ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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この時の英雄派って、過去に神器関係で周囲の人間にひどい目に遭わされたから異形と戦うだけで一般人を守るっていう発想がないんだと思います。守るための力に対しての戦うためだけの力というべきか。

Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は…
S.スペクター
5.ビリーザキッド
7.ゴエモン
9. リョウマ
11.ツタンカーメン
12.ノブナガ
13.フーディーニ



第68話 「闇夜を馳せる忍」

夏のピークが過ぎ、突き刺すような暑い日差しも落ち着きを見せてきた日の昼間。

 

午前の授業を終えて一息つくクラスメイト達が談笑する昼休みの教室で、俺達いつもの面子は昼食に舌鼓を打っていた。

 

「もうすぐ修学旅行だな。初めての京都、いやー楽しみだ」

 

所狭しに色とりどりの具材が詰まった弁当を食べながら松田は言う。

 

もうちょっとで9月の下旬に入るのだが、そこに学生のビッグイベント、修学旅行があるのだ。今年の行き先は日本の古都、京都となっており、クラスの話題は今修学旅行でどこを回るか、誰と班を組むかで持ち切りだ。

 

「次の時間で班決めか、一班3、4人だから俺と松田とイッセーで組むことになりそうだな」

 

「俺ら、嫌われてるからなぁ」

 

兵藤のボヤキに、そうだなぁと二人も首を縦に振った。

 

兵藤だけは、夏休みの合宿を経て肉がついてワイルド味が増したと評判はまだ悪いままだが一部では好評らしい。

 

まあしょうがないよな、普通は覗きなんて誰だって嫌がる。だが、その煩悩に俺達は何度もピンチを救われているし、果てには命を削る覇龍という兵藤自身のピンチも救うことになったのだから…正直、突っ込みにくい。

 

あいつが煩悩を捨てて真面目になるのは良いが、かといってピンチを切り抜ける力が失われるのもなぁ…。

覇龍とか、あいつの煩悩なしでも十分戦えるぐらい強くなったとしてもどうしようもない出来事だったし。

 

「紀伊国、お前も俺達と来るか?」

 

窓の向こうに広がる空を遠い目で眺めながら考えていたら、元浜が声をかけてきた。

 

「悪いな、俺は天王寺と行く」

 

「色んな名所見て、おいしいもん食べて回るで!」

 

天王寺は心底楽しそうに笑う。一番先に一緒に行かないかと誘ってきたのはこいつだからな、しかも夏休み明けに真っ先に。相当楽しみにしているみたいだ。

 

修学旅行の予定について話そうかというところに、桐生さんと上柚木達クリスチャン組が現れる。

 

「エロ3人組、私たちの班と組まない?美少女4人組と一緒でウハウハな修学旅行になること間違いなしよ?」

 

「4人?3人の間違いだろ」

 

松田は男なら誰でも喜ぶだろう提案を鼻で笑う。

 

「ほー?誰が美少女じゃないって言うのかしら?まああんたはどうでもいいわ、それよりアーシアよ」

 

桐生さんと一緒にいたアーシアさんがニコニコな笑顔を浮かべて、兵藤に近づいた。

 

「私、イッセーさんと一緒にいたいんです。一緒に行きませんか?」

 

「OK!アーシアが望むなら、いくらでも一緒にいようぜ!」

 

「はい!」

 

兵藤も同じくらいの笑顔でアーシアさんの誘いを快諾し、喜びのままに二人は抱き合う。

 

「なーんか体育祭からあんたたち、さらに仲良くなっておまけにラブラブオーラまで出すようになったわね…」

 

「少し涼しくなってきたはずなのにアツアツだなー…」

 

二人のラブラブオーラが目に見える勢いで増したのは体育祭からだろうか。部長さんにこの話題を振ったらそうねと愉快そうに笑ってはぐらかされた。絶対何か知っているな…。

 

朱乃さんとのデートが控えてあるが、案外アーシアさんがゴールするのが先かもな。…最近この手のことを考えていると馬や車のレース感覚で考えるようになった。

 

「綾瀬っちはどうするの?」

 

「人数的にあなた達の班に加わるのは難しいし、他の人に誘われたからそっちに行くわ。私の班は飛鳥の班と行動するつもりよ」

 

