霊力は今作でスペクターが使うエネルギーのことです。独自設定です。
あと、スペクターの浮遊能力は無かったことにしてます。
あのフォームの出番を奪いかねないので……
「これが、俺……」
頭部を覆う装甲『バーサークリフレクター』をさらにその上から覆う『エフェクターフード』を取り払う。
そして変身した自分の体を眺める。
体表を覆うスーツ『インビジブルスーツ』とそれを防護する装甲『インビジブルアーマー』、両腕両脚にはそれを防御しその力を強化、変身者の運動能力を超人の域に高める『リヴァイヴァーアーム』『リヴァイヴァーレッグ』が装着されている。
さらに全身の装甲にはドライバーが眼魂から抽出した霊力を各部に伝達する青い心電図のようなライン『エナジーベッセル』が走る。
そして胸部の装甲に刻まれた黄色い目の紋様『ブレストクレスト』は変身者の意志を霊力に変換する。
全身に力がみなぎってくる。これなら戦える!
〈BGM 攻勢 (仮面ライダーゴースト)〉
「まさか神器が覚醒した……!?」
いつの間にかに先程吹っ飛ばされた堕天使が立ち上がっていた。
その表情は今までの余裕に満ちたものではなく、畏怖の色に染まっていた。
「でも所詮、戦ったことのない人間が扱ったところで堕天使に勝てるわけないっすよ!!」
その手に生成した光の槍を投擲する。
人間を越えた腕力で投げられた槍は人間が反応できる速度などとうに越えている。
今までの俺なら反応する間もなく貫かれていただろう。
だが──
「見える!」
体を横に反らし回避する。
かわされた槍はそのまま壁に突き刺さり、消失した。
「そんな……!?」
「今度はこっちが攻める番だっ!」
槍をかわしてすぐに堕天使に向かって走り出す。既にその速度は常人を逸している。
拳を握り、動揺で隙だらけの腹に叩き込む。
「がはっ……!?」
快音を響かせて吹っ飛び、何度かバウンドして倒れた。
殴られた腹を押さえながらもゆっくりと起き上がり俺を睨み付けてくる。
(この人間は危険……!何としてもここで始末してやるっす……!!)
堕天使がその背の黒翼を広げ飛翔する。
工場内の狭い空間ではあまり意味のない行為に見えるが……
「翼のない人間が、ウチに攻撃を当てられるっすかぁ!?」
今度は上空から槍を投擲してきた。この姿を見て恐らく翼や飛行能力はないと判断したのだろう。
「だっ!クソッ!近づけねぇ!」
雨のように降ってくる槍をかわすばかりで攻められない。
「なら……出てこい!」
その時ドライバーから青い火縄銃が召喚された。先端部は人の手を模した形状をしている。その武器の名はガンガンハンド。スライド操作によりロッドモード、銃モードの二種に変形できる。
〔ガンガンハンド!〕
銃口を飛翔する黒翼の堕天使に向け、トリガーを引き霊力弾を放つ。しかし弾は標的から大きくズレた所に着弾し、壁に小さな穴を開けた。
その後も何度もトリガーを引き銃撃するが……
(全然当たらねぇ……!!)
しっかりと狙いをつけて撃った筈でもかすりもしないどころか、的から大きく外れた場所に着弾する。たまに当たりかけるときもあるがそんなときは体を捻るなどされて全てかわされてしまい結果としてただの一度も命中することはなかった。
……槍をかわすために動きながら撃っているからだと思いたい。断じて射撃がドが付くほど下手だからではないはず。
「だったら……!」
半ば自棄になり銃モードからロッドモードに変形させ、お返しと言わんばかりにこちらも投擲する。
「なっ……!?」
予想外の行動に堕天使も呆気にとられ、右脚への直撃を許してしまう。その隙にその超人的な脚力をもって跳躍し堕天使の左脚にしがみつく。
「ちょっ、こっこの!!離すっす!!」
「飛んでばっかで卑怯なんだよ!降りて戦えってんだよ!!」
抵抗する堕天使の蹴りを何度も食らうがダメージは入っていない。
蹴りとこちらの頭突きの応酬は続きその間にも飛翔している堕天使は大きくふらついた。
「い、痛っ!ちょっ、お、落ちるっすー!!」
ふらつくままに堕天使とそれにしがみつく俺は地面に不時着した。
「ぎゃん!?」
「ぶへいっ!?」
砂煙を巻き上げ転がる両者。
「ラァッ!!」
すぐさま立ち上がり胸ぐらを掴みあげ、殴りとばした。黒いグローブが、堕天使が吐き出した血に濡れた。
「ぐほっ……!?」
黒い羽根と土煙を巻き上げながら転がっていく。
「はぁ…はぁ…これでとどめだ!」
ドライバーのトリガーを引っ張り必殺待機状態に入る。全身を流れる霊力が活性化し、エナジーベッセルとブレストクレストが輝き始める。増大する霊力は大きな目の紋様が中央に刻まれた青い魔方陣を形成し、背後に浮かび上がる。
それを見て慌てた堕天使は……
「まっ待つっす!ウチが悪かったす!あんたには二度と手を出さないっす!もう二度と人を殺さないっす!!だからもう……!」
必死に命乞いを始めた。……一体何を言っているんだコイツは?
