Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は…
S.スペクター
9. リョウマ
11.ツタンカーメン
13.フーディーニ
気付けば、俺は天を仰いでいた。
辺りには瓦礫が散らばり、高貴さすら感じる神殿の床は無残にひび割れ砕けている。そして俺はそこに、かろうじて変身が解除されないまま仰向けに倒れていた。ついさっきまでの記憶が飛んでいることから、地面に叩きつけられた時意識が飛んだのだろう。
体はほぼ動かない、呼吸するのがやっとの状態。激闘に次ぐ激闘にとうとう限界を迎えてしまったようだ。
全身に激痛が走っており、少しでも動かそうものなら容赦なく痛みが全身を焼くように襲う。顔にはぬめりとしたものがびったりとついているのを感じ、口の中に濃厚すぎる程血の味が広がっている。
いわゆる、戦闘不能状態ってやつだ。
「う…」
何とか目だけを動かし、視線を隣にやればボロボロになった鎧を纏う兵藤が苦痛の声を漏らしながらも起き上がろうとしている。俺と違って悪魔のあいつは体も頑丈にできているからまだあいつは戦える。
だが…。
「まだ生きているのか」
見上げる天から降り立ったのは俺達をたった一人で圧倒し、文字通り地面に叩きのめした凛。
地面に倒れる俺を見て、僅かにめんどくさそうな声色で吐いた。
〔CRASH THE INVADOR!〕
そして、元のネクロム魂へと姿を戻した。
「向こうも存外しぶといな」
彼女はちらりとある方向へ一瞥する。
その先にいるのは軽いフットワークを生かして俊足の木場と対峙する孫悟空、水流攻撃を放つ沙悟浄に蹴りを入れる塔城さん、そして雷の直撃を受けてなお健在のタフさを見せる猪八戒に手こずる朱乃さん。
俺達のために足止めを志願した皆だ。
〔DAIKAIGAN!〕
それを見て凛は無言でガンガンキャッチャーのソケットにノブナガ眼魂を装填し、銃モードにスライド変形させる。ノブナガ眼魂の力で周囲に無数のガンガンキャッチャー銃モードの幻影が出現、その銃口をお供達と戦っている木場達に向けた。
「皆、避けろ!」
兵藤が怒声を張り上げてお供との戦闘を続ける皆に危機を知らせる。
「!」
兵藤のおかげで凛の動きに気付いた3人は急いで攻撃の範囲から逃れようとするが、お供達が急に組み付いてその動きを封じてしまった。
「これじゃ…!」
「離してっ…!」
お供達を振り切ろうと必死に足掻くが、お供達は離さない。
〔OMEGA FINISH!〕
そしてお供達が身を挺して足止めしている間に、チャージした霊力を解放して一斉砲火を放つ。暴風雨のように激しく吹き付ける紫光の嵐は容赦なく味方であるお供ごと木場達を撃ち抜いた。
「きゃああっ!!」
全身の様々な箇所を撃ち抜かれ、そこからどっと血が噴き出す。攻撃を共に受けたお供たちは木場達のように倒れることなく、ダメージでその場で霞むように消滅する。
「がはッ!」
3人とも血反吐を吐いて、銃撃で小さく抉れた跡だらけの地面にふらふらと力なく倒れる。
「くそぉ…テメェ…!!」
「…」
怒りに声を荒げて馳せる兵藤に凛は静かに銃口を向け、引き金を引いた。
兵藤は腕を交差させて防御の構えを取る。しかし彼が銃撃を受けることはなかった。
その銃弾を受けたのは。
「がふ」
兵藤の後ろで倒れている朱乃さんだった。凛は最初から兵藤を撃つ気はなかったのだ。
腹にさらなる銃撃を受けて穴を開けられ、口から血をごぼっと吐き出した。戦いですす汚れた顔から血の気が失せ始め、さらに白くなっていく。
「朱乃さん!!」
「雷を出されると面倒なのでな、念には念を入れた」
「テメェェェ!よくもォォ!!」
その行動が兵藤の烈火のごとき怒りに油を注いだ。喉が裂けんばかりの叫びを血と共に吐き出しながら背部のブースターを吹かして突撃、思いっきり拳を振りかぶった。
「…無駄なのがわからないのか」
しかし怒りを込めた一撃が凛に響くことはなかった。拳を受けた胸が透明な緑色の液体へと変化し、お得意の液状化で易々とすり抜けたのだ。
激昂する兵藤を見ても、その攻撃を受けても、彼女はなんら動じない。