最大4人だし、もう上柚木が入れる枠はないな。なら別の班に行くしかない。

 

最近上柚木の父が奈良で遺跡を発掘したらしくその調査でしばらく帰ってこれないらしい。心配をかけまいといつものように気丈に振る舞ってはいるがやはり寂しさを隠しきれていないというオーラを出している場面が時々ある。

 

「桐生、すまないが今回は綾瀬の班に入ろうと思っているんだ」

 

そんな中意外な思いを口にしたのはゼノヴィアだった。

 

「意外ね、なんで…あ、そういうこと」

 

予想外の申し出に桐生さんも最初は驚いていたが、何かを察したらしく薄く笑んだ。

 

嫌な予感がする…あれはアーシアさんにあんなことやこんなことの知識を吹き込む時のように周りをひっかき回す時の顔だ。

 

「アーシアとイリナもすまないな」

 

「いいのよいいのよ!楽しんでらっしゃい!」

 

「大丈夫ですよ、ゼノヴィアさんも良い思い出を作れるといいですね!」

 

紫藤さんもアーシアさんも友人と行動したいはずだろうに、特に残念がる様子もなくOKを出す。意外にもあっさりとした二人の反応に俺は困惑した。

 

え、二人ともあっさりOKを出しただと…?もしかして、あの3人は仲が悪いのか?女の友情ってプレパラートよりも薄いと聞くし。しかし裏表のないアーシアさんと紫藤さんだ、あの3人に限ってそれはないと信じたいが…。

 

「そういうわけで悠、一緒に京都散策を楽しもうじゃないか」

 

「えっ、お、おう」

 

ゼノヴィアが嬉しそうにこちらに微笑みかけてくる。

 

…なんか妙だ。3人の間で何かあったな?あるいは、何を企んでいる?

 

いや、ゼノヴィアが何かを企むのは考えにくい。あいつは真っすぐな性格しているから小細工を嫌うしな。だからますますこの流れが読めない。

 

「まあそんなこんなで桐生班はアーシアとイリナ、俺の班は松田と元浜」

 

「僕の班は悠君やね、後の一人は適当に誘ってみるわ」

 

「私の班にゼノヴィアと御影さんが来るわ」

 

ちなみに御影さんはうちのクラスメイトで、黒髪のツインテールが特徴のどこか幸薄そうな地味な子だ。

天王寺とバイト先が同じとも聞くが…。

 

「ところで忘れちゃならないのが、修学旅行が終わるとすぐにある学園祭だ」

 

松田の言う通り、修学旅行から2週間も経たないうちにさらに学生のビッグイベント、学園祭が開かれる。さらにその学園祭が終われば今度はテストが待ち構えている。この学園、天国からの地獄の落差が激しすぎないか?

 

学園祭か、オカ研に所属している以上何かしらの出し物はするんだろうな。有名人揃いのうちの部活は注目度は高そうだ。

 

「去年のオカ研はお化け屋敷をしてたわね、かなり本格的だって評判だったわ」

 

「私行きたかったんだけど列が長いし時間もなくて行けなかった…」

 

去年の無念を思い出して残念がる桐生さん。

 

「僕は悠君と行ったんやけど、悠君ごっつビビってたで!」

 

「…マジで?」

 

「マジよ」

 

色んなタイミングで俺の体の主について聞くが、相当ヘタレだったんだな。

 

「あの後、一時期あなたの家で不審な物音がよくするようになったわね」

 

「実はホンモノの幽霊がいたりして」

 

「桐生はんホンマにおどかしてくるのやめーや…」

 

オカ研で本物の異形と絡んでいるからマジでその説ありえそうだ。

 

…ちなみに後で部長さん達に聞いたら、手持ち無沙汰で仕事がなく困っている本物の妖怪たちに協力してもらっていたらしい。あながち間違いではなかったな、天王寺よ。

 

「ところでオカ研は今年何をやるんだ?決まってないなら是非メイド喫茶をやってくれ!」

 

「あの美女揃いの面子なら、男子に大ウケ間違いなしだ!」

 

オカ研は俺以外は有名人ばかりだからな。木場もいるから女子ウケもよさそうだ。

 

「ふっふっふ、俺に任せておけ。お前たちの夢は俺が叶える!」

 

そんな二人の要望をノリノリで受け入れたのはもちろん兵藤だ。ぶっちゃけお前は催す側より参加する側になりたいんだろ。

 

「兵藤…!」

 

「頼んだぞ!俺達の希望の星!」

 

変態二人は頼もしく実現への意思を見せる兵藤にパッと顔を希望に輝かせて、熱く、固く兵藤の手を握る。

 

「手のひらターン速いな」

 

…あれ、メイド喫茶なら俺達男子組は何をするんだ?俺、いらなくね?

