Count the eyecon!
現在、スペクターの使える眼魂は…
S.スペクター
5.ビリーザキッド
7.ゴエモン
9. リョウマ
11.ツタンカーメン
12.ノブナガ
13.フーディーニ
いくつもの星の輝きに満ち、かつての人々が星の輝きをテント店を繋げるように結び星座と名付けた夜空。そこにまるで流れ星のように駆ける馬がいた。
その白いたてがみと尾が吹き付ける風に凛々しくなびく馬、スレイプニル。八本足と言う馬にしては異形ながらも馬元来の気高さや美しさは失っていない。
彼の馬が引く馬車の中に今、護衛中のオーディン様とアザゼル先生、オカ研メンバーのほとんどが乗っている。
それ以外の俺とゼノヴィア、木場、バラキエルさんとメリィさんは外で空を飛び急な襲撃に備えていた。
他の人は悪魔の翼や堕天使の翼で飛んでたりする中で、俺だけフーディーニ魂でホイールウィングで飛んでいるのを考えると中々に一人浮いている。
シンスペクターになれば青い翼が生えるのにな…。俺が転生するという手もあるが、悪魔の駒での転生はできなかったし仮に天使になったとしても敬虔な信徒じゃないからすぐに堕天するのが関の山だ。
そんなことを考えながら飛行を続ける俺はメリィさんと雑談をしていた。
「メリィさんって、教会時代のゼノヴィアを知ってるんですか?」
「イリナちゃんほどではないけど、たまに同期で組むこともありましたよー。戦士としては豪胆で信徒としては敬虔な子だけど、あまり融通が利かないとこがあったわねー」
豪胆で融通が利かないか、豪胆な所はよく見るが融通が利かないというのはアーシアさんを魔女呼ばわりしたことところがそうか?アーシアさんの人柄を知ってなお、信徒として彼女を断罪しようとした以前の彼女はそれこそ悪魔は滅ぼすべき敵だと考えていただろう。
とはいえ主に俺の知っているあいつが悪魔に転生して子作り関係など信仰が多少緩くなった、とでもいうべきか。その頃からのことしか知らないからあまりイメージは湧かないな。
「同期の中でも、メリィは神器使いで飛びぬけた奴だと話題になっていたよ。私が任務でやり過ぎて、パートナーだったメリィと一緒にあの人に怒られたこともあったな」
前を飛ぶゼノヴィアも俺達の話を聞いて、懐かしい思い出を振り返り苦笑いした。
「怒られたと言えば、ゼノヴィアがシスター・グリゼ…」
「め、メリィ!この話はやめよう!!」
メリィさんが誰かの名前を出そうとした瞬間、ゼノヴィアが急に慌てて話を遮った。
あいつがあんなに慌てるなんて珍しい、俺にも聞かせたくない恥ずかしい事件でもあったのか?
「ところでメリイさんの上司はウリエル様ですよね」
メリィさんの御使いとしての札はウリエル様の♦のQ。仮面ライダーだと、夏のギャグ回にたい焼きの鉄板で顔を焼かれたりした敵だったか。
「はい、そうですよー」
「最強の熾天使とか何かすごい肩書き…というか、二つ名を持ってるみたいですけど実際どんな人なんですか?」
軽くアザゼル先生の勉強会で聞いたが、現ウリエル様は過去の大戦で武勲を上げて空いた四大セラフの座に就任した。大戦時は一天使にしては異常な魔王に匹敵、あるいは凌駕するほどの圧倒的な戦闘力が恐れられ様々な二つ名をつけられたそうだ。
「そうですね、とっても優しくて、強くて、かっこよくて、何よりとっても面白い人なんですよー」
「お、面白い……」
「はい!同じウリエル様の御使いの中に日本人の元自衛隊の子がいて、よく彼女と漫才みたいなことをしてるんですよー」
メリィさんは実に楽しそうに、そして誇らしげに天使たちの頂点に立つ自分の上司について語る。
四大セラフの一角が漫才を…。漫才といいたこ焼きといい、何だか大阪チックなイメージが湧いてきたぞ。…まさか、関西弁も喋るなんてことはないよな?
「いつかウリエル様と会って見たくなってきたぞ」
「紀伊国さんならきっとウリエル様も喜びますよー。その時は皆でタコパですね!」
四大セラフとタコパするのか!?武勲を立てて地位に登り詰めたというからすごい武闘派なイメージがあるんだけどかなりフレンドリーな感じだな!
