ハイスクールS×S  蒼天に羽ばたく翼   作:バルバトス諸島

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今週からZ/Xのアニメが始まるようです。ポラリスや綾瀬も出るようなので楽しみですね。自分は見れないんですけど。

それとZ/Xのゲームアプリ配信も始まったみたいですね。そっちならできるんですけど。

Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は…
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第71話 「オーディン護衛任務」

遊び半分だった尾行はアザゼル先生からの連絡によって終わり、俺達オカ研メンバーは兵藤宅の最上階にあるVIPルームに集められた。はぐれたゼノヴィアやデートに入り浸っていた兵藤と朱乃さんがオーディン様を連れてきて、今に至る。

 

突然の来訪にやはり皆緊張を隠せない。特に朱乃さんはいつものにこやかな笑顔も失せている…というより不機嫌気味だ。折角の楽しいデートを中断してきたのだからそれも仕方ない。

 

皆の表情に張り詰めたものがあるが俺と紫藤さんは初対面ではないしあのスケベな一面を見せられたので緊張しようにもできそうにない。…あのノリ、普通にアザゼル先生と仲良さそうだ。

 

「……」

 

この部屋に集まったのは俺達やオーディン様だけではない。オーディン様と初めて会った時にもいたロスヴァイセさんと初めて見る筋肉質な偉丈夫の男、そしてフリフリの可愛らしい衣装を着たいかにも緩そうな雰囲気の金髪の少女もこの場に居合わせている。

 

初対面ではあるがあの大きな男の人は知っている、修行の時の勉強会で知った顔だからな。しかし、何故オーディン様がこの町に?

 

そんな疑問を抱く矢先、オーディン様がさっとこの部屋に集まった面々を見渡す。

 

「皆の面持ちが硬いようじゃのう。ほれ、ロスヴァイセ。挨拶ぐらいせい」

 

「は、はい…」

 

この流れからいきなり振られると思っていなかったのか、すこし驚き気味に動いた。

 

「ヴァルキリーのロスヴァイセと申します。日本に滞在する間はお世話になります。以後、お見知り置きを」

 

スーツを着こなし、背筋も綺麗に伸ばしてオーディン様のそばに控える立ち姿、それが初見の人に与えるだろうイメージに違わぬ礼節を以て、ロスヴァイセさんは初めて会う兵藤たちに丁寧に挨拶をした。

 

「彼氏いない歴=年齢のヴァルキリーじゃな」

 

「そ、そんなこと関係ないじゃないですか!!私だって好きで彼氏できないわけじゃないんですからねっ!!?私だって彼氏作ってえっちなことしたいですよォ!!」

 

しかし兵藤たちに与えただろう丁寧な印象はオーディン様の茶々によって容易く崩されてしまった。よほど彼氏がいないことを気にしているのか、即落ち二コマばりの速さで冷静な振る舞いを崩して狼狽えに狼狽える。

 

「あー……」

 

だがそのおかげで、緊張していた皆の表情が少しは緩くなった気がする。狼狽えまくるロスヴァイセさんの様子に何とも言えない視線を送っている。さてはこれを狙って、ロスヴァイセさんをいじったな?

 

「まあ、大きな戦が起こらず英雄が集まらないから最近のヴァルキリー業界は縮小されていての。儂が目をかけるまでは職場の隅に居ったのじゃ。ところでお前さんとミカエルのAは久しぶりじゃの、活躍のほどは聞いておるぞい」

 

おお、俺か!?

 

「オーディン様にお褒めいただき光栄です」

 

「ありがとうございます…」

 

主神直々に褒められるなんてな…俺もこの短期間でそんな立場になったか。

 

「しかし、サーゼクスの妹の眷属は胸が大きい娘が多いのう。ロスヴァイセも中々じゃが、眼福じゃわい」

 

そしていきなりセクハラかい、女性陣の顔がもう若干引き始めてるぞ。さっき見せた主神の威厳はどこに行った!!