 

 

 

 

 

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ここは町の中に静かに佇む廃工場。夜のとばりがどこか不気味な雰囲気を生み出すそこは駒王町にいくつかある廃工場の中で1番大きなところだ。

 

俺達オカ研は緊張の面持ちでそこへ赴いていた。緊張と言っても、偉い人と会う時のようなものではない。戦闘を前にした時の緊張。

 

そしてここは俺にとっては始まりの場所とも言える。初めて変身し、初めて戦って、命を殺めた場所。だが今回はあの時のように弔いに来たのではない。

 

「…来たな」

 

俺達の存在に気付き、工場内の闇の中で夜に紛れそうな黒スーツの男がゆっくりとこっちへ振り向いた。

 

「私はグレモリー家次期当主、リアス・グレモリーよ。あなた、『禍の団』の英雄派ね?」

 

男に対し、毅然とした態度で相対する。

 

ここへ来たのは、『禍の団』英雄派の構成員がこの町に侵入したとの情報が入ったからだ。ここの所、よくこんな出来事が頻発している。これで5回目だ。

 

英雄派、それは『禍の団』における現ナンバー1の勢力を誇る派閥だ。今までは旧魔王派がトップの派閥だったがアスタロトの一件で指導者たるシャルバや戦力の多くを失ったことでその活動は静まった。

 

英雄派は神器持ちの人間や歴史に名を刻んだ偉人や武を振るった英雄たちの子孫で構成されている。神器研究や昔の武器の捜索など、武の追究に余念がない武闘派だ。噂によれば、神滅具使いも所属しているらしいが…。

 

一応この町にはそこそこ強力な結界が張られているんだが、それをことごとく破ってやって来るのだ。向こうにやり手の魔法使いがいるかもしれないな。

 

「ああそうだ、俺達は貴様ら悪魔を倒すためにここに来た。だが…」

 

男は敵意を持って返事をした。そして部長さん達に敵意を向けていた視線が、俺の方に移る。

 

「紀伊国悠、だったか?お前だけは連れて帰るようリーダーに言われている。何もしなければお前には危害を加えない」

 

「何?」

 

何度も連中とは交戦してきたが、それは初耳だ。

 

ちなみに、眼鏡は最近新しくした。グリゴリの方でこれからの戦闘に耐えうる眼鏡を作ってもらったのだ。もちろん事故の影響で極端に視力が弱い俺の目にもしっかりと度は対応している。

 

…いや本当に、今までのノーマル眼鏡がもってきたのは奇跡と言っても過言ではない。何度も死に目を見てきたのに、俺よりもこの眼鏡が不死身なんじゃないか?

 

人工神器を開発しているグリゴリが作っただけあって色々な便利機能が搭載されている。悪魔と同じ言語認識能力もその一つだ。中にはしょうもない機能もあるようだがそれは別の機会に解説するとしよう。

 

閑話休題。

 

俺を殺すのではなく連れて帰る、しかも奴らのリーダーからの指令。俺、何か狙われるようなことをしたか?だが、その提案に対する答えは一つだ。

 

「…怪しい人に着いて行くなって親に教わらなかったのか?」

 

どういう理由があるかは知らないが、世間に迷惑かけるテロリストにホイホイ着いて行くつもりは毛頭ない。

 

「お前たちの下に行く気はない。和平協定推進大使の権限の下、お前たちを拘束する」

 

「…なら、力づくで連れていくだけだ」

 

闇の中からぞくぞくと隠れていた敵が姿を見せる。男の隣に二つの人影が現れた。一人はサングラスをかけたアジア系の男、もう一人は顔立ちはヨーロッパ系で民族衣装らしい装いだ。

 