「それにしても元自衛隊員の御使いか…」
ウリエル様は実力重視で御使いを選んでいると聞いたが、これまた変わった経歴の人材を引き入れたようだ。
「よく教会の外の組織から選ばれたな」
「彼女はウリエル様と色々あって、実力や性格で周りからも問題ないだろうということで選ばれたんです。よくうちのA、ネロと殴り合いの勝負もしてますよー」
そんな変わり種が認められるくらいだから、相当性格がよくて実力が高い奴なんだな。それとそいつが脳筋だというのもわかったぞ。ついでにAも同じ脳筋だということもな。
しかしメリィさんの様子を見るに、かなり御使い内でも慕われる上司みたいだ。漫才を繰り広げることから、距離も近い関係だろう。
「しょうもないことを一つ聞くけど、御使い内でウリエル様の取り合いとかあったり…?」
話を聞いて窺える良い人柄からそう言う発想に至ってしまうのは、間近に取り合いの対象になっている男がいるからだろうか。
割と思い切った質問にメリィさんは苦笑して答えた。
「それはないですよー、なにせウリエル様はラファエル様ともうできてますから」
「「…えっ」」
できてる?ウリエル様がラファエルさんと?つまり、セラフ同士が恋人?
何気なくとんでもないことをメリィさんが言ったその瞬間、進む馬車の前方にふっと一人の男が現れた。
長い長い青みがかった銀髪を風になびかせ、鋭い目でこちらと相対する白服を着た男。
「そこの馬車、止まってもらおうか」
「何…!?」
唐突に表れた男はこちらに透き通るような声を投げかけてくる。男の登場にバラキエルさんはひどく驚き、馬車を引くスレイプニルも突然急ブレーキをかけ、馬車を大きく揺らして静止した。
「どうした、何があった!?」
外で何か異変があったと察したアザゼル先生と馬車の中で待機していたオカ研メンバーがぞろぞろと馬車から出てくる。
男は馬車から出てきた面子をざっと見渡すと、ばっと両手を大きく広げる。
「初めましてだなぁ諸君!我こそは北欧神話の悪神、ロキだ」
高らかな声を響かせ、男は自らの名を名乗る。
「ロキだと…!」
北欧神話の中でもかなり有名な神だったか。悪神、そんな奴が出てくるなんて嫌な予感しかしないが…!
「奇遇ですな、ロキ殿。しかしこの馬車にはオーディン殿が乗られている、それを承知の上での行動で?」
アザゼル先生はいつものように堕天使の長らしく豪胆な態度でロキを迎える。
「いや何、我らが主神殿が勝手に余所の神話体系と接触し、交流を持とうとしているのが看過できなくてね……北欧の未来を脅かさんとする貴殿らには消えてもらおう」
ロキは敵意も露わに俺達を睨みつける。底冷えするような神の敵意に、空気が緊迫する。
神との戦闘…まだ戦いを始めてから1年と経たない俺達にとって大きすぎ、早すぎるイベントだ。神という異形界の極みとも呼べる存在とのこれから起きるだろう戦いに、堕天使幹部と相対した以上に強くプレッシャー、死の気配、緊張を感じる。
…いや、今回はコカビエルの時と違う。俺達はあの時より強くなったし、コカビエルより強いグリゴリのトップクラスの実力者である先生やバラキエルさん、ウリエル様のQに選ばれたメリィさんだっている。
護衛の対象を戦わせるのはなんだが、ロキより上のオーディン様もいる。恐れることはない、勝てる戦いだ。
そう言い聞かせ、己が心に戦意の炎を燃やす。
「堂々と言ってくれるじゃねえか…!今回の行動は禍の団と繋がっているのか!?」
先生も突然登場したロキの見せた敵意に眉を顰める。
ただでさえ最高峰のドラゴンが首魁であり、神滅具使いや魔王の血筋もいるという面倒な禍の団に神が加わるのはまずい。もしかすると、ロキが加わったことでさらに現状に不満を持つ神々がこれに続く可能性だってある。
「あんなテロリスト共と一緒にされては困る。我は北欧神話のためにのみ動いているのだ」
しかしロキは先生の詰問を鼻で笑う。
内心ロキが奴らと手を組んでいないことにほっとしたが、禍の団絡みでなくとも神が直々に邪魔しにくるのはかなり厄介なことに変わりはない。
話の際中、馬車の奥からゆっくりとオーディン様が姿を現す。
「ほう、ロキか。わざわざ儂を追っかけてきてくれたのかの?」
ロキの姿を認めるなり、ロスヴァイセさんをいじる時のような冗談めいた口調でロキに語り掛けた。
「そうとも、貴様の愚行を止めるためにな」
対するロキは正反対に真剣な表情だ。
「ロキ様、これは明らかな越権行為です。この一件についてはしかるべき場で議論するべきです!」
「一ヴァルキリーが我々の会話に割って入るな。議論ならすでにした、その結果我を無視して勝手に国を出たのはそちらであろう?勝手をしているのはそちらだ」
ロスヴァイセさんもロキの介入に諫めるが、それを聞き入れる様子はない。そしてまだ余裕を残しているオーディン様をきっと睨みつけた。
「オーディン!我らが聖書陣営に受けた屈辱を、痛みを忘れたのか!?奴らが教えを広めたせいでどれほど我らの信仰が失われたと思っている!?」
