ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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ホーリー編最終回です。この物語の根源にほんの少し触れます。誰があのキャラが再登場すると思っただろうか。

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第66話 「体育館裏のホーリー」

「一誠君、来ないなぁ」

 

日差しが燦々と差す駒王学園のグラウンド、そこに多く立てられたテントの下で天王寺はぽつりと呟く。

 

いつもの面子らしく集まり、日差しを凌げるテントで涼む俺達も天王寺の言葉に同感だった。

 

ディオドラ・アスタロトが引き起こした、様々な神話や勢力のVIPを巻き込んだ旧魔王派による大規模テロから数日後、駒王学園では体育祭が開かれた。

 

生徒の親御さんたちはもちろん地元の方々も大勢集まって大盛況だ。よーく見てみると、親御さんたちの中にサーゼクスさんも混じっていたりする。

 

仙術で無理に動かせるようにし、その反動で暫し動けなくなってしまった俺の体も数日休むうちになんとか回復できた。今はこの通り、体育祭にも参加できている。

 

だが、兵藤は間に合わなかった。

 

あいつだけは覇龍の影響でかかった体の負荷が深刻で、戦いが終わってすぐにまた気を失ってから今でもまだ昏睡状態にある。

 

「あいつは本当に何をやってるのよ。ここ最近出てこないからまさかとは思ったけど、本当に今日も欠席なんて…」

 

「アーシアがどれ程この日を楽しみにしていたか、知ってのことかしら」

 

額に流れる汗をタオルで拭う桐生さんと上柚木も不満げに漏らす。彼女たちは兵藤を嫌っているわけではない、ただ仲のいいアーシアさんを一人にし、不安にさせるあいつが許せないのだ。

 

流石に彼女たちにも真実を伝えるわけにもいかず、一応まわりには体調不良で欠席ということになっている。

 

体調不良というどうしようもない理由のため、彼女たちも一方的に兵藤を責めることはできない。ましてや事情を知っている俺はもっとあいつを責められない。

 

「紳士としてAVに没頭するのはいいが、アーシアちゃんを一人ぼっちにするのは良くないなぁ」

 

「うむうむ、自家発電も程々にしなければ体を壊すというのにな」

 

オイこらそこの変態。決してそんな理由で体調を崩したわけじゃねえからな。もしそうだったら俺があいつに一発入れてるところだ。

 

「いちに、さんし!」

 

体育祭は順調に進み、今は元々あいつが出る予定だった二人三脚まで進んだ。

 

すでに二人三脚の始まり、走者たちがしのぎを削るグラウンド。白線のスタートライン上で、欠席になった兵藤の代わりのクラスメイトの男子と組むことになったアーシアさんが不安げな表情を見せている。

 

しかしそんな一方でその表情は、まるであいつを待っているかのようだった。ぎりぎりでもあいつが目覚めて駆け付けてくれるんじゃないかと、希望を捨てきっていない目だ。

 

しかし今の走者が走り終えれば、次はアンカー、アーシアさんの番だ。もう時間は残されていない、残念だがあいつの到着は絶望的だろう。

 

そんな時だった。

 

「見ろ、兵藤だ!」

 

「兵藤?本当なの?」

 

松田が突然指さし、声を上げる。それにつられて、どこだどこだと俺達は視線を泳がして兵藤の姿を探し始める。

 

「ホンマや!生徒会のテントから出てきたで!」

 

松田の次に兵藤の姿を見たのは天王寺だった。

 

天王寺の言った通り、生徒会のテントからどたばたと既に体操着に着替えた兵藤が飛び出してきた。

 

あいつ、ギリギリで目が覚めたのか!しかしなんとギリギリなタイミングで!

 

遅れて来た兵藤はそのままスタートラインで待つアーシアさんのもとに一直線に駆け付けた。

 

「待たせたな…アーシア!」

 

「イッセーさん!」

 

待ちに待った兵藤の登場に、アーシアさんは感極まったように笑顔を見せた。ヒーローは遅れて来るとはよく言ったものだ。

 

「兵藤、お前がアーシアさんと行け!しっかり逆転してこい!」

 

「ああ、ありがとうな!」

 

だがその登場をのんびりと喜ぶ暇はない。激励を送る兵藤の代わりを務めるはずだった男子からタスキを受け取ると急いで足にタスキを巻いて走る準備を完了した。

 

「行くぞ!」

 