さらにその後ろから這い出るようにぞろぞろと人型の何かが姿を現した。奴らをどう呼べばよいかと言えば、俺は化け物と答える。真っ黒で、明らかに人間ではない

 

奴らはいつもこういう化け物を連れてやって来る。等身大の者もいれば、人二人分のサイズの戦闘員もいる。剛腕持ちやなど多種多様だ。

 

構成員が3人から4人、そしてあの化け物が多数。今回もいつもと同じパターンか。

 

敵が戦力を見せたのに応じて、こちらも動く。

 

兵藤と木場が前に出て前衛を務める。少し離れて右サイドにゼノヴィア、左サイドに俺が移動し

 

その後ろで紫藤さんと塔城さん、そして小型のハンディカメラのような機械を持つギャスパー君が中衛になる。主に俺達が撃ち漏らした敵を潰したり、後ろからサポートしてくれる。

 

そして後衛が部長さんと朱乃さん、最後にアーシアさん。『王』の部長さんが指示を、アーシアさんは癒しのオーラを飛ばして俺達の戦闘を支える。

 

グレモリー眷属でない俺と紫藤さんを加えたこの陣形は通称オカ研フォーメーション。まるでサッカーのようだと思った、イ〇ズマイ〇ブンだな。禁手化してない兵藤が中衛に加わることもあり、その時は譲渡でこちらの攻勢を支えてくれる。

 

〔Welsh Dragon Balance Braker!〕

 

会話の間にもカウントを終えた兵藤が、赤龍帝の鎧を纏う。

 

覇龍が発動したことによって、赤龍帝の籠手に様々な変化が起こったらしい。

 

発動は一日一回の制約がなくなり、発動時間も一日に二時間から三時間は維持できる。今までは一日一回しか使えず発動に2分のカウントを要し、発動できるのも最長30分、しかも使用後もカウント中も能力を一切使えなくなるという禁手に全てをかけたような現状だったが大きく改善された。

 

生命力をかなり削ったそうだが、その甲斐あっていいこともあったようだ。

 

「今回はこいつで行く」

 

懐から取り出したのはビリーザキッド眼魂。前の戦いで凛から取り返した眼魂の一つだ。バットクロックもいつの間にか帰っていた。恐らく、ガジェットは対応するフォームの眼魂の一部のような存在ではなかろうか。

 

起動してすぐさまドライバーに装填し、レバーを引く。

 

〔アーイ!バッチリミロー!〕

 

「変身」

 

〔カイガン!ビリーザキッド!百発百中!ズキューン!バキューン!〕

 

ドライバーが引き出した霊力がスーツに変換され、夜の暗闇の中を幽霊らしく妖しく飛ぶパーカーゴーストをさらに纏って変身を遂げる。

 

ビリーザキッド魂。多数戦では二丁拳銃による早撃ち、デカブツにはガンモードとバットクロックを合体させたライフルモードで痛烈な一撃を食らわせられ、こうした遠距離攻撃を得意とするスタイルの欠点になりがちな近距離戦も立ち回れるかなり便利なフォームだ。

 

「燃え尽きろ!」

 

先手を打ったのは英雄派の方だった。ヨーロッパ系の男が両手に白い炎を纏わせ、燃え盛る火球を数発放つ。

 

「はあああっ!」

 

それと同時に兵藤が動く。赤い鎧の背部に備えられたブースターが炎のようにぼっとオーラを噴いた。

 

ブースターの推進力を得た兵藤が、直撃する火炎弾をものともせず果敢に突撃する。

 

男たちはすぐさまあちこちに跳び回避するが、反応の遅れた異形の戦闘員たちは猛烈なスピードを伴う突撃に巻き込まれ宙に巻き上げられる。

 

「赤龍帝のパワーに注意しろ!強烈だが、ここでは派手な攻撃はできないはずだ!」

 

異形の戦闘員たちもいよいよ動き出す。ぞろぞろと歩みを始め、一斉にこちらに向かってくる。いよいよ本格的な交戦が始まる。

 

「行くよ」

 

「片っ端からぶちのめす」

 

「さっさと終わらせて飯にするッ!」

 

それを見て、前衛組の俺達も前進する。

 

神速を以て木場が敵の中へ飛び込み、冴えわたる剣技で敵の群れを内側から崩していく。

 