 

「オーディン様!魔王ルシファー様の妹にセクハラなんて…!」

 

ロスヴァイセさんも開始早々にエンジンを吹かすオーディン様を諫める。しかし当人は意に介す様子もない。

 

「堅いのう。そんなんじゃから彼氏の一つもできないんじゃ」

 

「ちょっ、それとこれとは話が別です!!」

 

自由奔放な上司と、それに振り回される部下。…後で最近の頭痛に備えて買った頭痛薬でも渡しておこうかな。頑張れと心の中でエールを送った。

 

「今日から一週間後、爺さんは日本の神々と会談をする。ミカエルやサーゼクス、そんで俺もそこに同席し、それまで俺達は爺さんの護衛をすることになっている」

 

北欧神話の主神と日本神話の神々の会談…これはまた和平会談に次ぐビッグイベントだ。今回の任務のスケールの大きさに俺達は息を呑んだ。

 

まだこの世界に来てから5か月ぐらいで一年も経っていないというのに、どうしてこう何度も歴史に残るようなイベントに関わることになるのだろうか。エクスカリバーを巡る事件、和平会談…いや、イベントだけではない。聖剣デュランダル、聖書の神の死によって生まれたイレギュラーである聖魔剣、赤龍帝。名だたる力が集まるこの町に、今度は神がやって来た。

 

これは果たして、力を呼ぶという龍の特性だけで説明がつくのだろうか。運命の導きというのか…何かそういうもっと特別なものが俺達に働いているように思えてならない。

 

「今回の件、爺さんの護衛としてグリゴリ側からはバラキエルが付くことになった。それと天界側からはウリエルのQが来ている」

 

「グリゴリ幹部のバラキエルだ、よろしく頼む」

 

「ウリエル様のQ、メリィ・エルティですー。よろしくお願いしますねー」

 

『雷光』とも呼ばれるグリゴリの幹部で、堕天使の中でもトップクラスの実力者だ。ウリエルのQは……初めて見る人だがQという御使いの中でも高位の札をもらったというだけあって相応の実力者であるに違いない。

 

「……」

 

それにしてもいつになく朱乃さんの表情が険しい。特にあのバラキエルさんを見る目はまるで親の仇でも見るかのようだ。何か二人には関係が…。

 

普段とは毛色の違う様子を見せる朱乃さんが気になる俺をよそに、先生が話を切り出す。

 

「しかし爺さん、予定より随分と早い来訪だが…何があった?」

 

「長いこと閉鎖的な環境だったもので、大きな変化をもたらす儂のやり方に声を大にして異議を唱える輩がおってな、向こうに動かれる前にこっちから動こうというわけじゃ」

 

「ちなみにそいつは誰だ?」

 

「ロキじゃ、反対の意を示してはいる者は他にもいるが特にあやつはその筆頭格での。奴の言い分はわかるのじゃが、いつまでも昔を引きずるわけにもいくまい」

 

オーディン様の深くしわの入った顔に憂慮の色が浮かんだ。

 

周りを振り回すスケベな一面もあるが主神としてちゃんと今後のことを考えてはいるようだ。

 

「ところで最近の禍の団じゃが、禁手使いを増やしておるようじゃの。あれは稀有な現象と聞いたが」

 

「!」

 

影使いたち英雄派と交戦したばかりの俺達にはタイムリーな話題。当然、二人の話への注目度も自然と上がる。

 

「ああ、その稀有な現象を恐ろしく簡単な方法で起こせるのさ。俺も一度は思いついたが周囲から大反対をくらうこと間違いなしかつ戦争まで一直線になるからやめたんだが…英雄派のバカがやりやがったみたいだ。ここでお前らにも話しておくか」

 

高級な黒ソファに背を預ける先生が俺達に顔を向ける。

 

「リアスの報告書通りさ。まずは世界中の神器使いを拉致、そして洗脳する。そんで強者が集う各勢力の拠点に送り込んで戦わせ、禁手に至ったら魔方陣で強制転移。これを繰り返すだけ、人道なんざ顧みないテロリストだからこそできた方法だな」

 

やはり部長さんの考えた通りか。確かにこれは神器研究の進んでいるグリゴリでもできない方法だ。そもそも拉致、洗脳の時点で人道的にアウトだし、余所の勢力の拠点に攻撃させるという点で一気に緊張状態に入る。

 

よくもまあこんな強引もいいところなことをやってくれたな、英雄派め。神器使いはまだ世界中に相当な数はいるだろうし、今後もやつらはこれを続けるだろう。早いところ、厄介な禁手使いが増える前に旧魔王派同様に叩いておきたいところだ。

 

「先生、俺もそれくらい酷い方法でしごかれたんですが!」

 

深刻な話の中、ビシッと挙手して発言する兵藤。

 

グレモリーの山に連行されて龍王と鬼ごっこしながら山の自然の中でサバイバルをしたんだっけか。いつ、どう聞いても俺達の中でこいつだけ修行期間中にやったトレーニングの内容が異様なんだが。

 

「お前は悪魔で人間より頑丈だからな。それにお前は神滅具持ちの貴重な戦力だ、早いうちに至っておかないと今後の戦いが危うくなる」

 

先生はそれに悪びれる様子もなく答える。

 

思い返せば先日のネクロム戦も兵藤の禁手がなければまず無理な戦いだった。あの戦いは禁手アリでもかなり厳しかったが、逆に言えば禁手がなければもっと無理な戦いになっていた。

 

「ふむ…神滅具使いも所属しておると聞く英雄派の行動。警戒せねばな」

 

「ま、硬い話もそのくらいにしてだ。爺さんはどこか行きたいところあるか?」

 

「風俗店に行ってみたいのう、おっぱいが見たいわい」

 

長い白髭をいじりながら、オーディン様は何でもないかのように低俗なことを言ってのける。

 

ハァ…この爺さんはまた…!