「はい!」

 

同じグループの走者のバトンを受け取って、2人は走り出す。試合の準備の裏で練習を重ねてきただけあってそのコンビネーションは完璧だった。

 

順調に先を行くペアたちを追い抜き、一糸乱れぬ二人の走りは着実に二人の後を追うペアとの差を広げていく。そして、二人の前方を走る現在一位のペアとの差を縮めていった。

 

「頑張って、アーシア!」

 

「アーシアちゃん」

 

「兵藤も頑張れ!」

 

「アーシア!イッセー!お前たちなら行けるぞ!」

 

松田に元浜、桐生さん、上柚木、天王寺、そして俺とゼノヴィアも精一杯の声援で二人を応援する。

 

声援の甲斐あってか、次第に二人の走るスピードも上がっていく。どんどん一位のペアとの距離が縮まりついには横に並んだ。

 

「う、嘘!?この二人速いんですけど!?」

 

そのまま一位のランナーも容易く追い抜いて、彼女らの驚く顔を背にして走り抜ける。

 

そしてゴールテープを越えて、ついに走り切った。二人は無事、1位を勝ち取ることができたのだ。

 

「やったなアーシア!」

 

「私…本当にイッセーさんと走れて嬉しいです……!!」

 

二人とも、嬉しさにとびっきり破顔してハイタッチする。あの戦いで受けた彼女の苦しみ、彼女を失いかけた兵藤の悲しみを知る者としては、この光景を見て胸のすく思いだ。

 

本当によかった。月並みな言い方だが、それしか言えない。命を張って戦い抜いた先にある皆の幸せ。俺が自分の力を得た責任を果たすことで、それが守られるのなら俺はいくらでも戦える。

 

痛い思いをするのは嫌だが、心に後悔や癒えない悲しみや苦しみを抱えたまま一生を過ごすのはもっと嫌だ。誰だって大事な人達を悲しませたり、失いたくはない。それが俺の戦う理由だ。

 

「アーシアちゃん良かったなぁ…!!」

 

「うんうん…よかったわ、アーシアぁ……!!」

 

「ちょっとバカ、泣かないでよ…もらい泣きしそうになるじゃないの」

 

二人が1位でゴールし、喜ぶ様子に天王寺達もうれし泣きを始める。本当にアーシアさんと仲がいいんだな。

 

一位でゴールした達成感に浸る二人だったが、突然兵藤がぐらりと体勢を崩した。そんなあいつをアーシアさんが支えてやる。

 

「…どうしたんだ?」

 

そこに部長さんが駆け寄り、何かを指示するとそそくさとアーシアさんは兵藤を連れて、皆のようにクラスのテントに戻らずどこかへ去って行く。

 

「アーシア、兵藤を連れてどこに…?」

 

「もしかすると、まだ万全の体調じゃないのかも」

 

一連の流れを見て胡乱気に呟く上柚木、桐生さんは目を細めて推測する。

 

あり得るな、多分ついさっき昏睡状態から目覚めたばかりだろう。あれだけ派手に暴れて、数日も寝ていたのだ。本当はまだこういう催しにいきなり参加して運動するのも良くないはず。

 

「せやな、でも本当に一誠君大丈夫だったんかいな?」

 

「ま、あいつのことだから軽く休めばすぐ治るだろ」

 

「普段からおっぱいのことを考えるくらい、元気だけは有り余ってるからな」

 

心配そうにしている天王寺とは対照的に松田と元浜は楽観的だ。

 

『次のプログラムは借り物競争です、参加する生徒たちはすぐにスタート位置に並んでください』

 

「…それじゃ、行ってくる」

 

「私も行ってくるわね!」

 

あいつの心配をする間もなく、次のプログラムのアナウンスが流れる。

 

借り物競争はうちのクラスからは俺と紫藤さんを入れた4人が出ることになっている。余程変なものを指定されることはないだろう。うまいこと無難なものをくじで引ければ、すぐに突破できる。

 

土壇場になって登場したあいつのことは心配だが回復できるアーシアさんが一緒にいるから彼女に任せるとしよう。よっこらせと腰を上げて、俺と紫藤さんは移動を開始する。

 

「頑張ってね、イリナ」

 

「任せなさい!」

 

上柚木の応援にサムズアップと笑顔で答える紫藤さん。そして俺の隣にいるゼノヴィアは…。

 

「悠」

 

いきなり顔を寄せると。

 

「!!!?」

 

柔らかな唇で、俺の唇と軽く重ね合わせた。

 

…い?