「効かない…!」
がむしゃらに放つ拳打も、蹴りもことごとくすり抜けていく。何度も何度も攻撃を繰り返してもまるで通じない。
兵藤が攻撃するたびに液状化を使って、怒りと共に繰り出される攻撃を無意味にしていく。
そして凛が、気だるげに一言。
「…気が済んだか?」
今まで攻撃を受けるばかりで語りに徹していた彼女が顔面に繰り出されたパンチを手で弾き、お返しに兵藤の顔面にパンチを喰らわせた。
「うがっ!?」
速かった、そしてその威力はそれを受けた兵藤の様子が物語っていた。
軽い脳震盪を起こしたらしく、大きくのけぞってふらふらと後ろに下がる。
〔DESTROY!DAITENGAN!NECROM!〕
更に素早くメガウルオウダーを操作、緑色に輝く強大な霊力を即座に右脚に集中させる。
〔OMEGAUL-ORDE!〕
新緑の霊力を纏った突き刺すような蹴りが、鮮やかな光の軌跡を描いて兵藤の腹を真っすぐにぶち抜いた。
「うがぁぁっ!!」
その強烈な威力に腹部の鎧が粉々に砕け散る。ドンと大気を叩くような音を響かせて大きく後ろに吹き飛び、神殿を支える大きな柱に大の字に叩きつけられた。
「が…」
叩きつけられた衝撃で柱中にヒビが入る。赤いマスクの隙間から血が噴き出すのが見えた。そしてゆっくりと、細かい岩の破片と共に地面にどさりと倒れこんだ。
「先輩…!」
「イッセー君!!」
仲間の倒れる姿に木場達が悲痛に叫ぶ。彼らの心を照らし、希望をもたらしてきたあいつの今の姿は木場達には大層こたえるだろう。
「どうすればいいんだよ…一体…!」
深海凛、仮面ライダーネクロム。本当に厄介な相手だ。今までの戦闘を見てわかったのが、あいつの戦闘パターンは大きく分けて2つだ。
その二つを分かつ基準は、液状化を相手が対応できるかどうか。
液状化を打破できない相手なら、ネクロム魂の液状化で相手の攻撃をことごとく無効化しながらワンサイドゲーム。打破できる相手なら眼魂を使った多彩な戦術で相手を追い詰める。
そして何より、本人の異常なまでの戦闘力の高さだ。パワー、スピード、そしてなにより上級悪魔はゆうに超えるレベルのオーラ。この強さと眼魂、そして液状化で凛の強さは成り立っている。…内心、兄として妹の強さは誇らしくはあるが。
圧倒的な力の前に倒れゆく仲間たち。そんな状況下で俺の心に、徐々に濃くなりつつある文字がある。
全滅。
ただの一人で、俺達6人を一度に相手にして全滅寸前にまで追い込む今の彼女の強さは相当なものだ。レベルが違う。以前も同じように俺達とレベルが段違いの相手、コカビエルと戦ったが奴にはない多彩な能力を持つ凛はそれ以上に厄介な相手だ。
そんな中、さらなる凶報は舞い込んだ。
「きゃあっ!!」
「くっ…!」
魔力の攻撃を受けて、宙を舞う影が2つ。
悲鳴を上げ地面を弾んでざざざと倒れたのは部長さんとゼノヴィアだった。どちらも既にボロボロで、血が滲む顔で地に苦痛に歪む顔をつける。
「ゼノヴィア…!」
「僕をここまで手間取らせるとはね…」
そしてさっきまで二人を相手にしていたディオドラも貴族服もボロボロ、至る箇所に血のにじむ切り傷を作っていた。
デュランダルと滅びの力を以てしても、オーフィスの蛇でパワーアップした奴には届かないのか。
「でも、勝ったのは僕だ。やはり僕にこそ魔王の仮面は相応しいよ」
そして余裕たっぷりに、嘲るように血に這いつくばる俺達を見下ろした。ボロボロになって辺りに倒れる俺達の有り様にもう勝った気でいるのだ。
「……」
その中でゆっくりと兵藤へと歩みを進め始める凛。それを止められる者などもはや誰もいなかった。そして彼女は、力なく倒れる俺達に見向きもしない。
そして兵藤の下へたどり着いた彼女は、文字通りぼろぼろなあいつを冷たい目線で見下ろした。
「諦めろ特異点。赤龍帝とはいえ、今のお前では私に勝つことは不可能だ」
足元にいる兵藤に攻撃を加えるわけでもなく、悠然と彼女は告げた。
「さっきから特異点特異点って…一体何なんだよ…」
先の一撃でもう立てなくなってもおかしくないダメージを受けたはずなのに、それでも懸命に立ち上がろうと苦しそうに呼吸しながら動く兵藤は凛に問う。