 

「はっはー!流石主神殿だ!最近俺のとこの若い娘がVIP用の店を開いたんだ。そこに招待してやるぜ、上玉揃いで俺のお墨付きだ!」

 

先生も先生でノリノリでオーディン様の要望を受け入れる。

 

先生も先生で何してんの?先生の歓迎会で出した性転換光線銃といい兵藤のドッペルゲンガーを300人増やした事件といいこの人の自由さには果てがないのか!?

 

「ほっほぉー、話が早くて助かるわい!揉み放題のコースとかはないかの!?」

 

「ふっふっふ……とっておきのシークレットサービスを用意してやるよ」

 

「おおおお!!年老いた身ながら燃えてきたわい!今すぐに行くぞ、アザゼル!」

 

アザゼル先生の話に顔を輝かせるオーディン様がバッと重い腰を上げて意気揚々と立ち上がる。

 

「オーディン様、私もついていきます!」

 

「ロスヴァイセは残っていい、アザゼルがおれば問題ないじゃろ。さあゆくぞ!」

 

「じゃあ行くか!でかいおっぱいをたくさん見せてやるよ!!」

 

この場にいる面々の中で立場的にトップの二人だけで勝手に盛り上がり、ギャハハと汚い笑い声をあげながら部屋を出ていった。

 

「「「「「「……ハァ」」」」」」

 

置いてけぼりにされた俺達。自由なトップに対する心中を表すように全員のため息が寸分違わず揃って盛大に吐かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから特にすることもなく、俺は兵藤宅をぶらついていた。特に何をするわけでもないのに、ひたすら広い兵藤宅を歩き続ける俺は泳がないと呼吸ができないサメか何かだろうか。

 

紫藤さんとゼノヴィア、そしてアーシアさんはウリエルのQ、メリイさんと色々お話し中だ。ゼノヴィアが教会時代に面識があったとのことで、今頃思い出話に花を咲かせている。ウリエルのQに選ばれただけあって女エクソシストの中では相当な実力者として名が知られていたとか。

 

あれから先生からの連絡もない。お楽しみの真っ最中と言ったところか。まあ先生の事だから本当に考えなしに外に出るとは思えないが…。

 

暇だから一階のキッチンにいる兵藤を誘ってマルコカートやるか。あいつゲーセンで遊んでいただけあってゲームは中々上手いからこっちの勝率悪いんだよなぁ。負けっぱなしも癪だからそろそろ勝ちたいな。

 

「父として、彼との逢引きは認めんぞ!!」

 

ようやく暇をつぶせる案を思いついた矢先、廊下の向こうから震えるような怒声が響いた。今この家にいる人たちの中であの男らしい声が出せるとしたらバラキエルさんか?一体誰と喧嘩している?それに父としてって…。

 

「そんなこと関係ないでしょう!?私から彼を取らないで!!もうあなたなんか、私の父親じゃないのよ!!」

 

怒声に次ぐ更なる怒声は、朱乃さんの声だった。いつになく激しい感情を剥き出しにして他人をなじる声色に俺は驚いた。

 

「父親…?バラキエルさんが朱乃さんの?」

 

朱乃さんは悪魔でありながら堕天使の翼を持ち、光の力を使える。さらには以前コカビエルが言っていたセリフ…

あのバラキエルさんが朱乃さんのお父さんなのか?