 

「行ってこい、無茶はするなよ?」

 

悪戯ぽい笑みを浮かべて、肩をポンポンと叩いた。

 

「お、お前…!?」

 

いきなりのキスに俺は戸惑いと驚きを隠せなかった。

 

な、何か、最近のゼノヴィアはおかしいぞ!いや元からおかしい子と言えばおかしいが、ディオドラ戦を経てから特にそうだ!あの戦いで彼女の中に何が起こった!?

 

こんな……こんな人前で、天王寺達の前で軽めとはいえ大胆に…キスを…!!

 

「何ぃ!?」

 

「マジか!?」

 

「わお…」

 

近くでこの流れを目の当たりにした桐生さん達だけではない、同じテントにいるクラスメイト達の視線も松田たちの大声にどういうことか、何事かとだんだん俺に集まってくる。それに比例して、俺の中の恥ずかしさも高まってきた。

 

「な…ちょ…あ…ぬあああああ!!」

 

驚きと一度に集中する視線と、高まり続ける恥ずかしさに耐えられなくなった俺は顔を真っ赤にして日差しを凌ぐテントから、日差しが突き刺すように照り付ける外へばたばたと飛び出した。

 

「悠君!?どないしたんや!?」

 

「ゼノヴィア、あなた思った通り大胆ね…」

 

「ぎぃぃぃ!うらやまじいいいい!!」

 

後ろから何か聞こえてくるが知らん。恥ずかしさのままに俺は次の競技の待機列へと駆け出したのだった。

 

 

 

 

 

 

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そこはほぼ何もない空間だった。

 

オセロのような模様が敷かれた床が果てしなく続き、そこに寂しく小洒落た椅子と小さな箪笥があるだけの空間。

 

人気のなく静寂だけが支配するこの世界で、一人の少女は大声で泣き叫ぶ。

 

「うわあああああああんん!!!」

 

少女の泣き声がどこまで広がっているか、そもそも終わりがあるかもわからない空間に響き渡る。まるで親にいたずらしたことを叱られた子供のように泣きじゃくる。

 

「うわあああああああんん!!」

 

「…アクア」

 

暗闇の中から、何かがアクアと呼ばれた少女に呼びかける。

 

「アクア」

 

「うあああん!!ひぐすっ」

 

二度目の呼びかけで彼女の後ろにいる存在に気付き、頬を膨らまして彼女はぶんと振り返る。

 

「なによ、もうほっといてよ!」

 

「そうはいかん、一先ず落ち着いて私の話を聞いてほしいのだ」

 

暗闇の中から、ゆっくりとそれは姿を現す。

 

その生物を一言で言い表すなら、トカゲに近いフォルムが一般的とされる西洋のドラゴン。凶悪そうな龍の顔つきにアメジストのような深い紫の瞳があり、全身から生える銀色の鱗は刃のように鋭く、鈍い輝きを放つ。

 

一目見れば誰もが恐怖を覚えるような容姿に構いもせず、女神は泣き続ける。

 

「うえん、もう駄目よ、私のヘマがバレていよいよ怒られるわ。後輩たちにもどやされるし…ああ、よくて左遷よぉ……!!もしかすると、私下界に堕とされるぅ……!?」

 

少女の名はアクア。つい最近、一人の少年を彼が望んだ仮面ライダースペクターの力を与えて、異世界へと送った水を司る女神だ。

 

そして今、彼女のミスを隠蔽し無断で魂を異世界に送ったことが彼女の上司にバレ、彼女は危機に瀕している。

 

狼狽も露わに頭を抱えてぶつくさ呟く彼女に、龍は再び話しかける。

 

「誠に申し訳ないが火急の事態だ。向こうの世界で動きがあった」

 

「…向こうの世界って、竜域のこと?」

 

むすっとしながら、アクアは龍の話に耳を傾ける。

 

「そうだ。奴が…『創造』が既に竜域に来ている。深海凛との繋がりが途切れ、何があったかと思えばまさかこんなことに…」

 

「深海凛って、私が最初にヘマやらかして向こうに送った人間のことよね?」

 

彼女の管轄である国、日本で生まれ育った深海凛は生と死を司る女神でもある彼女のヘマで予定よりもはやく生を終えることとなってしまった。

 

想定外の失敗、その露呈に怯える女神。そこに龍の思惑が組み合わさった。

 

竜域が滅びる未来を変えたい龍、そこに元々存在するはずのない異世界人を送り込めば人為的に特異点を生み出せるのではないか?

