力は引力と斥力を操作するという中々に強力なもの。以前、自分がこれを使った時、能力を存分にふるってライザーを校舎のレプリカで押しつぶしたのが思い出される。

 

「来るぞ!」

 

すっと右手を突き出して…。

 

「ぎゃあああああああああああ!!?」

 

斥力が発動する。どうやら範囲を絞って発動させたらしく、その分斥力が増しているようだ。ギャスパー君はギャグマンガみたく、後方の彼方にあっけなく強力な斥力に吹っ飛ばされてしまった。

 

「ギャスパー君!!」

 

呆気なさすぎるリタイヤに、戦慄が走る。時間停止という強力過ぎる能力故に真っ先に狙われたわけだ。

 

「まずは一人…赤龍帝の姿が見えないな、どこに消えた?」

 

きょろきょろと目線をやって兵藤の居所を探る。

 

「余所見をする余裕があるなんてね!」

 

木場が聖魔剣を床に突き立てる。すると聖魔剣の刃が次々に凛の方へと乱れ咲いた。ギザギザした刃、厚めの刀身、反りのついた刃など形は様々なれど等しく強力な聖魔の力をたたえる刃たちは煌めく。

 

凛もこのまま何もしないわけがなく、右手から斥力を放って咲き乱れる聖魔剣にぶつける。

 

「引力と斥力は一度に両方は使えない!」

 

このフォームは引力と斥力の操作という強力な能力を持っているが、フィールドの生成に多くのエネルギーを必要とするため片方しか一度に扱えないという欠点が存在する。更に言うと、機動力も低下、両手がフィールドを生成する球状グローブで塞がれるため武器の使用も不可能になる。

 

ニュートン魂とは超強力な能力を持つ一方で、様々な欠点を抱えるフォームでもあるのだ。

 

「行きます」

 

猫のような俊敏さを以て、奴から見て左側から塔城さんが駆ける。一息に凛へと跳躍して距離を縮め、回し蹴りを喰らわせる。

 

「くっ」

 

咄嗟に凛は左腕で防御するが、すでに自身の間合いに相手を収めた塔城さんはそこから怒涛のラッシュで攻め立てる。小柄な体から想像もできないようなパワーで繰り出される多彩な拳打、蹴撃の数々。

 

凛も聖魔剣を抑える斥力フィールドを維持しなければならないので思うように塔城さんの攻めを防ぐことができない。

 

「えい」

 

そして締めに、渾身のアッパーを繰り出す。快音を響かせながら弧を描いて、凛の体が宙に舞いあがる。

 

数秒後、落下してどさりと倒れこんだ。あれだけの仙術攻撃を受けたのだ、これからの戦闘に大きく響くはず。その証拠に、中々起き上がってこない。

 

「小猫ちゃん、離れて!」

 

聖魔剣たちを食い止めていたフィールドがなくなり、再び木場は聖魔剣の力を込め、刃の花園を広げる。

 

それを一瞥し、塔城さんが離れようとした時だった。

 

「……」

 

倒れたままの凛が音もなく右手を突き出し、一瞬だけ斥力を放ったのだ。一瞬ではあるが範囲と時間を絞った分高いパワーで発動した斥力に、小柄な塔城さんは不意をつかれ木っ端のように後ろへ吹き飛んだ。

 

「きゃっ!!」

 

そして吹き飛んだ先にあるのは凛へとその領域を広げんとする聖魔剣の刃たち。

 

「小猫ちゃん!!」

 

「塔城さん!!」

 

まさかの事態に、頭が真っ白になる。

 

このままでは塔城さんが聖魔剣の剣山に貫かれてしまう。剣のダメージだけではない、聖なるオーラも全身に受け、どのような形であれ即死は免れない。

 

「これで二人目だ」

 

仙術の効果で上手く動かず、震えながらゆっくりと立ち上がる凛が抑揚の少ない声で勝利宣言を下す。猛烈なスピード、そしてこの距離ではもう誰も間に合わない。

 

仲間を失う、その凍えるような恐怖が心を侵食せんとした時だった。横合いから赤い烈風が吹き荒れた。そして数瞬後、塔城さんの姿がふっと消えた。

 

「!」

 

さらに赤い風が放つ強烈な拳が凛を吹っ飛ばす。吹き飛ばされた凛は体を上手く動かせないまま、ずざざと地に倒れこむ。

 

「俺もいるってこと、忘れんな!」

 

電撃的な攻撃を放ったのは赤龍の鎧を纏った兵藤だった。その片腕には塔城さんが抱えられている。俺達が戦っている間に2分間のカウントを終えて無事に禁手を発動したのだ。

 

