ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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まさかの掘り下げ回、そしてディオドラに関してオリ設定があります。

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第61話 「『普通』の悪魔」

ディオドラ・アスタロトは名門アスタロト家の次期当主だ。

 

容姿端麗、強力な魔力、そしてさわやかな笑顔と人当たりの良さもあって順当に次期当主の座を得た男。

 

だが彼は心にある闇を抱えていた。

 

それは彼の兄である魔王アジュカ・ベルゼブブの存在である。

 

アジュカは大戦後の旧魔王派と新政府派の対立、内戦で新政府軍のエースとして活躍し、戦後は魔王ベルゼブブの座を継いだ。サーゼクス・ルシファーと同じ『超越者』として名を挙げられる彼は冥界の技術開発における最高顧問だ。

 

現悪魔社会に多大な影響力を持つ『悪魔の駒』とレーティングゲームを開発し、他にも冥界のあらゆる技術を生み出しては発展させていった。もはや魔王以上に冥界になくてはならない、彼無くして今の悪魔を語れないほどの存在とも言えよう。

 

そんな彼が社会に貢献すればするほどに彼を輩出したアスタロト家の名声は上がり、アスタロト家の者やその領民からの人気も信頼度も増していく。

 

それと反比例して、ディオドラは目立たなくなっていった。元々これといって突出したモノも才能もなく、容姿の美しさも魔力の強さも、何もかもが上級悪魔にとっては平凡だった彼。

 

しかしそれとは打って変わってアジュカは才能の塊であり、冥界の五指に入ると言われるほどの実力者。それは悪魔の誰もが認める事実であり、その貢献もあって広く支持されていた。

 

アスタロトといえば?と聞かれたら誰もがアジュカと答える。その支持は彼の生まれ育ったアスタロト領では際立って大きかった。

 

そしてディオドラは、その圧倒的支持に負けたのだ。いや、その支持が大きすぎたというべきか。次期当主の座に収まった時にはすでに彼は負けていた。彼とアジュカとの差は圧倒的過ぎて、平凡な彼にはどうしようもなかった。

 

『領民に見向きもされない次期当主なんて、一体僕は何のためにいるんだろう』

 

愛すべき、尽くすべき領民からの注目も興味もアジュカに奪われた彼は次第に心に空虚を抱えるようになる。元々家を出て、技術発展に注力していたアジュカが魔王になった後に生まれたディオドラとの交流がほぼ皆無だったのも大きかった。

 

そしてディオドラに対する興味関心を無くしたのは両親も例外ではなかった。

 

アスタロト家を継ぐ次期当主となるはずの自分よりも、家を出て魔王となって活躍し、大きな実績を上げ続け間接的に実家に貢献し続ける兄の方に両親の感心は行ってしまった。親であるがゆえに二人のことをよく知っているディオドラはなおさら両親の心の変化を強く感じ取ってしまったのだ。

 

しかしそれでも民を思い、次期当主としての役目を果たし己の力でアスタロト領にさらなる発展をもたらすことを願った。

 

だがある時、たまたま街へ出た時ある領民の会話を聞いてしまった。

 

『ベルゼブブ様と比べると、ディオドラ様っていまいちぱっとしないよな』

 

その言葉に彼は心底ショックを受けた。ショックが収まった時、彼の心にある空虚は兄や領民、あらゆるものへの底なしの怒り、そしてあるものへの欲望へと変化してしまった。

 

『どうしてあいつばかり』

 

誰もかれもが自分に見向きもしない。見たとしてもそれは偉大な兄の比較対象として。それが溜まらなく、彼には苦痛だった。そんな彼の歪みは怒りと欲望と共に日に日に膨れ上がっていった。

 

だからこそ彼は求めた。自分を他の誰とも比較しない、自分だけを見てくれる存在を。そして考えた、どうすればそんな存在が手に入るかを。

 

そんなある日、彼はある本を読んだ。どこにでもある、悪魔とは何たるか、ごくありふれた常識を書いた本。子供向けといってもおかしくないレベルの内容だった。

 

単なる気まぐれでそれを読んだが、そこで彼は見た。

 

敬虔な信徒を堕落させるのは悪魔の役目だと。

 

その時彼は雷に打たれたような衝撃を受けた。そして、笑いが止まらなくなった。

 

『そうか、こうすれば手に入るんだ』

 

それが彼の『趣味』の始まりだった。

 

色んなシチュエーションを考え、女性の心を揺さぶるテクニックを学び、その手の類のあらゆる本を読み漁り研究し、実践した。

 

ものの見事に彼が狙ったシスターたちは彼のテクに引っかかってくれた。疑うことを知らない彼女たちは格好のカモだった。

 

自分と通じてしまったことで教会に追放され、途方に暮れる彼女たちに手を差し伸べる。その時、救われたと感じる彼女たちの目が大好きだった。一夜を共にし、教会にいたなら得られることのなかったであろう快楽に身をよじり喘ぐ彼女たちの目も同じくらいに。