俺も気になっていた、凛の言う『特異点』とは何か。数学や天文学用語にも、仮面ライダー電王にもそのようなワードは存在するが、彼女が言う特異点はまた別の物を指すのだろう。
「教える義理はないな」
「…そうかよ」
兵藤の問いを冷たく彼女は拒否する。
「グレモリー眷属の中心たるお前を潰せば、残りの心も折れる。無念を抱えて逝くがいい」
腕を振り上げ、手刀を掲げる。手刀にあの恐ろしさすら感じる黄色のオーラが宿り、それが必殺の一撃であることを証明する。
そして、処刑台に立たされた罪人の首を切り落とすギロチンのように足元にいる兵藤の首目掛けて振り下ろした。
「畜生…!」
こんな時に体が動けず、何もできない自分の無力さに涙が込み上げてくる。
何もできないのか。手に入れた力で、何も救えないのか。大切な日常を、仲間を、友を守るという俺の力の責任は一体何だったというのだ。
結局は思いだけの、口先だけのものでしかなかったというのか。
「イッセー君!!」
「いやぁっ!!」
皆の悲鳴が聞こえた。仲間たちの未来が、今まさに絶望に閉ざされようとしている。
「イッセーさん!!」
そして俺達を絶望に導かんとしている光景は、ディオドラに心を踏みにじられ今まで悲しみに沈んでいたアーシアさんの心を現に引き戻した。
涙ながらに叫ぶ彼女の声が、絶望に向かうこの場に響き渡る。
「!」
そして彼女の叫びは戦いに傷ついた兵藤の心に今一度、熱い炎をともした。
「…ラァ!!」
〔Boost!〕
咄嗟に兵藤の鎧に覆われ力強さを感じる拳が振り上げられる。それは振り下ろされた手刀とぶつかると強引に手刀をそらした。
「!?」
予想外の抵抗に凛は驚いた。それは俺達も同じだった。確かに、その瞬間を見たのだ。
今……あいつ触れなかったか?ネクロム魂の力で、液状化で触れることの敵わなかったあいつに。
そして彼女の眼前で息を整えながらゆっくりと兵藤は立ち上がる。
「今まで……本当に無敵だと思ってたんだ。でもさっき、そうじゃないってわかった。当たり前のことにやっと気づいた」
〔Boost!〕
籠手から鳴る音声、これから来るだろう悪足掻きをさせまいと繰り出される凛のパンチをあいつは真正面から同じ様にパンチをぶつけて相殺する。
大気が揺れ、鈍い音がした。
「ッ…お前、俺が攻撃するときは液状化ですり抜けるよな」
〔Boost!〕
拳を素早く引く凛は、次に白と黒のスーツに覆われた足から薙ぐような蹴撃を繰り出す。
「でもお前が攻撃するとき、液状化してたら俺を殴れないよなぁ!」
〔Explosion!〕
「!!」
赤龍帝の鎧に覆われ、倍加の力で強化されたキックが凛の蹴りと激突。倍加を重ねた力を足だけに集中させた兵藤のパワーが上回り、その余波が凛を吹っ飛ばした。
錐揉み回転して宙を低く舞い、地面に体をぶつける。
「そんな手があったのか……」
兵藤の掴んだ突破口に、俺は半分呆然とした。
今の今まで全然気が付かなかった、なぜ気付かなかった?言われてみれば当たり前のことだ。
こっちの攻撃をすり抜ける液状化。発動している間はこっちの攻撃をすり抜けるということは、逆に言えば向こうの直接攻撃もその間は通らないということだ。それをこの土壇場で気付くとは…。
「…その程度のことに気付いたくらいで、図に乗るなっ!?」
すぐさま立ち上がり、反撃を食らわせんと右手にオーラを蓄えようとした凛。しかしその腹を、突然飛び込んできたくるめく雷が貫いた。
「な…に……」
ネクロムの全身にバチバチと電撃が走る。間違いなく、この瞬間を以て俺達を散々苦しめてきた液状化は封じられた。
「私にも…根性はありますわ」
その攻撃を放ったのは朱乃さんだった。オメガフィニッシュを受け、追い打ちに腹に銃撃を受けてもなお戦意を見せつける彼女は弱々しくも、ふっと笑う。
少しずつ、流れが変わって来たのを感じる。間違いなく俺達に優位な方に。
だがそれをよしとしない者がいる。
「大人しく地に這いつくばっていればいいものを…!」
徐々に押され始める凛を見かねたディオドラが介入せんとする。
―――――!