今までは禁手を使えず、増加と譲渡で補助に徹してきたあいつが今、勇ましく鎧を纏って前線に立っている。その姿を見ると成長っぷりを感じて、嬉しくなる。そして同時に希望も湧きたってくる。

 

ドラゴンは力の象徴でもある、とか先生が言ってたか。

 

「イッセー先輩、そ、その…」

 

腕に抱えられ、顔を赤くしてしどろもどろに何かを言わんとする塔城さん。

 

「ああ、ごめん。ケガはない?」

 

「は、はいぃ…」

 

優しく声をかけるとゆっくりと兵藤は腕に抱えた塔城さんを下ろしてあげた。何やら塔城さんは耳の先まで真っ赤になりそうなくらい恥ずかしそうにしている。

 

戦闘中に見せつけてくれるじゃないか。周りの朱乃さんもどことなく不機嫌そうにほおを膨らませている。

 

だが相手はこの雰囲気を続けさせてはくれない。

 

「…もう少し、本気を出した方が良さそうだ」

 

刹那、この場の緊張感が増大した。重いような、圧迫される…いや、圧倒されるようなというべきか。

 

そしてゆっくりと床に倒れ伏していた凛が起き上がる。

 

「気を付けて、敵のオーラが濃くなったわ」

 

警戒心を濃くし、冷汗を垂らす朱乃さんが注意を促す。

 

変身状態の今なら見ることができる。今の彼女が濃密に纏う、底知れぬ力を秘めた黄色のオーラが。

 

…黄色?ネクロムのオーラは緑色じゃなかったか?

 

「乱した体内の気の流れが強引に戻されてます」

 

驚いたように凛を見るのは塔城さんだった。さっきの仙術ラッシュも無駄になってしまったのか。

 

「そんなことあり得るのか?」

 

「一応、できないことはないんですけどそんな荒業、相当の実力者のオーラじゃないと…」

 

「とにかく、今のあいつがやべえってのはよくわかるぜ」

 

警戒心を増した俺達は彼女の次手を逃すまいと注視する。もしかすると、さっきの塔城さんのようにあっけなくやられる可能性だってある。より一層、気が抜けなくなった。

 

「ここからが本番だ」

 

〔YES-SIR〕

 

本日何度目になるだろうか、凛は新たな眼魂を取り出すとメガウルオウダーに装填した。今回出現したのは穢れなき白の地に高貴さを感じさせる金色に縁どられたパーカーゴーストだ。

 

〔TENGAN!SANZO!MEGAUL-ORDE!〕

 

そしてゆっくりとパーカーゴーストを着て、ゴーストチェンジを完了する。

 

白と金の格子模様のパーカー『サイユウコート』は邪を払う聖なる力に満ちている。

 

何より目を引くのが、両肩に装着されたお供達のレリーフ。右肩には孫悟空を模した赤いサル、左肩には猪八戒を模したオレンジの豚。正面からは見えないが背部には沙悟浄を模した緑色の装甲もある。

 

頭部の玄奘三蔵がかぶっていたとされる僧頭巾をモチーフにした『テンジクヘッドガード』は使用者の徳に応じて防御力を増大させる。顔面の防護フレームは燃え盛る太陽をイメージさせる『モノキュラーガードNR』が装着され、複眼の色は薄い黄色へと変色した。 

 

〔SAIYU RODE!〕

 

西遊記で有名な玄奘三蔵と彼が従える3人のお供の力を宿した姿、仮面ライダーネクロム サンゾウ魂。原作でも見慣れ、テレビの画面の中で頼もしく活躍していたその姿は今の俺にとっては脅威として立ちはだかる。

 

「あれは見たことないフォームだな」

 

「サンゾウ魂、西遊記の三蔵法師とその一行の力を使うフォームだ」

 

俺が教えたのはあくまでパーティー会場時に持っていた、あるいは現れたガンマイザーから持っていると推測される眼魂の情報のみだ。まだサンゾウ眼魂の使用やそれに対応したガンマイザーの目撃情報はなかったのでまだ共有はしていなかった。

 

「こちらは数が心許ないのでな」

 

凛は素早く印を結ぶ。すると両肩のレリーフが発光し、ボフンと煙を立てて出現したのは。

 

「フガッ!」

 

「キキィー!」

 

「カカカ!」

 

サンゾウ魂のパーカーゴーストの両肩、そして背部にレリーフが存在するサンゾウの従える3人のお供。

 

孫悟空と沙悟浄、猪八戒の3体だ。サンゾウには彼らを実体化させ使役する能力もあるのだ。突然の出現に、兵藤たちは警戒の色を深める。

 

「何じゃありゃ?」

 