 

それにしても普段は温厚な朱乃さんのあの言いよう、何があったかは知らないがバラキエルさんは過去に相当な恨みを買っているに違いない。

 

そこからまた怒声が続くことはなく、廊下はいつも通りの静けさを取り戻した。

 

しばらくしてかつかつと足音が近づいてきた。やがてさっきまで喧嘩していたバラキエルさんと出くわした。

 

「…見苦しいところを見せてしまった。済まない」

 

俺の表情でさっきのやり取りを聞かれたと察したのだろう。低い声で短い言葉を残して、バラキエルさんは俺とすれ違い、歩みを進める。

 

「…バラキエルさんは、朱乃さんのお父さんなんですか?」

 

俺は恐る恐る、核心を突く質問をした。その質問にバラキエルさんの歩みが止まる。

 

「私が語ることは何もない。…いや、私には過去を語る資格も、彼女の父親である資格もないのだ」

 

しかし振り返ることも質問の明確な答えを示すことなく、バラキエルさんは向こうへと歩き去った。

 

廊下の向こうへと遠ざかり、消えゆく大きな背中は一言では言い表せないような感情を背負っているように思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「暇ァ……」

 

ここは都内の歓楽街。夜のとばりがおり、色とりどりのネオンライトが夜の町を照らし、仕事を終えて疲れた人達は光に群がる蛾のように大人たちの欲望が渦巻く店に足を運んでいく。

 

そんな店の待合室で、オーディン様護衛任務真っ最中のはずのオカ研は暇を持て余していた。読書をする者、持ち込んだ携帯ゲーム機に熱中する者、それぞれの方法で時間を潰してはいるが、俺は夜の時間帯というのもあって眠気に軽く襲われていた。

 

「皆、わかってはいると思うけどこれは立派な任務なのよ?」

 

「それはわかってるんですけど…あの爺さん本当に仕事してるんですか?」

 

「それは……多分してるわ」

 

兵藤の問いに、部長さんは曖昧な答えしか返せなかった。

 

そう思われても仕方ない。護衛任務と言われても、実際は寿司屋に行ったり、遊園地に行ったり、たまに神社に寄ったりするなどほぼ爺さんの観光に付き合わされているだけと言っていい。

 

特に退屈なのがキャバクラやそう言った風俗店に行った時だ。未成年だからこちらもついていくわけにはいかず、外でずっと待たされることになる。

 

今はアザゼル先生とバラキエルさん、そしてロスヴァイセが成年なので3人がオーディン様について店の中に入ることができる。メリイさんはまだ未成年かつ、別件でアザゼル先生は普段別の仕事で忙しいのに、こういう所に行くときに限って居るんだよな。

 

「……」

 

最初は雑談で盛り上がっていたが、一時間半が過ぎた頃には皆だんまりするようになった。

 

「兵藤、何か面白い話はないか?」

 

沈黙と暇に耐えかねた無理くり兵藤に話を振ることにした。

 

「え、何で俺なんだ?」

 

「お前って毎日楽しそうだから面白そうな話題もあるかなと思ってな。あ、面白いといっても笑う方じゃなくて興味深いとかそういった方向でもいいぞ」

 

女性陣と屋根を同じにするこいつなら、面白い話の種をたくさん持っているだろう。とにかく、暇で暇で仕方ないから何でもいいので話を聞きたい。

 

「んー……面白いかと言えばどうかと思うけど、最近おっぱいドラゴンのイベントがあったのは知ってるよな?」

 

「サイン会だったか」

 

先日、俺と紫藤さん、アザゼル先生を除くグレモリー眷属のメンバーは冥界へ行きグレモリー家が主催する人気番組おっぱいドラゴンのイベントに参加した。

 

グレモリー眷属の中でも番組内に登場するキャラのモデルになった兵藤、部長さん、木場、塔城さんは長蛇の列が作られたサイン会で遠くの地域からも来た多くの子供たちにサインを書いて上げたそうだ。

 

なんだかあいつらもすっかり有名人になってしまったな。

 

鑑賞会で見た回には登場しなかったが、木場は敵組織の幹部『ダークネスナイト・ファング』、塔城さんは『ヘルキャットちゃん』という彼らをモチーフにしたキャラクターが登場している。これはそのうち、朱乃さんやゼノヴィア達も何らかの形で出たりするのだろうか。

 

「そうそう、俺と部長、木場と小猫ちゃんで子供たちにサインをあげたんだけどさ、その時にレイヴェルがアシスタントをしてくれたんだ」

 

「レイヴェル?……ああ、ライザーの妹だったっけ」

 

俺が異形界に踏み込んで1か月ごとの出来事。まだ戦力不足のオカ研のためにと兵藤に助っ人を頼まれた俺は部長さんとの婚約破棄をかけて婚約者たるライザー・フェニックスとレーティングゲーム形式の試合に臨んだ。

 

その時奴の『僧侶』として参加していたのが妹のレイヴェル・フェニックス。どうやら若手悪魔のパーティー以来何度か会うようになったようだ。兵藤に負けて以来兄のライザーがふさぎ込んでしまったことに恨みを抱いているわけでもなく、むしろ鼻っ柱をへし折ってくれたと感謝しているらしい。

 