その瞬間、俺の脳に届く意思があった。
…そうか、まだお前も行けるか!
それを知るや否や、すぐさま思念を変換させた脳波を飛ばし、今なお瓦礫に埋もれるアレに指示を伝達する。
「皆仲良く消えるといいッ!!?」
手に収束した魔力を撃とうとするディオドラ。しかしその攻撃が繰り出されることはなかった。ディオドラの腹部に突然光弾が撃ち込まれ爆ぜたのだ。爆炎が上がり、その衝撃にぶっ飛んだ。
「……!!?」
転がり、直撃を受けた腹を血で真っ赤に染め倒れるディオドラが目を見開いて驚愕している。
まだ何が起こったかわからない様子だな。それは俺以外のこの場にいる全員がそうみたいだが。
この一連の現象が一体何なのか、その真実にいち早くたどり着いたのは部長さんだった。
「キャプテンゴースト…!」
瓦礫の隙間から主砲を出し、この場にいる全員の意識の外にあっただろうあれは重い一発を喰らわせたのだ。
…毎度毎度、本当に痛い目を見てばかりいるな。申し訳ない気分になってくる。
「…今の段階で私をここまで追いつめるか」
一拍間をおいて、凛は言う。
「やはり特異点は侮りがたい。だが、このままお前たちの逆転を許すほど私は甘くない」
そう、未だ彼女のオーラは健在。液状化を封じたとはいえまだ完全なる逆転には程遠い。
ボロボロな兵藤一人だけで、弱まったとはいえまだまだ戦闘不能には遠い彼女とディオドラを相手にするには荷が重すぎる。
だがこれはチャンスだ。ディオドラに大ダメージを与え液状化を封じることができた、この戦況を覆す絶好の機会。折角巡って来たこの機会を倒れたままだんまりスルーするなんてことはできない。
「イッセー先輩…」
ふと視界に塔城さんが映りこんだ。今まさに反撃している兵藤の姿を瞬き一つせず見ている。
そんな彼女を見て、根拠の薄いながらに一つの案が浮かんだ。
…仙術は確か、相手の体内を巡る気に作用する技だったな。体内を巡る『気』、それは魔力でも魔法でもなく恐らく生物全てが持つ、生命の根源的なものだと思われる。
凛の体に打ち込んで、動きを封じることができたのならその逆もまた可なのでは?
試してみる価値はありそうだ。
「塔城さん…仙術で俺の体を動けるようにしてくれ」
苦痛を堪えながらも声を絞り出して呼びかける。急な頼みに驚いたように俺を見た。
「確かに仙術なら体を活性化させ、痛覚を一時的に飛ばせます。でも…それは一時的なもので、効果が切れたら…」
「悠!お前、また無茶をする気か!?」
俺と塔城さんの会話を聞いたゼノヴィアが声を荒げて話に入ってくる。彼女の怒りが、単なる怒りではなく心配から来る怒りなのは容易にわかった。
「後のことは後で考える、今やるしかないんだ…!この流れを逃したらあいつに勝てない!」
「バカか!?お前が死んだら私は…私は…!」
彼女はパーカーの衿の部分を掴み上げ、グイっと俺の顔を寄せる。近くで彼女の顔を見て分かった、向日葵色の瞳に涙がにじむくらいに必死に俺を制止しようとしているのが。
…バカにバカと言われるのか。そうだ、無茶ばっかりして皆に心配かけてそれでも無茶しようという俺は大馬鹿野郎だ。
彼女の泣きそうな顔を見て、彼女がどれだけ心配しているかがひしひしと伝わってくる。
「…あいつを止めるのは俺じゃなきゃダメなんだよ。それに、俺はもう身近な人を失いたくない。助けられる可能性があるのにそれを無視して何もしないのは嫌なんだ!!」
思い出すのはコカビエル戦。戦いの恐怖にかられて逃げ出した俺はポラリスさんに叱咤された。あのまま逃げていたら、自分だけは助かってもオカ研も天王寺達も、何もかもを町ごと消されてきっと後悔していただろう。
俺は今立ち上がらなければならない。大切な人達を守るために戦う、それが俺が得た力の責任。それを今、果たさなければならないのだ。
「ッ…」