そして声を大にして、オーディンに訴える。
奴の言葉で何となく事情がわかった。オーディン様が和平を進めようとする革新派なのに対し、ロキは今まで通りの閉鎖的な環境を維持する保守派だ。
今まで余所と交流を閉ざしていた北欧神話の二つの意見の対立にまるで日本の幕末を見ているかのような錯覚を覚える。
「もちろん知っておるわい、忘れたこともない」
「ならばなぜ奴らの手を取る!?今からでも遅くはない、我と共にアースガルズに戻れ。まだ北欧にはお前の力が必要なのだ…!!」
「ほう、儂をそこまで評価してくれるとは嬉しいのう」
ロキが差し出した手にオーディン様は笑った。ロキもただ敵意を持ってオーディン様と敵対しているのではなく、北欧のためを思って今の和平路線を推し進めるオーディン様に反対しているのだ。
「正直なところ、頭の固いおぬしと議論するより小童魔王やアザゼルと今後を話した方が楽しいわい。昔は嫌いじゃった異文化交流も案外楽しくてのう」
「そんなくだらない理由で我々の神話を破壊しようというのか…!?」
オーディン様の言い分に、ますます怒りの色を濃くし声を荒げ始める。それは確かに、真面目は話に気楽な要素を入れたらキレるだろうな。
怒りの反応にオーディン様の表情からふっと笑みが消える。しかしそれは怒りに怯えたからではない、真に大事なことを伝えようとするための表情の変化だ。
「…ロキよ、古き神々である儂らではいくら力を持とうともこれから育ち、次代を担っていく若者の未来は築けない。変わりゆく世界のためにも、北欧神話には新しい風が必要なのじゃ」
「爺さん…」
お気楽な調子が一転、怒りに震えるロキにしみじみと言い聞かせるように内に秘めた思いを語る。オーディン様の言葉と声色には、心からの現状への憂いと未来への希望に満ちていた。
オーディン様もまた、三大勢力の和平で変わった人の一人なんだろう。昔は他勢力との交流もなく、閉鎖的で田舎な環境だと言われていた北欧の未来を真剣に考え、よりよき開かれたものへ変えようとしている。
今までキャバクラに行ったりとただ仕事をほっぽり出して観光を満喫しているばかりだった爺さんとは到底思えない。見直したぞ、オーディン様。
「その風はかつて我らを苦しめた猛毒の風だ…!次代の若者にあんな苦しい思いをさせるというのか!?」
しかしロキの怒りが静まることも、意見が変わることもなかった。ヒートアップする怒りは怒髪冠を衝く勢いだ。
「儂らの苦しんだ時代とは訳が違う。いがみ合うのではなく、互いに手を取り合うようになった今の時代なら、若者たちはよりよき未来を築いていけるじゃろう」
「オーディン…!!何故わからんのだ…!」
互いの信念による意見の応酬。平行線をたどる意見のぶつかり合い。ロキにもロキの信念があり、奴は譲歩する姿勢を見せない。
「ハァ……」
オーディン様に説得の言葉をかけられるも、それでもまだ納得がいかないようでまだ言いたげそうな表情だったが、不意に静め腹の底から出すように息を深く深く吐いた。
「…最後にもう一度聞く。本当にはないのだな?」
ロキの目が再度オーディン様を捉える。覚悟のようなものの光がその瞳に宿っていた。
「ない。これは真に北欧の未来を思ってこその会談、和議じゃ。おぬしも未来を思うのならいつまでも過去に縛られるのはやめ、次代の者達の未来を考えよ」
「…そうか、賽は投げられた」
めき。
めきめき。
どこからか木が軋むような音が鳴り始める。
音の発生源はロキからだ。そのロキの顔は俯いていて表情を窺うことはできない。
「う…ぐぉ……!」
突然奴がうめき声をあげる。次の瞬間、右肩から大きく何かが白服を内側から突き破ってその姿を夜空の下に晒した。
木だ。太く鋭い木の根が角のように奴の肩からせり出している。
「な…何なの…あれ……」
「ぬぅぅぅ……!!」
肩から突き出た木の根はそのまま右腕にもシュルシュルと伸び完全に覆いつくし、異形の姿へと変える。おまけに奴の首元にも細かい木の根が伸びる。
「おぬし…それは……」
オーディン様もロキの異様な変化に声を震わせて言葉を漏らした。一方のロキは不敵な笑みを崩さないままこちらを睥睨する。
「お前が余所に渡そうとするユグドラシルの情報、それをこちらが使っても文句はあるまい……!」
「ユグドラシルを取り込んだというのか…!」
「何だと!?」
まさかの行動に先生も声を出して驚愕した。
「その通りだ。愚行が過ぎたな、オーディン。致し方ないが我らが神話のために、忌々しい過去を繰り返さんとする貴様を断罪してくれるッ!」
ロキの溜めに溜めてきた敵意が爆発し、戦いの幕が上がった。
魔改造ロキの名称はシンプルにロキ=ユグドラシル、と言ったところでしょうか。
次回は2日以内にはできるでしょう。3分割したということで短期間にガンガン投稿できそうです。
次回、「悪神と神喰狼と禁忌」