「うん。時々よくわかんないことを言うけど、あいつの妹とは思えないくらいしっかりしてるよ」

 

「よくわかんないこと……」

 

その言葉に眉をぴくつかせる者たちがいた。話に入らずとも、しっかりと聞き耳を立てる部長さんたちだ。彼女たちが反応するということは、つまりはそういうことだ。

 

「あ、そういう…」

 

「あいつを見ていると、俺もかわいい妹とか欲しかったなーなんて思ったりしてな!」

 

冗談交じりに兵藤は笑う。しかしその言葉を笑うことができず、真に受けた者が一人。

 

「イッセーさん、私たちじゃ不満なんですか…?」

 

悲し気な瞳を兵藤に向けるアーシアさん。思いもよらぬ反応に兵藤は慌ててフォローする。

 

「え、い、いや!そんなことないよ!!アーシアは妹と同じ…いやもっと大切な存在だから!」

 

「ほ、本当ですか…?」

 

「そうだよ!」

 

兵藤の必死のフォローにアーシアさんは笑顔を取り戻す。

 

意外とアーシアさんって妹属性あると思う。こういう人懐っこそうで、年下ってところが如何にも。そう思うのは凛がそういう所があったからか。

 

「家族…もし私がイッセーの家族だとしたら私はかわいい弟を可愛がる姉かしら?」

 

部長さんも兵藤のフォローの言葉に面白そうだと話に乗り出す。

 

なるほど、もしも部長さんが兵藤の家族だったら…確かにこれは文句なしに姉ポジションだ。年上ってところも、普段の振る舞いからもピッタリだ。学校でも二大お姉さまなんて呼ばれているからな。

 

「あらあら、そのポジションは私に譲ってほしいものね。私ならもっとイッセー君を可愛がってあげられるわ」

 

そこに負けじともう一人の二大お姉さま、朱乃さんも会話に参加する。

 

「「……」」

 

ムッとした表情で睨む部長さんと、余裕を持った笑みで返す朱乃さん。朱乃さんの余裕は他の兵藤ラバーズが成し得なかったデートを一番先に成し遂げたことで生まれたものだ。

 

見えないながらも交錯する二人の鋭い視線がバチバチと火花を生み出しているように感じた。

 

オーディン様の護衛任務が始まった時はバラキエルさん絡みの件でピリピリしていた朱乃さんだったが、数日たったことでそれも幾分か落ち着いてきたみたいだ。

 

「妹か…」

 

兵藤が言ったワードで真っ先に脳裏に浮かぶのは凛だ。前の世界での俺の妹、今の世界では俺達と敵対する存在。

 

…今にして思うと、今のあいつには不可解な点がいくつかある。

 

あいつがこの世界にいる理由とネクロムの力を持っている理由は俺と同じ様に転生したということで説明がつく。

 

だが、改めて考えてみるとあいつの変わりようは変だ。あの優しいあいつが竜域の滅亡という物騒な思想を持つに至った理由…叶えし者になったことで、洗脳を受けたからか?だが洗脳を受けたにしては元の人格の名残がなさすぎる。

 

…いや、それに関してはイレブンさんの言う人格の崩壊で説明できるか。確か、心にショックを受けると魂の汚染が悪化すると言っていた。

 

だが人格は崩れようとも記憶は残るはずだ。俺を慕っていたあの頃の記憶。俺のことをイレギュラーと呼び、容赦なく攻撃を加えてくる今のあいつにはそれがあるのか?

 

問題はそれだけではない。以前戦った時に見せた俺達をたった一人で相手にして圧倒できるほどの驚異的な力…戦闘技術ではない、あの輝くようなオーラだ。同じ叶えし者と言われるアルギスでもあそこまでの力は見せなかった。単に本気を出していないだけかもしれないが。

 

あれが叶えし者になったことで得た力か?だが敵が願いを叶える存在だというのなら、あいつにはその力を欲する理由になる願いがあるはずだ。洗脳の前に既にネクロムの力を得ただろう優しいあいつがさらに力を欲する理由が分からない。

 

「……」

 

考えれば考える程浮き彫りになる俺の知る凛と、今の凛の乖離。それは否が応にも、あまり考えたくない一つの答えを示そうとしてくる。

 

前世では失い、この世界であの幸せだった時間を取り戻せるかもしれないチャンスを得た俺にとって、その答えが真実だったとしたらあまりに酷な話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

あいつは本当に、凛なのか?

 

 

 

 




いよいよロキのパワーアップを披露します。そろそろ中盤にも差し掛かるので頑張って更新ペースを上げていきたい。

次回、「悪神と神喰狼と禁忌」

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