大振りな聖剣デュランダルを軽々と振り回すゼノヴィアは、輝く剣閃で立ちふさがる敵を正面から切り裂き荒々しく突破する。

 

そしてバットクロックとガンガンセイバーガンモードの二丁拳銃で攻める俺はビリーザキッドの特性、早撃ちで次々に寄せ来る異形を撃ち抜き沈める。

 

「!」

 

大きなサイズの戦闘員がその巨腕を俺に向かって振り下ろしてくる。すかさず回避しつつ早撃ちの連射を浴びせるが耐久力がそこそこあるようで倒すには至らない。

 

「だったら!」

 

バットクロックをガンガンセイバーの銃口付近に合体させ、ライフルモードにする。合体させてすぐに構えてトリガーを引き、強力な射撃をぶつけて今度こそ沈めた。

 

戦闘に参加しているのは俺達だけではない。中衛の紫藤さんや塔城さんが戦っている俺達を抜けた戦闘員たちを残らず仕留め、後方から朱乃さんの雷が伸び、まだ俺達の手が回っていない異形の戦闘員たちを焼き貫いていく。

 

塔城さんはただ戦闘するだけではない、仙術で周囲の気を探り伏兵の存在を確認する索敵要因でもある。

 

「ミニ・ドラゴンショット!」

 

兵藤が手のひらに小さな魔力の玉を生み出し、戦闘員目掛けて打ち出す。今までのようにビームの如く打ち出す威力と範囲重視のタイプではなく、被害を抑えなければならない人間界での戦闘を意識した攻撃。

 

異形の戦闘員たちに炸裂し、まとめて吹き飛ばすかと思いきや、そこにずるりと黒い影が伸び、ドラゴンショットが触れるや否や沼のようにずぶりと飲み込まれてしまう。

 

「なに!?」

 

まさかの現象に気を取られた兵藤。わずかながら隙が生まれ、その背後から戦闘員が襲い掛かる。

 

「イッセー君!」

 

即座に木場が駆け付け、鮮やかな剣閃の下に切り伏せる。

 

「悪い、木場!」

 

「いいんだ、それより…」

 

絶えず向かってくる戦闘員たちを蹴散らしながら背を合わせる二人。

 

そこから少し離れたところで戦う俺の視界に、サングラスをかけた黒服の構成員の姿が映った。

 

さっきの影の現象を起こしたのは誰の神器だ…?少なくとも、最初に炎攻撃をしたヨーロッパ系の男でないのは確かだ。ならあいつか?

 

それを確かめるため一発喰らわせてやろうと、戦闘員たちを相手にしつつ一発銃撃して見せる。

 

光の尾を引いて進む銃弾、男を撃ち抜かんとした瞬間。男の足元の影がにゅっと伸びて銃弾を飲み込んだ。

 

そして次の瞬間。

 

「おわっ!?」

 

背に衝撃を受け、よろめく。

 

「お前が影を操っているな!」

 

「正解、自分達の攻撃で存分に苦しめ」

 

男は俺の出した答えに口角を上げる。

 

「影で飲み込んだものを別の影へ転移する能力だわ。ただ防御するのではなく受け流すタイプ…また厄介な神器使いを送り込んできたものね」

 

この事象を見て、部長さんは冷静に分析する。カウンター系神器と言えば、シトリー眷属の副会長の『追憶の鏡』を思い出す。あれは鏡を生み出して攻撃を防ぎ、鏡が割れた衝撃と一緒に受けた攻撃の威力を返す能力だった。

 

あれとは少し違うカウンターのタイプだが、厄介な能力であることには変わりない。兵藤やゼノヴィア達のような火力に振った戦闘スタイル持ちが多いオカ研にはきつい相手だ。

 

「なら、俺のドラゴンショットは…!」

 

その言葉を待っていたと言わんばかりに工場の中に積まれた木箱の山の影から、赤い光が飛び出す。

 

間違いようもなく、兵藤がさっき放ったドラゴンショットだ。そして、赤い光弾が狙う先にいるのは…。

 

「アーシア!」

 

部長さんや朱乃さんと共に後衛に控えて、癒しのオーラを飛ばして前衛、中衛組を支えるアーシアさんだった。

 

「させるか!」

 