「サンゾウのお供だ、奴らの連携攻撃は強力だから気を付けろ」

 

そう言う間にも、お供達は戦意マシマシに一気に俺達の方へ向かってくる。

 

「そうだ、紀伊国!」

 

兵藤に声をかけられると、何かを投げ渡される。何かと思って見ればそれはちょうどキャプテンゴーストを堕とされる直前に奪われたフーディーニ眼魂だった。 

 

「これ…いつの間に?」

 

「さっき殴った時ちょろまかしといた。女のボディータッチは俺の専攻特許だからな!」

 

表情は兜で見えないながらもサムズアップを送って来た。弾む声の調子から、兜の裏で笑っているんだろう。

 

「お前…!そりゃ専売特許だ」

 

「お、そうだ、それだ」

 

「イッセー君、紀伊国君。ここは私たちが抑えますわ、その間にネクロムを」

 

朱乃さんのもとに木場と塔城さんが集まる。

 

あの3匹の相手はこっちの3人に任せた方がいいか。

 

頷くや否や、早速受け取った眼魂を挿入し、変身待機モードに入る。すると神殿の床を突き抜けて、大海をはねる魚のように元気よくマシンフーディーが飛び出してきた。

 

「何でこいついつも豪快な出現をするんだ…?」

 

〔カイガン!フーディーニ!マジいいじゃん!すげえマジシャン!〕

 

疑問はさておき、割れたバイク+群青のパーカーゴーストを着て、フーディーニ魂へとゴーストチェンジを完了する。そして前へと歩を進め、赤龍帝の鎧を纏い、雄々しく立つ兵藤の隣にざっと立つ。

 

〈BGM:COUNTER ATTACK(機動戦士ガンダムOO)〉

 

「まずはこいつから!」

 

兵藤が右手を突き出し、小さな赤い魔力の玉を生み出す。それを倍加の力を注いで大きなオーラとして打ち出すドラゴンショットをお供達、そしてその直線状の奥にいる凛に放った。

 

「!」

 

纏まって向かってきたお供たちは赤い光条をそれぞれ左右に飛んで躱し、綺麗にドラゴンショットに分断される。さらにドラゴンショットが真っすぐ向かう先にいる凛は。

 

「…」

 

背中に装着された黄金のリング『ゴコウリン』を取り出して、前面に放る。するとリングは宙に浮いて回転を始め、凛が突き出した両手から注がれるオーラを得て光の防御壁と化した。

 

ドラゴンショットが防御壁に激突した瞬間、轟音をたてながら赤い魔力を弾き、分散した魔力があちこちに飛んでは荒々しく破壊を生む。

 

「行きますわよ」

 

破壊で砕け、飛び散る瓦礫と煙をものともせず朱乃さんと木場、塔城さんが分断されたお供達へと向う。それに反応したお供達も迎撃を開始し、オカ研とサンゾウのお供達で3対3の戦いが始まった。

 

そして残された俺達は。

 

「同時に仕掛ける!」

 

「待った分、暴れてやらぁ!」

 

声を張り上げ、兵藤がブースターから赤いオーラを噴き出し、疾風のごときスピードを伴って猛進する。俺も飛行ユニットを起動させて、低空飛行でかっ飛ばしそれに追随する。

 

「来い、特異点たち」

 

宙に浮いたままのリングは再び回転する。そして意思を持つかのように凛の周囲を飛び、軽く跳躍した凛を乗せると天へと飛行した。

 

途中神殿の天井を破壊して穴を開け、紫色の空へと駆け上る。彼女が飛び立つさまを見上げる俺達はすぐさま追撃へと移る。

 

背部の飛行ユニットを起動、4つのホイールが回転し本格的な飛行を開始する。隣で兵藤はばさっと龍の翼を広げ空に向かって飛び立つ。

 

さっきまで見上げていた空がだんだん近づいていく。風を切りながら、共に空を目指す俺達。

 

「取り敢えずもらっておけ!」

 

「ドラゴンショットォ!」

 

上昇しながら俺はガンガンハンドの銃撃で既に上空で俺達を見下ろす凛を牽制する。その隣で兵藤がドラゴンショットを何度も放つ。

 

空に次々と打ちあがる赤い光線とそれに比べれば微々たる青い霊力の銃弾の弾幕を、俺達の更に上空を滑るように飛行する凛は易々と回避していく。

 

「やっぱ遠距離戦だと埒が明かねえ!」

 

「なら、近接戦で埒を開ける!」

 

牽制射撃をやめ、ドラゴンショットの次に飛び出したのは俺だ。 

 

飛行ユニットのホイールをフル稼働させてスピードを増し、ギュンと一気に上昇して距離を詰める。

 