 

それは何故か?その時の彼女たちの目には自分以外の何者も映らないからだ。

 

手間暇をかけて手に入れ、己色に染め上げた彼女たちは自分の父母以上に何より自分を大切にしてくれる、自分だけを見てくれる。

 

それが溜まらなく彼には嬉しかった、幸福だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ド派手な魔力のぶつかり合い、激しく弾けた魔力のかすが石造りの神殿の床や柱を抉っていく。

 

猛る獣のようないななきと共に宙を馳せる赤い魔力の主はグレモリー家次期当主のリアス・グレモリー。片や『禍の団』に与し、その本性をさらけ出したアスタロト家次期当主、ディオドラ・アスタロト。

 

「どうして『禍の団』に加担したの!?」

 

「和平を進める現政府側に付けば、やがて規制を受けて今までのようにシスター達を集めたりできなくなる。でもシャルバ達の側に付けば今までのようにできる」

 

二人は言葉を交わしながら、互いに魔力を撃ちあう。戦意に満ち満ちて苛烈な攻撃を加えるリアスに対し、ディオドラはあくまで余裕に満ちた表情と動きだ。

 

そしてゼノヴィアが魔力同士の衝突で発生する光に紛れて突撃する。

 

「貴様を見ていると教会時代の血が騒ぐ!」

 

友を侮辱された怒りを込められたデュランダルの大きな青刃が鮮烈かつ力強い剣閃を描く。

 

「今まで何人も悪魔を斬ってきたが貴様ほどタチの悪い悪魔は滅多にいない!!」

 

怒りが剣技のスピードをどんどんヒートアップさせる。しかし怒りはスピードとパワーを与える代わりに、彼女の動きから余裕とテクニックを奪っていった。

 

「ふっ、でも生憎君は好みじゃないね」

 

「知ったことか!私は貴様のような下衆にくれてやる操は持ち合わせていないッ!!」

 

顔面を捕えた一突き。ディオドラは顔を横にそらして躱すが、聖剣のオーラが端正な彼の頬をかすめ傷つけた。

 

「ちっ」

 

「裁きを受けろッ!!」

 

さらに踏み込んで、ゼノヴィアは悪魔にとって必殺となる聖剣の一振りを繰り出す。

 

「ハァッ!」

 

上級悪魔の苦手とする接近戦。それを得意とするゼノヴィアに追い詰められ始めたディオドラは全身から魔力を放出するという強引な手段に出る。ゼノヴィアはその衝撃を受けながらも逆に利用して、一旦引き下がる。

 

なんとかゼノヴィアから距離を離すことに成功したディオドラは、激しい動きで乱れた小綺麗な貴族服を整える。

 

そして何を思ったか、さっきまで浮かべていた邪悪さすら感じる微笑みを消し、真剣な表情を見せた。今の今までリアス達に見せることのなかった表情だ。

 

「旧魔王派に付いたのは単に『趣味』ができるからってだけじゃない。僕はアジュカを倒して、皆に認めさせたいんだ、僕と言う存在を。取り返したいんだ、アジュカに奪われた全てを!」

 

彼は思いを込めて強く言い放った。

 

それは彼のありのままの思いだった、一般に野望と言われるようなものだとしても彼の切なる願いだった。何年にもわたって胸にとどまり続けた思いを吐き散らして彼は己を鼓舞する。

 

「君だってそうだろう?魔王の血筋、魔王の妹、皆が見ているのは君の後ろにいるサーゼクスだ、誰も君をリアス・グレモリーとして見てはいない!」

 

「…」

 

悪意を含んだ笑みを再び浮かべながらディオドラはリアスを指さす。彼の言葉に動かされたか、リアスの攻撃の手が止まる。しかしディオドラはこの隙をついて攻撃することはしなかった。

 

それを好機と見て、彼は言葉を続ける。

 

「君と僕は同類さ、魔王に人生を歪められた者同士だ。奴らがいる限り、誰も君をありのままの君として見てはくれない、君はただの君として生きられないんだよ!」

 

「…ディオドラ」

 

彼の言葉から思いを理解したか、リアスは自然と心中に浮かぶ複雑な思いを映したような表情を見せる。

 

「ふふっ。それに、旧魔王派に付いた方が今後のためだよ。直にサーゼクス達の時代は終わる。紛い物の魔王ではなく、7つの『仮面』によって本物の正統たる魔王の時代が訪れる!そして僕は仮面を手にしてアジュカを潰し、魔王の座を奪い取ってやるのさ!!」

 

「7つの仮面?」

 

「おっと、口が滑ったね」

 

わざとらしくディオドラはさっきまで己の野望を饒舌に語った口を押える。

 

「君がアーシアを大人しく渡して、僕たちの側に付けば君も新時代の支配者になれると約束するよ。君は力もあるし、将来性もある。どうだい、悪い話じゃないだろう?」

 

「部長、奴の話に耳を貸すな。奴は今この場で斬らなければならない敵だ」

 