懸命な説得についにゼノヴィアが押し黙る。真っすぐでどこか頑固な面もある彼女も、俺の思いにそれ以上は何も言わなかった。
「…後でゼノヴィア先輩にしっかり怒られてください」
説得は塔城さんにも通じたようで、諦めたようにそっと俺の腹に掌底を添える。そのまま塔城さんが力を込めると…。
「がっ!?」
全身を強い衝撃が駆け巡り、びくんとはね上がる。脳みそがかき回されたようにも感じた。痛みにも似たその感覚は一瞬だった。
「…ん?」
衝撃の後、さっきまでの痛みが嘘のように消えた。体が軽い、力が漲る。いつもの元気な状態と全く…いやむしろそれ以上に動ける。
復調し、軽い体でがばっと起き上がる。
「動く…これなら」
そのまま立ち上がり、今の状態を確かめるように手を握っては開く。
塔城さん曰く仙術の効果は一時的。なら、このチャンスを決定的な勝利に変えるために限りある時間で俺が繰り出すべきは最大の一撃だ。最大の一撃で、一気に勝負を決める。
「…ごめん」
彼女たちを背に短く謝罪の言葉を告げると、早速兵藤の下に駆け付ける。駆け付けた俺に気付いた兵藤が心配そうに尋ねる。
〈挿入歌:GIANT STEP(仮面ライダーフォーゼ)〉
「紀伊国!お前…本当にいけるのか?」
「ほんのちょっとだけな。その間に、今打てる最大の攻撃で勝利を決めようか」
「同感だぜ」
そして俺達は改めて、奴らに向き直る。俺達の後ろで部長さん達も立ち上がったのも感じた。きっとそれは兵藤と俺がこんな状態になっても戦おうというのに自分達は倒れるだけというのが許せないからだろう。
「まだやれるわ…!」
「イッセー君が立ち上がれるなら、私だって…!」
「僕の剣はまだ折れていないよ」
「悠にだけ、無茶はさせない」
皆、それぞれの内に燃え盛る戦意を口にする。それに頼もしさを覚え、散々に俺達を痛めつけてくれた彼女たちに、吼えるように言い放つ。
「肉食った報いを受けろッ!!」
「アーシアに手ぇ出すんじゃねえよ!!」
〔Boost!Boost!Boost!Boost!〕
禁手で発現した赤龍帝の鎧、その背部に備えられたブースターから赤いオーラが噴き出し、やがて猛々しい龍の形を成す。
〔ダイカイガン!フーディーニ!〕
ドライバーのレバーを引いて、眼魂に秘められた霊力を一気に解き放ち、中央部に眼の意匠がある魔方陣を展開する。
どちらも足に己の色のオーラを滾らせる。そして力を込める足で、地面を力強く踏み高く跳ぶ。俺達が跳躍したのは同時だった。
〔Welsh Red Strike!〕
〔オメガドライブ!〕
「「ハァァァァァァァァァァァッ!!!」」
兵藤は荒ぶる赤き龍のオーラを、俺は体の内から溢れる群青色のオーラを纏い、二人そろって全力の飛び蹴りを炸裂させた。
赤と青、二つの流星が瞬き、真っすぐにディオドラと凛の下に猛進する。
「そんなちんけな攻撃ぐらい防いでやるさ!」
そうはさせまいとディオドラが大きな防御結界を前面に展開する。それは本人の体内にある蛇のオーラを受けて黒みがかった色合いをしていた。
そこに凛の持つ強大なオーラもそれを強化せんと注がれ、より堅牢にする。ディオドラの魔力の色である緑色の上に、凛の黄色いオーラが重なり結界に何か記号のようなものが浮かび上がった。
…それが意味するモノが何なのか、今の俺には知る由もなかった。
やがて俺達の全力のキックと二人の防護結界がぶつかる。強力なオーラ同士がぶつかることで結界が軋み、悲鳴のような音を鳴り響かせ、双方の凄まじいオーラの激突でバチバチと眩しくスパークが弾ける。
そこに、立ち上がった木場達は更なる攻撃をぶち込む。
「貫け、聖魔剣!!」
「輝け、雷光よッ!!」
「私の意地を喰らいなさい!!」
「聖なる裁きを受けろォ!!」
聖魔剣が咲き乱れ、雷光が煌めき、赤い滅びのオーラが結界に殺到する。