 

特異点の選択によって、世界は変わる。特に強い運命力を持つ兵藤一誠と存在するはずのない彼女の2人が力を合わせればバッドエンドを変えられるのではないか?

 

滅びをもたらす彼の者にすら想定外の存在となるような特異点なら、未来を変えることができるのではないか?

 

そうして龍はアクアに話を持ち掛けた。竜域に彼女を送ればミスをある程度隠蔽できると思いついた彼女と龍の考えは一致し、かくして深海凛は竜域に転生した…はずだった。

 

後に再び同じミスをやらかし、何の因果か彼女の兄も送られることになるとは2人も予想だにしなかったが。

 

「今回は何か異常だ。さらなる別世界からの来訪者に加え、早すぎるあの者達の暗躍…嫌な予感がしてならないのだ。このままだと早い段階で竜域と神域《デュナミス》が接続されてしまうやもしれぬ」

 

龍は憂う。己が知る、やがて来る絶望の未来を。

 

かの機械生命体とあの者達に蹂躙され、一切合切を破壊しつくされる未来。それだけは何としてでも避けなければならない。

 

「それで何よ、どうするわけ?もう彼には特典をあげたじゃない」

 

「当初の予定を大きく踏み倒す。来るべき時が来れば解放するようになっていたゴーストドライバーに隠していた領域を一部開放する」

 

彼とアクアが生み出したゴーストドライバー、そしてメガウルオウダーには隠された力だけでなく情報領域が存在する。それは時が来れば自動で解禁され、竜域に住まう者たちや転生者たる兄妹の大きな助力になる予定だった。

 

メガウルオウダーを託した深海凛は、転生した直後にどういうわけか自分とのリンクがぶつりと途切れ消息が途絶えてしまった。その原因を探ろうとしたが中々その足取りがつかめず頭を抱えていたところ、今しがた彼の兄が凛と戦い、戦いの最中力を行使して『あの文字』を見せたことで龍は全てを悟った。

 

「そして私のメッセージとともに、新たな力を彼に託す。すでに戦士として十分経験は積み、守りたいと願う仲間も得た。今の彼ならきっと…」

 

アメジストのような瞳を細め、暗闇の彼方を睨む。

 

ゴーストドライバーを通じて、龍は彼の戦いを見続けてきた。彼の苦悩も、決意も、全て龍は識っている。

 

勿論、彼の苦悩の一因が自分達の存在による異世界から来たという彼の特殊な来歴にあることも。

 

「アクア、大変申し訳ないが私に今一度力を貸してくれ。君の力が必要なんだ」

 

龍は真っすぐに、海のような澄んだ青い瞳に涙をためる女神を見つめた。

 

「君には命を救われた。私にできることは少ないが、君に下るだろう罰が軽くなるようできるかぎり君に協力する」

 

「…まったくもう、しょうがないわね!私がいないとゼル帝はホントにダメなんだから!!」

 

龍の言葉に手のひらを返したかのように、アクアはえっへんと胸を張ってドヤ顔を見せる。

 

「何度も言うが私はゼル帝という名では…いや、今はそれでいい」

 

初めて会った時からドラゴンの見た目のせいかゼル帝という訳のわからない名前をつけられ、呼ばれ続けている。

 

…だが、それはこの際どうでもいい。例えこの身が滅びようとも、守ると決めたものがある。

 

「私は…私が愛したあの世界を守り抜いて見せる」

 

どれほどの時が経とうと、この身がどのような形に変じようと、彼の切なる願いだけは色あせることはない。




ポラリス「…本当に出番なしにされるとは誠に遺憾である」

悠「あんたは次章でがっつり出番あるから」

これでホーリー編は終了です。元々はラグナロク編が濃くなる分本当に薄い内容になるはずでしたが大和の参戦、オカ研との共闘、ディオドラのオリ設定を途中で思いついて加えたらかなり濃い内容になりました。

外伝を一つ挟んで、死霊強襲編最終章のスタートです。今まで何度も出てきた特異点についていよいよ解説します。今回のゼノヴィアの行動についても。

次回、「ル・シエルの休息」

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