「……俺を殺そうとしたことはさっきのパンチで許してやる、だが…」
物言わぬ死体となった子どもに一瞥し堕天使に語る。
「お前がさっき殺した子どもにだって、帰りを待つ親がいるはずだ。明日の予定だってあったし、友達だっているはずだ。それをお前は一方的な理由でコイツの人生を踏みにじった……!」
青い魔方陣が霊力へと形を変えて、右脚に収束していく。
「お前を許さない理由はそれで十分だ!」
トリガーをドライバーに押し込み、力強く踏み込み跳躍する。
〔ダイカイガン!スペクター!〕
「いっ、いやぁぁぁぁぁぁっ!!」
堕天使が逃げ出そうとするがもう遅い。青く輝く右脚で飛び蹴りを放つ。
〔オメガドライブ!〕
「でぃやぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「がはぁっ……!?」
強大な霊力を纏った蹴りが腹に打ち込まれる。もう一方の足で腹を蹴り後ろに跳ぶ。
堕天使は大きく吹き飛ばされ、よろめいた。
「ア、アッ、アァァァァァァァァッ!!」
断末魔の悲鳴をあげると内部に叩き込まれた霊力がドンッ!と爆発を起こし、堕天使の体はその身に纏ったゴスロリ風の衣服ごと粉々に弾け飛んだ。
爆炎の放つ光の眩しさに一瞬目が眩む。
〈BGM終了〉
「……」
爆発の跡をぼうっと眺める。火はまだ小さくだが燃え、弾け飛んだ堕天使の羽根がヒラヒラと降ってくる。
ドライバーにセットされた眼魂を引き抜きカバーを閉じると同時に俺の体を覆っていたスーツも青いもやとなって霧散した。
〔オヤスミー〕
「うっ……」
その身体能力を超人の域に引き上げる補正が消え、反動で一瞬よろめいた。戦闘でヒートアップしていた頭のなかも急速に冷めていった。
そうして初めて、自分がしたことの意味を理解した。
「あ…ああっ……!」
思わず後ずさり、尻餅を着く。
理解した。自分が、この手を血に染めてしまったことを。
「……殺してしまった…俺が……」
じわじわと自分の行いへの恐怖、後悔が頭の中を支配していく。
自分を殺そうとした相手とはいえ、命を殺めてしまった。脳裏に必殺技を叩き込まれ、死に怯える堕天使の、あの恐怖に染まりきった顔、断末魔の悲鳴がよぎる。その表情が、悲鳴が、記憶が鉛のように俺の心にのしかかる。
「あ…ああっ…そんな……俺が…!」
恐怖が、後悔が思考をかき乱し冷静さを失わせる。
汗が止まらない。心臓の鼓動が早まる。涙が流れる。
「ハァ…ハァ…ハァ…うぶっ…おえっ……!」
かき乱されにかき乱され、込み上げたものを辺りにぶちまけた。
それでも汗も、この身をぐちゃぐちゃにされる不快感は収まらない。
違う、こんなはずじゃない。
何も考えていなかった。
ただ憧れた仮面ライダーの力を貰えるということに喜ぶばかりで、戦いを画面で見ていた俺は、命をやり取りすることが、戦って敵を殺すということがどういうものなのか何も知らなかったし考えもしなかった。
そうして今、自分がしたことの付けが回っている。だが、そうしなければあの断末魔の悲鳴をあげ、死んでいたのは自分だということもまた事実。
殺すことなく平和的に解決することも出来たのではないか?胸が後悔の念と罪悪感に溢れる。こんなに何かを後悔したのは初めてだった。
早くこの場を離れたい。そうしなければこの罪悪感に押し潰されてしまう。
そう思い足早に日も落ちすっかり暗くなってしまった工場の外へと走る。嗚咽を漏らしながらめちゃくちゃになった心のままに叫ぶ。
「…ああっ…アアアアアア!」
異世界生活一週間にして、俺は心にえぐり取られたような傷を刻み付けられた。
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先の戦いから数分後、すっかり日も暮れ夜の闇が支配する廃工場内に赤い魔方陣が浮かび上がり、光が弾けた。
そこに現れたのは学生服に身を包んだ二人の美少女。片や紅色の長髪、片や黒のポニーテール。
「ここで間違いないのね?」
「えぇ、確かにここからあの力を感知できましたわ」
二人は暗い工場内を探索し始める。
暗闇でも目がきく『悪魔』である二人には、一般人には真っ暗な工場内も明るく見える。
「これは……」
二人は工場内の光景に驚く。
胸に風穴を空けられ息絶えた子どもの死体と血だまり、大量に散った黒い羽根、無数に穴が空いた壁、そして焦げた臭い。
黒髪の美女が羽根を拾い上げ見つめる。
「……部長、これは堕天使の羽根ですわ」
「やはりこれは何者かが堕天使と戦った跡なのね」
部長と呼ばれた紅髪の少女は死体を一瞥する。
「……この子が堕天使と戦ったのかしら?それにしては傷が少なすぎるわね」
死体から視線を泳がせ、工場内の細かい所にも目を向ける。
すると……
「……朱乃、これを見て頂戴」
「?」
朱乃と呼ばれた黒髪の少女が駆け寄る。
指差す方向には足跡があった。
ただの足跡なら気にも留めなかっただろう。だがその足跡に刻まれた目のような紋様が二人の目を引いた。
「一応、写真を撮っておきますわ」
ポケットから携帯電話を取り出し、フラッシュで足跡を写真に収める。
探索を一通り終えて工場を出ると、紅髪を撫でながら月を物憂げに見つめる。
「この町に一体何が起きるというのかしら……?」
Q.悠は射撃が下手?
A.はい、これに関しては後の話でなんとかなります。
これでプロローグは終了です。次話から原作に突入です。
悠はこれから自分の戦う意味と理由を見つけていきます。
戦いたくないとか言ってますけど、後にいやでも戦うことになります。
次章予告
「俺は戦わない」
「俺、彼女ができたんだ!」
「敵討ちをさせてもらうっ!」
「彼を殺したのはあなたかしら?」
「この…!化け物がぁっ!!」
戦士胎動編《コード:ムーブメント》第一章
旧校舎のディアボロス