誘いの言葉をかけるディオドラ。険しい表情でゼノヴィアはリアスにそれを拒絶するよう短く声をかけた。

 

「…そうね、私の人生はある意味、お兄様に歪められたものかもしれない」

 

「部長?」

 

リアスは二つの過去を思い返した、一つは自分の兄との思い出。

 

魔王の職務をこなしながらどうにか時間を作って、サーゼクスはピアノの演奏会を観に来てくれた。だが成長するにつれ、兄の過保護っぷりに呆れの念を抱くようになってきた。今でも幼い自分の記録映像をどこかに保管し、度々それを見返すという兄のシスコンっぷりには毎度頭を悩ませられる。

 

そしてもう一つは、社交会で出会う貴族悪魔たち。名家グレモリーの娘として何度も出席した上級悪魔によるパーティー。そこで出会う彼らは、魔王であるサーゼクスと良好な仲である彼女に取り入ることで、魔王とのコネを得てより悪魔社会で影響力を持たんと接してくる。

 

彼らが見ているのは自身ではない、その後ろにいる兄だ。内心彼らは自分をのし上がっていくための道具としか見ていないだろう。

 

そんな彼らの企みが分からない彼女ではない。彼らもそれは欲を持ち欲に生きる悪魔なのだ。兄とのつながりを得て美味しい思いをしたいのは仕方のないことだ。内心に嫌悪感を寂しさを抱きながらも、下手なことをすれば迷惑をこうむるのは自分だけではない、家族や兄にまで影響が及んでしまうかもしれない。兄やグレモリーの名を傷つけまいと貴族らしい振る舞いを以て接してきた。

 

偉大な兄の存在が、自分を自分として見てくれる存在を減らしてしまった。今まで何度そんな思いをしてきたかなんて数えきれないくらいだ。

 

「でも、私はお兄様を恨んだことはない。ちょっと変な所もあるけど、優しくて、強くて、お兄様が私は好きなの」

 

だが、リアスはサーゼクスを疎んじたことは一度もなかった。立派に魔王の務めを果たす彼は、自身が受け継いだグレモリーの名と同じくらいに、彼女にとって誇れるものだった。

 

そして、自分が成長しても変わらない愛情を注いでくれる彼が大好きだ。

 

「…は?」

 

ディオドラは彼女が何を言っているか理解できなかった。彼にとって、兄である魔王は憎むべきものだったからだ。

 

「それに私を私として見てくれる人ならいるわ。みんな彼をバカにするけど、私は彼を信じてる。イッセーがいるから、私はありのままの私でいられる」

 

今、隣で赤い鎧を纏って戦っている自身の眷属の少年。己の色欲に真っすぐで、貴族社会の礼儀作法にも悪魔社会にも疎くて、知恵は足りてないくせにその欲望と直結した奇妙な技を独自で開発する。

 

年頃の女の子になり、普通の女の子のように恋愛したいと思うようになる。だが、その思いを実現させまいとしたのは自分にとって誇りであったグレモリーの名だった。

 

しかし、彼は下僕である己の立場を越えて、あの時おかしな言い方ではあるが思いを大勢の前で言い放った。そしてその思いを、自身の婚約相手を打ち負かすことで力と共に大勢に示し、兄に自分を返してくれと願った。

 

その彼の姿に、リアスはどれほど救われただろうか。

 

その愚直さに何度も救われた、何度も苦難の闇を照らす勇気をもらった。自分の不甲斐ない姿を見ても、彼は見捨てず、真っすぐな思いを貫き通した。だからこそリアスは彼を…。

 

「あなたの思いはわかるわ、でも私はあなたと同じ道を往くことはない、あなたの野望はここで終わりにさせる!」

 

そして気高く宣言する。今まさに己を誘わんとしている邪道への拒絶を。より一層、怒りという濁りが薄まり己と向き合ってより澄んだ闘志にその翠眼を輝かせる。

 

「それでこそ、私の『王』だ」

 

その凛々しい姿にゼノヴィアも満足げにフッと笑い、聖剣を構える。

 

「…そうか、結局はお前も敵だ!!」

 

拒絶への怒りに吼えるディオドラの全身からオーラが一層強く溢れる。ディオドラの怒りと憎しみを反映したような昏い色を見せる魔力はオーフィスの蛇がもたらす黒いオーラと混ざり合い、酷く濁った色へと変わる。

 

「僕の人生を奪ったアジュカから魔王の座も何もかも奪って、初めて僕の人生は輝きだす!!その邪魔はさせない!!」

 

「私はお兄様に誇れる自分であり続ける!」

 

二人の咆哮と共に、戦いは再開した。

 

己が兄に対して抱く、両者真逆の思い。そして眷属悪魔を率いる一『王』のプライドは再び激しくぶつかり合う。

 

 




ディオドラの過去に関してアジュカが兄だったり、まあありえそうかなーというオリ要素を混ぜながら考えました。

次回、「結束の一撃」

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