「オオオッ!」

 

裂帛の叫びと共に拳を繰り出す。しかし彼女は俺の拳打をするりといなし、反撃の掌底打ちを放つ。凛の流水のように軽やかな動作、柔よく剛を制すとはこのことか。

 

「うぐっ!」

 

みぞおちを穿たれ、その衝撃に息が吐きだされる。

 

「まだまだぁ!」

 

矢継ぎ早に、入れ替わるようにして俺達の接近戦に入って来たのは兵藤だ。

 

背中のブースターから赤いオーラを吹かしキックしながら弾丸のように突撃する。

 

咄嗟に反応した凛は両腕をクロスして強烈なキックを防御するが、こらえきれないその衝撃で大きく後退した。

 

後退した凛を、兵藤は再び赤いオーラをブースターから放出しながら猛追する。凄まじい速度で距離が消し飛び、間合いにおさめて拳打を放った。

 

しかし彼女は上体をそらして回避、反撃に鋭いキックを腹部に叩き込む。

 

「ぐふ!?」

 

さらには聖なる光を纏った貫手を突き出してきた。

 

「させるか!」

 

そこに俺はフーディーニの鎖をいくつも伸ばして、彼女の攻撃を妨害、さらには絡め取らんとする。

 

が、とうの彼女はフーディーニのグライダーモードのように乗りこなすゴコウリンを操作し、器用に距離を取りつつ、突きを入れる鎖を弾いては絡みつこうとする鎖を躱していく。

 

だが俺の目的はそれだけじゃない。

 

「おうっ!?」

 

伸ばした鎖の一本を兵藤の腕に巻き付け、ギュンとこっちに引き寄せる。

 

「サンキュー、危なかったぜ…」

 

無事に難を逃れた兵藤が、深く緊張の解けた息を吐く。

 

「はっきり言って、あいつ滅茶苦茶強いぞ」

 

「同感だ」

 

正直に言って、想像以上だ。ここまで今の彼女が強いとは思わなかった。液状化を対処して、英雄眼魂のフォームも自分の持っている情報を活用すれば攻略できると思っていた。

 

だが甘かった。素の戦闘力が高すぎる。シンプルに今の俺達のレベルを凌駕しているのだ。

 

…実の妹を殺したくなんてないんだが、殺す気でかからないとこっちがやられる。難儀なものだ、『妹を殺さない』、『妹を倒す』。その両方をやらなくちゃいけないなんてな。

 

「今の状態とはいえ、私を貴様らと同格に見てもらっては困る」

 

〔DAITENGAN!SANZO!〕

 

凛がメガウルオウダーを操作すると、体から黄金色の靄が発生しその体を包み込む。靄はさらにその大きさを増し、雲のごとき様相を見せた。そして雲状の霊力を纏った凛はこちらに突進する。

 

猛進する黄金色の雲。サンゾウ魂の能力からして、大きな筋斗雲ともいうべきか。

 

「くらったらマズそうだな!」

 

接近するそれを兵藤はドラゴンショットを何度も放って迎撃せんとする。しかし筋斗雲は次々と来る赤い光条を巧みにかわし距離を詰めていく。

 

〔OMEGAUL-ORDE!〕

 

「くそっ!何だこうッ!?」

 

迎撃もむなしく、筋斗雲に飲まれた兵藤。内部を窺うことのできない筋斗雲の中から打撃音が何度も聞こえた。

 

最後に一際大きな音が聞こえると爆発が起き、勢いよく兵藤が吹き飛ばされながら出てきた。

 

「がふぁあ!!」

 

光を反射して赤く煌めく鎧の破片をまき散らしながら、兵藤は元居た地上の神殿へと真っ逆さまに落下する。

 

「兵藤!」

 

「隙を見せたな」

 

爆炎の中から影が揺らめき、近づく影が一つ。

 

爆炎からその姿を現したのと、攻撃を受けたのはほぼ同時だった。

 

〔OMEGA CLASH!〕

 

白い槌の形状をした霊力を纏うガンガンキャッチャー。それを掲げる凛の鮮烈かつ豪快なひと振りを受け、俺は兵藤の後を追うように神殿へ叩き落とされた。

 

〈BGM終了〉

 




ネクロムのゴーストチェンジ祭りはこれにて終了。

今回登場したのは原作でもお馴染みのグリム魂とサンゾウ魂に加え、オリジナルのゴエモン魂、ニュートン魂、ムサシ魂、そしてノブナガ魂。残りのフォームも機会があれば出すつもりです。

次話は遅くとも今週の金曜日までには投稿します。

次回こそ、「『普通』の悪魔」

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