さらにゼノヴィアはデュランダルとアスカロンを握ると2つの聖剣を共鳴、増大させたオーラを解き放って一気にぶつける。
そこに俺は奥の手でもう一押しする。
「行けェェェェェェェェェッ!!!」
〔ダイカイガン!フーディーニ!オオメダマ!〕
使用している眼魂全てのエネルギーを解放する諸刃の剣とも呼べる技。それが爆発的にオメガドライブの威力を引き上げ、その証左に眩いばかりの群青色のオーラが全身からとめどなく噴き出す。
しかしそれでもなお、決定的な破壊には及ばない。拮抗はまだまだ続いている。より激しい音と、スパークが発生してはいるがまだ二人には届かない。
その時だった。
結界を張るディオドラと、凛が突然動きを止めた。元々結界の維持もあって動けずにはいたがそれとは違う、まるでその場で石像になったかのように、身じろぎも瞬き一つもしなくなったのだ。
その間、張られていた障壁結界の維持、強化するオーラの供給もストップする。しかしその間、たった2秒。
「何!?」
2秒後、再び二人は動き出す。突然の現象にまたも理解が追い付いていないようだ。
「オカ研男子を…甘く見ないでください!」
息も絶え絶え、汗だくで女子用の制服を濡らし、顔を真っ赤にしながら神器の力で目を輝かせるギャスパー君だった。
自分の神器を使って二人を停止させたのだ。
しかし彼はあの時ニュートン魂の攻撃で場外にあっけなく吹っ飛ばされたはずだ。まるで全力疾走した後のような様子、まさか自力でここまで戻ってきたというのか。
「やっぱお前もオカ研男子だ…!」
隣でキックを放つ兵藤が、嬉しそうに言った。
俺も彼のタフさに内心でサムズアップする。
ギャスパー君の時間停止によって力の供給が途絶えた2秒。たかが2秒、されど2秒。拮抗を打ち崩すにはそれで十分だった。
その2秒の間で大幅にパワーダウンした結界は俺達の怒涛の攻撃を防ぐには力不足だったらしい。すぐに障壁にべきべきと今まで入らなかったヒビが入り始める。
己の力を注ぐことだけに集中してきたディオドラが小さくヒッと悲鳴を上げた。
「『時と空間の覇者《アイオーン・タイクーン》』め…!」
その表情を見ることはできないが、忌々し気に凛も何かを呟いた。
そんなことを気にする余裕はない。
「「ウォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!」」
持てる力を振り絞り、力を解放しつくす。後のことは考えない、いや考えることはできない。持てる全て、何もかもを今この瞬間に注ぎ込む。
やがて力を解放し続けた猛る赤き龍の力、俺の思いを具現化した青い輝きがこの空間を色濃く満たす。
そして、待ち望んだその時は来た。
べきべき、ヒビが広がる、結界中に広がる。ひと際大きな音を立てると大きなヒビはさらに全体に細かなヒビを生んだ。
そして砕けた。
俺達の全力の一撃が、ついに障壁を木っ端みじんに砕いた。割れる音はガラスが割れる時のそれとよく似ていた。
ただし、うっかり学校のガラスを割ってしまった時とは違い今のそれは達成感を伴うモノだ。
「そんなっ、僕は、僕はァ!!」
ディオドラがこの結果を受け入れられないとばかりに叫ぶ。だがもう、結果は決まったのだ。
龍の力、スペクターの力、聖魔剣の力、共鳴する聖剣の力、滅びの力。抑える物を失ったそれらすべての荒ぶる力は、あっという間に障壁を張っていた二人に食らいついた。オーラの光に飲まれた二人の姿が掻き消える。
一か所にみっちり集中した俺達の全力である強大かつ多様なオーラはやがて弾け、神殿の半分を吹っ飛ばすほどの大爆発を引き起こしたのだった。
〈BGM終了〉
それとなくお供と三人の戦いの様子を書きましたが、真D×Dを読んでいる人にはわかる組み合わせでしょう。
ダブルキックって燃えますよね。特撮好きとして熱い展開は大好物ですのでやりたかったことの一つです。
次回、「目覚めるは覇の理」