彼女の危機にいち早く気付いた兵藤は再び素早くミニ・ドラゴンショットを打ち出して、影から飛び出たドラゴンショットにぶつけ相殺した。

 

魔力同士の激突と破裂で爆風が起こるが、同じく後衛の部長さんと朱乃さんがしっかり防御魔方陣を生み出してアーシアさんは事なきを得た。

 

「アーシアを守るのはイッセーだけじゃないのよ」

 

「アスタロトの時のような思いは…もう勘弁だわ」

 

二人の瞳には必ずアーシアさんを守るという決意の光が灯っていた。ディオドラとの一戦以来、俺達の中でアーシアさんを守らなければならないという意志は強くなった。

 

回復能力はあっても俺達のように戦闘力のないアーシアさんは敵の攻撃や悪意から自分一人で身を守る術がない。

だから、俺達が守らないといけない。

 

しかし今の攻撃、回復要員であるアーシアさんを先に潰そうという魂胆か。傷を癒せる魔法や回復能力を持つ神器使いは希少だからな。潰しておけば、向こうはカウンターを使ってより楽に戦闘を運べると踏んでいる。

 

「なっ!」

 

そう思いながら戦闘を続けていると、横合いから風切って飛んできた光る何かに弾かれて銃を一丁落としてしまった。

 

反射的に何かが飛んできた方向に目を向けると、工場のさび付いたキャットウォークでヨーロッパ系の男が光る弓に同じく青い光の矢をつがえていた。

 

「光の矢か!」

 

男は返答の代わりに力強く弓を引き、矢を射て見せた。真っすぐに放たれたそれを飛び退って回避するが矢は途中で軌道を変え、躱した先へとまた飛んでくる。

 

「くそ!」

 

バットクロックを落としてガンガンセイバーの一丁拳銃となった状態で、短く青い光の尾を引いて向かう矢を銃撃して迎え撃つ。しかし矢は変幻自在に軌道を変えことごとく銃撃を躱して来る。

 

矢の向かう方向にいたのは、戦闘員たちを相手にしていてこちらに背を向けているゼノヴィアだった。こちらの攻撃に気付く様子もない。

 

「ゼノヴィア、後ろだ!」

 

大きな声を出して、注意を呼び掛ける。しかしそれを邪魔するように戦闘員たちが攻撃を加えてくるため回避しようにも動けない。しかしそこへ別方向からさらなる光の槍がヒュンと飛んできて矢に刺さり、破壊した。

 

「光ならお任せあれ!」

 

光の槍を放ったのは、戦闘中でも変わらず快活な動きと表情を見せる紫藤さん。天使とそれに連なる堕天使特有の力、光力を紫藤さんは使える。

 

そんな彼女に内心でナイスと言ってサムズアップを送る。

 

こちらも攻撃されるばかりでは終わらない。後衛にいる朱乃さんが魔力で氷の槍をいくつか生み出し、キャットウォーク上の射手に放った。

 

しかし急に男の周囲ににゅっと伸びて出でた影が壁を作り向かう槍を飲みこみ、今度は部長さん付近の陰から飛び出した。

 

異変に気付いた部長さんは難なくこれをよける。しかし影の猛威は終わらない。

 

射手の周囲に展開した黒い影の壁が、光の矢と更には白い炎を吐きだす。空を裂いて次から次へと息つく間もなく眼下で戦う俺達に放たれる。

 

「させるか!」

 

「そいっ!」

 

これを早撃ち、光力で生成された槍、そしてミニ・ドラゴンショットで迎撃し全て相殺する。宙で派手な爆発がいくつも巻き起こった。

 

そしてこの攻撃を、ギャスパー君は例のカメラ型の機械でバッチリ映していた。

 

「ギャスパー、解析の方は?」

 

「出ました!炎の攻撃が炎系神器『白炎の双手《フレイム・シェイク》』!影がカウンター系神器『闇夜の大盾《ナイト・リフレクション》』!さっきの矢が光系神器『青光矢《スターリング・ブルー》』ですぅ!」

 

アザゼル先生が開発した、神器の能力をカメラに映すとそれを解析し、グリゴリのデータベースと照合してどんな神器なのかをしてくれるマシン。

 

何度も使ったが、今のところ全ての神器を判別できている。流石神器に関しては天下のグリゴリだ。

 

「向こうは随分とこっちを研究してるみたいだね。悪魔に対しての光攻撃、邪眼の停止対策、そして僕たちの火力を利用するカウンター神器。今までと比べてさらに手の内を読んできている」

 

英雄派の連中とは何度も交戦してきたが、最初は通じていた停止の邪眼も3戦目から戦闘員たちが発動を感知して、構成員を守るように自らを盾にする動きを取るようになった。

 

対象を視界におさめなければ停止させることはできない。戦闘員に邪魔されて肝心の構成員の盾になられては視界に入らない。停止という強力無比な能力な分、一番に対策されているようだ。恐らく今回もそうだろう。

 

だが、向こうがこちらの能力を研究し手の内を読んでくるというなら。

 

「なら、今まで使ったことのない能力を使えばいい」

 

相手が読んでくる俺達の手の内にない手の内で対抗すればいい。単純なようで難しい対処法だが、俺にはそれができる。新たなる眼魂を取り出してその手に握る。

 

「凛から取り返したこいつの出番だ」

 

眼魂左のスイッチを押すと08のグラフィックが小さく浮かび上がる。

 

〔アーイ!バッチリミロー!バッチリミロー!〕

 

ドライバーから蛍光イエローの長い丈のパーカーゴーストが出現した。

 

〔カイガン!ゴエモン!歌舞伎ウキウキ!乱れ咲き!〕

 

レバーを引いて眼魂を読み込ませ、ふわりと宙を漂うパーカーゴーストを着こむ。

 

基本的な姿は凛が使った時と変わらないが、頭部のヴァリアスバイザーにはネクロムのような銀の防護フレームではなく、歌舞伎役者の隈取模様『フェイスクマドリ』が浮かび上がる。

 

蛍光イエローの地にダイヤモンドのような模様が走り、小判の装飾が施されたパーカーゴーストを纏うその姿こそ、仮面ライダースペクター ゴエモン魂。以前は凛に使用され、窮地に追い込まれたフォームだが今は頼もしい力の一つだ。

 

召喚されたガンガンセイバー ソードモードを握り、向かってきた戦闘員を早速一体切り裂く。傷口から黒い飛沫を上げて戦闘員はどさりと倒れた。

 

このフォームに変身した瞬間から、何故かこれをやらなければならないという思いに駆られたので景気づけにやっておく。

 

「はぁっ!」

 

地面を力強く踏んで腰を据え独特の構えを取り、首を振るう。

 

「いよぉぉ~~っ!」

 

喉から鼓舞するような声を出し、振るった首をぴたりと静止させる。これは歌舞伎で言う、見得を切るという行為だ。名前は知らずとも歌舞伎ならこのポーズということで知ってる人は多いはずだ。

 

「「「「「……」」」」」

 

そして戦闘の音が消えた。戦闘員たちすら空気を読んだのか動きがぴたりと止まり、英雄派を含めた全員の何やってんだこいつと言わんばかりの視線がぐさりぐさりと突き刺さってくる。

 

…えっ、何この空気。

 

「…んん」

 

視線が耐えきれなくなったので見得をやめて、咳払いで誤魔化す。というかそうでもしないと、この空気で俺が泣くかもしれなかった。

 

もう良いだろうと戦闘員たちが動き始め、戦闘が再開した。

 

「…何をしているんだ?」

 

「あれはジャパニーズカブキよ!」

 

「カブキ…?」

 

「歌舞伎ってのは、日本の芸能文化の一つのことだよ」

 

オカ研の中でもゼノヴィアは本当に歌舞伎を知らないらしく、困惑の表情を見せていた。紫藤さんと木場の解説を受けながら、戦いを続ける。

 

「歌舞伎とそのゴエモンは何の関係が?」

 

「五右衛門が有名な歌舞伎の題材になっているからさ。彼は一説には義賊だったとも忍者だったとも言われている大盗賊だったんだ」

 

戦闘員たちを相手取りながら、木場が丁寧にゼノヴィアに解説してくれた。

 

解説どうも、よく知ってたな。でも、五右衛門もビリーザキッドも結構悪い話の絶えない過去の人だからな。過去に偉業を成し遂げた人間ってのは、いい面だけに目が行きがちだが負の面が付き物だ。

 

「ニンジャ…忍者なのね」

 

「部長、まだ戦闘中ですわよ」

 

後衛からどこか興奮気味な声と、それを諫める声が聞こえる。部長さん、もしかして忍者が好きなのか。

 

「…過去の偉人たちの力を引き出す力、曹操が欲しがるわけだ」

 

俺のこの姿を見て、ぶつぶつと影使いが何かを呟いた。

 

「何か言ったか?」

 

「いや、さっさとお前をリーダーの下へ連れて帰るって言ったのさ!」

 

影使いの前にさっと現れた炎使いの男が白炎が燃える腕を振るい、火炎弾を打ち出す。

 

豪炎の塊がゴウッと空を焦がし、我先にと俺の下へ殺到する。

 

だが俺は防御も迎撃の姿勢も取らない。

 

「フゥー…」

 

腰を低くして足に力を込め、どっと地面を蹴り馳せる。そこにゴエモン魂特有の高速移動能力を発動、今までのフォームではまず出ない圧倒的な速度で敵に突撃する。

 

向かってくる火球を速度を維持したまま躱して猛進、狙いを外した火球を俺の代わりに受けた異形の戦闘員が起こした爆発を背にし、炎使いの男との距離が一瞬で消し飛ぶ。

 

「ッ!?」

 

この速度に男は目を見開くも、反射的に白い炎の剣を生み出し、俺の剣戟を受け止めた。

 

「一撃で切り伏せるつもりだったんだが…やるな」

 

「異形の飼い犬になった貴様なんかに…!」

 

「その言葉、異形がボスのテロ組織の一員になったお前にそっくり返してやる!」

 

拮抗する互いの刃、しかしここはあえて剣を引いて、軽く後ろに下がる。そして再び高速移動を発動させて背後に回り込み、一太刀入れて蹴りを叩き込む。

 

「ぐ!?」

 

完全に俺の動きについていけていないらしく、受け身も取れないまま砂を巻き上げて派手に横転する。さっきの攻撃を受け止めたのは単なる偶然だったようだ。

 

「くそ!」

 

やけくそ気味に男は火炎弾を放ってきた。それらすべて、高速移動で回避する。

 

「やれ!あいつを潰せぇ!」

 

男の叫びにも似た指示で、前衛組の攻撃で100はいた数のほとんどを削られた戦闘員たちの一部がぞろぞろとこっちに向かって迫ってくる。その数は8と言ったところだ。

 

だがアスタロトの一件でそれをはるかに超える数を相手にする大規模戦闘に参加した俺にはそんな数なんて恐れるに足らなかった。

 

〔ダイカイガン!ゴエモン!〕

 

ドライバーのレバーを引いて、内に秘めた眼魂の力を更に解き放つ。迸る蛍光イエローの霊力が左足に収束していき、地面を踏み抜いて跳躍する。

 

「ハァァァァ!!」

 

〔オメガドライブ!〕

 

高速移動を併用して、目にも止まらぬスピードで戦闘員たちすべてにキックを叩き込んでいく。一体が爆ぜる頃にはすでに別の戦闘員にキックが炸裂していた。

 

イメージはファイズのアクセルフォームが放つアクセルクリムゾンスマッシュ。超高速移動能力を活かして複数回必殺キックを叩き込むえげつない技の元祖だ。

 

10秒もかからない間に最後の一体となり、そいつだけはボレーキックで蹴り飛ばし、立ち上がった炎使いの男にぶつけてやった。

 

「ぐほぁ!!」

 

大きなダメージを受けて限界を超えた戦闘員の爆発に巻き込まれ、男は身に纏った民族衣装をボロボロにして無残に地面に転がった。

 

「……」

 

爆発のダメージでそこそこ傷を負い、流血もあるが死んではいない。打ち所が悪かったらしく気絶しているみたいだ。だがこのダメージだ、もうこいつは戦闘不能状態、この戦いで再び起き上がることはないだろう。

 

「まずは一人だ」

 

次は厄介な能力を持っているあの影使いをどうにかしなければ。




悠のグリゴリ製眼鏡、便利なだけじゃなくアザゼルが関わってるだけあってネタ機能も満載な模様。…実は今回の外伝案件だったり。本編でがっつりシリアスをやる分、外伝はギャグでバランスを取りたい。

次回、「目覚める影」

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